彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
ウォーターセブン島で大宴会が催された翌日の朝。
エニエスロビー島事件の記事を載せた世界経済新聞がばら撒かれる。
記事内では、麦わらの一味(美女2人含む)+フランキーがエニエスロビー島を襲撃。その際、政府諜報機関員の“重大な過失”で島の防衛に失敗。さらに、その過失の影響で“救援”に出撃した海軍艦隊が甚大な損害を被ったという。
仮設ゲストハウスで朝食を摂りながら、麦わらの一味は新聞を肴に話の花を咲かせていた。
「ココロ婆さん達のことは人質にとって無理やり駆り出したことになってるが、フランキー一家やガレーラの職人達について触れられてねェし、巨人2人のこともまったく書かれてねェな。代わりに俺達のことはぼろくそに書かれてるぞ。なんもかんも俺達の仕業だとよ」
新聞に目を通しながら、ゾロが語る。
「そりゃ“俺達に”随分と都合がいい報道だな」サンジはルフィに顔を向け「お前のじーさんが手ェ回してくれたのかね?」
「いやー……そういうこまけェことは……」と顔の前で手を横に振るルフィ。「「しないと思う」」同意するナミとチョッパー。やりとりを聞いていたロビンとベアトリーゼは海軍の怪人氷男が手を回したのだろう、と確信する。
「まぁなんであれ、こりゃまた懸賞金が上がりそうだな」とゾロが言えば、
「4億超えちゃうかな。ロビンも億越えするかも」「何か今更感があるわね」
長く賞金首をやっている美女2人がそんな会話を始め、チョッパーとサンジが今度こそ自分にも懸賞金が懸かるかも、とはしゃぐ。有名人になれる的な扱いじゃないのだけれども。
卓の朝食が皆の胃袋に収まり、食後のお茶が配られる中、ルフィが改めてメリー号に替わる新たな船についてのいきさつを聞き、大喜び。
「船の完成までに5日は欲しいそうだ。俺達も
サンジがルフィへの説明を終えたところで、「そうだ!」ナミが弾んだ声を上げた。
「新しい船で使う家具とか調達しないといけないわね。今日は皆でゆっくりお買い物でもしましょ!」
ナミが軽妙な足取りで金庫の許へ赴き、がちゃりと開けてみれば。
虎の子の1億ベリーがない。どこにもない。愛すべき札束は影も形もない。
「え」ナミの脳ミソが理解を拒む。「お、お金がない……っ!? な、なんでっ!?」
美少女航海士は1億ベリーちゃんの行方不明事件に凍りつく。
「そこの金なら宴の時によ、肉やら酒やら買うのに“やった”ぞ!! 俺達の宴会なんだから、銭を出してやらねーとな! 最後にゃ町中の奴らが集まってきて楽しかったなぁ~あははは」
ナミの鉄拳制裁が始まるまであと二秒。
○
済し崩し的にしばし休暇を取ることになった麦わらの一味を余所に、ウォーターセブン廃船島の一角では、フランキーが青空作業場をこさえ、『夢の船』を作り始めていた。
世界最高の木材を加工する手際は丁寧かつ繊細。しかして作業自体は素早く大胆。たとえば鉋掛け一つとっても、豪快に削っているようで、ミリ単位以下の精度で行っている。素人目にさえフランキーの腕前が卓越していることがよく分かる。
解体業者ではなく船大工として腕を振るうフランキーの下で、大ガエルのヨコヅナが簡単な作業を手伝う。スクエアシスターズが作業を楽しげに眺めながら時折、邪魔にならないよう木くずや木片を片付けたり、お茶を入れたりしている。
フランキーががんがん作業を進めているところへ、
「やってるな、フランキー」
愛用の船大工道具を担ぎ持ったアイスバーグがやってきた。
「んん? オメェ会社と街の仕事はどうした?」手を止めることなくフランキーが兄弟子へ怪訝顔を向ける。
「俺にゃあ優秀な部下が大勢いるんだぞ」アイスバーグはにやりと笑い「オメェの手伝いをする時間くらい取れるさ」
アイスバーグの参加をヨコヅナが喜ぶ傍らで、フランキーは思わず手を止め、まじまじとアイスバーグを見つめてしまい。そのことに気づくや照れ臭そうに顔を背けて作業に戻る。
「……手伝うだとぉ? テメェ、俺の設計について来れんのか?」
「ンマー……抜かしやがる。お前こそ解体ばかりで腕がナマってねェだろうな? まずは図面を見せてみやがれ」
どこか嬉しそうに憎まれ口を叩く弟弟子に鼻息をつきつつ、アイスバーグがスクエアシスターズから図面を受け取る、と。
