彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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ちょい長めです
Nullpointさん、戦人さん、Kurouさん。誤字報告ありがとうございます。


16:彼女と彼女の別れ

 失神している間に身包み剥がされ、ベアトリーゼは縞々の囚人服を着せられていた。

 能力者を無力化する海楼石の大きな手錠と足錠を付けられた後、少々手荒な手当てを受けてから船倉の檻にぶち込まれている。

 

 で。

 

 ベアトリーゼが意識を取り戻して少し経った頃、檻の前につるとクザンが椅子を並べて座った。

 クザンは折れた左腕を包帯で固めており、おつるは額に包帯を巻いている。そして、2人とも軍服を新たにしていた。兵を率いる者は見栄えが大事だ。

 

「てっきり怒れる海兵達に輪姦(マワ)されるかと思ってたけれど、違う感じ?」

 包帯と絆創膏だらけのベアトリーゼがしれっと問えば、つるが嫌そうに顔をしかめ、クザンがやれやれと言いたげに溜息を吐く。

「負けん気が強いのか、状況を真面目に受け取れないのか」とつるが独りごちる。

 

「や。私の故郷で兵隊やってた連中はそうだったから」

 ベアトリーゼは海楼石の負担を然程感じさせぬ調子で言葉を続ける。

「ロビンの逃亡先なら知らないよ。合流した後に決める予定だったんでね。知らないことこそ最大の情報保秘でしょ?」

 

「どうだか」腕組みしたつるは鼻息をつき「まぁいい。まず聞きたいことはあんたの能力についてだ」

「ネタバレしてくれない?」とクザンも問う「嬢ちゃんが食ったのぁプルプルの実だろ? どういう能力なんだ?」

 今日、2人はプルプルの実の能力者ベアトリーゼと戦い、はっきり認識した。海軍や世界政府はプルプルの実に対し、根本的に誤解していたことを。その真の能力についてまったく把握していない事実を。

 

 2人に問われ、ベアトリーゼは少し考え込む。

「あんた達に手の内を明かして私に何のメリットが?」

 

「私らへ素直に答えなきゃ、御希望通り拷問が待ってる。これを避けられることは充分なメリットだろう?」

 つるの怖い目線を受け止めつつ、ベアトリーゼは鼻息をついた。

 まぁ……いいか。多少のネタバレをしたところで問題はない。

 

 ベアトリーゼはクザンとつるを順に窺い、問う。

「触れたものを振るわせる。その意味が正しく分かってる?」

 

「正しく、とはどういう意味だい?」

 脚を組み替えつつ反問するつるへ、

「力学的現象としての振動について物理学的理解はあるかってこと」

 ベアトリーゼはさらりと答える。

 

 クザンとつるはぽかんと目を瞬かせ、端に控える看守の海兵達も呆気に取られた。眼前の小娘から突如として小難しい言葉が出てきたことに、困惑を隠しきれない。

「え、と、何言ってんの?」とクザン。

 つるも戸惑いを湛えている。

 

「プルプルの実は振動を与える能力をもたらす。そして、振動とは数多くの現象の源だ」

 周囲の戸惑いを余所に、ベアトリーゼは滔々と語る。

「たとえば……大気を振るわせて摩擦させることで、静電気……この場合は電磁波の一種だけど、その電磁波をさらに振るわせることで、燃焼プラズマ化させることが出来る。この時、燃焼プラズマをサイクロトロン共鳴させれば」

 

「待った。ちょっと待った」

 クザンが右手を伸ばしてベアトリーゼの言葉を遮り、問う。

「嬢ちゃんの言ってることがさっぱり分からない」

 隣に座るつるも目をぱちくりさせていた。どうやらベアトリーゼの説明が理解できなかったらしい。

 

 ベアトリーゼが唇を尖らせた。

「だから、最初に聞いたじゃないか。力学的現象の物理学について理解はあるかって。どうするの? 説明、続けて良いの?」

 

 クザンとつるは顔を見合わせ、揃って眉を下げた。2人とも物理学的な専門知識はない。そもそも軍人にそんな知識は要らない。

 つるは言った。どこか悔しそうに。

「分かり易く説明しておくれ」

 

 大きく深呼吸し、ベアトリーゼは疲れ顔で言葉を編む。

「プルプルの実は理論上、雷だろうと熱だろうと津波だろうと地震だろうと作り出せる」

 

「「―――」」クザンとつるは声もなく驚愕した。

 

