彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
澄み渡る蒼穹。元気いっぱいに輝く太陽。優しく流れる潮風。絶好の晴れ日和の下。
ベリーキュートな船首飾を持つ二本マストのスループ船が、廃船島の岸壁からゆっくりと離れていく。
旧トムズワーカーズの面々とガレーラの職長達とフランキー一家が、造船島の防波壁上から市民達が、麦わら髑髏を掲げる海賊船の出航を見送っている。
クルー達は世話になった人々へ手を振り返す。
徐々に遠のいていくウォーターセブン。
然して“奴”は来ない。
出航時のニコニコ顔が焦燥に翳っていくクルー達。
「ルフィ……」「ルフィッ! ウソップはぁ!?」
焦れたナミとチョッパーが、メインマスト下のベンチに腰掛けるルフィに詰め寄る。
少しずつ、だが確実に遠のいていくウォーターセブンを一瞥し、フランキーがルフィに問う。
「本当にいいのか? “もう一人”待たなくてよ」
「待ってたさ!! ず―――っと! でも来なかった! これがあいつの答えだ」
メインマストに背を預け、ルフィは小さく笑う。
「まぁ、あいつのことだ。楽しくやってくさ。海賊は辞めねェだろうから、そのうち海で会えると良いな」
その笑顔は誰の目にも強がりで。顔いっぱいに焦燥と不安が浮かんでいて。
船長の胸中を察してナミは黙り込み、チョッパーは『こっちから連れ戻しに行こう!』と喉まで出かかるも、舷側胸壁に背を預けて座るゾロの険しい目つきに気付いて、仕方なく口をつぐむ。
サンジが苛立たしげに岸壁を睨む。
クソ……っ! 本当に来ねェ気か、あいつ。
意地っ張り共め。自分を棚に上げて若人達に鼻息をつくフランキー。
と、ベアトリーゼが鋭い声を発した。
「後方に軍艦っ! 犬頭飾りの巡洋艦だっ!」
直後、船尾付近に水柱が立ち昇った。砲声は聞こえてこない。
慌てて一味の面々が後方からやってくる犬頭軍船を窺う。
ルフィは軍船の前甲板に立つ大柄な老人を目にして仰天した。
「ありゃ、爺ちゃんじゃねえかっ!! 帰ったんじゃねえのか!?」
愛すべき祖父は一昨日島を発ったはずなのだが。だいたい――
ルフィは後方の軍船に向かって大音声で叫んだ。
「爺ちゃんっ! 俺達のこと、ここじゃ捕まえねえって言ってたじゃねェかっ!!」
ガープは言外に嘘つきと指摘されたような気分を覚え、ばつの悪そうに後頭部をがりがりと掻く。
「いやぁその通りなんじゃが……色々あってな」
本部へ帰還する旨を連絡したところ、親友にして上司のセンゴクから『祖父なら責任を持って、とっ捕まえて来いっ!』とヤイヤイ言われてしまった。
「馬鹿正直に『孫だから見逃すことにした』なんていうから」
しれっと同乗していた海軍大将“青雉”クザンが呆れ気味に指摘すると、ガープは肩越しに振り返って「黙っとれ、青二才めっ!」と一喝。
中将が大将を罵倒するという軍制への挑戦的問題行為をした後、ガープは孫へ吠える。
「すまんが、ルフィッ! やっぱり海の藻屑となれ!!」
「えええっ!? ヒデェよ、爺ちゃんッ!!」
吃驚して文句を言ってくる愛孫に、祖父は悪戯坊主のような笑みを浮かべ、
「まあ、詫びと言っちゃあなんじゃが、わし一人で相手してやるっ! 死にたくなかったら抗ってみぃっ!!」
傍らに置かれた砲弾ラックからおもむろに一発持ち上げ、野球ボールのように思いっきり投げた。
「拳骨隕石ッ!!」
それは投擲という次元を超えていた。物理学に喧嘩を売るような直線的弾道で、しかも実体弾なのに着弾時の衝撃波が榴弾の炸裂と大差ない。でたらめにもほどがある。
「す、素手で大砲撃ったっ!?」
仰天するナミへ、ゾロが焦り顔を返す。
「大砲どころじゃねえっ! メリーで戦った新鋭艦の大砲より、遥かに速く強く飛んで来たぞっ!」
「私が行ってぶっ潰してこようか?」
