彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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ちょっと文字数多め。これ以上削れなかった。

茶柱五徳乃夢さん、佐藤東沙さん、烏瑠さん、マキシタさん、たろう8888さん、あああいさん、NoSTRa!さん、マイムマイマイさん、水澤七海さん、誤字報告ありがとうございます。


109:ビビと頼もしい彼とミステリアスな彼女。

 サンジの活躍によって牢から解放され、麦わらの一味は崩落して湖中へ沈む地下室を命からがらに脱出。湖の岸辺に這い上がる。

 

「まったく……お前の船に乗ってから退屈しねェよ、ルフィ」

 サンジは脱力したルフィを引き上げ。溺れかけたルフィが口から噴水のように水を吹き出す。

 

「ウソップさん、しっかりっ!」「あんた、何やってんのよっ!!」

 脱出の際に頭を打ったウソップは完全に伸びている。ビビがウソップの長鼻を地引綱のように握りしめ、ナミがウソップの襟首を掴み、釣り上げた魚のように岸へ引き上げた。

 

「………くっ!」

 最後にゾロが姿を見せ、やはりルフィ同様に溺れかけた能力者のスモーカーを引き揚げる。

 

 危うく死にかけた面々は安堵の息をこぼしたり、水を吐き出したり。

「急いで出発しないと。ベアトリーゼはああ言ったけど、そう長くは抑えられないはずよ」

 ナミの指摘にルフィが力強く頷く。

「おう! すぐに出るぞっ! 絶対間に合わせるって約束したからなっ!」

 

 麦わらの一味がずぶ濡れのまま先を急ごうとした矢先。

「テメェら……どういうつもりだ。なぜ敵の俺を救った」

 スモーカーが苛立たしげに大型十手を抜く。誇り高いスモーカーにとって、海賊なんぞに助けられるなど恥辱に等しい。

 

「ほっといたら溺れちまうだろっ! 俺とお前はカナヅチなんだからよ! なんだ、やんのかっ!! ケムリンッ! 俺達は急いでんだっ! 手加減しねーぞっ!」

 拳を握って構えるルフィ。言っていることが無茶苦茶でスモーカーは戸惑いを覚える。

「……本気で反乱軍を抑える気なのか。ここからアルバーナまで半日は掛かるぞ」

 

「関係ねえっ! 間に合わせるって約束したんだっ! だから、絶対に間に合わせるっ!」

 ルフィの瞳に偽りや騙りなど微塵も存在しない。本気で。真剣で。全身全力で。

 

「なぜだ」スモーカーは困惑を隠せず「なぜ海賊のテメェらがそこまで必死になって、この国を救おうとする」

「あーもうっ! ごちゃごちゃうっせえなぁっ! 仲間がこの国を救おうとしてんだよっ! 他に理由なんかねえっ!!」

 苛立たしげに吠えるルフィ。麦わらの一味の面々もビビもルフィとまったく同じ目をしている。純粋で真剣で、命を懸けている。

 

 スモーカーは濡れた髪を掻き、十手を下げて告げた。

「……行け。今回だけは見逃してやる。さっさと行きやがれっ!」

 肩越しに海軍本部大佐を窺ったビビは、その苦渋に歪んだ顔が酷く印象に残った。

 

 

 濡れた着衣がたちまち乾いていくほどの酷暑の中、市外へ向かって遁走する麦わらの一味。

 早くも息を切らせ始めたウソップが喚く。

「まさかこのまま走ってアルバーナまで行くなんてことねェよなっ!? とてももたねェぞっ! 特に俺がッ!!」

 

「そうだ、マツゲ!」ナミは拾ったラクダを思い出して「マツゲはどこ行ったのっ!?」

「馬借があったぞ! 馬を調達するかっ?」とゾロが提案する。

 ぎゃーぎゃーと喚きだした一行に、サンジが不敵に笑う。

「心配ねェ。チョッパーが手配済みだ」

 

「チョッパーッ!? そういやあいつ、今どこに――」

 ルフィが怪訝顔をこさえた直後。

 

