彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
話し合いを終えた後、晩飯に向けて準備に入る。
サンジは晩飯の支度を始め、ゾロとチョッパーとロビンは付近を探索して食材探し。ウソップは損傷したメリー号の修理用資材を集め。ルフィは潮水を蒸留して飲料水作り。
ナミは木箱を机に集めた情報と地図をあれこれまとめる。ベアトリーゼは髪をお下げにしたナミに捕まり、ゲリラ――シャンディアの民から得た情報の聴取を受けていた。
ルフィが作業に飽き、ナミがノートをまとめ終えたところで、ゾロ達が日没時の暗い巨大樹の森を並んで歩き回って食材を持ち帰ってくる。チョッパーがアロエとニンニクとバナナとクルミ。ゾロがデカい蛙と鼠。ロビンが大きな塩の結晶。
と、ベアトリーゼが不意に森の奥へ暗紫色の瞳を向ける。
「戦闘騒音が収まり始めた。向こうも日暮れに合わせて切り上げたみたい」
ナミとルフィは耳に手を当てて音を探ってみるが、何も聞こえなかった。
「それ、覇気ってので分かったのか?」ルフィが興味深そうに尋ねる。
「や。これは大気から振動を感じ取っただけ。私はプルプルの実の振動人間だからね。こういうことも出来る」
ベアトリーゼは拾い上げた小石に低周波を加え、ルフィに放る。
「おぉ~~っ! なんかプルプルするぞっ!」
受け取った小石から振動を感じ、ルフィが楽しそうに感嘆を上げた。
「楽しそうね」
塩の結晶をサンジに渡し、ロビンがベアトリーゼの隣に腰を下ろす。
「この島、不可思議なことだらけで凄く興味深いわ」
「だろうね。シャンディアの村で聞いた限りじゃ、例の遺跡都市は空白の100年以前から存在していたらしい。だから、おそらく在ると思うよ。”あれ”も」
「! 尚のこと、遺跡都市を見つけたくなってきたわね」
親友の言葉に好奇心を強く刺激され、ロビンの碧眼が輝く。
内心ではしゃぐロビン可愛い。ベアトリーゼはむふーと満足げに息を吐いた。
そうこうしているうちに、サンジが特大鍋で焼石クリームシチューを完成させた。皿に盛られたシチューが各々に配られる。
「それじゃあ、皆、食べながらで良いからしっかり聞いて」とナミが声を張る。「まず情報の確認と共有から始めるわよ」
まずはノーランドの絵本のおさらい――探検家モンブラン・ノーランドがジャヤの黄金遺跡を発見したのは400年前。その数年後、ノーランドがジャヤを再訪した時には、既に黄金遺跡は消えていた。つまり、その数年の間に黄金遺跡があったジャヤの片割れが、ノックアップストリームによって空高くへ運ばれた。
「ここがジャヤの片割れってのに異論はねェが……地上の方の森とあまりに違わねェか?」
「おそらく、この空島の環境が原因ね。動植物の成長に大きな影響を与えているのよ」
「俺達を助けてくれたサウスバード達も物凄くデカかったぞ」
ゾロの疑問にロビンが答え、チョッパーも証言する。
「それだよ。なんでサウスバード達がチョッパー達を助けたんだ?」とサンジ。
「よく分からないけど……サウスバード達は空の騎士を神サマって」
チョッパーの答えに、ルフィは目を丸くして。
「ええっ!? 神っ!? じゃあ、このおっさんをぶっ飛ばしたら良いのかっ!?」
「ピエッ!?」
「いい訳あるかぁっ! このスットンキョーがっ!」
寝込んでいる主を守ろうと警戒する愛馬?ピエールとルフィにツッコミを入れるウソップ。
「この空島で言うところの『神』は、王様みたいなもんだ。その人は先代の『神』ガン・フォール。君らをここに攫って試練を仕掛けてきたのは、当代の『神』エネルって奴だよ」
ベアトリーゼがシチューを食べながら言った。ロビンがベアトリーゼの口角についたシチューの雫を指で取り、口に運ぶ。誰も気に留めないほど自然極まりない所作だった。
ナミが話を童話からノーランドの航海日誌へ移すと、ロビンが気づいたことを指摘する。
「そう言えば、ノーランドが遺した航海日誌の最後のページ。不可解だったわね。『髑髏の右目に黄金を見た』と」
「それよっ!」
ナミはスカイピアの古地図と現ジャヤ島の地図を、裂けめに合わせて披露した。
「おそらく、これが400年前のジャヤの姿よっ!!」
二枚の地図によって露わになるジャヤの“本当”の姿。それはまさしく髑髏の顔で。
