彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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切りの良いところが無かったので長めです。ごめんよ。

佐藤東沙さん、烏瑠さん、nullpointさん、誤字報告ありがとうございます。


151:メルヴィユの空を血に濡らし。

 月と星々の輝く夜空で2人の超人が、命を削り合っていた。

 もはや言葉のやり取りはない。ただ互いに殺意と戦意で相手を駆逐すべく躍動する。

 

 蛮姫は振動を操ってプラズマジェットを放射し、いまだ宙に散乱するおびただしい瓦礫や建材、有象無象を足場に飛翔。

 金獅子は浮力を自在に駆使し、高高度の気流を読みながら空を縦横無尽に駆ける。

 

 シキは空を走りながら周囲の瓦礫やその他を能力で獅子に変え、誘導弾の如く放ち。

 ベアトリーゼは宙を舞いながらダマスカスブレードで獅子達を撃墜。背中に担いでいた自動小銃で返礼の掃射を放ち、高度を一気に下げて低層雲の迷宮へ飛び込む。

 

 小銃弾を左足の斬撃で斬り払い、シキも続いて雲中へ突入。

 夜闇に加えて雲が視界を遮る中、発砲光が輝いて中口径弾が精確に襲い掛かってくるが、これを武装色をまとった拳と周囲の雲を変じさせた獅子で迎撃。

 拳打で弾丸が撥ね除けられ、弾丸を浴びた獅子が爆ぜる。

 

 刹那、雲の陰からしなやかな肢体が猛獣のように迫った。

 二振りのダマスカスブレードと名刀桜十と木枯らしが激突し、鮮烈な火花が生じ、闇に慣れた両者の目を焼く。

 

 高速で落下し暴力的な相対気流に翻弄されながら、ベアトリーゼとシキは交叉を繰り返し、格闘剣戟を重ねる。削られた鎬が火花となって輝き闇に散る。

 

 蛮姫が上下左右あらゆる姿勢から致命の拳打足蹴を繰り出せば。

 金獅子は必殺の打撃と両足の名刀で老練の剣技を披露する。

 

 射撃と打撃と斬撃が幾合も交叉し、互いの覇気が幾度も激突を繰り返す。

 小銃弾と手榴弾がばら撒かれ、獅子の群れが躍り、肘剣と名刀が火花を散らし、拳打足蹴がぶつかり合う。

 

 破ける蛮姫の潜水服。千切れる金獅子の和装。斬り裂かれる小麦肌。打たれ腫れる老体。雲中に飛び散る超人達の血。

 

 ベアトリーゼはプラズマジェットを勢いよく放ち、水面から飛び出すように雲外へ脱し、月を背に優美な宙返りを打つ。

 

 視界を満たす夜空と雲の迷宮と夜の海。気づけば、戦場がメルヴィユから離れていた。気流に流されていたらしい。

 

 ――万全な状態で挑んでなお、仕留められねェ。クソジジイめ。伝説は伊達じゃねェってか。

 

 ざけんな。

 

 絶対零度の殺意で身体を満たし直す。

 鼻と口元から血を滴らせ、斬られ削られた身体の各所から血をこぼし、蛮姫は雲中の狭間を飛ぶ金獅子へ向け、頭から飛び込んでいく。

 

 今夜、この空で奴の伝説を必ず終わらせる。

 

     ○

 

 ここで時計の針を戻す。

 ベアトリーゼとシキが大食堂を吹き飛ばして空中戦を始める少し前。

 王下七武海“暴君”バーソロミュー・くまは自身の良心に基づき、強制徴集されていたメルヴィユ先住民を解放し、金獅子海賊団本拠点の裏手へ逃していた。

 

 囚われていた先住民達、特に女性陣は身長7メートルに達するくまに当初怯えていたものの、海賊共を鎧袖一触に蹴散らし、皆を護って安全な場所へ逃す勇姿に信用を抱いたようだ。

 本殿と研究棟と実験施設で戦争交響曲が奏でられる中、くまの目論見は順調に進んでいた。

 

 粗方の先住民達が拠点裏手の外へ逃れた時、メルヴィユ先住民の乙女は羽の生えた右腕で実験施設を指し示し、くまへ訴えた。

「実験施設の大砲を破壊しないと大変なことになっちゃう」

 

