彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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アイスバーグが好きなので、フランキーの一味入りを丁寧に書いたら文字数が多くなっちゃった。ごめんよ。

金木犀さん、nullpointさん、佐藤東沙さん、誤字報告ありがとうございます。


194:新たな懸賞金。新たな船。新たな仲間。

 そして、迎える3日目。

 一味がゲストハウスでのんびりと過ごしているところへ、ココロ婆さんが1人でやってきた。いつも一緒の孫娘と猫? はフランキーの船造りを見学しているらしい。

 

「オメェらのログポースがそろそろ溜まる頃らからよ。様子を見に来らんら」

 んがががと陽気に笑い、ココロ婆さんは持ち込んだ安酒を呷ってから尋ねた。

「で、ログポースはどうらい?」

 

「ログポースなら朝方に溜まったわ。今は西の……ちょっと下の方を指してる」

「んががが。そりゃ魚人島を指してるんら」

 ナミの回答にココロ婆さんはにんまりと口端を曲げた。

 

「ぎょぎょぎょぎょぎょ魚人島ォ~~~~~~~~~っ!? ついにっ!?」

「!? どうしたんだ、サンジ!? なんかの発作かっ!?」

 突如奇声を上げたサンジに、ゾロとじゃれていたチョッパーがビックリ仰天。

 

「……魚人島、か」

 魚人と因縁深いナミが可憐な美貌を曇らせた。一方、その因縁を暴力でぶっ壊したベアトリーゼはまったく気にすることなく爪の手入れを進める。

 

「魚人島はグランドラインの名スポットッ! 世にも美しい人魚達が水面を舞い、魚たちと戯れる海の楽園っ!!」

 サンジは目をハートにしながら妄想を叫び散らかし――ココロ婆さんを視界に収め、ハッと我に返り、その場に崩れ落ちた。

「夢見たって良いじゃねぇかっ! 海賊だものぉっ!!」

 

「なぁ、チョッパー。こいつ頭か心の病気なんじゃねェか?」

「黙れ、藻類頭っ! オメェの迷子癖の方がよほど深刻なビョーキだろうが!」

「抜かしやがったなっ! グルグルッ!!」

 ぎゃあぎゃあと定番の喧嘩を始めた両翼を無視し、ココロ婆さんは酒と一緒に持ってきた新聞を卓に放った。

 

「魚人島はともかく、オメェらはまず“こっち”に気を揉むべきらね。ほれ、一面を見てみな」

「えっと……『今月もまた14隻…船が消えた』。なにこれ、どういうこと?」

 言われた通り、ナミは新聞を手にして一面の不穏な見出しを読み上げ、怪訝顔を作る。

 

魔の三角海域(フロリアン・トライアングル)さ」

 ココロ婆さんが怪談を語るように説明した。

 毎年100隻以上の船が消息不明になる霧深い海域で、船員だけが消えてしまった船が発見されたり、死者を乗せてさ迷う幽霊船の目撃情報が後を絶たないという。

 

 麦わらの一味の面々がこれから赴く危険な海についてあれやこれやと騒ぎ始めた矢先、ロビンが何気なく言った。

「商船や海賊船の成れの果ての幽霊船には『宝船』の伝説が付き物よね」

 

 瞬間、ナミの目が守銭奴のものに切り替わり、新聞を握りしめながら全員へ発破をかける。

「幽霊船を探すわよっ!! 目指すは一攫千金っ!!」

 

「えぇぇえええっ!?」

 この場にウソップが居たなら、素晴らしいツッコミを見せてくれたところだろうが、残念ながらこの場でツッコミを入れる者はいない。精々チョッパーが嫌そうに悲鳴を上げるだけだ。他のメンツ? そりゃもちろん……

 

「おっしゃーっ! まっかせろーっ!!」ルフィが歓声を上げる。この冒険大好き男にとって幽霊船もヘラクレスオオカブトも大差ない。

「食い物をたらふく積んでくか。保存が利く物も用意した方がいいかな」サンジがココロ婆さんの忠告に従って対策を立てる。

「宝船……刀もあるかな……」ゾロは雪走の代わりの入手を期待し始める。

「古文書とか見つかるかしら」考古学者の血を疼かせるロビン。

 

