彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

234 / 279
巻きのため、長め。ごめんなさい。

俊矢20000925さん、N2さん、佐藤東沙さん、烏瑠さん、誤字報告ありがとうございます。


234:Air

 マリンフォードの頂上戦争が海の戦士達の戦い、あるいは能力者や覇気使いなど超人達の決戦とするならば。

 レッドポート事変は改造人間兵器達の戦い、もしくは怪物達の闘争だった。

 

 半人半馬という異様な姿の巨人戦士。不気味なマスクを付けた黒衣の魚人型モッズや手長足長型モッズ。単眼ゴーグルと覆面を装着したフランマリオン製モッズ。王下七武海“暴君”バーソロミュー・くまの生き写しみたいなパシフィスタ。白い仮面衣装をまとうクローン・エージェント。

 そして、人造種族ヒューロンの裔たる“血浴”のベアトリーゼ。

 

 そんな怪物共が全力で殺し合う。

 瓦礫と骸に満ちた通りや辻で。燃え盛る建物の間で。倒壊した建築物の上で。破壊され尽くした港施設の残骸の中で。力無き市民が身を寄せ合う避難所の眼前で。

 

 飛び交う銃砲弾。炸裂する爆発物。熱光線と高熱圧プラズマが建物を吹き飛ばし、焼き払う。大斬撃が幾度も振り下ろされ、刀剣が突き立てられ、拳打足蹴を叩きつけられる。

 

 黒衣の改造人間兵器達と最新鋭クローン・サイボーグ達は無言で殺し合い――互いの完全破壊を試みる凄惨な死闘を繰り広げる。

 

 ある魚人型モッズは下半身を引き千切られながら、地面に這いつくばって射撃を続け。

 ある手長足長はハラワタを引きずりながら格闘戦を続け。

 あるフランマリオン製モッズは失った首を探してとぼとぼと徘徊し。

 あるパシフィスタは両腕を失っても口腔から熱光線を放ち続け。

 

 半人半馬の巨人は無数の銃砲弾を叩きつけられ、絶え間なく熱光線の集中射と高熱圧プラズマ爆撃を浴び、全身あますところなく損傷し、損壊しながらも、激烈に野太刀を振るい続ける。

 

 メイド姿の女妖は目に映る人モドキ共を片っ端からしばき倒し、高熱圧プラズマ塊による無差別爆撃を行い続け。

 

 破壊と混沌の坩堝の中、白衣装の女悪魔が黒衣の魚人や手長足長を狩って回る。

 

 まるで戦狂いの悪鬼達が宴をしているようだ。

 この戦場に、只人の出番などない。

 

 否。

「海軍はここに在りと世界に示すっ!! 我に続け、総員突撃っ!!!!」

 

 傷だらけの老雄が隻腕を掲げ、負傷兵だらけの遊撃隊と海軍警備部隊の戦列が鬨の声を上げ、怪物達の戦いへ殴り込んでいった。

 

 夕方の近づく港町は、怪物達と勇者達が入り乱れる流血の坩堝と化す。

 

 怒れるギャルソンヌルック・メイドが右から迫る手長足長へ周波崩拳(ヘルツェアファレン)を打ち込み、二肘ある右腕を砕き千切りながら胴を抉り飛ばし、その体躯をパシフィスタの放つ熱光線の盾に使う。

 

 焼かれ爆ぜる手長足長をゴミのように投げ棄て、プラズマジェット跳躍。パシフィスタへ肉薄し、迎撃の鉄拳を螺旋極(ハーエストラバント)で掻い潜ってパシフィスタの頭を掴んで高出力の振動を直接叩き込む。パシフィスタは分厚い頭蓋骨内の柔らかな脳を溶けたゼリーみたいにされ、顔面の全ての穴から鮮血を吹き出して倒れる。

 

 そこへ魚人型モッズとフランマリオン聖モッズ達が放つ銃弾の雨が襲い掛かり、飛び跳ねて空中に退避する。も、巨大野太刀のフルスイングがベアトリーゼを直撃した。建物を何棟も砕き貫きながら飛ばされていく蛮姫。

 

 蛮姫をかっ飛ばしたケンタウロスの巨人の横っ面を、“黒腕”ゼファーの左拳が思いっきり殴り飛ばす。

 