「みんなーッ!」

 一味がチョッパーの声が聞こえてきた方へ顔を向けてみれば。

 

 超大型ダンプトラック並みにドデカい蟹が、笑顔を湛えながらド派手にやってきた。砂塵を舞わせる巨大な蟹の上に、小さな影が二つ。

「チョッパーッ!?」「マツゲッ!?」「なんだこのデケェ蟹はッ!?」「まさか、ヒッコシクラブッ!?」「美味そうっ!!」

 

 目ん玉をひん剥いてびっくり仰天する面々に、チョッパーは小さな手を振った。チビトナカイの隣で睫毛フサフサのラクダが得意顔を作っている。

「マツゲの友達だ! こいつ、ここらの生まれでこの辺に友達がたくさんいるんだよっ!」

 

「でかした、チョッパーっ!」

「早く乗り込めっ!」

 一味の面々は大急ぎで巨大蟹の背に乗り込む。ルフィが女性陣を荷物のように両脇へ抱えてビヨーンと飛び(『てめぇルフィずるいぞ!』とサンジがガチギレした)、ゾロとサンジが化物フィジカルを発揮して蟹の背へひとっ跳び。ウソップが巨大蟹の足や甲羅をゴキブリのように登攀し、背中に辿り着く。

 

「皆乗ったなっ! しゅっぱーつっ!!」

 チョッパーの掛け声と共に巨大蟹が発進した。わきわきと動き出す8本の足。大量の砂埃を巻き上げながら一息にトップスピードへ達する。

 

 その間際。

 砂埃を切り裂き、大蛇のように蠢く一条の砂。その先端に煌めくフック状の義手がビビの華奢な体を捉えた。

 

「え」「あ」「!?」

 誰もが虚を突かれて呆気にとられ、ビビすら事態を把握できず悲鳴を上げられない中。

 

「させるかぁあっ!!」

 ルフィだけが動いていた。宙を踊るフック状義手に飛び掛かり、ビビを巨大蟹の背に投げ落とす。

 

 ただし、ビビの救助には代価が伴った。フックに腕を取られ、ルフィ自身は落ちていく。

 

「ルフィッ!」「ルフィさんっ!」「早く手を伸ばせっ!」「急げ、ルフィッ!」

 悲鳴を上げる女性陣。ルフィを引き揚げようとする野郎共。

 

 動揺する仲間に向かって、ルフィは雄々しく叫ぶ。

「先に行けっ! 絶対に間に合わせろっ!! ビビをあいつんとこまで、ちゃんと送り届けろよっ!!」

 

 瞬間、誰もが船長の命令と覚悟に即応した。

「止まるな、チョッパーッ! 最速で突っ走れっ!」ウソップがチョッパーに吠え。

「大丈夫よっ! ルフィはどんな奴にも勝ってきたんだからっ!」

「ビビ。何が何でも生き延びろ。この先、俺達の誰がどうなっても、だ」

「君がベアトリーゼさんを信じて託したように、俺達や“あいつ”を信じりゃあ良い」

 顔から血の気を引かせて狼狽えているビビに、ナミが姉貴然として励まし、ゾロが厳しい言葉を掛け、サンジが気の利いた台詞を送る。

 

 ビビはぎゅっと拳を握りしめ、視界の中で小さくなっていくルフィへ向かって叫んだ。

「ルフィさん! アルバーナで待ってるからっ!!」

 

 麦わら帽子の頼れる船長は、いつものように太陽のような笑顔を返した。

 

 

 

「イラつくぜ」

 クロコダイルは猛烈な速度で去っていく巨大蟹を睨みながら、心底忌々しげに吐き捨てた。

「あの惰弱な王女にも。テメェら小物共にも。首を突っ込んできた野良犬にもな」

 

「そうか。俺は今機嫌が良いぞ」

 ルフィはゆっくりと身を起こし、麦わら帽子と防砂服を脱ぎ捨てた。

「よーやくお前をぶっ飛ばせるからな」

 