「大丈夫だって、ドクトル・チョッパー」

 ベアトリーゼがまだ見ぬ幽霊船を怖がるチョッパーを宥めた。優しい笑顔を添えて。

「幽霊が居たら、大勢殺してきた私が真っ先に狙われっから。チョッパー君が祟られるのは私の後だよ」

 

「何も大丈夫じゃねェよっ! 余計に怖ェよっ!!」

 抗議の声を上げると同時にゲストハウスのドアが勢いよく開かれ、思わず悲鳴を上げるチョッパー。可愛い。

 

 チョッパーをビビらせたスクエアシスターズとチムニーとゴンベが玄関ドアから飛び込み、そのまま玄関口にへたり込む。どうやら海岸からここまで全力疾走してきたらしい。ゴンベに至ってはバテて完全にグロッキー。

 

 スクエアシスターズとチムニーは肩で息を切らしながらも、目をキラキラさせて叫ぶ。

「フランキーのアニキが皆を呼んで来いって……っ!」

「“夢の船”が完成したんだわいなっ!!」

「すっごいのできてるよーっ!!」

 

 最高の吉報にルフィ達は驚きと喜びの声を上げた。

 ナミが勢い余ってくしゃくしゃにした新聞を卓に置くと、中に挟まれていたらしい広告と手配書の束が床に落ち、ばさりと広がった。

『あ』と一味の声が揃い、目線が手配書に注がれた。

 

“麦わら”のルフィ:懸賞金3億4000万ベリー。

「やった! 上がったーっ!」前回よりも大幅に増額されてルフィはご満悦。

 

“海賊狩り”のゾロ:懸賞金1億2000万ベリー。

 俺も億越えか、とゾロは不敵に笑う。

 

“悪魔の子”ニコ・ロビン:8000万ベリー。

 あら。意外と上がらなかったわね。涼しい顔のロビン。

 

“泥棒猫”ナミ:懸賞金1600万ベリー。

「ひぇっ」なぜかセクシーショットで撮影されているナミは1000万越えの事実に驚愕。

 

“狙撃の英雄(スーパーヒーロー)”スナイパーマン:懸賞金3500万ベリー。

 

“わたあめ大好きチョッパー(ペット)”:懸賞金50ベリー。

「ぺ、ぺっと……それに、ごじゅって……」あまりの扱いにチョッパー、涙目。

 

“黒足”のサンジ(写真入手失敗):懸賞金7000万ベリー。

「……は?」ひっどい似顔絵にサンジは顔面蒼白で絶句。

 

 そして――

“血浴”のベアトリーゼ:4億6000万ベリー

「ま、こんなもんか」さして興味のないベアトリーゼは非常に淡白。

 

 大きく項垂れるナミと意気消沈状態のサンジと半べそのチョッパーを余所に、「おぉっ! スナイパーマンにも賞金が懸かってるぞ!」とルフィは御機嫌なご様子。

 

 そして、手配書はもう一枚あった。

“鉄人”フランキー:懸賞金4400万ベリー。

 

「ありゃま。フランキーの親分さん、賞金懸けられちゃったの」

 原作知識で知っているくせに、しれっと宣うベアトリーゼ。

 

「大変だわいな!! アニキが賞金首にっ!!」

「一大事だわいなーっ!!」

「んががが。こりゃ大変ら」

 事情を知らなかったらしいスクエアシスターズが血相を変えて騒ぎ出し、ココロ婆さんが暢気に酒を呷る。

 

「ま、騒いらところでどうにもならねェら。オメェら、さっさと支度して海岸へ行きな」

 年の功であろうか。ココロ婆さんの冷静な指摘にスクエアシスターズは落ち着きを取り戻し、ひとまず“使命”を果たすことを優先する。

「そうだったわいな!」「急ぐわいな! アニキが待ってるわいな!」

 

 というわけで。

 

 麦わらの一味はわさわさと支度を始める。個々人の私物に始まりメリー号に積んでいた諸々をまとめていく。

 誰も口にしないけれど、一味の面々はいまだ詫びを入れに来ないウソップに気を揉んで……いや、サンジとチョッパーはウソップより手配書の方が気になっていた。ヒッデェ似顔絵で手配されたサンジの落ち込み振りは重く、ペット扱いの上に懸賞金額が100ベリーにも満たないチョッパーは、プライドを酷く傷つけられて憤慨している。

