彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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予約投稿に失敗した関係で、本日は173話から175話まで投稿しております。混乱させて申し訳ない(24・06・13)


175:エニエスロビー炎上

「一度とっ捕まえておきながら逃げられただぁ? ふざけてんのかっ!!」

 

 帰還したルッチ達を待ち受けていたのは、CP9指令長官スパンダムによる罵倒だった。

 重傷のブルーノこそ医務室へ運ばれていったが、ルッチ達は傷の手当ても着替えも許されず、スパンダムの罵声を浴びせられていた。

 

「ニコ・ロビンを捕まえたことは認めてやる! あぁよくやったっ! だがな、この女は“オマケ”だっ! 作戦目標はあくまで古代兵器の設計図っ! その在処を知るカティ・フラムなんだよっ!! マヌケ共っ!!」

 

 スパンダムは何かにつけて喚き散らす男だったが、此度の激情振りは明らかに常軌を逸しており、いつもなら横から軽口や減らず口を叩くジャブラやクマドリすら口を噤んでいる。

 

 それにスパンダムの言う通り、任務失敗は事実だった。

 ただ、バカアホマヌケでドジの四重苦上司からの罵声を黙して甘受するには、この数時間にルッチ達が体験したことは過酷すぎた。

 

「……こちらの損害が大きかったため、やむを得ず」

 ささくれた気分に背中を押され、カクが思わず釈明――というには反抗的な態度で口を開くと、スパンダムは火が付いたように怒り狂った。

「損害がなんだっ! くたばることもテメェらの仕事のうちだろうがっ!! それをイモ引きやがってっ! 人は殺せてもテメェは死ぬのが怖いかっ!? 腰抜けの能無しめっ!」

 口を引き結んで屈辱を堪えるルッチ達。ジャブラ達も気分を害したのか、表情が硬い。

 

 そんな中――

「おいおい酷ェボスだな。ズタボロで帰還した部下に労いの言葉は無しかよ?」

 鎖で両腕を縛られたサンジがしれっと言った。煙草が欲しい。

 

「――そのガキは何だ? ここは幼稚園じゃねえぞっ!」

 スパンダムは血走った眼でサンジを睨み、口から唾を出しながら吠える。

 

「麦わらの一味の人間です、長官」カリファが淡々と報告する「懸賞金は掛かっていませんが、実力から言って主力メンバーの一人でしょう」

 

「木っ端海賊団の懸賞金も掛かってねェ雑魚なんざ連れて帰ってきて、何の意味があるっ!! 連れてくるならカティ・フラムを連れてこいよっ! こんな何の価値もねぇゴミクズなんざ持って帰ってくるんじゃねえっ!!」

 ヒステリックに喚き散らすスパンダム。

 

 サンジはふんと小馬鹿にするように鼻を鳴らした。

「がっかりしたってか? そりゃこっちもだ。精鋭スパイ達のボスっていうから、どんなツワモノキレモノが出てくるかと思えば……ヒステリーを起こすみっともねェマヌケときた。勘弁してくれ。こんなのの手下に捕まったなんて知られたら、恥ずかしくて表を歩けねぇよ」

 

 ビキッとスパンダムの顔面に青筋が浮かび、

「海賊のカスが誰に向かって口を利ィてんだ、無礼者めがぁっ!!」

 力いっぱいサンジの横っ面をぶん殴り、殴り倒したサンジをしっちゃかめっちゃかに何度も何度も思いっきり踏みつける。

「死ねっ! 死ね死ね死ね死ねっ!! 死にやがれ海の害虫がっ!!」

 

 サンジは防御本能的に体を丸めるが、両腕を拘束されているため、腕で身を庇えない。骨身が軋み、肌が裂けて血が流れ、微細血管が破けた鼻から血が溢れ、歯で切れた口腔内から血がこぼれる。

 

「やめなさいっ!」

 サンジの流血を見かね、ロビンが海楼石の虚脱感に抗って声を張る。

 

 も、これがスパンダムの逆鱗に触れた。

 握り拳でロビンを殴り、車椅子から叩き落し、喚き散らしながらサンジと同じく何度も何度も足蹴にする。

「俺に命令してんじゃねえっ!! 悪魔の土地オハラの忌まわしき血族めっ! 貴様の存在価値など政府が利用してやらねば“無”に等しいんだっ! 身の程を知れっ!」

 

「――おい」

 眼前で麗しき女性を、それも大事な仲間を一方的に嬲られる様を見せられ、サンジが大人しくしているなど、あり得ない。

「ロビンちゃんに何してくれてんだ、クソヤローッ!!」

 

