彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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集団戦を書くと文字数が増えてしまって仕方ない。


180:司法の塔の熱戦

 麦わらの一味とCP9の紅一点同士の戦いは、激甚を極めていた。

 

「屋内で落雷を起こすなんて、コワイことが出来るのね」

 悪魔の実“アワアワの実”の石鹸人間となったカリファは、ナミの繰り出した雷撃をやり過ごし、手に入れたばかりの異能を楽しむようにナミを弄ぶ。

「私の身体から放たれる泡はあらゆるものを削ぎ落す。汚れくすみはもちろん、力も他にも。そして……私は暗躍機関の殺し屋よ、お嬢さん」

 

 加えて繰り出される“六式”の技。

 ナミは天性の気象読みであり、クリマ・タクトを用いて気象現象を自在に顕現できる。その力は一味の野郎共と比しても引けを取らない。反面、ナミの武術は素人よりちょっとマシな程度だ。我流に加えてベアトリーゼに少し仕込まれた程度の棒術と護身術が使えるだけ。

 

 はっきり言おう。近接格闘戦に陥ったら、ナミの勝機は皆無である。

 そして、その事実はわずか数手を交えただけで、カリファも理解した。

 この少女は敵ではない、と。

 

 ゆえに、カリファは相手の力を奪い、身体の自由を削ぐ異能の泡を自在に操ってナミを翻弄し、六式の技で着実に傷つけていく。まるで猫が鼠を嬲るように。

 

 しかし、

「私をただのキュート美人だと思ったら、大間違いよ……ッ!!」

 ナミは屈しない。心を萎れさせない。口元から垂れる血を拭い、完成版(パーフェクト)クリマ・タクトをバトンのようにくるりくるりと振り回し、構え直す。

「何よ、余裕かまして。ベアトリーゼ相手にビビってたくせにっ!」

 

「―――無礼者……っ!」

 カチンときたカリファが眉目を吊り上げる。

「思い知らせてあげるわ。CP9の怖さを……っ!」

 

 

 

 コーラでエネルギーを回復したフランキーの鋼鉄の右拳も左腕の兵器も、二つ目のランブルボールで強化したチョッパーの必殺技も、鷲鼻マッチョマンのガヴィトは危なげなく受けと守りで巧みにいなし、捌く。そして、後の先を取って論理的な逆襲――牽制から崩し、崩しから主攻、仕上げを打ち込んで、残心。

 

 ガヴィトは粗野な振る舞いと粗暴な言動とは裏腹に、極めて正道派の武を駆使し、漫画的な力や必殺技の応酬を生じさせない。ただただ一方的な『武』による『力』の制圧を作り出す。

 

 吐血しながら、フランキーはたたらを踏む。

「く……っ! コーラを補充した俺をこうも一方的に……テメェはなんなんだ、デカっ鼻」

 

「俺がどーこーじゃなくてよぉ~テメェらが弱ェんだぜ~」

 ガヴィトはにたにたと笑いながら距離を詰め、

「抜かしてんじゃねえっ!! ストロング・ライトォッ!!」

「そんなデケェ大振り、当たりゃしねェよ~」

 豪快な鉄拳をさらりと左腕でいなし、返しに破城槌みたいな足刀でフランキーの足元を払い、体重を乗せた体当たりで壁まで吹き飛ばし、

「がはっ! しまっ――」

「ファランクスッ!!」

 逃げ場のない状況へ押し込んでから毎分1200発の必殺連打を叩き込む。

 

「ぐぅうううっ!?」

 フランキーが太い両腕で身を守るも、ガヴィトはお構いなしに高速打撃を積み重ねる。凄まじい拳密度に鋼鉄仕込みの両腕が歪み、軋み、皮膚が裂け、血が飛び散る。連打によって両腕の防御がこじ開けられ、高速連打がフランキーの顔面や胴を捉える。

「ぐあああああああああっ!?」

 