おおーっ! と麦わらの一味が感嘆を上げ、
「じゃあ、髑髏の右目ってのは――」
驚愕するウソップへ、ナミは答えを示すように髑髏の“右目”を指した。
「ノーランドの言う髑髏は島の全景のこと。つまり、ここに黄金があるっ!」
「おおっ! お宝はそこにあるんだなっ!」
「お宝――っ!!」
ルフィとチョッパーが喝采を上げ、ナミが男前な笑みを湛えて一味の面々を見回す。
「後はこのポイントへ真っ直ぐ向かうだけよっ! 莫大な黄金が私達を待ってるわっ!」
おおーっ! と再び一味の面々が喝采を上げる中、オトナの2人が水を差す。
「この島はドンパチの真っ最中だけど、その辺はどーすんの?」
「黄金を求めれば、畢竟、両者の争いに巻き込まれそうね」
ベアトリーゼとロビンの指摘に少年少女達はぴたりと固まり、互いの顔を見合わせ――
「邪魔する奴はぶっ飛ばす」
「邪魔する奴は斬る」
「邪魔する奴は蹴り飛ばす」
武闘派三人が強硬策を即答。
「両者が争ってる隙に黄金を頂けばいいのよ」
「他人様の争いへわざわざ首を突っ込む必要はねェ」
「お、俺も避けられる戦いは避けた方が良いと思う」
自称非戦闘員三人は戦闘回避策を提案。
「ロビンとベアトリーゼはどう考えてるんだ?」
チョッパーに水を向けられ、
「私は黄金より遺跡を入念に調べたいわ。そのためなら武力行使も辞さない」
決して諦めない女と化しているロビンは強硬策に一票。
ベアトリーゼは隣に座るロビンと腕を組み、にっこり。
「私は久し振りにロビンと探検したいから、荒事でも問題ナシ」
「でしょーね」
ナミは仰々しく嘆息し、全員を見回す。
「明日は、遺跡を目指して黄金を確保する探索チームとメリーを島外に運び出す移送チームの二手に分かれて動く。それでどう?」
異論は出なかった。
「よーし、飯は食った! 明日の冒険も決まったっ! 夜も更けたっ! となりゃあ、やることは一つだなっ!」
ルフィが元気いっぱいに告げれば、ロビンは小首を傾げる。
「何かあったかしら? 船の修理は明日の朝に回すのよね? 後は休むだけだと思うけど……」
「おいおい……聞いたか、ウソップ。ロビンは分からねェらしいぞ?」
「言ってやるな、ルフィ。ロビンはこれまで闇に生きてきた女。分からなくても無理はねェ……」
やれやれと言いたげに溜息をこぼすルフィと、諭すように上から目線で語るウソップ。なんとなく察したベアトリーゼがくすくすと笑い始める。
「? ? ?」
激しく困惑するロビンへ、ルフィとウソップは全力で訴える。
「キャンプファイヤーするだろっ!! キャンプファイヤーッ!!」
「キャンプの夜はたとえ命尽き果てようともキャンプファイヤーしたいんだぁっ!」
「おい、ルフィ!」
横からゾロが口を挟んできて、戸惑うロビンが顔を向ければ、そこにはコックと共に積み上げた立派な組木がそびえていた。
「こんなもんで良いか?」
「あんた達までやる気満々かっ! ベアトリーゼっ! あんたも爆笑してんじゃないわよっ!」
思わずナミがツッコミを入れるが、もはや止まるわけもなく。
敵地のど真ん中でキャンプファイヤーが始まった。
○
シャンディアの戦士達はアッパーヤードの傍らにある通称『落合いの離島』に撤退していた。
戦士達は月光の注ぐ離島の中、傷の手当てと簡単な食事で休息を取っている。
ワイパーは皆の様子を見て回り、密やかに強く歯噛みする。
死者こそ出ていないが、負傷者は多い。仮に明日も仕掛けるとして、動けそうな者は20名ほどか。
数十人の戦士達が総攻撃を仕掛けても、たった三人の神官を倒しきれない現実に、ワイパーは苛立ちを隠しきれなかった。
何より、自分の力の至らなさに怒りが収まらない。大戦士カルガラの子孫たる自分が率先して神官を倒さなくてはならないというのに――
そんな苛立ちもあってか、ワイパーはアイサのために
負傷や疲労のせいか、怒れるワイパーを避けているのか、他の戦士達は騒動を窺うだけで動かない。そんな中、
「落ち着けよ、ワイパー」
騒動の原因となった戦士カマキリが、怪我を押してワイパーを宥め、告げた。
「明日も総攻撃を続けよう。サトリがいない今がチャンスだ。今日、戦ってみて分かった。今なら、神官達を押し切れる……っ! 俺達ならやれる……っ!!」
