彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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セネットさん、佐藤東沙さん、NoSTRa!さん、nullpointさん、誤字報告ありがとうございます。


115:アルバーナ決戦~麦わらの帰還~

 砂塵の渦巻く薄闇に覆われた首都は、混乱と流血が続いている。

 

 首都内各所の国王軍は工作員狩りとクロコダイルの侵入と醜悪な無貌の怪物の襲来で、大混乱に陥っていた。

 南門周辺と中央大通りに展開していた部隊はクロコダイルによって壊滅させられたが、南ブロックの残存部隊が怪物の首都内侵入を防ごうと健気に戦い続けている。

 

 首都東ブロックの部隊は砂嵐に連絡が遮断されたため、工作員狩りに血道を上げていた。

 西ブロックの部隊は南北の部隊が発した応援要請が届いたために移動しており、手薄になっている。

 北ブロックでは王女の命令に従い、王宮前広場から死傷者の後送と退避が始まっていた。

 

 そして、人知れず首都の各所で麦わらの一味とバロックワークス上級幹部達が死闘を繰り広げている。

 

「クソ。頑丈な野郎だ」傷だらけのゾロが口腔内の血を吐き捨てた。

「テメェがそれを言うのか?」

 肉体を自在に刃へ変えられるスパスパの実の能力者ダズ・ボーネズは呆れ顔を返す。幾度刻んでも眼前の剣士は倒れない。己の剣が通じぬというのに心折れることなく戦い続けている。

 ダズ・ボーネズは確実にゾロを殺すべく、両腕を回転ドリルのように変化させた。

 

 

「こんなオカマ野郎に俺の蹴りが……っ!」血を拭いながらサンジが毒づく。

「こんなガキにあちしのオカマケンポーが……っ!」

 他者と瓜二つに化けられるマネマネの実の能力者、ボン・クレーが額の血を拭う。両者の実力は伯仲しており、互いに尋常ならざる痛撃を浴びている。

 ボン・クレーはマネマネの実の力を使い始めた。

 眼前のグル眉小僧が女に手を出せないと分かるまで、あと二分。

 

 

「ウソップ――――ッ!! あの鼻のやつ!! 鼻のやつっ!!」

 ナミは激怒していた。あの長っ鼻タダではおかぬと憤慨していた。新武器クリマタクトがパーティグッズ染みていたことに激昂していた。

「あなた、大丈夫……?」

 体を自在に棘へ変えられるトゲトゲの実の能力者ザラは、蜜柑色の髪の少女の取り乱し振りに同情を覚えたものの、手を抜くことも休めることもしなかった。

 絶体絶命の危機の中、ナミがクリマタクトの“真価”に気付くまで、あと少し。

 

 

「このクソガキ共があっ!」

「ふぉ~~~~~~~っ!」

 小賢しく立ち回る長っ鼻小僧と毛深大男に、モグモグの実の能力者ドロフィーと怪力四番バッターのベーブは焦燥に駆られていた。とっととズラかりたいのにっ!

 

「ペンギンババアとウスノロヤローに、ビックリ犬めっ!!」

「個々ならなんとなりそうだけど……連携を取られると隙が無い……っ!」

 傷だらけになったウソップとチョッパーも、強い焦燥を抱いていた。連れ去られたビビがどんな目に遭わされているか……一刻も早く助けにいかねば!

 

       〇

 

「ポーネグリフ……それがあんたの目的だったのね、ニコ・ロビン!」

 ビビは犯人の動機を突き止めた刑事のように、ロビンを睨む。

「正解よ。御姫様」とロビンが冷ややかな微笑を返す。一周遅れと言いたげに。

 

「ニコ・ロビン。その名には覚えがある」

 コブラがロビンをまっすぐ見つめ、呟くように口を開く。

「数年前に”血浴”を保護した時、彼女から聞いていた。まさかこんなカタチで我が国を訪ねていたとはな……」

「パパ?」ビビは目を瞬かせた。父がベアトリーゼと面会していたなんて、初耳だった。

 

 が、クロコダイルが話の方向がズレたことに機嫌を崩し、口を挟む。

「思い出話に用はねェ。ポーネグリフ。その在処を言え」

 

「ビビを解放しろ。でなければ、何も言わん」

 コブラが時間稼ぎの交渉を試みる。国王軍の増援が整うまで。あるいは娘に強い恩義を抱いているという“血浴”や、ビビをここまで送り届けた海賊達が駆けつけてくるまで。

 

