彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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今回は長め。ごめんよ。

みえるさん、トマス二世さん、サトーノ♢金剛石♢さん、かにしゅりんぷさん、佐藤東沙さん、烏瑠さん、青い蝉さん、誤字報告ありがとうございます。


232:鋼鉄のメイド

 マリンフォード頂上戦争が終結した直後、レッドポートで起きた大規模テロと天竜人殺し。

 天竜人が殺される様が全世界へ生放送されるという前代未聞の事態に、世界が凍りつく。

 

 大海賊白ひげの討伐に成功した歓喜は既にない。人々は恐怖する。絶対的権力の権化たる天竜人をかくも残虐に殺戮しえるなら、自分達にはどんな恐ろしいことをするのか、と。

 

 一方で、天竜人の無惨な死に様を目の当たりにし、暗い悦びを抱く者が無数にいた。天竜人の暴虐によって愛する者を奪われた者達が、人生を踏みにじられた者達が、血を流し続ける心にわずかな癒しを覚え、ほくそ笑む。

 

 聖地にそびえ立つパンゲア城では、五老星が足元で起きた大事件にこれ以上ないほど不機嫌面を浮かべていた。用意されたモニターを睨みつける目は、今にも人を殺しそうなほど険しい。

 

 映像電伝虫が映すケンタウロスの巨人。煤煙の中に屹立し、憤怒の面頬が火災に照らされる。恐ろしい雄叫びと異形の体躯が相俟って、もはや人々の目には魔神にしか見えない。

 

 半人半馬の甲冑巨人が周辺街区への被害を無視して巨大野太刀を振り回し、”黒腕”ゼファーが率いる海軍遊撃隊の精鋭達と激戦を繰り広げる。破壊されていく街並み。戦闘に巻き込まれて死傷する人々。

 

 港でも戦いが生じていた。不気味な覆面を被った黒衣の魚人や手長足長の集団が停泊中の船や港湾施設を焼き討ちし、水面に浮かぶ被害者達や港湾労働者、市民などを無差別に襲いながら、海軍警備部隊と戦っている。

 

「民衆の啓蒙を謳いながら、その民衆を戦いに巻き込み殺すのかっ!」

 モニターへセンゴクが罵倒を飛ばす。

 

『そのまま返そう。君達海軍がこれまでどれだけの市民を巻き添えに殺してきた? 正義と秩序を口実に、どれだけ“犯罪”を重ねてきたか、知らないとは言わせない』

 声の主は淡々と語り、静かに舌鋒を振るう。

『大義のためなら犠牲もやむなし。“正しい”君らのやり口を模倣しているのに、なぜ非難する?』

 

「――っ!」

 咄嗟に反論が出来ないセンゴクに代わり、ガープが吠える。

「ごちゃごちゃやかましいっ! 今貴様らがレッドポートで悪さをやっとる事実以外はどうでもええわっ! 後で必ずぶちのめしてやるから黙っとれっ!」

 

 その時、モニターが映す戦場に“白い鳥”が現れた。

 

     ○

 

 ――不味い。不味い不味い。不味いわ。

 自身の快速船からレッドポートの惨状と撃沈着底したお召し船を確認し、ステューシーは即座にサイファー・ポール:イージス・ゼロの衣装を着こんでいく。

 イージス・ゼロらしい白いドレスを身に着け、白いコートをマントのように肩掛けし、顔の上部を隠すドミノマスクを被る。

 

「船は沖で待機。事態が鎮まってから入港しなさい」

「かしこまりました。御武運を」

 “歓楽街の女王”として個人的に雇用している従者に見送られ、ステューシーは甲板から出撃。月歩で海上を飛翔し、お召し船へ一直線に向かう。

 白コートを肩に掛け、海面すれすれを飛翔する姿は白い鳥のように麗しい。

 

 ――間に合えば良いけれど。

 狐の意匠の仮面の下で、ステューシーは麗貌を焦燥に歪めた。

 

 ベアトリーゼの安危を案じて、ではない。あの娘はどんなクソ地獄に落とされても、地獄の鬼共を皆殺しにしてしれっと帰ってくるタイプだ。心配しても疲れるだけ。

 ステューシーが抱く危惧。それはベアトリーゼがこの事態に乗じて拘束から逃れ(逃げるに決まっている)、フランマリオン聖を殺すこと。

 

