彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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あああいさん、掟破りさん、金木犀さん、佐藤東沙さん、Ala_missさん、烏瑠さん、誤字報告ありがとうございます。

誤謬が判明したので修正しました。内容に大きな変化はありません(04/04)


150:獅子はメルヴィユの空に吠える。

 月光注ぐ海面を浮上航行する潜水艦ポーラータング号。その甲板にハート海賊団のクルーが勢揃いし、ぽかぁんと口を開けて夜空を見上げていた。

「空に島が浮いてる……」

「マジかよ……空島は本当にあったんだ……」

「御伽噺じゃなかったのか……」

 

 ハートの海賊団の誰もが空島の御伽噺を知っていた。

 船長のトラファルガー・ローも月光を浴びながら夜空を泳ぐ島から目が離せない。

 

 不意に幼少期の思い出が脳裏をよぎる。愛すべき妹ラミは空島があると信じていた。だってお兄様。お空に島が浮いているのよ? 素敵じゃない?

 

 可憐な妹はもういない。この世界の不正義と不誠実に殺されたから。

 心を刺す痛みがローを現実に引き戻す。ローはいまだ茫然と空を泳ぐ島を見上げているクルーへ叱声を飛ばした。

「お前ら、いつまで感動してんだっ! しっかりしろっ! 聞こえるだろう」

 

 風に混じって届く戦闘騒音――それもかなり激しい銃声や爆発音は間違いなく、あの島から聞こえている。

 ローは精悍な顔立ちを険しく強張らせた。

「あそこは御伽噺に出てくるような島じゃねェ」

 今まさに人間が殺し合っている戦場だ。

 

       ○

 

 モッズと歩兵の群れは緊密に連携を保ち、海賊達を圧倒していく。

 

 耐爆スーツ染みた防護服と大口径機関砲を装備したモッズ達は、さながら二本足の装甲車であり、あらゆる脅威を大口径弾で破砕し、踏み潰す。

 

 強力なモッズ達を正面に据え、歩兵達はモッズの側背を援護しながら遮蔽物伝いに前進。チンピラ染みた木っ端海賊も多少腕の立つ海賊も統制射撃の弾幕で撃ち倒し、手榴弾や爆薬で吹き飛ばし、確認殺害の弾を叩き込み、銃剣で刺突。廊下や階段を確実に制圧し、虱潰しのように部屋を一つ一つ掃討していった。

 

 時に覇気使いが姿を現すも、兵士達は弾幕で押し切る。

 市井に出回っている銃(どう見てもフリントロックだが連射できる謎の連発銃)の球形鉛玉ならば武装色の覇気をまとうことで防ぐことも易い。

 だが、エッグヘッド製の自動小銃から繰り出される弾は高初速のスチールコア弾芯尖頭弾頭だ。貫徹力も命中時の着弾衝撃も桁が違う。生半な武装色の覇気では防ぎきれない。最初の数発を防げても、持続射撃で押し切られ、身体を撃ち抜かれてしまう。モッズの放つ大口径弾の弾幕なら言わずもがなだ。

 

 これは精鋭部隊が数に優る烏合の衆をシステマティックに屠っていく作業だ。

 彼らが通り過ぎた後に残るものは三つだけ。空薬莢と弾痕と海賊達の死体。

 

 中央管制室へ向かう“アントン”小隊も、実験施設へ向かう“ベルタ”小隊も、研究棟へ向かう“カエサル”小隊も、澱みなく前進し続ける。

 

 順調。まさしく順調。

 フランマリオン製モッズが強力で評価戦隊の兵士達が優秀だったからであり、ベアトリーゼが大食堂で大量の海賊達を拘束したためでもあり、くまが初手に武器庫を吹き飛ばしたゆえでもある。

 

 もっとも――

 この世界は超越的個人の武が集団に優ることが可能な世界であり……

 大海賊“金獅子”シキは伝説に語られるほどの強者だった。

 

     ○

 

 中央管制室に通じる廊下は照明が落ち、煤煙に満ちて暗い。

 頭をすっぽりと覆う金魚鉢型のヘルメットを被った兵士達は、ヘルメットから伸びるコードの端末を操作し、暗視に切り替える。

 

 小隊長が手信号を行い、兵士達が二分して廊下の両脇に並び直し、自動小銃の弾倉を交換。その間に3体のモッズ達が正面に立ち、管制室へ突入態勢を整えた。

 準備良し。

 小隊長が前進の手信号を行おうとした、その矢先。

 