ベアトリーゼがアンニュイ顔に怖い笑みを作った。ガープの爺様には“御礼返し”の機会が欲しかったところだ。ついでに青雉もぶっ飛ばしたい。
「待て待て。祝いの船出を血に汚すもんじゃあねえ」
キョーボー娘を宥めながら、フランキーは若造共へ言った。
「オメェら、ちっとばかし時間を稼げっ! この船の“秘密兵器”を見せてやる!!」
秘密兵器。その一語に心を掴まれた船長は、目をキラキラさせながら仲間達へ命じる。
「お前らフランキーが秘密兵器を使うまで、時間稼ぎだっ!」
孫が乗った船が迎撃戦闘の用意を進めている様を見て、ガープはにんまりと犬歯を剥く。やる気か。そう来なくてはな。
「タマァたらふく持ってこいっ!!」
ボスの命令を予期していたのか、兵士達が前甲板に砲弾ラックを次々と運び込む。ガープは海軍コートと上着を脱いで傍らの従卒へ預け、シャツの袖をまくっていく。
「えらく気合入ってますけど……相手、お孫さんスよ?」とクザンが指摘すれば。
「それはそれ、これはこれじゃ」
ルフィにそっくりな笑みをこぼし、ガープはむんずと大きな砲弾を容易く持ち上げた。
「さぁて始めようか、ガキ共」
拳骨流星群。
ガープ自身による砲弾投擲の弾幕は、これまで無数の木っ端海賊を沈めてきた必殺技……と海兵達は思っているけれど、ガープの“本気”に比べれば、こんなもん必殺技どころか単なる“児戯”だ。
まったく素直じゃない人だなぁ、とクザンは眉を下げた。ガープがセンゴクの命令を無視しなかった理由はいくつかあるのだろう。でも正直なところは。
可愛い孫とじゃれ合いたいだけでしょ、ガープさん。
大きな球形砲弾が機関銃並みの連射速度で雨霰と襲い掛かり始める中、
「ナミっ!」
ルフィが吠え、ナミが頷いて叫ぶ。
「ベアトリーゼは舵をッ! ロビン、能力で操帆をお願いっ! チョッパーはロビンを手伝ってっ! 脳筋組は砲弾を迎撃してっ!」
「分かったっ!」「今度はヘマすんなよっ!」「余計なこと言うなっ!」
ルフィが快活に応じ、サンジが軽口を叩き、ゾロが抜刀する。
真新しい海賊船が回避運動と弾幕迎撃をしながら離岸していく。
船を囲むように立ち昇る無数の水柱。ざあざあと降り注いで船を濡らす水飛沫。迎撃されて砕け爆ぜる砲弾。
右へ左へ大きく揺さぶられる船上で、ロビンがハナハナの実の力で咲かせた無数の腕が巨大な帆を操り、
岸辺にその影が現れる。
チョッパーは思わず破顔した。嬉しさに目頭が熱くなる。
「ウソップだっ! 皆ーっ! ウソップが来たぞーっ!!」
全員の目が即座に岸辺へ向けられた。大荷物を担いだ長鼻男が喚き散らしながら、駆けてくる。
「船を――」
「止めるな!」
ゾロはナミの言葉を断つように遮った。
「俺は“何も聞こえねェ”!」
嘘だ。誰の耳にもウソップの叫び声が聞こえている。なんせウソップは砲弾の強烈な着水音や破砕音に負けぬほど必死に怒鳴り倒している。
だが、
なぜなら、ウソップの口にしている言葉は、詫びではなく“戯言”だからだ。
メリーを巡る衝突は目を瞑っても良い。ウソップの真剣な思いが込められていた。だが、船長に決闘を挑み、一味を抜けるという行為に対する『非』の謝罪がない以上、ゾロは絶対に認めない。認めるわけには、いかない。
「ルフィッ!」
チョッパーが縋るようにルフィへ叫ぶ。謝罪なんて乗せてからでも良いじゃないかと言いたげに。
しかし、ルフィもまた認めない。船長として認めるわけには、いかない。
「俺にも聞こえねェ」
なんで、と泣き出すチョッパーをサンジが叱り飛ばす。
「チョッパーッ! ロビンちゃんの操帆を手伝えっ!! やるべきことをしろっ!」
岸が遠ざかっていく。
ウソップが遠くなっていく。
もう間に合わなくなる。
刹那。
岸壁に立つウソップが膝から崩れ落ち、ひざまずきながら涙の大絶叫。
