彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
※言い訳。
大変申し訳ありません、予約投稿を間違えてしまいました。
本当はエニエスロビー編が終わるまで書き溜めて、連日投稿しようと思ってたんです。
出しちまったもんはしょうがないので、175話まで全部出します。
「海に落としたんだぞ。能力者なら大人しく溺死していろ」
ロブ・ルッチの悪態を耳にした瞬間、ベアトリーゼはただ殺意のままに駆動した。
プラズマ光をまとった左のブレードが走り、バカッと車輛の右側面が大きく引き裂かれた。断ち切られた窓ガラスやカーテンが床に落ちていく。
咄嗟に六式体術の回避術“紙絵”で斬撃を逃れたルッチとブルーノは、全身の毛穴から冷汗を吹かせる。
倉庫で戦った時とまるで別人だった。悪意と害意がなく高純度に煮詰められた殺意。狂気などという言葉では追いつかない。
今のベアトリーゼは、人の姿をした破壊現象だ。
飴細工のように殴り砕かれて木っ端微塵に弾け、あるいは葦の如く斬り払われる座席や調度品。障子紙みたく引き裂かれる車輛の壁や天井や床。
しなやかで艶美な肢体から発せられる暴虐は、触れるもの全てを次々と破壊していく。
強烈な闘争心と戦闘意欲を内に秘めるルッチですら、迎撃戦闘を諦めて全力で回避に徹するしかなかった。ベアトリーゼの人質になり得るニコ・ロビンが居る数メートル先の第1車輛が、無限に思えるほどに遠い。
ルッチは獣化形態になり、躍動する破壊現象から逃れながら歯噛みして唸る。
バケモノめ……っ! なんて暴威だ……っ!
ルッチとブルーノが防御と回避に全身全霊を注ぐ中、倉庫での戦いで肋骨を折っていたブルーノの動きに乱れが生じた。
その間隙を逃すほど、殺意全開のベアトリーゼは甘くない。
血と粉塵に塗れて赤黒く染まった肢体が大きく躍り、長い右足が鞭のように振るわれた。高密度な武装色の覇気と高周波振動をまとった暗黒色の回し蹴りがブルーノに迫る。
――かわし切れんっ! ブルーノは覚悟を決めて受けの姿勢を取った。
「ブルーノッ!!」
ルッチは瞬時に人獣化し、怪物の膂力を発揮して座席の一つを床から引っぺがしてベアトリーゼとブルーノの間に投げ込んだ。
美しい脚線を誇る漆黒の右足が投げ込まれた座席を蹴り割る。爪先に宿した高周波振動が伝播し、座席が千々に破砕される。高周波振動を放出してしまったけれど、ベアトリーゼは構わずブルーノ目がけて右足を振り抜いた。
「! 鉄塊“剛”っ!!」
クロスアームブロックと全身硬化で、ブルーノは漆黒の右回し蹴りを迎え撃つ。
打撃音とは思えぬ轟音と衝撃が発生し、
「――――――――ッ!!」
ブルーノの大きな体躯が第2車輛の前部ドア周辺部をごっそり道連れにしながら、第1車輛へ吹っ飛んでいく。
「っ!」
仲間の犠牲が、常に冷静沈着で冷徹無比なルッチの意識に動揺を走らせた。怪物との戦いの最中に、その動揺は致命的な結果を招く。
ブルーノを蹴り飛ばしたベアトリーゼは、既にルッチへ襲い掛かっていた。大きな人獣の体躯をぶった斬ろうと、プリマドンナが舞うように全身を捻り込みながら、左のダマスカスブレードを振るう。
ルッチもまた怪物的反応速度と俊敏性で確殺の斬撃を掻い潜る。
が、その動きはベアトリーゼが誘い込んだ袋小路だ。派手な斬撃は見せ札。本命はルッチの死角から振るう右手のカランビット。
――かわしきれんならっ!
