彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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W7&エニエスロビー編の巻きに入ったので、長めです。
すぷりんぐさん、佐藤東沙さん、烏瑠さん、kurouさん、誤字報告ありがとうございます。


185:帰ろう

「突入っ! 突入せよっ! 突入ゥ――――――っ!!」

 ためらいの橋に接舷した2番艦から、大勢の海兵達が橋梁へ向かって雲霞の如く飛び降りていく。彼らは雑兵ではない。2番艦の乗員約1000人の海兵から選りすぐられた精鋭達。六式は使えて当たり前。中には覇気使いや能力者もいる。

 

 そんな猛者達を迎え撃つは麦わらの一味と“鉄人”フランキー。

 CP9のガレーラカンパニー襲撃から満足に休む間もなく、エニエスロビーへカチコミを掛け、CP9と激戦を繰り広げた。今や誰も彼もクタクタに疲れ、渇きと飢えを抱え、負傷している。チョッパーに至っては完全に動けない。

 

 それでも、彼らは諦めない。

 ゾロは四方八方から迫る海兵相手に三刀を振るい、サンジは手当たり次第に蹴り飛ばし、ウソップは手持ちのあらゆる道具を使って抗い、ナミはクリマ・タクトをバトンのように操り雷撃を繰り出す。

 

 ロビンはハナハナの実の真価を発揮する。視界内に収めた海兵全てに腕を生やし、片っ端から骨や関節をへし折り、捻り砕き、絞め落す。

 

 フランキーは全身に仕込んだ武器を余すことなく駆使し、千切っては投げ千切っては投げ。暴走機関車の如く大暴れ。

 

 動けないチョッパーを担いだココロ婆さんとチムニーとゴンベが「人質だよーたーすけてー」と図々しく訴える。

 

 誰も彼も必死に戦い続ける。

 船長がCP9の強敵を倒すと信じて。蛮姫が残る戦艦群を撃破すると信じて。

 この場から全員が揃って一緒に帰れると信じて。

 一味は一心不乱に抵抗を続ける。

 

 仲間の想いに応えるべく、ルフィは最後の体力気力を振り絞り強化技“ギア2”を発動し、サイファー・ポール最強の人豹へ挑む。

「JETピストルっ!」

 

「剃刀ッ!!」

 ルッチは疲労と負傷で重たい体に鞭打って高機動回避。が、肉体の反応が鈍く、完全に避けきれない。かすめた脇腹から伝わる衝撃に臓腑が痺れ、呼吸が詰まり、身体が止まる。

 

 そのわずかな間隙を逃さず、ルフィは跳躍してルッチに肉薄。右足を高々と伸ばして豪快な踵落としを放つ。

「JETアックスッ!!」

 

 ルッチは六式の”紙絵”を駆使して踵落としから逃れた。同時に尾を伸ばしてルフィの首に巻き付けて捕捉。回避不可能状態に詰めてから、残る体力を絞り出しての奥義。

「最大輪、六王銃っ!!」

 突き出される両拳。間違いなくルフィの命を破砕する一撃。

 

 首を押さえられているルフィに逃れる術はない。

 否。

 ルフィは逃げない。避けない。防がない。守らない。

 

「ゴムゴムのぉ」

 迫る必殺の一撃に真正面から挑む。

「JETバズーカッ!!」

 

 人豹の双拳必殺技とゴム超人の双掌打が激突した。衝撃波が周囲の瓦礫を薙ぎ飛ばし、支柱塔の外壁を吹き飛ばし、石畳の床が割れ砕け、両者の拳は磁石が反発するように撥ねた。

 

 床が抜け、宙に浮かぶルッチとルフィの視線が交差する。

 双方共に相手を打ち倒さんとする意志に瞳を燃やしている。必ず勝つという決意と覚悟を瞳に抱いている。人豹の秘密工作員は闇の正義のため、麦わらの海賊は仲間のため、信念と矜持に瞳を輝かせている。

