彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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烏瑠さん、佐藤東沙さん、nullpointさん、ミタさんさん、みえるさん、トマス二世さん、誤字報告ありがとうございます。


229:頂上戦争―破

 マリンフォードの凍てついた湾内でワンピース世界名物の混戦乱闘が繰り広げられる中、ガープは戦場の霧に紛れて処刑台に上がった。

 

「何しにきた、ガープ」

 戦場を注視していたセンゴクが横目に親友を窺う。その眼差しに疑念はなかった。当然だ。孫の命惜しさにガープが裏切るなど、センゴクは想像すらしないし、その必要を微塵も認めていない。

「作戦に異論でもあるのか」

 

「いや……相手は海賊。同情の余地なんぞない」

「ならば」

「黙れ! ……ここに居るくらいよかろう」

 ガープはこれ以上の問答を拒絶するように吠え、1人分ほど間を空けて愛孫の隣に腰を下ろし、

「悪党に同情はねェ……が、家族は違う……っ!!」

 苦悩と懊悩に満ちた心情を吐露した。

「わしは……どうすりゃあええんじゃい……っ!!!!」

 

 エースは思わず耳を疑い、目を疑う。

「なぜじゃ……エースッ! 貴様……っ! なぜわしの言う通りに生きなんだ!!!」

 傍若無人で破天荒でいつだって豪放磊落な祖父が、“泣き言”をこぼしている。その事実に、エースは衝撃を受ける。

 

 センゴクもまた、驚愕していた。全幅の信頼を寄せている親友へ、思わず告げるほどに。

「――妙な気を起こせば、お前とて容赦せんぞ、ガープ」

「やるならとうにやっとるわっ!!」

 ガープは動じた友へ怒声を浴びせ、次いで俯き、その大きく広い背中を微かに丸めた。

 哀愁漂うその姿に、エースは胸を締め付けられた。しかし、祖父に掛けるべき言葉を見つけられない。

 

 センゴクは視界いっぱいに広がる戦場へ目線を戻し、言葉を編む。

「……ガープ。“俺”はお前がしたことを過ちとは言わん。父親が大罪人とはいえ、無辜の母親や無垢な赤子まで処刑するなど……あまりにも不条理だ。この世に罪科を背負って生まれる命など、あろうはずがない」

 

 先ほど宣言した内容を覆すそれは、冷徹な海軍軍人ではなく、“仏”と呼ばれる男の心情。

「もしもお前の言う通り、エースが素性を隠して海兵となり、父の罪を贖う如く献身的に勤めていたならば、海軍が守ってやれたかもしれん。もしくは、出自を秘して善良な一市民として穏やかな生活を送っていたならば、誰も気づかなかったかもしれん。だが、ポートガス・D・エースは海賊になることを選び、今ここで処刑されることになった」

 センゴクは親友を諭すように語り。

「その現実を受け入れるしかあるまい」

 

 続けて、軍人として冷厳な理屈を説く。

「如何に理不尽であろうと不条理であろうとも、海賊王の血脈は断たねばならん。ロジャーの息子の死を以って、この悪逆非道の時代に楔を打つのだ」

 鉄風雷火が吹き荒れ、砲煙弾雨に満ち、剣林槍衾が煌めく。戦争交響曲は激しさを増し、海兵達が傷つき、斃れていく。全てはより良き未来のための尊い犠牲。

 

「分かっとるわっ! そんなことはよぉ分かっとるっ!」

 ガープは大きな拳を握り固める。強く、固く、爪が深々と食い込むほどに。

「分かっとる。だが……っ!」

 

 静かな慟哭。決して“弱さ”を見せることが無い男がこれほど心情を吐露している理由は、もはや愛孫エースが助からぬと分かっているからに他ならない。

 はたして、血が滲むほどに唇を嚙みしめたエースは、そこまで祖父の心情をすくい上げているだろうか。

 センゴクは密やかに息を吐き、作戦を進めるべく電伝虫に告げた。

「全軍に告ぐ。目標TOTTZ。通常作戦3番へ移行。整い次第、予定を早めてエースの処刑を執行する」

 

 その時、青雉が凍結させた超巨大津波の氷塊、その天辺から大型軍艦が落ちてきた。

ぅぁあああああああああああああああああああっ!!!!