喉笛を引き裂かんと襲い掛かる鉤爪状の刃。ルッチは咄嗟に身を捩り、左肩口の分厚い中部僧帽筋に刃を受け容れる。
鉤爪状刃の切っ先が頑健な皮を裂き、頑強な筋肉に深々と埋まった。
「ぐぅううっ!!」豹の人獣の悲鳴が響く。
蛮姫は瞬時にカランビットの柄を捻り、肉を抉りながら鉤爪状の刃の先をルッチの左鎖骨に引っかけた。新体操のように身を踊らせ、膂力と遠心力を以って豹人間の巨躯を無理やり引きずり倒す。
「―――――――――――――――――――ッ!!」
ルッチの声帯から発せられた激痛の絶叫はもはや言語をなさない。
ベアトリーゼはうつ伏せに引きずり倒したルッチの背へ、両膝を勢いよく叩きつけて押さえ込んだ。ルッチの首を切り落とすべく流れるように左の肘頂装剣を振り下ろし、
「待ちなさい、ベアトリーゼっ!!」
聞き覚えのある声がベアトリーゼの鼓膜を突き、木目紋様の刀身はルッチの首の皮一枚裂いて止まった。
今までの暴虐が噓のように静寂が訪れた。車外から吹き込む潮風と荒れる波浪の音色がやけに大きく聞こえる。
顔に貼りついた夜色の髪の隙間で満月色の瞳がぎょろりと蠢き、声の主を捉えた。
ブルーノを吹き飛ばす際に破壊され、ぽっかりと大きな破孔が啓く第2車輛前面の向こう。連結部の先。やはりブルーノが激突して大きく破壊された第1車輛の後部出入り口付近。
黒服の男女が並び立ち、2人の足元に2人の小僧が
いくらか負傷したカリファとカク。
そして、ボッコボコにされたサンジとやはりボコられた緑マスクと緑黒衣装の長鼻小僧。
一同は全身を赤黒く濡らし汚した下着姿のベアトリーゼが、うつ伏せに倒れた巨大豹人獣を抑え込んでいる、という何とも言い難い光景に表情を引きつらせている。
ベアトリーゼが無機質な金色の双眸をぎょろりと蠢かせ、とっ捕まった連中を窺う。
ビクッと身を震わせ、麦わらの一味の小僧共が詫びる。
「すまねぇ、ベアトリーゼさん」「ふ、不覚を取った」
女性に暴力を振るわないという矜持を通したサンジはカリファにボコられ、スナイパーマンことウソップはカクと交戦してボコられ。第一車両内にはやっぱりボコられたフランキーが鎖でぐるぐる巻きにされて転がっている。
カリファとカクはルッチの有様に表情を硬く強張らせた。
「ルッチを放しなさい、ベアトリーゼ」カリファが険しい顔で告げた。「こちらはこの2人を殺しても構わないのよ」
「そういうことじゃ、血浴。こちらは本気じゃぞ。ルッチを解放せェ……っ!」
カリファもカクも必死だった。第1車輛に吹き飛ばされてきたブルーノは半死半生の重体。このうえルッチまで失う訳にはいかない。
ベアトリーゼはぎょろりとロビンと野郎共達を一瞥し、カランビットを押し込んだ。苦悶をこぼすルッチ。眉目を一層吊り上げたカリファとカクへ、無情動に言葉を投げた。
「お前らが人質に手を出そうすれば、まずこいつの左腕神経嚢を抉る。二度と腕が動かなくなるぞ。次は目玉か? 耳か? どっちも二つあるから、まず一つ抉り取ってやる」
カクとカリファの吊り上がった双眸に敵意が募る。ベアトリーゼの冷酷非情な金眼に悪意と害意が濃くなる。息を飲むサンジと長鼻小僧。
双方が次の一手へ踏み出そうとする間際。
「待て待て待て待て、双方落ち着きたまえっ!! ここは私、スナイパーマンの顔を立てて、お互い譲り合いの精神を発揮してはどうかなっ!?」
緑マスクで顔を覆ったウソップが喚く。この張り詰めた緊迫状況に飛び込む肝っ玉よ。
「「黙ってろ」」
カクとベアトリーゼに睨み据えられて「ゴメンナサイ」と即座に詫びるくせ、ウソップは止まらない。
「まずはお互いに気を落ち着けるべく、小粋なゲームなんかどうだね!? なんなら、私が手品を披露しようっ!! スナイパーマン・マジックだ! どうだ、見たいだろうっ!?」
「黙ってろと言うとるじゃろうがっ!!」