 これが非常に不味い。

 今、フランマリオン聖に死なれては困る。

 フランマリオン聖は確かに難のある人物だけれど、あの冒涜的邪神みたいな男がいるからこそ、ステューシーは他のイージス・ゼロ要員より無理が通るし、ベアトリーゼが見逃されているという面もあるのだ。

 

「……余計なことをしてっ!」

 ステューシーはテロリスト達へ恨み言をこぼし、速度を上げた。

 

      ○

 

 時計の針を少し戻す。

 豪華客船が撃沈された際、モッズ達は肥満体の主を護ることを優先したため、ベアトリーゼは甲板テラスから投げ出され、海に落ちた。

 

 海楼石の錠で手足を拘束され、首に爆弾首輪を付けられた状態の能力者が海へ落水すれば、そりゃもう港の海底まで一直線である。全身虚脱状態に陥り、藻掻くことさえできない。

 が、船体を大きく破壊された大型豪華客船が港に着底し、海中は流れが激しく攪拌された。完全脱力状態のベアトリーゼは強烈な水流に弄ばれ、上へ下へ右へ左へぐるんぐるんと掻き回された。ぺらぺらの検診着は剥ぎ取られ、拘束具とパンツ以外何もない。

 

 意識が飛びかけた寸前。宝くじの一等を引くような確率で豪華客船から流出した大きな樽に爆弾首輪が引っ掛かり、樽の浮力に引っ張られて水面に顔を出す。

 おげえええええええええええっと乙女にあるまじき嘔吐で肺と胃の海水を吐き出し、肩口まで海水に浸かった虚脱感と溺死にかけた反動でぶるぶると震える。

 

「し、死ぬかと思った……」

 荒れる水面に揺られながら、ベアトリーゼは首を巡らせて周囲を窺う。虚脱感のせいで見聞色の覇気を使えないため、把握できる範囲は限られるが、とにかく状況を把握したい。

 

 午後も巨壁の向こうへ姿を隠していく太陽。赤き巨壁の影に呑まれていく大港町は、恐慌の合唱と戦闘交響曲に満ちている。

 

 不気味(ガッポイ)な覆面を付けた黒衣の魚人と手長足長が撃沈着底した豪華客船と港施設を襲っていた。水面に浮かぶ水夫や乗客、港湾労働者を無差別に殺傷し、海軍警備部隊と交戦している。着底した客船内でも殺戮と戦闘が生じているらしい。

 ただし、戦闘の焦点は巨壁付近のようだ。断続的に爆発音や衝撃音が生じていて、破壊された街並みから粉塵がいくつも立ち昇っていく。

 

 ――あのガッポイ面……“抗う者達”か。ここで仕掛けてくんのかよ。

「そりゃたしかに~脱出の機会を窺ってたけども~こんなんは求めてねぇ~」

 虚脱感のままにぼやく様は緊張感の欠片もなく、大規模テロに遭遇した人間とは思えないけれど、満月色の双眸はこれ以上ないほど鋭い。

 

「さて……どうしたもんか」

 両手を後ろ手に拘束され、両足首を鎖でつながれている。しかも先ほど嘔吐した時、胃に隠していた金属片まで吐いちまった。

 クールでスマートな凄腕美人である私でも海水に浸かった状態で、ここまでがっちり拘束されていては手の打ちようが無い。しかもパンイチ全裸だし、ホントに勘弁してほしい。二つ名が血浴から痴女とか露出趣味とかになったらどうしてくれる。

 

 ともかく、まずは海から上がらないと。

「……どうやって?」

 ベアトリーゼがアンニュイ顔を困り果てたように歪めた、直後。

 

 魚人型モッズがベアトリーゼに気付き、サメ映画さながらに背びれを海面から突き出して突っ込んでくる。手には鋭い銛が握られていた。

 

「やっべ」

 アンニュイ顔で真剣みの足りない呟きをこぼしたところへ、視界の端に“白い鳥”が映る。

「指銃・怒首領撥(ドドンバチ)……っ!」

 

 漆黒の貫手による凶悪な猛弾幕が放たれ、爆雷が炸裂したかのように巨大な水柱をいくつも立ち昇らせた。破砕された魚人型モッズの肉片に混ざる大量の海水が降り注ぎ、映像電伝虫撮影者の目が塞がれる中、“白い鳥”がベアトリーゼを抱きかかえながら撃沈着底した豪華客船へ向かい、舷側を嵐脚で切り裂き、船内へ飛び込んだ。