 周囲に満ちていた煤煙が渦を巻き、廊下の奥へ流れていく。モッズと兵士達は瞬時に射撃姿勢を取り、引き金に指を添えた。

 廊下の奥に向かって流れた煤煙は収斂し、廊下の間取り一杯の巨躯を持つ獅子を形作っていく。

 

 異常な光景を目の当たりにしても、兵士達は動じない。懲罰部隊として過酷な任務と扱いに慣れている彼らは、異常現象程度に狼狽えない。機関砲を構えるモッズはそもそもそんな“高度な感情”を持ち合わせていない。

 

 不意に、廊下の奥で小さな灯が点り、暗闇の中に人影が浮かぶ。

 奇怪な影だった。頭頂部に舵輪が鶏冠のように生えており、上背はゆったりとした和装と相まって大きく見える。やけに細く見える両脚はなんと刀だ。

 そして、太い葉巻に点るささやかな火が照らす顔。老人とは思えぬほど活力と精気に満ちた髭面は、憤怒に歪み曲がっていた。

 最重要目標。金獅子のシキ。

 

 シキは紫煙を燻らせ、煤煙で作り上げられた巨大獅子を撫でた。瞬間、巨大獅子が黒く染まっていく。

「犬ッコロ共。覚悟は出来てるだろうなぁ?」

 

斉射(オープンファイア)ッ!!」

 小隊長の号令一下に20丁の自動小銃と3門の機関砲が火を噴き、シキへ向かって弾幕を叩きつける。

 

 が。

 銃弾の嵐は、武装色の覇気で塗り固められた巨大な黒獅子に全て弾かれ、シキに届かない。

 

「モッズ、抜刀っ! 第二班、閃光弾用意っ!!」

 小隊長は射撃を継続させながら、即座に手札を切る。

 3体のモッズ達は機関砲と背中の大型弾倉を即座に遺棄し、腰から手斧(トマホーク)を抜く。その刃先には海楼石が埋められていた。

 第二班の兵士達がパウチから閃光弾を取り出して安全ピンを抜き、投げる。

 

「突撃っ!!」

 小隊長の号令と同時に激烈な閃光と轟音が廊下の闇を消し払い、重装歩兵達が駆けだす。

 

「獅子威し“褐破(かっぱ)巻き”ッ!!」

 金獅子の雄叫びの下、漆黒の巨大獅子が突進する。

 

 モッズ達が迫りくる巨大獅子へ海楼石入りのトマホークを振るう。悪魔の実の能力者を封じる海楼石も、能力者が放出した現象そのものを打ち消すには至らない。圧倒的大質量を誇る巨大な黒獅子に、モッズ達の攻撃はそれこそ窮鼠の牙、蟷螂の斧でしかなく。

 

 巨大な黒獅子にモッズの巨躯が撥ね飛ばされ、踏み潰され、

「退避ーッ!!」

 小隊長が絶叫し、部下達も即応して巨大黒獅子から逃れようとするも、時すでに遅し。

 海賊達を一方的に狩り殺してきた評価戦隊の兵士達は、一瞬で蹂躙された。

 

 絞られた雑巾のようにあり得ないほど身を捻じ曲げた者。身体中の関節が不可解に曲がった者。車に轢かれた蛙みたく体を弾けさせた者。身体が千切れてしまった者……圧倒的質量の激突に『体を強く打って死亡』した兵士達に交じり、生き長らえてしまった兵士達が苦痛の悲鳴を上げながらも、腰の拳銃を抜いてシキへ銃口を向ける。

 戦意からではない。忠誠心からではない。他に生き残る術がないことを、知っているからだ。

 

「犬ッコロにも意地があるってか。笑わせるんじゃあねェ」

 シキは紫煙を燻らせ、冷酷に手を振るう。兵士達を蹂躙して霧散しかけていた黒獅子がいくつもの小さな獅子頭に分裂し、まだ生きている者達へ襲い掛かって噛み殺していく。

 

 と。撥ね飛ばした重装歩兵達がむくりと立ち上がる。

 耐爆スーツ染みた防護服が裂け千切れたり、ヘルメットが脱げ落ちたり、片手がもげたり、背骨が折れて体が曲がったりしているが、三体のモッズは苦悶一つこぼさず手斧を握っていた。

 闘志や根性があるからではない。そういう風に”作られている”からだ。

 

「人形……いや虫けらか」

 シキは真実を見抜く。

 

