彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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かにしゅりんぷさん、佐藤東沙さん、相馬小次郎さん、マイムマイマイさん、誤字報告ありがとうございます。


111:午後3時。伝説の始まり。

 突き抜けるほど晴れ渡った蒼穹。殺人的な陽光を注ぐ太陽。陽炎が揺らぐ砂漠。

 ベアトリーゼはティンカーベルがピーターパンを導くように、狂気の巨獣を熱砂の奥へ奥へと誘っていく。

 

 プルプルの実の力でプラズマジェットを間欠放出し、暑気を引き裂くように宙を駆け、

「べああああとぉおおおりいいぜえええええええええっ!!!!」

 時折繰り出される狂獣の攻撃を舞うようにかわしては、

「おーにさーんこーちらー、てーのなーるほーうへー」

 怪物を嘲り煽り、名も知らぬ無貌の狂獣をアラバスタ王都の前面へ誘う。

 

 太陽の位置と自身の速度と移動距離から現在地を概算し、そろそろかと見聞色の覇気を展開。

 徹底抗戦の構えを整えた首都アルバーナ。首都南方から猛進してくる反乱軍。首都西方のガレ場に潜むバロックワークスの刺客達。自身と怪物のずっと後方から超カルガモに乗って追いかけてくる麦わら一味。クズ共に囚われた王。アルバーナへ向かっている怪人砂男。愛おしい我が親友。

 隼人間に運ばれてくる未来の海賊王はまだ見えないが……時間の問題だろう。

 

 自身の尻に食らいついて離れない怪物を肩越しに一瞥し、ベアトリーゼは思案する。

 こいつを反乱軍にぶつけることは容易い。

 

 しかし、そうすれば反乱軍に死者が出てしまう。ベアトリーゼ自身は大恩あるビビとネフェルタリ家その他に仇なす叛徒など、皆殺しにしても構わない。が、ビビが不殺を求めた以上、殺すわけにはいかない。大雑把で滅茶苦茶な所が多分にあるけれど、“凄腕美人”としては約束の履行に努めるのみ。

 

 そんなわけで、ベアトリーゼは思案を継続する。

 このバケモノを誘導する最適位置はどこかしら、と。

 

 原作だと反乱軍は首都南門の一点突破を行った。となれば、このバケモノを使って反乱軍を押し留める場所はアルバーナ南門側。加えて国王軍の火砲の射程外であること。この前提条件の下、反乱軍がバケモノを認識して一時的でも踏みとどまらせられる最適位置。100万以上の強行軍だ。制動距離もかなりに長大になるはず。

 そうなると……と頭の中で計算を走らせ、見聞色の覇気で知覚している首都周辺の地勢と重ねる。ついでに、自身と化物と叛徒共の移動速度を加味し、“最適位置”到着までの時間もはじき出す。

 

 軽やかに移動と回避をしつつ、自覚無き“異質”なマルチタスクを瞬く間に完了。ベアトリーゼはにんまり。

「皆、驚くぞぉ」

 

     〇

 

悪魔(シャイターン)……」

 首都に立てこもる国王軍に動揺が走った。

 南の地平にうっすらと見え始めた巨大な砂塵――100万を超す反乱軍がついにやってきたから、ではない。

 西の地平に、まるで御伽噺に出てくる砂漠の悪魔(シャイターン)みたいな異形の怪物が現れたからだ。

 

 もうもう砂塵を立ち昇らせながら首都へ向かって西進するバケモノを見とめ、

「なんなのだ、あれは」

 チャカは双眼鏡を下げて呻く。

 間もなく叛徒の大軍勢相手に決死の籠城戦が始まろうというのに、加えて怪物の襲来だと? これもクロコダイルの仕業か?

 

「どう、しますか?」

 若い将校が不安をありありと浮かべながら問う。周囲の軍人達もこの異常な状況に動揺していた。

 

 チャカは密やかに肚へ力をこめ、意識して泰然と告げた。

「皆の者、動じるなっ!! 相手が謀反人の大群だろうと、巨大な怪物だろうと、やることは何も変わらぬっ! 我ら国王軍は最後の一兵に至るまでただこの国を守り抜くのみっ!」

 

 チャカは決死の防衛指揮官として吠える。

「全軍、戦闘用意っ!! 国を守れっ!」

 

 

 

