彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

110 / 279
佐藤東沙さん、XMSさん、マキシタさん、すぷりんぐさん、NoSTRa!さん、烏瑠さん、木ノ本慈久さん、マイムマイマイさん、誤字報告ありがとうございます。

誤字指摘が多かった二つの文章について。
・前話における『心優しい大きな親友』という表現はサウロを指しています。
・『ぼつぼつ死ぬか』という表現は誤字ではなく、『北斗の拳』のネタです。


110:それはサンドラ大河より来たれり

 アラバスタ王国の首都アルバーナは周囲より随分と高い台地に築かれた大都市で、その姿は砂の海に浮かぶ島のようであり、熱砂の中にそびえ立つ大要塞のようでもある。

 

 実際、反乱軍の決戦攻勢が判明した今、アルバーナは要塞と化していた。

 幸か不幸か、親征軍の用意は首都防衛に転じられており、失踪中の国王コブラに代わって全軍の指揮統率を担う護衛隊隊長代理のチャカは徹底抗戦の準備を進めている。

 

 首都住民や宮殿の非戦闘員、首都近郊の難民をアルバーナから避難させ(避難を拒否して協力を申し出る者は少なくなかったが)、ナノハナ市方面の南門側に砲兵部隊を展開させ、銃兵部隊を配置してあった。また市外内のあちこちに即席のバリケードを据え、反乱軍が市内へ突入した場合、キルゾーンに設定した宮殿前広場へ誘導する予定だ。

 

 火砲の阻止砲撃と銃兵の弾幕斉射で能う限り敵を漸減し、敵の兵力展開を限定して押し潰す。

 数的にはかなりの劣勢だが、敵は絶対多数が単なる暴徒に過ぎず、補給がない。隘路に誘い込まれた大軍が、身動きを封じられて寡兵に敗れた事例が珍しいものではないことを考えれば、充分に勝機はあるだろう。

 

 つまり、王国軍はガチで100万の叛徒をぶち殺す気だった。

 

「腰抜けの王に率いられる半端な二流軍隊が、ようやく本気になったか」

 ミスター・1こと“殺し屋”ダズ・ボーネズが坊主頭の厳めしい顔に冷笑を湛えた。

 

「私達が仕掛けたことだけど……後始末が大変そうね」

 ミス・ダブルフィンガーこと“毒蜘蛛”ザラがちっとも同情してない顔で嘯く。

「ま、その辺りのことはボスが考えてあるんでしょうけど」

 

「そ~んなことよりィ~~“新たな指令”のことよぉ~ぅ!」とミスター・2ボン・クレーこと“荒野”のベンサムがくるくると回りながら言った。

 

「回んじゃねーよ、オカマッ!」ミス・メリークリスマスこと“町落とし”ドロフィーがカッカしながらボン・クレーに罵声を浴びせる。

 

「ふぉーふぉーふぉー」とミス・メリークリスマスの相棒ミスター・4こと“キャッチャー殺し”ベーブが巨躯を揺らしながらゆっくりと笑う。

 

 バロックワークス上級幹部達は西門付近のガレ場に潜み、ボスから届いた“新たな指令”に備えていた。

「王女ビビを始末しろ、か。我が社のナンバー・エージェントを6人潰した海賊団の護衛がいるそうよ」

「雑魚共が小物に負けたってだけだろ。問題はもう一件の方だ」

 ミス・ダブルフィンガーが細長い煙管を燻らせながら言えば、相棒のミスター・1が眉間に深い縦皺を刻む。

「この件に介入を目論む“血浴”のベアトリーゼを排除しろ、か。気軽に言ってくれる」

 

 ダズ・ボーネズは西の海出身で、バロックワークスに加わる前は名の知れた賞金稼ぎだった。西の海で活動していた“悪魔の子”と“血浴”のコンビのことも当然知っている。その悪名の実態も。会合でニコ・ロビンと初めて顔を合わせた時は、内心で強く警戒したものだ。

