彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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前回、誤字報告の記載を失念しておりました。申し訳ありません。
118話の誤字報告:佐藤東沙さん、俊矢20000925さん、NoSTRa!さん、金木犀さん、しゅうこつさん、烏瑠さん、誤字報告ありがとうございました。
119話の誤字報告:佐藤東沙さん、誤字報告ありがとうございます。


120:感動シーンの裏側で。A面

 首都アルバーナの大決戦と三年振りの雨が降った翌日のことだ。

 

 アラバスタ東海岸。海軍本部大佐“黒檻”ヒナの戦隊が停泊している港町タマリスクに、ボロッボロになった本部曹長たしぎの部隊が到着。

 たしぎが自身の非力さと無力さと敗北感やら挫折感やらの失意に悔し涙をダバダバ流し、スモーカーに叱咤激励されていた頃……。

 

「知らない天井ね」

 ベッドに横たわるロビンが目覚めた。

 下手に動かず目だけ動かして探る。どうやら病室らしい。胸に走る鋭い痛みに顔をしかめながら上体を起こし、自分の身体を確認した。

 身体は綺麗に拭われ、清潔な患者着を着せられている。胸には包帯が巻かれ、左腕は点滴の管がつながれていた。それだけだ。手錠や何やらの類は無し。

 窓に目を向ければ、カーテン越しでも分かる快晴。

 

 ……と。ドアの外に足音が近づいてくる。状況と習慣から警戒心が生じ、いつでも能力が発動できるよう備えた。

 ノックも無しにドアが開かれ、現れたるは、

「お、目覚めたね。ロビン」

 緑のカットソーとデニムのホットパンツを着たベアトリーゼが、人懐っこい笑みを浮かべる。目の下にうっすらとクマが浮かんでいるけれど、ロビンのように仰々しく包帯などは巻いていない。

 

「ビーゼ」

 ロビンは親友へ控えめな笑みを返し、再び病室内を見回して尋ねた。

「ここは?」

 

「砂漠の診療所。遊牧民とか旅商人とか……盗賊とかを相手に商売してるワルい医者だよ」

 首都アルバーナから些か離れた砂漠。原作において特大砲弾から首都を守った隼の騎士が治療を受けた、小さな診療所。

 

 治療と口止め料でたっぷり毟られたと語りながら、ベアトリーゼはベッドの端に座ってロビンの顔を覗き込み、微苦笑をこぼした。

「胸をがっつり刺されてたのに、翌日には目が覚めて、血色もそう悪くないとか……ロビンも大概だね」

 

「ビーゼ」

 ロビンはベアトリーゼへ淡白に告げた。

「……アラバスタのポーネグリフは外れだったわ」

 

「具体的には?」

「プルトンは“新世界”のワノ国に封印されてるそうよ」

 つまらなそうに続け、ロビンは小さな、だが、失望を宿した嘆息をこぼす。

「“次”のポーネグリフの在処の情報は、このワノ国しかないわ」

 

「そっか」ベアトリーゼはあっさりと「新世界に行くには、いろいろ準備がいるね」

 ロビンは碧眼を瞬かせ、思わず大きく笑い、次いで胸に走った痛みに顔をしかめた。

「新世界は四皇と大海賊達が鎬を削る無法の海よ?」

 

「これまでと変わらないじゃん。なんも問題ないでしょ」

「ビーゼの楽観を聞くのは久しぶりね」

 くすくすと上品に喉を鳴らすロビンに、もう失意や落胆はない。

 

 同時に、今後について考え始める。

 ビーゼとまたリオ・ポーネグリフを探す旅をする。これは“決定事項”。

 

 問題はアラバスタからどうやって脱出するか。国軍と当局はバロックワークス最高幹部の自分を血眼で探しているだろうし、クロコダイルに赤っ恥を掻かされた海軍も躍起になっているだろう。それに数年振りに居場所が政府にバレた。サイファー・ポール辺りが緊急派遣されてくるはず。

 私もビーゼも昔より強くなった。だけど、2人で脱出を試みて、マーケットの時みたいな事態は絶対に嫌。

 

 となると――

 ロビンの脳裏に、太陽のように笑う少年が浮かんだ。

 

     ○

 

 時計の針を少し戻す。

 

