彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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ちょい長め


15:狩る者と敗れる者

 戦術とは強い敵を避けて弱い敵を叩くことだ。 

 

 随分と威勢の良いことを言ったが、ベアトリーゼは“大参謀“つるや”青雉“クザン、つる直属の精鋭達とやり合う気など無い。

 穴だらけの原作知識でも覚えている、激ツヨな青雉やネームドのつると真正面から殴り合いなど怖すぎた。なんでこんな強キャラが出張ってくるんだよ冗談じゃねーぞ、と内心で悲鳴を上げている。

 

 しかし、やりようはある。

 要は海軍が追ってこないように出来れば良いのだ。強キャラを倒すことは至難の業だが、船を潰すこと自体は然程難しくない。

 

 となれば、まず狙うべきは4隻のフリゲート。

 フリゲートは捜索追跡能力を重視した船種であるため、武装や頑健性を犠牲にした代わりに足が速い。民間貨物船を逃すためには、優先して潰さねばならない。

 

「二つ目っ!」

 歌うように叫び、ベアトリーゼは覇気と周波振動を乗せた黒脚のドロップキック。二隻目のフリゲートの鼻面を思いきり蹴り飛ばし、そのまま船首を足場に再跳躍。

 

 二度の強烈な衝撃が船首から伝播し、甲板や船体側面が大きく波打ち、鋲がバンバンと撥ね跳んで海兵達を殺傷する。たわみ歪んだ船体の隙間から海水が流入し、衝撃で脆弱化していた船体は浸水圧力に耐えきれず、ドミノが倒れるように次々と破断していく。

「くそ、まるで対艦兵器だっ! 何なんだあいつはっ!!」と海兵が悲鳴を上げた。

 

 二隻目のフリゲートが船首から沈みかけたところへ、破損した船体を包むように氷塊が広がり、沈没を防ぐ。まあ、沈没を防げただけ、とも言えるが。

「おいたが過ぎるぞ、お嬢ちゃん」

 クザンが三隻目のフリゲートのメインマストへバレリーナのように降り立ったベアトリーゼを睨む。

 

 が、ベアトリーゼはクザンに見向きもせず、

周波衝拳(ヘルツェアハオエン)っ!」

 足場にしている三隻めのフリゲートのメインマストへ、瓦割りをするかのように覇気をまとった黒拳を叩き込む。

 再び黒拳の衝撃がメインマストを通じて船体に伝播し、マストを中心に致命的な破壊を生じさせた。

 

「一言も交わさないとは、寂しいじゃあないのっ!」

 クザンも再び氷を生み出して三隻目のフリゲートが沈没することを防ぐ。

 

 が、その間にベアトリーゼは最後のフリゲートへ向け、足場のマストを踏み砕きながら跳躍していた。

 

「アイス(ブロック)両棘矛(パルチザン)ッ!」

 飛翔するベアトリーゼへ向け、クザンが大気中水分を収斂氷結させて作り出した槍を投げつけ、

「撃て撃て撃てっ! あのモノノケ女を撃ち落とせっ! やらせるなっ!」

 各大型艦の海兵達が小銃や拳銃、果ては艦載砲で弾幕を展開。狙われたフリゲートの海兵達も迎撃射撃を雨霰と打ち上げる。

 

 クザンの氷鎗といくつかの弾丸がベアトリーゼを捉えるも、武装色の覇気をまとった肌に弾かれ、傷つけることが能わない。

「これで四つっ!!」

 ベアトリーゼは四隻目のフリゲートの船尾を黒脚で思いきり蹴り飛ばし、船尾から船首へ向けて衝撃を走らせ、船体を叩き割った。

 

「次から次に忙しないなっ!」

 クザンが大急ぎで船尾から沈み始めたフリゲート艦を周囲の海面共々凍り付かせ、沈没を防ぐ。

 

 ベアトリーゼは大型艦のマストの先端に降り立ち、目標達成に一息吐いた。

 沈みはしなかったが、これでフリゲート四隻全てが航行能力を失った。

 ちらり、と暗紫色の瞳を巡らせ、民間貨物船の位置を窺う。

 あの民間貨物船がこの海域から一定距離を離れれば、鈍足の大型艦で追いつくことは難しい。

 