 

 なにせ、ニコ・ロビンとベアトリーゼは西の海を牛耳る5大ファミリーや数々の海賊達を鴨か七面鳥でも狩るように襲いまくった。返り討ちに遭った殺し屋や賞金稼ぎは数知れず。

 同じくマフィア達を向こうに回していたカポネ・“ギャング”・ベッジですら『イカレてやがる』と2人を忌避したという。

 

 自信家の相棒が珍しく懸念を隠さないことに、ミス・ダブルフィンガーは密やかに驚き、慎重な方針を提案する。

「相手は3億8千万の大賞金首……用心するに越したことはないわね。ミス・オールサンデーは自分が行くまで手出しするな、と言っていたし、血浴の相手は彼女にして貰えば良いんじゃない?」

 

「はっ! 何ヌルィこと抜かしてんだい、このバッ!! ビビッてんならすっこんでな! 王女も血浴もアタシらで片付けてやるさっ! そうだろミスター・4ッ!!」

「う――」

「ノロいんだよオメーはよっ!! あ腰痛っ!!」

 怒涛の勢いでまくし立てるミス・メリークリスマス。返事が間に合わないミスター・4。

 

 ダズ・ボーネズは冷たい目つきで淡々と言った。

「好きにすりゃあいい……くたばりてェならな」

 

“殺し屋”の二つ名を持つほど荒事に長けた男の冷厳な言葉に、誰もが息を呑む。

 凶暴な暑気が遠く感じるような雰囲気の中、ボン・クレーがいつもの調子で口を開く。

「ねぇ、あちしはちょっと気になることがあるんだけドゥー?」

 

「い、いちいち踊るんじゃねぇよっ! 鬱陶しいっ! あっ!? 腰ィっ!!」

 どこかホッとした様子でツッコミを入れてくるミス・メリークリスマスを無視し、ボン・クレーはくるくると踊りながら、疑問を呈す。

「王女や血浴が現れる前に反乱軍と国王軍の戦闘が始まったら、あちし達はドゥーすんの?」

「ドゥーもしなくていいんじゃなくて?」ミス・ダブルフィンガーは煙管を吹かし「交戦が始まったら、もう誰にも止められやしないんだから」

 

「な~~~」ミスター4が口を開くが、誰も気にしない。

 

「問題は一番面倒臭ェ事態が起きた場合だ。ここアルバーナで王女、血浴、反乱軍。全てが同時にかち合ったら鬱陶しいことになる」

「国王軍にも反乱軍にもウチの社員が潜り込んでるわ。いざという時は彼らが“テコ入れ”する手筈になってるから、大丈夫ではなくて?」

「それ、ミリオンズやビリオンズでしょーォ? 当てになるのぅー?」

「だから口を開く度に踊ンじゃ、腰ィッ!? ミスター・4、ちっとマッサージを」

 

 相談を進めている中、ミス・メリークリスマスが相棒へ水を向ければ。

「にィ~かぁ~~きぃ~~てぇ~~るぅ~~ぞぉ~~~~~」

 ミスター・4が南の地平線を指差す。

 

「そーいうことはさっさと言わんかい、このウスノロダルマッ!!」

 ミス・メリークリスマスが双眼鏡を取り出して南の地平線を窺う。

 陽炎の蠢く南の地平線に巨大な砂塵が立ち上っている。100万を超す叛徒の大津波だ。

 

「反乱軍だ。王女達は間に合わなかったみたいだねェ」

 ファンキーな面構えのおばはんがにたりと口端を歪めた。そんなミス・メリークリスマスの愉悦へ水を差すように、ミスター・4が今度は西を指差す。

「あっ~~~ちぃ~~~~~~かぁ~~~らぁ~~~もぉ~~~~」

 

「ああ? あっちだぁ?」

 ミス・メリークリスマスが西へ双眼鏡を向けると。

 