 

 轟沈で大きく傾斜し、調度品と荷物が荒れた女性職員用船室。ベアトリーゼは些か雑に床へ降ろされる。

「まったく」

 優艶な美声がこぼれ、仮面の貴婦人が美しい碧眼をベアトリーゼにじろりと向けた。

「麦わらの一味に関わって以来、貴女はトラブルばかり起こすわね」

 

 イージス・ゼロの仮面装束姿のステューシーを見上げながら、ベアトリーゼはアンニュイ顔で応じる。

「刺激的な人生を送れて嬉しいよ」

 

 ベアトリーゼは調度品の金属片を拾って海楼石製の手錠をがちゃり。続けて足錠を外し、最後に武装色の覇気を使って爆弾首輪を乱暴に千切り取る。爆発はしなかった。

「ん~……すっきりさっぱり」

 数日振りに倦怠感と脱力感から解放され、ベアトリーゼは身体を伸ばす。オッパイ丸出しのパンツ一枚姿で。

 

「……服を着なさない、服を」

 ステューシーはバカ娘の痴態を前にした母親みたく、仮面越しに額を押さえて溜息を吐いた。

「好きでこんな格好になったわけじゃねえやい。フランマリオンのデブと表で暴れてるテロ屋共が悪いんだっ!」

 あの豚に薄っぺらい検診着を着せられて。バカでかいケンタウロス野郎がこの船を撃沈したせいだ。

 

 ベアトリーゼは室内のクローゼットや転がっていたトランクケースを開けてみる。どうやら女性給仕用へ割り当てられた部屋だったらしい。見つけた女物の服を引っ張り出す。

 濡れた体を手早く拭き、濡れそぼったパンツを捨てて、見つけた着衣を着こんでいく。

 

 ガーターベルトを巻いて、誰かさんの勝負下着を選んで身に着け白のタイツを穿く。飾り気のない膝下丈黒いワンピース、白のエプロンドレスとヘッドドレスを順に装着。エナメルパンプスを履いて、最後にリボンタイで仕上げ。

 

 ギャルソンヌルックの女性給仕服を着こみ終えたベアトリーゼへ、ステューシーは再度溜息をこぼした。

「なんでわざわざメイド服を選ぶの……?」

 

「メイド服って着たことが無かったから。つい」

 ベアトリーゼはまったく悪びれずにしれっと答え、

「で、どうしてここに?」

 満月色の瞳が無機質にステューシーを捉える。

 

 仮面衣装の貴婦人はベアトリーゼの問いかけに交じる猜疑と警戒の臭いを嗅ぎ取り、注意深く返答した。

「貴女が天竜人に捕まったと聞いて、取るものも取らずマリージョアへ急いだのよ。この騒ぎに遭遇したのは偶然。それから、貴女を助けられたのも偶然。運がよかったわ」

 

「そっか」ベアトリーゼは気のない返事をして部屋を漁り、ジンの酒瓶を発見。水分とカロリー補給に一気飲みする。半分ほど喉に流し込んで、じろり。

「てっきり天竜人を救うためにマリージョアから急行したのかと思ったよ」

 

 ステューシーは皮肉を拾わず「……これから、どうするつもり?」

「そりゃ逃げるさ。当初の予定ではここレッドポートに到着次第、脱走して潜伏するつもりだったんだ」

「潜伏?」ドミノマスクの下で片眉を上げるステューシー。

 

「そ。レッドポートにしばらく身を隠して、マリンフォードに集められた海軍部隊が原隊へ帰還する時に紛れて、マリージョア経由で新世界へ行く気だった」

「……え?」ステューシーは碧眼を瞬かせ「え?」

 少女のようにきょとんとするステューシーへ、ベアトリーゼがにんまりと微笑む。

「ナイスアイデアだろ?」

 

 どうやら本気だと分かり、ステューシーは再び額を押さえて溜息をこぼした。元から無茶な娘だったけれど、麦わらの一味に関わってから一層酷くなった気がする。

「そのプランが上手く行ったとして……新世界へ渡った後は?」

「ムスター社がテロに遭うだろうな」にたりと獰猛に口端を歪めるベアトリーゼ。

 ステューシーはもう溜息も出ない。やっぱり心配するだけ無駄だった。

 

 豪華客船の内からも外からも戦闘騒音が絶え間なく聞こえてくる。銃声と爆発音と轟音。内で生じ、外から届く衝撃に船体が震え続けている。

 

