彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
全身刃物男の一撃は、勢い余って近場の建物までぶった切った。
積み木が崩れるように倒壊する建物。がらがらと降り注いでくる大量の瓦礫。刃物男にぶった切られたゾロは避けられない。
否。ゾロは避けない。
自身でも説明がつかないが……ゾロは“見えて”いた。下手に動かなければ、瓦礫の方が自分を避けていくと。普段なら気の迷いと鼻で笑うところだ。
しかし、師の教えを思い出し、その意味をようやっと解した今は違う。
感覚を信じた通り、全ての瓦礫がそれこそ微細な石片までもが、ゾロをかすめることすらなく、落着した。
師が語った“何も斬らぬ剣”。その極意はいまだ掴みかねる。ただ、ゾロは巻き上がった粉塵に眉をひそめつつ、小さく頷く。
なるほど。“そういうこと”なのか。
ゾロは驚愕している全身刃物男へ向き直った。刃物男がどうやってかわした? と問い詰めてくる。
再び小さく頷く。こいつは分かってねェ訳か。
この全身刃物男は剣士ではなく拳士。剣と格闘では術理も全く異なろう。だが、同じく武の術。差異は大きくとも根底は似通うはず。であるなら――
胸中に湧きあがった確信に、ゾロは自然と口端を吊り上げた。肉食獣が相手を威嚇するような猛々しい笑み。
瓦礫に呑まれた雪走と三代鬼徹の回収は後回しで良い。今は相棒――親友の形見たる愛刀、和道一文字だけで釣りがくる。
愛刀を腰の鞘に収め、ゾロは抜刀術の構えを取った。
「来いよ、刃物男。これで終いだ」
「ほざけっ!」
全身刃物男がゾロを仕留めに迫りくる。
いつかと同じ状況。あの時の相手はモモンガ女だった。本能が死を警告するほどの圧力だった。歯牙にもかけられなかった。全力の抜き打ちを容易く防がれ、左腕をへし折られた。
さて、此度は?
「今度こそ死ね、小僧っ!」
全身刃物男が剛腕を刃に変え、振りかぶる。
「一刀流『居合』――」
ゾロは放つ。
「
その一閃はあらゆる挙動が極限まで鋭く研ぎ澄まされていた。
抜刀して鋼鉄と化した全身刃物男を斬り、太刀傷から血が噴き出すより早く納刀されるほどに。
袈裟に斬られた全身刃物男が崩れ落ちる中、ゾロが抱いた感慨は勝利の達成感や成長の実感ではなく。
「……今なら、あのモモンガ女に一泡吹かせられるか?」
そんな疑問だった。
砂漠衣装は脱ぎ捨てて、踊り子衣装はあちこち裂けたり破けたり。
たおやかな体はあちこち埃塗れで砂塗れで、珠のお肌は細かな傷だらけで痣だらけ。刺された右肩と貫かれた右足、瓦礫に噛まれた左脛の痛みは酷くなる一方。
だけど、ナミの美貌はまったく損なわれていない。
長棍を振るいながら全身棘女と渡り合う姿のなんと凛々しく、美しいことか。
ベアトリーゼ仕込みの長棍術はしょせん素人に毛が生えた程度。しかし、全身棘女の攻撃から致命傷を防ぐには十分。
そして、クリマタクトの真価を理解し、使いこなし始めたナミにとって、防御が叶えば十分。
自分の身を守りつつ、天性の感覚と精妙な計算に基づいてクリマタクトを振るい、“それ”を育てていく。