「――なんだい、ありゃあ」困惑した声をこぼすおばはん。

「? どうしたの? ミス・メリークリスマス?」

 ミス・ダブルフィンガーが怪訝顔を向けると、おばはんは手前の目で確認しやがれと言わんばかりに双眼鏡を投げ渡す。

 

 双眼鏡を受け取ったミス・ダブルフィンガーは訝りつつ、西の地平線を見た。

「なに、あれ」

 

       〇

 

 時計の針を少し戻そう。

 

 昼時の太陽が暴力的に照りつけるサンドラ大河沿岸。

 ベアトリーゼは岸辺で戦支度を始めていた。

 潜水服を脱いで砂漠装束に着替え直し、両腕にダマスカスブレードを装着。両腰に柄頭が湾曲したアラビアンナイフならぬアラバスタンナイフを差している。シキとの戦いで失ったカランビットの代わりだ。

 最後に、シュマグをフードを被るように巻いた。

 

「―――来た。すげー勢いで川を上ってる。接敵まで一時間ってとこか」

 広域展開させていた見聞色の覇気が脅威を捕捉し、ベアトリーゼは暗紫色の双眸を楽しげに輝かせる。左手首に巻いた腕時計を確認。

「奴がここまで来て、私がアルバーナ前面まで誘導して……時間的に良い感じだな」

 

 口端を悪戯っぽく緩め、ベアトリーゼは実に軽い調子で呟く。

「これは盛り上がるぞぉ」

 

「悪い女」

 岸に上がらず、ツギハギトビウオの背に乗っていたチレンが、げんなり顔で慨嘆した。

「それで、私はどうしたら?」

 

「前に説明した通りだよ。私が奴を誘導して上陸したら、トビウオちゃんでさっきの沿岸の村で待ってて。事が片付き次第、迎えに行く」

「貴方が遊んでる間に私が襲われたら?」チレンは仏頂面で「シキの追手があの化物だけとは限らないわ。あのバケモノが陽動で、別口の殺し屋がいたらどうするのよ?」

 

 あの粘着ジジイならあり得るかも、とベアトリーゼは思案顔を作り、

「じゃあ一緒に来る?」

「はぁ?」

 眉をひそめるチレンへ、面白そうに対案を語る。

「チレンを担いでも移動に差し障りはないしね。そだ。サービスで御姫様抱っこにしてあげるよ」

 

「この歳で抱きかかえられながら飛び回るなんて、絶対に嫌。そもそも鉄火場に行きたくないわよ」

 遠慮でも冗談でもなく、ガチで嫌そうに美貌を歪めるチレン。

 

 乗ってこないチレンに微苦笑しつつ、ベアトリーゼは見聞色の覇気を操作した。精度を落とす代わりに効力圏を広げ、うっすらとした影を捕捉した。

「ふむ……丁度良い人がいるね。海軍の“白猟”スモーカーが沿岸部に向かって移動中だ。彼に保護してもらうと良い」

 

「“白猟”スモーカー?」聞き覚えのない名前に片眉をあげるチレン。

「能力者の大佐だよ。気難し屋で優秀で、真っ当な軍人だ。コードを伝えて依頼人に身元を保証して貰えば、問題なく保護して貰えるはずだよ」

「……その場合、このトビウオや荷物は押収されちゃうと思うけど?」

 

 ベアトリーゼが化物を誘導して上陸した後、このツギハギ・トビウオを扱うのはチレンだ。スモーカーと合流できても、お尋ね者と行動を共にしたと分かれば、情報を得るためにトビウオと荷物はまるっと押収されるだろう。

 

「問題ないよ」

 ベアトリーゼはチレンの指摘に冷ややかな笑みを返す。

「後で取り返しに行くから」

 チレンは目元を押えて大きな溜息をこぼした。

「問題大アリじゃない」

 

 

 

 魔女が悪企みをしているとは露知らず。

 船長を除く麦わらの一味は陸棲巨大ガニ“ヒッコシクラブ”(ナミ命名:ハサミ)の背に乗り、サンドラ大河に近づいていた。

 