「ごめ―――――――――――――――――――――――んっ!!」
それはウォーターセブンの端まで届くほどの大音声。号泣と共に魂から発せられた謝罪の訴え。
ガープすら思わず手を止めて困惑した。
「なんじゃ?」
「さあ?」クザンも小首を傾げた。
「分かりません!」律儀に答えるコビー。
困惑する海軍を置き去りにして、ウソップは顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
「
感情が大爆発して呂律がガチャガチャになっていたけれど、それでもウソップは心の底から正直な気持ちを。素直な思いを叫び続ける。
「今さらみっともねぇんだけども! 俺、一味をやめるって言っちまったけども! あれ、取り消すわけにはいかねぇがなぁーっ!? 頼むよぉ……っ! 頼むからぁ……お前らと一緒にいさせてくれぇっ!!」
両手を地面について、土下座するように頭を下げた。手元には垂れ流された涙と鼻水と涎で小さな水溜まりすら出来ていた。
ウソップは本当の願いを全身全霊で叫喚する。
「もう一度……俺を仲間に入れてくれぇっ!!」
ウソップが涙と鼻水と涎でふやけそうな顔を上げた時。眼前に右手があった。
新しい船の後甲板に立ったルフィが自身の異能で限界まで右腕を伸ばし、ウソップに負けないくらい顔を涙と鼻水と涎に塗れさせながら、怒鳴る。
「ばっかやろーおまえはやくつかばれーっ!!」
ギャン泣きのルフィがガン泣きのウソップを一本釣りする様に、ベアトリーゼは舵を握りながら小さく肩を竦めた。
「アオハルすぎて、見てるこっちが恥ずかしい」
「あら。素敵じゃない」くすくすとロビンが喉を鳴らす。
大人の共感羞恥を刺激する青春ドラマが繰り広げられたところで、船室からフランキーが出てきて吠えた。
「よーし、秘密兵器の準備が整ったっ! お前ら、帆を畳めっ!」
マスト上の観測員が前甲板のガープへ報告する。
「目標海賊船、帆を畳んでいますっ!」
「んん? 観念などするまいが……どういうつもりじゃ?」
ガープは額に手をかざして目を細め、“獲物”の様子を窺う。なんぞ企んでいるようだが……何をする気じゃ、ルフィ?
「帆を畳んだぞっ! 何をやる気か知らねェが、急げっ!」
作業の完了をゾロが代表して報告すれば、フランキーが若人達へ言った。
「その前に名前だ。この船に名前を付けろ」
「こんな時にかっ!? そんなの後で良いだろっ!?」
戸惑うサンジが常識的に応じれば、フランキーは一喝を返す。
「バッキャローッ! 無名の船じゃせっかくの門出が様にならねェだろうがっ!」
なるほどなー、とルフィは頷き。
「そっか、何とかライオン号みてぇな感じだろ?『クマ!シロクマ!ライオン号!』」「そんな変な名前あるかぁ!」『トラ!狼!ライオン号』!」「動物の羅列を止めろっ! 何の呪いだ!」「『イカ・タコ・チンパンジー』!」「もはやライオンがいねェじゃねェかっ!」
数日振りに一味へ帰ってきたウソップはキレッキレ。
フランキーは大袈裟に肩を竦めた。やれやれ、このガキ共はまるでなっちゃいねェ。
「……仕方ねェ。案を出してやる。アイスバーグ曰く」
過酷なる千の海を太陽のように陽気に越えていく船。
海賊船サウザンド・サニー号。
「だがな、俺様にはもっといい案が――」
「良いな! 凄く良いっ!!」「素敵ね! それにしましょ!」「流石はボス。ネーミングセンスも完璧だ」
チョッパーの喝采を始まりにナミとベアトリーゼが賛同し、ゾロとロビンとサンジも自身の案を引っ込めて、アイスバーグ案を飲む。何より、
「気に入った――――っ!! この船はサウザンド・サニー号だっ!!」
麦わらの一味の船長が決定した。フランキーは拗ねた。
「おい、フランキーッ!? 何拗ねてんだよっ! さっさと秘密兵器とやらを使えっ!」