 

 撥ねた拳を先に叩き込んだ方が勝つ、と確信を抱く死闘の一瞬。

 

 ルッチの左腕が走る。打撃に強いゴムの肌をも貫く豹爪の一本貫手。ロブ・ルッチの全身全霊が込められた神速の一撃。

 

 ルフィの双眸が灼熱の太陽のように輝く。仲間達の想いがルフィの心を燃やす。仲間達の思いがルフィの身体を突き動かす。

 

 どこまでも固く強く握り込まれる右手。力強く振るわれる右腕。一直線に走る右拳。

「ゴムゴムのぉ、巨人(ギガント)ブレットッ!!」

 ルッチに直撃する瞬間に突如肥大化した拳は、人豹の一本貫手をへし折り、その体躯を豪快に殴り飛ばす。

 

 一瞬で意識を刈り取られたルッチは司法の塔の残骸まで飛ばされ、瓦礫の中に消えた。

 秘密諜報機関最強の人豹を打ち倒したルフィは、そのまま床が崩落した塔内――浸水した海水へ向かって落ちていく。

 

 間際。

 壁から生えた手がルフィの手を握り、落下を防ぐ。

 

 ロビンの手だった。

 たおやかな手を強く握り返し、ルフィは大きく息をしてから、思いっきり叫ぶ。

「一緒に帰るぞ、ロビ―――――――――ンッッッ!!」

 

      ○

 

 軍帽を失くし、長髪を血と潮水に濡らしたドーベルマン中将が怨嗟を吐く。

「貴様は……貴様だけは必ずここで討つっ!」

 

 横転して沈みゆく10番艦の横っ腹。四人の中将達は全員が傷だらけだ。誰ももうコートを肩に掛けていない。全員、着衣が血と煤に汚れ、そこかしこが破れ、裂けている。

 

 ヤマカジ中将は折れた左腕を裂いたコートで無理やり固定している。

 モモンガ中将は背中と脇腹に木片が刺さっている。

 蜘蛛の能力者らしいオニグモ中将は、自身の腹に蜘蛛の糸を何重にも巻き付け、出血を強引に抑えている。

 横転した戦艦の周囲には、残骸や短艇の上に立つ海兵達が、怒りと恨みと憎しみの目でベアトリーゼを睨みつけていた。

 

 自身へ向けられた怨嗟が渦巻く中、ベアトリーゼは肩を大きく上下させながら息を整える。汗を拭う手が筋疲労で震えていた。”性能”が向上した肉体もバテている。

 

 昨晩から全力で暴れ続けてるし、大技を繰り返したからなぁ……いくら私がナイスでグッドな凄腕美女でも流石に疲れたわ。

 

 疲労と消耗が大きい。ブレードを付けた両腕が重い。汗と血と潮水で濡れたエロチャイナドレスとショーツが体に貼りついて着心地最悪。今すぐ脱ぎ捨てたい。喉が渇いたし、腹も減った。たらふく飲み食いしたい。風呂に入りたい。清潔なシーツに寝転がりたい。

 

 ベアトリーゼは艶やかな唇をすぼめて、ふぅっと息を吐き、『あのさ』と海兵達へ語りかけた。

「私は戦艦潰しを優先して、”ちょっと”しか殺してねーじゃん。そんなに目の色変えて怨まなくてもよくない?」

 

 中将以下全海兵達は戯言を聞かされ、殺意と殺気を爆発的に上昇させ、憤怒と激怒で双眸をらんらんとぎらつかせ始めた。

 ベアトリーゼは思う。言葉って難しいわぁ。

 

 と。

 

 艦隊の連絡用電伝虫から報告が飛ぶ。

『ほ、報告っ! CP9のロブ・ルッチ氏が、麦わらのルフィに、敗れましたぁっ!!』

 吉報に、ベアトリーゼは細面に野蛮な笑みを浮かべる。

 