 念を入れるなら、この大型艦4隻を沈めるべきだろうが……大型艦は流石に一撃二撃では沈まない。用いられている木材や素材が頑健かつ頑丈なものだからだ。世界一周を成し遂げた海賊王の船ほどでは無いにしろ、フリゲートのような馬車馬船とは頑丈さが違う。

 それに、クザンやつるなど強キャラを相手にしながら大型艦を壊すことは中々厳しい。

 

「というか……氷怪人もあのお婆ちゃんも超強そうだし、部下のおばさん達もなんかおっかないし……」

 ベアトリーゼが独りごちると、見聞色の覇気に長けた女性将校が叫ぶ。

「アイツ、今、先輩達のことババアって言いましたっ!!」

 

「ババアなんて言ってない。おばさん達って言ったんだよ」とベアトリーゼが言い返せば。

 

「お姉さんだろうがこのガキャアッ!!」「ちっと若ェからって調子乗りやがってッ!」「泣かすっ! 絶対泣かすっ!!」

 つるの直属部隊の中で比較的年齢が高い女性幹部達がブチギレた。

 

「良い部下を持ってるね。おつるさん」と笑うクザン。

「後で説教だ」眉間を押さえたつる。

 

 意気軒高なつる直属部隊を窺いつつ、ベアトリーゼは決断した。

 こいつらをしっかり食いつかせるためにも、命懸けの綱渡りをしなければ……ああ、でも、多分。

 

 

 

 負けるだろうなぁ。

 

 

 

 でもまあ、負けるくらいなら構わない。荒野の地獄でネズミとして生きてきたベアトリーゼにとって、勝ち負けさえどうでも良いことだった。

 

 生き残ってこそ。生き延びてこそ。生き抜いてこそ。

 

 生きていてこそ、美味い飯も食えるし、熱い風呂にも入れるし、綺麗なベッドで眠れるし。

 

 生きてさえいれば、()()()()()ロビンにも会えるだろう。

 

 とはいえ、ただで負けるつもりはない。

 故郷で嫌となるほど見聞きし、学んだのだ。敗北者がどうなるか。

 

 生きてさえいれば、勝ち負けなどどうでも良い。

 が、負け方を考慮しないと、全てを奪われる。

 

 負けるにしても()()()()()()()()()()()()()

 

 ベアトリーゼはゆっくりと深呼吸を済ませ、アンニュイな細面を引き締めた。

「ここからは遊び抜きだ。死んでも恨むなよ」

 夜色の髪と鈍色の短外套をなびかせながら、マストから飛び降りる。

 

       〇

 

 沖の先から遠雷のように戦闘騒音から微かに届く。

 マーケット内は騒動の後始末が進められており、結果的にマーケットを荒らした賞金稼ぎ達が各店の店員や用心棒達にボコられている。

 

「賠償金出せテメェッ! ああ? 払えねえだぁっ!? 眠たいことほざいてンじゃねェぞっ! 内臓売ってでも銭コ作らせっからなゴルァッ!!」

 花屋のお嬢さんが賞金首のおっさんをボコりながらカタにハメている。

 

「こいつは死にかけてるじゃねェか。10万ベリーにもならねェよ」「なら、もう一人付けて30万でどうよ?」

 奴隷商と定食屋のオヤジがズタボロの賞金稼ぎ達の売買交渉をしていた。

 

 どうしようもねえ。

 

 そんなどうしようもねえ喧騒を余所に、カラカラと車輪付き旅行鞄を引く眼鏡の淑女が港傍の瀟洒なホテルに入り、部屋を取る。

「御一人様ですか?」と受付が問えば。

 

 長髪の眼鏡美女は優雅に微笑みながら、台帳にサインを記入していく。

「ええ。連れはこの騒動で病院に運ばれてしまって」

 

「それは御愁傷様で」

「ありがとう。でも、検査入院ですぐに退院できるそうだから」

 眼鏡美女は受付の気遣いに礼を述べつつ、

「ところで、明日にはこの島を出たいのだけれど、乗船の手配を頼めるかしら」

 