 忠良なる将兵がさらに血を流すだろう。血浴や海賊達も倒れるかもしれない。

 それでも、たった一人の我が子を、ネフェルタリ家唯一の後継者を守り抜かねばならない。

 父であり、王である男が決断した“命の優先順位”。

 

 しかし、

「王よ。俺がなぜお前の娘を攫ってこさせたと思う?」

 クロコダイルはさらりと砂風に身を変え、ビビへ肉薄して王女の胸倉を掴み、手荒に吊るし上げた。

 

「きゃあっ!」「ビビッ!」

 悲鳴を上げる娘。叫ぶ父。

 冷酷非情な砂の魔人が狼狽する王をせせら笑う。

「交渉できる立場だと思ってるのか? まずお前の娘が干からびていく様を見せてやっても良いんだぞ?」

 

「やめろっ! やめてくれっ!」

 父親として叫ぶコブラを無視し、クロコダイルはビビを締め上げる。

「ミス・ウェンズデー。お前は自分が反乱軍を止めたと思っているようだが、あれは“たまたま”小物海賊と野良犬が首を突っ込んできた結果だ。何より……反乱を止めたところで、この国の滅びそのものは止まりゃしねェ」

 

「負け惜しみをっ! 何度だってこの国を守ってみせるわっ!!」

「可愛げのねェ女だ」

 クロコダイルは舌打ちし、ビビを吊るし持ったまま王宮の胸壁の上へ移り、

「見ろ、御姫様」

 眼下の光景を王女へ見せつけた。

「お前と同じようにこの国を守る、お前ら親子を守るとほざいていた連中はあのざまだ」

 

 砂塵の躍る薄闇の下。王宮前広場と南門から王宮へ続く中央大通りは、砂の魔人に蹂躙され……国王軍将兵の屍山血河が築かれていた。血に塗れた者達の中には、見知った顔が幾人も居る。

 増援として到着した将兵が生存者を捜索し、救護し、そして、クロコダイルを討つべく王宮正門を開けようと悪戦苦闘していた。

 

「――チャカ! みんな……っ!」

 あまりの惨状に、反射的にビビの涙腺が決壊しかける。

 

 王女の悲嘆が聞こえたのか。国王軍将兵は胸壁に立つ仇敵と、仇敵に吊るし上げられた姫君の姿に気付き、血相を変えた。

「ビビ様だっ!」「ビビ様っ!」「ビビ様が人質に!!」「おのれ、奸賊めっ!!」「門をこじ開けろっ! 急げっ! ビビ様をお救いしろっ!!」「増援を呼んでこいっ! 今すぐだっ!」

 

 騒ぎ始めた国王軍部隊を見下ろし、クロコダイルは嘲り笑い、

「見ろ。お前のために国王軍がぞろぞろ集まってくるぞ。吹き飛ばされるとも知らずにな。言い換えるなら――」

 ビビの心を抉るように、告げた。

「お前のせいで奴らは死ぬ」

 

「―――――っ!!」

 ビビは囚われの身となった己の非力が恨めしく、忠勇な将兵を侮蔑する眼前の男が憎くて仕方ない。

 

 そんなビビに追い打ちを加えるように、クロコダイルは目線を動かし、砂塵の舞う薄闇の先。南門の付近を顎で示す。

「それに……見ろ。アレを」

 ビビが悔し涙が溢れかけた碧眼を向ければ。

 

 南門の辺りで激しい戦闘交響曲が奏でられ、戦士達と怪物の合唱が響いてくる。銃砲の発射炎がいくつも煌めき、爆炎がいくつも咲き、稲妻が幾筋も走り、新たな粉塵と爆煙が砂色の闇を濃くしている。

 

「砲撃でふっ飛ばす予定とはいえ、“俺の”街を気前よくぶっ壊してくれやがる……聞けば、あの化物は“血浴”を追っていたそうじゃねェか。お前が野良犬を引っ張り込まなきゃあ、あの化物が首都(ここ)を襲うことは無かったろうよ」

 クロコダイルは爬虫類染みた笑みを浮かべ、

「分かるか? お前が兵隊共を犬死させ、お前がこの街をぶち壊した。守る守るとほざくお前こそが、この死と破壊を生んだんだ」

 ビビの心を食いちぎっていくように、言葉を重ねていく。

 

「まったく、この国の奴らは良かれ良かれと善意で最悪へ突っ走るマヌケばかりだな。いくら笑えるつっても、流石に食傷気味だぜ」

 ついにビビの碧眼から一筋の涙が流れ、

「お前は何一つ成し遂げちゃいねェ」

 魔人は残酷に宣告し、無言で悔し涙を流す王女をぶら下げるように胸壁の外へ突き出し、

「そして、何一つ成し遂げられねェまま、くたばる絶望を噛みしめろ」

 