 麦わらのルフィがクロコダイルを打破した後、地下廟の崩落がいよいよ深刻な状況になる中。

 ロビンは貫かれた傷口に布を押し込み、なんとか出血を止めることに成功すると、吐血で紅く濡れた歯を食いしばって立ち上がる。

 

 限界を迎えて意識を失ったルフィの許へ向かう。傍らのコブラが警戒心を見せるが、ロビンは気にせず懐から解毒薬を取り出し、ルフィの口へ流し込む。

 

「なぜだ?」

 コブラが問う。

「ゴムなら、瓦礫に埋もれても助かるかもしれない」

 ロビンの回答に眉根を寄せ、王は再度問う。

「違う。なぜ“嘘”をついたのだ」

 

 コブラはポーネグリフの内容を知っていた。そのうえで、完璧に知らぬ存ぜぬを通したのだ。自身はもちろん、一人娘の命が危ぶまれた時でさえも。最初から自分が死ぬつもりで、この地下廟の“罠”へ誘い込むために。

 

「……イジワルな王様ね」

 絶賛に近い皮肉を返し、ロビンは体力を振り絞ってハナハナの実の能力を駆使し、ルフィとコブラを立たせて支え、出口を目指し始める。

「正気か?」コブラは驚き「その傷で我々も連れていくなど無理だ。逃れるなら一人で」

 

「私は諦めない。絶対に」

 ロビンは口から血をこぼしながら、一歩一歩進んでいく。その歩みは亀より遅い。しかし、進んでいく。出口へ向かって。生へ向かって。

「さっきの話だけれど……どのみち、この国にプルトンは無いのだから、彼に真実を教えても意味は無いわ。それに、元々彼にあれを渡す気なんてなかった。私、プルトンが嫌いなの」

 

 血の気に乏しい顔に悪戯っぽい笑みを湛えるロビンに、コブラは言葉を失う。

「……分からんな。ならば、この国を亡ぼす手助けをしてまで、ここに来た理由はなんだ?」

 

「期待したの」

 ロビンは前を向いて歩き続ける。崩落の揺れにバランスを崩しながらも、一歩。一歩。

「プルトンに関わる内容なら、真の歴史を記したリオ・ポーネグリフのヒントもあるのではないか……とね」

 

「真の歴史?」

 コブラもまた残り少ない体力を絞り出し、自ら歩き出す。

「どういう意味だ?」

 

「そのために……ただ歴史を知るために……夢を叶えるために、私は世界の敵になる覚悟を決めたの」

 意識が薄れかけているのか、ロビンはコブラの問いに答えず自分へ言い聞かせるように、言葉を紡ぐ。

「私は絶対に諦めない。約束した相手はビーゼだったけれど……そう。あの日、私はビーゼを通して母と皆にそう誓ったのよ。真実の歴史を知るまで、私は絶対に諦めない」

 

「……!」

 ニコ・ロビンはオハラの生き残り。政府を転覆させる研究をしていたとして焼かれたオハラ。だが、政府が焼く以前のオハラは? 考古学者達が集う学究の島ではなかったか。遠い日の記憶が蘇る。4000年の歴史を持つアラバスタだ。考古学とは縁が深い。歳若き日のコブラも、西の海からはるばるやってきた研究者達を見た覚えがある。彼らの純粋さと学究の熱意は、政府の言い分ととても一致しない。

 であるなら。

「そういう……ことなのか……っ? オハラが焼かれた真の理由は、語られぬ歴史を紡いだから……」

 

 アラバスタ王としてコブラは顔を蒼白にした。

「なんてことだ。ならばなぜ我々は――」

 自問は続かない。ロビンが力尽きたように姿勢を崩し、コブラも引きずられるように倒れ込む。

 

 が。床にぶつかる衝撃は訪れない。

「休んで元気になった。帰るぞ」

 いつの間にか目を覚ましたルフィが、ロビンとコブラを支えていた。ルフィはロビンを左肩に担ぎ上げ、コブラを右脇に抱え込み、ずんずんと歩き始める。

 

「あら。連れていってくれるの?」

 ロビンが蒼い顔で微笑めば。ルフィは大したことでもなさそうに反問する。

「叶えてえ夢があるんだろ? 絶対に諦めたくねえんだろ?」

 

