彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
怒り狂う超巨大ゾンビと怪人デカラッキョへ向け、ベアトリーゼは獲物を狙う豹のように深く屈みこむ。
溜め込んだ全身のバネを解放すると同時に、プルプルの実の力を用いて両手両足の先でプラズマジェット点火。
炎雷が炸裂して大気が激しく鳴動する。爆発音がウソップとナミの鼓膜に届く時には、既にオーズの眼前まで到達。オーズはベアトリーゼの急迫に反応しきれない。
高密度の武装色の覇気で右腕ごと塗り固めたブレードに高周波振動をまとわせ、全身を叩きつけるように剣閃をオーズの超極太な首へ走らせた。
ガキンッ!
鋼が弾かれる硬い音色が響く。オーズの口元の影から槍のような突起が幾重にも生え伸び、斬撃を防いでいた。
「!」ベアトリーゼの金眼が驚きに見開かれる。
魔人の腹腔内で歯を擦るように嗤う怪人カゲ男。
「キシシシッ!! すり潰してやる!
オーズの巨大な影から無数の蝙蝠が湧き飛び、上下左右全周囲からベアトリーゼを押し包む。
「チッ!」艶やかな唇から鋭い舌打ちがこぼれる。
ベアトリーゼはアクロバティックに宙を躍りながら、誘導弾さながらに襲い来る大量の蝙蝠達を片っ端から蹴り払い、斬り払う。
「
しかし、払い落された蝙蝠達は城砦外壁や瓦礫などそこかしこに貼りつくや、蜥蜴型の穂先を持つ槍となって四方八方から十重二十重に襲い掛かる。
「このやろ~っ!! ぴょこぴょこ飛び回るなぁ~~っ!!」
蝙蝠の弾幕に蜥蜴の槍衾に加え、隻腕となった超巨大ゾンビがベアトリーゼを叩き落そうと残る左腕を振り回し、暴れ回る。
圧倒的数量と破格の質量による暴圧に晒され、対集団戦に慣れたベアトリーゼも回避と防御に専念せざるを得ない。反撃の糸口を掴めないまま、物量に押し切られ始める。身体のあちこちを傷つけられ、小麦肌を汗と共に血が伝う。
怪人カゲ男はロングレンジ技で巧妙に蛮姫を追い詰めていく。
「キシシシッ!! デケェ口叩いた割にゃあ逃げ回るだけかぁ、血浴っ!!」
モリアはせせら笑い、目線を瓦礫の中に倒れ伏しているロビンへ向け、大きな口を悪意で歪めた。
「テメェは“オハラの悪魔”と親友なんだってなぁ?」
蝙蝠の奔流が意識のないロビンへ襲い掛かる。
「デカラッキョめ!!」
あからさまなまでの誘いと罠だが、ベアトリーゼは迷わずロビンを助けに向かう。躊躇も逡巡も一切無い。プラズマジェットでかっ飛び、蝙蝠の大群に先んじてロビンを抱え上げ、範囲外へ投げた。
直後、ベアトリーゼは蝙蝠の大群に呑まれ、
「
モリアがキューブ状に変化させた影の中に囚われ、
「やれ、オーズッ!!」
「ごむごむのぉ~鞭!!」
超巨大ゾンビの豪快な回し蹴りがベアトリーゼを直撃。サッカーボールのように蹴り飛ばされ、ベアトリーゼはメインマスト城砦の堅く分厚い外壁をぶち抜き、フロアの天井を叩き割って向かい側の壁面に叩きつけられた。
「そんな、ベアトリーゼまで……」
ナミは美貌を蒼白に染め、悄然とメインマスト城砦を見上げる。そこへ、ウソップの怒号が耳朶を打つ。
「ボサッとすんな、ナミッ! 逃げろぉっ!!」
ウソップが咄嗟にナミを抱えて飛び転がる。オーズのデカい足が降ってきて、ナミが立っていた場所を踏みつけた。
「逃がすな、オーズッ! 踏み潰せっ! キシシシッ! 他の奴らもまとめて粉々にしちまえっ! 人の形を残すなっ! ぶっ潰せェッ!!!」
モリアが哄笑を上げながら、ウソップとナミを踏み潰させるべく超巨大ゾンビを囃し立てる。
「おい、デケェの」
不意に、威圧感に満ちた声が届く。
「オメェの足の下にゃあ誰もいねェぜ」
オーズは目をパチクリさせながら、足元を窺う。指摘通り、長鼻もオレンジ女もいない。あれれー? と首を傾げつつ、オーズは声の主へ顔を向けた。
「おめー誰だ?」
メインマスト城砦に開いた破孔の中に立つ大男。
「俺か?」