カマキリの言葉に、傷つき疲れ切っていた戦士達が次々と立ち上がり、集まってくる。
「エネルさえ倒してしまえば、バッグ一つのヴァースに憧れる必要なんてなくなる。俺達は今度こそ帰るんだ。400年前に奪われた、俺達の故郷に……っ! 俺達の手で再びシャンドラに火を燈すんだ。そうだろう、ワイパー……ッ!」
シャンドラの火を燈せ。今や民族の保持神と化した大戦士カルガラの言葉に、戦士達の闘志と戦意が燃え上がり、熱を発する。
ワイパーは血が滲むほど拳を固く握りしめ、戦士達へ決断を告げた。
「明日、再び攻撃に出る……っ!!」
○
森の闇を払うほど煌々と燃え盛る組木。
ウソップが持ち出した太鼓の音色がドンドットットと響き渡り、麦わらの一味の面々は雲狼と輪になって、歓声を上げながら火の周りを踊り回る。
ぶつくさ言っていたナミもちゃっかり交じって狼達と一緒に踊っていた。キャンプファイヤーが初体験のチョッパーは大はしゃぎだ。
狼が二足歩行で踊るという生物学的常識に喧嘩を売っている現実はともかく、まったくもって愉快な光景に、ロビンはベアトリーゼの隣で優しい笑みでお祭り騒ぎを眺め、ゾロは群の頭目狼と酒を飲み交わしている(それもまた非常識な話だが)。
そして、ベアトリーゼもニコニコしながらスケッチブックに眼前の光景を描き写していた。
と、
「聖地でこんなバカ騒ぎを目にしたことは初めてだ」
楽しげな喧噪に誘われたのか、休んでいたガン・フォールがやってきて笑みをこぼす。
早速ルフィを始めとする麦わらの一味が食事やら酒やら踊りへの参加やらを勧めるが、病み上がりのガン・フォールは微苦笑と共に謝絶し、賑やかな宴を和やかに眺める。
「……先ほどのお主達のやり取りを聞かせて貰っていた。そちらの娘はシャンディアの民からも話を聞いたそうだな」
ガン・フォールは訥々と言葉を紡ぎ始めた。
「青海人にとって、大地とは当たり前に存在するものなのだろうが……空には元々存在し得ぬものなのだ。島雲は植物を育てはするが生みはしない。緑も土も、本来、空には無いのだよ」
土を慈しむようにすくい取りながら、ガン・フォールは言葉を続ける。
「空に生きる者達にとって、大地は永遠の憧れそのものなのだ」
「だから、400年前にジャヤの片割れが運ばれてきた時、空の民はシャンディアの民からこの島を奪い取ったわけか」
ベアトリーゼが淡々と指摘する。辛辣な物言いにゾロが眉間に皺を寄せた。ロビンは静かに会話の成り行きを見守る。
ガン・フォールは目を伏せ、頷いた。
「……お主の言う通り、我々は彼らの故郷を奪い取った略奪者である。そして、400年に渡って故郷を取り戻さんと願う彼らを虐げた迫害者である」
苦悩の濃い声色に、部外者の三人は言葉を返せない。
「しかし、手放せぬのだ。もはや聖地の
400年。スカイピアはジャヤの片割れから得られる恵みを元に繁栄した。人口も増えた。内需経済も伸びた。もう大地の恵み無しでは生きていけない。
「ゆえに、吾輩は彼らと共存を図ったのだが……和解の道はあまりに険しかった」
ガン・フォールは先祖の罪を、空の民の過ちを正すべく努めた。暴力の連鎖を終わらせようと努めてきた。粘り強く空の民を説き、根気強くシャンディアの民と語り合い。だが――
「6年前、エネルによって全てが水泡に帰してしまった。いや、状況は以前より酷くなったかもしれぬ」
「まぁ、そう悲観的になることもないさ」
ベアトリーゼは描き終えたスケッチブックを置き、立ち上がる。悩ましげな声をこぼしながら身体を伸ばした。アンニュイ顔に悪戯っぽい笑みを湛える。
「内で変えられないことも、外からは変えられるもんだからね」
ガン・フォールが戸惑いを覚えて言葉の続きを求めるも、ベアトリーゼは意に介さずロビンの腕を取った。
「せっかくだし、私達も踊ろ」
「ええっ?」
困り顔を浮かべるロビンを引っ張り、ベアトリーゼは踊りの輪に加わった。ルフィとウソップが2人の参加を喜び、サンジとチョッパーが囃し立て、ナミが嬉々としてロビンを踊らせる。
ベアトリーゼはロビンの手を握って踊り、チョッパーを抱えて踊り、ナミと腕を組んで踊り、ウソップと一緒に太鼓を叩いて、ルフィと一緒に舞い躍る。次は俺の番とサンジが鼻の下を伸ばしてベアトリーゼに近づくも、雲狼達に先を越されてしょぼーん。
宴の笑い声が一層大きくなる中、