 巨人が近くの建物を崩壊させながら倒れ込み、ゼファーが追撃へ臨む。が、横合いから血塗れの魚人型モッズに組みつかれ、引きずり倒される。

 

 すかさず、アインやビンズを始めとする遊撃隊員達がゼファーを助けようとするも、不気味なマスクのモッズ達も集団で突撃してきて、敵味方入り交じっての混戦と化す。

 

 身を起こしたケンタウロスの巨人が混戦の場へ大斬撃を叩き込むべく巨大野太刀を振り上げたところへ、パシフィスタ達の放つ熱光線が幾筋も直撃し、妨げられる。

 

 もう滅茶苦茶だ。戦場は完全に魔女の鍋の底と化している。

 

 敵のモッズ狩りに奔走しているステューシーも、顔こそ狐の仮面で隠してはいるが、白コートを脱ぎ捨てて背中から蝙蝠のような翼を生やして広げ、唇の隙間から伸びた犬歯を覗かせている。白いミニドレスとタイツは煤と塵と灰でどす黒く汚れ、汗に濡れて体に貼りついていた。戦闘で裂けたタイツが妙に官能的だ。

 

 瓦礫の中から、手長足長が宇宙ゴキブリ(ゼノモーフ)みたく四つん這いで飛び掛かってくる。ステューシーは手長足長の長い腕を掴んで巻き込み投げ、廃墟の壁面に叩きつけてから、指銃の連射をぶち込んで息の根を止めた。

 

「いったい……どれだけ投入したのよ」

 ステューシーは息を切らしながら呟く。敵のモッズを相当数倒しているはずなのに、組織的戦闘を継続しており、減らした実感を抱けない。

 

 疲れの滲む碧眼を油断なく巡らせれば。

 そこかしこに、滅茶苦茶に破壊されたモッズ達の残骸や欠損した体躯の一部が散乱し、体内構造が露出するほど損壊されたパシフィスタが瓦礫の山に斃れている。怪物に倒された海兵達の死者があちこちに横たわり、負傷者達が瓦礫や石畳を血に濡らしながら死神の迎えを待っていた。

 

 この地獄に、コビーのような勇気ある愚か者はいない。

 文字通り命尽きるまで戦い続ける怪物達と、死ぬ覚悟を固めた兵士達だけ。市民は怯え震え、戦いの終わりを待つことしかできない。

 戦いをやめようと叫ぶ者など、どこにもいない。

 どちらかの意志が相手を駆逐し得るまで、この戦いは終わらない。

 

「あの大きいのを倒さないとダメね……」

 敵の中核戦力たるケンタウロスの巨人を倒さなければ、勝利を得られない。

 

 問題はどう倒すか。甲冑も体も酷く損壊しながらも、異形の巨人は“黒腕”ゼファーや海軍遊撃隊、パシフィスタを向こうに回して熾烈に戦い続けている。

 決定打が必要だ。あの超暴力の権化を抹殺し得る、より凶悪な暴力が。

 

 白衣装の貴婦人は翼を広げ、灰と火の粉が舞う空へ飛翔して、向かう。

 ステューシーの切り札(ワイルドカード)

 血浴のベアトリーゼの許へ。

 

      ○

 

「クソがよ……次から次へと邪魔しくさりやがって……っ!」

 倒壊した煉瓦造りの建築物が爆散し、中からギャルソンヌルック・メイドが現れた。ステューシー同様に衣装がどろんどろんに汚れ切っている。白かったヘッドドレスもエプロンドレスもタイツも血と煤でどす黒い。

 

 ベアトリーゼはアンニュイな美貌をこれ以上ないほど禍々しく歪め、満月色の瞳を獰猛にぎらつかせていた。

 

 駄馬野郎を撲殺しようとすれば、有象無象のヒトモドキ共に邪魔され。じゃあ、そいつらを先にぶち殺そうとすれば、駄馬野郎や海軍に邪魔され。

 

 もういっそ、超々高熱プラズマ塊を生成して、この街ごと全てを蒸発させちまおうか。駄馬野郎もヒトモドキ共も邪魔臭い海軍もムカつく天竜人もメソメソ泣いて鬱陶しい市民も、まとめて綺麗さっぱり吹き飛ばしたら、きっとすっきりさっぱりする。

 