「ええ」と頷くロビン。

「“あいつ”の友達なんだろ?」

「親友よ」と誇らしげに答えるロビン。

「俺の仲間の友達でもあるんだ。仲間の友達なら、お前も俺の友達みてえなもんだ」

「そうなの?」

 

 世間知らずな箱入り娘のように碧眼を瞬かせ、

「麦わら」

「おう」

 ロビンは素直にルフィへ言った。

「ありがとう」

 

「気にすんな」

 ルフィは屈託なく太陽のように笑った。

 

「君らが分からんよ」

 荷物のように抱えられたコブラが思わず苦笑をこぼすと、ロビンも釣られて微笑み、ルフィはいたずらっ子のようにシシシと喉を鳴らす。

 と、ひときわ大きな瓦礫が頭上からやってくる。ルフィが蹴り除けようと、ロビンがハナハナの実を使おうとした矢先。

 

周波衝拳(ヘルツェアハオエン)ッ!」

 瓦礫が一瞬で木っ端微塵になった。粉塵の向こうで、全身を赤黒く染めた小麦肌の美女がアンニュイに微笑んでいる。

「やあ、御三方。迎えに来たよ」

 

       〇

 

 時計の針を戻す。

「そだ。ロビンが目を覚ましたら、聞きたいことがあったんだ」

 考え込んでいたロビンへ、ベアトリーゼが思い出したように言った。

 

 意識を内から戻し、ロビンは頷く。

「何かしら?」

 

「ヒューロンって知ってる?」

 ベアトリーゼは質問に接ぎ穂を加える。

「鶏ジジイんトコの奴が言ってたんだよ。私とヒューロンがどうのこうのってさ。でも、そんな単語、黒い手帳に載ってなかったし、心当たりもないし」

 

 親友の質問に答えるべく、ロビンは意識を内に注ぐ。記憶術で内的世界に築かれた全知の樹大図書館を巡り、書架にある一冊――記憶を見つけてページを開いた。

「ハッチャー日誌に記述があったわ」

 

「おお。流石はロビン大先生」と感嘆を上げておだてる親友。「で、ヒューロンって何?」

「……ごめんなさい、ビーゼ。具体的には分からないわ。文脈から察するに、何かしらの特定集団を表すようだったけれど」

 

「むぅ」ベアトリーゼは眉を大きく下げて唸り、気を取り直して「そっか。まぁいいや。急ぎじゃないし。それより今は身の振り方だ」

「この国を離れる。問題はどうやって、ね」

 ロビンは既に腹案を抱いていたが、まだ提案するには至らない。海賊王を目指す少年の船云々以前に、手元に小銭すらない。この島を出る以前の状況だった。

 まあ、その辺は実に頼もしい相棒がいるから、さほど心配はしてないけれど。

 

「金、物、高飛びの手段」

 ベアトリーゼの意見に、ロビンは懐かしさを覚えながら頷く。西の海でよくこのやりとりをした。

「レインベースの隠れ家(スキップアウト)に逃走用キットと資金が用意してある。クロコダイルも知らないものだから、司直の捜査にも見つかってないはず。ただ、レインディナーズのオフィスに、貴女のスケッチブックが置きっぱなしだった。今頃は司直に押収されてしまったかもしれないけれど……あれは絶対に回収したいわ」

 

「私のヘタクソな絵を?」と片眉を上げるベアトリーゼ。

「ええ。あれは私の“宝物”だから」

 ヘッタクソな絵を宝物などと言われ、ベアトリーゼは嬉しさと恥ずかしさに身悶えし、渋々了承する。

「ん~~……分かったよ。何とかする。それから、私の荷物だね。今頃はマシンともども海軍に押さえられてるだろうから、取り返しに行かないと」

 

「海軍に乗り込む気?」ロビンが神秘的な美貌を険しくする。

「大丈夫。ここまで護衛してきたお客さんの預け先だから。それにまあ、いつかの時みたく海軍大将と本部中将が出張ってきているわけでもないし、へーきへーき」

 あっけらかんと語る親友に、ロビンは深く深く溜息を吐き、神秘的な美貌に冷やっとする眼差しを浮かべた。

 

「えっ。なんでお説教モードになったの?」

 ギョッとするベアトリーゼを余所に、ロビンはお小言を始めた。

「貴方、もう20代半ばなのよ? 少し無鉄砲な真似は控えたら?」

「それを言ったら、ロビンはもう三十路手前……」

 口にしてからベアトリーゼはやらかしを悟る。

 

 ロビンがとてもとても優しい微笑をしていた。ただし、美しい碧眼はまったく笑ってない。ベアトリーゼは逃げ出す前に頬を掴まれ、

「ビーゼ?」

 ぎゅぅうっ!