「しゃ、悪魔(シャイターン)……」

 南から王都を目指して前進を続ける反乱軍も、西に立ち昇る砂塵に気付き、そして、一部の者達が砂塵の発生源を目の当たりにしてしまい、絶句していた。

 

 さざ波のように広がる動揺は反乱軍中枢部隊――首魁のコーザにも届く。

「西から化物? サンドラ大トカゲか何かか?」

 コーザは馬の足を止めることなく報告を聞き、疎ましげに伝令を睨む。

 

「トカゲならトカゲというさっ! とにかく海王類並みにデカい化物が西からやってきてるんだよっ!」

 蒼い顔をした伝令がまくし立てる。

「本当に御伽噺の悪魔みたいなバケモンなんだっ! しかも、奴の進路的にこのままだと首都に着く直前でカチ合っちまうっ!」

 

 コーザは舌打ちし、苛立ちを堪えるように手綱を強く握りしめる。

「無視だ。このまま進め」

 

「へ」予想外の回答に伝令が目を瞬かせた。

 コーザは裂帛の意志を込めて叫ぶ。

「全軍、前進を続けろっ! 化物だろうがなんだろうが、無視だっ! このまま進めっ!」

 

「それは……コーザ、いくらなんでも無茶だ」と側近の一人が注進するも、

「首都前面で足を止めれば、防御砲火に打ちのめされる。それに、俺達を含めた大多数が武器を持っただけの素人だ。気の利いた戦略運動なんてできない。それなら」

 サングラスの奥で双眸を冷徹に吊り上げ、

「悪魔とやらとぶつかって“多少”犠牲が出ようと、このまま突っ込んだ方がマシだ」

 

 コーザは非情な野戦指揮官として怒号を放つ。

「進めっ!! この国を救うんだっ!!」

 

 

 

「べあとりぃいいぜえええええええっ!!」

 狂気の巨獣と化したザパンは、頭蓋内を満たす憎悪と怨恨に従って体躯を駆動させ、殺意を垂れ流し続ける。

 

 実のところ、ザパンは眼前で妖精のように舞い飛ぶ女をどうして憎み恨んでいるのか、もう分からない。この女を殺さなければならないという絶対的な衝動の理由も、もう思い出せない。

 

 思い出せない。

 自分が何者であったかも。何も分からない。

 ただただ、抑えきれぬ怒りがこの大きな大きな体を内から焼き焦がし続けている。破壊衝動と暴力願望が理性を削ぎ落としている。

 もう何も考えられない。

 眼前の女を引き裂き、叩き潰すこと以外、何も。

 

「べあとりぃいいぜええええええええええっ!」

 それは殺意の怨嗟であり、同時に惑い彷徨う泣き声のようであり。

 

 

 

 王国最速の超カルガモ部隊と合流した麦わらの一味は、彼らに騎乗して砂漠を激走していた。

 ベアトリーゼが企てているだろうプラン――怪物と反乱軍の激突を防ぐため。

 事前に企図していたクロコダイルの謀を暴露して両軍の激突を止めるため。

 今なおこの国を掌中に収めんと企む巨悪とその一味を討つため。

 王女と麦わらの一味はひたすらに駆ける。

 

 ビビは胸元に下げた御守りを――悪い魔女が作ってくれた御守りを強く固く握りしめて、祈るように呟く。

「お願い……っ! ベアトリーゼさん……っ!」

 

 

 

 ベアトリーゼは南の砂漠から迫る反乱軍の大津波を窺い、北の円状台地にそびえ立つ首都を一瞥。肩越しに背後の狂獣を見切り、

「頃合いだな」

 ひときわ強くプラズマジェットを放ち、疾風の如く熱砂の上を飛翔した。

 

 追いすがる怪物を一瞬で置き去りにし、機動方向を垂直へ変更。高度数百メートルまで一息で昇り、プラズマジェットを切る。ふわりとした一瞬の無重力感を覚えた直後、重力に体を掴まれ、頭から真っ逆さまに落ちていく。強烈な相対気流と風圧に着衣が激しく震え、両腕のダマスカスブレードや腰の雑嚢が強く揺れる。頭を包むように巻かれたシュマグが今にも剥がれそう。

 

 迫る墜落死の危機を無視し、ベアトリーゼはプルプルの実の能力行使に全身全霊を注ぐ。

 大気中の電子、原子、分子を。太陽の放つ光の波長を。この地域に満ちる熱を。この地域に蠢く気流を。目に見えない様々な粒子を。

 無量大数に匹敵するそれら一つ一つを余すことなく、ぷるぷると振動させていく。

 

