彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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ちょい長めやで。すまんな。

佐藤東沙さん、烏瑠さん、誤字報告ありがとうございます。


242:行きますか、新世界に!

 頂上戦争から約二十日。

 いまだ戦いの傷痕が目立つマリンフォードに、3人の海賊が現れた。

 

 3人の海賊は警備の海兵達を瞬く間に蹴散らし、フリゲートを奪うとマリンフォードを悠々と一周。いわゆる『水葬の礼』を行う。

 

 島を一周し終えると、3人の海賊は軍船を湾内へ進めてオシリス広場西端に上陸した。

 事ここに至り、海兵達はもちろん取材に訪れていた多くの記者達も海賊達の正体に気付く。

 

 お相撲さんみたいな魚人の巨漢は王下七武海を強引に脱退し、海軍が『裏切者』と呼ぶ“海侠”ジンベエ。

 

 勇壮な老人はなんと海賊王の右腕だった大海賊。“冥王”シルバーズ・レイリー。

 

 そして、歳若い少年は“麦わらの一味船長モンキー・D・ルフィ。通称”麦わら“のルフィ。

 グランドライン入りして三月足らずで、王下七武海のクロコダイルとゲッコー・モリアを破り、アラバスタ動乱を鎮め、エニエスロビー島を壊滅させ、シャボンディ諸島で天竜人を殴り、インペルダウンから大勢の凶悪犯を脱獄させ、ついには頂上戦争へ乗り込んだ、という反政府テロリストの権化みたいな海賊小僧である。

 

 そんな凶悪海賊の”麦わら”のルフィは単身で艦鐘オックス・ベルの元へ歩み寄る。

 ジンベエとレイリーの威圧感に圧倒され、遠巻きに包囲する海兵達や恐る恐る様子を見守る記者達にその他。

 ルフィは己を注視する周囲を無視し、海軍が神聖視する鐘を鳴らし始めた。

 1回。2回。3回。4回……マリンフォードに澄んだ鐘の音が響き続けること16回。

 

 当惑する周囲を余所に、ルフィは鐘から離れて白ひげが遺した広場の亀裂の際へ足を運ぶ。ポケットから取り出した小さな花束を亀裂へ投げ入れ、麦わら帽子を胸に当てて堂々たる黙祷を捧げた。

 

 この劇的な光景に記者達は大喜びし、ここぞとばかりに黙祷するルフィをカメラに収める。

 

“弔問”を終えるや、ルフィはジンベエとレイリーを伴って鮮やかにマリンフォードから姿を消した。

 呆気にとられる海兵達とその他と違い、記者達は即座に本社へ連絡を届ける。

 

『麦わらのルフィ、マリンフォードに現る!』

 ルフィの写真を掲載した新聞が翌日には世界中へ出回り、多くの人々の手に渡った。

 各地に離散した麦わらの一味の面々の元にも。

 

      ○

 

 青いトビウオが夜な夜なシャボンディ諸島の各グローブ間の水路をかっ飛ばしている。

 

 小柄な鯨ほどある体躯はマッシブでスパルタンで、美しいヤマハブルーを基調に鮮やかなピュアホワイトのラインが走っている。頭部形状はダツ目らしくソリッドになっており、見ためからもスピード感が伝わってくる。

 

 この奇怪な怪魚のカタログスペック的なことはこの際、脇に置いておこう。大事なことは別にある。

「エッグヘッドめ。とんでもないもん寄こしやがって……」

 

 狂気染みた出力と暴力的な推力。安定性や操縦性を犠牲にとことん突き詰めた機動性と運動性は虐待的ですらあり、海面を旋回するだけでも乗り手を振り落としにかかる。離水飛翔時は言わずもがな。ピーキーでリスクフルなセッティングは乗り手を殺す気なのかと問い詰めたくなる。

 