 

 些か締まらない雰囲気の中、麦わらの一味は世話になったゲストハウスを出た。

 いざ、海岸に待つ新しい船の許へ。

 

        ○

 

 好天の下、廃船島海岸の青空作業場に、でっかい影が鎮座していた。

“それ”は既に進水して岸壁に係留されており、これまたとてつもなく大きな防護シートで覆われている。

 

「なんかデケェのがあるっ!」

 興奮で逸るルフィが真っ先に作業場へ駆けていき、チョッパーとサンジが走り、ナミとゾロが続く。オトナなロビンとベアトリーゼは旅立ちに立ち会うらしいココロ婆さん達と一緒に最後尾を歩く。なお、どういうわけか、ベアトリーゼはチムニーとゴンベをセットで肩車させられていた。

 

「アイスのおっさん!!」

 一行を出迎えたのはフランキーではなく、アイスバーグと三人の職長達。

「ンマー……来たな。あいにくフランキーは外しててな。だが、船は出来てる。俺が代わりに見せよう」

 

 アイスバーグが手を振って合図を送り、パウリー達が防護シートを剥がしにかかる。

「この船は凄いぞ。図面を見た時、目を丸くした。この船ならあらゆる海を越えていける。世界の果ても夢じゃねェ」

 

 ばさりっと巨大な防護シートが大きな音を立てながら剥がれ落ち、

「フランキーからお前へ伝言だ。『いつか“海賊王”になるんなら、この“百獣の王”の船に乗れ!!』」

 麦わらの一味の新しい船が、アイスバーグの言葉と共に露わとなった。

 

「うぉおおおおおおおおおおっ!! デケェッ! かっこいいーっ!!」

 ルフィの興奮した雄叫びと一味の歓声が海岸に響き渡る。

 

 澄み渡る蒼穹の下に現れたその帆船は、40メートル級のフォアマストとメインマストの二本立てブリガンテイン型スループ。

 海賊船と呼ぶには些か賑やかで華やかな外見をしている。

 寸胴チックな(この世界では一般的な)船体の両舷側に円形ハッチが据えられ、番号が振られていた。メインマスト楼と後甲板デッキハウスは赤黄二色でキノコみたいなドーム状。後船楼は大きく、屋根にナミの蜜柑の木が並ぶ。そして、船尾にはどういうわけか巨大な排気口(ロケットノズル)が。

 

 しかし、一番に目を惹くものはやはり大きな船首飾だろう。交差する骨の上にどんと据えられたそれは……

「何のお花かしら?」

「ンマー……あれはライオンだ」

 ロビンの疑問に歯切れの悪い回答を返すアイスバーグ。まあ、無理もない。船首飾は顔つきヒマワリにも、ゆるキャラ化したライオンにも見える。ベリーキュート……

 

 ルフィ達は先を争うように新船へ乗り込み、大はしゃぎ。

「全部ぴっかぴかだっ!」

「すっげーっ! 甲板が芝生だっ!! しかもフカフカだぞ!!」

「素敵。ガーデニングできそうね」

「うぉおおおおおっ! 夢にまで見た鍵付き冷蔵庫っ!! 巨大オーブンまでっ! サイコーじゃねぇかっ!!」

「図体だけでなく中も広いな。メリーの倍以上ありそうだ」

 

 新しい玩具を貰った幼子のように喜び倒す一同とは別に、しっかり者のナミはアイスバーグから操船について説明を受けていた。

縦帆(ガブスル)がすっごく大きいわね!」

 

「ブリガンティンスルと呼ばれるタイプだ。こいつはとびっきり“よく走る”ぞ。航海士の求めに必ず応えてくれる」

 世界最高の船大工の太鼓判に、ナミは武者震いして美貌を花咲かせた。

「……腕が鳴るわっ!! 頑張る!!」

 

 ベアトリーゼはチムニーとゴンベを地面に下ろし、新たな船を見上げながら、野暮ったいことを思う。

 ……10人未満のクルーでこのサイズの帆船を操るって無茶じゃね?