 時間にしてわずか数秒。

 その数秒にて脳が焼き切れんばかりの超作業を完了させ、微細血管が裂けて耳鼻目から血が滲む中、蛮姫は嗤う。

「ぶったまげろ」

 そして、“魔法”が放たれた。

 

        〇

 

 国を想う者達が王国の存亡を賭けて決戦へ挑まんとする、まさにその直前。

 雷雲など影も形も無い蒼穹に、突如として巨大な光球が生じた。

 さながら新たな太陽が生まれたかのように。

 

 あらゆる色彩を白く塗り潰すように激しく強く閃き輝き、一拍遅れて轟音を響き渡らせる。

 蒼天から注ぐ光と音の暴圧が首都周辺を支配し、あらゆる生命を平伏させた。

 

 首都にこもる王国軍将兵を打ちのめし。津波の如く迫る人馬の群れを打ち崩し。異形の巨獣を自失させ。周辺台地に避難していた難民達を茫然とさせ。

 

 超広域閃光プラズマを放った蛮姫は四回転後方捻りで着地し、腰が抜けたようにへたり込む。全身から滝のように流れる汗。疲労で痙攣する唇や四肢や指。体力はすっからかん。

 

 蛮姫は肩で大きく息をしながら、思う。

 シキん時もそうだったけど、やっぱりマクロレベルは無理だな。バケモンと反乱軍の巻き上げた砂塵を触媒にしてこれだもん。でもまぁ……

 

 ベアトリーゼは光と音の残滓が溶けていく静謐な砂漠を見回し、アンニュイ顔で気だるげに呟く。

「上出来かな」

 

       〇

 

 突如、首都周辺を襲った異常現象に、王下七武海“サー”クロコダイルは不快な記憶を呼び起こされていた。

“新世界”へ乗り込み、挑んだ“皇帝”の姿が脳裏をよぎり、右手で左腕の義手を撫でる。

「小娘め……っ」

 

 

「やりすぎよ、ビーゼ」

 ニコ・ロビンは光と音が溶けていく空へ微苦笑をこぼし、顔を引き締める。

 

 これでクロコダイルの計画は完全に狂った。

 でも、彼は引くまい。予定していたような国体の簒奪が叶わなくても、古代兵器を手中に収められれば武力で押し獲れる。そう海賊らしく考えるはずだ。

 

 ロビンとしても作戦続行は望むところだ。

 始まりの20王家の一つ、ネフェルタリ家が秘匿するポーネグリフを読み解く機会。危険を冒す価値がある。

「問題はその内容ね」

 

       〇

 

 蒼天を引き裂く光と音の暴威に、さしものカルガモ部隊も思わず足を止めた。

 ゾロとサンジがいなければ、全員が失神昏倒していただろう。

 

 極太の肝っ玉を持つゾロは、白目を剥いて超カルガモから落ちそうになったチョッパーとウソップを即座に引っつかんだ(ウソップは鼻を掴まれた)。

 女性尊重の騎士道精神を持つサンジは、危うく超カルガモから転落しかけたナミとビビをスマートに支えていた。

 

「皆、頑張ってっ! 今がチャンスよ!」

 サンジに支えられながら、ビビが皆に発破をかけた。

 今、全てが動きを止めている。反乱軍も、怪物も、おそらくバロックワークスの刺客達も。この好機を活かさなければ。

 

「あいつは本当に毎回毎回……っ!」

 ナミが蛮姫を思い浮かべながら毒づき、未だ白目を剥いているウソップを張り倒す。

「いつまで寝てんのっ! さっさと起きろっ!!」

「ブボォオッ?! な、なんだあぁっ!?」

 頬に真っ赤な紅葉をこさえたウソップが目を覚ます。超カルガモ達がチョッパーとエロラクダを小突き回して起こした。

 

「急ぐぞっ! 反乱軍と化物がヨレてる間に――」

 ゾロが出発を促す中、

「べああああとぉおおおりいいぜえええええええええっ!!」

 再起動を終えた怪物の雄叫びが砂漠に轟く。

 

「くそっ! もう立ち直りやがった! 急げっ!!」

 麦わらの一味は再び走り出す。

 

      〇

 