 額と顔に浮かべられる限界まで青筋を並べ、サンジは動員可能な身体のバネを全て駆使し、蹴撃をスパンダムのマヌケ面に叩き込む。

 

「がっはぁあっ!?」

 ぶっ飛ばされるスパンダム。サンジはブレイクダンスのヘッドスピンをしながら、スパンダムをがっこんがっこん蹴り続ける。

 

「足癖の悪いガキだ」とジャブラが笑う。

「あーぁ」とぼやき、フクロウはルッチ達を横目に「足技遣いになんで足枷を付けてない?」

 

「足枷なんか用意しとらんわ」「俺達はマヌケらしいからな。こういうこともある」

 しれっと嘯くカクとルッチ。サンジががっこんがっこんスパンダムを蹴っていても、誰も助けに行かない。

 

 カリファが小さく嘆息をこぼし、クマドリへ目配せ。クマドリは首肯して生命帰還の技を発動。長髪を触手の如く動かし、サンジを押さえ込む。

「うぉ、なんだ!? 気持ち悪ぃ!?」驚くサンジ。

 

 鼻血をダバダバ流しながら、スパンダムは四つん這いでその場から逃れ、酒が切れたアル中みたいにきーきーと甲高い声で喚き始める。

「衛兵っ! このクズ共を鎖につないでおけっ!! すぐに護送船を用意させろっ!! ニコ・ロビンは海軍本部に、このクソガキはインペルダウンにぶち込むっ! 地獄を見せてやるからな、クズ共めっ!!」

 

 ふぅふぅと肩で息をしながら、スパンダムは血走った眼で部下達を睥睨し、怒声を張る。

「テメェらは出撃の準備だっ! CP9の総力を挙げて今度こそカティ・フラムのガラを確保してこいっ!!」

 

「おいおい、長官。ルッチ達を見ろよ。傷だらけだ。少しは休ませねェと――」

 ジャブラが意見具申するも、スパンダムは歯牙にもかけない。苛立たしげに顔面矯正具をがりがりと掻きながら、口角から泡を飛ばす。

「黙れ、ジャブラッ!! 俺はCP9長官、テメェらの飼い主なんだっ! テメェら殺し屋は俺の命令に大人しく従ってりゃあ良いんだっ!! 休みたけりゃあ出港準備が整うまで勝手に休めっ!! いいなっ!! カティ・フラムの身柄を何としても確保しろッ!! テメェらが全滅してでもだっ!!!!」

 

 上司の罵詈雑言を浴び、ウォーターセブン潜入組はベアトリーゼやイーライの言葉が脳裏をよぎる。

 ――貴方達の飼い主はどうですの?

 ――お前らは奴隷と同じだ。

 胸中に苦いものが生じる。如何に無情動に振る舞おうとも、彼らは心を持つ人間だから。

 

 部下達の心中を察することなく、スパンダムはなおも荒々しく罵倒の言葉を浴びせようと口を開き、

「分かったらさっさと――」

 

 

 正門の方角から峻烈な閃光が走り、直後、司法の塔を衝撃波と轟音――高圧音波が襲う。

 

 

 塔が大きく身を震わせ、全ガラスが割れ砕け、粉塵混じりの暴風が施設内へ侵入して荒れ狂う。

 ふっ飛ばされたスパンダムが車に轢かれた蛙みたいに倒れているが、CP9の面々は誰一人として動じていない。

 

「な、何が起きた……」ひっくり返ったまま呆然と呟くスパンダム。

「来たみてェだぜ、ロビンちゃん」

 サンジは咄嗟に身を挺してロビンを庇っていて、にやりと唇の端を吊り上げた。

「ええ。来たわね」

 期待通りの出来事に、ロビンも神秘的な美貌を和らげて微笑む。

 

「……やはり来た――チャパパ」

 フクロウが溜息をこぼし、ルッチが眉根を寄せた。

「来ると分かっていたのか?」

 

「俺達も5年間遊んでたわけじゃねえからな。来るだろうと予想してたぜ」

「来ねぇでくれとはぁ、ああ、思ってェたぜえ~~~」

 ジャブラが嫌そうに毒づき、クマドリが仰々しく身振り手振りをしながら言った。

 

 何が起きたのか察しがついている周囲の様子に、スパンダムは激しく苛立ち、怒鳴る。

「来た来たって、何が来たってんだっ!?」

 

「長官」

 カリファは眼鏡の位置を修正し、言った。

「セクハラです」

 

