彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
蛮姫が炎雷を用いて海上を舞う。
返り血と煤煙で煽情的な衣装は赤黒く汚れ、瑞々しい小麦肌の表面を汗と血と潮水の蒸気が踊る。
十重二十重に迫る海軍の六式使い達を蹴り飛ばし、殴り飛ばし、投げ飛ばし、戦艦の群れへ叩きつけ、わずかでも艦体を損傷させる。鉄製外板に激突してトマトのように爆ぜる者。主帆を突き破って向かいの海面に落ちる者。船楼や艤装に衝突し、あるいは上甲板の兵士達を巻き込む者。
4番艦はドーベルマン中将が叩きつけられ、マスト群がへし折られた。10番艦は鉄塊を使用中のヤマカジ中将が激突し、艦首が砕けた。当然、両艦は艦列から落伍する。
それでも、艦隊は止まらない。
数を減らし、傷ついても、任務を果たすべく愚直に突き進む。そして、轟沈した1番艦に代わって先頭に立った2番艦が、通航門と防御柵を砲撃で吹き飛ばすことに成功。ついにエニエスロビー沿岸海域へ突入口を啓開した。戦友を砲弾の如く叩きつけられ、赤黒く損傷した戦艦達が突入口へ向かって突き進む。
それに、動けないと判断した4番艦と10番艦がその場にとどまりながら、エニエスロビー島へ砲撃を始めた。
ベアトリーゼは舌打ちする。
距離と時間の余裕が足りない。艦隊撃滅が間に合わない。
『原作通りならここで艦隊を潰せなくても、皆、逃げられるし』なんて甘えたことは考えない。
スマートでクールな凄腕美人として、荒事のプロとして、親友から頼まれた仕事を、船長と約束した仕事を、きっちりやり遂げねばならない。
体力気力の残量にまだ余裕がある。ここらで少しばかり大きく仕掛けるべきか。
狙いはマストを失って身動きの取れぬ4番艦。軍帽を失ったドーベルマン中将が乱れた長髪を振り乱しながら六式使い達を率い、再び打って出る。中にはようやく宙に浮かんでいるような月歩の拙い者達までいた。健気なまでの勇気と献身の発露。
ベアトリーゼは覇王色の覇気を使えない。威圧だけで雑魚を失神昏倒させるようなことはできない。根っこが鼠のままだから。
ゆえに、健気な海兵達を武威と異能で蹴散らす。
武装色の覇気を混ぜ込んだ大気振動で電磁気をトチ狂わせ、瞬間的な放電現象を生み出す。
蒼穹に突如生じる
強引に作り出した間隙を突き、ベアトリーゼは海面すれすれを疾風の如く飛翔し、4番艦へ襲い掛かる。右のダマスカスブレードに高密度の武装色を展開。木目紋様の黒刃を走らせる。
漆黒の斬撃が4番艦の艦体前部を切断。
続けて、超高熱プラズマ塊を両断された戦艦の狭間へ射出。
激烈な水蒸気爆発が艦の海兵達を一瞬で圧し潰し、蒸し焼き、吹き飛ばし、艦内の弾薬と燃料を誘爆させる。水面から押し上げられる膨大なエネルギーと艦内から切断面へ向かって噴出する莫大なエネルギーにより、4番艦前部が海面から浮かび上がった。
刹那。
ベアトリーゼが浮き上がった4番艦前部の艦底に飛びつき、プラズマジェットを最大出力。さながら地球へ落下しようとする小惑星を押し返そうとした人型機動兵器の如く、大型戦艦前部を宙へ押し上げていく。
アンニュイな美貌を台無しにする力み顔を作り、全身の筋肉がみちみちと悲鳴を上げる。額に血管を走らせ、端正な顔面を真っ赤に染めて、鼻の穴を広げながら大絶叫し――
「おんどぅりゃあああああっ!!!」
大型戦艦の前部を“投げた”。