「やめろ―――――――――――――っ!」

 父親の絶叫を背に聞きながら、手を放した。

 

 ビビの華奢な体が数十メートル下の地面へ向かって落ちていく。

 空を飛べぬビビに重力へ抗う術はなく。それでも、16歳の少女は仇敵に悲鳴を聞かせるものかと迫る死の恐怖に耐え、固く食いしばる。

 その健気な勇気と悲愴な覚悟を、魔人が嘲笑する。

 

 刹那。

 首都の空を覆い尽くす砂塵が穿ち貫かれ、天から注ぐ一条の光が首都を満たす砂色の闇を切り裂いた。

 薄闇の中に架けられた細い天使の梯子。その光の中を一つの影が疾風のように駆け下りてきて――

 

「クロコダイル―――――――――――――――――――――――ッ!!」

 隼の背に乗った麦わらの少年が雄叫びを轟かせた。

 

「ルフィさん……っ!」王女は歓喜を溢れさせ。

「麦わらっ!?」魔人は驚愕に顔貌を強張らせ。

 

 大きな隼はたちまち落下中のビビに追いつき、ルフィはビビをしっかりと抱き止めた。

「間に合ったっ!!」

 

 着衣を血に染めたルフィにしがみ付きながら、ビビは息も忘れて矢継ぎ早に言葉を並べていく。

「ルフィさん……っ! ペル……ッ! パパがクロコダイルに捕まってて、それに広場が砲撃されるって、あと、あと、あの怪物が街を襲ってて、このままじゃ」

 

「もう大丈夫だ」

 半狂乱になっていたビビを、ルフィは一言で落ち着かせた。

 

「演説。聞いてたぞ。反乱軍を止められたんだな」

 ニカッといつものように笑い、ルフィは言った。優しく慈しむように、誇らしい仲間を褒め讃えるように。

「頑張ったな、ビビ」

 

 碧眼から先ほどまでとはまるで違う感情によって涙が溢れ、ビビはただルフィに強く強く抱きついた。そんなビビをあやすように抱きしめ返し、ルフィは王宮の胸壁に立つ“敵”を睨み据えた。

「今度は俺の番だ」

 

       〇

 

 王宮正門前の長階段の麓へビビが降り立つと、将兵の群れがすぐさま駆け寄ってくる。

 大きな隼が精悍な男性――護衛隊副長ペルの姿に戻り、兵士達が安堵の息を吐く。

「ビビ様、御無事でよかった……ペル。よくビビ様をお救いしてくれたな……」

 そこへ、兵士達の肩を借りたチャカがやってくる。大量の血を失ったせいか、勇壮な顔が土気色に染まっていた。

 

「チャカっ! 無理しないでっ!」

「――チャカッ! すまない、遅くなったっ!」

 護衛隊隊長代理を案じる王女と、盟友に詫びる隼の騎士。

 

「ビビ様は今すぐ避難を。あの邪悪は我らが命に代えても討ち果たして――」

 チャカがビビに安全な場所へ移るよう進言したところへ、

「ワニは俺がぶっとばすっ!」

 空気を読まない男モンキー・D・ルフィが朗々と叫ぶ。

 

 ルフィのことを知らないチャカは反応に困る。ペルと共に現れ、ビビ様を救ったあたり、敵ではないようだが……武器は持っていないし、なぜ背中に樽を背負っている?

 他の兵士達も困惑を浮かべ、説明を求めるような視線をペルへ向ける中、ビビが能う限りの大声を張り上げた。

「聞いてっ! ここが、皆が強力な砲弾で狙われてるのっ! それに、怪物が街を襲ってるっ! だから」

 

「超カルガモ、一騎来ますっ! カルーですっ!!」

 兵の報告と前後するように、傷だらけのカルーが人垣の合間を通ってビビの許へやってきた。体を赤黒く染め、シュマグを目深に被った長身の女性を背に乗せて。

 

「ベアトリーゼさんっ! カルーっ!」

 破顔するビビに対し、

「騎乗より失礼します。ビビ様」

 ベアトリーゼは騎士のように礼儀正しく一礼し、ビビの傍らに立つルフィをからかう。

「酷い様だね。ワニ公の相手、代わろうか?」

 

「代わらねェよっ! ワニは俺が絶対にぶっ飛ばすっ!」とルフィが挑むように切り返す。

 