 しかし、ステューシーの“アルバイト”があるから、そこまでは出来ない。さんざん無差別爆撃をしておいて? 苦情申し立ては文書でお願いします。目を通すとは約束しませんが。

 

「あったまくるな、ほんっとに! マジでムカつく!」

 ベアトリーゼは瓦礫に転がるフランマリオン聖モッズの死体から、海楼石製手甲を付けた手首を乱暴に千切り取った。続けて、散乱する瓦礫から鉄筋を取り出して熱プラズマで溶かす。融解させた鉄で手首を包み込めば、肉と骨が一瞬で蒸発し、手甲の金属部分が溶けて鉄と混ざり合う。

 

 武装色の覇気で染めた手で、海楼石を芯に溶けた鉄をこねて楕円形へ整え、大気中の水分を無理やり集めて冷却硬化。もうもうと水蒸気が生じる。

 

 出来立てホヤホヤな海楼石弾芯の鉄製弾体を左手に持ち、ベアトリーゼは膝立ちする。真っ直ぐ伸ばした左腕へ右手を添えて構えた。

 

 近接戦は邪魔が多すぎて上手くいかない。なら、遠間から砲撃してぶち殺す。

 

 悪魔の実の力で振動を巡らせて電磁気を操り、漆黒に染まった左腕を軸に螺旋運動を作り始めた。漏れた静電気が辺りを走り、バチバチと戦塵や降灰が焼け爆ぜる。

 渦巻く電磁気により、左手に持った鉄製弾体が宙に浮かびだした。

 

 ベアトリーゼの殺気を嗅ぎ取ったらしい不気味面(ガッポイ)なモッズ達が、殺到してくる。五体満足な者は一人もいない。その様はまさしく怪物の群れだ。

 

 迫りくる人造怪物の群れ。しかし、ベアトリーゼは繊細な磁気制御を進め、“砲撃”姿勢を解かない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「指銃・緋撥っ!」

 蝙蝠の翼を広げた白衣装の貴婦人が急降下しながら、凶悪なレベルの弾幕“射撃”を放ち、魚人型や手長足長型のモッズ達を撃ち砕く。ベアトリーゼの傍らに降り立ち、ステューシーは狐のドミノマスク越しに碧眼を向けた。

「それであのお馬さんを仕留められる?」

 

「これでダメなら」ベアトリーゼは左腕を超電磁砲の砲身代わりに磁気を操りながら「超々高熱プラズマ塊でこの街ごと蒸発させる」

 

「や め て」

 ステューシーは小さく頭を振り、気を取り直す。

「援護するわ。必要なものは?」

 

 ベアトリーゼは砲撃の準備を進めながら数瞬思案し、答えた。

「必中できる状況へ獲物を誘導したい」

 

 ステューシーは狐のドミノマスクの奥で碧眼を細め、犬歯が覗く口元を妖しく緩める。

「丁度良い餌がいるわ」

 女悪魔のような微笑だった。

 

      ○

 

 天竜人ロズワード一家は生きていた。しかも、まったくの無事だった。

 まあ、当主のロズワード聖はウソップのヒップアタックのせいで首にギプスを巻いたままで。

 ルフィに危うく殴殺されかけた倅のチャルロス聖は奴隷達に担架で運ばれているけれど。

 

 一家は撃沈された客船から脱出し、市街を逃げ回る間に御付きや奴隷達の多くが戦禍に呑まれて死亡していた。が、一家だけはかすり傷一つ負っていない。

 さらに言えば、斥候として送り込まれたフランマリオン製モッズと合流に成功し、警護を受けている。凄まじい悪運というか豪運というか、いやはや。

 

「今回の行幸はさんざんだえ……っ!」

「本当だえ~酷い目に遭ってばかりだえ~」

「責任者を処刑するアマスっ!」

 

 戦禍を避けて路地裏を進む一行。天竜人一家はぶつくさと文句を垂れ続けてはいるが、その声は不安と恐れに上ずり、足取りは怯えて鈍い。

 

 一家を護る単眼ゴーグルのモッズが不意に足を止めた。頭蓋内に収められた念波器官を通して“命令”を受け取っている。

 それは、戦闘中のパシフィスタ達も同様だった。指令権を持つイージス・ゼロのエージェントから“命令”を受け取る。

 