 

 戦争交響曲に混ざる200名余の悲鳴と絶叫。

 戦闘で融解した水面に落ちる軍艦。立ち昇る巨大な水柱。豪雨のように降り注ぐ海水。

 砕け折れた軍艦の艦首に立つ、麦わら帽子の少年。

 背後には強烈な顔面の中年オカマ。お相撲さんみたいな魚人男性。怪人砂男。中年道化。それに囚人服姿の賊徒と大勢の胡乱なオカマ達。

 

「エ―――――――――――ス―――――――――――っ!!」

 ルフィが力いっぱい叫ぶ。

「助けに来たぞ――――――――――――――――――っ!!」

 

「ルフィッ!?」目を剥いて驚愕するエース。

「ルフィじゃとぉっ?!」滲んでいた涙が引っ込むガープ。

「ガープッ!! またお前の家族だぞ!!」激怒するセンゴク。

 

「話題に事欠かん男だな……」鷹の目が呆れ気味に呟き。

「麦わらぁあああああッ!!」怪人デカラッキョが殺意を爆発させ。

「ルフィ……! よくぞ無事で!」海賊女帝が頬を桃色に染めてトキメキ。

「フフフフ……あれが噂の大問題ルーキー“麦わら”か」天夜叉が嗤う。「新旧王下七武海に革命軍の大幹部。どういう組み合わせだ?」

 

「ルフィさんっ?!」「麦わらぁっ!?」「なんであいつがここに!?」

 コビーとヘルメッポが吃驚を上げ、スモーカーが戸惑う。

「えれぇの引き連れてきたじゃないの」青雉が薄く笑い。

「まさかこんな早くまた会うとはねえ~」黄猿が眉をひそめ。

「確実に消すべき悪が増えよったのぉ」赤犬が眉間に皺を刻む。

 

 戦場に困惑が生じた一瞬の間隙。一陣の砂風が走る。

「久しぶりだな、白ひげ」

 冷たい殺意と共に振り下ろされる義手の鉤。を跳躍したルフィが蹴り払う。

 奇襲を妨げられたクロコダイルがルフィを睨む。

「俺とお前の“協定”は達成された。なぜお前が白ひげを庇う」

「エースはこのおっさんを気に入ってんだ。手ェ出すな!」

 

 伝説的大海賊“白ひげ”はようやく目線をルフィへ向け、問う。

「麦わら小僧。兄貴を助けに来たのか」

「そうだ」ルフィは白ひげに見向きもせず、処刑台を睨み据えたまま応じた。

 

「相手が分かってんのか、小僧。オメェ如きじゃ命はねェぞ」

「うるせェ!! お前がそんな事決めんな!!」

「生意気なガキめ」白ひげはグララと楽しげに笑い「足引っ張りやがったら承知しねェぞ、ハナッタレ!!」

「俺は俺のやりてェようにやる!! エースは俺が助ける!!」

 ルーキーが伝説的大海賊と伍して張り合う光景に、脱獄囚達も白ひげ海賊団の面々も海兵も、誰もがビックリ仰天して言葉を失う。

 

 そんな周囲の当惑を無視し、ルフィは飛び出した。

 処刑台へ向け、激戦の真っただ中を強引に押し通る。

 四方八方から迫る海兵を打ち倒し、十重二十重に襲い掛かる海兵を潜り抜け、一直線に兄の許を目指していく。

 打たれ斬られ、血を流しながら海兵達の壁を突き破り、一心不乱にひた走る。

 

 エースが叫ぶ。ルフィが傷つく様を黙って見ていられなかった。

「来るな!! ルフィッ!!」

 

 弟を想う悲痛な叫びは戦場の騒乱を貫き、ルフィや白ひげ、仲間達の耳に届く。

「分かってるだろう!! 俺もお前も海賊なんだっ! 思うままの海へ進んだはずだ! 俺には俺の冒険がある!! 俺には俺の仲間がいる!! お前に立ち入られる筋合いはねぇ! 帰れ、ルフィッ!! 今すぐここから失せろっ!」

 まるで悲鳴のような怒声には、弟の命を憂う深い愛情と、弟をこんな地獄へ引き込んでしまった慙愧がありありと込められていた。

 

 それでも、ルフィは止まらない。

「俺は弟だ!!」ルフィが無心に駆けながら怒鳴り返す「海賊ルールなんか知るかぁっ!!」

 

 弟を案じて突き放そうとする兄と、兄のため必死に戦い駆ける弟。

 孫達の家族愛にガープが思わず項垂れる。センゴクはそんな親友を意識的に視界から外し、司令官として全軍へ告げるべきを告げた。

「その男もまた未来の有害因子! エースの義兄弟であり――『革命家』ドラゴンの実子だっ! 討ち取れィッ!!」

 