「任せるよ」

 くすりと柔らかく微笑み、ベアトリーゼはビビへ告げた。

「ビビ様。あの腐れ化物を討滅すべくアラバスタ軍とビビ様の御力を拝借したくあります」

 

「ベアトリーゼさん、クロコダイルと怪物だけじゃないのっ! すごく危険な砲弾でこの広場が狙われて」

「ああ。それは問題ありません。これから制圧しに向かいますし、あの化物を仕留めるために利用しますから」

 ビビの言葉を遮り、ベアトリーゼはしれっと言った。

 

「え?」とビビは目を点にした。理解が追いつかない。「え?」

「既に我が軍があの怪物とは交戦中だが」と戦闘騒音が絶えない南門へ目線を向けるチャカ。

 

「アレは真っ二つに両断しても、心臓をぶち抜いても死なない面倒臭い奴だ。通常の銃砲では殺しきれない。

 だから、ワニ公の砲弾を利用する。

 その際、そちらのゾオン系の能力者殿にはこの王宮前広場から人払いを。飛行種の能力者殿は人払いが終わるまで化物を留めた後、この王宮前広場へ誘導を願います。その後は私が始末をつける」

 チャカとペルを一瞥し、ベアトリーゼはビビへ目線を移す。

「それから、ビビ様。反乱軍の一部が君らに助太刀しようとしています。今、“余計な”手が入ると厄介なことになります。ビビ様なら彼らを留めることが出来るでしょう。説得をお願いします」

 

 ベアトリーゼはどこかおどろおどろしい雰囲気をまといながら、淡々と言葉を編み終えると、

「行こう、カルー」

「くえっ!!」

 返事も待たずにカルーの手綱を握って走り出した。

 

 呆気にとられるビビ。事態が呑み込めないチャカとペル、国王軍の皆さんが困惑する中。

「なっはっはっは! あいつ、ほんとーに悪いこと考えるの得意だなっ!」

 ルフィが太陽のような高笑いを響かせ、ビビへ悪ガキの笑顔を向けた。

「いーじゃねーか。俺はワニをぶっ飛ばして、あいつはバケモンをやっつけて、ビビは反乱軍を守ってよ。て……て……テキザイテキショー? って奴だ!」

 

 笑顔を引き締め、どこかバツが悪そうに鼻先を掻きながら言葉を編み、

「悪ィな。ビビ。約束したのに、ワニにいっぺん負けちまったんだ。だけど、いっぱい肉食ったし、血もモリモリだし、もう負けねェ。今度こそワニをぶっ飛ばしてくるからよ。ビビも任せたぞ」

 麦わら帽子を被った未来の海賊王は、未来の女王を真っ直ぐに見つめた。

 

「――うんっ! 任せてっ!」

 ビビは熱いものが込み上げた目元を拭い、周囲へぐるりと見回してから、声を張り上げる。

「皆にも王女として命じますッ!」

 

 その凛とした佇まいと一喝は全将兵の背筋を伸ばさせた。

「皆の戦いはもはやこの場に非ずっ! 今日を生き抜き、明日より始まる祖国再建の戦いに備えよっ! ……もう誰も、誰も死なないでっ!!」

 この場に参集したアラバスタ王国全将兵が心を打たれ、身を震わせ、確信を抱く。我らが命を懸けて守らんとしたものは、やはりこの国で最も尊きものだったのだと。

 

 シシシ、とルフィは笑う。友達の晴れ舞台を見たように心から嬉しそうに。

「よしっ! 俺は行くぞっ! じゃあ、“また後で”な!」

 ビビが見送りの言葉を掛けるより早く、ルフィはゴムゴムの実の力を使い、王宮へ向かって勢いよく飛翔した。

「ワ~~~~~~ア~~~~~~~ニ~~~~~イ~~~~~~~っ!!」

 

「学ばねェ野郎だ……っ!」

 胸壁に立つクロコダイルは眼下からロケットのように突っ込んでくるルフィを睥睨し、心底腹立たしげに顔を歪め、その身をさらさらと砂に変えていく。

 

 が――

 物理的に捉えられぬはずの砂の魔人の横っ面を、ゴム人間の鉄拳が打ち抜いた。

 

「な―――っ!?」

 久しく味わっていなかった痛みは、クロコダイルにダメージよりも驚愕を与えていた。

 

 人間如きと嘲笑った砂の魔人は、失念していた。

 純粋な生物としては犬にすら勝てない人類が、なぜ強大な獣達や過酷な自然に屈さずに霊長の座へ至れたか。

 

 それは経験から、あるいは学習から、対抗策を生み出す知恵を持っていたからだ。

 