「ぬぁにぃ――っ!? この蟹じゃ河を渡れねえのかっ!?」

 ビビの説明を聞き、ウソップが驚愕に目ん玉をひん剥く。

「ヒッコシクラブは砂漠の生き物だから……」

 

「あのだだっ広い河を暢気に泳いでたら日が暮れちまう。それに、河を越えたらまた長い長い砂漠だ。この蟹が向こう岸に行けなきゃあ、アシが無くなっちまうぞ!?」

 ビビが宥めるように説明を続けるも、ウソップの狼狽は止まらない。シロップ村に居た頃は小心的ながら楽観的なところのある青年だったのだが、命知らずな船長や無茶苦茶な仲間達に振り回されるようになって、どうにも悲観論に染まりつつある。

 

 サンジは煙草を吹かしながら、ビビに対案を出す。

「ビビちゃん。俺らの子電伝虫で王宮と連絡取れないか? それで迎えの足を寄こしてもらうとか」

 

「ごめんなさい……連絡先が分からないわ」

 王宮や王国軍は当然ながら電伝虫を保有している。“亡き”イガラムなら知っていただろうが、ビビには分からない。

 

「泣き言垂れてても仕方ねェだろ。何とかするしかねェよ」

「何ともならんから困ってんだるるォ!」

 ゾロが冷徹に言うも、ウソップの不安はちっとも解決しない。むしろ動揺が酷すぎて巻き舌になり始めた。

 

「ンなことはねェ。気合と根性がありゃ、大抵のことはなんとかなる」ゾロは真顔だった。

「そうなのか!」チョッパーが新発見を聞かされたように驚き「じゃあ、ハサミに気合と根性を出して貰えば良いんだな!」

 

「トニー君?」「何か案があるのか、チョッパー?」

 訝るビビと興味を示したサンジに頷き、チョッパーは元気いっぱいに言った。

「ハサミは踊り子が大好きだっ! ナミ、踊り子姿を見せてやってくれっ!!」

 

「……」「そんなん効くのぁそこのエロコックだけだっ!」「トニー君……」

 ゾロが眉間に深い皺を刻み、ウソップがツッコミを入れ、ビビが肩をカクンと落とす中、

「大した手間じゃないし、構わないけど……」

 何とも形容しがたい表情のナミが防砂マントを脱ぎ、サンジが調達した踊り子衣装を披露すれば。

 

「!! ……♥」「ナミすわぁ~ん♥」「ヴォ~~ン♥」

 昂奮した巨大ガニが超加速し、エロコックとエロラクダが歓声を上げた。

 

 で。巨大ガニは超加速のままサンドラ大河に突っ込み―――案の定沈んだ。

 

「期待させておいてこのオチッ!? 見せた分くらいは働きなさいよっ!」

 ナミが岸辺へ上がって見送りをしている巨大ガニに怒声を浴びせた。

 

「仕方ねえ。泳げ!」能力者のため泳げないチョッパーを頭に乗せたゾロが一同を一喝し。

「ビビちゃん、向こう岸までは?」

「この辺りだと……50キロくらい」

 サンジとビビのやり取りにウソップが喚く。

「泳げるくわぁああっ!!」

 

 と。

 一味の騒々しさに誘われたのか、海王類並みにドデカいナマズがこんにちは。

 

「サンドラマレナマズッ!!」「ぎゃああああああっ!?」「この国の生態系はどーなってんだっ!!」

 グレートにビッグなナマズがスナック感覚で麦わら一味を食おうと迫ったところへ、

「クォ―――――――――っ!」

 水面を揺るがすチャーミングなシャウト。ノックアウトされるタイタンサイズのキャットフィッシュ。立ち昇る大水柱。舞い散る水飛沫がレインボー。ゴウランガッ! 立ち昇る巨大な水柱と降り注ぐ水飛沫が落ち着き、推参者達の姿が明らかになった。エルマル沿岸でルフィが弟子にしたクンフージュゴン達だッ!

