彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
ビビを伴った麦わらの一味はバロックワークスの目を避けるため、ナノハナに入港せず郊外の海岸に上陸した。
上陸した直後、腹を空かせたルフィがゴーイングメリー号からナノハナ市街へ飛び出して行き、残された麦わらの一味とビビは溜息をこぼす。
「あいつはまったく……」と常識的な溜息をこぼすナミ。
「放っとけ。ルフィならどうにでもなる。とにかく俺達も飯を食おう」とゾロ。
「賛成。俺、腹ペコで倒れそうだ」「くえ~……」
チョッパーとカルーがゾロの意見に大賛成。
「ちょっと待った。なあ、俺達はボンちゃん経由で敵に顔バレしてるよな? ぞろぞろと街に繰り出したら不味いんじゃねえか?」
ウソップの指摘に、皆の視線がサンジに集まる。
サンジは一味の中でバロックワークス上級幹部、“ミスター・2”ボン・クレーと接触していない……敵に顔がバレていない唯一無二のクルーだ。
「俺が買い出し役か」サンジは煙草を燻らせつつ「オーケー。必要なものは?」
「まず水と食料ね」とナミ。「次の町まで行く分も」
「酒」とゾロ。
「あと服をお願い」ビビが説明する「敵の目を避けるために目立たない服が居るわ。それに、砂漠を歩くことになるかもしれないし」
「数日分の水に食い物と酒、それと人数分の服か。大飯食らい共のことを考えると大荷物だな。ビビちゃん。カルーを借りて良いかい?」
「ええ」ビビは快諾し、愛鴨の頭を撫でて「カルー。サンジさんを手伝ってあげてね」
「くえっ!」
カルーは元気いっぱいに応じた。
サンジが買い物に赴いている間、麦わらの一味は町外れに移っていた。
そこでビビは目にする。街の外周に出来た難民キャンプを。
大勢の人々が粗末なテントやバラックで困窮している様は凄まじく、ビビは慄然と震えあがり、麦わらの一味の面々も唖然として言葉が出ない。
「ちょっくら覗いてきたんだが……」
難民キャンプに出向いてきたウソップが戻ってきて、一行に説明する。その顔は憐憫と同情に染まっていた。
「旱魃で干上がったオアシスや地方の町が次々放棄されてて、雨の降る首都や水が得られる町とかは、どこも難民が集まってこんな状態らしい」
「人口1000万の国で旱魃が続けば、こうもなるか……」
ナミは難民キャンプから目が離せない。
「反乱軍が70万に膨れ上がった理由が分かったわね。もう耐えられないのよ」
「体調が悪そうな人が多いな。俺、診てきて良いか?」医者たるチョッパーが提案するも。
「やめとけ、チョッパー」ゾロが首を横に振る「この状況で下手に何人か診てやったら騒ぎになる。動きが取れなくなっちまうぞ」
ゾロはどこか悔しそうな顔を浮かべた。
「ここの連中に俺達が出来ることはねェよ……」
ビビは歯を食いしばって強く拳を握り込み、全員が大きく頷いた。
そして――
ナノハナ市内で買い出しを済ませ、サンジとカルーは大量の物資を抱え、ナノハナ外れの待ち合わせ場所へ向かっていく。
「これだけ買い込んでも、次の町まで持つか不安が拭えねェ……」
船長を筆頭に大飯食らい達が脳裏をよぎり、サンジがぼやく。
「まぁ……非常食もあるから何とかなるか」
意地悪な視線を向けられ、カルーが抗議の突っつき。
「イテテテッ! 冗談だ冗談」
カルーに突かれ、サンジは苦笑いを返し、「お!」と目をハートにした。
「すげェ美人! しかも2人も!」
サンジの視線の先には、カフェテリアの店外席で食後の御茶を嗜んでいる大人の美女2人。砂漠用の装いをまとっているが、雰囲気や佇まいが住民と異なるから外国人かもしれない。
癖の強い夜色のショートヘアに小麦肌のアンニュイ系美女がサンジの視線に気づき、暗紫色の瞳を向け、蠱惑的に微笑んで小さく手を振った。
「うぉおお! これはお誘いっ!? 是非もねぇッ! 御姉様、今行きますっ!」
今にも荷物を放りだして駆けだしそうなエロコックに、カルーは呆れながらそのケツを思いきり突く。
「イッテェッ!? 分かった分かった。我慢するよ。突くな。クッ! 美女とお近づきになるチャンスを諦めなければならないとは……胸が張り裂けそうだっ!」