サンジがぶー垂れるフランキーの尻を叩き、フランキーは仕方ねえと渋々、本当に渋々頷き、秘密兵器の起動レバーを引いた。
「
瞬間。サウザンド・サニー号と名付けられた新造スループの船尾に据えられた大型噴出口から極大空圧が放出され――
その光景を誰もが息を呑んで凝視した。
無理もない。
なんせ海賊船がロケットのような勢いで離水し、水飛沫を曳きながら蒼穹を駆けているのだから。
「船が……飛んでる……」
「……すげぇ」
軍船上の海兵達が、防波壁上の市民達が、呆気に取られて空を見上げ、一直線に飛んでいく船を見送る。
クザンすらデッキチェアから上体を起こして空を征く海賊船を見送った。
「こりゃまいった。まさか空を飛んで逃げるとはね……」
「やりおるっ! ……流石はわしの孫じゃあっ!!」
誇らしげに高笑いするガープと、
「ルフィさんはやっぱり凄いっ!! 格好良いっ!!」
その隣で、未来の海賊王のファン第一号が大喝采を挙げた。
・
・・
・・・
静けさを取り戻した廃船島の海岸。
「まったく……あいつららしい派手で騒々しい船出だったな」
アイスバーグが苦笑いをこぼし、踵を返す。
「俺らぁ良い仕事したな」「ああ。そうだな」「さぁて職場に戻ろう。もっと良い船を造らねェとな」
出航を見届けた職長達は満足げに荷物を担ぎ、造船場へ足を向ける。
「駅に帰るよ、チムニー、ゴンベ」
ココロ婆さんは寂しげに水平線を見つめる孫へ優しく声をかけた。
「……うん」
後ろ髪を引かれる思いを振り切り、チムニーがゴンベを抱きあげて祖母の背に続く。
水の都ウォーターセブンは日常へ帰っていく。名物男が旅に出てしまい、いくらか騒々しさを失ってしまったけれど、海列車の往来と街の活気は翳ることなく、職人達の奏でる槌の音が絶えることはない。
いつか名物男が帰ってくる時も、きっと変わらぬ賑やかさで迎えるだろう。
○
見事に海軍から逃げ切ったサウザンド・サニー号は追い風を受け、気持ちよさそうに波を切る。
穏やかで物静かな海原を征く真新しい海賊船、その芝生仕立ての中央甲板にチョッパーとロビンがピクニックシートを敷いて。
新しいキッチンでさっそく腕を振るったサンジの料理を、ベアトリーゼとウソップがシートに並べていき。
呑兵衛のゾロが見繕った酒を樽型ジョッキに注いでいく。
ナミがつまみ食いを企むルフィを押さえ。
面々の手にジョッキが配られて。
ルフィは皆を見回してから、
「居候から仲間になったロビンとベアトリーゼ。帰ってきたウソップ。新しい仲間、フランキーと海賊船サウザンド・サニー号。全部ひっくるめて……」
叫んだ。心の底から嬉しそうに、心の底から楽しそうに。
「乾杯だあああああああああああああああああああああああっ!!」
皆の喝采と歓声とジョッキのぶつかる音色。
仲間だけのささやかな、けれど、華やかで賑やかで騒々しい祝宴が始まった。
話題の多くは此度の事件と騒動の最中、各々の活躍だ。
ウソップは例によって尾ひれ背ひれ付けて語ったけれど、純朴なルフィとチョッパーが『それはスナイパーマンがやったことだろ?』と真顔で指摘してくると『あ、ああ。彼から聞いたんだ』と誤魔化すしかなかった。
脇でサンジが『だから正直に白状しとけって言ったんだ』と肩を竦める。
そんなこんなの祝宴が進み。
用意された大量の料理は全て大食い共の胃袋に収まり、用意された酒はあらかた呑みつくされた。
酔いが回ってグースカと眠りだす者も出始めた。
気づけば、ベアトリーゼ以外の全員が芝生に寝転がっている。
最初に心労が祟ったのかウソップが沈み、数日に渡って徹夜して船を造り続けたフランキーが続き、チョッパーとロビンが落ちて、ルフィ、サンジ、ナミ、ゾロの順に寝た。
ベアトリーゼは芝生の上で雑魚寝する皆の許を離れ、舷側の転落防止柵に座り、足をぷらつかせながら酒をちびちび。