「早合点しないの。理論上、て言ったでしょ」

 アンニュイ顔に柔らかな微苦笑を湛え、ベアトリーゼは顔を強張らせている海軍高官達へ説明を続けた。

「実際に作り出せるかどうかは話が別だよ。プルプルの実が持つ”真価”を発揮するためには、前提として高度な理工学的知識や理解が必要だ。でなければ、何をどう振動させればいいか、分からないからね。単に空気を振るわせたところで、私が見せたような放電も熱プラズマも作り出せない。これは私の経験則から言って間違いないよ」

 

 能力を得たばかりの頃は本当に『ハズレ』を引いたと思ったものだ。原子や分子、電子などの物理学に関する前世記憶が無かったら、ベアトリーゼもお手上げだったろう。

「そして、私が()()した結果を挙げるなら、武装色の覇気をまとったうえで全力放出しても地震や津波は起こせなかった。大地や海にマクロ的振動を与えるには、人間規模の発生源では絶対的に振動の発生量が足りないんだと思う」

 

 超音波や高周波を広域展開させることは然程難しくないけど、とベアトリーゼは心の中で呟く。全てを教えてやる気は更々ない。奥の手は秘密にしてナンボだ。

「こういえば安心するかな。プルプルの実は小さく細かく振るわせることに長けているけど、グラグラと大きく強く揺らすことはできない」

 

 意味分かるよね、とベアトリーゼ。

 海軍将官なら分からぬわけがない。クザンは包帯が巻かれた左腕を撫でながら、つるは額の包帯を掻いて、二重の意味で安堵した。

 一つはプルプルの実の能力者が第二の白ひげ(怪物)になりえないこと。

 もう一つは、今回ベアトリーゼを捕縛できたこと。

 

 ベアトリーゼは「要するに」とまとめに入る。

「プルプルの実が()()を発揮するためには、高等理工学の知識と理解が絶対条件だ。学と教養の無いバカには、触れたものをプルプルと振るわせることしか出来ない“ハズレ”だよ」

 

 クザンは左腕をさすりながら少し考え込み、

「……嬢ちゃんはその学と教養をどこで身につけた? 相当な高等教育を受けなければ、身に付かない知識だろう。嬢ちゃんの故郷の“あの島”で学んだとは思えないし、島を出てから学校に通ったわけでも無いはずだ」

 じろりとベアトリーゼを見つめた。

「ニコ・ロビンに習ったのか?」

 

「ロビンは博学だけれど、専門は考古学で、知識や教養は人文学が主体。理工学は私の方が詳しい。そして、どこで身につけたかという質問の答えは」

 血浴という恐ろしい二つ名を持つ乙女はアンニュイ顔に悪戯っぽい笑みを湛えた。

「内緒」

 

 悪魔の実のネタが割れても、前世記憶を持つことがバレるよりマシだ。

 たとえ穴開き靴下みたいなものでも、知識は武器だ。本当に頼れる武器は隠しておくに限る。

 

「話は変わるが、聞かせてくれねェか」

 クザンがベアトリーゼを見据えた。

「なぜ、ニコ・ロビンと組んだ? なぜ、ニコ・ロビンを守るためにここまで無茶をした?」

 

「ロビンと組んだ理由は、まず私が世界政府と海軍が大嫌いだから。世界の敵とされたロビンがあんたらの手を逃れ続ければ、政府と海軍を苦悩させられるでしょ? 私はあんた達に嫌がらせしたくて、あんたらに吠え面を掻かせたくて、悪魔の子を守ることにしたんだよ」

 さらっと暴論を語るベアトリーゼに、つるは心底呆れた顔を浮かべる。

「そんなバカな理由で海軍を向こうに回したってのかい」

 

「私の故郷は地獄の底みたいなところで、私はずっと疑問を抱いていた」

 ベアトリーゼは歌うように言葉を編み、

 

「どうして誰も救ってくれないのか。どうして誰も助けてくれないのか。世界政府は強大な権力を持ち、海軍はたった十隻の軍艦で島一つ丸焼きに出来るほど強力なのに、どうして私達の惨状を見て見ぬ振りをするのか。どうして私達の悲劇を無視するのか。どうして私達をウォーロードや群盗山賊の暴虐から守ってくれないのか。どうして飢えて朽ちていく私達を見殺しにするのか。どうして。どうして。どうして」

 吟じるように言葉を紡ぎ、

 

「この世界の支配者を気取り、この世界の守護者を称するくせに、天竜人へ上納金を払わなければ人間を人間と扱わない拝金主義の豚共と犬ッコロ共に意趣返ししたいと思うのは、感情論として筋は通ってるだろう?」