「何を立ち止まっているえ!」

 そんなことが分からぬロズワード聖が杖でモッズの背中をばしばしと叩けば。モッズが無機質に告げる。

「ポンドラへ向かうルートを変更します」

 

「「「え」」」

 戸惑う一家とその他を無視し、モッズは歩き出して小路の角を曲がる。この状況で唯一の戦力を手放すわけにもいかず、一行は怪訝にしつつも、モッズに続く。

 

 見聞色の覇気も電伝虫も持たぬ彼らに、戦況も街の状況も正確には分からない。

 そも、町の地理すらロズワード一家には分からない。行幸の際に使う道は中央大通りだけで、街並みにも意識を注いだことはないから、自分達がどのあたりを歩いているのかさえ分からない。

 しかも、街は大巨壁の影と煤煙と戦塵で覆われて夜のように暗いし、街並みは戦禍で荒廃して姿を変えている。シャルリア宮の目にはレッドポートが未知の土地のように見えた。

 

 建物の瓦礫や残骸、めくれた石畳や爆発孔を避けて小路を進み、時折届く助けを求める声や苦悶の呻きを無視し、横たわる死者をまたぐ。

 

 そして、一行は辿り着く。

 中央大通りに。

 

 戦闘痕跡と瓦礫と死者で彩られ、ポンドラ乗降場まで血の跡(ブラッドトレイル)が一直線に伸びている。

 

「こ、ここは……お前どういうつもり――」

 顔を強張らせたロズワードがモッズを問い詰めようとするも、モッズは煙のように姿を消していた。

 

 その時、異形の巨人がゼファーと遊撃隊の攻勢を受け、居住区からポンドラ乗降場の正面まで押し出されてきた。

 ケンタウロスの巨人が血塗れの凶相をぐろりと巡らせ、一行を見留める。瞬間、憤怒の面頬の奥から憎悪と怨恨が噴出する。

 

 ひゅっと息を呑んだのはロズワード聖だったか。ひ、と口から恐怖を溢れさせたのはシャルリア宮だろうか。

 

 ケンタウロスの巨人は激戦と死闘で激甚なダメージを被っていた。

 ベアトリーゼに半人の上半身と半馬の下半身の体幹に重傷を負わされており、パシフィスタの熱光線を浴び続けたため重甲冑は大部分が破壊され、体躯が焼け爛れている。ゼファーの鉄拳で肉がひしゃげ、折られた一部の骨が臓器を傷つけ、皮膚を突き破っていた。

 

 肉体の損壊は限界を超えている。もう長くはもたない。マリージョアを強襲できない。その現実と、通りの先に憎き天竜人達がいる事実。

 半人半馬の巨人は即断即決した。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 復讐心に焼け焦げた戦叫を上げた。命の残り火を激しく燃やし、天竜人一家へ向かって駆ける。

 

 絶対恐怖の暴圧に、まず奴隷達がチャルロス聖の担架を投げ捨てて逃げた。奴隷の恐慌は御付き達にも感染し、ロズワード一家を置き去りにして逃げる。

 

「お、お前達っ!! 戻れっ! 戻って来いえっ!!」

 ロズワード聖が叫ぶも、奴隷も御付き達も振り返りもせず、一目散に姿を消した。

 

「お、お父上様ぁっ!」

 シャルリア宮は恐怖に屈して泣きだし、父親に縋りついた。父娘の足元でチャルロス聖が『誰かワチキを助けるえ助けるえ~』と喚くが、父と妹すら一顧だにしないのだ。救いの手など来るはずもなく。

 

 巨人が恨みを雪ぐべく、怨敵へ向かって中央大通りを疾駆する。復讐の刃を握りしめ、一心不乱に激走する。

 

 パシフィスタ達の熱光線が半人半馬の復讐者へ降り注ぐ。幾条もの光筋が闇を切裂き、巨人の体躯を焼き、爆ぜさせ、削ぐ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 巨人の絶叫と天竜人一家の悲鳴が重なる。パシフィスタ達が光学兵器を熱損させる勢いで熱光線を浴びせ続ける。通りへ駆けつけてきた一部のモッズと海兵達が、鉄と炸薬を巨人へ叩きつける。

 