苛立ったカクがマスクを被ったウソップを蹴倒す。
「イテテ……まぁそう言うなよ……すげー手品だぜっ!!」
ウソップは倒れ込む挙動の最中に取り出した大量の煙幕弾を、一気に炸裂させた。
○
煙幕発生0秒。
完全に虚を突かれたカクとカリファ。
見聞色の覇気で煙幕を無効化したベアトリーゼは、ルッチを抑え込んだまま動かない。
サンジが即座に反応して立ち上がり、ウソップもまた動き出す。
第1車輛内でフランキーは鉄鎖に拘束された身を無理やり起こし、海楼石で封じられているロビンは動けない。
煙幕発生0・5秒後。
カクが動く。視界を遮られても気配で捉え、サンジを思いっきり蹴り飛ばす。
カリファが動く。愛用の鞭を懐から抜き放つ。
蹴り飛ばされたサンジが第2車輛へ向かって吹き飛んでいく。
身を起こしたウソップがベルトのフックワイヤーを第1車両内へ発射。
ロビンにフックワイヤーが巻きつく。
カクの蹴りで煙幕が裂け、フランキーはカクの位置を発見し、一直線に吶喊。
煙幕発生1秒後。
カクがサンジに続いてウソップを攻撃しようとしたところへ、フランキーが体当たり。
吹っ飛ばされたサンジがベアトリーゼに向かって飛んでいく。
ウソップがワイヤーを巻き上げて、ロビンを確保。
ベアトリーゼがウソップの動きを捉え、ロビン救出を決断。
カリファが愛用の鞭を第2車輛へ向けて振るう。
煙幕発生1・8秒後。
フランキー。体当たりして押し倒したカクに噛みついて拘束を図る。
ベアトリーゼ、ルッチの背から跳躍。吹っ飛んできたサンジが足の下を通過していく。
カリファが振るった鞭がルッチを確保。
ウソップがロビンを抱きかかえ、第2車両へ向かって跳ぶ。
煙幕発生2・2秒後。
カクがフランキーを振り払うべく殴るも、噛みついたフランキーは離れない。
カリファが鞭を引いて、一本釣りするようにルッチを第2車輛から引っ張り出す。
連結器上で、ロビンを回収しようとするベアトリーゼ、ロビンを抱えて第2車輛へ跳ぶウソップ、カリファの鞭で第2車両から引っ張り出されたルッチが交錯する。
煙幕発生2・7秒後。
煙幕中に
捕まったウソップがロビンを第2車輛へ向かって投げる。
宙に浮かぶロビンに手を伸ばすベアトリーゼ。
豹の尾でロビンを絡めとるルッチ。
煙幕発生3・1秒後。
カクがフランキーを蹴り飛ばす。連結器上へ蹴り飛ばされていくフランキー。
空を切るベアトリーゼの手。
血塗れの手に掴まれたまま宙に浮かぶウソップ。
第2車輛から駆けてくる傷だらけのサンジ。
煙幕発生3・6秒。
第2車輛から飛び出し、ウソップを掴む手を蹴り払うサンジ。
解放されたウソップが第2車輛のエントランスへ落ちていく。
ベアトリーゼは再度ロビンへ向かって跳躍を図るも、軌道上にフランキーが飛び込んでくる。
第1車輛の後部エントランスに落ちるルッチとロビン。
煙幕発生4秒後。
嵐脚でベアトリーゼを落とそうとするカク。
そんなカク目がけて跳び蹴りを浴びせるサンジ。
そのサンジの横っ面を蹴り抜くカリファ。
ベアトリーゼは進路を塞ぐフランキーを第2車輛内へ蹴り飛ばす。
ルッチが第2車輛の台車部に向かって嵐脚“凱鳥”を放つ。
強大な一撃を食らい、第2車輛が線路から激しく脱線。ウソップとフランキーを乗せたまま海面へ突っ込む。
連結器に繋がれた後部車輛も次々と脱線、横転、衝突しながら海へ落ちていく。
煙幕発生4・5秒後。
煙幕の裂け目を通じ、ベアトリーゼの金眼とロビンの碧眼が交差した。
ベアトリーゼはあくまでロビンの救出を優先する。
カクとカリファに制圧されたサンジも、第2車両内に居て車輛もろとも海中に没しようとしてるウソップとフランキーも、全員無視してロビンの救出を続行する。
しかし、ロビンは首を横に振る。目線で第2車輛を示す。
私より2人を助けて、と。
いやだ。ベアトリーゼは逡巡すらしない。あくまでロビンを、ロビンだけを見る。