 物憂げな美貌に似合いの笑みを浮かべた。

 

「性根がひん曲がってるね」とつるは吐き捨てた。

「そりゃあね」とベアトリーゼが肩を竦め「お婆ちゃんも餓え死を逃れるために孤児仲間の死体を食ったり、死体に湧いた蛆で空腹を満たしたりすれば、分かるさ」

 

「だとしても、だ」

 つるは眉をひそめ、『清らかなる正義』を掲げる女傑は厳粛に告げた。

「この世界は理不尽で不条理だ。苦しく哀しいことに溢れてる。あんたの生まれ育ちを憐れみもする。だがね、あんたの生き方は認めないよ。あんたのそれは同じように辛い人生を送りながらも、この世界で善人として正しく生きる人達への侮辱だ」

 

「……貴女は優しい人なんだね」

 厳しい言葉の中に教誨師のような誠実さが感じられ、

「そのお叱りは甘受するよ。自分でも八つ当たりだと分かってるからね。そのうえで、“やらずにいられなかった”私の心情も察して欲しいなぁ」

 ベアトリーゼは柔らかな微笑みを返した。

 

 戦いと殺しに長けた恐るべき能力者ではなく、年若い乙女が見せたその笑みは、胸を締め付けるほどに切なく――つるは目を伏せて鼻息をつく。クザンも目線を外すように天井を見上げた。

 苦みのある静寂が場を支配した。

 

「……話を続けようか」

 コホンと咳を打ち、

「ロビンを守るためにあんたらを向こうへ回した理由は簡単だよ」

 ベアトリーゼは自らが作り出した雰囲気を蹴り飛ばすように告げた。

 明確な敵意と嫌悪を込めて。

「大事な友達を豚や犬ッコロに渡すわけないだろ」

 

「たとえ、死ぬことになってもか?」

 クザンが問う。冷厳な声で。

「そうだよ」ベアトリーゼは冷笑して「あんたが殺した親友のようにね」

 

 鋭利な悪意にクザンの顔が歪む。つるはクザンを横目にしつつ、ベアトリーゼに険しい眼差しを向けた。

「他人の心を土足で踏み躙って楽しいかい?」

 

「まさか。私は他人を野菜のように切ったり砕いたりしても平気な人間だけれど、人には他人が決して侵してはいけない領域があり、その領域に対して敬意を払うべきだと思ってるよ。今のは……そうだね、些か非礼に過ぎた。本心から謝罪するよ、大将閣下。申し訳ありません。ごめんなさい」

 ぺこりと頭を下げるベアトリーゼ。

 

 で、顔を上げたベアトリーゼはのうのうと宣う。

「ところで実は……空腹で意識が落ちそうなんだけど、残飯でも良いから何か食べさせてくれないかな?」

 クザンとつるはどこか疲れた息をこぼした。

 

     〇

 

 ひとまずの尋問を終え、犬の餌みたいな飯を出された。

 嫌がらせかもしれないが、ベアトリーゼにとっては屁でもない。ウォーロードに仕える以前の生活で口にしていたものにしてみれば、はるかにマシだ。

 

 看守の目を盗み、ベアトリーゼは腹に力を入れ、胃液を逆流して口腔内に異物がせり上がってきた。

 ペッと掌に吐き出したるは、一本の釘。

“青雉”クザンに敗れた時。意識が飛ぶ寸前に甲板の釘を引っこ抜いて飲み込んでいたのだ。

 

 ベアトリーゼは釘をくわえて手錠の鍵穴に突っ込み、カチャカチャ―――ガチャリ。

 ……ふむ。使えるな。これならプランBを使わずに済みそうね。

 

 外した手錠を静かに掛け直し、ベアトリーゼは釘を再び口の中へ隠した。

 まだ逃げる時じゃない。ロビンに心配をかけてしまうが、体力の回復を待とう。どこへ移送されるにせよ、艦隊は痛めつけてある。到着まで時間が掛かるはず。

 しばらく食っちゃ寝させてもらうとしよう。

 

 目を瞑るやいなや、ベアトリーゼはすやぁ……と寝息を立て始めた。

 図太い。

 

     〇

 

 ベアトリーゼを捕縛後、つるの艦隊は眠り姫の亡骸を受け取るため、マーケットへ入っていた。

 入港したのは大型軍船4隻のみ。結局、大破したフリゲート3隻は牽引航行に耐えきれず自沈させるしかなかった。

 