もっとも、全身棘女にしてみれば、ナミがパーティグッズを振り回して宴会芸を繰り返しているようにしか見えず。
「宴もたけなわ。そろそろ覚悟を決めなさい」
「確かにそろそろ良い頃合いね」
ナミは不敵に微笑む。虚勢ではない。自然と生じた勇猛な笑みだ。
「ねえ」ナミは尋ねる「あんた、能力者よね。海岸線をふっ飛ばしたり、砂の大巨塔を作ったり、みたいなこと出来るの?」
「あなたね、悪魔の実の能力者を怪獣か何かと思ってない? 社長や血浴みたいなのは、本当に例外なの。あれを基準にしては駄目。悪魔の実の能力者だって傷つくんだから」
全身棘女が幼い子を諭すように答えた。
「そ、そう……覚えておくわ」
なんとなく悪いこと言ってしまった気分になった。気を取り直して、ナミは告げる。
「ベアトリーゼやクロコダイルみたいなことが出来ないなら……あんたの負けよ!」
「あの二人と一緒にされても困るけれど、私を宴会芸で倒せると思うのは、舐め過ぎではなくってっ!」
憤慨した全身棘女がボンキュッボンな体をウニのように棘で覆い尽くし、ナミへ襲い掛かる。
が。
「!?」
全身棘女は驚愕する。ナミを捉えたはずの一撃は空を切り、貫いたはずのナミの姿が消失してしまったことに。
まるで蜃気楼でも見せられたような感覚に全身棘女が戸惑い、一瞬の停滞が生じる。
育て上げた“それ”に、ナミが電気泡を加えるに十分な隙。
「完成ッ!」
長棍を構え、ナミは全身棘女に向かって“それ”を解き放つ。
「トルネード・テンポッ!!」
熱気と冷気と電気で作り上げられた超限定空間的な帯電乱気流。東洋に暮らす古の人々が“龍”と呼び恐れた気象の暴威が、全身棘女を呑み込み吹き飛ばした。
荒れ狂う大気のうねりと静電気の炸裂音が棘女の悲鳴を掻き消し、乱流と圧力の衝撃と電撃の暴虐が棘女の体と精神を打ちのめし、意識を刈り取った。
想定していた以上の威力にナミは目を瞬かせつつ、クリマタクトの中から落っこちたヒヨコの人形を見つめ、うん、と小さく頷いた。
「ウソップの奴、とっちめてやる」
「ウソップ。その有様でよく生きてるな。ホントに人間か? 実は魚人とかじゃねえのか? 隠さなくても良いんだぞ?」
マネマネの実の能力者のオカマ拳法家を倒し、戦利品に小さな友情を入手したコックが、砂と血に汚れたジャケットから煙草を取り出しながら、狙撃手に問いかける。しかも優しい口調で。
「人間だよバカヤローッ! だいたいオメーだって 人のこと言える様かっ! ボッロボロじゃねーかっ!」
エロラクダの背に乗せられたウソップが憤る。
モグラおばさんとウスノロバッターと面白ワン公との戦いを制した長っ鼻は、サンジの指摘通り、ギッタンギッタンのケッチョンケッチョンのズタボロだった。
モグラおばさんに散々ぶっ飛ばされ、ウスノロバッターのフルスイングを叩き込まれ、面白ワン公に何発も爆弾を食らわされた。顔面は内出血で腫れ上がり、シンボリックな長っ鼻がひん曲がり、体中が傷だらけ。チョッパーの応急手当で巻かれた包帯でミイラ男と化している。
ちなみに頭蓋骨にもヒビが入ってる。しかも一番堅い額部分に。普通なら、急性クモ膜下出血で重体待ったなしだが、タンコブが出来ただけだ。本当に人間かな?