 フランマリオン製旧世代型モッズは”量産”した素体を機械化したサイボーグだ。有機物と無機物を、肉と金属を無理やりに結合させ、改造で生じる精神破綻をロボトミー的精神外科手法で解決してある。

 つまりはこの旧世代型モッズ達はシキの指摘通り、兵隊蟻や働き蜂と同じだ。

 

 シキは義足代わりの業物を振るい、三体のモッズを瞬く間に撫で斬りにして始末する。兵士達の骸とモッズ達の残骸を一瞥し、忌々しげに吐き捨てた。

「犬ッコロに虫けら。本当にイラつかせやがる……っ!」

 

       ○

 

「“アントン”小隊、連絡途絶」

 研究棟を攻略中の”ベルタ”小隊。電伝虫を背中に担いだ兵士が報告し、

「おそらくシキと遭遇したのね」

 ステューシーは冷徹に状況を受け容れ、何事もなかったように歩みを再開する。

 

「まぁ良いわ。ベアトリーゼとくまがいる限り、シキがこちらに来ることはない。このまま予定通りに進める」

 淡々と言葉を紡ぎ、ステューシーは使用人へ命じるように“カエサル”小隊の面々へ指示を下す。

「班単位で散開。第一、第二班にそれぞれモッズを与える。研究棟の正面と裏手を確保して敵を防ぎなさい。私は単独で動く」

 

「危険では? 警護をつけた方が……」

 小隊長が提案するも、ステューシーは仮面で覆っていない口元を薄く歪めた。

「問題ないわ。何もね」

 

      ○

 

 狂気の坩堝と化した大食堂のど真ん中で、血浴の蛮姫は小休止がてら、酒と食い物を摘まみつつ海賊達を――悪夢に心砕かれてうずくまる者、悪夢に囚われて茫然自失状態で立ち竦む者、悪夢に体を蝕まれて動けぬ者、悪夢に正気を奪われて狂乱する者を眺め、悪意を込めて嘲っている。

 

 ベアトリーゼの海軍と世界政府に対する感情が敵意と嫌悪なら、海賊達に向ける感情は悪意と害意だ。そこに情けも容赦も一切存在しない。

 

 と、見聞色の覇気で“到来”を捉え、ベアトリーゼは手にしていた酒瓶を投げ捨てて腰を上げる。

 同時に大食堂の扉が開き、金獅子シキが姿を現す。

 

 白骨海域で見せていた陽気さは欠片もない。憤怒でバッキバキに歪む老獅子の面構えに、ベアトリーゼは酷薄に口端を吊り上げた。

「おやおやおや。先日と違って今日は良い顔してるじゃないか。人生の苦みがよく表れてるぞ、鶏ジジイ」

 

「こいつらに何をしやがった」

 シキが憎まれ口を無視して質せば。

 

「夢を見てるのさ。絶対に見たくない悪夢をね。想像し得る一番怖いものや恐ろしいもの。辛すぎて心の底に封印してしまった記憶。苦しすぎて忘れてしまおうとした思い出。単に感覚野がヨレて動けなくなる奴もいるが……まぁ、使い物にならなくなるって点じゃ大差はない」

 ベアトリーゼは周囲を見回しながら朗々と言葉を編み、怒れる金獅子を嘲った。

「あんたは悪夢を見なかった? いや、今まさにこの状態があんたの悪夢か。20年の間、シコシコシコシコ準備してきた野望が全部パァだもんなぁ」

 

 シキは大きく、とても大きく息を吐き、

「この俺を侮るんじゃねェ」

 双眸に殺意を、顔貌に憤怒を、体躯に暴威を湛えた。

「これからテメェも、あの奴隷上がりのガキも、政府の犬ッコロ共も、一人残らずぶち殺す。テメェらの首を島船の船首からぶら下げてやる」

 

 気の弱い者なら胆が潰れてしまいそうな殺気の暴圧。しかし――

「わ、怖ぁい」ベアトリーゼはおどけて笑い、ヘルメットのバイザーを閉じた。獲物を前にしたネコ科の猛獣みたく筋肉にテンションを掛けていく。

 

 金獅子は傲然と仁王立ちして蛮姫を睥睨し続ける。

 両者の意識から悪夢に食われた海賊達の存在が消える。酒場に立ち込める酒と料理と血の匂いが遠くなる。緊迫感で大食堂の空気が張り詰め――

 