 ちなみに、マーケットの港湾職員達はあからさまに愛想が悪く、店の従業員達も態度が良くない。これはマーケットが本質的に非合法な存在だから、という訳ではない。大抵の海兵があまり金を持っていないからだ。完全自由市場において金のない奴は好かれない。

 

「これが500年前の宮様か。安らかに眠ってたんだからそのまま眠らせておけば良いのに」

「安らかに眠っていたところを海賊(バカ)共が掘り起こした。こちらとしても厄介事だった」

 とある商館。表向きは物資補給のため商談に訪れたことになっている青雉クザンと大参謀つるは、“ジョージ”と接見していた。

 

 天竜人フランマリオン家の娘の亡骸が納められた黒檀製棺桶を確認後、面々は商館の応接室に移り、

「海の上では」“ジョージ”はクザンの包帯が巻かれた左腕を窺い「随分と“苦労”したようだな」

「ああ。大変だったよ」

 クザンは無感動に応じて白磁製カップを口に運び、片眉を上げた。こりゃあ良い茶葉だ。

 

「ベアトリーゼを確保したことは、ニコ・ロビンにとって大きな意味を持つ。長期的には捜索追跡において効果が出てくるだろう」

“ジョージ”が煙草を吹かしながら言うと、

「サイファー・ポールはベアトリーゼについてどこまで把握していたんだい?」

 つるが険しい目付きで“ジョージ”を睨む。

 

「“あの島”の出で、悪魔の実の能力者で、強力な覇気使いで、ニコ・ロビンと強い絆を育んでいる女。それくらいだ。能力の詳細は掴んでいなかった。我々はグランドライン外の()()をわざわざ相手にしないからな」

“ジョージ”は煙草をくゆらせながら語り、他人事のように告げた。

「君達の戦闘詳報が重要な情報源となるだろう」

 

 ベアトリーゼとの戦闘で大勢の死傷者を出しただけに、“ジョージ”の物言いにつるは強く憤慨したものの、表には出さない。情報機関の中でも有数の腹黒狸相手に感情を表しても、つけ入られるだけだ。

 

「ともかく、眠り姫は海軍(そちら)に引き渡した。あとはそちらの職責だ」

 さらりと言い放ち、“ジョージ”は短くなった煙草を灰皿に押し付けて消火。

「滞在中、マーケット内では下手な真似をしないことだ。ここでは政府や我々だけでなく、海軍も“有益なビジネス”を行っている。君達が如何に軍内で要職にあっても、始末書だけで済まなくなるぞ」

 

「御忠告どうも」「余計なお世話だね」

 クザンはさらりと答え、つるは不快そうに応じ、それぞれ腰を上げる。

 

 退室際、クザンは足を止めて振り返った。

「ところで、随分と良い茶葉を使ってるようだが……ここで買えるのか?」

「何を抜けたこと聞いてんだい、このすっとこどっこい」

 つるはクザンの背中を引っ叩き、共に退室させた。

 

 海軍高官の2人が出ていき、“ジョージ”は新たな煙草をくわえ、火を点す。紫煙を吐きながら、秘書として控えていた諜報員へ問う。

「ニコ・ロビンの方は?」

「貴方の想定していた通りです。ベアトリーゼが乗り込んだ貨物船を確認したところ、背格好の似ていた女賞金稼ぎでした。御丁寧に喉と両手の腱を潰してありましたよ。貨物船の船長を締め上げたところ、大金で買収されたと吐きました。連れ込んだ女を乗せて戦域から最大船速で逃げろとだけ指示されたと」

 

「では、まだマーケット内にいるか。いや、今日辺り出港した船のいずれかに変装して出て行った可能性が高いな」

“ジョージ”はどうでも良さそうに紫煙を吐き、

「捜索しなくていいので?」

「必要ない。マーケットの外へ逃れたなら、もう追いつけない。海軍にも知らせなくていい」

 諜報員へ冷淡に告げる。

「我々の職責はマーケット内で密やかなビジネスを維持し、円滑に行うことだ。情報の共有義務すらないのに、わざわざ厄介事へ手を突っ込む必要がどこにある?」

 

 諜報員は思う。

 この人は本当に陰険だ。

 

     〇

 

 グランドラインをリヴァースマウンテン方面へ向けて航行する貨客船の中で、母オルビアの名で乗船したロビンは、ニュース・クーの届けてきた新聞を購入し、個室で開いた。

 

『血浴のベアトリーゼ、逮捕される!』

 