 ステューシーも事前ブリーフィングでたしかそんなことを話していたが……

「分かった。なんとかしよう。君達はこのまま裏手に避難して隠れていろ」

 くまは乙女に背を向け、ニキュニキュの実の力を使って実験施設へ向かって飛ぶ。

 

 空間跳躍のようだが、実際は超々高速の飛翔に過ぎない。遮蔽物があれば激突してしまう。そのため、長大なかまぼこみたいな実験施設の敷地外れに着陸。歩いて建物へ近づいていく。

 

 実験施設からは戦闘騒音が聞こえてこない。既に“ベルタ”小隊による制圧が済んだらしい。実験施設の正面玄関にはモッズが門番のように控えていた。モッズの傍らには焚火が熾されており、兵士達が運び出してきた資料や記録を火に投げ込んでいる。

 

 よくよく見れば、玄関脇の壁際に夜勤中だった警備と技術者の死体が乱雑に倒れていた。捕らえた者達を壁に並べ、一斉射を浴びせたようだった。

 

「ここはもう制圧済みだぞ。あんたらが派手に暴れたおかげか、随分と手薄だったからな」

 小隊長がくまに声をかけ、今爆破の準備中であることを説明して、頭をすっぽりと覆うヘルメットの中から苦笑いをこぼした。

「せっかく来たんだ。見物していけよ。凄いぞ」

 

 小隊長に促され、くまは施設の正面玄関を潜り、思わず呟く。

「これは……」

 

 その大砲はくまが知るどんな大砲よりも巨大で、どんな大砲とも形状が違った。

 かまぼこ型の長大な施設に鎮座する大砲はなんと口径600ミリ。砲身は全長120メートルに達する。しかも砲身にはムカデの足みたくいくつもの部品が生えていた。

 

 巨大ムカデ砲を目の当たりにし、くまは黒鉄の巨砲に思わず圧倒された。

 その巨大さや重厚感に、ではない。巨砲が発する濃密な憎悪と怨恨の気配に、だ。

 

「超長距離砲『獅子咆哮(ライオンシャウト)』。キチガイの仕事だよ」と小隊長が呆れた調子で言った。

 

 火砲の傍らに置かれている砲弾もデカい。弾頭重量10トンのクロームパラジウム鋼製完全実体弾。

 ただし、シキのフワフワの実の力で砲弾自体に浮力が与えられており、実体質量に対して計測重量が非常に軽い。

 

 この砲弾はムカデ砲による段階加速を与えられ、極超音速に達する砲口初速で射出され、自身の浮遊性と相まって極めて長大な距離を飛翔する。しかも、質量そのものが変化したわけではないので、着弾時の衝撃威力は10トンの質量に基づく。

 

 もちろん、軽量飛翔体の宿命として気流や大気状態の影響を受け易く、命中精度は目隠しして投げるようなもんだが、ここでチレン女史が登場する。

 惑星流体力学に通暁する才媛チレンは、環境と天候を要素に入れた照準システムを作成。理論値では弾道ミサイル並みの射程で命中誤差200メートルまで収まるという。砲弾の威力を考えれば、200メートル程度の誤差は無いに等しい。

 

 だが、開発した者達にとって最も重要なことは、高高度に到達可能なメルヴィユとこの火砲があれば、レッドラインの頂上にある聖地マリージョアを直接砲撃できるということだった。

 世界政府と天竜人に対する憎しみと恨みと怒りと復讐心。その顕現がこの『獅子咆哮(ライオンシャウト)』だ。

 

 その超々巨大な大砲の各所に、“ベルタ”小隊の兵士達が爆薬を取り付けていた。

「……可能なら確保しろという命令だったはずだ」

 くまの指摘に、小隊長はヘルメットの中で鼻を鳴らす。

「政府も軍ももう十分クソ塗れだ。このうえ新しいクソを与える必要はないだろ」

 

 軍と政府に対する嫌悪感のこもった回答を返され、くまは分厚い眼鏡の奥で密やかに目を丸くした。この将校は自身の良識から、この巨砲が政府や海軍の手に渡ることを認めず、独断で破壊しようとしているのだ。既に懲罰大隊にある身。処刑もあり得るだろうに。

 

 好奇心を刺激され、くまは尋ねてしまう。

「……なぜこの部隊に?」

 

「市民ごと海賊を殺そうとしたバカな上官を殴って止めたら、抗命罪と上官暴行罪だとよ」

 爆破準備が終わり、小隊長は部下とくまを伴って外へ出た。

 

