彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、誤字報告ありがとうございます。


210:どこまでも青い朝空の下で

 朝日の注ぐスリラーバークが大歓声と大喝采に満たされる。

 グランドラインの各地や西の海でも歓声を上げ、歓喜の涙を流す者が大勢いる。

 

 影が戻ったことを喜び、大騒ぎする海賊達を余所に、麦わらの一味は影を奪われていた4人が消滅せず、無事だったことに安堵していた。

 やんややんやとバカ騒ぎする海賊達と疲労に腰を下ろす麦わらの一味。そのため、ホグバックとアブサロムが失神昏倒中のモリアを担ぎ、島からコソコソと脱出していくことに気付かない。まぁ、海賊達の方はともかく、麦わらの一味は命まで取る気がないから、逃げるなら追わないだろう。

 

「……“今回も”派手にやったなぁ」

 サンジは紫煙を吐きながらしみじみと呟く。

 

 見上げるほど立派な豪邸も、森染みた空中庭園も、超巨大メインマスト城砦も、見る影も無かった。

 豪邸と城砦付随施設は瓦礫と残骸と化し、大きな陥没孔を埋めている。空中庭園は跡形も残っていない。超巨大メインマスト城砦は基部からへし折れて横倒しになっていた。山ほど居た奇怪なゾンビ達は全てが物言わぬ骸へ戻っている。むしろ、その奇怪な姿は玩弄された遺体にしか見えず、ただただ惨い。

 

 ゾロは倒壊したメインマストを見上げ、つい先ほどのことを思い出す。

 ベアトリーゼがルフィの背中を押した直後。ルフィの体が一瞬だけ、本当に一瞬だけ巨大風船のように超膨張したかと思ったら、次の瞬間には超巨大化したゲッコー・モリアを殴り飛ばし、メインマストに叩きつけていた。

 そして、モリアは倒壊したメインマストの下敷きになり、取り込んだ影を噴水のように嘔吐し、失神昏倒した。

 

 たった一発。

 桁違いに強力無比な一発で、ルフィは戦いにケリをつけた。

 ゾロの卓越した動体視力でも、ルフィの動きを完全に捉えられなかった。他の面々も何が起きたのか理解できていない。

 あいつ。ゾロはナミからお小言を食らうベアトリーゼを窺う。ルフィに何をした?

 

 疑問を抱きながら、ゾロは目線をルフィに移す。

 ルフィは完全に伸びていて、チョッパーに手当てを受けている。曰く極度の疲労と消耗で寝込んでしまったらしい。

 

 と、女性海賊ローラを筆頭に『被害者の会』の海賊達がぞろぞろと集まってきて、膝を突いて頭を垂れる。

「あんた達、ありがとう! 被害者の会一同、この恩は決して忘れないわ!!」

『ありがとうございました!!』

 

 海賊達による感謝の大合唱。はにかむ麦わらの一味。

 そこへ、ベアトリーゼが無機質なほど冷ややかに告げる。

「や。盛り上がってるところ悪いけど、まだ終わってないよ」

 

 ナミがハッとして美貌を強張らせた。言い出す機会を逃していた、重大事項を思い出す。

「! そうだ、あいつがまだ――」

 

「ビーゼ、ナミ、どうしたの?」

 ロビンが怪訝そうに2人へ尋ねた、矢先。

 

『――悪い予感は的中した。そういうことか』

「そのようで」

 

 威厳に満ちた老人の声とうっそりとした男の声が頭上から降ってきた。なんだなんだ、皆が揃って見上げた先。横倒しになったメインマスト城砦の外壁に、大男が腰かけていた。

 

「!? 誰だありゃあ!?」

「王下七武海“暴君“バーソロミュー・くまだよ」

 吃驚を上げる面々へ、ベアトリーゼが淡白に告げた。

 

「!!! 王下七武海っ!? モリア以外にも居たのかっ!?」

 愕然慄然唖然とする周囲を余所に、くまは手に持った子電伝虫と通話を続ける。

 

『モリア敗北の事実が世間に漏れては面倒なことになる。世界政府より特命を下す。王下七武海バーソロミュー・くま。麦わらの一味を含む、その島に残る全てのものを抹殺せよ』

「了解した……」

 傲慢な老人の命令に、くまはうっそりと了承を返した。腰をあげ、聖書を大事そうに懐へ収めてから、両手の革手袋を外した。

 