 拳をパキパキと鳴らしながら意気軒高に笑うルフィに、嘲弄されたと感じたクロコダイルは額に青筋を走らせる。

 

「あらあら……」

 闘争の雰囲気を漂わせ始めた2人に、ロビンは微苦笑をこぼして踵を返す。

「私は先にアルバーナに向かってるわ。もしもビーゼと戦うことになったら、他のエージェント達では相手にもならないでしょうから」

 

「ほう……? 親友を殺せるってのか?」

 クロコダイルから猜疑を隠そうともしない眼差しを注がれても、ロビンは微笑を崩さない。

「ビーゼが言っていたでしょう? 私達の絆は敵味方に別れたくらいで壊れたりしないわ。それに……ビーゼを殺そうとするのはこれが初めてじゃないの」

 ごゆっくり。とひらひらと手を振って市内へ戻っていく。

 

「……つかめねェ女だ」

 クロコダイルはどこか苦い顔で鼻息をつき、葉巻を投げ捨ててルフィを睥睨する。

「まぁいい。ぼつぼつ死ぬか、麦わら」

 

「死なねェよ」

 ルフィは拳を固く握り込み、クロコダイルへ挑む。

「俺がお前をぶっ飛ばすんだ」

 

      〇

 

 ゾロがマツゲを乗せた刀をダンベルのように振るい、ウソップがチョッパーに与太話を聞かせ、サンジはびしょびしょに濡れてしまった煙草を乾かしている。

 

 そして、ビビは後ろ腰に下げていた雑嚢から、分厚いファイルを取り出してナミと共に中身を改めていた。

「大量の銀を集めたことや、“マーケット”とかいうところでダンスパウダーを仕入れたこと、ここアラバスタで行った作戦のこと、全部書いてあるわ……っ!」

「こっちはリストよ……信じられないっ! 軍や政府にこれほどバロックワークスの工作員が潜んでいたなんて……っ! 反乱軍にまでこんな……っ! 私が見てきたものはほんの一部、いえ、計画の外側だったんだ……っ!」

 クロコダイルとバロックワークスのつながり。アラバスタ王国を転覆させるための様々な工作活動。その資金の流れ。組織構成員の名簿。ファイルに全て納められていた。

 

「証拠は手に入ったんだなっ! どうやったんだっ!?」

 チョッパーが称賛と共に尋ねれば、ビビが端正な顔を大きく歪めた。

「あの女から接触してきたのよ」

 

 ・

 

 ・・

 

 ・・・

 

 ルフィとウソップのレインディナーズ突入に続く形で、ビビはナミとゾロと共にクロコダイルの“城”へ侵入。三人はベアトリーゼの助言に従い、クロコダイルの悪事の証拠を確保すべく、ニコ・ロビンの総支配人室を目指した。

 その際、ゾロが謎の方向音痴振りを発揮し、止めようとしたナミ共々、落とし穴にボッシュート。

 

 一瞬で仲間とはぐれてしまい、ビビが唖然としているところへ、

「ようこそ、レインディナーズへ。でも、ここは関係者以外立ち入り禁止よ、御姫様」

 ニコ・ロビンが現れた。

 

 白いテンガロンハットとファー付きコート。露出の激しいウェスタンスタイルの上下とロングブーツ。それに何か手荷物。神秘的な美貌に艶やかな衣装がよく映える。

 もっとも、ロビンを前にしたビビが抱いた感情は、敵意と警戒心だけだ。

 

「……っ!?」

 ――なぜニコ・ロビン自ら……っ!? まさか作戦を読まれていた? 