 と、その時。

 空からピンク衣装の赤毛ゴリラ(喩えではなく本当に類人猿のゴリラだ)が襲い掛かってきた。

 金獅子海賊団幹部スカーレット隊長、推参。

 

        ○

 

 実験施設屋外でくまとゴリラが戦っている頃。

 ステューシーは単独で研究棟内を進んでいた。

 二丁拳銃使い(アキンボ)のように両手で飛ぶ指銃を繰り返し、完全無音の銃撃で次々と命を刈り取りながら、レッドカーペットを進むセレブリティのような足取りで研究棟の奥へ向かっていく。

 

 そして、目的の研究室前の廊下で、最も用向きがある人物と出くわした。

「テメェ、サイファー・ポールだな!? 何しに来やがったぁっ!!」

 怒れる青色ピエロは世界有数の微生物学者ドクター・インディゴ。本作戦における“ステューシーの”最重要目標。

 

 ステューシーは仮面の奥で碧眼を細めて告げた。

「ヒューロン」

 

「――フランマリオンかっ!」

 ピエロとしては三流でも科学者としては超一流のインディゴは、聡明な頭脳から即座に正解を弾き出す。なぜなら裏社会に身を置く超一流微生物学者は知っていた。

 天竜人フランマリオン家が如何にマッドな連中なのかを。

 

「俺の研究は奪わせねェぞ! ケミカル・ジャグリングッ!!」

 即座に戦闘を決断したインディゴは、掲げた手から蛍光色の球状液体をいくつも放出し、ステューシーへ向けて爆発性化学薬液の弾幕を放つ。

「くたばれ、売女ッ!!」

 

「紙絵・残身」

 海軍格闘術“六式”の上位奥義(オーバーアーツ)。自身の残像を囮に使い、ステューシーはケミカルな弾幕を易々と掻い潜ってインディゴへ肉薄し、愕然としているインディゴのどてっぱらに電光石火の左拳を叩き込む。

 

「うっっぎゃあああああっ!?」

 青色ピエロが悲鳴を上げてぶっ飛び、ゴムボールのように廊下を跳ね回った後、研究室のドアをぶち破った。

 

 瞬く間に三流道化を無力化せしめ、ステューシーは肩に掛けたコートをなびかせながらドアが砕けた研究室へ足を進め、見た。

 ガラスケース内に浮かぶヒューロンの乙女を。

 

「――どういうこと」

 仮面の奥で碧眼が揺れ、露わになっている口元が微かにわななく。万事に冷静なステューシーをして狼狽を抑えきれない理由。

 

 それはガラスケース内に浮かぶヒューロンの乙女が、ベアトリーゼに酷似していたからだ。いや、酷似という次元ではない。生き写しだ。

 満月みたいな金色の瞳を除けば、不活性液の中で揺蕩う夜色の髪も、小麦色の肌も、物憂げな顔立ちも、両断された上半身のしなやかな体つきも、全てがベアトリーゼと瓜二つ。

 しかも――ガラスケース内で不活性液に浸かる乙女は、未だ生きているかのように肉体の“鮮度”が保持されている。

 

 ステューシーは眉目を大きく吊り上げるや、研究室の床に大の字で伸びているインディゴの許へ歩み寄り、ハイヒールの鋭い踵で股間を思いっきり踏みつけた。

 

「ンッギャアァアアアアッ!?」

 ケツを蹴り飛ばされた豚みたいな悲鳴を上げ、インディゴが覚醒した。人によっては御褒美だが、インディゴにとっては違うらしい。おびただしい脂汗を流しながら激しく苦悶する。

 

「このヒューロンについて説明しなさい」

 ステューシーは覇気で漆黒に染めた右手人差し指を突きつけ、氷より温度の低い声でインディゴに命じる。

「今すぐ」

 インディゴに否と答える余裕はなかった。

 

 ・・・

 

 ・・

 

 ・

 

 そして、青色ピエロが語った内容に、ステューシーは再び強く驚愕して仮面の奥で碧眼を見開く。

 

 貴婦人の動揺。その間隙をインディゴは見逃さない。

「食らいやがれっ!!」

 動揺するステューシーの不意を突き、身を大きく捻ねってハイヒールから逃れると即座に化学液体弾を炸裂させた。

 