「生憎、当宿では船舶の手配を請け負っておりません。が……こちらの船会社へ紹介状を御用意しましょう。ミス――」

 受付が台帳を確認し、美女へ告げた。

「ミス・オルビア。如何ですか?」

 

「充分よ。手間を取らせて悪いけれど、お願いするわ」

「かしこまりました。紹介状は後程お届けしますので、先に御部屋へ御案内します」

 

 そうして、部屋に通された眼鏡美女はドアにしっかり鍵をかけ、窓のカーテンを引く。

 旅行鞄をベッドの傍らに置き、美女は眼鏡を外してから髪を強く引っ張った。

 

 ずるり、と長髪のカツラが外れ、艶やかな黒髪が露わになる。

 

 ニコ・ロビンは小さく息を吐き、不安と心配を湛えた青い瞳を海の方へ向けた。

「ビーゼ……」

 

      〇

 

 日が傾き、黄昏が始まろうとしている。

 

 大型艦の甲板に氷塊がいくつも散乱している。

 

 つる直属の精鋭達が重傷を負って衛生兵達に手当てを受けている。

 

 艦隊付きの優秀な将校達が血塗れで倒れ、痙攣を起こしていた。

 

 少なくない将兵が甲板や船傍の水面に骸を晒している。

 

 多くの将兵が茫然として虚空を見つめてブツブツと何か呟いたり、頭を抱えて泣いたり、怯えたりしている。

 

 海軍中将“大参謀”つるは口元の血を拭い、背筋をピンと伸ばして敵を睨んでいた。

 

 上官や部下や戦友を失った海兵達が憤怒と恐怖で顔を歪めながらも武器を構えている。

 

 海軍大将“青雉”クザンが鼻や口元から血を垂れ流しつつも、氷刃の剣を構えていた。

 

 血浴のベアトリーゼは海兵達と自身の血に塗れながら、肩で息をしていた。

 

 ――これは完全に想定外だ。いや、まいったね。

 こいつらすっげー強いわ。お婆ちゃんとその部下連中は覇気を込めて周波衝拳ぶち込んだのに死なないし、不可聴域音波で催眠掛けたのに雑魚共にしか通じないし。なんなの? 原作ネームドや強キャラは中身も別物なの?

 

「ほんとーにおっかない嬢ちゃんだ」

 クザンはハンカチで鼻と口の血を拭い、溜息をこぼす。

「いくら覇気使いの能力者相手とはいえ、ここまでボコられたのは久し振りだよ」

 

 こっちのセリフだよ、とベアトリーゼは内心で慨嘆する。何度も何度も必殺技をぶち込んだのに、ちょっと血が出てるだけってどういうことだよ。

 

 数時間に渡る激戦。海軍側は明確に損害を重ねていた。が、その死者は戦闘の規模と比して少ないと言えた。それもこれも、海軍大将“青雉”クザンが盾役としてベアトリーゼを相手取ったからだった。

 

 と、クザンの足元からパキパキパキと甲板上を霜が走り、甲板表面を凍り付かせていくが、ベアトリーゼの足元で氷結の前進が止まった。霜が砕け、融解し、湯気をくゆらせる。

 

「どういう訳か凍らないんだよなぁ」

 クザンはぼやき、ぎろりとベアトリーゼを睨み据えた。

「なあ、嬢ちゃん。お前さんはなんでニコ・ロビンと一緒にいる。なぜニコ・ロビンのためにここまで体を張るんだ?」

 

「答えたら逃げてもいい?」とベアトリーゼ。

 

「そういうわけにゃいかないね」とつる。疲労が蓄積しているだろうに構えが一切ブレていない。「あんたはここで死ぬか、捕まるかだ」

「これだけ暴れておいて逃がすわけねェだろう。流石に図々しいぞ」とクザン。

 

「じゃあ、答えない」

 ベアトリーゼは傍らにある氷塊を少し砕き取り、がりがりと齧って渇きを癒す。戦闘で疲弊した体に氷の冷たさが心地良い。出来ればアイスクリームが食べたかったけれど。

 民間貨物船は既にこの海域を離れている。今すぐにでも、この場からずらかりたいところだが、迂闊に背を晒したら……

 少なくとも、クザンとつるを戦闘不能なり、追跡困難なりに弱らせなければ、逃げられない。

 