「い、今……俺らを抹殺って……」

 耳聡く剣呑な単語を聞き取った海賊達が顔を引きつらせる。ウソップがナミとベアトリーゼへ噛みつくように問い質す。

「おい、あいつはいったいなんだっ!?」

 

「王下七武海ってこと以外は分かんないっ!」ナミは蜜柑色の瞳を傍らへ移し「ベアトリーゼは知り合いみたいだったけど……」

 周囲から視線を注がれ、ベアトリーゼは両腕に巻いたダマスカスブレードの装具を調整しながら、さらりと告げる。

「あいつはニキュニキュの実の肉球人間さ」

 

「ニキュ……ニクキューニンゲン? ? ? ? い、癒し系か?」

 予期せぬ可愛らしい擬音と単語に戸惑う面々。ロビンは脳裏にプリティなニャンコを浮かべた。にゃーにゃー。

 

「あらゆるものを弾き飛ばす能力だ。人間だろうが、軍艦だろうが、銃弾だろうが、斬撃だろうがお構いなし。触れたものは何であろうと彼方まで弾き飛ばす」

「そんなデタラメな」

 ベアトリーゼが続けて綴った説明の無茶苦茶さに、サンジが思わず怪訝顔を作る。

 

 直後、パッとくまの姿が消えた。麦わらの一味と海賊達の脳ミソが消えた事実を認識するより早く、くまは荒れ果てた中庭に移っていた。

 

 驚愕して慌てふためく一味と海賊達を余所に、ベアトリーゼはさらっと続ける。

「自身を肉球で”弾く”ことで、ああやって瞬間移動もできるみたい」

 

「もはや肉球の所業じゃねえよ!!」

「悪魔の実ってそういうもんだから」

 もっともなツッコミを叫ぶウソップへ、ベアトリーゼは小さく肩を竦める。

 

 蛮姫が気の抜けた調子で言葉を並べている間に、ビビり過ぎてパニックを起こした一部海賊達が得物を抜き、くまへ向かって突撃していく。

「ク、クソがぁ! やっと自由の身になれたんだ! 死んでたまっかぁ!!」

「よしな! 相手が悪すぎる!!」

 女性海賊ローラが必死に警告を発するも、既に遅し。くまは大きな右手を軽く振り、衝撃波を放って襲い掛かってきた海賊共を薙ぎ払う。まるで熊が蟻を払いのけるように。

 

 大勢が恐怖と怯懦に凍りつく中、動けたのは4人。

 刀の鯉口を切ったゾロ。いつでも動けるよう身構えたサンジ。能力発動の機を計ったロビン。

 そして、ベアトリーゼはくまの前へ出ながら、鬱陶しそうに海賊達へ言った。

「お前らが束になっても敵わねーよ。邪魔だからすっこんでろ」

 

「“血浴”のベアトリーゼ。やはり立ち塞がるか」

 うっそりと呟き、くまは眼鏡の位置を修正する。

 

 ベアトリーゼは凶暴な微笑を浮かべ、目に見えそうなほどおどろおどろしい殺気を放つ。

 蛮姫と暴君の間に暴力的なまでの威圧感と緊迫感が生じ、中庭の全員が瞬きを忘れ、息を飲み、身を強張らせる。

 殺気が張り詰めた静寂。瓦礫の山から一片の小石が崩れ落ちた。

 

 カラン、と静寂(しじま)に小さな波紋が生じた瞬間。

 

 ベアトリーゼが迅雷の如き高速跳び蹴りを放ち、くまは肉球を備えた右掌打で迎え撃つ。掌打の肉球が当たれば、ベアトリーゼは水平線の彼方まで“弾き”飛ばされただろう。

 だが、ベアトリーゼは掌打に触れる寸前、アクロバティックに身を捻り込んで右掌打を回避した。くまの右手首を斬り飛ばそうとダマスカスブレードを一閃。

 

 くまは右手首に武装色の覇気を巡らせて防御。衝突の轟音と衝撃波が生じる。

 奇襲に失敗したベアトリーゼはくまの肩口を蹴りつけ、大きく跳躍。一旦、離脱した。

 

 一味と海賊達が瞬きを終えた直後。

 ベアトリーゼはいつの間にか瓦礫の山の天辺に立っている。身長7メートル弱のくまが大きく押し退けられていた。地面に靴底が擦れた跡が残り、粉塵が漂う。

 

 周囲の目が追いつかないほど高速で攻防を交わし、ベアトリーゼは冷徹な目つきで右腕のブレードを窺う。

 ――硬い。覇気の密度だけじゃない。物質的な強度も相当だった。素の身体能力……いや、ベガパンクお手製の改造ボディは伊達じゃないってことか。

 満月色の双眸を細め、艶やかな唇の両端を歪めた。

 ――面白い。どこまでぶん殴ったら壊れるか試してやる。

 