 

「どうだ、ビー」

 パウリーが造船に参加した者として自慢げに尋ねてきた。傍らの職長2人と大蛙のヨコヅナもオトコノコな笑顔を作っている。

「良い船だ。パッと見ただけでも分かる。堅く頑丈で、それでいて、しなやかで強靭。この船はちょっとやそっとのことじゃビクともしない」

 ベアトリーゼは艶やかな唇の端を曲げ、パウリー達へ微笑んだ。

「最高の仕事をしたね」

 アンニュイ顔の美貌から手放しの称賛を贈られ、パウリー達は顔いっぱいに気恥ずかしさと、それ以上の誇らしさを浮かべた。

 

「アイスのおっさん! フランキーどこ行ったんだ!? 礼も言いてェのに!!」

 ルフィが舷側から身を乗り出し、アイスバーグへ問う。

 

「……麦わら。あいつを“船大工”として誘う気なのか?」

 聡明なアイスバーグはルフィの望みを看破し、

「うんっ!! よく分かったな! 俺、あいつに決めたんだ、船大工ッ!!」

 率直な回答に小さく微苦笑をこぼす。

「それを察したようだ。面と向かって誘われたら断る自信がねェんだ。だから、身を隠した」

 

「イヤってことか……?」きょとんとするルフィへ、

「ンマー……その逆だ。本心はオメェらと海へ出てェのさ。この“夢の船”を託すくらいオメェらを心底気に入っちまったようだからな」

 だが、とアイスバーグは言葉を続けた。

「あいつはこの島に居なきゃならねェって“義務”を手前に課してる。俺に言わせりゃ既にバカバカしい執着だが……あの野郎は昔から強情だからな」

 

 いつまで経っても手を焼かせる弟弟子にやれやれと言いたげに鼻息をつき、アイスバーグはルフィへ説く。フランキーを麦わらの一味の船大工にする方法を。

「お前らが本当にあいつを連れていく気があるんなら、手段を選ぶな。力づくで連れていけ。それが“バカンキー”をオメェの一味に加える唯一の方法だ」

 

「ムリヤリ? そんなんでいいのか?」

 力技の勧誘はルフィの最も得意なところであるからして。

 かくして、ウォーターセブン島で長く語り継がれることになる『鉄人フランキー丸出し暴走事件』が始まる。

 

     ○

 

 フランキー一家の衆は、賞金を懸けられてしまったフランキーの身を案じ、高跳びではないが、麦わらの一味に参入して島を離れるよう図った。ここまでは分かる。敬愛する親分を思いやる子分達の浪花節よ。

 しかし、そのためにフランキーの一張羅たる海パンを脱がして奪い、麦わらの一味の許まで誘導するというプランは如何なものか……

 

 ともかく、股間を丸出しにしたフランキーが海パンを追いかけ、往来激しい街中を暴走する。アロハとサングラス以外何にも着ていない丸出しの大男が、全身に仕込んだ武器をぶっ放しながら町中で暴れまくるという、ウォーターセブン始まって以来の変態事件の勃発だ。

 

 そうして極めて迷惑極まるストリーキングを披露した変態は、街を巻き込んだ狂騒の末、青空作業場の近くで、上半身を瓦礫に埋め、大股を開いて丸出しのナニを蒼穹へ向かって晒している。酷い。この一語に尽きる。

 

 ココロ婆さんとチムニーはフランキーの醜態に大爆笑し、スクエアシスターズは恥ずかしい“スケキヨ”状態のアニキを案じ、パウリー達はあまりの事態に呆れて目を覆い、アイスバーグは弟弟子の痴態に深々と嘆息を吐いた。

 

 船から瓦礫に刺さっている丸出し男を一瞥し、ナミはこめかみを押さえた。

「これまでで最悪の勧誘ね……」

 

 ベアトリーゼは哲学的面持ちで呟く。

「あそこもサイボーグ化されてんのかな?」

 ロビンは親友へ静かに説く。

「ビーゼ。弁えて」

 

 騒ぎのためか町中の人々が本島防波壁に押し寄せ、廃船島で催される人間絵巻をやんややんやと見物し始めた。

 そんな街を挙げての衆人環視の中。ルフィによるフランキーの勧誘が始まり。

 

 否と繰り返す頑固者なフランキーに諾と言わせるべく、ロビンが能力を発動。フランキーのアレを鷲掴みにしてギュゥッ!!