 戦場に幾度目かの驚きと動揺の声が広がり、放送を視聴している世界中の人々が狼狽した。革命軍は特に衝撃が大きい。

 

 驚愕と動揺と困惑が広がる戦場に、ルフィの雄叫びが轟く。

「エースッ! 何とでも言えっ!! 俺は! 死んでも! 助けるぞぉっ!!」

 ルフィの雄叫びに呼応するように海賊達の攻勢が強まり、迎え撃つ海兵達も猛る。

 戦いは激しさを増していく。

 

      ○

 

 歴史に残る大決戦。インペルダウン脱獄事件と戦場へなだれ込んだ脱獄囚達。海賊王の息子と革命家の息子。衝撃の事実と壮絶な映像に人々はただただ圧倒されるしかなかった。

 

「何やら急にドラマチックな展開を迎えたえ」

 フランマリオン聖はモニターを眺めながら困惑をこぼし、ベアトリーゼを窺う。

「ロズワードの愚息を殴ったというあの小僧。父親が『革命家』と知っておったのかえ?」

 

「知ってた」

 ベアトリーゼはどうでも良さそうに応じつつ、探るように睨む。

「ルフィの父親のことを知ってるんだな」

 

「ある程度の立場にある者は皆知っているえ」フランマリオン聖は認め「“英雄”の息子が我ら天竜人に反旗を翻したことはな。世論に与える影響を鑑み、隠蔽されているがえ」

 

「お前らはいつも関係者の口封じか情報封鎖だな。芸がない」

「耳に痛い指摘だえ」

 侮蔑的な眼差しを向けるベアトリーゼへ、ぐふふと嗤い返すフランマリオン聖。不意に真顔へ戻り、どこともなく見据えながら、呟く。

「パンゲア城は埃とカビが積もり過ぎているえ」

 

「だから、超人類化が必要だと?」

 ベアトリーゼの相槌チックな指摘に、我が意を得たりとフランマリオンは言葉を紡ぐ。雅言葉を使うことも忘れて。

「あれらは下界の民を虫けらと蔑んでいるが……その虫けらなくして何一つ出来ぬ能無し共だ。実を伴わぬ選民意識ほど見苦しいものはない。一刻も早く我ら自身がより高邁な存在へ昇華せねば――」

 

「?」

 怪訝そうに眉をひそめたベアトリーゼに気付き、フランマリオン聖は言葉を止む。

「ぐふふふ……ただのぼやきだえ」

 

 ベアトリーゼが自分が今“何か”に触れた感覚を抱きかけた、矢先。

 モニターが映す戦場に、パシフィスタ部隊が現れた。

 

     ○

 

「通信を切れと言ったはずだ! 作戦が次に進まんっ! なぜ、放送が止まっていないっ!?」

 パシフィスタ投入に合わせて映像電伝虫の念波通信を切るはずが、一つも切られない。今も戦場の様子を世界へ流し続けている。

 

「わ、分かりません! 我々が管理している電伝虫は間違いなく休眠させていますっ!」

「映像電伝虫の一匹をインペルダウンの脱獄囚共に奪われました!」

 海軍宣伝部隊が困惑と焦燥のままに報告した直後、モニターの一つに赤っ鼻のマヌケ面が映る。

『伝説の大海賊“道化”のバギーとは……俺だが?』

 

「放送を止めろっ!! 今すぐッ!!」

 アホ面を拝まされ、センゴクは怒り心頭。苦々しく舌打ちする。

「鼠が紛れ込んだか……白ひげの手か?」

「奴はその手の小細工はせん」ガープはちらりと最高司令官である親友を窺い「どうする? 手を変えるか?」

 

「無理だ」

 センゴクは即答した。渋面のまま言葉を紡ぐ。

「既に広場へ後退を始めている。下手に作戦を弄れば戦線崩壊を起こしかねん。このままパシフィスタで島外の傘下海賊団を湾内へ押し込み、包囲壁を稼働させて撃滅する」

 

「漏れた分は各個撃破か」ガープは頷き「ただ、戦場の映像が切れんとなると……後々面倒になるな」

「我々の仕事は面倒ばかりだ」

 歴戦の老兵達が淡々と言葉を交わしている間、一つの策謀が動く。

 