身を捻るようにロール運動をしながら、昼島の蒼穹をゆく大型戦艦前部。切断面から曳かれる爆炎と黒煙が水面の上に優雅な螺旋放物線を描く。ばらばらと落ちていく艦体の外板や内装、艦載砲や索具などの艤装、生きている海兵と死んだ海兵。
どこからかペール・ギュントの『朝』が聞こえてきそうな、あまりにも非現実的な光景。
水面に浮かぶ大勢の海兵達が戦友の救助や立ち泳ぎを忘れ、愕然と空を見上げていた。蛮姫と戦っていた六式使い達も月歩を忘れ、落下しながら唖然と4番艦前部を見送る。歴戦の本部中将達すら、放物線を描いて宙をゆく大型戦艦の残骸を凝視していた。
突入口を超えてエニエスロビー島沿岸へ向かう戦艦群の海兵達もまた茫然と空を見上げ、そして、気づく。
大型戦艦の艦首が自分達へ向かって落ちてきていることに。
4番艦前部がくるりくるりとロール回転しながら落ちていく。
その先には、今まさに突入口を越えようとしている8番艦が居た。
「避けろぉ―――――――――――――っ!!」
艦長を始めとする将校が行うべき作業命令を絶叫し、下士官兵達が半狂乱になって操艦作業に取り掛かる。
だが、間に合わない。
4番艦前部は鼻先から8番艦を直撃し、その巨体を潰し砕く。
「はっはーっ! おおあったりーッ!!」
全身汗だくのベアトリーゼが喝采を上げた、と同じくして、激突の衝撃に8番艦の弾薬と燃料が大爆発を起こし、艦上に圧し掛かっていた4番艦艦首部を吹き飛ばした。
巨艦の大爆発により、再び宙へ吹き飛ばされた4番艦の艦首部は爆煙の放物線を描きながら、
ためらいの橋に向かって落ちていく。
「あ」ベアトリーゼは金色の瞳を瞬かせ「やべ」
○
「戦艦の残骸が落ちてくるぞ―――――――――――っ!!」
ロビンの海楼石錠を外していたスナイパーマンの絶叫が橋上に響き渡る。こういう時、頼りになるルフィは第一支柱塔でルッチと死闘中。サンジはどういう訳か姿が見えない。
「一世三十六煩悩、ニ世七十二煩悩、三世一〇八煩悩……三刀流ッ! 一〇八煩悩鳳ッ!!」
切り札となったゾロが三刀を抜き、斬撃を飛ばして大型戦艦の残骸の撃墜を試みる。
剛剣の斬撃は大型戦艦の鉄製外板を見事に切り裂き、艦首部を両断した。が、その圧倒的質量による慣性エネルギーを失わせられない。
「―――クソッ!!」
「だめだっ! ぶつかるぞっ! 伏せろぉ――――――――――っ!!」
ゾロが毒づく傍らで、スナイパーマンは頭を庇いながら、ロビンと共にその場に飛び伏せる。
そして、二つに割れた艦首部はためらいの橋を直撃。
一つは第一支柱と第二支柱の間を崩落させ、もう一つは第三支柱塔の門を破壊し、階段を崩し滑りながら船着き場へ落下。護送船に激突した。
立ち込める粉塵。降り注ぐ瓦礫と艦体片。スナイパーマンは衝撃に咳き込みながら身を起こし、
「ああっ!」
崩壊した船着き場と轟沈していく護送船の姿を目の当たりにし、覆面諸共に顔面を蒼白にした。
あそこにはナミや動けないチョッパー、戦えないココロ婆さん達がいる。それに、あの護送船が唯一の脱出手段だった。
「な、なんてこった……」悄然とするスナイパーマン。
「皆……っ!」顔から血の気を引かせるロビン。
「――――くっ!!」自身の失態に悔やむゾロ。
と。
「し、死ぬかと思った……っ!」
チョッパーを抱えたナミ、を背負ったサンジが第三支柱塔、門の残骸の上にへたり込む。
「流石の俺様も今のは焦ったぜ……っ!!」
ココロ婆ちゃん達を担いだフランキーが、ナミの隣に腰を落として安堵の息を吐く。チムニーが無邪気に「すごかったねー」とゴンベと笑い合う。無敵かな?