 赤黒く汚れた夜色の髪を掻き上げ、ためらいの橋に接舷した大型戦艦へ目を向ける。

“良い位置”だ。あれなら、丁度良い“波除け”になる――はず。ま、なんとかなるだろ。

 ついさっき、戦艦の残骸を飛ばしてしまい、あやうく一味をためらいの橋ごと海の藻屑に仕掛けたことをすっかり忘れている。きっと疲労のせいだ。多分。

 

 悪魔の実の力で両手に小さな熱プラズマ塊を作り出し、振動を制御。サイクロトロン共鳴を起こし、指数関数的勢いで温度を上昇させていく。

 

 瞬間、中将達と六式使いの海兵達がベアトリーゼに殺到した。

 彼らは直感的に悟ったのだ。

 エロチャイナドレスを着たモノノケ女が何か恐ろしいことをすると。

 

 ベアトリーゼは足場の10番艦が割れ砕けるほどの勢いで跳躍し、海兵達を置き去りにするプラズマジェットの放射でさらに急上昇。

 高度1000メートルで宙返り。両手の超高熱プラズマ塊を融合させてバランスボール大に肥大化させ、眼下へ投げ落とす。

「消し飛べ」

 

 破滅の炎雷球が落ちていく。

 

 電磁波の膜が破けた瞬間、虐殺的熱量が放出されるだろう。

 激甚な熱圧力波は戦艦を一瞬で圧潰破砕し、鉄製外板を始めとする金属部品を溶解させ、艦体も人間も炎上させるだろう。

 海水は沸騰し、海上に浮かび助けを待つ海兵達を茹で殺すだろう。海水と金属の蒸散爆発が全てを薙ぎ払うだろう。

 暴虐的な衝撃波がエニエスロビー島を容赦なく飲み込み、続く津波が全てを大滝へ押し流すだろう。

 

 もしかしたら、大滝に突き出しているエニエスロビー本島が奈落へ崩落するかもしれない。運命力の高い麦わらの一味以外、誰も生き残らないかもしれない。

 

 そして――

 超高熱の炎雷球が破壊の力を解放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷河時代(アイスエイジ)ッ!!」

 エニエスロビー島沖で極大級の爆発が発生した。

 

      ○

 

 濃密な白い闇がエニエスロビー島周辺を覆い尽くす。

 闇の正体は蒸気であり、霧雨であり、霧氷であり、空気は熱く。ぬるく。冷たく。いったい何が起きたのか分からない。

 

 兎にも角にも誰も彼もが茫然自失状態に陥る中。

 最初にウソップが、続いてルフィが、それから一味の全員がその声を聞く。

 

 ――海へ飛んで。

 

 誰も信じられなかった。けれど、誰もが信じた。だって、その声は。

「海へっ!」「海へっ!」「海へっ!」

 ゾロが、サンジが、ウソップが迷うことなく海へ向かって跳ぶ。

 

 ――帰ろう。

 

「海へっ!!」「海へっ!!」

 ナミが、ロビンが、勢いよく橋梁から飛び降りる。

 

 ――また……冒険の海へ!!

 

「飛び込めっ!!」

 チムニーとゴンベを抱えたフランキーが、チョッパーを担いだココロ婆さんが、海へ向かって躍り出る。

 

 麦わらの一味達が雄叫びを上げて、

「メリー号に乗り込めェ―――――――――――――ッ!!」

 白色の闇の中を惑うことなく駆けつけてきた小さな帆船へ、乗り込んでいく。

 

 ――迎えに来たよ!!