煙幕発生4・7秒後。
ニコ・ロビンはこの世界で最も信頼し、最も親愛する友へ、告げた。
「お願い。ビーゼ」
この世界に生まれ落ちてから初めて出来た友達の願いに、ベアトリーゼは割れんばかりに歯を食いしばり、プラズマジェットで急激な方向転換。右向け左回りして沈みゆく第2車輛へ飛翔。
煙幕発生5秒後。
全てが終わった。
脱線してゆっくりと沈みゆく後部車輛を置き去りにし、今や機関車と第1車輛だけになってしまったパッフィングトムはその場を離れていく。
ロビンは親友に届くことを願って、告げる。
「ありがとう、ビーゼ」
○
「縛られるなら、そちらの麗しいレディにお願いする……っ!!」
カクに鎖で縛り上げられていくサンジが、図々しく吐き捨てる。
「セクハラよ」
カリファはカマドウマを見るような目でサンジをひと睨みし、人獣形態を解いたルッチを案じる。
「怪我の手当てをしないと」
「そんなことはいい……っ! 今すぐフランキーを確保に向かうぞ……っ!」
ルッチは肩に深々と刺さったカランビットを引き抜き、立ち上がる。も、身体がふらついた。如何にゾオン系のタフさがあっても流した血は少なくない。
「これ以上は無理じゃ」
カクが冷徹に告げるも、ルッチは目を血走らせ、カクの胸倉を掴んだ。
「任務を放棄する気かっ! 5年の歳月と数十人の犠牲が無駄になるんだぞっ!!」
「……ワシらでは血浴に勝てんっ! あの女を倒せん以上、フランキーの確保は無理じゃっ!! お前もそれが分かっとるから、後続車両を沈めたんじゃろうがっ!!」
胸倉を掴まれたカクが吠え返せば、ルッチは苦虫を何百匹もまとめて噛み潰したような顔で舌打ちし、カクを突き飛ばす。
第2車輛を攻撃したのは、無意識が咄嗟に下した判断だったが……そこにカクの指摘した思考があったことを否定できない。
憤懣のこもった溜息を吐き、帽子を被り直しながら、カリファに問う。
「ブルーノは?」
「死んではいないわ」カリファは疲れ切った顔で「でも、酷い重傷よ。早く医者に診せないと……」
沈痛な面持ちのカリファ。渋面を浮かべるカク。苦い顔つきのルッチ。
沈鬱な雰囲気を漂わせる工作員達へ、サンジがのうのうと要求する。
「お取込み中のところ申し訳ねェが、タバコが吸いてェんだ。手ェ貸してくれよ。なんせ縛られてるんでな。自分で始末がつけられねェ」
ルッチは無言でサンジの顔を蹴り飛ばす。
「コックさん。どうも彼らは少し虫の居所が悪いみたいよ」ロビンが意地悪に微笑む。
「どうやらそのようだ」サンジも意地悪に笑い、血混じりの唾を吐き捨てた。
「海のゴミが」ルッチは殺意を隠さず「ニコ・ロビンと違って、お前の命には羽虫ほどの価値もない。このまま八つ裂きにしてやろうか」
「落ち着けよ、猫野郎」
床に転がったまま、サンジは殺意モリモリで睨んでくる工作員達に不敵な笑みを返す。
「ここで俺を殺すより、エニエスロビーとやらまで連行した方が良いと思うぜ」
「ほう? そのココロは?」
カクが興味を覚えて問えば、サンジは身を捩って上体を起こした。
「多少の言い訳になるだろ? こいつのせいで失敗しましたってよ。それに俺も少し興味があるんだよ」
「興味?」カリファが眉をひそめて訝る「何に対しての興味かしら?」
「君のことなら何でも知りたいよ、素敵なレディ」
サンジはきざったらしくカリファに応じ、ルッチが再び蹴りを入れてきそうな気配を嗅ぎ取って肩を竦めた。
「お前らクソヤロー共のボスがどんな特大級のクソヤローか知りてェンだよ」
眉目を大きく吊り上げ、サンジは宣戦布告するように言い放つ。
「これから俺達の仲間が来るからよ。人違いしねぇようクソヤローの面を確認しておかねェと不味い」
カリファとカクは呆れ、ルッチはうんざりしたように眉根を寄せた。