悲劇の主人公を気取るサンジに、カルーは下等生命体を見るような目を向けていた。
そんなこんなで待ち合わせ場所に到着し、サンジとカルーは廃墟に身を隠していた面々と合流。
「なるほどなぁ」
サンジはウソップから事情を聴き、難民キャンプを窺いながら渋面を浮かべた。空腹に苛まれている難民達に炊き出しをしてやりたくなっていた。
「冷たいようだけど、今の私達にはあの人達にしてあげられることは無いわ。ルフィが戻り次第出発できるよう、食事と支度を済ませましょ」
ナミが義憤を湛える面々を促し、船長を除く麦わらの一味は調達してきた衣服に着替え、数日振りの飯をかっ食らう。
「素敵。私、こういうの好きよ」
「お使いを頼んでなんだけど、これ、踊り子の衣装……」
「2人ともすっごく似合ってるよぉっ!!」
胸元や腹部の露出が激しい新品の踊り子衣装を着こんだ美少女2人に、サンジが鼻の穴を広げて大喜びしている。ちなみに野郎共の着衣は安い古着であり、ビンボーな群盗山賊の類にしか見えない。
「ん? 何やってんだ、チョッパー」
ウソップが鼻を押さえてひっくり返っているチョッパーに気付く。
「鼻が曲がりそう……」
「トニー君は鼻が利きすぎるのね。ナノハナは香水で有名な街なの。中には刺激の強いものもあるから」
ビビの説明に、サンジが鼻の下を伸ばして食いつく。
「フォ~~~~素敵な香りだよォ! 奈落の底までメロリンラブっ!」
「暑さでヤラレたか。いや、元からか」「チョッパー、診てやれよ。手遅れだろーけどな」
ゾロとウソップが混ぜっ返し、サンジはグル眉を吊り上げた。
「ンだとぉ!? テメェらに餌を食わせるために、俺は美女のお誘いを断ったんだぞっ!」
「腹の減り過ぎで幻でも見たんだろ」「サンジ、これ食えよ。うめェぞ」
にべもないゾロ。優しくなったウソップ。
「オロすぞコノヤローッ! 幻でも嘘でもねェよっ! 夜色の髪に小麦肌のアンニュイ系美人だっ! なあ、カルーッ!」
喚くサンジに、ナミとビビの端正な細面が瞬間的に強張った。
「サンジ君。それ、本当なの?」「サンジさん」
美少女2人から鋭い眼差しを浴び、サンジはたじろぎつつ、
「う、浮気じゃないよ、ナミさん、ビビちゃんっ! 俺はいつでもナミさんとビビちゃんに」
「そんなことはいいから。その女の見た目を言ってみて」
「? ? ? ああ。癖の強い夜色のショートヘアでアンニュイ系の顔立ち、小麦肌の長身。あと瞳が暗紫色だったかな」
市内で出会った美女の特徴を語った。
「……腰に大きな鞘を下げてなかった?」とナミが問いを重ねれば。
「カルーが後ろ腰に交差するように二つ下げてたって……どうしたんだ?」
動物の言葉を翻訳できるチョッパーがカルーの目撃証言を伝えると、ナミはビビと顔を見合わせた。
「……十中八九、あいつね」
「ええ」ビビは胸元に下げた“御守り”をぎゅっと握りしめ「ベアトリーゼさんよ」
「モモンガ女か」2人のやり取りを聞き、ゾロはかつてベアトリーゼにへし折られた左腕を撫でた。
「ただでさえ王下七武海が率いる犯罪会社を相手にしてるのに、4億手前の賞金首まで参戦とかどうなっちまうんだよ……」
早くも胃痛を覚え、ウソップは腹をさすりながら嘆く。
「恩人のビビに味方するためか、親友のニコ・ロビンに味方するためか、それとも別の目的か」
真剣な顔で考え込むナミに、サンジが言葉を続ける。
「そういや、ツレがいたな。亜麻色髪のショートヘアで三十路前後くらいの綺麗なレディと一緒だった」
「……覚えは無いわ。ビビは?」
ナミに水を向けられ、ビビは首を横に振り、
「私、ベアトリーゼさんに会ってくるわ。なぜこの国に来たのか、問いただしてみる」
「おい、待て待て。街ン中はバロックワークスの奴らが見張ってる。のこのこ出向いたら面倒なことになるぞ」
ゾロが市内へ向かって駆けだしそうなビビを押さえた。
その時、突如として街がえらく騒がしくなった。よくよく見れば、海軍が得物を手に駆け回っている。
「捕り物みたいだな。海賊でも現れたか……?」
ウソップが単眼鏡を使って様子を探り、他の面々も物陰から街の様子を窺えば。
「あああああああああああああああああああああああ!!」