 ビビの動揺を見透かしたように、ロビンは言葉を紡ぎ始める。

「私とビーゼは西の海でマフィアや海賊を襲っていた時、お金や物資より優先して奪い取ってきたものがあるの。分かるかしら?」

 

 ロビンは睨み据えたまま応えないビビに小さく肩を竦め、

「帳簿や航海日誌よ。言い換えるなら、彼らの活動記録。彼らが歩んできた足跡。彼らの全てが詰まった情報。これさえ手に入れれば、彼らの全てが分かる。彼ら自身が気づいてないことすらも。そうして集めた情報を基に、私達は彼らを一方的に襲い、奪ってきた。お金も物も、命もね」

 

 まるで教師が不出来な生徒に説くように言葉を編んでいく。

「ビーゼが肩入れしていると分かった時点で、貴方達の狙いは読めた。まぁ、麦わらの船長さんが海軍将校と一緒に乗り込んできた時は戸惑ったけれどね。貴女達は……あの剣士さんが全然関係ない方へ駆け出したこと以外、概ね私の手のひらの上だったわ」

 

 碧眼を細め、ロビンはくすくすと小気味よく喉を鳴らした。

 下唇を噛みつつ、ビビは眼前の強敵を睨みすえ、両腰のパウチに収めた刃鞭に意識を注ぐ。事ここに及んでは押し通る外ない。たとえ勝ち目が薄かろうと、諦めたりしない。

 

 ビビの心中を察したのか、ロビンは控えめな嘆息をこぼし――

「どうぞ、御姫様」

 手荷物をビビへ向かって放り投げた。ビビがギョッとしながら荷物を受け止めれば。

「貴女達が狙っていた物よ」

「!?」ビビは双眸を真ん丸にして驚愕し「どういう、つもりっ!?」

 

「ビーゼがここまで肩入れしているなら、彼の計画は間違いなく狂う。私は“私の目的”を果たすため、より確実な手を打つ。これもその一つよ」

 ロビンは訥々と言葉を並べ、かすかな苛立ちを浮かべる。

「貴女は何も分かってない。目の前の出来事にただ右往左往しているだけで、根本的な謎に気づいてすらいない。いえ、それは貴女だけでなく、貴女の父親も同じね。この国が如何に特異な歴史を持つか、正しく理解してない。だからクロコダイルに目を付けられ、こんな事態に遭うのよ」

 

「いったい何を――」

 ビビは困惑する。ロビンが向けてきたかすかな苛立ち。それは自分と父、いやアラバスタ王族ネフェルタリ家の者に向けた憤りのようで。何よりこれまで一貫して冷笑的な態度を保ってきたロビンが不意に“素顔”を見せたようで。

 

 ロビンはゆっくりと深呼吸し、仮面を被り直す。

「話は終わり。そろそろ行きましょうか。彼が待ってるわ」

 恭しく付いてくるように促し、

「忠告しておくわよ、御姫様。何があっても“それ”のことは彼に明かさないこと。もし、彼にバレたら……貴女も貴女の仲間も確実に死ぬわ。まあ、私も道連れに出来るかもしれないけれど」

 くすくすと笑い、ロビンはビビに微笑みかける。

 

「王国軍と反乱軍の衝突を避けられる唯一のカードを無下にはしないわよね? だって、貴女は私と同じだもの」

「同じですって!? 誰があんたなんかとっ!!」

 カッと頭に血が昇ったビビが噛みつくように吠えるも、ロビンは癇癪を起こした幼子をあやすように、そして、

「私は決して諦めない。貴女も同じでしょう? 御姫様」

 なぜか酷く優しい眼差しでビビを見つめた。

 

 ・・・

 

 ・・

 

 ・

 

「あの女、本当に何を考えてるのか、さっぱり分からない」

 ビビが頭痛を堪えるように額を押さえて呻く。

 

「……あの海軍大佐も言ってたけど……なぜ、なのかしらね」

 ナミが独りごちるように言った。

「なぜクロコダイルはこの国を狙ったの? もっと簡単に奪える国がいくらでもあるのに。何がクロコダイルの関心を引いた? どうしてクロコダイルに目をつけられた?」

 

 探偵のような顔つきで疑問を並べ、

「それに、ニコ・ロビンも国盗りに興味があるとは思えない」

 ナミはベアトリーゼとロビンの2人を知るビビへ言った。

「ベアトリーゼが言ってたことだけど、ニコ・ロビンは考古学者なんだって。西の海では強盗働きで資金や物資を調達しながら、各地を旅して色々調査してたそうよ」

 