 

 ロビンの能力で第一支柱塔からメリー号へ向かって投げ込まれたルフィが、叫ぶ。

「メリ―――――――――――――――――――――ッ!!」

 

 全てを覆い隠す白い闇の中、ゴーイングメリー号に乗り込んだ麦わらの一味は、愛船の登場に歓喜と戸惑いを覚える。

 なぜなら、メリー号はCP9の手によってアクア・ラグナの最中、海へ投棄されたはずだからだ。それに、無人のメリー号がどうやってここまでやってきたのか。

 

 だが、そんな話は今すべきではない。

 突如発生した白色の闇は、ここから脱出する絶好の好機。一分一秒でも惜しい。

 

「ナミッ! 操船の指示を出せっ! ここを抜けるぞっ! 動ける奴は舵と操帆だっ! 急げっ!!」

 ゾロが困惑しているナミや仲間達へ叱声を飛ばし、気を締め直させる。

 

「ベアトリーゼさんはどうするっ!? 置いていくわけには――」

 サンジが叫んだその時。

 白い闇の中から海軍の艦隊用電伝虫の放送が響いた。

 

『先に脱出しろ』ベアトリーゼの気だるげな声が響く。『大丈夫。すぐに追いつく』

 

「船を出せ」

 甲板に転がったまま、ルフィが船長として命じた。戸惑う皆の目を見て、告げる。

「リーゼはぜってぇ戻ってくる。俺達は先に脱出だ」

 

 確信が込められた船長の声と言葉に、クルーは大きく頷く。

「サンジ君は舵を取ってっ! 皆は操帆をっ! ココロさん、動けない連中をお願いっ!」

 美少女航海士が叫び、クルー達が動き出す。

「取り舵一杯っ! 9時の方角を目指してっ! フランキー、アレ出来るっ!?」

 

「ああ。ちょいと船体にゃこたえるが……風来(クー・ド・)

 メリー号が9時の方角へ回頭を終えた直後。

(ヴァン)ッ!!」

 

 船尾に立ったフランキーが、体内のコーラを残り全てを費やす高圧空気砲をぶっ放し、メリー号を飛翔させた。

 帆船が空を飛ぶという無茶苦茶な状況の中、ルフィが太陽のような笑顔で叫ぶ。

 

「さぁ帰るぞっ!! 野郎共ッ!!」

 

      ○

 

 ベアトリーゼは2番艦の甲板に立ち、電伝虫を放り捨てた。そして、2番艦に向かって広がってくる氷塊を睥睨する。

「やってくれたな……っ」

 

 一切合切を吹き飛ばすはずだった超高熱プラズマ爆撃は超低温の氷塊と冷気に迎撃され、その暴力的熱量を氷塊の溶解気化と超低温の中和相殺に食われてしまった。

 

 蛮姫の虐殺を防ぎ、周囲の水面を氷原に変えている男が応えた。

「それ、こっちのセリフじゃねーか?」

 凍てついた海に立つ松田優作似の大男が、ぼりぼりと髪を掻きながらぼやく。

 

 海軍大将“青雉”クザンは大きく嘆息を吐き、気を取り直して言葉を紡ぐ。

「しっかし……今日はまた随分な恰好してんな」

「この島で拝借した服だよ」しれっと答えるベアトリーゼ。

「なんでそんなキワドい服選ぶんだよ。鉄火場に相応しいドレスコードってもんがあるだろ。もっと相手のことを考えて。痴女に倒されましたじゃあ、あまりに不憫だろ。思いやり、大事だよ」

「正論で殴ってくるキャラだったっけ?」

 脳ミソを使ってない会話を交和した後、

 

「それにしても……ほんとにやりたい放題やってくれたよなぁ」

 クザンは仰々しく深呼吸して周囲を見回し、しみじみと言った。

「せめて、お前の首くらい獲らねェと、海軍(俺ら)の面目が立たねェよな」

 

 ざり、と氷が踏まれる音色が響く。軍靴の音色はすぐに大きな合奏に変わった。クザンの背後に、負傷した中将達や海兵達が次々と集結してくる。誰も彼も全身から憤怒と報復の念を湯気のように漂わせていた。