「サンジ! ウソップは凄かったぞッ! なんかもういろいろ凄かったっ!」
エロラクダの頭に乗っかった小柄なトナカイが、目をキラキラさせながら言った。
ウソップと共に、モグラとバッターとワン公を倒したチョッパーも傷だらけだ。自慢の毛皮は血と砂と爆煙で真っ黒に汚れ、ところどころ焦げている。トリミングしたい。
それでも、攻撃がモグラおばさんのヘイトを稼ぎまくったウソップに集中した関係で、チョッパーはウソップほどボロ雑巾じゃない。
「俺は感動したぞ! ウソップに人間の生命力の神秘を見たっ!」
「活躍に、じゃねえんだな」
チョッパーが感銘を受けたベクトルにサンジが思わず笑い、イテテと顔をしかめた。
余裕ぶっこいて煙草を吹かしているけれど、サンジも中々にボロ雑巾だ。
オカマ拳法家は色物の極地みたいなナリとは裏腹に、赫足ゼフ譲りの蹴り技を使うサンジと互角の実力を持っていた。おまけにサンジが女へ手を出さないと分かるや、マネマネの実でナミに化けるという小細工まで仕掛けてきた。おかげで、ドラム王国で治療した背骨やらなんやらが再びガッタガタ。
癪に障る話だが、手強かった。純粋な格闘でここまでボコられたことは初めてだ。
「怪我を診ようか?」船医が案じる。
「ありがとうよ。でも、今は良い。ことが終わってから頼むぜ」
サンジはチョッパーの頭を撫でて、煙草を吹かす。体が軋んで激痛が走るが、表には出さない。伊達の本質は我慢だ。
「ァイッダァッ! オィ、マツゲェッ! もっと優しく運んでくれっ!」
我慢する気が欠片もない長っ鼻が、涙目でラクダにクレームを訴えた。
かくして、バロックワークスの上級幹部達をぶっとばした麦わらの一味は、王宮を目指して進んでいく。
道中。コックと狙撃手と船医に、副船長と航海士が合流する。ゾロがナミをおぶっていたことにサンジが嫉妬を爆発させたり、ナミがクリマタクトの件でウソップをツメたり、と賑々しい。
誰一人として、クロコダイルの言葉――船長の死を信じてないし、引きずってもいない。
……だって、ほら。
「逃がさねェぞ、ワニ――――ッ!!」
砂色の薄闇から聞こえてくる。
我らの船長の雄叫びが。
〇
「なるほどな。こりゃ探しても早々見つかりそうにねェ」
葬祭殿の地下廟を見回しながら、クロコダイルは嫌みっぽく感嘆を告げる。
荘厳な一室の中央に鎮座する巨大な立方体――ポーネグリフの前に立つロビンへ問う。
「俺にゃあ奇妙な模様にしか見えねェが……読めるな?」
「ええ」ロビンは首肯し「もう解読も済んだ」
「読んでみせろ」
クロコダイルの命令に、ロビンは首肯して読み上げる。
「アラバスタを統べていく後の王達へ告ぐ」
「――」クロコダイルは眉をひそめる。
「……」コブラが片眉を上げた。
「プルトンを求めてはならない。斯くも恐るべき兵器はアラバスタに必ずや不幸と災厄をもたらすであろう。国を守り、栄えさせ、幸福をもたらすものは兵器ではなく、王の治世、民の結束である」
「待て待て待てっ! なんだそりゃ」クロコダイルは眉間に皺を刻み「そんな与太話はいい、プルトンの在処は?! 古代兵器はどこにあるっ!」
「在処どころか手がかりすら、一切書かれてない」
ロビンは無慈悲ですらある声色で告げた。内心にある共同事業者への“気配り”を一切見せずに。
「これはアラバスタ王国の先祖から子々孫々への遺訓ね。珍しいことじゃないわ。ポーネグリフには個人への私信みたいなものすらあるの。これはまだマシな方よ」
「ふざけるなっ!」
クロコダイルは額に青筋を浮かべ、激昂した。
「この石ッコロのために、どれだけ時間と金と労力を注ぎこんだと思ってやがるっ!」
「……ねえ」
ロビンは半ば取り乱している魔人へ、静かに問いかける。
「このポーネグリフの存在はアラバスタ王家のみ、それも王と後継者の間だけで伝承されてきた。そうそう外部に漏れるはずがない。ずっとポーネグリフを追ってきた私でさえ、知らなかった。貴方はどうやってアラバスタのポーネグリフの存在を知ったの? いえ」