 如何なる獣よりも。過酷な自然よりも。

 人間の方がよほど恐ろしいことを、砂の魔人は思い知る。

 

     〇

 

「御苦労さん、カルー。ここはもう良いから、ビビ様と合流しに行け」

 ベアトリーゼは王宮前広場に臨む大時計塔の前で降り、

「くえ?」

 小首を傾げるカルーの頭を優しく撫でる。

 

「一人で大丈夫かって? 問題ないよ。気遣いありがとな。ほれ。もうお行き」

 カルーを見送り、ベアトリーゼは時計塔の固く閉ざされた扉を蹴破り、億劫そうに階段を上っていく。

 

 疲労と消耗と渇きと空腹で足取りが重い。というか、まっすぐ歩けない。体がふらつくし、酔っ払いみたいな千鳥足。階段の段差に殺意が湧く。体力が消耗しきっているためか、眠気が酷く視界がぐにょんと歪んでる。

 

 疲れたし、だるいし、喉が渇いたし、腹が減ったし、眠てェし……ほんとーならビール片手に主人公様御一行の活躍を見物してるはずだったのにっ! 全部、あのクソ化物のせいだ。二回もぶっ殺したのに。しつこいわ、邪魔臭ェわ、面倒臭ェわ。マジでムカつくっ!

 

 ベアトリーゼは心が荒み過ぎて目つきがヤバい。

 ぶっ殺してやる。今度こそ確実にぶっ殺してやる。念入りにぶっ殺してやる。

 

 怨霊染みた気配を漂わせながら最上階まで昇り切り、ベアトリーゼはドアを開けた。

 直後。

 二つの銃声が響き、ベアトリーゼは大の字に倒れる。

 

「ゲーロゲロゲロ。気配駄々洩れで待ち伏せし易いったらなかったわね、ミスター・7。ゲーロゲロゲロ」

「オホホホ、そのトーリだね、簡単な待ち伏せってスンポーだったね、ミス・ファーザーズデー。オホホホ!」

 蛙コスプレ女と垂れ目垂れ眉男が笑う。

 砲弾をぶち込む役目を仰せつかった現ミス・ファーザーズデーとミスター・7の狙撃手ペアだ。

 

「いってーな」

 武装色の覇気で漆黒に染まったデコから被弾の煙を昇らせつつ、ベアトリーゼはむくりと立ち上がり、冷酷の極致に達した眼差しで色物男女を見据えた。

 

「ゲロッ!?」「オホッ!?」

 2人が吃驚を上げ、慌てて銃を向ける。

 が。如何に衰弱しているとはいえ、虫けらが獅子に勝てる道理もなく。

 

 ベアトリーゼはコスプレ女の首を野菜のように斬り飛ばし、垂れ目垂れ眉男の頭を西瓜みたく殴り砕いた。

 一瞬で2人を抹殺し、苛立たしげに毒づく。

「邪魔臭ェんだよ」

 

 火砲に触れ、見聞色の覇気で構造と砲弾を調べる。

 最上階には馬鹿馬鹿しいほど巨大な大砲が据えられていた。導火線を用いて発射薬に直接着発するらしい。

 

 特大の砲弾は火道式信管式。中身の爆薬は低感度でえらく化学的安定性が高いようだ。アホ共が扱って事故が起きないよう気を遣ったのか。まあ、何でもいいが。

 

 原作ではビビに絶望を与えた時限式起爆機構にしても、単なるゼンマイ仕掛けだ。ベアトリーゼには稚拙な玩具に等しい。あっさり解除完了して信管を引っこ抜く。

 

「よーし。待ってろよ、クソヤロー」

 ベアトリーゼは口端を大きく歪めた。

「跡形もなく消し飛ばしてやる」




Tips
ワニさんのビビ虐め。
 原作と違って国王軍と反乱軍が激突していないから、ちょっと違う感じに。

クリマタクト。
 ウソップ驚異の技術力。本人が無自覚な所がなお恐ろしい。

ベアトリーゼ。
 ヨレヨレだけどブチギレまくり。
 ちなみに、追いかけてきてる化物の素性は一切知らない。

時計塔の特大砲と砲弾
 どーやって持ち込んだんや、という疑問は野暮。
 作中描写から察するに、構造は前時代的っぽいから、砲弾の時限装置とやらも大したことなさそう。

低感度で高安定性。
 たとえば、プラスチック爆薬がこれ。ハンマーで殴っても、銃で撃っても、燃やしても爆発しないゾ。起爆薬か通電させてやっと爆発するゾ。
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