くまやモリア並みに隆々とした巨躯。勇壮な面構え。只ならぬ威容。両手には長鼻男とオレンジ女。
容貌魁偉な大男は名乗る。
「俺はモンキー・D・ルフィだぜっ!!」
「「ええ―――ッ!? ルフィ―――ッ!?」」
大男に握られながら、ナミとウソップが驚愕する。2人のよく知るルフィと、自分達をオーズから救ったこの大男がまったく一致しない。いや、言われてみれば、面構えに面影がありそうだが、変わり過ぎて確信が持てない。
「か、変わり過ぎでしょっ!? いったいどうしたの?! 何があったのっ?!」
「本当にルフィなのか!? なんか変なもんでも拾って食ったのか!?」
ぎゃあぎゃあ喚くナミとウソップを床に下ろし、激変ルフィは問う。
「皆はどうしたんだぜ?」
「そのしゃべり方はどーしたっ!?」「皆、やられたわ……本当にどうしちゃったのよ!?」
一向に落ち着かないウソップとナミ。
「ごむごむのぉ~ライフルッ!!」
そこへ隻腕の超巨大ゾンビが高速エクスパンド・コークスクリュー・パンチをぶち込む。
どんっ!
激変ルフィは腕一本であっさりと巨拳を受け止める。両者の質量差やら巨拳の運動エネルギーやらなんやらを一切無視し、びたりと掴み止めてしまった。
ナミもウソップもモリアもオーズさえも、目玉が飛び出しそうなほど開き、顎が外れそうなほど口を開き、息を忘れて眼前の光景を凝視する。
愕然と凍りつく中、激変ルフィは力強く跳躍してオーズの眼前へ肉薄。右拳を魔人の顔面へ叩き込む。
ご が ん っ !!
激変ルフィの打撃を浴び、全長70メートルの超巨大ゾンビの体躯が飛んだ。メインマスト城砦の中庭から放物線を描き、城砦敷地外の森へ落ちていく。
超巨大質量の落着衝撃に島が揺れた。森から大量の鳥や蝙蝠が逃げ出す。両足を天に向けて倒れ伏したオーズの許へ、激変ルフィが跳躍。オーズのバカでかい右足を掴み、巨人の倍以上大きなオーズを軽々と持ち上げ、勢いよく地面へ叩きつける。
何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。
ナミとウソップはあまりにも異様な事態に言葉が出ない。
ただ、確信する。
やっぱり一味で一番滅茶苦茶なのは、ルフィだ。
○
「デカラッキョめ。舐めた真似しやがって……っ!」
服に付いた埃を払い落しながら、ベアトリーゼは壁に開いた破孔の際に立つ。
「あ」
容貌魁偉な大男になったルフィがオーズを一方的に痛めつけていた。
中庭ではイボイノシシゾンビではなく、女海賊のローラを始めとする『被害者の会』が駆けつけ、倒れた一味を介抱している。
見聞色の覇気をめぐらせ、くまの位置を確認。バーソロミュー・くまは超巨大メインマストの上部から戦いを見分しているようだ。
ベアトリーゼは満月色の瞳を細め、激変ルフィを注意深く観察する。
――原作通り、”ナイトメアモード”になったか。
『被害者の会』が密かに隠し持っていた100人分の影を詰め込まれた“ナイトメアモード”のルフィは、強い。べらぼうに強い。物理法則を無視するくらい強い。
ナイトメア・ルフィのようにオーズを軽々と持ち上げて振り回すことなど、さしものベアトリーゼにだって出来ない。
思わず親友を狙われた怒りも忘れ、感嘆をこぼす。
「すげー……」
「ゴムゴムのぉー
ナイトメア・ルフィがオーズと腹腔内のモリアへ激烈な乱打をぶち込んでいく。100人分の影でフィジカルを超強化されたルフィの猛烈な連打は超威力を発揮。オーズの頑健無比な巨体を大きくひしゃげさせ、あまつさえ宙に浮かび上がらせる。腹腔内で拳打を浴びるモリアも身体を影にして逃れることが出来なかった。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
連打。連打。連打。連打連打連打連打。連打連打連打。連打っ!
無理矢理詰め込んだ100人分の影がルフィの身体から溢れ始める。それでも、ルフィは歯を食いしばって殴る殴る殴る。殴る! 殴るっ! 殴るっ!!