「いたたたっ!!」

 ベアトリーゼが悲鳴を上げているところへ、ポケットの子電伝虫が鳴いた。

 

      ○

 

 ロビンに目配せしてから、ベアトリーゼは通話器を取る。

「どちらさま?」

『ステューシーよ』

 貴婦人然とした優美な声色とどこか親密そうな口調。

 この女ね。ロビンは電伝虫を見つめつつ思う。図々しい泥棒猫は。

 

『貴女が動くと騒ぎが起きることは承知してるけれど、今回はいくら何でも大きすぎない? チレン女史を海軍へ保護させるやり方も雑だったし……少しは自重して』

 溜息交じりの先方に、ロビンは密かに『分かる』と同意した。

 

「今回の件はあくまでクロコダイルと麦わらの一味が主役だよ。文句はあっちに言って」

『ああ。身の程を弁えないおバカさんね。王様ごっこがしたいなら適当な非加盟国を標的にすればいいのに。よりによって加盟国でも大国のアラバスタを選ぶなんて』

 ステューシーは苦りきった声で吐き捨てる。

『おかげで政府も軍も蜂の巣をつついたような騒ぎよ。冗談抜きで何人か死ぬわね』

 

「そりゃいい。笑える」

 せせら笑うベアトリーゼに怒ることなく、ステューシーは気品ある微苦笑を返し、

『そうそう、遅ればせながら挨拶させていただくわ。ニコ・ロビン』

 こちらが見えているかのように斬り込んでくる。

 

 ベアトリーゼは『任せる』と言いたげに肩を小さく竦め、ロビンは頷いて電伝虫へ冷ややかに応えた。

「私のビーゼがいろいろお世話になったそうね。イージス・ゼロにして闇社会の女帝さん」

 

 お前とよろしくする気なんて欠片もねェ、と言いたげな挨拶に、電伝虫の向こうから怯える子猫をあやすような微笑が返ってきた。

『貴女が政府関係者を嫌うことは仕方ないと思うから、その失礼な口調は見逃してあげるわ、“お嬢さん”。私個人は貴女に何の興味もないから、貴女のことを政府や組織に報告はしない。貴女の親友に誓っても良いわ』

 

 政府や組織の事情が直接絡めば話は別、と。ロビンは冷徹に計算する。ビーゼに対する好意への“ついで”としては充分か。

「……貴女を信じる気は欠片もないわ。でも、その言葉だけは信じることにする」

 

『結構』ステューシーは柔らかな調子で『それで連絡した理由なのだけれど、海軍はサンディ島の周辺海域を封鎖する気よ。包囲の環が締まる前に出た方が良いわ』

「今、その話をしてたところだよ。チレンに預けたトビウオライダーと私の荷物、今何処か分かる?」

 

『スモーカー大佐のところ。アラバスタ東岸の港町タマリスクに居るわ』

「へえ。まだアラバスタにいるんだ?」

『貴女の親友が彼の部下の大半を壊しちゃったから。あれじゃ操船作業が出来ない。動きようが無いわよ』

 ベアトリーゼに一瞥されると、ロビンは悪戯が見つかった幼子みたく微笑む。

 

『取り戻すことは構わないけれど、大佐と彼の部下を殺さないようにね。彼らにはチレン女史を本部まで届けてもらう必要があるんだから』

「了解、マダム」

 ベアトリーゼは大雑把な返事をしつつ、ふと思い出したように。

「そだ。一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

『何? 約束の新しい潜水装備は、まだ用意できてないわよ?』

「マジかよ。や。聞きたいことは別件」

 追加報酬であるトビウオライダーの修理と新しい潜水装備一式をひとまず脇に置き、ベアトリーゼは告げた。

「ヒューロンって知ってる?」

 