 強烈無比な光と音の暴虐を浴びた反乱軍は大惨事だった。

 失神した騎馬達が倒れ、そこに後続が突っ込み、多重玉突き事故が発生。如何なる幸運かワンピース世界特有の人間的頑丈さか、死者は出ていない。出ていないだけともいうが。

 

 濃霧のように立ち込める砂塵の中では、前衛が雷轟と負傷の衝撃で茫然自失状態。前衛と玉突き事故を起こした中衛は大混乱。後衛は事態が呑み込めず戸惑うことしかできない。

 

 壊乱状態の反乱軍にあって、首魁コーザはいまだ意気軒昂だった。

「すぐに立て直して前進を再開するぞっ!」

 

「無理だっ! 前衛と中衛の数十万人が滅茶苦茶になってるんだぞっ!? 立て直しに数時間はかかるっ!!」

 参謀役が額の傷を押さえながら告げるも、コーザは今にも噛みつきそうな顔で唸った。

「なら動ける奴を集めて―――」

 

 べあとりぃいいぜえええええええええええええええっ!!

 

 狂獣の恐ろしげな絶叫が砂漠に響き渡り、ただでさえ恐慌状態の人馬が狼狽えだし、混乱に拍車がかかる。

「! そうだ、あの化物っ!」

 この壊乱状態で襲われたら目も当てられない。

 

 コーザが近くの動ける者達を引きつれ、立ち込める砂塵を掻き分けて最前列へ出れば。

 シュマグをフードのように被った砂漠装束の女が、巨人並みに大きな漆黒の怪物と戦っていた。それも自由自在に宙を舞い飛んで。

 

 誰かが呟く。

「――魔女(サーヘラ)

 巨大な悪魔と宙を舞い飛ぶ魔女。誰もが唖然として御伽噺のような光景を見つめていた。

 

「なんだ、あれは」コーザも眼前の光景を理解できず「いったい、何が起きてるんだ」

 答えられるものは誰もいない。

 

 

 

 無貌の巨獣が暴れ狂う。

 鎧同然の硬鱗に覆われた巨躯を躍らせ、筋骨で盛り上がった剛腕を振るい、巨岩染みた拳を振るう。豪快な風切り音を曳く巨拳はさながら隕石のようだ。

 

 かすめるだけでも常人の肉体を破砕しえる拳打の暴風に対し、蛮姫は往年のプログレ曲『ホーカス・ポーカス』を口ずさみながら悠々と回避、いや空中舞踏を行う。曲調に合わせて手拍子代わりにプラズマジェットを放射したり、巨獣の横っ面を蹴り飛ばしたり、ブレードで斬りつけたりする余裕振り。

 

 そのあまりにも酷い煽り(舐めプ)に、無貌の双眸が憤怒に燃え上がる。

「があああああああべあとぉりいいぜえええええええええっ!!!」

 狂獣が怒号を挙げた。分泌物のせいで砂が貼りついた漆黒の硬鱗がぎちぎちと軋む。

 まさしく激昂である。

 

 ベアトリーゼもかなり機嫌が悪い。なんせ体力気力が空になる寸前。デカくて堅くてタフな化物の相手なんて、面倒臭ェし、かったるいし、と気分がダレている。そりゃ厭味ったらしく鼻歌を口ずさむ。

 

 ただし、どれだけ気分がダレていても、ベアトリーゼはプロだ。鼻歌交じりに宙を舞い飛び、あしらうように攻撃を加えつつ、冷酷非情な目つきで黒い巨獣を注意深く観察していた。

 

 前回戦った時より単純にデカくなった分だけ頑丈かつ頑強になっている。鱗、皮、脂肪、筋肉、骨。いずれも厚みと密度が前回と桁違いだ。武装色の覇気をまとっても周波数を乗せても鱗一枚砕けない。ダマスカスブレードの斬撃も通じない。覇気も高周波振動も体内深層まで貫徹しない。体表面に分泌される毒液は砂塵がこびりついており、潤滑効果が失われているものの、毒自体はより強くなっているようだ。

 

「なんて面倒臭ェ……」

 ベアトリーゼは迫る巨拳を蹴ってひときわ高く跳び、気だるげに呟く。

 

 と、狂獣が発電細胞を活性化させて放電した。ベアトリーゼは十重二十重の雷電を軽妙に避け、かわし切れないものはプルプルの実で大気密度を操作して稲妻の動きを逸らす。

 カミナリ怪人エネル並みの広域攻撃ならともかく、自身の周囲に無差別放射する程度のこと。タネが割れれば、どうってことない。

 