連打で殴り飛ばされたオーズがメインマスト城砦中庭に落下。
「ゴムゴムのぉ―――」
ナイトメアモードに残されたわずかな時間。ルフィは大の字に倒れた超巨大ゾンビへトドメの一撃を試みる。両手を噛み、大量の空気を吹き込んで膨張・巨大化。そして――
「ギガント・バズーカッ!!」
巨腕の双掌打がオーズの胸部を直撃した。分厚い胸板を大きく陥没させ、頑強な胸骨を圧壊。浸透した衝撃が肋骨と鎖骨を破砕し、筋肉を引き千切り、極太の背骨を断ち折る。
そして、巨体の背を突き抜けた衝撃波が、中庭の地盤に大きな亀裂を走らせた。
地下処分場の爆発に、度重なる激戦の衝撃。そこへ加えられたナイトメア・ルフィの激甚な超暴力が、決定的事態を招く。
ローラを始めとする『被害者の会』が歓喜の大喝采を上げ、ナミとウソップが影の放出で倒れ込んだルフィの許へ駆け寄った。
その時。
不気味な地鳴りが足元から届く。カタカタと地面が揺れ、瓦礫が崩れ始めた。
「え」「な、なんだ?」「また変な海流に捕まったのか?」「し、下から響いてくるぞ」
不穏極まる鳴動に『被害者の会』は怪訝顔で周囲を見回し、ナミとウソップもルフィを介抱しながら不安そうに辺りの様子を窺う。
それは、起きた。
ホグバック邸を陥没倒壊させた大穴がゴバッと破壊音を奏で、中庭の地面が幾筋にもひび割れて一気に崩落陥没した。城砦不随施設の残骸と大量の瓦礫と共に、超巨大ゾンビと麦わらの一味と『被害者の会』が大穴へ引きずり込まれていく。あるいは、崩落陥没で生じた暴圧的ダウンバーストに吹き飛ばされ、薙ぎ払われる。
『うわあああああああああああああああああああっ!?』
破壊音と悲鳴の大合奏。立ち昇る莫大な粉塵。
メインマスト城砦から一部始終を見ていたベアトリーゼは、他人事のように呟く。
「あ~ぁ」
○
夜闇が溶けかけた空の下、海風が粉塵を拭い去る。
中庭からホグバック邸跡地にかけてぽっかりと開いた大穴は、大量の土砂と瓦礫と建物の残骸で完全に埋め潰されており、地下処分場を窺うことは出来ない。
『被害者の会』の面々が幽鬼のような有様で大穴から這い出てくる。誰も彼もが完膚なきまでに意気消沈、唖然茫然、放心状態。自身の怪我の手当てや生き埋めになった仲間の救助を行う気力もなく、奪われた影のことも日の出間近という状況も、頭になかった。
あまりにも壮絶で衝撃的な恐怖体験に、心と精神が打ちのめされている。
例外は、結成以来、ひたすらに無理無茶無謀を重ねてきた麦わらの一味だ。
「俺が気ィ失ってる間に何があった?」
左肩にブルックを、右脇にチョッパーを抱えたフランキーが誰へともなく問う。
「森に居た連中がこんなとこで何してんだ? 状況が見えねェ。ホントに何があった?」
「分からねェ。俺も気づいたらこの有様だ」
ズタボロのゾロは瓦礫に半ば埋まった超巨大ゾンビへ顔を向ける。
「どうやらバケモンはぶっ倒したようだが……ベアトリーゼがやったのか?」
「ルフィよ。なんかよく分かんないけど、パワーアップしてオーズをギッタンギッタンにしたの」
ナミがロビンに肩を貸しながら言った。
「そのルフィだが……完全に伸びちまってるな。大丈夫なのか?」
ボロボロのサンジが煙草に火を点し、ウソップに背負われたルフィを窺う。
「かなり身体に負担を掛けたみてェだ。疲れきってる」
ウソップは背負ったルフィを窺いつつ、言った。
「まぁオーズとモリアはぶっ倒したし、後は影を取り戻すだけだ。夜明けが近ェから急がねェと」
「その影とやらはどうやって取り返せば良いんだ?」
ゾロの疑問に、堂々たる体躯をした『被害者の会』の女性海賊が横から口を挟んできた。
「モリアの口から『本来の主人の元へ帰れ』と命令されないと、影は戻らない。だから、何とかしてモリアに言わせないといけないんだけど……」