5年前。キューカ島の喫茶店。クロコダイルが接触してきた時から、抱いてきた疑問。
「“誰”から聞いたの?」
クロコダイルはハッとした。
大海賊白ひげに敗れて左腕を失い……新世界を去るまでの日々と、王下七武海となって政府に与するようになってから、クロコダイルは多くを知った。
政府によって、秘められた歴史や消された真実、隠蔽された出来事や事件、そして。
歴史の闇に潜む者達。
「――“奴ら”、俺をハメやがったのか」
〇
たしぎはジャケットの襟を強く噛みしめ、へし折られた腕を強引に伸ばす。
筆舌にし難い激痛が全身を突き抜けた。視界が明滅し、涙が溢れ、胃がひっくり返る。根性でせり上がった反吐を呑み込み、震える左手で骨折部に添え木を当て、拾ったボロ布を不格好に巻いていく。
痛みを堪えながらなんとか応急措置を終え、深呼吸を繰り返す。周囲の部下達はいまだ失神昏倒したままだ。
砂色の薄闇が支配する首都内はいくらか静けさを取り戻し、王宮前広場と東ブロックの辺り以外からは戦闘騒音が聞こえてこない。
事態は動いているようだ。自分達など視野に収めずに。
悔しすぎて、涙も出ない。
ニコ・ロビンに容易く一蹴され、続いて現れたクロコダイルに『テメェら雑魚は基地で正義の“話し合い”でもやってろ』と嘲われ。
最大の悔しさは、先ほどやってきた麦わらのルフィに、ニコ・ロビンとクロコダイルの行き先を教えてしまったこと。
海賊を利用したと言い訳することも出来るだろう。重傷を理由にすることも出来るだろう。
しかし、たしぎの矜持と尊厳がそんな自己欺瞞を許さない。
海賊を頼らねばならないほど自分が弱いことが、力がないことが悔しくて悔しすぎて、死にたくなるほど自己嫌悪に襲われている。
だが、自己嫌悪に甘えてなどいられない。
たしぎは腰を上げ、部下達の手当てを始める。
どれだけ情けなくても、悔しくても、やるべきをやらねばならない。
〇
ベアトリーゼにとって大概の戦闘行為は目的を達成するための作業に過ぎない。
作業である以上、効率重視。最適で最速で最善で最良の手段を選ぶ。
理想は一方的な狩り。一方的な処刑。一方的な駆逐掃討。一方的な虐殺だ。初見殺しこそ大正義。相手に合わせてドンパチチャンバラなんて面倒臭ェだけ。
よって、王宮前広場で繰り広げられた戦闘を正しく表現するなら。
解体作業だ。
しなやかな肢体が華麗に舞う度、荒々しく拳打足蹴が放たれ、怪物の肉が潰れ、砕け、千切れる。
たおやかな身体が美麗に躍る度、猛々しく刃が振るわれ、怪物の肉が裂かれ、貫かれ、抉られる。
疲れきり、渇き餓えても、蛮姫の動きは翳らない。むしろ肉体的限界が一挙手一投足を研ぎ澄ましてさえいる。
醜い怪物は悲鳴を上げながら苦痛に身を悶えさせ、怒号を発しながら四肢や触手を振り回す。しかし、叫喚と共に繰り出す攻撃は蛮姫をかすめることすら能わず。
限界を迎える度、傷ついた肉体を棄てて新たな身体の再構築を繰り返す。が、その体は徐々に小さく貧相になっていく。現れた時は巨人ほどもあった体躯も、再構築を重ねた今では、半分ほどにまで小さくなっていた。
砂色の薄闇の下、広場には砂塵と怪物の血肉が混じった赤黒い泥が広がっている。脱皮のように放棄された肉体が転がり、血肉や四肢が散乱する様は、悪夢そのものだ。
魔女と悪魔の凄惨な戦いに、ビビや国王軍将兵達はもはや言葉もない。
全身を再び血で染めたベアトリーゼは、真っ赤に濡れたシュマグの奥で鼻息をつく。
「10メートルくらい? そろそろ良いか? いや、確実にぶっ殺したいしなぁ……もうちょい小さくした方が良いか? ああ、面倒臭ェ」
ダマスカスブレードを装着した腕が重くてだるい。体に付着した返り血と砂塵が混じり合って気持ち悪い。シャワー浴びたい。風呂入りたい。酒飲んで飯食って、綺麗なシーツのベッドで寝たい。
そんな気だるい心境を逆撫でするように、醜悪な無貌の怪物が血と共に怨嗟を吐く。
「えぁとりぃいいいえええええええ……っ!」