 残り400メートル。

 巨人から装甲が剥げ落ち、頑健な皮膚が焼け落ち、筋肉が削り落ちる。どす黒い血が通りに新たな筋を描いていく。馬体部分から臓器がこぼれ落ちていく。

 

 残り300メートル。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 吐血しながら憤怒と憎悪の絶叫を続け、巨人は駆け抜けていく。血肉をまき散らしながら、命を燃やしながら、前へ。前へ。前へ。

 

 シャルリア宮が恐怖で失神した。チャルロス聖も失神失禁する。ロズワード聖は娘を庇うように抱きかかえる。

 

 残り200メートル。

 巨人が睨み据える天竜人一家の斜め後方。倒壊した煉瓦造りの廃墟。

 何かが光った。

 

      ○

 

 煉瓦造りの廃墟の上、ベアトリーゼは武装色の覇気で包んだ左腕を超電磁砲の砲身代わりにし、膝射姿勢で構えていた。異能で操られた電磁気が左肩口から左手の一メートル先まで螺旋状に渦巻き続ける。

 降灰や塵が電磁気に焼かれ、蛍のように舞う。静電気が煌めき、バチバチと鳴き続けている。

 

 傍らに立つ白衣装の貴婦人が告げた。

「来たわ。砲撃用意」

「目標、捕捉。弾道計算開始。砲撃の合図は任せる」

 ベアトリーゼは一個の砲台と化し、満月色の瞳が激走する半人半馬の巨人を捉えて動かない。脳ミソが病的速度で弾道計算を進め、その度に体が自動的に微調整を行う。

 

 パシフィスタの光線と将兵の銃砲を浴びながらも、巨大なケンタウロスは天竜人一家を抹殺せんと駆け続ける。

 

 あと400メートル。

 

 あと300メートル。

 

 あと200メートル。

 

 ステューシーが粛々と告げる。

「撃て」

 

 ベアトリーゼが撃つ。

 磁場が首輪を解いた瞬間、鉄製弾体は螺旋状に渦巻く電磁気の砲身からかっ飛んだ。時計の秒針が0から前に進むより早く大気の壁を紙のように貫き、極超音速に到達。大気摩擦で赤熱色に染まりながら一直線に駆け、ケンタウロスの巨人が発光を認識するより先に、巨躯へ着弾。

 

 弾体は巨人の甲冑を貫徹し、蒸散爆発。弾芯の海楼石が莫大な運動エネルギーでケンタウロスの半人の上半身と半馬の下半身の継ぎ目を貫通し、そのまま赤き大巨壁まで飛翔し、壁面に描かれた世界政府の十字紋の真ん中に着弾。カマエル聖の血と肉片を蒸発させ、塗膜を剥がすように爆ぜるも、壁面に傷一つ付けられなかった。

 

 巨人の体躯を破壊現象が襲ったのは、海楼石の弾芯が巨壁に着弾した後だ。鉄製弾体と重甲冑の蒸散爆発が左腕を肩口から吹き飛ばし、左胸から脇腹までごっそりと抉る。弾芯が貫通した体内で擦過熱により融解沸騰した血液や脂肪が外部の蒸散爆発と連鎖して炸裂、内臓と背骨を砕き潰し、筋肉と皮膚を焼き千切る。

 

 上下二つに千切れ弾けた巨人は路面に叩きつけられ、慣性の法則に従い、通りの石畳を抉りながら転がっていく。

 

 天竜人一家まで残り100メートル。

 巨人は止まった。

 

 直後、通りに衝撃波が駆け抜け、落雷染みた轟音が走った。衝撃波に薙ぎ倒されたロズワード聖は子供達と同じく失神する。

 

「命中」

 天竜人一家の後方、廃墟の上でステューシーが満足げに呟いた。

 

 高圧の電磁気に焼かれた灰や塵が蛍のように漂い、磁気の残滓がバチバチと爆ぜる。ベアトリーゼは膝射姿勢を解いてゆっくりと立ち上がる。ピストルのカタチにした左手の人差し指の先へ、フッと蠱惑的に息を吹きかけた。

 そして、アンニュイ顔で微笑む。

「上出来」

 

       ○

 

 大通りに横たわる巨人の上半身が、巨大野太刀を握る右腕一本で這い進み始めた。凄まじいまでの殺意と執念。だが。

 