「お前ら、無事だったかっ!!」
スナイパーマンが歓喜の喝采を上げ、ロビンがホッと胸を撫で下ろした。
ゾロも仲間達の無事に密やかに息を吐く。も、
「てっめぇ、マリモォ―――ッ!! もっと上手くやれよ、このヘタクソッ!!」
「ぅぐっ!」
サンジの容赦ない罵倒に思わず臍を噛む。
嫁をいびり倒す小姑のようにネチネチとゾロを詰めるサンジ。失態を自覚していたゾロは、青筋を浮かべつつサンジの罵倒を甘受する。
「「ロビ―――――――ンンンッッ!」」
そんな両翼を無視し、ナミがチョッパーを抱えたままロビンに抱きつく。
「間に合ってよかったあっ!!」「俺、すっごく心配したぞっ!!」
ナミとチョッパーがぐすぐすと泣きながら訴えると、ロビンは困ったように、照れたように、はにかみながら頷く。
「……ええ。皆のおかげよ。ありがとう……」
「いいのよもぉ~~~~っ!!」「ぼびーん、よがっだぁっ!!」
ロビンを強く抱きしめるナミ。喜びの号泣をするチョッパー。
脱出の手段は失われたが……ともあれ、一味は無事集結。
2人を除いて。
分断された第一支柱塔ではルフィがCP9のロブ・ルッチと死闘を続けており、双方共に大きく傷つき、疲れ果て、それでも互いに一歩も引かず戦い続けている。
海上でも激戦が続いている。
バスターコール艦隊は半数以上が海の藻屑と化していた。エニエスロビー島沿岸海域に突入した戦艦は2番艦と5番艦と6番艦の3隻。爆沈した8番艦が突入口を塞いだため、沿岸海域突入を果たせなかった9番艦が、防御柵の向こうで足踏みしている。
残る4隻の戦艦を沈めようとするベアトリーゼは、沈みかけた10番艦の付近で足止めを食らっていた。
傷だらけの中将達と海兵達が眼前の『悪』を打ち倒さんと奮戦敢闘している間、沿岸海域に侵入した3隻と防御柵の向こう側に足止めされた1隻がついに砲撃を開始する。
4隻の戦艦は砲身が焼き付きそうな勢いで砲撃を繰り返す。エニエスロビー島に爆炎の花が咲き乱れ、島はたちまち炎と黒煙に包まれる。炎熱で生じた上昇気流が粉塵と土砂を巻き上げ、本島の頭上を覆っていく。
フランキー一家とパウリー達が籠城していた裁判所が集中砲撃を浴び、大量の黒煙と粉塵を立ち昇らせながら崩壊した。
「そんな……皆が……っ!」蒼褪めたチョッパーが呻く。
麦わらの一味も、フランキーも、大滝の対岸で起きている圧倒的破壊に言葉が出ない。
「きゃあっ!?」
全員の意識が焼かれる島へ注がれていた間隙。幼女の悲鳴が響き、全員が弾かれたように振り返れば。
チリチリ頭の腫れ顔男がチムニーを抱きかかえ、その細い首に刃を添えていた。
「全員動くんじゃあねえっ!!」
CP9長官スパンダムの再エントリーだ。
孫娘を人質に取られたココロ婆さんの顔が不安と怒りに強張り、“家族”を捕らわれたゴンベが牙を剥いて威嚇する。
見事なまでに生き意地の汚さを発揮する怨敵に、フランキーの顔貌が憤怒でバッキバキに歪み、ロビンの美しい碧眼が冷たい敵意に染まる。
幼子を人質に取る敵の下劣さに憤慨するゾロとスナイパーマン、チョッパー。過去のトラウマを刺激されたナミが静かに激昂し、騎士道精神溢れるサンジは幼女を人質に取った外道へ憤怒した。
この場の全員から凄まじい怒気と殺気をぶつけられ、腰抜けスパンダムはビビりつつも虚勢を張る。
「動くんじゃあねぇっつのっ!! こんなチビの首なんざぁ簡単に斬り飛ばせんだっ!」
「テメェ……」顔中に青筋を走らせたフランキーが両拳をめきめきと鳴らす。
「あんた、仮にも政府の人間でしょっ! 子供を人質を取るなんてどういうつもりよっ!!」
ナミが罵倒するように詰問するも、
「いっちょ前の口を叩くんじゃあねぇよ、海のクズ共っ! 俺“が”正義なんだっ! 俺“が”お前ら海のクズ共から日々守ってやってるから、こいつらが生きてられンだっ! 正義のためにガキの一人や二人命を差し出すのは当然だろうがっ!」
スパンダムは歯牙にもかけない。自身の言動が海賊達の怒りを一層激しくしている自覚すらない。