「何もこんなとこで造らんでもいいでしょうに」
「手伝えることはあるかっ!?」
「手が足らずに仕事が雑になっちゃあイカンからな」
パウリーを始めとするガレーラカンパニーの職長3人がやってくる。
「ンマー……お前らテメェの仕事は良いのか?」
「“あの”海賊船に替わる船を造るんなら、俺達だけでも手ェ貸してやってくれと皆が送り出してくれたんです」
社長の問いにパウリーが笑顔で答え。
「オメェらどいつもこいつも……」
涙もろいフランキーは粋な助っ人達の登場に鼻をすすり、照れ隠しに叫ぶ。
「足引っ張んじゃねェぞっ!!」
「オメェこそ下手な仕事しやがったら昔みたく叱り飛ばしてやるぞ」とアイスバーグがにやり。
「伊達にガレーラカンパニーの職長、張ってねーぞ!」と意気軒高な職長達。
青空作業場に温かい喝采が響いた。
かくして、超一流の船大工達が最高の資材を用いて最高の船を造っていく。
いつの間にかココロ婆さんも作業場にやってきて、転がっていた安楽椅子に腰かけて“坊や達”の船作りを眺め始める。
「んががが。まっらくあの頃と変わらないねェ」
その眼差しは温かく優しく、懐かしそうで楽しそうで、心から嬉しそうで、成長した“坊や達”が誇らしそうで。ココロさんはこの光景を共に見たかった故人を思いながら、献じるように酒瓶を傾けた。
いつもの安酒は最高に美味かった。
○
ルフィがチョッパーと共に街を散策し、ゾロが失った雪走の替わりをどうするかと思案しながら
ロビンは自分が居なくてもガレーラが仕事が回るようスマートに体制と手配を整えており、ベアトリーゼは2人とお出かけがしたくて根性で自分の担当分の仕事を終わらせた。
というわけで、ベアトリーゼもロビンとナミとショッピングを楽しんでいた。
――のだけれども。
とある服飾店で下着を選んでいる最中のこと。
「……は?」
ベアトリーゼの金色の瞳がキュッと絞られ、口から怖い声が漏れた。
「今なんつった? 95? Iカップ? は?」
満月色の双眸がナミの胸元を凝視する。フード付きワンピースに包まれた胸はメロンのようにたわわに実っていた。
「はぁ?」ナミの胸元を睨みながらドスの利いた声を漏らすベアトリーゼ。
「ちょ、な、何よ? 目つきが怖いんだけど」思わず両手で胸を隠すナミ。
「……なんで? ねえ、なんで? どうやったの? どうやって大きくしたの?」
おどろおどろしい気配を漂わせながら、ベアトリーゼは飢えた猛獣のように距離を詰めてくる。
「コワイコワイコワイコワイッ!」
ナミは飛び込むようにロビンの背へ隠れ、頼れるロビンに目で問う。アレは何と。
「ビーゼはなんというか、胸にちょっとコンプレックスがあって」と典雅な微苦笑を返すロビン。
「あの様子はちょっとどころじゃないと思うけど……」御指摘ごもっとも。ナミはロビンの背に隠れながら溜息をこぼし「胸のサイズなんて人それぞれなんだから、気にしなくても」
「黙れ、小童っ!」
一喝するベアトリーゼ。マジギレである。
ええ……っ!? とドン引きのナミ。
「Fカップあるのに、貧乳扱いされる気持ちが分かるかっ! Fカップは小さくねえっ!! 一般的には巨乳なんだっ! なのに小さい扱いっ! なんたる理不尽っ! なんという不条理っ! こんなことは許されないっ!」
変なスイッチが入ったベアトリーゼはもう止まらない。
「親友の胸はどんどん大きくなっていくのに、私の胸は足踏みしっぱなしっ! いずれ大きくなるからと言われてもう25歳っ! デカくなったのは身長だけっ! 私には優秀な頭脳とナイスでグッドな戦闘能力が備わっているのに、このガッカリ感は何っ!? せめてGっ! 私にGカップを! 夢のGカップをっ!」
FカップだのGカップだの連呼する奇行に、周りの女性客がなんだなんだと遠巻きに窺い始める。これは恥ずかしい。ロビンは他人の振りを始めようかしらと思案し始めた。ナミがどうしたものかと戸惑っているところへ、怖い笑顔の店員さんがやってきた。
「他のお客様の御迷惑になりますので……」
三人は店を追い出された。
ほでからして。
ガレーラの好意で素敵なゲストハウスに宿泊しているけれど、流石に飯――食材の方は自前で用意せねばならず、畢竟、他の面々が休暇を楽しんでいる間も、サンジは飯の買い出しに出かけねばならなかった。