 ゼファーが立ち塞がる。海軍遊撃隊と海軍警備隊が立ち塞がる。パシフィスタ達が、モッズ達が立ち塞がる。

 仮面の貴婦人が立ち塞がる。メイド姿の蛮姫が立ち塞がる。

 

 下半身を失った巨人は観念した。血塗れの口元を忌々しげに歪め、野太刀を手放す。

「映像電伝虫を通じて見ている、赤き土の頂で驕れる者共よ……聞けぃっ!!」

 

 血反吐を大通りへぶちまけながら、

「我が言葉は800年に渡って貴様らに虐げられし者達の怒りっ! 貴様らに踏み潰され、踏み躙られてきた、無数の罪なき亡者の恨みの声と知れィッ!!」

 巨人は最後の力を絞りだし、激情をぶちまける。

「この世界を満たす憎悪と悲哀は、全て貴様らの所業がためっ! 忘れるなっ!! この世界を奪った報いが来る日までっ!!」

 

 ゼファーは隻腕の拳を握り固め、巨人へ怒号を浴びせた。

「――ふざけるなっ!! その怒りと恨みを晴らすためなら、無辜の民を殺しても良いとでもいうのか……っ! 罪なき人々の犠牲に怒りながら、この街の人々を戮殺したのかっ!! そんな正義があるものかっ!!」

 

 糾弾。そう評すべき怒号に対し、巨人は何一つ恥じることなく吠え返す。

「言ったはずだっ! 貴様らも、この街の人間も天竜人に与する咎人だとっ! 己が罪に無自覚であることは何ら免罪にならぬわっ! 赤き土の地の頂に巣くう偽神を討ち、奴らに与する者も全て滅するっ! 血塗られた聖戦の先に真の世界が生まれ、新たな時代が始まるのだっ!」

 

 あまりにも狂猛な言葉、それ以上に壮絶なまでの憎悪と怨恨に、ゼファーは憐れみさえ覚えた。

 

「我が身を砕こうとも……我が意思は砕けずっ! 我らの抵抗は終わらぬっ!! 精々かりそめの勝利を味わうが良いっ!!」

 巨人は世界を焼き尽くさんばかりの怨嗟を高々と唱え、息絶えた。

 

 直後、巨人の胸元から幾枚ものメモ紙が溢れ落ち、戦風に舞い飛びながら次々と焼尽していく。

「ビブルカード? いや、これは……」

 手に取ったメモ用紙には無数の書き込みがあり、ゼファーが記述を読み取る前に焼き消えてしまった。

 メモ用紙に既視感がある。が、負傷のせいか、疲労のせいか、記憶がはっきりしない。

 

 巨人の死を引き金に、急速に戦闘騒音が絶え始めた。さながら潮が引くように、魚人型モッズや手長足長型モッズが海へ撤退していく。

 

 終わった。

 

 しかし、ゼファーや海兵の胸中に勝利の達成感や充実感は無く、勝鬨があがらない。生き延びた市民の歓声も安堵の声も無い。途方もない惨劇の惨憺たる結末と虚無感にも似た感情を、悄然と受け入れるだけ。

 

「明日は良い天気になりそ」

 ベアトリーゼの場違いな言葉に釣られ、全員が空を見上げた。

 

 粉雪のように降る灰と火の粉が舞う先。街を覆う煤煙と戦塵の闇に一条の裂け目が走り、空が広がっていた。

 泣きたくなるくらい美しい夕の空が、確かにあった。




Tips
ステューシー
 原作キャラ。能力の詳細がいまだ不明なため、描写もあいまいにせざるを得ず。

 指銃・緋撥。
 元ネタはSTG『怒首領蜂大往生』の隠しボス緋蜂。

海楼石弾芯の鉄製砲弾。超電磁砲
 フレーバー描写多数。プルプルの実の振動で電磁気を操り、レールガンっぽいことをした、と思ってほしい。
 大らかな心で受け入れて頂けますまいか。

ロズワード聖一家。
 原作キャラ。異物(ベアトリーゼ)の混入で散々な目に遭っている一家。

ケンタウロスの巨人の正体。
 後日談で触れます。

ベアトリーゼ。
 オリ主。
 ジキジキの実の磁石人間のお株を奪う超電磁砲攻撃。反則であろう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。