「……変わった娘だ。いや、それを言えば、お主達もだが」
「俺もそう思ってるよ」
困惑顔のガン・フォールに、ゾロは微苦笑して酒瓶を傾けた。
冒険の前夜祭は賑々しく続く。
○
生贄の祭壇がある汽水湖のほとりでキャンプファイヤーが煌々と燃えている頃。
神の社。
アッパーヤードの一角に築かれた、スカイピアの“神”が暮らす御殿だ。
6年前までガン・フォールを主としていたこの御殿は、今“神”エネルを座に迎えている。
身長2メートル半ば過ぎの壮健な肉体。背中には他の空の民達と違い、羽ではなく雷神様のような小さな四連太鼓を付けている。眉の濃い顔立ちに下睫毛の長い双眸。何より胸元まで届く長い福耳。白い布キャップを被り、雷神様を想起させるもろ肌の着衣を愛用している。
なんとも個性的な容貌であるが、エネルの最大の特徴はその目つきであろう。
傲慢と増上慢に満ちた瞳は、自身以外の全てを蔑視している。
エネルは玉座ならぬ神の座に横臥し、女官の手元から新鮮な果物を掴んで口へ運んでから、呼び出した三人の神官達へ明日の予定について語る。
「アッパーヤードに侵入した青海人達は黄金を求めて動くだろう。シャンディアの戦士達も再び攻め込んでくる。よって、明日はお前達の制約を全て解く。好きなように戦え」
神官の一人ゲダツが訝りつつ、エネルへ問う。
「急に何故です?」
「ようやく完成したのだ。我らの方舟マクシムがな」
エネルは不敵に口端を吊り上げ、神官達へ告げる。
「だからな。さっさとこの島のケリを付けて、旅立とうじゃないか。夢の世界に」
○
楽しかった宴が終わって数時間後の未明。巨大樹達の林冠の隙間から注ぐ月光が美しい。
ウソップは肌寒さに尿意を覚えて起きた。
昼間はぽかぽか陽気で過ごし易かったのだが、深夜の今は酷く冷え込んでいる。空気の薄い高高度のせいか、霧の立ち込める湖畔傍のせいか。昼夜の温度差が激しい気候にアラバスタの砂漠を思い出す。
寝ぼけ眼を擦り、ウソップは野営場所を見回した。
雲狼達と共に地べたへ雑魚寝している野郎共も毛布にくるまっていた。サンジはチョッパーを湯たんぽのように抱えて寝息を立てており、ルフィは狼達の中に埋もれて高いびき。ゾロは火の消えた焚火の傍で船を漕いでいる。
女衆が使っているテント内も、きっと似たようなものだろう(テント内では、ベアトリーゼがロビンに引っ付き、そのベアトリーゼにナミが引っ付いてスヤスヤ)。
ウソップは皆を起こさぬよう小便をしに向かい、何気なく生贄の祭壇に載せられたメリー号へ顔を向けて……
見た。
霧の中に佇むメリー号に小さな人影が寄り添い、作業をする様を。それはまるで――
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
瞬間、ゾロは覚醒して“持病”の方向音痴も発症せず、悲鳴の発生源へ向けて一直線に駆けた。腰に差した三刀をいつでも抜けるよう備えも忘れていない。
一方、テント内ではベアトリーゼがぱちりと目を開き、脊髄反射的に見聞色の覇気を展開。周囲に異常がないことを確認すると、寝息を立てるロビンに抱きつき直してさっさと二度寝。
そして、ゾロは腰を抜かして大の字にひっくり返っているウソップを発見し、気を解いてぼやく。
「こいつ、こんなところで何やってんだ」
「お、おばけ……おばけ……」
「寝ぼけてんじゃねェよ、まったく」
うなされるウソップに、ゾロはイラッとしつつも、人騒がせな長っ鼻を肩に担いで野営場所へ戻っていった。優しい。
日が昇るまで、まだ数時間。
麦わらの一味の大冒険まで、あと数時間。
神エネルのゲームが始まるまで、あと数時間。
Tips
キャンプファイヤー
アニメ版ではドンドットット音ではなく、キャラソンを流してしまった模様。
雲狼
人間とコミュニケーションを取るわ、二足歩行で踊るわ、ジュースを作るわ、なんなんだこの生き物。
カマキリ
シャンディアの戦士。
CVけーすけ。元漫才師でタレントでプロレスラーという異色の声優さん。
エネル。
皆大好きな雷男。尾田せん聖曰く『新世界の強者には通用しない人』
CV森川智之。説明不要なくらい有名な大物声優の一人。
ワンピースでは、蛸魚人のハチも演じている。
サンジ。
ベアトリーゼと踊れたかどうかは、想像にお任せ。