まあ、苦にはならない。サンジは料理という行為が何より好きだし、食材探しも楽しい。売り手との交流は面白い(売り子がレディなら尚良しだ)。屋台や軒売りの料理は時に新たな学びとアイデアをくれる。
サンジは世界中の魚介が集まるという伝説のオール・ブルーへ行ってみたいと思っているけれど、ナミが自分自身の世界地図を描き上げることを目標にしているように、世界中の料理を知り、自分だけの料理を目指してもいいかもしれない、とも密やかに思っていた。
自信を持って選んだ飲食物を満載したリヤカーを引きつつ、サンジが帰途についていると。
海岸で独り芝居をしている長っ鼻を目撃した。
どうやら一味に復帰する方法をあれこれシミュレートしているようだが……遠目には売れない芸人が独りコントの練習をしているようにしか見えず、何と言うか……感想に困る。
サンジは思わず引き気味に呟く。
「何やってんだ、あのアホは……」
仲間に見られているとは知らず、ウソップはシミュレートを続けている。
奴はいつだってマジだ。
○
日が沈み、夜の帳が下りる。廃船島の青空作業場では篝火が焚かれ、超一流の船大工達が寝る間も惜しんで、いや寝食を忘れて船作りに没頭していた。
フランキーとアイスバーグは息ぴったりで作業をし続け、肉体的限界を迎えてやっと飲み食いしていないことに気づく。スクエアシスターズが用意していた飯と飲み物を胃袋へ詰め込むように平らげると、2人は図面と作業について簡単な打ち合わせをした後、再び作業へ戻る。タフで鳴らすパウリー達やヨコヅナがへばるように仮眠を取る間も、船を造り続ける。
まるで憑かれているように。
だが、2人の様子は鬼気迫るような危うさはない。スゲェ船を造っているという実感に興奮し、図面に描かれた夢が実際に形を成していく様が面白くて、ただただ船造りが楽しくて楽しくて、食う間も寝る間も惜しいという喜びに溢れている。
篝火が照らし、星月が見守る中、フランキーとアイスバーグは船を造り続け、夜の海岸に作業の音色が奏でられ続けた。
船造りが進められている時、麦わらの一味達が逗留するゲストハウスでは夕食が終わり、食後のまったりした雰囲気が漂い始めた矢先。
「そういや……昼に買い出しにいったら、ウソップの奴を見たぞ」
皿洗いを終え、一服を始めたサンジが何気なく言った。
「海岸で一味に戻る予行練習してたよ」
「ええっ!? ホントか――っ!?」ルフィは吃驚を上げた。
「ウソップ、戻ってくるのかっ!?」チョッパーが嬉しそうに叫び。
「一味に戻る予行練習……?」困惑するロビン。
「そーいう大事なことは早く言えよ、サンジっ! 今すぐ迎えに行こうっ!」
「おーっ! 行こう行こうっ!!」
表へ飛び出そうとするルフィとチョッパーの機先を制すように、
「待て! お前らっ!!」
ゾロが鋭い声を発した。
「こっちからウソップの野郎を迎えに行くことは、俺が許さん。間違っても、お前が下手に出るんじゃねえ、ルフィ。俺ァあいつから頭下げてくるまで認めねェぞ!!」
なんで、と当惑するルフィ達へ、ゾロは険しい面持ちで言葉を重ねる。
「野郎はルフィと対立した時に“決闘”を言い出し、事をその勝敗に委ねた。その上であいつは敗け、勝手に出てったんだぞ」
ゾロはルフィのほっぺを鷲掴みして、全員を見回す。
「良いか、お前ら。こんなバカでも肩書きは“船長”。俺達の頭なんだ。いざって時、コイツを立てられねェような奴ぁ一味にゃ居ねェ方がいい……っ! 船長が“威厳”を失った一味は必ず崩壊するからだっ!!」
物事の“筋”に厳格なゾロの言葉は正しく、誰も反論できない。
「あのアホが戻ってくる気になってんのは大いに結構。だがな、今回の一件に何のケジメもつけず、うやむやにすることは絶対に許さん。その時はウソップの野郎をこの島に置いていく!」
ゾロの厳しい宣言にナミやルフィが思わず反論しようと口を開きかけたところへ、
「道理だね」
ベアトリーゼが静かに言った。
「君らが固い絆で結ばれていることは知ってるけれど、この件は仲直りして終わりとはいかない。これはね、麦わらの一味という“組織”の結束に関わる問題なんだ。なあなあで済ませることは君らの今後に良くないよ」
「……だな。今回ばかりはコイツの言うことが正しい」
サンジもゾロの意見に賛同する。