「フランキーッ! このぉっ!!」

 傷だらけの人獣形態チョッパーが、連打を重ねるガヴィトの背へ突撃する。

も、ガヴィトはフランキーの体躯を掴んでスルリと位置を入れ替えた。あ、とチョッパーは驚き、フランキーを殴らぬよう動きを止めてしまう。

 

 もちろん、その隙をガヴィトが逃すはずもなく。

 フランキーを投げ転がしてからチョッパーへ肉薄。右の右拳でチョッパーの横っ面と脇腹を連打し、体勢を崩してから前蹴りで宙に浮かし、強烈無比な飛び込み正拳突き。

 

 意識が明滅するほどの連撃を浴び、チョッパーは食堂内をピンボールのように跳ね回る。調度品を巻き込んで床に倒れ伏し、人獣形態が勝手に解けた。瓦礫と血だまりに横たわる小さな身体は、ピクリとも動かない。

 

「ゲハハハッ!! おチビちゃんよぉ、弱ェなあ、弱過ぎるなあ~っ!」

 哄笑を響かせるガヴィト。

 

「嗤うんじゃねェ……っ!」

 血塗れのフランキーが笑う膝に活を入れ、無理やり立ち上がる。

「仲間のために命懸けで戦う“漢”を、嗤うんじゃねェ……っ!!」

 

「“素人”が言いそうなことだぜェ~」

 ガヴィトはにたにたと口元を歪め、血に汚れた歯を食いしばるフランキーを嗤う。

「戦いに覚悟だの決意だの関係ねェ~全ては力と技の優劣が決めるンだぜ~」

 

「違うっ!」

 フランキーは言下に否定する。

 

 プルトンの設計図を後世へ繋ぐため、命を懸けた師匠トムと兄弟子アイスバーグ。

 一味の金を取り戻そうと、勝てぬと分かりながらも単身でアジトへ乗り込んできた長っ鼻小僧。

 任務を果たすため、逃げることなく化物ねーちゃんに挑んだスパイヤロー共。

 自分を助けようと我が身を顧みずに起った子分達。

 自らを犠牲にしてでも仲間を守ろうとしたニコ・ロビン。

 仲間を取り戻すべく、政府中枢の拠点に殴り込みを掛けた麦わらの一味。

 単身で海軍艦隊へ立ち向かっている化物ねーちゃん。

 

「力と技の優劣なんて関係ねェ」

 フランキーは一切迷うことなく断じる。

「貫き通す意志がありゃあなぁ、人間はなんだってやり遂げんだよっ!!」

 

 その裂帛の怒号は、意識を失いかけているチョッパーの心に強く響く。

 

 決して諦めず貫き通す意志を、チョッパーは知っている。命を賭して成し遂げた男を、チョッパーは知っている。

 父のように慕った最高の医者ヒルルクが貫き通した生き様を、チョッパーは知っている。

 

「ゲハハハッ! 面白れぇっ! その戯言をいつまで続けられるか、試してやるぜェッ!!」

 ガヴィトは涎を散らしながら獰猛に嗤い、フランキーへ猛襲を掛けた。繰り出される破壊的威力の拳打足蹴は、人体の急所を的確に打擲する。人を殺めるべく練磨された武は岩を削ぎ砕くようにフランキーを追い詰めていく。

 

 それでも、フランキーは倒れない。血を流し、反吐をぶちまけ、意識が途切れかけても、鋼鉄仕込みの肉体よりも頑強な意志を持つ男は、倒れない。

 

 その姿に、チョッパーは決断する。

 ごめん、ドクトリーヌ。約束を破るよ。

 

 尊敬する最高の医師ドクトリーヌに封じられた、禁断の三つ目のランブルボール。

 俺も、皆のために命を懸けるんだ!!