 

「大将“青雉”。御命令を」

 ドーベルマン中将が言った。額から流れる血が元々失明していた左目を紅く濡らしていた。

 

「あの悪を打ち倒し、麦わらの一味に追撃を」

 オニグモ中将が言った。愛用の鉄兜は傷だらけで、腹に巻かれた蜘蛛の糸は自身の血に染まっている。

 

 他の中将達も海兵達も引き絞られた弓の矢だ。命令一下にベアトリーゼへ襲い掛かるだろう。クザンが加われば、彼らの望み通り、蛮姫を討ち取ることも出来るだろう。

 大勢の犠牲を代償に。

 

 クザンはじっとベアトリーゼの金色の瞳を睨み据え、問う。

「お前は、いや、お前らはこれからどうする気だ」

 

「それは私が答えることじゃない。船長が決めることだ」

 ベアトリーゼはアンニュイ顔で応じ、

「そもそも、さ。仕掛けてきたのは、お前の方だろ」

 淡々と言葉を綴り、

「こんなクズまで使ってよ」

 足元に転がっていたスパンダムを持ち上げる。

「ひ、ひぃっ!?」

 

 クザンは片眉を上げた。ありゃ。殺されてなかったよ。

 再びゆっくりと深呼吸し、大きく頷いた。

「……分かった。ここで手打ちにしよう」

 

「閣下っ!?」「このままでは終われませんっ!!」

 ドーベルマン中将を始めとする海兵達が食って掛かるように睨んでくるも、クザンは大きく首を横に振る。

「有能で優秀な人材を怪物一匹のためにこれ以上、失えねェよ。それにまあ……“人質”も取られてるしな」

 

「人質の価値もねェだろ、こんな奴」

 ベアトリーゼは持ち上げていたスパンダムを人食い鮫のような目つきで見つめる。

 どうやってぶっ殺そうか。ゆっくりとハラワタを引っこ抜いてやろうか。振動波で脳ミソを沸騰させてやろうか。

 いや。絶対克服できないトラウマを刻んでやろう。せいぜい長生きして苦しめ。

「……その鼻、気に入らないなぁ」

 

「え」

 怯えるスパンダムを無視し、ベアトリーゼは矯正ベルトで固定されたスパンダムの鼻を掴み、

「お前、なんで鼻だけ黒いんだよ」

「ひぃっ!? ちょ、や、やめ――」

 

 ぶちり。

 

「ありゃ。取れちゃった」

 ベアトリーゼはアンニュイ顔に柔らかな笑みを湛え、ころころと喉を鳴らす。

「―――――――――――――――――――――――ッ!!」

 声にならない絶叫が響き渡り、スパンダムが鼻根から鼻柱まで丸ごと毟り取られた顔面を押さえ、苦悶して転げ回る。

 

 突然の凶行に唖然とするクザンや海兵達を無視し、蛮姫は千切り取った鼻を熱プラズマで焼き尽くした。と同時に、大気振動で強烈な閃光と轟音を放ち――

 

 クザンと海兵達の視界が回復すると、蛮姫は完全に姿を消していた。

「おっかない女だ」

 溜息をこぼした後、憤懣やるかたない海兵達へ海軍大将として冷厳に命じる。

「死傷者の救助と回収を始めろ。一人でも多く連れて帰れ」

 

 全員が答礼し、即座に動き出す。そんな中、一人の佐官が困り顔で駆け寄ってきた。

「大将閣下。あの、問題発生です」

 

「センゴクさんか? 参ったな。まだ言い訳を考えてねェよ」

 ぼりぼりとモジャモジャ頭を掻くクザンへ、佐官は首を横に振った。

 

「はい、いいえ。違います」

「? 違う? どういうこと?」と怪訝顔の海軍大将。

 佐官は戸惑う上官へ説明した。

「当艦隊に同行したはずの試験艦が行方不明です」

 