 色気に満ちた唇から細く息を吐き、ステューシーは踏み込んだ問いを放つ。

「……フランマリオン聖については?」

 

「ガラをかわすついでに殺す」

 ベアトリーゼは昼飯のメニューを決めるような軽さで応え、酒瓶の残りを一気に呷った。

 フランマリオン聖はここで殺す。今ならテロ屋共の仕業に出来る。まさしく好機で好都合だ。あの肥満体の脂肪を沸騰燃焼させて水風船みたいに弾けさせてやる。

 

「……それはダメ。やめて」

 ステューシーはベアトリーゼの金色の瞳を、射るように真っ直ぐ見つめる。

「今、彼に死なれてはいろいろと困るの」

 

「へえ?」満月色の瞳が細められた。肉を食らう獣が獲物を見定めるように。

 ベアトリーゼは酒瓶を投げ捨て、ずいっと鼻先が擦りそうなほどステューシーへ詰め寄る。自前のFカップとステューシーのメロンみたいな胸が押し合う。

 

「嫌だと言ったら? どうすんの? 力づくで止めてみる?」

 蛮姫の光彩が獣みたく絞られ、おどろおどろしい殺気と圧力を漂わせ始めた。しかし――

 

「必要なら」

 ステューシーはベアトリーゼの目を見つめ返しながら、すぱりと告げた。伊達でイージス・ゼロを務めていない。肩書だけで闇社会の女王をやっていない。海賊女帝やビッグ・マムほどでなくとも、ステューシーもまた女傑に名を連ねる者なのだ。殺気の暴圧などで芋を引いたりしない。

 

 満月色の双眸と碧玉色の双眸が睨み合うこと数秒。豪華客船の内外から届く魔女の鍋の音色が、酷く遠く感じられる。

 双方共に無言で意志をぶつけ合い、腹を探り合い、理性的損得勘定の算盤を弾き、感情的実効性の是非を問い――妥協点へ至る。

 

 ベアトリーゼは殺気を解き、身を離した。ふっと息を吐く。

「……しゃあない。あんたの顔を立てるよ。まぁ金獅子ン時に私を助けたから危ない橋渡ったみたいだし。代わりに約束してたサイボーグトビウオと潜水装備を寄こせ。そしたらマリージョア経由で新世界へ行く件も無しにする」

 

「……いいわ。取引成立ね」

 艶気たっぷりの唇から再び細く息を吐き、ステューシーはベアトリーゼを見つめ、提案する。

「ところで……“アルバイト”する気はないかしら?」

 つい数秒前まで殺し合いを始めそうなやり取りをした相手へ、何事も無かったようにビジネスを持ちかける歓楽街の女王。

 

「報酬次第では考えても良い」

 提案されたプロの荒事師はあっさり交渉を受け入れた。ベアトリーゼはアンニュイ顔に薄い笑みを湛える。

「ただし……前にも言ったけど、もしもマリージョアが焼き討ちされたなら、私はビールを飲みながら天竜人共が死ぬところを見物する。私の気が変わるだけの報酬を出せ」

 

 出せるもんならな、と嗤うベアトリーゼに、ステューシーは優雅な微笑を返す。

「そうね。ムスター社の情報と同社の本社がある島への永久指針はどうかしら?」

 

 ベアトリーゼの顔からスンと笑みが消える。

 取引は成立。

 歓楽街の女王は一枚上手だ。

 

      ○

 

 戦いの舞台はポンドラ乗降場から街区へ、それも居住区へ移っている。

 

 異形の巨人が野太刀を振るう度、街並みが裂かれ、砕かれ、崩れ、建物内に身を隠す市民が瓦礫に飲み込まれる。半人半馬の巨躯を躍らせる度、街路が踏み割られ、建物が蹴り砕かれ、逃げ惑う市民が踏み潰される。

 ケンタウロスの巨人は大衆の犠牲を一顧だにしない。荒れ狂う嵐のように人々の命を奪い、人々の家を破壊し、人々の生活基盤を蹂躙しながら、超暴力を振るい続ける。

 

 無辜の大衆が巻き込まれ命を失っていく様に、海賊討伐を最優先とする海軍遊撃隊の選抜隊員達も思わず二の足を踏む。

 異形のテロリストは選抜隊員達の狼狽や躊躇の隙を見逃さず、一人また一人と斬撃と戦技で仕留め、無力化していく。周囲の建物や民衆を巻き込みながら。

 