         ○

 

「お前ら、これを見てくれ。昔、俺は線路の整備で訪れたことがあってな。エニエスロビーの大まかな地形を描いた」

 パウリーが手書きの地図を見せた。

「海列車の線路は正門前に続いてる。島は鉄柵で囲まれていて、しかも本島は底なしの“滝”の真ん中に突き出るように伸びてるんだ」

 

 ふむふむと神妙な面持ちで話を聞く麦わらの一味達へ、パウリーは説明を続ける。

「問題の『正義の門』は島の裏手にあってな。本島から跳ね橋を下ろして『司法の塔』からのみ行けるらしい。正門、本島前門は実質的な城砦で、本島内は裁判所を中心にした軍事基地みてェな有様だった。大勢の警吏に海兵。それに裁判所直轄の警備部隊。“敵”は千や二千じゃきかねェはずだ」

 

 だから――とパウリーが素人考えの作戦を説明しようとした、刹那。

 

 夜を穿つ昼島――エニエスロビーから鮮烈な閃光が発せられ、続いで轟音がつんざき渡った。大きく暴れる水面に海列車ロケットマンも強く揺さぶられる。

 

 全員が何事だと車窓から顔を出し、ルフィに至っては車両屋根に登り、見た。

 海上線路の先、夜闇を穿つ昼島から空へ向かって伸びているキノコ雲を。

 

「なんだありゃあ……? 隕石でも落っこちたのか……?」目を瞬かせるフランキー。

「ベアトリーゼよ」現地の惨状を想像して額を押さえるナミ。

「スゲェ。ベアトリーゼ、スゲェ」目をまん丸にしているチョッパー。

「クソ。先に始めやがった。急がねェと俺達の分が残らねェぞ」なぜか焦るゾロ。

 

 ゾロの呟きを聞いたルフィは、ロケットマンの操縦席屋根をばんばん叩きながら喚く。

「ココロのばーさん、急いでくれっ!! 全速全開! 全速全開だっ!!」

 

「んががが……とことん命知らずらねえ。どーらっても知らないよぉ!!」

 ココロ婆さんは高らかに笑い、ロケットマンの火室にありったけの石炭をぶち込んだ。

 

       ○

 

 パウリーが語ったように、エニエスロビー島は司法機関が置かれた島ではない。

 堅牢な防御設備と特異な地形を持つ島嶼要塞である。

 

 本島を囲う底なしの大滝は突破不可能な堀であり、エニエスロビーを襲う者達は正面から攻め込まざるを得ない。

 そして、エニエスロビー島の玄関口たる正門も続く本島前門も堅牢な砦であり、防衛部隊と火砲を備えてある。本島内は限られた土地に各種施設が詰め込まれている関係から、城塞都市を思わせる構造で、裁判所は巨大な城砦を兼ねていた。

 

 裁判所の先にあるCP9の拠点を兼ねた中枢施設『司法の塔』への連絡は、大滝が阻んでおり、裁判所と『司法の塔』双方の跳ね橋を下ろさなければ、渡ることが出来ない。

 加えて、エニエスロビー島には駐留海兵、諜報機関要員、裁判所警吏など約一万人――これは平時編成の一個歩兵師団に相当する人員が配備されていた。

 さらに、後背にそびえたつ巨門『正義の門』が開けば、最短数時間で海軍本部戦力が駆けつけてくる。

 

『どんな海賊だって、仲間がここに連行されたら救出を諦める』というパウリーの評は、まったくもって正しい。

“常識的な人間なら”、諦めるしかない。

 

 もっとも……

 今まさにエニエスロビーを強襲しようとしている女は非常識そのものだった。

 

 エニエスロビー島前面でプラズマジェットによる急上昇後、ベアトリーゼは正門に向かって隕石のように急降下。

 飛び込み選手のようにくるくると前転した後、長く優美な両足を爪先から膝上まで漆黒に塗り上げ、悪魔の実の異能を駆使して爆発的超加速+横軸螺旋運動。

 

 自身を一個の砲弾にしたスピニング・ドロップキックがエニエスロビー正門を襲う。

 

 大型侵徹弾染みた一撃を受けた正門は瞬時に完全瓦解。蹴撃の破滅的エネルギーに加え、正門に備蓄された防衛用火砲の砲弾と装薬、銃器用弾薬等が誘爆。巨大正門を瞬時に爆散させた。

 