海兵の一団に追われる野郎は、我らが船長だった。
〇
麦わらの一味は白ひげ海賊団二番隊隊長“火拳”ポートガス・D・エースの助けを借りてスモーカーの追跡を振り切り、大河から反乱軍の拠点ユバを目指す。
そして……
「エ~~~~~~~~ス~~~~~~っ!!!」
「よぉ、ルフィ。久し振りだな」
ルフィがエースとメリー号の船上で“兄弟”の再会を遂げていた。
ナミは船長の兄を称する青年をしげしげと観察する。
黒髪は共通しているけれど、顔立ちはルフィとベクトルが異なって勇ましく、ソバカスが印象的だ。鍛えられた上半身を晒し、着衣は黒いハーフパンツとブーツだけ。弟の麦わら帽子に対し、兄はテンガロンハット。
……顔立ちはあんまり似てないわね。
そんな感想を抱くナミを余所に、非常識の権化ガープが孫と認める2人は、3年振りの再会を大きく喜び合っていた。エースは自分が白ひげ海賊団二番隊隊長を務めていると言い、ルフィに麦わらの一味の白ひげ海賊団入りを提案するが、ルフィは言下に拒否する。
ルフィは“海賊王”を目指すことは譲れない。たとえ、エースと拳を交えることになっても、夢を諦める気も、妥協する気もない。
「まあ、そうだろうな。俺も言ってみただけだ」
弟分の変わらぬ気概にエースは懐かしそうに、眩しそうに、嬉しそうに微笑む。次いで、ズボンのポケットからビブルカードを取り出し、ルフィへ渡す。決して失くすなと念を押して。
「その紙切れが俺とお前をまた引き合わせてくれる。ずっと持ってろよ」
「ふーん」
気のない返事を寄こすルフィに、エースは控えめな苦笑をこぼし、
「出来の悪い弟を持つとよ……兄貴は心配なんだ。オメェらもこいつにゃ手を焼くだろうが……よろしく頼むよ」
麦わらの一味の面々に向かって頭を下げた。
白ひげ海賊団の二番隊隊長――四皇の大幹部が、グランドライン入りしたばかりの木っ端海賊団の船員達に頭を下げる。その意味が分からぬ者はいない。海賊になったばかりのチョッパーでさえ、ドえらいことだと察した。
ルフィへビブルカードを渡すという目的を果たすと、エースは長居せずにゴーイングメリー号を発つ。メラメラの実の力で推進航行する個人用小型舟艇ストライカーを発進させた。
「次会う時は、海賊の高みだ」
「……おうっ!! またな――――――――っ!!!」
去っていくエースへ名残惜しそうに手を振るルフィ。
その背後でクルー達が驚愕を露わにしていた。
「ウソよ……っ! あんな常識のある人が、ルフィのお兄さんな訳ないっ!」
「俺はてっきりルフィに輪を掛けて身勝手野郎かと」
見たものを信じられないナミとウソップ。
「弟想いのイイ奴だ……っ!」
「兄弟って素晴らしいんだな」
ゾロとチョッパーが兄弟愛に感嘆し、サンジがしみじみと呟く。
「わからねェもんだなぁ……海は不思議だ」
「ちょっと、みんな……」
そんな面々をたしなめるビビ。
弟分の船を発ったエースは、自身の勇名と懸けられた賞金を狙うバカ共の船団に出くわし、
「“火拳”!」
メラメラの実の能力による強烈な炎撃を放ち、50名のバロックワークス上級社員を乗せた5隻の船団を一撃で轟沈させた。
“今の”エースは無駄な殺傷や過剰な暴力は好まない。しかし、自分の首を狙うバカ共の生死にまで気にしない。いろいろ未熟なエースだけれど、わずか一年ちょいで“新世界”まで到達し、四皇の大幹部を務めているだけあって、命のやり取りには冷厳だ。
「来いよ、高みへ。ルフィ!!」
エースがテンガロンハットを被り直しながらクールに決めたところへ、
「お兄さん。そこのお兄さん。困るよ、こんなことされちゃ」
背後から叱声を投げつけられた。
エースは目を瞬かせながら振り返れば、スパルタンな体格のツギハギトビウオライダーが近づいてきていた。その大きな背には、ガチャガチャのタイトな潜水服を着た女性と、ぼろっちい潜水服を着た女性が二人乗りしている。
ハンドルを握る女性が多眼式ヘルメットのバイザーを上げ、端正な顔をしかめさせながら周囲を指差した。
「こんな有様にしたら航行の迷惑でしょ。賊を潰すならもっとスマートに潰してよ」