「まったく……お前、どこの負け犬だよ。ここまで恨みを買う覚えは……まぁ、あるけどさぁ。お前みたいな化物に心当たりなんてねーよ」
ベアトリーゼが疎ましそうに悪態を吐けば。怪物は無貌の双眸を憤怒に血走らせる。
「おぁえ、おえがあえあか、あああぃおああ……っ?」
「何言ってんだかわっかんねーよ。てめーの母親だって、その面みたら首を傾げるだろーよ」
「あぉ……」
何気なく吐いたベアトリーゼの悪態に、怪物は歪み曲がった両手で自らの無貌をねちゃねちゃと撫で回し、ぶるぶるとウジ虫めいた体躯を震わせる。
「お……おれのかお……」
ようやっと声帯がまともに機能し、怪物が最初に口にした言葉は。
「おれのかおが、かおがおもいだせなぁいいいいいいいいっ!」
悲憤に満ちた慟哭だった。
「知らねーよ。そんなこと」
怪物の悲愴な叫喚を蹴飛ばし、ベアトリーゼはアンニュイ顔で吐き捨てる。
「ほんと、邪魔臭い奴」
〇
クロコダイルは大きく深呼吸し、気を鎮める。
ニコ・ロビンの解読が事実なら、プルトンはこの国にはない。コブラの反応は、ポーネグリフの内容からプルトンの存在と危険性は知っていた、ということに過ぎないのか。
天井を見上げ、クロコダイルはもう一度ゆっくりと深く静かに息をする。
まったくもって散々な一日だ。
数年掛かりの大謀略を最後の最後で小物海賊と野良犬に引っ掻き回され、小娘にひっくり返された。それでも、と足掻いてようやっと本懐に手が届いたと思えば、このざまだ。
この数年は何だったのか。全く無意味だったのか。全くの無駄だったのか。
いや。違う。
自分は証明した。世界政府加盟国有数の大国であろうと奪い取れる、と。
ノウハウは手に入れた。“次”はもっと上手くやれる。
そう。次だ。ここでの仕事はしくじったが、なんてことはない。役立たず共と王下七武海という下らない肩書を失くしただけだ。
新世界で左腕を失った時に比べれば、屁でもない。
いち海賊に立ち戻って、金も物も手下も力で得れば良い。自分にはそれが出来る。
「と、なれば……お前ら二人にはここで死んでもらうか」
大きくゆっくりと息を吐き、クロコダイルは冷めきった目でコブラとロビンを睥睨した。
「……っ!」コブラ王は眉間に皺を刻む。
「そう来ると思ったわ」
ロビンは特に驚きもしない。元より信用も信頼もない打算と利害の協力関係だ。
「それなりに感謝してるぜ、ミス・オールサンデー。お前は実に有能で有益な共同事業者だったからな。お前を殺す理由は別にプルトンが見つからなかったからじゃねェ」
クロコダイルは淡々と告げた。
「俺がこの国を脱し、身代を立て直す時間稼ぎに、お前らの死が好都合だからだ。大国アラバスタの王と政府が20年に渡って追い続けるオハラの生き残りが、揃って“行方不明”になりゃあ、政府と海軍はそっちに注力しなきゃならねェからな」
「奇遇ね」ロビンは柔らかく微笑む。「同じこと考えてたの」
「俺に勝てるとでも?」クロコダイルが目を細め、殺気を放ち始める。
「あら。麦わらの彼が証明したじゃない」
両手を胸元で交差させ、ロビンは自身の背中と両肩から腕を生やし、それぞれの腕がコートの内側や腰に巻かれたベルトのパウチから、ナイフと小さな水筒を抜き取る。
「濡らせば、貴方を殺せるって」
「可愛げのねえ女だ」
小さく頭を振り、クロコダイルは控えめに嘆息した。
Tips
麦わらの一味のサンジとウソップとチョッパー。
文字量の関係から見せ場をカット。すまんな。
ロビン。
原作ではアラバスタ王国の年表を口にして誤魔化したが、本作では遺訓をでっち上げた。
クロコダイルとの間に信頼関係は築けなかったけれど、数年の間、世界政府の追手から守られたことも事実。だから、アラバスタにプルトンは無いことをボカして伝えた。
もっとも、その優しさはクロコダイルにとって侮辱だろうが。
クロコダイル。
なんもかんも滅茶苦茶。どうして……どうして……
ベアトリーゼ。
余程の相手でない限り、この女は敵に敬意や同情なんて抱かない。