 ベアトリーゼのしなやかな肢体がゆらりと揺らぐ、瞬間。

 遊撃巧律動(アインザッツリュトメン)で金獅子の意識が兆しを惑わされた。瞬きも追いつかぬわずかな間隙に、蛮姫が影すら置き去りにする疾風迅雷の電磁加速パンチを放つ。

 

 大食堂内に雷鳴の如き轟音と高圧力波が荒れ狂い、衝撃に調度品や酒や料理が吹き飛び、悪夢に呑まれた海賊達や屍が薙ぎ払われる。衝撃圧力で蒸発した血や酒や水が生臭い蒸気となって漂う中――

 

 眼前の古豪大海賊は仁王立ちしたまま微動にしていなかった。それどころか、新世界の強者達すらただでは済まぬだろう激甚の一撃が、赤黒い稲妻に阻まれて金獅子の体躯へ届いてすらいない。

 

「覇王色……っ!」

 傷だらけの多眼式ヘルメットの中からベアトリーゼの歯噛みが漏れる。

 

 シキの形相が大きく激しく歪み、

「今度は前回みてェな遊びじゃねェ……覚悟しろ、雌犬ッ!!」

「!」

 覇王色の覇気をまとった剛拳が放たれた。

 

      ○

 

 本殿の大食堂が大きく爆ぜ、壮絶な衝撃が研究棟や実験施設を強く揺さぶり、吹き飛ばされた本殿屋根の建材が雨のように降り注ぐ。粉塵が入道雲のように立ち昇る中、しなやかな影が本殿の屋根へ勢いよく降り立ち、瓦がばきゃりと踏み砕かれた。

 

 赤黒のタイトな潜水服に身を包む蛮姫は、大きく損傷した多眼式ヘルメットを脱ぎ捨てた。ぼさぼさの夜色ショートヘアが風を浴びて踊る。

 つうっと垂れてきた鼻血を拭うも止まらない。ベアトリーゼは舌打ちする。かすめただけで体の真芯まで響く。直撃していたら冗談抜きで死んでいたかもしれない。

 

 覇王色の覇気をまとった拳打の威力は、白骨海域で戦った時の比ではない。脅威度の認識を更新しつつ、同時に幾つかのタスクを並列処理し始めた。タスク処理を進めつつ、金獅子がこれほどの覇気をどこまで維持できるかと推察する。

 

 覇気の使用は体力気力を大きく消耗する。この世界の最上位層であっても無限に使い続けられるわけではない。シキの同世代であるガープ、センゴク、つる、ゼファー、レイリー、白ひげ、ビッグマム……彼らですら覇気の全力行使は戦いの要所に限っている。

 

 金獅子はベアトリーゼだけに全力を費やすわけにはいかない。王下七武海とイージス・ゼロを相手にする分の力も残しておかねばならない。たとえ、ベアトリーゼを倒してもそこでガス欠になったら、くまとステューシーにやられる。

 

 だから短期決戦で早期決着を図るべく、初手から覇王色の覇気というカードを切った。

 手早く片付けるために。

 

 ベアトリーゼはビキッと暗紫色の双眸を吊り上げる。

「舐めやがって」

 

 毒づいた直後。金獅子が屋根の上にふわりと舞い降りる。膝から下に装着された業物の切っ先が瓦に当たり、澄んだ音色が生じた。禿げ上がった頭頂部に生える舵輪を撫で、シキは冷笑をこぼす。

「ジハハハハハ。どうした? 可愛い面が固くなってるぜ、雌犬」

 

 ちっと覇王色が使えるからって調子に乗りやがってクソジジイ……っ!

 かぁっと頭に血が昇りかけるも、冷徹部分が感情を抑え込む。いや、落ち着け。この鶏ジジイはガープのジジイに比べりゃマシだ。

 

 ああ。そうだ。この鶏ジジイは侮れないが、ガープとやり合ったような理不尽も不条理も感じない。

 この鶏ジジイは強い。

 でも、それだけだ。

 

「昔、ガープとやり合ったことがあるけれど」

 ベアトリーゼは鼻血で紅く染まった口元を、にたりと歪める。

「お前よりよほど強かったぞ。海賊王ロジャーと鎬を削り合った“英雄”だけあってな」

 

「……口の減らねェ雌犬だ」

 シキの顔が大きく強張り、再び眉目がめきめきと吊り上がった。

 