全員の目が巨躯を瓦礫に半ば埋めたオーズへ向けられた。腹腔内コクピットに乗っていたモリアも瓦礫に埋まっている。
「もう朝日が昇るまで時間がねェ。大急ぎで掘り返して、モリアに力ずくで言わせるしかねェな」
ゾロの前向きな発言に『被害者の会』がヤケクソ気味に士気を盛り返した、矢先。
隻腕の超巨大ゾンビがゆっくりと瓦礫を掻き分けて上体を起こす。
右腕を肩からもがれ、胸部が陥没損壊し、背骨が断ち折られ、もはやまっすぐ立つことも出来ない。だが、“魔人”オーズはいまだ意気軒高。身体を大きく傾げながら、海賊達をぎろりと睥睨する。
「痛くも、痒くも、ねェ。こんくらい、屁でもねェ……!!」
理不尽なまでのタフネスと常軌を逸した威容を前に、『被害者の会』の面々が慄き、恐れ、怯え、絶望した。負け犬の如く森へ逃げ帰ろうと後ずさる。
諦めることを知らぬ麦わらの面々が即座に迎撃へ動こうとしたその時、
「リーゼ」
ウソップの背に担がれたルフィが告げた。手放しの信頼を込めて。
「やれ」
瞬間、メインマスト城砦から一条の閃光が駆け、オーズの頭がずるりと地面に落ちた。
○
首級(みしるし)を失った超巨大ゾンビが仰向けに倒れ伏す。入れられたルフィの影こそ出てこなかったけれど、もはや微動だにしない。
プラズマ熱の残光を放つ刀身から、人間の脂が焦げる臭いが漂う。
着地したベアトリーゼがブレードにフッと官能的に息を吹きかけた直後、現金な『被害者の会』が再び大喝采。逆に麦わらの一味の面々は静かだった。各々が疲労と疲弊に身を委ね、その場に腰を下ろしたり、水平線に姿を見せ始めた朝日を眺めたり。
「早く影を取り戻せっ! 急がねェと消滅しちまうぞっ!!!」
ウソップの叫び声に誰も彼もがハっとなり、
「モリアの奴を叩き起こして、影を返させるのよっ!!」
女性海賊の号令一下、オーズの元へ駆け寄ろうとした。
「起こすにゃ及ばねェ……っ!」
その機先を制すように、腹腔内コクピットからデカラッキョみたいな大男が這い出てきた。全身傷だらけで血塗れ。巨躯が痛みに震え、肩で息をする惨憺たる有様。
それでも、ゲッコー・モリアの血走った目に翳りはまったくない。それどころか、怠惰を貪っていた時と打って変わり、大海賊に相応しい“カクゴ”にギラついている。
モリアは血痰を吐き捨て、ぎろりと『被害者の会』を見回す。
「“森の負け犬共”か……麦わらの過剰なパワーアップは、俺のカゲの能力を利用したな? 惨めなクソ雑魚共が……舐めた真似しやがって……っ!!」
忌々しげに吐き捨て、モリアはルフィを睨み据えた。
「麦わらァ……テメェ、よくもまぁ好き放題やってくれやがったなぁ……っ!!」
ルフィはウソップの背から降り立ち、モリアの恨み言を一顧にせず一蹴する。
「お前が売ってきた喧嘩だろっ!! ひとの航海を邪魔しやがって! 日が差す前に影を返せっ!!」
事実だ。『流し樽』に引っ掛かったとはいえ、的に掛けて襲ってきたのはモリアのスリラーバーク海賊団であって、麦わらの一味は火の粉を払ったに過ぎない。
「……航海だぁ? テメェ、“新世界”に挑もうってか?」
キシシッとモリアはルフィの抗弁を嗤い飛ばすや、血走った眼を見開き、血に塗れた大きな口の両端を限界まで釣り上げた。
「何も知らねェクソガキめっ! テメェ如きの実力で”新世界”に挑みゃあどうなるか、俺が教えてやるよぉっ!!」
大海賊ゲッコー・モリアは受け入れられない。こんな経験の浅い新米海賊共に敗北するなど、絶対に許容できない。負けを認めて影を返すなど、たとえ首をねじ切られても認められない。
モリアは自身の影を蜘蛛の巣のように広げていく。
「さぁ、スリラーバークッ! 全ての影よっ!!この俺の力となれ!! シャドー・アスガルドッ!!」
瞬く間に島中へ広がったモリアの影は全ゾンビから影を抜き取り、モリアの体躯へ詰め込んでいく。