 しかし、これだけ戦ってもクザンはまだ“余裕がある”。つるもまだ戦闘不能にほど遠い。自身の消耗具合と負傷の塩梅を考慮すると、脱出条件はほとんど達成不可能だろう。

 この二人だけ規格が違いすぎるよ。これが原作ネームドってこと? 勘弁して欲しいね。

 

 ベアトリーゼは小さく息を吐き、決断する。

 これ以上はこっちがもたない。負け見込みで戦ってきたけれど、勝ちの目を捨てる気もない。最後の勝負と行こう。

 

 暗視色の瞳が鋭さを増した。

 来る。クザンは集中し直し、つるは戦意を練り直し、周囲の海兵達も構えを強めた。

 

 

 

 

 

 数瞬の緊迫した静寂。

 微かに揺られる大きな船体。遠くに聞こえる潮騒。

 黄昏に染まっていく空。

 甲板上に散乱する氷塊の一つが、ぐらりと倒れ――

 

 

 

 

 

 機、来たり。

 

 

 

 

 

 先手を取ったのは、クザン。

「アイスカプセルッ!!」

 ベアトリーゼを凍結せんと、掌から冷気の弾幕を早撃ち(クイックショット)

 

 が、ベアトリーゼに触れるや否や冷気弾が即座に融解してしまう。

「!? ホントにどうなってんだそれっ!!」

 クザンは罵りながら右手に握りしめた木片を芯に氷の長刀を創り出し、急迫してくるベアトリーゼを迎え撃つ。

 

 振るわれる氷刃。ベアトリーゼは疾風の如き一投足でさらに間合いを詰め、クザンの手元を叩き、剣閃を払い除ける。

 

 ィィイイン……ッ! クザンが微かな耳鳴りを認識したと同時に、ベアトリーゼの黒い左拳が放たれた。

 

 避けられねェか。クザンが咄嗟に左腕を氷塊の盾にして打撃を受け止め――られない。

 ベアトリーゼの黒拳が直撃した瞬間、クザンの左腕は飴細工のように砕けた。そして、クザンの腕を千切り飛ばした左の黒拳がそのままクザンの身体を撃ち貫き、背から飛び出した。

 

「ぐああああああああっ!?」『青雉大将ッ!!』「クザンッ!」

 青雉の苦悶と海兵達の悲鳴とつるの驚愕が重なった。

 

伏撃(フェアシュラーク)で打ち込んだ振動波へ打撃による振動波を重ねることで、内部爆発を生じさせる奥義、周波鐘衝(ヘルツェアナーデル)。その周波鐘衝の技で腕と胴の一挙破壊を行う周波崩拳(ヘルツェアファレン)

 加えて、ベアトリーゼは左拳から最大出力の超高速振動波を放射。左拳を中心にクザンの胴体を爆発させて二分した。

 どしゃりと甲板に落ちるクザンの上半身と下半身。

 

 海兵達の悲痛な叫びが海上に轟く中、

 ――なんだ、今の手ごたえ。

 ベアトリーゼが怪訝そうに眉をひそめた、わずかな間隙。

 

 甲板上に散在する氷塊の一つが割れ砕け、中からクザンが飛び出し、

「剃ッ!」

 さながら瞬間移動の如き速度でベアトリーゼに肉薄。

 

 ――! さっきのは氷の分身かっ!? くそ、速いっ! 