 

 廃船島の海岸にニワトリの首を絞めたような切ない叫びが響き渡り、丸出し男が股間を押さえながら泡を吹いて倒れる。この場の全男性が共感的恐怖心を抱く中、

「俺達の船に乗れ、フランキーっ! もげっちまうぞっ!!」

 ナニがアレで男の同情的なものを示しつつも、ルフィは仲間になれと要求を繰り返す。

 

 が、漢フランキーは急所の激痛に脂汗を流しながらも、屈したりしない。

「い、一緒に行ってやりてェが……俺にゃここでやらなきゃならねェ事があるっ! だから、船を贈ったっ! 俺の造る生涯最後の……念願だった“夢の船”をっ!」

 

 股間の痛みに苦悶しながら啖呵を切る弟弟子の意地っ張り具合に溜息をこぼし、アイスバーグが横車を押した。

「そうじゃねェだろう。昔、言ってたじゃねェか。テメェにとって最高の船が完成したら、船大工として乗り込む。“海の果て”に到達する運命の日を、見届けるってよ」

 

 在りし良き日々の一幕。少年フランキーは敬愛する師匠トムやアイスバーグ、ココロさんとヨコヅナの前で己の夢を語った。造りたい船と船大工としての夢を。

 

 過ぎ去りし日々。あの頃とは、もう違う。

「大昔の……ガキの頃の戯言持ち出してんじゃねぇ、バカバーグっ! あれから何年経ったと思ってんだっ! 俺のやりてェことはとっくに変わったんだっ!!」

 

 股間の苦悶とは次元の違う苦悩を秘めたフランキーの訴えを蹴り飛ばすように、アイスバーグは鼻を鳴らす。

「ンマー……戯言を抜かしやがる」アイスバーグは叱るように「やりてェことだと? そりゃテメェが今、この島でやってる“償い”のことか」

 

 死んだと思っていた弟弟子が帰ってきてから、その生き様を見守ってきた兄弟子はとっくに分かっていた。

「トムさんの死を後悔し続けて、テメェはずっとテメェを罰してんだろう。裏町のチンピラ共をまとめ上げたことも、賞金稼ぎの真似事して悪党共から島を守っていたことも、全てはトムさんが愛したこの“水の都”を守り抜くという、テメェの罪滅ぼしだ」

 

「……っ! そんなつもりは毛頭ねぇっ! 俺は――」

「大好きな船造りもやめて、テメェを押し殺して。もう誰もテメェにそんな生き方を望んじゃいねェんだよ」

 図星を突かれて息を飲むフランキー。言い訳がましく紡がれる言葉を妨げ、アイスバーグは真っ直ぐフランキーを見据え、

「“フランキー”」

 告げた。トムズワーカーズの“家族”として。

「もう充分だろう……いい加減、自分を許してやれよ」

 

 正面から注がれる兄弟子のいたわりがフランキーの心の奥まで響く。視界の中でココロ婆さんとヨコヅナが慈しむように柔らかな眼差しを向けている。脳裏で思い出の師匠がいつものように豪快に笑っている。

 

“家族”はとっくに自分を赦してくれていた。取り返しがつかない“罪”を犯した自分を愛してくれている。

 フランキーは胸中から込み上がる情動に目頭がかぁっと熱くなる。涙腺が緩む。

 

 そこへ、フランキーの私物が詰め込まれた大型ドラムバッグが投げ込まれた。

「アニキィッ!! 旅の荷物ですっ!」

 

 大騒ぎの最中にぶっ飛ばした一家の子分達が、いつの間にか駆けつけていたらしい。

 弛んだ涙腺を締め直すように、フランキーは肚に力を入れて怒鳴り飛ばす。

「この、ボンクラ共がっ! 出しゃばるんじゃねぇよっ! 俺の人生だ! 全て俺が決めることだっ! だいたい、棟梁の俺が子分共の敷いたレールの上を歩けるか、みっともねぇっ!!」