 チョッパーは三つ目のランブルボールを口に押し込んだ。

 

 

 

「俺の鉄塊拳法でここまでボコっても死なねェとはな。思いの外タフじゃねーか、長っ鼻」

 狼男ジャブラはいまだ痛みを放つ喉頭をかぁ~っと鳴らし、唾を吐き捨てる。散々に叩きのめした緑マスクの長っ鼻を見下ろした。

 

 緑黒の全身スーツはぼろぼろで体中怪我だらけになり、マスクから伸びる長鼻もひん曲がっていたけれど、スナイパーマンはなおも立ち上がろうと足掻く。

 

「頑張るねェ。そんなにあの“幸薄いバカ女”を取り戻してェか? まぁ、“血浴”が居りゃあ出来たかもなぁ」

 ジャブラは立ち上がろうとしていたスナイパーマンの横っ面を蹴り飛ばす。

「だが、テメェら如きにゃ無理だ。そろそろ諦めて死ね」

 

 瓦礫の中を転げ回るスナイパーマン。然して、痛みに屈することなく、敗北を受け容れることなく、大パチンコを杖代わりに立ち上がる。緑のマスクを血と粉塵で真っ黒に染めながら、スナイパーマンは蚊の羽音みたいな声で言った。

「……んじゃねえ」

「あ?」ジャブラが片眉を上げる。

 

「俺達の仲間を侮辱するんじゃねえ、ワン公ォーっ!!」

 スナイパーマンは大パチンコを傍らに投げ捨て、両手を振りながら吠え叫ぶ。

「ベアトリーゼにビビってる犬ッコロヤローッ! ヘタレなテメェのヘナチョコパンチなんざ屁でもねェんだっ! 掛かってこいよっ! テメェの全力で殴ってこいやっ!!」

 

 狼男の顔貌にめきめきと青筋が走り、

「その挑発……乗ったっ!!」

 ジャブラは牙を剥き、全身に六式体術“鉄塊”を掛けた。

 

“鉄塊”は肉体を鋼鉄の如く硬化させ、防御力を飛躍的に高める技だ。一方で硬化した肉体を動かすことは叶わない。が、ジャブラは唯一、“鉄塊”行使状態で肉体を動かすことが出来る。

 鋼鉄の如く硬化した状態から繰り出される全ての拳打足蹴は、強力にして強烈。十分すぎるほど必殺の威力を誇る。

 

 ナマズ髭を躍らせ、狼男は瀕死の長鼻小僧へ襲い掛かった。

「望み通り全力の一撃だ、長っ鼻っ!! 鉄塊拳法、重歩狼(ドンポーロウ)ッ!!」

 

 

 

「ケェエエエエエッ!! 微塵乱斧っ!!」

 怪鳥の如き奇怪な叫び声を上げながら、闇鳥の仮面男が宙を駆け、鞭のように足蹴を繰り出す。彫刻刀で削がれるように抉られていく石造りの壁や床。ナミやサンジからあれこれ言われているが、仮装男ホーガンの実力は決して侮れない。

 

「コスプレニンジャめっ!」

 ホーガンの蹴撃をかわしつつ、サンジは毒づく。ふざけた格好してるくせに、この野郎、やりやがる……っ!

 

「黙れ、小僧っ!!」

 いきり立つホーガンは翼のように広げたマントをしならせ、羽根型クナイを乱れ撃つ。

 

「あぶね――なんだっ!?」

 羽根型クナイの弾幕をかわした、直後。サンジの体が何かに絡まったように動かない。よくよく見れば、クナイには極細の釣り糸が無数に結び付けられており、蜘蛛の糸みたくサンジの動きを封じている。

「姑息な真似をっ!!」

 

「ケェッケケケ――ッ!! 負け犬の遠吠えは心地良いわ―――っ!!」

 怪鳥染みた嘲笑を響かせ、ニンジャモドキが宙から高速急降下し、サンジへ襲い掛かる。

「死ねェいッ! 冴天狗流奥義っ! 旋鎌ッ!!」

 

 

 

 秘密諜報機関のキリン人間と、麦わらの一味の三刀流剣士が大立ち回りを繰り広げていた。

 互いに一歩も引かず、譲らず。剛剣と豪剣の激突が重ねられる。互いに皮膚を裂かれ、肉を切られ、血を流しながら、司法の塔をへし折らんばかりに力と技の応酬を繰り返す。

 