 ベアトリーゼが反応するより速く、

「アイス塊ッ!」

 振るう右拳の先に氷塊の大槌を創り出し、武装色の覇気をまとう。黒き大槌がベアトリーゼを直撃した。

 

「ぎゃっ!?」

 もはや爆発染みた轟音と共に強烈な打擲衝撃が体の芯まで貫き、ベアトリーゼのしなやかな体が吹っ飛ぶ。乙女の肢体が衝突した氷塊を破壊し、メインマストの根元へ叩きつけられた。

 

「やれやれ……肉を切らせて骨を断つ、なんて言うけれど……今のはヤバかった。一瞬遅かったらマジで死んでたよ、お嬢ちゃん」

 へし折れた左腕を氷で固めて矯正し、クザンは甲板に血反吐をぶちまけるベアトリーゼへ歩み寄っていく。

 

 ベアトリーゼは夜色の髪が汗と血と氷の融解水で濡れそぼり、端正な顔は擦り傷と切り傷と痣だらけで、汗と血に塗れていた。鼻と口元から血反吐を垂れ流している。

 それでも、暗紫色の瞳に激しい戦意を込め、クザンを睨みつけた。

「こ、の氷怪人。パパとママから女の子には優しくしろって教わらなかったのか?」

 

「お嬢ちゃんはオンナノコなんて可愛い生き物じゃなくて、人食い鬼の類だろ」

 クザンは壮絶な冷気を湛えた右手を振り下ろす。巨人すら数秒で氷漬けにする技アイスタイム。

 

 が、ベアトリーゼは咄嗟にクザンの右手首を蹴り上げ、氷漬けの危機から逃れた。軋む体を叱咤して飛び退き――ガクッと膝をつく。

 

 疲労と消耗、負傷、蓄積したダメージ。

 体力は空ッケツで、体の外も内も怪我だらけ。指先が疲労痙攣を始めているし、膝に力が入らない。視界がかすみ、聴覚も鈍っている。

 限界だ。

 もうこの場から逃げ出すことはできない。

 

 やっぱりダメだったか。

 ベアトリーゼは敗北を受容する。

 されど、それは諦めを意味しない。

 

「仕方ない。プランBだ」

 赤黒い唾を吐き捨て、ベアトリーゼは両腕を高々と掲げた。

 

「なんだ、降参す―――?」クザンが眉間に皺を刻み、ギョッと目を剥く。

 

 ベアトリーゼが掲げた両腕は武装色の覇気をまとって黒く染まり、両手の間で静電気が鮮烈な赤光を発しながらバチバチと踊り狂う。放電現象は徐々に激しさを増していき、バレーボール大の色鮮やかな炎雷――燃焼プラズマに姿を変えた。

 強烈な放射熱に周囲の氷塊や霜が次々に溶けていく。

 

「おいおいおい、嬢ちゃんの能力は一体何なんだ? プルプルの実ってのぁいったいなんなんだ?」

 クザンがこめかみに冷や汗を伝わせた。マグマだの光だの操る同僚がいるだけに、分かる。ベアトリーゼの両手の中で光り輝く炎雷が途方もなく高温だと。

 

「食らえ」

 ベアトリーゼは物憂げな美貌に似合いの麗しい笑みを湛え、

「プラズマ溶解炉(キュポラ)ッ!!」

 両腕を振り下ろし、破滅の炎雷をクザンへ投げつける。

 

 クザンは甲板上を濡らす氷水や血を媒介に能力を全力発動する。水分が足りるかどうかは賭けだが、やるしかない。

大氷河時代(アイスエイジ)ッ!!」

 超高熱の燃焼プラズマ球と大津波の如き大氷塊が衝突し、

 

 

 

 

 

 どかーん

 

 

 

 

      

 

 周辺の水分が一瞬で蒸発するほどの高温気化爆発が発生し、海軍中将つるの船は更地のようになっていた。

 マストも船楼も胸壁も、クザンが構築した大氷壁も、大氷壁の陰から漏れていた海兵達も、全てが綺麗さっぱり吹き飛ばされている。

 

 爆煙染みた濃密な水蒸気が漂う中、生き延びた海兵達の悲鳴や苦悶が広がっていく。

 爆発そのものを免れても、爆発による高温高圧の衝撃波を浴びて死傷した将兵が少なくない。両隣の大型艦もマストがへし折れ、死傷者が生じていた。

 

「――とんでもない怪物がいたもんだ」

 つるが膝をついて呻く。

 

「まったくだよ、おつるさん」クザンも両膝をついて深呼吸し「今回は胆が冷えた」

 