 ――意図的に戦場を居住区へ移したか。“黒腕”ゼファーは額に幾筋も血管を浮かび上がらせる。卑怯者め。

 

「これ以上の狼藉はさせんっ!!」

 モサモサの実の能力者ビンズが建物の屋上からツタ科植物を急成長させ、ケンタウロスの動きを捉えようとする。が、ケンタウロスは四脚に絡みつくツタの群れを容易く引き千切り、ニンジャコスプレ男へ巨大野太刀を振り下ろす。

 轟音。建物が段ボール箱のように両断され、倒壊する。

 

「ビンズッ!」

 女性海兵のアインが瓦礫と粉塵に消えた同期の名を叫ぶも、返事はない。

「おのれっ!」

 モドモドの実の能力者であるアインが、肉体逆行作用の光弾を放ち、ケンタウロスの巨人に命中する。しかし、巨人は若返る様子はない。

 

 海軍のレッドポート警備部隊が付帯損害を覚悟で火砲を放つ。も、ケンタウロスの全身を覆う甲冑に弾かれ、人々の住居を砕き、焼くだけだ。

 

「スマッシュバスターッ!!」

 爆煙に隠れてケンタウロスへ肉薄し、ゼファーが右義手をぶち込む。

 ゼファーの海楼石製義手の豪打が直撃して巨躯が大きくたたらを踏む。が、それだけだ。ダメージを与えたように見えず、ゼファー自身にも手応えが乏しかった。

 

 圧倒的な武装色の覇気と頑健な体躯と頑強な甲冑に、攻撃が徹らない。破格の防御力。ゼファーは長い軍人生活において数々の猛者と干戈を交えてきた。自身が敵わぬ相手と戦った経験は幾度もある。

 だが、この半人半馬の巨人は何かがおかしい。

 

「貴様……いや、“貴様ら”は何者だっ!? なぜ、なぜ無辜の人々まで恣意的に傷つけるっ!? 貴様らは大衆を反政府運動へ誘導したいのではないのかっ!?」

 瓦礫の山に屹立し、ゼファーが詰問する。

 

 ケンタウロスの巨人は巨大野太刀を高々と掲げて叫ぶ。獣の咆哮ではなく、怒れる戦士の声明を。

「この地に無辜の者などおらぬっ!! このレッドポートの住民は天竜人のために世界中から搔き集められた富に群がる浅ましき餓鬼畜生共……踏み潰したところで何ほどのことがあろうやっ!」

 

「な――」

 あまりにも強烈な侮蔑と敵意に、ゼファーは思わず息を呑む。

 

 ケンタウロスの巨人は半馬の四つ脚で強く踏ん張り、巨大野太刀を担ぐように構え、

「この世に満ちた怨嗟はもはや天竜人を絶滅させる程度では収まらぬっ! 天竜人の走狗たる貴様ら海軍も、天竜人に与する者共も、等しく撃滅するっ! 虐げられし者共の無念、思い知れィっ!」

 巨人族の勇者が放つ超戦技“覇国”を思わせる大斬撃が繰り出されようとしていた。

 

 歴戦の老雄たるゼファーは直感で悟る。この一撃は己を確殺し得ると。

 賊徒に対する怒りと恨みに魂を焼き尽くされた頃のゼファーなら、戦理に従ってこの圧倒的破壊力の必殺剣を回避し、後の先を取って反撃しただろう。

 

「やらせんっ!!」

 しかし、数年前に歌姫の少女を救ったことで、魂の激痛が和らいだゼファーは、もはや賊徒への復讐鬼にあらず。世の理不尽と不条理に対する怒りに呑まれていない。

 

 誇り高き海軍軍人“黒腕”ゼファーは、敵の打倒より力無き人々を護ることを選ぶ。

 一歩も引かぬ。一歩も退かぬ。一歩も下がらぬ。己が背後の全てを護るように、異形の巨人が振り下ろす大破壊の一撃へ真っ向から立ち向かう。

 魂魄から武装色の覇気を限界以上に絞りだし、ウン十年と練り続けてきた海軍体術“六式”の技と合わせ、闘気と信念で芯を通す。

 

「鉄塊・重ッ!」

 鉄を超え、鋼に優るその護りはタングステン合金の如く堅く硬く固く、厚く重く。ゼファーの体躯を一枚の盾、一つの砦、一つの巌に変える。

 

 凶刃と激突する時、ゼファーは亡き妻子も喪った教え子達の顔も振り返らなかった。ただただ己の背後にいる部下達と市民達を想う。

 ――今度こそ、絶対に、守り抜く。

 

 

 ――――――――――――――――――――ッ!!