「んんん?」

 クザンは目を点にして首を傾げた。

「何それ。試験艦なんて聞いてないぞ」

 

       ○

 

 エニエスロビーの海域を抜け、麦わらの一味はようやく安堵の息をこぼす。

 昼島エニエスロビーの海域を抜けても、陽光が絶えない。どうやら夜が明けていたらしい。

 

 誰も彼も疲労感やら緊張感が解けた脱力感やらでその場にへたり込む中、一人立ったままのロビンが皆を見回して、心から思いを込めて、告げた。

「皆、ありがとう」

 

 全員の顔に笑顔が浮かぶ。

 ロビンの感謝の言葉にやり遂げた充足感を抱き、誇らしげに笑うゾロとサンジとウソップ。

 ロビンを取り返せた実感を抱き、嬉しさで満面の笑みを作るルフィとナミとチョッパー。

 そんな面々に釣られて微笑むフランキーとココロ婆さんにチムニーとゴンベ。

 

「ベアトリーゼが居ねェが、ありゃ殺しても死なねェからな。すぐに来るだろ」

 ゾロがしみじみと言えば、周りの笑顔が苦笑いに変わる。

 

「ホントに大変だったのよ? ルフィより無茶苦茶だったんだから」

「ほんとなーっ! ルフィより滅茶苦茶だったっ!」

 ナミとウソップが口々に言えば、ぐでーっと転がっているルフィが唇を尖らせる。

「なんで俺と比べるんだ?」

 

「「オメーが一番無茶苦茶だからだ」」

 両翼が口を揃えて追撃し、ルフィが渋面を大きくした。わっはっはと笑う面々。

 

 ロビンがフランキーへ顔を向け、申し訳なさそうに切り出す。

「私のせいで貴方の子分さん達が……」

 

「アーゥ。なぁに、あいつらがあのくらいで死ぬわけねェ……俺達と同じようにさらっと帰ってくるさ……」

 フランキーが大人らしい気遣いでロビンに応じた。

 その直後。

 

「後ろからなんか来るよーっ!」

 舷側から海を眺めていたチムニーが声を上げ、なんだなんだと一味が窺えば。

 板っぺらをサーフボード代わりにし、熱プラズマをまとって波飛沫を蒸発させながら進んでくる非常識の姿が。

 

「えぇ……ベアトリーゼって能力者だったよな?」

「おもしろそーっ! 俺もやってみてェっ!」

「……」

 海に落ちたら一巻の終わりな悪魔の実の能力者にもかかわらず、波乗りで現れたベアトリーゼに、一味の能力者達――チョッパーは戸惑い、ルフィははしゃぎ、ロビンは色々な感情を込めて小さく息を吐いた。

 

「あいつ、海に落ちたら……とか想像しねェのか?」

「ルフィの兄貴も似たようなもんに乗ってたし、案外、平気なんじゃねーか?」

 ウソップの心配にゾロが小さく肩を竦め、

 

「それにしても、ホントにひっどい格好してるわね。どこであんな服見つけて来たんだか」

「改めてみると……なんてセクスィーなお姿なんだ、ベアトリーゼさん♡」

 ナミがぼやき、サンジが目をハートの形にして喜んだ。

 

 で。

 

 板っぺらごとメリー号に乗り込んだベアトリーゼは真っ先にロビンへ駆け寄り、何も言わずにぎゅっと強く抱きつく。

「ビーゼ。ありがとう」

 そんなベアトリーゼをロビンは抱きしめ返す。

 

 たっぷり一分、ロビンの存在と温もりを確認した後、ベアトリーゼはフッと笑顔を作る。

「いろいろあったけど、誰一人欠けることなく帰ってこられたし、大団円だね」

 