犯罪秘密結社の最高幹部だったロビンも無言で首肯した。
一味の両翼と大人2人の見解に、ナミとチョッパーも組織の道理を認めて口を噤む。
「簡単な話だ。ウソップの第一声が深い謝罪であればよし。それ以外なら奴の復帰を認めねェ。問題あるか、“船長”」
副船長に問い質され、ルフィは今すぐ長っ鼻の仲間を迎えに行きたい欲求を堪え、大きく頷く。
「……分かったっ! 黙ってあいつを待つ!!」
船長の決断に皆が頷く。
緊張感のあるやり取りにいち段落がつき、誰かの口からホッと息を吐く音が聞こえた。
ナミは蜜柑色の髪をわしわしと掻き、喚くように宣う。
「……この際、滞ってた問題を解決しましょっ!」
「問題? なんかあったか?」ゾロが怪訝顔をこさえ、サンジに目を向ける。
「覚えがねェな。ロビンちゃん、ベアトリーゼさんは? 何か心当たりあるかい?」
サンジも小首を傾げ、ロビンへ問う。ルフィとチョッパーに水を向けない辺りがなんともはや。
「特に」「ないね」
大人の美女2人が訝り顔を作るに至り、全員の目が「どういうこと?」とナミに問う。
そして、当のナミは――
「色々ありすぎて後回しにしてきたけど、そろそろ話してもらおうかしらっ!」
ずびしっとベアトリーゼを指差し、言った。
「あんたのその金色の目は何っ!? 空島で別れてから数日、あんたに何があったのか詳しく話しなさいっ!」
「おお! そういえばっ!」「そうだった!!」
ルフィとチョッパーが思い出したように騒ぎ。
「済し崩し的に受け入れてたが、言われてみれば、詳しいことは知らねェままだったな」
「瞳の色が変わるって相当な珍事が後回しになるくらい、色々ありすぎたからな」
ゾロとサンジがしみじみと呟き。
「すっかり失念してたわ。納得のいく説明を聞かせてほしいわね」
ロビンの碧眼がスンッと鋭く細められた。
一同から注目され、ベアトリーゼはどうしようかと思案する。素直に話すか。適当に誤魔化すか。あるいは全てを暴露するか。情報を絞って明かすか。
最善手は? 私にとっての。彼らにとっての。
「なんかまた難しく考えてるみてーだけどよ。話してみろよ。案外、簡単に解決すっかもしんねーぞ」
ルフィがニカッと笑う。
「な、リーゼ」
この人誑しめ。ベアトリーゼは眉を下げて思う。可愛い笑顔を浮かべよってからに。キスしてやろうか。
と。隣に座るロビンがベアトリーゼの手をそっと握った。
「ビーゼ。皆に話してあげて……“お願い”」
最後に加えられた一語にどれだけ多くの思いが込められているか、この場で分かる者はベアトリーゼだけだろう。そして、そんな親友の思いに背を向けることなど、出来ない。
ベアトリーゼは小さく、けれど長々と息を吐いた。
「……そうだね。君達はロビンのために命を懸けてくれた。私を仲間だと認めてくれた。その誠意に応えるべきか……分かった。私の話をしよう」
腰を上げ、購入してきた高級ブランデーを手に取って栓を抜く。
「素面でする話でもないんでね。グラスはいくつ?」
上がった手を確認してキッチンからグラスを取り、紅色っぽい琥珀色の蒸留酒を指二本分を注ぐ。氷も割り物も無し。ロビン、ゾロ、ナミの手元へ順に置いていく。
吞兵衛のゾロがさっそくグラスを口に運び、香味と酒精の強さに片眉を上げた。こいつはちびちびとゆっくりやる酒だな。
酒より食い気のルフィと酒よりジュースが好きなチョッパーの手元はオレンジジュースのまま。サンジは酒を飲まない。素面で聞くつもりらしい。
再び椅子に腰を下ろし、ベアトリーゼは強い酒を舌に差してから、紡ぎ始める。
小さな物語を。
Tips
船作り。
昼夜ぶっ通しとはいえ、5日でオモシロギミック満載の30メートル級帆船を数人で造っちゃう恐ろしさ。
胸のサイズ。
久しぶりの『砂ぼうず』オマージュ。
第二部主人公の小泉太湖はガチの貧乳コンプレックス持ち。
『砂ぼうず』の登場人物曰く(胸の)有るか無いかは女の人生を大きく影響を与える。とのこと。
ナミの胸。
ウォーターセブン時の公式発表でサイズが大幅アップしていることが判明した。
ちなみにロビンの胸もこの時点でIカップ。
ウソップ。
あいつはいつもマジだ。
ゾロ。
迷子になったり、脳筋だったり、お茶目だったりするけれど、なんだかんだでシメるところをきっちりシメられるのは、この人。
ベアトリーゼ。
選択の時が来る。