 怪物的身体能力から破壊的威力の技を豪快に、時に愉快に、十重二十重に繰り出すカクへ対し、三刀を用いるゾロは一歩も引かない。

 しばしば魔獣にたとえられる気性と膂力を剥き出しにし、ゾロは真正面からカクを打ち破るべく、一刀の技、二刀の術、三刀の武を惜しみなく発揮する。

 

「どんな仕組みになってんだよ、オメーの身体はっ! もはやキリンの範疇に収まらねェだろっ!」

 もちろん、カクが悪魔の実の能力者らしい常識離れな振舞いを見せた時には、ツッコミを入れることも忘れない。ゾロは“出来ている”男なのだ。

 

「やるのぅ、ロロノア」

 構えを直しながら、人獣形態のカクが不敵に笑う。

「殺し屋としてあるまじきことじゃが……貴様との“死合い”、実に痛快じゃ」

 

「見下ろした物言いじゃねえか、面白キリン」

 三刀を大きく構えるゾロ。

 

「そう穿つな。正直に言うとる。それだけに残念じゃ」

「ああ?」カクの言い分に訝るゾロ。

「バスターコールが掛かった今、貴様との死合いをいつまでも楽しんでいられん。そろそろ幕を引かせてもらうっ!」

 カクは自身最強の技『嵐脚:周断』を繰り出すべく、巨躯を大きく躍らせ始めた。

 

「抜かせ。幕を引くのはこっちだ」

 ゾロは全身全霊の闘気を込めて三刀を構える。その武威の凄まじさたるや、カクに三面六手の鬼神を幻視させるほど。

「鬼気……っ! “九刀流”阿修羅……っ!!」

 

 気迫でここまでの幻を見せるゾロの在り方に、カクは驚愕し、慄然し、戦士として奮い立つ。

「見事……ッ!! なればこそっ! 正面から斬り伏せてくれようっ!!」

 

「そいつもこっちのセリフだッ!」

 士気勇壮にして意気軒高。覇気満ち溢れ、ゾロは“九刀”を以って真正面から挑む。

 

 

 

 司法の塔各所で繰り広げられる激戦が最高潮へ達したその時。

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 怪物の雄叫びが轟いた。

 

     ○

 

 トナカイ顔の巨人が見境なく暴れ狂う。石造りの頑健な壁や床を障子の如く壊し、砕き、突き破り、視界に入るものをとにかくめったやたらに破壊し続ける。

 

「な、なんだぁああああっ!?」

 さしものガヴィトも驚愕した、刹那。

 

 二本の巨腕がガヴィトの体躯に巻きつく。ガヴィトを捉え、フランキーは血塗れの歯を剥いて凶暴に笑う。

「俺様の拳骨はさんざん受け流しやがったが……こいつはどうかな?」

 

「テメェ、何を――」

 ガヴィトが拘束を外そうとした矢先、フランキーは木を引っこ抜くようにガヴィトの体躯を勢いよく持ち上げ、石造りの床が砕けるほど強烈なダイビング・ボディスラム。

 

 石畳みに激突したガヴィトの頭部から血が飛び散り、大きな鷲鼻から鼻血が噴出した。

「がっあああああああっ!?」

 

「効いたみてェだなあッ! もいっちょ行くぞオラァッ!!」

 野武士のように猛々しく笑い、フランキーは再びガヴィトの体躯を高々と持ち上げ、再び、ボディスラム。しかも今度は叩きつける際に頭突きを追加。

 

「―――ッ!!」

 鋼鉄の頭蓋を叩きつけられ、ガヴィトは大きな鷲鼻が潰れ、前歯が砕けた。脳を揺さぶる衝撃と神経がパンクしそうな激痛に意識が飛びかける。それでも、ガヴィトは抗う。密着状態を抜け出そうとフランキーにインチ・パンチをぶち込み、両耳に掌底打を叩き込む。

 

 常人なら堪らず手を放すだろう。しかし、フランキーの両腕は大蛇の如くガヴィトの体躯を捉えて離さず。

「まだまだ元気じゃないの……っ! どれくらい“持つ”か試してやるぜ、デカっ鼻ッ!」

 