「カティ・フラムッ! ニコ・ロビンを捉えてこっちに引き渡せっ!! そうすりゃあ、お前の罪を消してやってもいいぞっ! 俺に逆らえば、お前もこのガキもそのババアも“トム”と同じように――」
「貴方の喚き声はもううんざり」
ロビンが小声で呟いた瞬間、スパンダムの体と周囲から無数の腕が生え、
「ひぎィっ!?」
瞬時にスパンダムの体が完全に拘束され、危なげなくチムニーが解放される。
「クラッチッ!」
怒れるロビンの冷厳な宣告と共に、スパンダムの顎が砕かれ、両腕と両脚が折られ、捻り上げられる。
「―――――――――――――――――――――――っ!」
言葉にならない苦痛の絶叫。倒れ伏したスパンダムの許へ、フランキーが静かに歩み寄っていく。
「今日の今日まで、俺ぁトムさんの死を忘れたことはねェ。”あの役人”のアホ面が頭をよぎる度に……!! いつか奴を捻り潰してやりてェと願ってたッ!!!」
めきめきと音を立てて握り込まれる鋼鉄の右拳。痛みを忘れて恐怖に染まるスパンダム。
「――――ッ!」
顎を砕かれたスパンダムが発する声は言葉を形成しない。だらしなく開かれた口から涎と血が垂れ流されるだけ。
フランキーは左手でスパンダムを掴み上げ、右腕をブンブンと振り回しながら自身の能う限界まで力を籠めていく。
「トムさんの分。アイスバーグの分。俺の可愛い子分達の分。テメェが怖がらせたチビの分と心配させたババアの分、それから、俺の怒りに8年分の利子を込めて……くらいやがれ、オラァっ!!」
「―――――――――――――――――――――――――――ッ!」
「スゥ~パァ~ストロングゥ~ハァンマァ――――――――ッ!!」
言葉にならぬ声を発するスパンダムに向け、トムズワーカーの船大工カティ・フラムは全身全霊の力と万感の思いを籠め、鉄拳を叩き込む。
ずっどぉん!!!!
『全身を強く打った』状態で大きく遠くぶっ飛び、スパンダムは島を砲撃中の2番艦に叩きつけられる。死んでいない辺り、流石の生き汚さよ。
フランキーは水色髪を掻き上げ、大きくとても大きく息を吐く。
「すっきりしたぜ」
○
ルフィとルッチの死闘は最高潮に達していた。戦の舞台たる第一支柱塔は半ば倒壊して屋上部分が崩落しており、2人が戦うフロアは瓦礫に塗れ、昼光に照らされ、潮風が絶え間なく生じる戦塵を拭い取っていた。
麦わらの一味の船長モンキー・D・ルフィは無理無茶無謀を押し通す。
強化技“ギア2”で身体能力を強引に向上させ、強化技“ギア3”で肉体の一部を無理やり巨大化させ。命を削るような肉体の酷使は体力を大きく消耗させ、まるでカートゥーンアニメのように体を
そんな決死と必死の覚悟を抱いて戦う強敵を前に、ルッチは無自覚のまま、口元をどこか楽しげに歪ませる。
“麦わら”はガレーラカンパニーで戦った時とまるで別人のように手強い。この数時間にいったい何があったのか。いや、元々秘めていたポテンシャルを発揮しただけかもしれない。
口元の笑みが大きくなる。
生来の好戦的気質か、ゾオン系特有の獣的凶暴性か。いずれにせよ、ルッチは自覚のないまま“麦わら”との戦いを楽しんでいた。“血浴”との戦いでは生じなかった昂揚感と興奮、全身全霊で戦う歓喜。なにより、眼前のこの男を倒したいという戦士の欲望。
ロブ・ルッチは殺し屋としての冷徹さと戦士としての狂奔を抱きながら、ルフィと死闘を繰り広げる。
双方とも、傷つき血を流し苦痛に身を震わせながら、一合、二合、三合、四合……と拳打足蹴の激突を積み重ねる。
双方とも、疲労し疲弊し消耗した体を意志の力で動かしながら、一手、二手、三手、四手……と駆け引きの攻防を繰り返す。
肉を削ぎ合うような熱闘の果て。
ルッチはルフィの放った超高速エクステンドパンチを身肉を削るように避け、後の先を取った。
ゾオン系能力者の全力を投じた六式奥義“六王銃”が、ルフィの体躯の真芯に撃ち込まれた。
石畳の床に崩れ落ちていく麦わらのルフィ。
その様を目の当たりにしたスナイパーマン、いや、ウソップは凍りつく。
なんでお前が倒れてんだよ……っ!