「小賢しい真似を」

 咄嗟に六式体術“剃”を用いて爆炎から逃れ、苛立ちに駆られたステューシーが文字通り犬歯を伸ばして牙を剥く。白コートがばさりと脱げ落ち、大きく開かれたミニドレスの背中から蝙蝠の翼が広げられた。

 

 さながら女悪魔と化した白い貴婦人に、青色ピエロは怯むことなく化学液体弾を構える。

「能力者がナンボのもんじゃいっ! 掛かってきやが」

 ドクター・インディゴが気焔万丈の啖呵を切ろうとした、その一瞬。

 研究室の壁がぶち破られ、赤毛ゴリラが吹っ飛んできて――

「れええええええええええええええええええええっ!?」

 青色ピエロを巻き込みながら反対側の壁を突き破り、そのまま島外へ向かって吹き飛んでいった。ドップラー効果で置き去りにされた悲鳴が溶けていく。

 

「えぇ……」

 振り上げた拳の下ろし先が突然消えてしまい、さしものステューシーも困惑。

「大方、くまが吹き飛ばしたんでしょうけれど……確実に殺し損ねたじゃない」

 ぶつぶつと文句をこぼしながら牙と翼を引っ込めた。脱ぎ捨てた白コートを拾い上げて埃を払い、肩に掛け直す。

 

「まぁ……良いわ。小物の始末より重要なことがあるものね」

 大きく息を吐き、ステューシーはガラスケースに収められているヒューロンの乙女に向き直った。

「フランマリオンへ渡すにはあまりにもリスキーね……」

 口元に右手を添えながらステューシーが悩ましげに思案する、その時。

 

 夜空が白々と爆ぜ、壁に空いた大穴から強烈な閃光と轟音が襲ってきてステューシーは思わず手をかざす。

「もう! 今度は何?」

 思わずぼやきつつ、ステューシーは見聞色の覇気を広げて―――

 

 端正な顔から血の気を引かせた。

 

      ○

 

 相対気流に夜色の髪を振り乱されながら、ベアトリーゼはプラズマジェットを曳いて夜空を駆ける。

 

 自動小銃は既に弾切れで遺棄済み。貰った打撃は4つ。かすめた斬撃は7つ。体力気力は問題ないが、消耗は激しい。

 何より、仕留めきれない。

 金獅子の老獪な立ち回りと老練の戦術、覇王色の覇気で決定的な機を捉えられず、プラズマ系の大技を狙う間を得られない。

 

 対するシキの形相にも余裕はない。

 企図していた短期決着は水泡に帰していた。覇王色を駆使しての全力戦闘はシキを大きく消耗させている。

 体のあちこちに負った手傷が、シキが老いた獅子であり、20年余のブランクを未だ払拭できていないことを雄弁に語っていた。

 

 ゆえに、シキはもはやメルヴィユも王下七武海もイージス・ゼロも毛頭にない。

 眼前の雌狼を確実に殺す。たとえ何を失うことになろうとも、この女だけは殺さねば、金獅子たる尊厳と矜持が保てぬ。

 

 蛮姫と金獅子の空中戦が膠着的消耗戦の向きを見せ始めた、矢先。

 

「「ああああああああああああああああああああああああああああっ!!」」

 悲鳴を上げて吹っ飛んでいく青色道化と赤毛類人猿。

 

「お婆ちゃんッ!?」吃驚を上げるシキ。

「何でだよっ!!」ピエロがツッコミを吠えながらゴリラと共に夜の彼方へ消えていく。

 

「隙ありゃあっ!!」

 ベアトリーゼはここぞとばかりにシキへ襲い掛かり、三回転捻りの三連斬撃を浴びせる。

 

「漫才の最中を襲うんじゃねェよっ!!」

 咄嗟にバク転するように両足の名刀で三連斬撃を防ぎ、シキが姿勢を立て直す。

 

 その一手を制すように、ベアトリーゼは大気を高速振動させた。

 網膜を焼き潰さん限りの白光と鼓膜を突き破らんとする轟音。

 

 感覚どころか神経や脳機能すら麻痺させられるほど強烈な電磁プラズマを至近で浴び、シキが光と音の暴虐に動きが鈍る。

 

 その機を逃すことなく、蛮姫が急迫。高周波を孕んだ漆黒の右蹴撃。

 かすめただけでも頭蓋を弾けさせるほどの威力を孕んだ一撃は、しかして金獅子の頭を外して横髪を千切り飛ばすのみ。

 

「逃すかっ!!」

 右蹴りの余勢を駆り、ベアトリーゼは身を捻りこみながら追撃の左斬撃。雷閃の如き一刀を、シキは覇王色の覇気を込めた右拳で殴り払う。

 

 周囲の雲が弾け飛ぶほどの衝撃。プラズマジェットの噴射で堪えたベアトリーゼと違い、フワフワの実の性質からシキは姿勢を大きく崩した。

 

 殺った!