「この、や」

 フランキーがガヴィトを担ぎ上げ、床に叩きつけようとした瞬間。

 巨人化したチョッパーの拳が、フランキーとガヴィトを殴り飛ばした。

 

「のわあああああああああああああっ!?」

「うぎゃあああああああああああっ!?」

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 怪物はフランキーとガヴィトの悲鳴を掻き消すように雄叫びを上げ、上階へ向かって吹き抜けを這い登っていく。

 

 

 

「冴天狗流奥義ッ! 旋鎌!!」

 極細の釣り糸によって幾重にも絡めとられ、身動きが取れぬサンジへ仮装男ホーガンの蹴撃が迫る。

 石畳を抉り削ぐ脚力だ。人間などバターの如く削り斬るだろう。サンジが思わず口にくわえた煙草の吸い口を食いちぎった。

 

 瞬間。

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 吹き抜けから這い登ってきたトナカイ顔の巨人がホーガンを鷲掴みにし、

「な、なんんだああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 巨大な手に掴まれて悲鳴を上げるホーガンを、しっちゃかめっちゃかに周囲の壁や柱や床に叩きつけた。

「ギャアアアアアアアアアア――――――――――――――っ!?」

 

「あの帽子に角、まさか、チョッパーっ!? いったいどうしちまったんだっ!?」

 驚愕するサンジを余所に、巨人化チョッパーは幾度も何度もホーガンを叩きつけ、司法の塔をがちゃがちゃに壊していく。ホーガンが意識を失って悲鳴を絶やしてもなお、チョッパーの暴力は止まらない。

 

 チョッパーの暴虐によって足場が大きく崩れ、サンジは自身を封じていた釣り糸が千切れて自由を取り戻す。大急ぎで釣り糸を無理やり外し、チョッパーへ向かって叫ぶ。

「よせ、チョッパーッ!! それ以上やったら、そいつは死んじまうぞっ!!」

 

 サンジの声は凶暴化したチョッパーに届かない。トナカイ顔の巨人は何かに取り憑かれたように握りしめたホーガンを壁や柱に叩きつけ、塔を壊していく。

 

 狂獣となったチョッパーへ、サンジは腹の底から全力で訴えた。

「やめろっ!! お前は医者だろう、チョッパーッ!! 殺しは医者のやることじゃねえっ!」

 

 医者と呼ばれた刹那、巨人は動きを止め、自身の血に染まった手の内にあるズタボロのホーガンを一瞥し、

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 慟哭するように叫んでホーガンを思いっきり投げ棄て、その場から逃げるように再び上階へ這い登っていく。

 

 サンジは唖然としながらチョッパーを見送り、呟く。

「いったい……何がどうしちまったんだ、チョッパー」

 

 

 

「鉄塊拳法、重歩狼ッ!!」

 狼男ジャブラが鋼鉄と化した拳を血達磨のスナイパーマンに叩き込む。

 ボロ雑巾よりメタメタに弱っていたスナイパーマンには、あまりにも過剰殺傷な一撃。のはずだった。

 

「な、」

 ところが、スナイパーマンは痛みに震える両手をかざし、ジャブラの放った必殺拳を受け止めていた。驚愕に目を剥くジャブラ。なんだ、この手応えは。まるで拳打の力と衝撃が何かに吸い取られたような――

 

 ジャブラは気づく。

 長鼻小僧の右手に仕込まれた巻貝のようなものを。だが、それが何なのか、ジャブラには分からない。なにせその貝殻の出所は御伽噺として語られる場所であり、青海におけるその貝殻の流通量は非常に少ない。知識として有していても、咄嗟に情報として喚起されない。

 

 ただ、幾多の殺しを経験してきた暗殺者の勘と、ゾオン系能力者として宿した獣の直感が、この長鼻小僧から距離を取れと強く告げており、ジャブラは本能の警告に従って後方跳躍を試みる。

 

 長鼻小僧のベルトバックルからワイヤーが射出され、ジャブラの首に絡みつく。

「逃がさねえぞ……ッ!」

 