爪先だけに感じる浮遊感。酒に火照った頬をくすぐる潮風が心地良い。耳を撫でる波の音色が快い。
なんとはなしに青空を見上げれば。
蒼穹の先に滲む白い月影。
ふと脳裏に浮かぶ前世のこと。刺激された記憶に促されるまま、ベアトリーゼは口笛を奏でる。皆を起こさないよう控えめに。
選曲は『ムーンリバー』。
感傷的な調べを選んでしまったのは、麦わらの一味のせいかもしれない。
この青春ド真ん中な連中にすっかりアテられてしまった。
まったくこっちが気恥ずかしくなるくらい、純粋で真っ直ぐで気持ちの良い連中だ。眩しいくらい輝いている。
酒精の香る吐息で奏でられるセンシティブなメロディが、静かに流れる風へ溶けていく。
2分45秒の口笛を終えると、背後から拍手が届いた。
いつの間にか、ルフィが起きていた。
ルフィは仲間達を起こさぬようにベアトリーゼの隣へ飛び移り、ニカッと笑う。
「リーゼは音楽も出来るのか?」
「歌はいくつか知ってるけど、楽器の演奏は出来ないなぁ」
「そーなのか。じゃあ、音楽家はダメかぁ」割と本気で残念そうな船長。
「音楽家が欲しいの?」
「おう! 海賊は歌うもんだからな!」何やら絶対の確信を持ってのご意見。
「それってウタちゃんの影響?」
ベアトリーゼがちょっぴり野暮なことを尋ねてみれば。
「ん? ウタか? んー? どうだろーな……そんな気もするし、全然関係ねェような気もする。まあ、とにかく音楽家がいればよ、いつでも楽しく歌えるだろ?」
「たしかに……ん? ルフィ君の歌は聞いたことが無いな」
“中の人”は帝国華撃団の一員を務めるほどの美声と歌唱力を誇るお人だったが。
「お? そうか? じゃあ、一曲披露しよっかな!」
ルフィはこほんと小さく咳をしてから、『ビンクスの酒』を歌い始め――
「うるせーぞ!」「音外しまくってんじゃねえか!」「歌うならもっとしっかり歌え!」
両翼+長っ鼻が苛立ちの目覚め。
「もう! 目が覚めちゃったじゃないの!」「なんだ!? なんの騒ぎだ!?」
野郎共に安眠を妨げられて起きる航海士と船医。
「何事……?」「アーゥ、オメーらまだ騒ぎ足りねェのか?」
少年少女の喧噪に起こされる大人二人。
ぞくぞくと一味の面々が目を覚まし、船上は再び喧しく姦しく賑やかになる。
「ありゃ?」
予期せぬ状況に、ルフィは小首を傾げ、ベアトリーゼは心から楽しそうに笑った。
サウザンド・サニー号は海を征く。
まるでゴーイングメリー号のように、楽しそうに波を切りながら。
麦わらの一味と彼女を乗せて。
Tips
サウザンド・サニー号。
フランキーによって建造された全長約40メートルの2本マスト型スループ。
面白ギミックが満載されている。
コミックス46巻に図解が掲載されているから、お持ちの方はそちらを見た方が早い。
なお、ゾロは『ライオネル親方』、ロビンは『暗黒丸』、サンジは『ムッシュひまわり』と名付けようとしていた。暗黒丸・・・
ウソップ。
泣いて詫びを入れたのでセーフ。
ガープ。
後のハチノスで見せた暴れっぷりを考えると、W7の砲弾投げはどう見ても遊び。
チョッパー
宴会中、サンジに『紙パンツハイパーサービス』について尋ねるシーンは文字数が増え過ぎちゃったのでカット。
ルフィ
中の人はチョー歌が上手いが、ルフィには歌が上手いという描写はない(はず)。
ムーンリバー
映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘップバーンが歌う劇中歌として製作された。映画の大ヒット共に広く知れ渡り、現代まで数多くの人達にカバーやアレンジされている。
いーかげんに解説すると、大切な親友とまだ見ぬ土地へ旅立とう、という内容の曲。
ベアトリーゼ
センチな気分になって、センチな口笛を吹いた。