 殺人的衝撃波がエニエスロビー全体を突き抜け、島を激しく揺さぶり、周辺海面を大きく震わせ、遅れて世界が引き裂かれるような高圧音波――轟音を轟かせる。

 キノコ雲のように立ち昇る粉塵。おびただしい量の瓦礫が飛散していく。

 

 正門内施設に居た者は瓦礫に攪拌されて潰されたか、弾薬の誘爆によって文字通り木っ端微塵に粉砕された。正門近辺に居た兵士達は衝撃波に圧殺された。正門周辺に居た者達は高速飛散した瓦礫片に薙ぎ払われ、島全土に土砂と瓦礫片と血肉片がざあざあと降り注ぐ。

 

 正門が建っていた場所に深々と刻まれた破壊孔へ、揺り戻ってきた海水が流れ込み、破壊孔は土砂と瓦礫と死体と血肉が混ざり合ったどす黒い液体で満たされていく、

 

 粉塵が覆い尽くす正門跡。地獄の釜の中身みたいな破壊孔。そこに転がる大きな瓦礫の上で、全身をどす黒く汚した下着姿のベアトリーゼがゆっくりと身を起こす。

 

 金色の目が本島前門へ照準を合わせ、半裸姿の女妖は再びプラズマジェットで高速跳躍した。

 

        ○

 

 一服してェな。サンジはそんなことを思いながら、注意深く状況を見守る。

「いったい何が起きたっ!? 何が起きてるっ!」

 窓ガラスが無くなった窓辺に引っ付き、半狂乱に喚き続けるクソヤロー。

 

「正門付近部隊の電伝虫に応答がありません」

 眼鏡が似合う金髪レディが電伝虫を使って正門に連絡を試みるも、通話口に出る者は1人も居ないようだ。

 

 直後。再び破壊の音色が島中に響き渡り、衝撃波が駆け巡る。

 本島前門が西瓜みたく砕け割れ、土砂崩れのように内部施設の将兵もろとも大滝へ転落していく。島中につんざく恐ろしい轟音に紛れて微かに、しかし確実に聞こえてくる前門防衛部隊の悲愴極まる絶叫。前門防衛の要だった巨人2人は奈落の底へ落ちかけており、死に物狂いで生き延びようと足掻いている。

 

 正門と違って粉塵と衝撃がいくらか弱かったことも手伝い、その恐るべき出来事は司法の塔からもよく見えた。

 瓦礫の間に立つ怪物の姿も。

 

「化物め」豹野郎が生命帰還で回復力を高め、左肩口の傷を癒しながら毒づく。

「あれが血浴か」髭野郎が腕組みして唸る「あれを相手にしてよく生きて帰れたな。ちょっと見直したわ」

 

「なんなんだ……何なんだよ一体っ!!」

 ほとんど錯乱状態のクソヤローに、サンジは『胆ッ玉の小せェ野郎だ』と呆れ、スパイ達に問う。

「オメェらのボスは現実逃避してんのか? それともガチで理解できてねェのか?」

 

「両方だ。斯く言う俺達も見なかったことしたいくらいだ――チャパパ」

「笑ってる場合じゃなかろう、フクロウ」

「そぉは~~おっしゃるがぁあ~よぉよいっ! この有様ぁ笑うしかぁねえじゃあねぇかぃ~~」

 風船染みた体形の巨漢が投げやりに笑い、ウソップモドキが眉間に皺を刻み、歌舞伎男が仰々しく宣う。

 

「誰か、何が起きてるのか説明しろぉおっ!!」

 クソヤローが憐れなほど喚き散らした、直後。

 

 3度目の閃光が生じ、

「! 伏せてっ!」

 ロビンがサンジに向かって叫ぶと同時に床へ身を投げ出す。サンジはハッとして即座にロビンを庇うように覆いかぶさった。

 2人の様子を見たスパイ達も即座に身を低く伏せ、六式体術“鉄塊”で身を護る。

 

「え」

 状況が分からぬクソヤローがきょとんと眼を瞬かせた、その間際。

 

 

 どっかーん。

 

 

     ○

 

 エニエスロビー本島に駐留している海軍将兵と諜報機関現場要員と裁判所警備部隊は、原作にありがちな『わちゃわちゃと戦場で密集』していた。

 絵面的に迫力はあるけれど、軍事的には無意味であり、ベアトリーゼにとっては『僕チン達を殺してくだちぃ』と言っているようなもので。

 

 期待に応えることが佳い女であるから、ベアトリーゼはエニエスロビー本島の中心へ小さな太陽を投げ込んだ。

 