 血反吐混じりのかすれた声に宿った激熱の闘志。ジャブラは心肝を寒からしむる。半ば脊髄反射的にワイヤーが巻き取られるより早く、鋭い爪でワイヤーを断つ。

 

 ジャブラが密やかに安堵し、長鼻マスクの顔が痛悔に歪んだ間際。

 両者の石床が吹き飛び、血達磨の仮装男が飛び込んできて、ジャブラに激突。

 

「なぁっ?!」

 ビリヤードの手玉(キューボール)が衝突した先玉(カラーボール)のように吹っ飛ばされるジャブラ。その先には巻貝を仕込んだ右手を構えるスナイパーマン。

 

「テメェの全力だ。味わいやがれっ!!」

 スナイパーマンは巻貝を仕込んだ右手をジャブラのどてっぱらに叩きつけ、衝撃貝を起動させた。

衝撃(インパクト)ッ!!!!」

 

「――――――――――――――――――――――――ッ!?」

 司法の塔が震えるほどの轟音と衝撃が駆け抜け、ジャブラは叩きつけられた石床を突き破り、階下の瓦礫に埋もれていった。

 

     ○

 

 悪魔の実の異能を使わぬルフィとルッチの格闘戦は、実力が伯仲していた。

 

 どういうことだ。ルッチは表面上の冷静さを保ちながらも内心で驚きを抱く。

“麦わら”はガレーラカンパニーで戦った時と別人のように動きがキレている。この数時間の間に何があった?

 

 サイファー・ポールの養成機関で練り上げられたルッチの格闘術は、軍隊格闘術と同様に理論的に裏付けされた『殺し』の技術。体系化された型があり、洗練され、無駄がなく、基本と応用が完成されている。

 

 一方、ルフィの技に型はない。さながら獣が臨機応変の発想と創意工夫で爪牙を繰り出すように、あらゆる姿勢からあらゆる動きから本能的に嗅ぎ取った“最適解”を選び、動く。

 

 たとえば、常識なら右腕を挙げて防ぐべきルッチの鋭いフックを、ルフィは背骨が折れそうなほど上体を反らしてかわしながら、勢いのままに蹴りを放つ。常人ならその場にひっくり返るだけの愚行だが、ルフィの場合は体幹が崩れず、しかも攻撃に確かな威力がこもっている。

 

 想像外の動きと攻撃を、ルッチは俊敏に身を捻って回避するも、鋭い蹴りが頬をかすめた。擦過の痛みに口端が自然と吊り上がる。

 ベアトリーゼと対峙した時は感じなかった昂揚を自覚し、ルッチは少し苦い顔を作った。

「……貴様風情と伍している事実、不快に思うべきなのだろうがな」

 

「?」

 訝るルフィを余所に、ルッチはためらいの橋の支柱塔天井を見上げた。

「バスターコールが発令されてしばらく経った。そろそろ海軍の艦隊が正義の門を越えてくる頃だ。時間がない」

 

 めきめきとルッチの筋骨が隆起し、人豹に変化していく。

「遊びは終いだ、麦わら。仲間諸共、この島で死ぬが良い」

 

「俺は死なねェし、誰も死なせたりしねェ」

 ルフィの体からうっすらと煙が立ち昇り始める。

 

「ギア“2”……ッ!!」

 




Tips

キャラ個別の戦い。
 なまじオリ要素を組み込んでしまうとさくっと流せない。難しい。

チョッパー。
 原作の主役の一人。
 能力が暴走した後、体力が尽きて失神昏倒。

ウソップ/スナイパーマン。
 原作の主役の一人。
 原作ではジャブラにボコられて自信喪失に至ったが、本作では対ルフィ戦の経験を活かしてジャブラをぶっ飛ばした。

ホーガン。
 オリキャラ。元ネタは銃夢:LO
 当初はサンジの悪魔風脚技で沈んでもらおうと思ったけど、チョッパーの暴走で潰されてもらった。


ベアトリーゼ
 今回はお休み。
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