 

「兄弟弟子たちのピンチは見逃せないっス! だって!」

 チョッパーの翻訳に、一同はなんとも言えない面持ちを浮かべた。

 

 ともあれ。

 

 親切なクンフージュゴン達は麦わらの一味を失神した巨大ナマズに乗せ、愛らしい掛け声と共に対岸へ向かって曳航していく。

「意外と速いな。これなら一時間もありゃあ渡れるぞ」

「ベアトリーゼの予想だとナノハナからアルバーナまで8時間。レインベースからこの川まで3時間前後、渡河に1時間。ベアトリーゼが稼ぐ時間を込みで考えたら……あと5時間」

「間に合うか?」

「向こう岸に渡った後、アシを調達できれば……?」

 

 クンフージュゴン達が動きを止め、どこか怯えたような顔つきで下流を見つめている。チョッパーも不安顔でジュゴン達と同様に下流を凝視していた。

 

「なに? どうしたの?」「また危険生物か?」

 警戒するようにアニマル達の視線を追うナミ。心底嫌そうに顔を歪めるウソップ。

 

「……凄く嫌な感じがする」

 チョッパーは草食動物的鋭敏さで脅威を感じ取っていた。

 何か恐ろしいものが河を上ってきていると。

 そして、その感覚の正否はすぐに判明した。

 

 ずどぉん! 

 

 下流の方で巨大な水柱が立ち昇り、轟音が大河に響き渡る。自分達が乗っているデカナマズよりも巨大な“何か”が現れた。

「なんだありゃあっ!?」「おい、ビビ!? ありゃあなんだっ!?」「し、知らないわ、私もあんなの見たこと無いっ!」「この国は化物の巣窟かよっ!?」

 目をひん剥いて驚愕する中、“何か”の叫び声が大河の水面を震わせた。

 

「べああとぉおりいいいいいいいいぜえええええっ!!」

 数キロ上流のまで届く、底知れぬ恨み辛みと濃密な憎悪と焼きつきそうな憤怒。クンフージュゴン達やチョッパーが本能的に竦み上がり、ウソップが涙目になる中、ビビとナミが反応する。

 

「! ベアトリーゼって……まさか、あれが話に出てた化物!?」

「聞いてた話と全然違うじゃないっ! あいつは本当にもぉっ!!」

 ビビが愕然とし、ナミは蛮族女のいい加減さに憤慨した矢先。

 何かが煌めき、巨大な化物の横っ面が弾け――大気が炸裂した衝撃音が響き渡った。

 

「ウソップッ! 単眼鏡を寄こしてっ! 早くっ!」

「お、おう」

 鬼気迫るナミに圧倒されたウソップが慌ててバッグから単眼鏡を取り出し、ナミはウソップの手から単眼鏡を分捕って覗き込む。

 

 単眼鏡を通して目にした光景は、ナミの想像した通りだった。

 巨大な黒い化物の傍らを、シュマグをフードのように巻いた蛮姫が飛んでいた。悪魔の実の力でプラズマジェットを間欠放射し、フィギュアスケーターみたく空中を舞いながら、化物を内陸へと誘っていく。

 美しくも恐ろしい笑みを湛えながら。それはもう楽しそうに。

 

「――あのスットコドッコイッ! なんてことをっ!」

 単眼鏡を下げ、ナミは歯噛みして唸る。

 

「おい、ナミ。どういうことだ?」得物に手を伸ばしていたゾロが問う。

「ベアトリーゼが言ってたこと忘れたのっ!? あいつは反乱軍の進撃を止めるために、あの化物を反乱軍にぶつける気なのよっ!」

 美貌を怒らせてまくしたてるナミ。

 

「―――マジかよ」ドン引きするウソップ。

「そりゃあんな化物が現れたら、止まるかもしれないが……」同じく引き気味のサンジ。

「無茶苦茶だ。そんなことしたら反乱軍があの化物に襲われちゃうぞ」怯え顔のチョッパー。

 