「暢気な奴だ。お前がこれから向かう先はエニエスロビー。どんな命知らずの海賊共だろうと避けて通る政府の島だ。助けなんて来やしない」
「だってさ、ロビンちゃん。どう思う?」
サンジがニヤリと笑いかければ、ロビンもくすりと上品に微笑んだ。
「甘いわね」
「ああ。甘い。甘すぎる。料理なら作り直しにするくらいだ」
確信的な笑顔を湛えた2人に、工作員達は不吉なものを覚えた。
○
嵐の夜。荒れる海の上。
緑マスクと緑黒全身スーツのスナイパーマンに扮したウソップとフランキーは、沈みゆく第2車輛からベアトリーゼに引き揚げられ、辛うじて線路上に残っていた最後尾車輛――ベアトリーゼが客室部分を吹き飛ばして台車基部しか残ってない――へ放り投げられた。
ベアトリーゼはウソップとフランキーの救助を終えるや否や、呼びかけを無視してすぐさまロビンの後を追い、線路上を文字通り跳ぶように駆けて行ってしまった。
最後尾車輛の台車上に残されたウソップとフランキーは、波にうねる海上線路に揺られ、時折やってくる大きめの波浪を被っている。黙って夜の海を睨みながら。
ウソップは自分の弱さが悔しい。自分の弱さが情けない。自分の弱さが恨めしい。
ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう! ちくしょうっ!!
海軍大将と遭遇した時、何も出来なかった。フランキー一家に大事な金を盗られた挙句、取り返すことも出来なかった。俺達のために一人で戦ったロビンを救い出せなかった。メリーに執着してルフィと決闘までして一味を抜けたのに、サンジに助けられて、しかも自分の代わりに捕まってしまった。ベアトリーゼに邪魔な荷物のように置き去りにされた。
自分に対する怒りが強すぎて涙も出ない。
「ちくしょうっ!!」
心情が口から溢れ、ウソップは台車の焼け焦げた床を思いっきり殴りつける。
「気に入らねェよな」
台車の端で胡坐を掻き、ぶっとい腕を組みながら線路の先を睨んでいたフランキーが、不意に言った。釣られるようにウソップが顔を上げる。
「俺もだぜ。男の中の男フランキー様が女子供に助けられっぱなし? こんなスゥーパァーにダセェ事態は初めてだ。俺ぁもうトサカにきて、バッキバキだよ」
フランキーはこれ以上ないほど不機嫌な面持ちで、心底腹立たしそうに吐き捨てる。
「このままじゃあ、腹の虫が収まらねェ。オメェもそうだろう? 長っ鼻」
大きく首肯したウソップに、フランキーは満足げに頷く。
「俺達は囚われの御姫様でも役立たずのお荷物でもなく、やる時ゃやる男だってことを、あのキョーボー姉ちゃんと政府のクソ共にきっちりかっちり教えてやらねぇとなぁ……!!」
フランキーがウォーターセブンがある方角を振り返り、
「ちょーど迎えも来たみてェだ」
釣られて振り返ったウソップの目に、バカデケェ海獣に引っ張られた船の姿が映った。
フランキーは獰猛に口端を吊り上げる。
「さぁ、行こうぜ。あいつらを助けによぉ……っ!!」
Tips
方程式もの。
いわゆるカルネアデスの舟板やトロッコ問題など、優先順位の是非と正当性の議論をテーマにした物語のこと。法廷物や冒険物の鉄板。
親友を取るか仲間を取るか。仲間を取るか任務を取るか。仲間と自分、どちらを優先させるか。
ロビン。
彼女は夢を諦めない。
それでも、自分より麦わらの一味を優先させることを選んだ。
サンジとウソップとフランキー。
彼らは自分の命より仲間を選ぶ。迷わない。
カクとカリファ
任務より仲間を選んだ。
ルッチ
仲間より任務を選んだが、カリファとカクの選択を否定できなかった。
ブルーノ。
瀕死の状態に至りながらも任務遂行するも、エニエスロビー編からリタイヤ。
ベアトリーゼ。
親友を選ぶも、親友に拒絶されて仲間を取る。
が、麦わらの一味と合流せず、1人で1万人――1個歩兵師団相当の敵が待ち構えるエニエスロビーを強襲しに行った。