 モビーディックの甲板上で、白ひげが傘下海賊団の船長“大渦蜘蛛”スクアードに、刺された。

 

「オヤジィッ!! スクアード、どうしてっ!?」

 エースの上げた悲鳴は白ひげ海賊団全員の心情と一致する。

 白ひげ海賊団は家族の如き絆と愛情で固く結ばれた組織ゆえに、“息子”が“父”を刺すという、裏切りのもたらす衝撃は非常に大きい。

 数千人の海賊達が強く動揺し、大きく狼狽え、混乱する。

 

 スクアードが喚き散らす。仇敵ロジャーに対する恨みを。白ひげに対する疑念を。海軍大将“赤犬”から持ち掛けられた取引――センゴクが青写真を描き、サカズキに実行させた離間の調略――を。

 そして、白ひげはそんなスクアードを抱きしめ、愚かな息子へ惜しみない父性愛を示した。

 

 動揺と狼狽と憤懣が広がる中――

「ふざけんじゃねえぞ、白ひげェッ!! 俺はそんな“弱ェ男”に敗けたつもりはねェぞっ!!」

 常に冷静沈着なクロコダイルが取り乱したように叫ぶ。若き日に“伝説”へ挑み、左腕を失い、敗北を味わわされた男は、眼前の状況を許容できない。

 自分を打ち負かした“伝説”が、こんな下らない終わりを迎えることを、受容できない。

 

 

 遠い日々、ロックスの許で肩を並べた者達も同様だった。

 万国ホールケーキ島ホールケーキ城で、ビッグ・マムが激しく憤慨する。

「なんて様だい……ッ! そこまで焼きが回ったのか、白ひげっ!」

 鬼ヶ島。カイドウがモニターを睨み据えながら、酒樽を殴り砕いて憤怒する。かつて大豪傑と戦った時のことを思い出し、苛立ちが抑えられない。慄く部下達へ怒鳴った。

「さっさと代わりの酒を持ってこいッ!!」

 

 

 戦場の内でも外でも様々な思いが渦巻く。

“家族”が奸計に掛かり、敬愛する“父”が刺されたことに、エースは怒り狂う。

「きたねェぞっ!!」

 

 エースの非難を無視し、センゴクは戦場を見つめながら冷徹に呟く。

「動揺を生めれば儲けもの程度の策だったが……老いたな。いや、情報以上に病が重いのか」

「奴もわしらも人間だ。いつまでも“最強”のままでは居られん。だが」ガープは険しい顔つきで「これは……“不味い”ぞ。センゴク」

 手負いの獣は恐ろしい。いわんや怪物ならば猶のこと。

 

 白ひげが大長刀を掲げ、大音声を発した。

「俺と共に来る者は、命を捨ててついてこいっ!!」

 数千人の“息子”達が上げる気焔万丈の雄叫びに島が揺れ、

「行くぞぉ―――――――――――――ッ!!」

 貫かれた胸から血を流しながら、大海賊白ひげがついに自ら打って出る。

 

「世界最強の怪物が暴れ出すぞ! 総員、構えよっ!!」

 センゴクは電伝虫に吠え、命令を発する。

「包囲壁、起動っ!」

 この決戦で白ひげ海賊団を討ち果たす必殺の一手が――

 

 発動しない。

 

 分厚い装甲板製の防壁機構が湾を取り囲むように立ち上がるはずが、まったく姿を見せない。

「――どうしたっ!? 早く包囲壁を動かせッ!!」

 センゴクが怒気を立ち昇らせながら、装置の管制官達を一喝する。

 

「わ、分かりませんっ! 今、確認中ですっ! 制御室、動力室、応答せよっ!!」

 今にも卒倒しそうなほど顔を蒼くした管制官が、手元の電伝虫へ縋りつくように問い質す。が、こちらもこちらで反応が無い。

 永劫に感じる数十秒の沈黙の末、電伝虫が返答を寄こした。それも聞きたくない内容の返答を。

 

『こちら警備隊! 制御室と動力室が激しく破壊され、要員が死亡していますっ! 包囲壁は動かせませんっ!! いえ、包囲壁だけでなく、要塞砲の弾薬運搬エレベータなど、全ての機器が停止しましたっ!』

 あまりの凶報に、管制官達の顔色がさらに悪化し、脂汗塗れで死人のような土気色に変わった。

 