 本当に小さな太陽だ。サイズにして野球ボール程度でしかない。

 しかし、サイクロトロン共鳴反応で超高熱まで加熱された燃焼プラズマの野球ボールだ。

 

 その小さな超熱源体がエニエスロビー島の中心上空で、自身を包み込む電磁気をほどいた瞬間。

 ぱちんと水風船が弾けるように莫大な熱量を放散させた。

 

 凄絶な熱量放散に伴う気圧変化の高熱圧衝撃波があらゆるものを薙ぎ払い、焼き払い、吹き飛ばす。爆心地の煉瓦や建物は溶解し、ガラス化を起こした。兵士達の銃や刀剣が溶け、弾薬が殉爆する。街路樹も人間も松明のように焼き尽くされて炭化した。正門破壊の衝撃波で窓ガラスを失っていた建物へ窓から流れ込む高熱圧衝撃波は全ての可燃物を一瞬で燃やし尽くす。調度品も家具も壁や床も人間も屋根裏の鼠も例外なく。

 

 惨たらしい死に様だが、即死できた者は幸福だ。

 人間は脳と循環器系と呼吸器系を破壊されなければ、すぐに死ねない。

 たとえ、筋肉組織まで深く焼かれても、内臓を圧潰してシチューみたくなっても、脊髄が砕けてゼリーみたいになっても、脳や循環器系に確実な損傷が生じない限り、人間は意識を保ったままゆっくりと死んでいく羽目になる。

 

 未だ殺人的な残熱が漂う爆心地に降り立ち、半裸姿のモノノケ女は汚れ切った夜色髪を掻き上げ、見聞色の覇気を展開させながら地獄絵図を見回し、鼻を鳴らす。

 

 思ったより死んでないな。無傷の部隊が結構残ってる。邪魔臭ェな。

 まぁそれはそれとして――

 

 大量破壊を繰り返し、頭に昇っていた血が少しばかり下がったせいか。気になる。

 ベアトリーゼはどす黒く変色した見せブラの肩ひもを摘まんで、臭いを嗅ぐ。

 

「くっさ」

 下水を煮詰めたような悪臭を放っていた。見せショーツの方も似たようなもんだろう。付け心地も最悪。髪も身体もヒデェ有様だ。

 

 ちょっと身支度を整えるか。

 海列車では見咎められなかったけれど、この恰好じゃ司法の塔へ乗り込んだらロビンに怒られちゃうし、ナミちゃんに合流したら叱られそうだし。

 ベアトリーゼは司法の塔へ向かう前に寄り道を決めた。

 

     ○

 

 三度の爆発の後、島はゾッとするほど静寂に満ちていた。大滝の落水音以外、司法の島には届かない。

 不気味な静寂の中、島を包む粉塵が潮風と大滝の生む気流に払われていく。

 

 高熱圧衝撃波をやり過ごしたサンジとロビン、CP9の面々は熱気と焼かれた本島から届く臭気にげんなりしながら身を起こし、被害状況を確認しようと周囲を見回す。

 

 と、スパンダムが窓辺で呆然としていた。

 熱波を浴びたらしく髪がちりちりアフロみたいになっていて、火傷状態になった顔と唇がパンパンに腫れ上がっていた。

 

 当のスパンダムはそんなこと気にもならないのか、焦点の定まらない目つきで茫洋とエニエスロビーを見つめている。

 地獄絵図と化した島を。

「何が……何が起きてやがんだ……何が起きてやがんだよ……」

 

 ルッチは帽子を被り直し、言った。

「怪物が来たんです」

 

「そいつはちょっと違うな」

 サンジが胡坐を掻いて座り、口端を不敵に曲げる。

「俺らの“仲間達”が来たのさ」

 

 直後、静寂のエニエスロビー島に、暴走列車ロケットマンの猛々しい汽笛が轟いた。




Tips

スパンダム
 原作キャラ。
 ギャグキャラ、ドジキャラとして人気があるけれど、その言動、その思想、その行動はワンピースキャラ内でも屈指のゲス。

ルッチ
 原作キャラ。
 本作ではフランキーを取り逃がしてしまい、カス上司に罵詈雑言を浴びせられる。
 誇り高い彼にしたら、耐え難い屈辱だろう。

ベアトリーゼ。
 正門→超電磁加速ドロップキックで木っ端微塵。
 本島前門→超電磁加速パンチで瓦割の如く真っ二つ。
 本島中央広場→超高熱プラズマ爆撃。

 大暴れして多少冷静になり、自分がヒデェ恰好をしていることをようやく自覚した。
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