 高圧電流に焼かれた大気と微細な塵が焼けてイオン臭が漂う中、ベアトリーゼは頭から落下しつつ思案する。

 どーっすかなぁ。

 超高熱プラズマを叩き込むと、反乱軍に被害が及ぶかもしれないしー。そもそも体力も気力も底をついてて、ド派手なのは無理だしー。

 仕方ない。ブレードが傷むかもしれないから避けたかったけど……

 

 ベアトリーゼは右腕を突き出すように伸ばして左腕を添え、木目紋様の肘剣を武装色の覇気で覆い、微細振動させ始める。

 

 俗にいう振動剣。

 出力のデカい高周波振動はブレード自体にも多大な負荷をもたらす。あのデカブツの分厚く頑強な硬鱗を斬り、頑丈で頑健な肉を裂き、骨を断つほどの高出力の振動に、愛刀は耐えられるか。

 プラズマ熱には耐えられるだけの強度があるし、武装色の覇気を用いればなんとかなるはず。多分、きっと。

 

 ダマスカスブレードに極超音波振動をまとわせる。武装色の覇気で染められていてもなお、刀身が赤熱化し、周辺大気に影響をもたらしてバチバチと静電気が躍る。

 両足の裏で強烈なプラズマ爆発を起こし、ベアトリーゼは自身を飛翔体として発射した。

 プラズマ爆発と空気の壁を突き破る轟音を置き去りにし、ベイパーを曳きながら狂気の巨獣へ一直線に突き進む。

 かつて異界にて魔王すら屠った一撃。

「死ね」

 

「べあとぉおりいいいいいいぜえええええええええっ!!」

 巨獣が雄叫びを上げて放電しながら右の拳を放つ。電熱をまとい稲光を曳きながら駆ける巨拳は天を穿ち、空を裂くことさえ能うかもしれない。

 そして――

 

 

 

 反乱軍は見た。

 国王軍は見た。

 避難民達も見た。

 自らを矢に変えた魔女(サーヘラ)悪魔(シャイターン)の巨拳が激突する様を。

 

 戦場傍に身を潜めるバロックワークスの刺客達は見た。

 女能力者が狂獣の巨腕を断ち斬る様を。

 

 アルバーナへ向かう道中、王下七武海の大海賊は見た。

 切断時に高熱と高出力振動が伝播したことで、巨腕の血肉が沸騰して爆散する様を。

 

 首都へ向かう道すがら、蛮姫の親友である悪魔の子は見た。

 爆発の衝撃波や飛散する硬鱗片や骨片の嵐が、巨獣の鎧を砕き割る様を。

 

 戦場の焦点へ猛進していた麦わらの一味は見た。

 巨腕を切り落とした蛮姫が物理学と重力へ喧嘩を売るように、プラズマジェットを用いて空中で急旋回。怪物の胸部ド真ん中――経穴十二正經の天突へ向かって飛翔する様を。

 

 世界最強を目指す若き剣士は見た。

 両腕にブレードを装着したモモンガ女が、巨獣の身体を貫通する様を。

 

 王女は見た。

 怪物の貫通創が沸騰爆発して鱗と血肉がまき散らされる中、鮮血に染まった魔女が宙を舞い躍る様を。

 

 

 体幹の急所を穿ち貫かれた巨獣が崩れ倒れた。大量の砂塵が立ち昇り、一陣の暴風が吹き荒れ、戦場が砂色に覆われる。

 

 人々は伝説を見た。

 しかし、伝説はまだ始まったばかりだ。




Tips
ベアトリーゼ
 オリ主。
 後先考えず体力気力を完全に使い切る大暴れ。
 麦わらの一味がいるし、ダイジョーブでしょへーきへーき。

悪魔
 アラブ語でシャイターン。砂の国だからこの方が雰囲気が出るかなって。

魔女
 アラブ語でサーヘラ。砂の国だからこの方が雰囲気が出るかなって。

ホーカス・ポーカス(邦題は『悪魔の呪文』)。
 往年のプログレ・バンド『フォーカス』の曲。
 バチバチのプログレ・ロックにヨーデルを組み合わせた名曲。数年前、映画『ベイビー・ドライバー』の劇中に用いられた。
 同曲が流れるシーンは一見の価値あり。

振動剣
 創作物に頻出する『とてもよく斬れる剣』。
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