 潮風が濃密な水蒸気を払っていき、船首付近で白目を剥いて倒れているベアトリーゼが夕陽に照らされた。ボロ雑巾同然の有様だが、胸元が上下している。生きているようだ。しぶとい。

 

「どうする?」クザンはつるへ問う。「このまま始末しちまうかい?」

 つるはちらりと周囲を窺う。

 部下や将兵達は復讐と報復を求めて相貌を大きく歪めていた。当然だろう。あの小娘一人に何人の海兵が傷つけられ、命を落としたか分からないのだ。八つ裂きしなければ気が済むまい。

 

「いや、このまま生け捕りにする。海楼石の鎖と錠を用意しなっ!」

 どうして、と言いたげな部下や将兵達に、

「小娘を助ける為じゃない。プルプルの実の実態把握のためだ。ここであの娘を殺してしまえば、またどこかでプルプルの実が生まれちまう」

 つるは怪物を見るような目で失神中のベアトリーゼを窺い、部下達へ語って聞かせる。

「触れたものを震わせるだけのハズレ? これのどこが外れだ。戦術級兵器並みの危険な超人系能力じゃないか。実態を把握しておかなきゃ“次”がどうなるか分かったもんじゃない」

 

 背筋をピンと伸ばし、つるは指揮官として命令を発した。

「じきに日が沈む、負傷者の救助を急ぎなっ! 艦隊各艦の被害調査も併せて進めなっ! それと、電伝虫をすぐに用意だっ!」

 

「電伝虫?」とクザンが小首を傾げる。

 つるは眉目を吊り上げて憤慨を露わにした。

「センゴクの奴に文句を言ってやらなきゃ気が済まないっ!」

 クザンは同意するように首肯し、夕焼けの水平線へ消えていく民間貨物船を見送った。

 

       〇

 

「おつるちゃん、怒っとったなぁ」とガープが笑う。

 センゴクは先ほどまで烈火の如く怒号を発していた電伝虫を一瞥し、目元を揉む。

「フリゲートが撃沈1、修復不能な大破が3。大型艦の大破1、中小破3。事実上の壊滅だ。クザンとおつるちゃんが居て、だぞ。信じられん」

 

 ガープは笑顔を消し、茶を啜る。

「船の被害のわりに人員の犠牲が……まあ、そう多くないことが救いじゃな」

 大抵のことを笑い飛ばす豪快な老傑も、死傷した同胞に触れる時まで笑みを浮かべることはない。

 

 旧友の気遣いに感謝しつつ、センゴクは大きく深呼吸して首を傾げた。

「ベアトリーゼが食したと思われるプルプルの実に関し、事前情報が大きく間違っていたことが今回の損害につながったようだが……あれは、触れたものを震わせるだけだろう?」

 

「ワシらが聞いた限りではな。しかし、どんな能力も使い手次第じゃ。ベアトリーゼとかいう小娘は完全に使いこなしていたっちゅうことじゃろ」

 ガープはばりぼりと煎餅を齧り、続ける。

「なんであれ、危険な奴を捕らえることが出来たんじゃ。良しとしよう」

 

「ああ。血浴のベアトリーゼの捕縛と天竜人の遺骸移送。とりあえずは片が付いた。ただし、ニコ・ロビンを逃してしまったのが不味い」

 センゴクの慨嘆に、ガープが野武士のように笑う。

「あの娘っ子に逃られるのは今に始まったことじゃなかろう。気にするな」

 

「世界政府やサイファー・ポールに嫌みを言われる身になってみろ」

 ガープを叱りつつ、センゴクは茶を口に運び、大きく息を吐いた。

 




Tips

フリゲート
 原作では船種があまり触れられないが、フリゲートは帆船時代から艦隊の狩猟犬として捜索追跡、連絡などに使われた。

大型艦
 原作の軍艦は本当にデカい。あのサイズだとパドルシップでも、そんなにスピードは出ないだろう。帆船なら言わずもがな。

オルビア
 ニコ・ロビンの亡き母の名前。
 我が子より研究を優先しちゃったママ。でも、確かに娘を愛していた。

ベアトリーゼの悪魔の実の能力。
 次回を待て。
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