『―――』

 電伝虫の向こうから息を呑む様子がありありと伝わってきて、

「……厄ネタだったか」「厄ネタみたいね」

 2人の長身美女は揃って確信した。

 

『どこでそれを?』

 貴婦人の声は心底苦々しそうで。

「シキんトコの奴から。エス……S・I・Qとかいう薬を開発した奴っぽい。私の血統因子と、ヒューロンの標本の血統因子がどーたらこーたら」

 

『……いくつか確認が必要ね』

 ベアトリーゼのいい加減な説明に溜息をこぼした後、この世界の闇に通暁する謎多き女スパイは慎重に言葉を選びながら、

『私の勘が悪い方に合っていたら、酷く不快な話になる。それから……』

 少し間を置いてから言った。

『おそらく、機密非合法作戦に関わってもらうことになると思う』

 

「拒否権は?」とどこか面白そうに目を細める蛮姫。

『貴女のルーツに関わることを知る機会を、永遠に捨てて良いなら』

 

「おやおや……」蛮姫は薄く笑い「回答はそっちの確認作業が済んでからでいい?」

『良いわ。二、三日ちょうだい。確認が終わり次第、また連絡する』

 通話が切られ、電伝虫が目を瞑る。病室に些か気まずい沈黙が降りた。

 

「ビーゼ」

 機先を制するように、ロビンの碧眼がベアトリーゼの暗紫色の瞳を真っ直ぐ捉える。

「私を置いて行くのは無しよ」

 

 へにょりとベアトリーゼの端正な顔が歪む。

「サイファー・ポールとの絡みだよ? 奴らが裏切ってロビンをとっ捕まえるかもしれない。少なくとも、今回の件で連れていくのは無理だ」

 

「嫌よ。絶対に嫌」

 不撓不屈の意志を向けられ、ベアトリーゼは返事に窮する。

 

 ここでロビンを連れていけば、原作の麦わらの一味入りが崩壊しかねない。かといって、麦わらの一味へ加えた後に政府の機密作戦へ従事する?

 ムリだろ。

 

 前世の原作知識が穴あきチーズでニワカなファンだったベアトリーゼは、ワンピース劇場版なんて見たこと無い。なんたって200億円近い興行収入を上げた『RED』すら見てない奴なのだ。シキが登場するストロング・ワールドなんか存在すら知らない。

 だから、この世界線において、麦わらの一味と金獅子海賊団が衝突する可能性を、最初っから考慮しない。先入観――漫画版原作チャートを知るがゆえの弊害と陥穽。

 

 悶々と思案するベアトリーゼに、ロビンは拗ねたように麗貌をしかめ、繰り返す。

「マーケットの時みたく置き去りにするようなことをしたら、“怒る”わよ」

「あの時はあれが最善だったって……」叱られた子犬みたいな顔になる凶悪犯。

 

「でも最高でも最良でもなかった」

 ロビンは伸ばした手をベアトリーゼの顔を添え、どこか寂しげに言った。

「もう離れ離れは嫌よ、ビーゼ」

 

 ベアトリーゼは何も答えない。答えられない。

 その沈黙に、ロビンは何を感じ、何を覚え、何を抱き、何を考えたか。

 ベアトリーゼは察することさえできなかった。

 




Tips
地下廟からの脱出。
 原作だと、ロビンは失意と絶望から死を望んだけれど、本作のロビンは決して諦めない。
 野蛮人のせい。

砂漠の診療所。
 原作でも登場したが、設定はオリ。
 なぜか診療所だけ砂漠にぽつんと立っている。

ステューシー
 原作キャラだけど、ほとんど本作オリ設定状態。
 本作を書き始めた時は素性が明らかになってなかったんや。許してクレメンス。
 なんだかんだ、ベアトリーゼに振り回されている人。だけど、ベアトリーゼに甘い。
『バカな子ほど可愛い』の心理か。

ベアトリーゼ。
 シキの本拠地へ乗り込む気になっている。
 ただし、ロビンを麦わら一味入りさせたいから、連れていく気はない。

ロビン。
 ベアトリーゼと離れる気はない。
 マーケットでの悲愴な別離が、少しばかりトラウマ気味なのだ。
 
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