 ビビは幼き日、御召船でベアトリーゼから聞いた話を思い出し、大きく頷く。

「……それは私もベアトリーゼさんから聞いたことがある。親友と一緒に歴史を調べる旅をしてきたって」

 

「なんで考古学者が犯罪組織のナンバー2をやってて国盗りに協力してんだ?」

「そりゃ……考古学者なら、アラバスタの歴史が関係してるんじゃねェか?」

 チョッパーが首を傾げ、ウソップが相槌を打ち、ナミがビビへ尋ねる。

「アラバスタの歴史、か。どうなの、ビビ? この国の歴史に国盗りしてまで欲しがられそうなものってある?」

 

「アラバスタは4000年の歴史があるわ。その何が対象かと言われても……」

 戸惑うビビへ、サンジが助け舟を出すように口を挟む。

「一般的に知ることが出来ねェもんだろう。王族にしか伝えられない秘史とか、表に出せない歴史上の機密とかな」

 

「おお……サンジ、すげーな。どーなんだ、ビビ?」

 妙に鋭い指摘をしたサンジを称賛しつつ、ウソップがビビへ促すも、ビビは端正な顔を横に振るだけだ。

「ごめんなさい。やっぱり分からないわ。私はまだ立太子されていないから、そういう王家や宮廷の深いところまで知らされてないの」

 

 答えが見つからぬ難問に面々が頭を悩ませているところへ、

「反乱軍の首都到達までにビビを送り届けること、今はそのことに集中しとけ」

 ゾロが口を開いたその時。

 

 レインベースの方角で砂塵の大きな竜巻が蠢いていた。

 

        〇

 

 王下七武海“サー”・クロコダイルは、ルフィが初めて相手取る“未知”だった。

 そして――

 

 ルフィは未知の前に敗れた。

 

 どれだけ拳を叩き込もうと、どれだけ蹴りを打ち込もうと。果ては噛みつこうとも、ゴムゴムの実の力を駆使して常識外の攻撃をいくつ繰り出そうとも。決して怯まぬ胆力も壮烈な覚悟も。クロコダイルを倒すどころか、傷つけることすらできなかった。

 

 自然系悪魔の実スナスナの実の力を高度に使いこなすクロコダイルに翻弄され、弄ばれ、手のひらで転がされるように打ち倒され。

 最後に、首から下げた水筒ごとフック状の義手に腹を貫かれた。

 

 クロコダイルは自らが作り上げた流砂の渦へルフィを投げ捨て、侮辱の高笑いを残して去っていく。

 ぐうの音も出ぬほどの完全敗北だった。

 

 流砂に呑まれていく中、ルフィはクロコダイルを強く掴んだ自身の左手を見た。

 トトに託されたユバの水に、濡れていた。

 

 ・

 

 ・・

 

 ・・・

 

 大量の出血によって薄れていく意識を気合と根性で奮い立たせ、ルフィは流砂に抗い抜く。

 なんとか地表へ頭を出すことに成功するが、そこまでだ。どう足掻いてもこれ以上は動けない。苦痛と出血と脱水でまともに動けない。

 

 それでも、ルフィは諦めない。力の入らぬ身を蠢かせ、ミミズが地表へ這い出るように流砂から脱出を試みる。

 

 ――と。声が聞こえた。ルフィがふやけたような視界を巡らせば。

「どういうつもりだ。貴様はクロコダイルの仲間ではないのか」

 鎖で捕縛された精悍な男性と、クロコダイルの傍らにいた長身の美女――ニコ・ロビンがやってくる。

 

「彼はただの共同事業者よ、隼の騎士様」

 ロビンは忌々しげに睨みつけてくる護衛隊副長“隼”のペルを連れ、ルフィの許へ向かって歩いていく。

 

 国王軍や宮殿にしのばせた工作員からペル――動物系飛行種の能力者が、単独で航空偵察にやってくることを知り、ロビンは飛来したペルを密やかに捕縛して拘束。情報工作に用いようとしていたのだが……