 

 

 壮絶なる“超”暴力と壮烈な信念の激突。

 激甚なる音の暴虐と衝撃波が生じ、人々の悲鳴を掻き消す。先生っ! アインや海軍遊撃隊員達の悲愴な叫び声も、暴圧的音波に飲み込まれる。

 レッドポートを根まで揺さぶり、海を大きく波立たせた。然れども、赤き土の大地は微塵も震えず。天竜人の血に汚れた世界政府の十字紋には瑕疵一つ入らない。

 

 超強力なエネルギーの衝突は急激な熱気流を生み、大量の粉塵と煤煙を呑み込んで反応兵器の如きキノコ雲を生み出した。

 

 映像電伝虫の中継が戦塵に塞がれる。戦いを見守っていた世界中の海兵が固唾を飲んで映像の再開を待ち、世界中の人々が息を呑んで激突の結果を待つ。世界各地の海賊達もまた焦れるように戦塵が晴れる時を待つ。

 

 爆心地の上昇気流に引き寄せられて市街地へ潮風が注がれ、結果が明らかになる。

 倒壊した建物と大量の瓦礫が満たす街区。円形の更地と化した爆心地の中心。

 

 ゼファーが仁王立ちしたまま、気を失っていた。全身が血塗れでカラクリの馬手が無惨に砕けども、黒腕と讃えられし弓手が巨大野太刀をしかと受け止めており、広い背中の後ろに広がる街並みには毛ほどの被害もなく。

 

「認めぬっ! 我が怒りの刃が走狗に止められるなど、認めぬっ!!」

 ケンタウロスの巨人が残念と憤怒の絶叫を上げ、

「死ねェいっ!!!!!!!!!!!」

 動けぬゼファーを両断しようと刃こぼれした野太刀を振るい、アイン達の悲鳴がつんざいた刹那。

 

 無防備な横っ面へH形鋼の大きな柱が激突。異形の巨人がたたらを踏んだ。

「何奴っ!?」

 

「ドッカンドッカン好き放題やりやがってよぉ……あやうく溺死すっとこだったぞ、コノヤロー」

 廃墟と瓦礫の中をゆうゆうと歩いてくる人影。

 

「お前らのせいで私のスマートな脱走と逃亡のプランが台無しだよ……どうしてくれんの? なぁ?」

 赤き巨壁から伸びる大きな影と残照が作る天使の梯子の狭間に、長身のギャルソンヌルック・メイドが立つ。

 

 満月色の瞳を怒れる獣のように鋭く細め、艶やかな唇の端を歪め、告げた。

「ボッコボコにしてやんよ」

 

“血浴”のベアトリーゼ。

 なぜかメイド姿で、参戦。




Tips

ステューシー
 原作キャラ。イージス・ゼロのメンバーであり、闇社会の帝王の一人”歓楽街の女王”であり、世界初のクローン人間。
 拙作ではベアトリーゼと関わったことで、苦労している人。

 指銃・怒首領撥
 オリ技。極悪弾幕を繰り出す。

ビンズ
 劇場版キャラ。海軍遊撃隊。ニンジャコスプレのノッポ海兵。
 モサモサの実の能力者で、植物を操る。後に登場するロギア系モリモリの実の森林男と違い、彼はパラミシア系。

 CVは香川照之。劇場版らしく芸能人起用。

アイン
 劇場版キャラ。海軍遊撃隊。スカートスタイルの美女海兵。
 モドモドの実の能力者で、人間を若返らせる光線を放つ。双剣と二丁拳銃の使い手。

 CVは篠原涼子。劇場版らしく芸能人起用。

ケンタウロスの巨人
 オリキャラ。モデルは銃夢に登場する武装集団バージャックの頭目『電』。
 原作では、空中都市ザレムを落とすべく、バージャックの乱を起こした。武人にして革命家だった。
 本作では怒り狂った復讐鬼。
 民衆の犠牲をいとわない点では、原作と同じ。

ベアトリーゼ。
 いつもの着替えタイム。今回はギャルソンヌルックのメイド服。
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