 一方、くまは斬撃をしのいだ右手首を窺う。覇気を解くと微かに血が滲んでいた。

 ――能力と覇気を使わずにこれほどか。人造種族ヒューロン。侮れんな。

 

 くまは腰を下げ、肉球の生えた両手で高速の素振りを繰り返した。

「つっぱり圧力(パッド)砲!」

 視認できるほど超圧縮された大気が連射され、瓦礫の山や建物の残骸を貫通し、破砕し、薙ぎ払い、吹き飛ばしていく。

 

 もっとも、ベアトリーゼにとっては予備動作が丸見えの攻撃をただ垂れ流しているだけだ。回避は易い。超高圧衝撃波の弾幕を舞うように避け、滑らかな運足でくまへ肉薄。

 くまが放つ迎撃の右掌底打をぐるりとかわす。回避の余勢を駆り、武装色の覇気で漆黒に染めた蹴撃をくまの足元へ放つ。

 

 砲弾が装甲板を直撃したような轟音。くまは武装色の覇気をまとった膝受けで足払いを防いでいた。ベアトリーゼが追撃に入るより早く、自身を瞬間移動。ベアトリーゼの背後へ遷移し、左の掌底打を放つ。

 

 が、ベアトリーゼはまるでくまが背後を取ると分かっていたように身を回し、紙一重で掌打をかわしながら長い左脚を振るい、くまの横っ面へ漆黒の踵を叩き込んだ。金属的な硬い衝突音と共に巌のような巨躯が大きく仰け反り、くまの体勢が崩れる。機を逃さず追撃。そのまま身を大きく捻り込み、首を()ねようとプラズマ光をまとうブレードを走らせる。

 

 ぷに。

 

 気が抜ける音色と共に斬撃ごと弾き飛ばされ、ベアトリーゼは瓦礫の山に激突。粉塵が立ち昇り、瓦礫が飛び散る。

 周囲から悲鳴が上がるも、ベアトリーゼは平然と身を起こし、ペッと粉塵混じりの黒い唾を吐き捨てた。

「触れさえすれば問答無用で反射かよ。ずっこい能力しやがって」

 

「お互い様だろう」

 うっそりと答え、くまは踵を浴びた顎を撫でる。

 ――強い。そして、巧い。肉球で弾けなかったら、首を斬り飛ばされていた。

 

 改めて眼前の蛮姫を注視し、くまは思う。

 ――明らかに”血浴”はこの一味の中で別格の実力を備えている。にもかかわらず、いちクルーとして振る舞っている。なぜだ?

「……“血浴”。お前の目的はなんだ? 何のためにこの一味に加わった?」

 

「素敵な船長に口説かれてね。すっかりメロメロなのさ」

 ベアトリーゼはゆっくりと立ち上がり、プルプルの実の力を用いて右手に超高熱プラズマ塊を作り始める。

 

 空島とエニエスロビーで嫌となるほど“その技”を見た麦わらの一味がギョッとし、ナミが制止を試みて叫ぶ。

「ベアトリーゼ! その技はダ」

 

 航海士が言い終えるより早く、蛮姫は暴君へ襲い掛かっていた。

 漆黒の高速足刀三連。しかも三発目は遊撃律動功(アインザッツリュトメン)で機を外したうえで、軌道を下段から上段へ変える変則蹴撃。

 

 暴力的速度と機動から肉球で弾くことは叶わなかったが、くまは猛攻を全て防ぐ。

 然して、その三連全てが牽制。ベアトリーゼは防御を強要してくまの動きを固め、しゅるりと小さく宙返りして目線を誘導。くまの認識と知覚に死角を作り出す。

 

 妙域の心術にくまが掛かった刹那の間隙。

 宙返りの最中、天地逆転した姿勢のまま、ベアトリーゼは右手に持つ破滅的炎雷をくまの鳩尾目掛けて放つ。

 赤熱色の光球が直撃する寸前。くまは咄嗟に右手のひらをかざす。

 

 ぱんっ!

 

 空気が弾ける音が響いた直後。

 

 ず っ ど ぉ ん ん っ !!