「何が起きているっ!?」

 予期せぬ事態に当惑するセンゴクへ、ガープが落ち着かせるように言った。

「通信に横やりを入れてきた“鼠”共の仕業じゃろう。これではっきりしたな。誰かが海軍と白ひげの共倒れを画策しておる」

 

 親友の指摘に冷静さを取り戻し、センゴクは即座に臨機応変の手を模索する。

 が、センゴクの思考を断つように、世界最強の大海賊“白ひげ”がその暴威を解き放つ。

 

      ○

 

 ――デタラメすぎるだろ。なんだよ、空間を掴んで島一つ丸ごと傾けるって。もう地震とか関係ねーじゃん。

 白ひげの圧倒的な強さに大喜びする冒涜的邪神の隣で、蛮姫がアンニュイ顔をドン引きさせていた。

 

 モニターに映る白ひげの姿は鬼神そのもの。

 大長刀一振りで人垣が吹き飛ぶ。

 誇張抜きに中隊単位で海兵達が吹き飛ばされ、陣形が削られていく。空間を掴んで捻れば、黄猿の光線も、青雉の氷塊も、赤犬のマグマの奔流もあっさりとひん曲げられ、海軍施設を穿ち、将兵を凍てつかせ、島を焼く。

 

 これが病魔に蝕まれ、致命傷を負った老人と誰が信じられようか。

 海軍最強戦力を手の上で転がし、精兵達を藁のように薙ぎ払い、銃砲弾の雨をものともしないその姿は、まさしく世界最強と呼ぶにふさわしい。

 

 ――この世界のジジババはヤバすぎる。

 ドン引きしているベアトリーゼを余所に、フランマリオン聖はにたにたと嗤う。

「燃え尽きる寸前の蠟燭のような体でよくやるえ」

 はたして、その嘲りは予言となる。モニターの中で白ひげが突如、苦悶の顔で膝をついた。

「あの苦しみ方は急性出血性ショックではない。元々循環器系に疾患を抱えていたようだえ」

 

 

 白ひげの進撃が唐突に止まったことで海賊達の足並みが乱れた。“不死鳥”マルコを始めとする白ひげ海賊団の猛者達も、海軍の迎撃に動きを止められる。

 

 この機を逃すことなく、センゴクが処刑人達へ命じた。これで奴らの士気を折る。

「刑を執行せよっ!」

 

 処刑人達が斬首刀を振り上げる。白ひげも海賊達も動けない。脱獄囚達も間に合わない。ガープは歯を食いしばって堪える。エースは運命を受け入れる。

 

 ルフィも届かない。インペルダウンから重ね続けた無理無茶無謀に身体はとっくに限界で、前進を阻む海兵達はいずれも強者揃いで打ち破れない。底無しの意志力があっても、実力が足らずエースの許へ辿り着けない。

 

 それでも、ルフィはエースが死ぬことを認めない。受け入れない。だから、叫ぶ。力いっぱい腹の底から魂魄の最深部から咆哮を発する。

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 その咆哮は暴威となって、マリンフォードを突き抜けた。

 海軍の精鋭達と海賊や脱獄囚の猛者達が、まるで獅子の雄叫びを眼前で浴びた小動物のように圧倒され、白目を剥き、泡を吹いてバタバタと倒れていく。

 

「――覇王色。それも、これほどの……っ!」

 海軍元帥センゴクが思わず歯噛みし、海軍三大将も冷汗を伝わせ、海兵達は戦慄させられた。王下七武海も海賊達も脱獄囚達も驚きを禁じ得ず、祖父は苦悩を隠さず、兄は呆気に取られ、白ひげは“悟る”。

 Dの名を持つ次世代の登場を。

 

 そして――

 ベアトリーゼは満足げに笑う。魔女のように。




Tips

頂上戦争。
 原作改変で、映像電伝虫の放送網をジャックされたり、包囲壁を動かせなくなったり、何者かの工作を受けている。

センゴクとガープとエース
 独自解釈と原作改変。センゴクとガープの描写は異論があるかもしれない。

離間の計
 本作では、センゴクが絵図を掻き、サカズキが実行したことになってる。
 『海賊絶対殺すマン』で有名なサカズキが働きかけたからこそ、偽計に真実味が出る。

”大渦蜘蛛”スクアード。
 原作キャラ
 サカズキに騙されて白ひげを刺した人。頂上戦争後もなんだかんだ生き延び、海賊稼業を続けているらしい。

ベアトリーゼ
 ルフィが覇王色の覇気を開花させて満足げ。
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