「いえ、全員じゃ……」

 ロビンがしゅんと美貌を曇らせ、ベアトリーゼは小首を傾げる。

「なんで? 麦わらの一味はメリー号でしょ? フランキーの親分さんとココロさん達もここに居るし、フランキー一家とその他はパッフィングトムを奪って脱出したでしょ? 全員無事じゃん」

 

『え?』全員の目が一斉に向く。

「え?」ベアトリーゼが目を瞬かせる。

 

「キョーボー姉ちゃん。あいつら、ほ、本当に無事なのか?」

 フランキーが問い質し、ベアトリーゼは皆の反応に当惑しつつ答えた。

「間違いないよ。私がエニエスロビーを脱出する時に見聞色の覇気で確認したから」

 

「うおおおおおおおおおおっ! あいつらが無事でよかったぜえええええええっ!!」

 男フランキー、大号泣。

 共にエニエスロビー島へ殴り込みを掛けた“同志”の朗報に、麦わらの一味もココロ婆さん達もやんややんやと大いに喜ぶ。

 

 周囲の喝采にいまいち乗り切れず、反応に困っていたベアトリーゼが不意に崩れ落ちた。小麦肌から血の気が失われ、紅を挿しているのに唇が真っ青に染まっている。

「ありゃ」

 

「ビーゼっ!?」

「や、疲れたわ。ちょっと体が言うこと利かない」

「無理もないわ。昨日の夜から全力で滅茶苦茶しっぱなしだったんだもの」

 ベアトリーゼを介抱するロビンの傍らに立ち、ナミはしみじみと言葉を編み、ぎろりと橙色の瞳を吊り上げた。

「今度ばかりはきっちりがっつりお説教するからっ! ロビンもよっ!」

 

「ひぇっ」ナミの迫力に仰け反るベアトリーゼ。

「私も?」予想外の矢が飛んできて困惑するロビン。

 

「あんた達二人とも大人の癖に無茶しすぎっ!」

 ナミの猛烈なお叱りが船上に響き渡る。

「いいことっ!? この一味はねっ! 滅茶苦茶枠はルフィだけでお腹いっぱいなのっ! 脳筋枠はゾロで十分なのっ! バカ枠はサンジ君とウソップで満員なのっ! あんた達は大人なんだから、私と一緒に常識人枠に居なきゃダメなんだからねっ!!」

 

「「おい」」ルフィとゾロが抗議の声を上げた。

「バカ枠……っ!?」ウソップ、絶句。

「愛のある表現だね、ナミさん♡」サンジには通じなかった。

 

「俺、なに枠だ?」つぶらな瞳で疑問を抱くチョッパー。

「オメェはペット枠じゃねえのか? 麦わらの一味のペット、シカゴリラだろ」真顔で指摘するフランキー。

「俺はペットじゃねぇ船医だバカヤローッ! それからシカでもゴリラでもなくトナカイだコノヤローッ!」

 チョッパー怒りのガチ抗議。

 

 ははは~

 

 メリー号が楽しい笑い声と笑顔に溢れた。

 その刹那。

 

 大気を切り裂く鋭い音色が響き、ゴーイングメリー号の周囲に巨大な水柱が立ち昇り、小柄な船体を激しく軋ませた。




Tips

ルフィVSルッチ。
 結末は原作と同じだけど、決着の付き方はちょっと違う。

スパンダム。
 原作キャラ。鼻をもぎ取られてトラウマを植え付けられた。

”青雉”クザン。
 原作キャラ。CV:子安武人。
 松田優作似の怪人氷男。原作でも一味がメリー号で逃走後に登場。

ロビン。
 主役キャラの一人。
 原作エニエスロビー編で彼女が見せた笑顔は本当に美しい。

ゴーイングメリー号。
 原作ではエニエスロビー島脱出後に限界に達し、別れを迎える。
 本作では……

ベアトリーゼ。
 オリ主。一日で数千人を殺傷したチョー凶悪犯。悪意からスパンダムを殺さなかった。
 流石に疲労困憊でもう動けない。
 
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