 

 スリラーバークの上空で超高熱プラズマ塊が電磁膜を解き、暴虐的な熱量と閃光、虐殺的な熱圧衝撃と高圧音波を放散した。大爆発に怯え慄く海賊達。麦わらの一味はビビリ組が悲鳴を上げ、武闘派が呻く。

 

 ベアトリーゼは後方宙返り四回転半捻りの末に荒れ果てた中庭へ着地。

 ――プラズマ・キュポラに触れれば肉球を焼き潰せるかと思ったけど、そう上手くはいかないか。つくづく面倒臭ェ能力だな。

 

 密やかに渋面を作るベアトリーゼへ、くまがうっそりと告げる。

「……今の攻撃が俺に当たっていたら、一味や海賊達も巻き込んでいたぞ」

 

 くまの指摘に対し、ベアトリーゼはまったく悪びれることなく、しれっと宣う。

「無理無茶無謀で鳴らす麦わらの一味だぞ。あれっぱかしの爆発じゃ死にゃあしねーよ。有象無象の方は知らん」

 

「おバカ! あんなのに巻き込まれたら死ぬわよ!!」

 ナミの罵声にウソップとチョッパーがぶんぶんと首を縦に振りまくる。

「俺達のことも思いやれ!」「配慮を! 俺達も配慮を!!」「優しさをプリーズ!!」

 海賊達も大ブーイング。

 

 ぎゃあぎゃあと騒々しい外野を余所に、くまはチビトナカイが介抱する麦わらのルフィを窺う。

「……そんなに“麦わら”が大事か?」

 

 ベアトリーゼはどこか自慢するように微笑む。

「ルフィは海賊王になる男だ。彼と彼の仲間達はいずれロジャーより凄い“大きな物語”を紡ぐ。分かるか、くま。私とあんたは今、この世界の未来を賭けて戦ってるのさ」

 

「……世界の未来か。大きく出たものだな」

 くまは両手の拳を“握り”込んだ。本気で戦うと宣言するように。

「麦わらの”大きな物語”とやらを叶えたいなら、俺を退かせてみせろ」

 

「抜かしたな」

 ベアトリーゼは猛獣のように犬歯を剥く。

「ベソ掻きながら命乞いさせてやるよ」

 いよいよ王下七武海と賞金4億越えの女妖が本気で激突を始めようとした、寸前。

 

 

 ぷるぷるぷる。ぷるぷるぷる。

 

 

 くまの懐から子電伝虫の鳴き声が響いた。

 場違いな鳴き声に水を差され、ベアトリーゼは殺気を解いた。

「……出ていいよ」

 

「……」

 くまはどこかバツが悪そうに懐から小さな子電伝虫を取り出し、通話する。

「もしもし」

 

『くま。今、大丈夫かしら?』

 通話口から貴婦人の艶美な声が届いた。

 

 瞬間、ベアトリーゼとくまが揃って眉を下げ、聞き覚えのある声にロビンがピキッと眉をひそめた。

 あの声は……泥棒猫ね。

 

     ○

 

 子電伝虫を機に、ベアトリーゼとくまが唐突に中庭から姿を消してしまい、戦いは打ち切られた。

 

 なんとも消化不良な幕切れ。けれど、美しい朝空と太陽を目にするに至り、海賊達は実感を抱く。長年の苦難から解放された喜びが心身を満たし、大歓声を上げる。

 

 麦わらの一味は今度こそへたり込むように腰を下ろして、大きな、とても大きな息を吐いた。

「最後の最後で、ものっ凄く精神的に疲れたわ……」

 嘆くナミにウソップとチョッパーがとても深く頷く。

「分かる。分かるぞ。ナミ」「俺、驚きすぎと怖がりすぎでクタクタだ……」

 

 親友が泥棒猫との内緒話に消えたため、ロビンはどこかムスッとしている。

 フランキーは萎れたリーゼントを掻き上げつつ、訝しげに仏頂面の両翼へ問う。

「アーゥ、どうしたオメェら。三日間便秘してそうなツラして」

 

「どういうたとえだよ」

 サンジは嫌そうにグル眉をひそめつつ、瓦礫に刻まれた肉球模様を見た。

「……最後まで手出しできなかったな」

 

「……ああ」

 ゾロは眉間に深い皺を刻んだまま応じる。

 一味の危機に何も出来なかった。海軍大将“青雉”が相手でも動けたのに、王下七武海のくまとベアトリーゼの戦いにまったく手出しできなかった。

 

 “邪魔”になると理解してしまったから。

 これまでも実力の差を見せられたことはあった。だが、今度ばかりは思い知らされた。

 ゾロは密やかに歯噛みし、強い焦燥感を抱く。もっと強くならねェと……っ!