「まさか」女性海賊の顔が大きく引きつり「あいつ、麦わらと同じことを――」
モリアは狂気的な笑みを湛え、血塗れの歯を剥く。
「麦わらァ、テメェが取り込んだ影は100ってところかぁ? ならば俺は」
そこかしこでゾンビ達が死体へ戻っていく。
「200……300……」モリアの体躯がぐんぐんと肥大化していく。
シンドリーもローラもヒルドンも影を失い、倒れていく。
「600……700……」横にも縦にも膨張したモリアの体躯は巨人をはるかに上回る。
将軍ゾンビや兵士ゾンビ、オーズなど斃れたゾンビから影が抜かれていく。
「800……900……」その容貌はもはや超巨大魔獣の如く。
あまりの事態に言葉を失う海賊達を、モリアが歯を擦るように嗤う。
「キィシシシ……ッ! いっせ、ゥプゥッ! 1000体分の影だァッ!!」
1000体の影を取り込んで大魔獣と化したモリアが、巨大な両拳を振り下ろす。
それはもはや戦術級兵器の一撃に等しかった。衝撃波に薙ぎ飛ばされる海賊達。飛散する瓦礫は島外の水面に無数の水柱を昇らせる。島全体に亀裂が走り、超巨大メインマストが悲鳴を上げて傾ぐ。
圧倒的な力を誇示したモリア。島を照らし始めた曙光。いよいよ後が無い状況に『被害者の会』の海賊達は恐慌状態に陥った。陽の光から逃げ惑う者。絶望に泣き喚く者。そんな中にあっても全く動じない麦わらの一味に感化される者。
恐怖と絶望と、勇気の混沌。
「ありゃあ我を失ってねェか?」サンジが煙草を吹かしながら他人事のように言った。
「怒りとプライドに駆られて、自分の限界を見誤ったようね」ロビンが淡々と告げる。
「日が差すまで、なりふり構わずやり過ごす気だな」
頭に巻いた黒布を外し、ゾロは腕を組む。
「俺達の消滅が先か、モリアの自滅が先か。時間との勝負だ」
肩で息をしていたルフィは大きく深呼吸し、決断する。魔獣と化した怪人を見据え、仲間達へ告げた。
「俺がケリをつける……ッ! 皆、ちょっと無茶するからよ! 後は頼む!!」
ルフィは血流を高速化して力を引き出す“ギア2”を始めようとした矢先、ベアトリーゼがその背中の中心へ右手を置いた。
「リーゼ?」
ルフィは訝りつつ、肩越しにベアトリーゼを窺えば。
「目を瞑れ、ルフィ」
真剣なベアトリーゼに戸惑いつつ、ルフィは素直に目を瞑る。
「想像しろ。君は大きな風船。巨大なエネルギーを蓄える大きなゴムの風船だ。そのエネルギーを腕に向かって押し流せ。風船の空気が口へ向かうように、エネルギーを拳に集中させろ」
詩を吟じるように紡がれるベアトリーゼの言葉が、ルフィに染み込んでいく。
巨大魔獣と化したモリアが身を仰け反らせるほど両拳を大きく振り上げ、ルフィをスリラーバークごと殴り砕かんばかりに振り下ろす。
「来るぞぉっ!! 避けろ、麦わらぁ!!」
海賊達の悲鳴染みた警告が飛ぶ。巨拳の破滅的一撃が迫る。差し込む曙光が影を持たぬ者達を焼く。
「征け、海賊王」
ベアトリーゼはルフィの背中を押した。
瞬間。ルフィは押された背中から全身に熱が突き抜ける感覚を抱き、次いで魂魄の奥底から噴出するエネルギーに突き動かされるまま、拳を振るい―――
Tips
ゲッコー・モリア
技とか戦い方があんまり明らかになっていないので、戦闘シーンが作り難い。
ルフィを手玉に取ったりと狡知なところがあるから、ちょっとダーティ戦法を採らせた。
被害者の会
婚活海賊のローラとその他大勢。
泣き言しか言わないモブとそいつらに喝を入れるローラ、というやり取りばかりなので、全部カット。
ナイトメア・ルフィ。
100体の影を詰め込まれたルフィ。物理法則の無視具合がニカ化並み。
ベアトリーゼ。
刀身が痛む覚悟で、燃焼プラズマをまとったブレードでオーズの首を焼き切った。
ルフィにしたことの詳細は次回。