 与太記事の多い世界経済新聞社のものだが、こと『面白い』ニュースに関しては偽らない。面白ければ偽る必要がないから。

 二十歳前の小娘が単独で海軍本部艦隊を襲い、海軍大将と本部中将の精鋭部隊を向こうに回し、フリゲートを1隻撃沈、3隻を航行不能の大破。大型艦を1隻大破、3隻を小中破。海兵の死傷多数。

 こんな『面白いネタ』に世界新聞社の社長モルガンズが手を加えることなどあり得ない。実際、モルガンズは情報を得てげらげらと大笑いした。

『さいっこうにクールなネタじゃねえかっ!!』と。

 

 そんなろくでもねえ奴が作っている新聞を目にし、ロビンは凍り付いた。

「ビーゼ……っ!」

 

 ロビンにとって、ベアトリーゼは世界から狙われる自分を守り続けてくれた信頼する仲間で、絶対の信用を寄せる唯一無二の相棒で、たった一人の大事な、とても大切な親友だ。

 その大事な親友が海軍に捕まった。

 

 思い出したくなかった、大事な人を失う恐怖。

 

 二度と味わいたくなかった、大切な人を奪われる絶望。

 

 顔から血の気が引き、目の前が暗くなる。指先から生じた震えが体全体を揺さぶり、力を奪ってロビンをへたり込ませるまで三秒もかからなかった。

 

 どうする? どうする? どうする? どうすればいい? どうすればビーゼを救い出せる?

 

 恐怖と絶望に痺れた頭で自問する。

 ビーゼを捕らえている海軍部隊を襲撃して、救い出す? 無理だ。ビーゼですら勝てなかった相手に、自分が勝てるとは思えない。まして、相手は“あの”“青雉”クザンだ。

 

 なら、出頭を条件にすれば、ビーゼを解放させられるだろうか。ダメだ。世界政府が取引に応じるか分からない。

 それに……それは“諦めること”だ。

 

 ベアトリーゼはこれまで何度も告げてきた。

 ロビンが“諦めない限り”守り続けると。

 

 もしも、自分が“諦めたら”ビーゼは決して許さないだろう。だけど、だとしても、ビーゼに嫌われ、失望され、見限られても――

 ビーゼが監獄で酷い目に遭うよりは良い。ビーゼが死んでしまうよりはずっと良い。

 

 ロビンは決断し、ふらりと立ち上がる。膝に力が入らず机に体をぶつけ、旅行鞄が倒れた。衝撃で開き、中身がこぼれる。

 

 覚えのないスケッチブックが姿を見せた。

 ベアトリーゼのスケッチブック。

 

 どうしてこれがここに……ビーゼが忍ばせたの? なんのために?

 ロビンは震える手でスケッチブックを拾い上げ、ページを開く。

 

 控えめに言ってもヘタクソなロビンの似顔絵や姿絵。街並みの写生画。線や遠近が狂いまくったマーケット内の写景図。

 それと――メッセージ。

 

『もしも私が合流できなくても諦めないで。生きてさえいれば、いつか必ずロビンの許へ向かうから。そして、もしも私が死んでも』

 びくりとロビンは身体を震えさせながら、残りの文章を読み進めた。

 

『ロビンは必ず心から信じられる人達と出会える。

 だから、諦めないで。夢を、願いを、信念を諦めないで。

 必ず希望が訪れるから。

 私の()()を信じて』

 

 ぽたり、と紙面に水滴が落ちる。

 

「バカ」

 口から勝手に言葉が漏れる。

 

「バカ。バカ。バカ。ビーゼのバカ……っ!」

 言葉と共に滂沱の涙が溢れていく。

 

「私は貴女が傍にいることが一番の希望なのに……っ!」

 ロビンはスケッチブックを愛おしげに抱きしめ、静かに泣き続けた。

 

 そして、決断を新たにする。

 遺言とまで言われて、信じない訳にはいかない。

 だって、ベアトリーゼはニコ・ロビンのたった一人の、愛する親友なのだから。




Tips
プルプルの実。
 オリジナル悪魔の実。上手い名前が思いつかずさんざん悩んだ末に引っ付けた名前。
 銃夢:ラストオーダーにて、チビゼクスというキャラが周波衝拳をした際、相手をプルプルと振るわせただけだったので、そこから名前に採用。

バカには扱えない。
 科学的知識が無ければ、分子や原子を振動させて周波数や超音波、静電気やプラズマを作り出す、という発想に辿り着けない。作中で『ハズレ』扱いされていたのは、歴代の能力者が真価を発揮できなかったから。
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