 

 本気の怒号を浴びた子分達は思わず委縮する。

「申し訳ねぇ……アニキッ! けど、けどよぉ」

 けれど、子分達を代表してザンバイが叫ぶ。皆が心から思っていることを。皆が心から願っていることを。思いっきりデカい声で訴えた。

「俺らは“大恩人”に、幸せになってもらいてェんだよっ!!」

 

 フランキー一家は島の負け犬共だ。ザンバイはセコいチンピラ。スクエア姉妹は昼間っから酒に溺れていた。他もチンピラにコソ泥、食い詰めた奴、ホームレスだった奴……皆、フランキーに拾われ、衣食住と職と街の一員としての誇りを得た。

 ザンバイ達はこの恩を一日とて忘れたことが無い。いや、生涯決して忘れないだろう。

 

 子分達の真摯な大喝を浴び、フランキーは思わず大の字に倒れ込む。

「バカンキー。子分にああまで言われちゃあ恰好がつかねェな」ガキの頃のようにからかう兄弟子。

「いつまでも意地張ってんらないよ、フランキー」ガキの頃のように説くココロ婆さん。

 

「どいつも、こいつも……っ!」

 トムズワーカーズの“家族”。自分が築いた“家族”。彼らから真っ直ぐにぶつけられた愛に、フランキーの涙腺はついに大決壊を迎えた。

 

 しかし、漢フランキーは筋金入りの強情者。意地でも泣かされてなどやらないのだ。

 股間を押さえて悲鳴を上げる。痛くて痛くて仕方ねェから泣いているのだ。この涙は決してあいつらに泣かされて流しているのではないのだ。

 ロビンはとっくに能力を解除していたけれど。そんな細かいことはどうでも良いのだ。

 

 ひとしきり号泣し、上体を起こしたフランキーへ、ルフィは海パンを投げ渡し、告げた。

「さぁ乗れよ、フランキー。“俺の船”にっ!!」

 

 海パンを握りしめ、フランキーは大きな手の甲で涙を拭う。

 散々に泣き散らして、肚は据わった。“家族”がここまで背中を押してくれて、応えなくては漢がすたる。

「生意気言いやがる……まぁこれだけ立派な船に大工の一人もいねェと、船が不憫だな」

 

 そう。

 男ならドンとやれだ。

 

 フランキーはゆっくりと立ち上がった。泣き腫らした目を隠すようにサングラスを掛け直し、舷側の手すりに立つ麦わら坊主を見上げ、口元を不敵に歪める。

「仕方ねェ!! 世話してやるよっ! オメェら麦わらの一味の船大工、このフランキーが請け負ったっ!!」

 

 船に向かって歩き出すフランキー。

 脳裏にウォーターセブンで過ごした日々がよぎる。

 

 海賊の親に棄てられた自分を受け入れ、船大工のイロハと男の生き様を教えてくれた師匠。大罪を犯した自分を見捨てずに愛してくれた兄弟子とココロ婆さん、ヨコヅナ。自分のような無頼に懐いたチビとウサギ。活気ある市民共。ソドムにゴモラ。妹達。愛すべき子分共。

 乗船前に一度だけ振り返り、故郷と“家族”へ向けて叫んだ。

「ちょっといってくらぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「感動的な場面なんだろうけれど」ベアトリーゼはぽつりと「丸出しのまんまなんだよなぁ」

 




Tips

懸賞金について。
ルフィ:原作より高額。オリ主を傘下に収めた点と頭目としての責任追及が増額の理由。
ゾロ:原作と変更無し。
サンジ:捕縛されたり見せ場が乏しかったりで原作より700万ベリー減額。
ナミ:原作と同じ。
ウソップ:原作より活躍したため、500万ベリー増額。
ロビン:原作と同じ。
チョッパー:原作と同じ。
フランキー:原作と同じ。
ベアトリーゼ:艦隊潰しにより増額。ただし情報操作と兼ね合いがあるため、この額に。


ベアトリーゼ。
原作沿いのエピソードなので出番が少ない。
手配書の写真は、青雉と対峙した時の怖い顔。
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