 ゴール・D・ロジャー。この世界で海賊王へ至った唯一の男。大海賊時代という物語を遺した超大迷惑。そして、シキが何を措いても屈服させたかった相手。

 ロジャーのライバルはテメェじゃなくガープだと迂遠に嘲られ、シキは躊躇なく大技を始める。周囲の屋根瓦を大量に宙に浮かせ始めた。

「獅子威し“内裏地巻き”ッ!!」

 

 大量の屋根瓦がタイル画のように大きな獅子頭を形成して襲い掛かる中、ベアトリーゼはプルプルの実で干渉していた周辺大気に“着火”。

 

 くまの“爆撃”による火災で生じた熱流。シキの覇王色の覇気による拳打で激しく荒れ狂った大気の分子運動。屋根をぶち抜かれた大食堂という“地形”。そこへやたら強く冴える蛮姫の異能。全てを加味した結果。

 

 メルヴィユ全土に大気が張り裂ける鳴動が轟き渡った。

 金獅子海賊団本殿の一角――大食堂は自らを破壊しながら、ロケットストーブのように爆発的な上昇気流を生み出して何もかも、それこそ大食堂の柱も床板も壁の漆喰も屋根瓦も窓のガラス片も、料理や皿も酒や杯も、もう死んでいる奴もまだ生きている奴も、一切合切をノックアップストリームが突き上げるようにメルヴィユの夜空へ高々と吹き飛ばす。

 

 もちろん、蛮姫と金獅子だって例外じゃない。

 さながら土石流の中だ。おびただしい瓦礫と攪拌されるように上空へ押し流されながらも、ベアトリーゼは無数の瓦礫や建材を足場に乱流の中を跳躍し、無言でシキへ襲い掛かる。

 

 フワフワの実の能力者であるシキは、島一つどころか群島丸ごと天高く浮かべられるほどの力を持つ。浮力の強弱で水や土を獅子のように形作り、自在に駆け巡らせて覇気をまとわせて硬化することで銃弾を防ぎ、肉を食いちぎらせることさえ出来る。

 疑う余地もなく能力覚醒者であり、超一流の覇気使い。

 

 しかし、自ら推進力を生み出せず位置エネルギーと運動エネルギーを制御する以外に手がないシキに、この乱気流へ抗う術はない。

「侮るな、と言ったぞ」

 はずだった。

 

 シキは再び全身に赤黒い稲妻を帯び、両足に装着した名刀へ覇王色の覇気をまとわせ、

「獅子・千切谷ッ!!」

 飛ぶ斬撃の乱れ撃ちを繰り出す。

 

「!」

 ベアトリーゼは瞬間プラズマジェットを放射、空中で急ブレーキ。急制動の大荷重に血液と内臓が慣性に引きずられながら、近くに浮かぶ海賊を足場にしてプラズマジェットで急上昇(ズームアップ)。足場にされた海賊が真っ二つに千切れた直後。

 

 覇王色の覇気をまとった斬撃の嵐が暴虐的上昇乱流を斬り払い、周囲の瓦礫や有象無象を一瞬で消し飛ばし、金獅子は傲然と空中に佇む。

 

「―――この、クソジジイッ!」

 宙を舞う蛮姫が眼下の大海賊を睨んで額に青筋を浮かべて犬歯を剥く。

 

 宙を踊る金獅子が頭上の女凶徒を見据え、獰猛に吠えた。

「俺を誰だと思ってやがるっ! この世界を支配する男、金獅子のシキだっ!! テメェら犬ッコロで測れると思ってんじゃねえっ!!」

 

 メルヴィユ上空。輝く月と煌めく星々を背景に、蛮姫と金獅子の空戦が始まる。




Tips
トラファルガー・ロー
 原作キャラ。
 なんだかんだ来ちゃった。

 トラファルガー・ラミ
  原作キャラ。
  ローの妹。故人。珀鉛病に罹患した末、浄化作戦で殺害された。

フランマリオン製旧型モッズ
 オリキャラ。
 元ネタは『砂ぼうず』に登場した『白骨都市の番人』
 暗黒時代末期に生み出された機械の兵士で、曰く――何の疑いも抱かず死の恐怖に足を竦めることなく命令を実行し、後悔に苦しむこともない完璧な兵士。
 RPG7の直撃で撃破できる模様。

ステューシー
 原作キャラ。
 何やら暗躍を始める模様。

金獅子のシキ。
 劇場版キャラ。
 レジェンドは伊達じゃない。

ベアトリーゼ。
 レジェンドの本気にちょっとびっくりしている。
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