 

 ゾロだけではない。一味全員の胸中に、強敵に勝利した充足感や達成感、危機的状況から生き延びた満足感に強い苦みが混じっていた。

 

 一味の間にそんな微妙な雰囲気が漂う中、ブルックが青空を見上げて呟く。

「ヨホホホ……美しいですねえ。こんな美しい青空を見たのはいつ以来でしょう……」

 

 率直で純朴な響きの言葉に、一味の面々は自然と釣られ、顔を上げた。

 雲一つなく澄み渡った蒼穹。燦々と輝く真ん丸の太陽。潮騒はどこか優しく、潮風も柔らかい。

 

「皆さん」

 清々しい朝空を見上げていた一味へ、

「皆さんのおかげで影を取り戻せた挙句、50年振りに青空を見ることが出来ました」

 ブルックは深く頭を下げた。空っぽの眼窩から一筋の涙が伝う。

「本当に……本当にありがとうございました」

 

 50年に渡って独りで霧の海を彷徨い続けた男の心情を慮り、一味がしんみりした刹那。

 

 ルフィがくわっと目を見開き、叫ぶ。

「腹減ったぁ――――――――ッ! 肉食わせろぉ――――――っ!!」

 船長の能天気な雄叫びを聞き、麦わらの一味はようやく屈託のない笑顔を浮かべた。

 

    ○

 

 朝日が照らすスリラーバーク船体水門の上。子電伝虫を挟んで“暴君”と“血浴”が座っている。

 

『エニエスロビーであれだけ暴れたばかりなのに、その数日後に七武海を倒した? なんなの? 麦わらの一味は血と破壊に飢えた戦闘狂なの? 本当は世界政府を狙うテロ集団なの?』

 

 ステューシーの苦りきった悪態に、ベアトリーゼはけらけらと笑う。

「言われてみるとヒッデェな、麦わらの一味」

「笑い事ではないと思うが」うっそりとツッコむくま。

 

「そっちは大丈夫だった?」

 ベアトリーゼが言葉少なに問う。伏せた主題はフランマリオン聖へ報告の件だ。ステューシーはベアトリーゼを救うため、メルヴィユでかなり危ない橋を渡った。

 

『なんとか首の皮はつながったわ』貴婦人は小さく吐息をこぼし『本題に入るけれど……くま。“あの子”の居場所が分かった』

 くまの巨躯がぴくりと動く。

 

『シャボンディへ向かってる。タイミングの悪いことに、今ロズワード聖一家が奴隷を購入するため、シャボンディへ行幸してるの。“あの子”は賢いから上手く避けると思うけれど、留意しておいて』

「……分かった。情報に感謝する」

『良いのよ。“あの子”のことは”ステラ”にも気を配るよう頼まれているから。ただ、私の立場では出来ることが多くないわ』

「ああ。分かっている」

 

 ステューシーとくまのやり取りを、ベアトリーゼは黙って聞いていた。万事に滅茶苦茶な女だが、他人の繊細な領域へ無思慮に踏み込まないだけの分別はある。

 

 一方で、ベアトリーゼには場を引っ掻き回す悪癖があった。

「シャボンディか。麦わらの一味も近いうちに向かうと思うよ」

 

 さらっと呟いた言葉に、ステューシーとくまが黙り込んだ。

 行く先々で騒動を起こす麦わらの一味がシャボンディへ赴く。2人とも察したらしい。

『……嫌な予感がするわね』

「……俺もだ」

 

 そんな2人の反応に、ベアトリーゼはからからと楽しげに笑った。




Tips
ルフィ。
 ベアトリーゼの後押しで爆縮パンチをぶっ放し、モリアをナレ撃破。

 ※爆縮パンチ。
 元ネタは銃夢LOのゼクスが使った技。身体を風船のように膨張させ、圧縮しながら突きを放つ。この時、爆縮レンズ効果を同期させることで、突きの威力を増幅させる。

バーソロミュー・くま
 原作において、快進撃を続けていたルフィと麦わらの一味に『新世界のレベル』を見せつけた人。
 作中最高クラスの善人。

ステューシー。
 意図せずして戦いを中断させた。軟禁から逃亡したジュエリー・ボニーの居場所をくまへ伝えようとしたら、麦わらの一味によるモリア撃破を知ってしまい、げんなり。

ベアトリーゼ
 最後の最後で場を引っ掻き回した野蛮人。
 くまとタイマンを張るも、全てを弾く肉球の受けを崩しきれなかった。
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