 端正な顔を蒼白にしたビビが子電伝虫を取り出してベアトリーゼに連絡を試みる。

 子電伝虫が呼び出し音を囀るが、ベアトリーゼは通話に出ない。

 当然と言えば当然だ。ベアトリーゼは今、化物と対峙している真っ最中なのだから。

「ダメ、出ないっ!」ビビはチョッパーへ叫んだ。「トニー君っ! ジュゴン達に対岸へ急ぐよう伝えてっ!!」

 

 ビビは胸元に下げた魔女謹製の御守りを握りしめる。

「ベアトリーゼさん、お願い……っ! 誰も傷つけないで……っ!」

 

 

 

「べあとりいいいいいぜえええええええええええ!!」

 ザパンが怨嗟に吠えながら砂漠を駆ける。

 

 その姿はもはや人の範疇にない。その体躯は巨人もかくやという大きさに達していた。下半身は海老か蝦蛄を思わせる有様で4対の節足が激しく蠢き、砂上を高速爆進している。上半身はもはや筋肉と硬鱗の塊だ。肩口や肘、背中から生えた突起物の間を静電気が迸る。発電細胞がいきり立っているらしい。

 

 体格的絶対優位性――如何にピラニアの牙が恐ろしくとも、巨大な鯨を食い殺すことは出来ない。危険な脅威から己の身を守るための自己防衛本能は、分厚く頑丈な硬鱗に毒液分泌器官と発電器官をもたらし、小賢しく動き回る獲物をしとめる術となった。

 のっぺりとした一枚鱗に覆われた感情のない無貌にあって、双眸だけが憎悪と憤怒に燃え上がっている。

「べああああとぉおおおりいいぜえええええええええっ!!」

 

「おーにさ~んこ~ちら~手の鳴~るほ~へ~」

 そんな恨みと憎しみに狂い果てた怪物を、ベアトリーゼはプラズマジェットを用いて宙を舞い駆けながら、アルバーナ前面へ向けて誘っていく。

 

「いーぐあいの化物になってくれちゃって……皆驚くぞー」

 

      〇

 

 時計の針を戻す。

 短針が午後3時へ迫る中、王国の首都に全ての勢力が集まりつつあった。

 

 南からは反乱軍の大津波。

 

 西からは蛮姫が誘う狂気の巨獣。その背を追う麦わらの一味。

 

 アルバーナで徹底抗戦の構えを取る王国軍。

 

 戦いに紛れて王女を仕留めんと企てる犯罪会社の刺客達。

 

 全てを企てた悪漢と密やかに謀る美女。

 

 そして、隼の背に乗ってアルバーナを目指す未来の海賊王。

 

 

 アラバスタの運命を決する激突まで、あとわずか。

 




Tips

チャカ
 国王不在時、なんで護衛隊副長の彼が王国軍の統帥権を持っているのか……軍に将官はいないのか? 大臣達に権限はないのか? 
 アラバスタ編は大変面白いが、重箱の隅を楊枝でほじくるとこういう疑問が出てくる。

バロックワークス
 ミスター1:殺し屋ダズ・ボーネズ。
 坊主頭のごつい人。西の海出身。他の面々に比べてキャラが薄い。

 ミス・ダブルフィンガー:毒蜘蛛ザラ。
 もしゃもしゃパーマのエロ衣装美女。動きに腰が入ってる。

 ミスター・2かつボン・クレー:荒野のベンサム。
 キャラが立ち過ぎのオカマ。東の海出身らしい。

 ミスター・4:キャッチャー殺しのベーブ。
 トロい人。だけど超一流バッター。コイツも地味。

 ミス・メリークリスマス:町落としドロフィー。
 せっかちおばはん。読み返すまではミスター・4と夫婦だと思っていた。

クンフージュゴン
 アニオリ回でまさかの再登場を果たす不思議ナマモノ。


ベアトリーゼ。
 うひひひ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。