ウソップは居ても立ってもいられず駆け出した。崩落した橋梁の鉄骨基部の先端に行き、血と煤と塵で真っ黒に汚れたマスクを脱ぎ、あらん限りの力を込めて叫ぶ。
「ルフィ――――――――――――――――――――――――ッ!!」
両手を握りしめ、腹の底から叫び続ける。
「何やってんだっ!! 起きろぉっ!! ルフィッ!!」
「……ウソップ?」
ルフィは倒れ伏したまま、かすむ視界の先に、去ったはずの仲間の姿を見る。
「ウソップ……っ! お前……来てたのか……?」
海上から2番艦がためらいの橋に迫る。スパンダムがフランキーに叩きつけられた先で、軍医と衛生兵の手当てを受けた瞬間、喚き散らしたからだ。
『何が何でもニコ・ロビンを捕えろ』と。
2番艦は仕方なくエニエスロビー島を砲撃する任務から外れ、ためらいの橋の制圧とニコ・ロビンの身柄確保へ向かう。
麦わらの一味が戦闘に備える中、ウソップはルフィを叱咤激励し続け、
「立てよ、ルフィッ!! 死にそうなツラしてんじゃねえっ! そんなのお前らしくねェじゃねェかっ!! 爆煙と粉塵で黒くたって空も見える、海も見えるっ!! ここが地獄じゃあるめぇしっ! オメェが死にそうな顔すんなっ!!」
思いの丈を込めて絶叫する。
「心配させんじゃねえよチキショ―――――――――――ッ!!」
ウソップの言葉に、ルフィの体に力が生じる。
無理無茶無謀を重ねに重ね、強敵との死闘で体力も気力も空っぽになっていたはずの体の芯から、疲労とダメージで壊れかけた体の奥から、確かな力が湧きあがってくる。
ルフィがゆっくりと、だが、確実に体を起こしていく。
ルッチは目にしている光景が信じられない。奥義“六王銃”は完全に決まった。麦わらの体幹を真芯で捉えた。手応えもあった。打撃が通じ難いゴム人間という能力者特性を考慮しても、臓器、骨格、血管、神経に致命的な損壊をもたらしたはずだ。
なぜ、立てる。
なぜ、動ける。
なぜ、死なない。
「一緒に帰るぞ、ルフィ―――――――――――――――――っ!」
寸断された橋の向かいから長っ鼻が叫び、麦わらが決意と覚悟を抱いて応える。
「当たり前だ……っ!」
黒曜石のような瞳を太陽の如く熱く滾らせる麦わらの姿に、ルッチは確信を抱く。
麦わらはここで殺さなければならない。
ニコ・ロビンや血浴など、この男に比べたら些事だ。
こいつをここで殺しておかないと、大変なことになる。
こいつは、麦わらのルフィは――
世界の脅威だ。
Tips
戦況
艦隊――戦艦10隻のうち、撃沈5隻、大破1隻。
戦闘可能艦4隻のうち、2隻が沿岸から、1隻が防御柵外から島を砲撃中。1隻がためらいの橋へ。
吹き飛ぶ艦首。
誇大演出。実際には吹き飛ぶ前にバラバラになると思う。
ベアトリーゼ。
あっ。
スパンダム。
そのしぶとさはゴキブリやガムテープ並み。
ルッチ。
戦闘狂なところがあるルッチにとって、実力的に伯仲し、正面から受けて立つルフィとの戦いは楽しいだろうな、という解釈。