 ベアトリーゼが更なる追撃へ移る、その機先。

 

「がっつきすぎだぜ、雌犬」

 歴戦の古強者が老獪な悪意を剥き出しにした。

 シキの背――ベアトリーゼの完全な死角から、雲で形成された獅子の爪撃が繰り出され、虚を突かれたベアトリーゼは一拍対処が間に合わず。

 

 鋭爪が端正な顔を捉え、暗紫色の双眸を引き裂いた。

 

「ぃっぎっ!?」

 目は小さなゴミが入っただけでも熾烈な痛みを発する繊細な器官。そんな眼球が引き裂かれた痛みは例える言葉が無いほど凄まじい。

 

 それでも、蛮姫は視覚を不可逆的に奪われた激痛と本能的恐怖を、戦意と闘志でねじ伏せる。

「っっってぇなっ!! このクソジジイッ!!!」

 おまけに病的な冷徹さを発揮し、瞬時に失われた目の代わりに見聞色の覇気を駆使。金獅子の位置を捉え、眼窩から大量の鮮血を噴出させながら右拳・肘剣・左後ろ回し蹴りの三連コンボを繰り出す。

 

「目を潰されて、なおかっ! テメェ、イカレてるぞっ!」

 毒づきながら攻撃を避けて大きく距離を取り、

「見聞色の覇気で見てるようだが、目を失った代償は甘かねェ。これで詰みだ」

 シキは周囲の雲を獅子の大群に変え、さらに形成した大量の獅子へ武装色の覇気をまとわせていく。

 

 目を失った敵を遠間から高威力の物量で圧し潰すというわけだ。石橋を叩き壊して鉄橋を掛け直す如き執拗な冷徹さ。これこそ金獅子シキの強み。

 

 アンニュイ顔と髪を鮮血で真っ赤に濡らしながら、ベアトリーゼは絶叫した。

「くまぁっ!! “そいつ”を今すぐ寄越せェっ!!!!」

 

「何を言って――」

 怪訝そうにシキが強面を歪めた、直後。

 

 見聞色の覇気で蛮姫と金獅子の死闘を観測していたくまが、即座に求めに応じた。壁をぶち破りながら実験施設内へ飛び込み、巨大ラックに収まっていた“そいつ”のケツを思いきり引っぱたき、ニキュニキュの実の力で超高速射出する。

 

 そして、実験施設の天井が爆散し、口径600ミリ砲弾重量10トンのクロームパナジウム鋼製実体弾がベイパーと衝撃波を曳きながら一直線に飛翔してくる。

 

獅子咆哮(ライオンシャウト)の砲弾っ!? ニキュニキュの実のクソガキかっ!!」

 シキは咄嗟に急上昇して砲弾をかわす。衝撃波に大きく姿勢を崩されるも、それだけ。

 

 否。それは決定的な失策。砲弾をかわすのではなく、撃墜すべきだったのだ。

 

 砲弾の狙いは金獅子ではなく、

周波衝拳(ヘルツェアハオエン)ッ!!」

 蛮姫は“狙い通り”に迫りくる巨大砲弾へ神速の右正拳を叩き込む。

 

 高運動エネルギーを持つ大質量の硬質金属体に激突し、右腕は武装色の覇気を高密度でまとってなお、皮膚が裂け、肉が弾け、骨が砕ける。ダマスカスブレードが装具に引っ掛かって辛うじて落下を防ぐ。

 

 折れた橈骨と尺骨、上腕骨が皮膚も潜水服も突き破り、肘の関節が割れて歪むも、ベアトリーゼは千切れた筋肉で強引に拳を撃ち抜く。

 

 同時に最大出力の周波振動と砲弾を構成する金属原子そのものを振動させ、激突で生じた熱エネルギーと共鳴させることで、砲弾内に高熱と圧力波を生じさせる。

 

 さすれば。

 一瞬で融解した10トン分のクロームバナジウム鋼が飛散し、融解した鋼は秒速数千メートルで飛散する過程で冷やされて再硬化。散弾となってシキに襲い掛かる。

 