既視感のある美女からどこかズレた苦情を受け、エースは片眉を上げた。周囲を見回す。5隻分の残骸が漂って海面に炎が躍る有様は、なるほどこれは世間様に御迷惑だ。
「こりゃあ失礼しました」
エースはストライカーの上に立ち、ぺこりと丁寧に頭を下げる。
「分かってくれればいいよ。お兄さんも良い一日を」
女性はひらひらと手を振り、水面に広がる残骸と炎の間を縫うように大河を上っていく。
後席の女性がエースと運転手のやり取りに小さく頭を振り「何か激しく間違ってる気がするわ」とぼやいていた。
「あ」エースは既視感の理由が分かった。手配書で見た顔だ。「ちょっと待った」
エースは去りかけていたトビウオライダーを呼び止める。
「あんた、賞金首だろ。4億ベリー手前の。たしか……ベアトリーゼだ。血浴のベアトリーゼ。だろ?」
「だとしたら、何か用事? ”火拳”のエース」
肩越しにエースを窺うベアトリーゼの目は、からかうように細められていた。
こっちの素性を知ってて、か。油断ならねェな。
世経の怪しげな報道ではあるが、“血浴”は海軍本部中将“英雄”ガープと渡り合って逃げ延びた、と言われている。エースはガープの化物ぶりをよく知っているだけに、ベアトリーゼへ警戒心を隠さない。
「あんたの用向き次第だな。何しここに来た」
「物資の補給と追手を返り討ちにするためだよ。“金獅子”と揉めててね」
さらっと返ってきた予想外の回答に、エースは再び目を瞬かせる。
「金獅子? 金獅子のシキか? そりゃまた……」
「面倒臭いよねー」ベアトリーゼはくすくすと笑い「ともかく、お兄さんにもこの国にも用は無いよ。補給と追手を潰すために寄っただけ」
大事な弟分へ害が及びそうにないと分かり、エースは鼻先を掻いた。
「……そうか。呼び止めて悪かったな」
「いいよいいよ」
再び手をひらひらと降り、ベアトリーゼはバイザーを閉じ、
「さようなら、”火拳”」
別れの挨拶と共にトビウオライダーを進めていく。
エースは別れの言葉に込められた意味の深さに気付くことはなく、去っていくトビウオライダーを見送った。
〇
ツギハギトビウオがサンドラ大河を上っていく。
じきに汽水域を抜けるが、もはや生物の枠から外れているツギハギトビウオは海水でなくともへっちゃらだ。まあ、ハイオクガソリン専用車両がレギュラーガソリンだと調子を崩すように、川の水ではいろいろ不具合も生じるけれど。
ベアトリーゼはトビウオライダーを進めながら内心で冷淡に呟く。
エースと関わっても仕方ないんだよね。
どうせ死ぬし。
原作知識が穴だらけのベアトリーゼも、流石にエースが頂上戦争で命を落とすことは知っている。
しかし、エースの助命にまったく興味なかった。
好悪ではない。単にエースと縁もゆかりもないからだ。仮にこれまでの足跡の中でエースと関わり、友誼なり愛情なりを育んでいたならば助けるために奔走しただろうが……ベアトリーゼとエースの間に縁は生まれなかった。
赤の他人のために命を懸けるほど、ベアトリーゼは利他的でも博愛的でもない。であれば、原作の展開通りに命を落としても、それはエース自身の生きざまというだけだ。
「さっきの男の子のこと、知ってるの?」とチレンが後席から声を掛けてきた。
「ああ」ベアトリーゼは軽い調子で応じ「“火拳”ポートガス・D・エース。白ひげ海賊団の大幹部だよ」
「四皇の大幹部? あんな若いのに?」疑わしげに眉根を寄せるチレン。
「優秀なんだろーね。ま、私らには関係ない人さ」
内心の冷淡さをおくびも出さず、ベアトリーゼはツギハギトビウオの速度を上げた。
Tips
難民。
オリ設定。原作では触れられていないけれど、ユバやエルマルの住民のように干上がった故郷から離れた国内難民が相当数いるはずで、彼らが身を寄せられる場所は限られてるだろうなあって。
麦わらの一味。
ヤベー女が居ることに気付く。
ポートガス・D・エース
原作キャラ。20歳。
海賊王の遺児にして白ひげ海賊団の二番隊隊長。メラメラの実の能力者。
頂上戦争で命を落とすことになるが、二次創作ではコラソンと並んで助命される展開が多い。
ベアトリーゼ
エースのことは、縁もゆかりもないためか『大きな物語に必要な犠牲』程度の認識。