 

「この土壇場で色々と想定外の事態が重なってる。貴方を見つけた時は手札にしようと思ったのだけれど……ああ、居た。まだ生きてるわね」

 どこか演技がかった仕草で微苦笑し、砂漠にぽこっと頭を出している少年を見つけた。

 

「彼は……?」

 事態が呑み込まないペルが困惑するが、ロビンは無視してルフィの許へ歩み寄る。

「負けちゃったわね、麦わらの船長さん」

 

 涼やかな声がルフィの鼓膜をくすぐった直後、周囲にたおやかな腕が無数に咲き乱れ、ルフィを流砂から引きずり上げた。

 

 ルフィの傍らに立つニコ・ロビンは身を屈め、懐から取り出したハンカチを腹部の創傷に詰め込む。ベアトリーゼに教わった銃創や刺し傷の野戦応急措置だ。後方でまともな治療を受けられるための時間稼ぎ、ともいう。

 

 ぼやけた視界に映る美女へ、ルフィは喘鳴しながら告げた。

「あり、がどう」

 

 敵である自分へ素直に礼を述べるルフィに眉を下げつつ、ロビンは尋ねる。

「D。貴方達は何者なの?」

 

「?」

 きょとんとした眼差しを返すルフィに、ロビンは小さな失望をこぼす。

「……貴方“も”知らないのね」

 

 ルフィは苦悶をこぼしながら身を起こそうと藻掻く。

「動かない方が良いわ。主要臓器や動脈こそ無事みたいだけど、傷は軽くないもの」

 

「関係、ねェ……っ! 仲間が待ってる……っ! それに、俺はビビとベアトリーゼに約束したんだ……っ! ワニをぶっ飛ばすって、絶対に間に合わせるって、そう約束したんだっ!」

 ルフィは血を吐きながら吠えた。

 

「ビビだと? ビビ様のことか!? 彼は何者なんだっ!?」

 狼狽えたペルがロビンへ怒鳴るが、ロビンは相手にしない。

 

 敗北して重傷を負いながらもなお、仲間と約束のために戦うことを諦めないルフィの姿に、ロビンは思い出していた。

 心優しい大きな親友を。彼の献身と思いやりを忘れたことはない。

 痛快で頼もしい親友を。彼女が傍にいてくれたことでどれほど救われたことか。

 

 ロビンは落ちていた麦わら帽子を拾い上げてルフィへ渡し、ペルを置いて高速移動生物F-ワニの許へ向かう。

「騎士様。その子は貴方達の大切な御姫様をこの国まで送り届けた、勇敢な海賊(ナイト)よ。それと、ビビ王女のことは心配ないわ。今はその子の仲間が守っているし、ビーゼもいるから」

 

 F-ワニに乗り込み、

「もっとも……この国がどうなるかは分からないけれどね」

 ロビンは超高速鰐を発進させると同時に、能力を使ってペルの拘束を解いた。

 

「くっ!」

 解放されたペルは砂埃を挙げて走り去るF-ワニの背を睨み、急いで倒れている少年の容態を診る。

「酷い傷だ……っ! すぐに医者の許へ――」

 

 刹那。ルフィはペルを力強く掴み、今の自分に最も必要なものを求めた。

(にぐっ)!!」

 




Tips

ニコ・ロビン
 原作主要キャラ。
 親友が計画を破綻させるだろうことを予測し、いろいろ動いていた。
 元より古代兵器にもアラバスタにも興味はなく。クロコダイルと心中する気も毛頭ない。
 目的はあくまで『失われた100年』であり、そのためにポーネグリフを追っている。
 ロビンは決して諦めない。

ペル
 原作キャラ。
 本作では登場の見せ場を省かれた。

ルフィ。
 原作通りに負けた。が、諦めない。肉を寄こせ。俺はまだ戦える。

クロコダイル。
 詰めが甘い男。

ベアトリーゼ。
 サンドラ大河を移動中。
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