「この、くそがきゃあっ!!」

 10トン分の鋼鉄による超高速かつ高密度の大弾幕に、シキは迷うことなく形成した黒獅子の群れを飛び込ませる。が、とても打ち消しきれない。全力で覇王色と武装色の覇気をまとい、鋼の豪雨から身を護る。

 

「ぐぅおおおおおおおおおおおっ!!!」

 一瞬でも覇気を弱めれば、肉を削がれ、身を貫かれ、臓腑を抉られ、骨を砕かれ、命を擦り潰される。フワフワの実の浮力も弱められない。この鋼の雨はシキを数千メートル下の海へ叩き落すに十分な物量と威力がある。

 ひたすらに身を守り、耐え抜くしかない。

 

 その隙を見逃すほど、蛮姫は甘くない。両眼を失い、右腕が破壊されてなお、プラズマジェットを放射してシキへ向かって真っすぐ突撃。左拳を構える。

 

 金獅子へ急迫する一瞬。蛮姫は持てる最高速度で思考する。

 全力で殴るだけじゃダメだ。

 奴の覇王色と武装色の守りをぶち抜いて命を奪うだけの威力を。

 運動エネルギーと質量、筋肉の出力、覇気と異能。全てを乗算して最大効率で最大威力で発揮する一撃を。

 

 刹那、ベアトリーゼの肉体全てがこの一撃のために躍動する。

 武装色の覇気が全身を駆け巡りながら左拳へ収斂し、プルプルの実が生み出す振動が運動エネルギーを爆発的に加速させた。

 深淵の黒に染まった左拳は瞬間的に極超音速へ至り、周辺大気をイオン化させて青白い電磁光を曳きながら金獅子へ向かって駆け抜ける。

 

 大気が裂ける音色が夜空に轟き響く。

 

 神速の必殺拳は覇王色の覇気による護りを打ち破り、武装色の覇気による漆黒の護りを打ち貫き、シキの胸板を直撃してその莫大な破壊力を体内へ貫き徹す。

 

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 血達磨になった金獅子が、断末魔を上げながら隕石のように彼方の海へ落ちていく。

 

 薄れゆく意識の中、シキは幻視する。

 誰も認めぬ己が唯一認めた男を。どうしても従えたかった男を。

 

 不敵に笑う男へ、シキは問う。問わずにいられない。

 

 なぜだ。

 

 なぜテメェは頂点に立たなかった。最後の島ラフテルに到達し、ひと繋ぎの大秘宝(ワンピース)を手に入れたのに、なぜだ。

 

 なぜ大海賊時代なんてくだらねェものを遺して逝きやがった。

 

 なぜなんだ。

 

 ロジャー。




Tips

バーソロミュー・くま
 原作キャラ
 原作では言及されてないけれど、本作では見聞色もそれなりに使えるということで。

獅子咆哮砲。
 オリ設定。
 元ネタはナチス・ドイツが開発した多薬室砲――ムカデ砲。
 砲身内を進む砲弾に合わせて、薬室の装薬を順次着火して加速させる仕組み。戦後の実験では砲弾を宇宙まで飛ばしたとかなんとか。
 『弾道ミサイルがあるからイラネ』と完全に廃れた。

 クロームパナジウム鋼砲弾。
  元ネタはナチス・ドイツの列車砲用徹甲弾。セヴァストポリ要塞をぶっ壊す際に利用された。

ステューシー
 原作キャラ。
 ドクター・インディゴから何を聞き出したかは次回。
 ステューシーのキャラからして武装色より見聞色の方が得意そうな印象。

ヒューロンの標本。
 ベアトリーゼと瓜二つの顔をしてる。
 どういうことかは次回。

ドクター・インディゴ
 劇場版キャラ。青色ピエロ。彼が語った内容は次回。

スカーレット隊長
 劇場版キャラ。女好きの赤毛ゴリラ。ウホウホ言うだけのキャラクターに名優銀河万丈を用いる豪華さよ。
 本作では見せ場が一切ない。不遇。

シキ
 劇場版キャラ。最後は野蛮人の捨て身の攻撃に敗れた。
 ロジャー大好きジジイ。

ベアトリーゼ。
 オリ主。
 金獅子を撃破するも、完全失明。右腕複雑骨折。他にも深刻な重傷。
 どうなるかは次回をお待ちになって。
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