『完璧』を求めるベガパンクの仕事ではあるまい。こいつを設計し、製作した奴は乗り手のことなど鼻糞ほども考慮せず、自分の欲求と欲望のままに『作りたいもんを作る』という良く言えば、芸術家。悪く言えば、キチガイだ。

 

 だが、こいつを創った奴は分かってる。

 凶悪なまでの出力と殺人的な推力は猛烈なスリルを味わわせてくれる。安定性と操縦性を生贄にした機動性と運動性は鮮烈な昂奮を与えてくれる。過激で危険なセッティングはマシンを使いこなすことへ、強烈な快楽をもたらしてくれる。

 

 これはイカレた天才が作り上げた麻薬的芸術作品だ。

「さいっこう……♡」

 フルサイボーグ怪魚を駆るベアトリーゼは、ヘルメットの中で蕩けるような笑みを湛えた。

 

 ヤマハブルーを基調に太もも半ばから爪先まで黄色い新型の潜水服も、新技術がこれでもかと注ぎ込まれていた。

 前回同様に体の線を隠そうともしないタイトでフィットな形状の複層構造。インナーは吸湿速乾・保温のドライレイヤーで、アウターは高密度繊維で完全気密を実現しつつ、インナーが吸った水分をスーツ外に発散放出する。また耐久性も高く素材開発者曰く『そうそう破けない』とハンコを押す代物。

 

 背中と脇にある鰓肺式エアシステムは、海中の溶解酸素を取り込んで魚人のように海中でも呼吸できる。これは前の物と同じ。しかし、今回は魚人島越えを前提にしているため、深度に合わせて溶解酸素を潜水服内に供給し、水圧に対抗可能する機能を持つ。

 多機能式のヘルメットは多眼式から昆虫みたいな複眼式に変更。インナーのマウントディスプレイの視界に死角がほぼ存在しない。

 

 世界観が違い過ぎる格好で、世界観と異なり過ぎるトビウオを駆り、ベアトリーゼは絶頂染みた歓声を上げる。

「んんんんんんん、きもちぃいいいいい―――っ!!」

 

 慣らしと練習などと称し、夜のシャボンディ諸島内をかっ飛ばし続ける様は、首都高や環状線を延々と迷惑走行し続けるローリング族(パープリン)と大差なかった。

 

 そうして空が白みかけ、ベアトリーゼは暴走行為を終える。

 営業時間前の閑散としたシャボンディパークが窺える沿岸にフルサイボーグ・トビウオライダーを駐機し、ベアトリーゼは複眼式ヘルメットを脱ぐ。インナーキャップを外し、汗で湿った夜色のショートヘアを掻きまわす。元から癖の強い髪が鳥の巣みたくモジャモジャになるも、気にしない。

 高気密性の潜水服内は中々に暑い。首元からヘソ近くまでジッパーを下げ、潮風を取り込む。

 

 完全機械化された怪魚の背で波に揺られつつ、ベアトリーゼは後ろ腰に下げた雑嚢からスキットルを取り出し、キュッと呷った。

 穏やかな潮騒以外は聞こえぬマジックアワー。涼風が火照った体に心地いい。超巨大マングローブから放出される無数の泡が払暁の陽光を浴び、きらきらと煌めく。

 

 しばし幻想的な光景を肴にスキットルを幾度か傾けた後、ベアトリーゼは思考を美しい自然から汚れた世俗へ移す。

 脳裏に浮かべるものは新聞の一面に掲載された黙祷するルフィの写真。その右腕に掛かれた『3D2Y』の四文字。

 

 2年の猶予は確定した。心置きなく自分の小さな物語を進められる。

「とはいえ、一応は伝えておくか。報連相はしっかりって言われたし」

 ベアトリーゼは動きを止めている巨大観覧車を見上げ、にやり。

 

      ○

 

 16点鐘を奏でた翌日。

 巨大海蛇に牽引されて海を行く典雅な朱色の海賊船は、海賊女帝の駆る九蛇海賊団のもの。

 甲板で美女達に体のあちこちを引っ張られながら、ルフィは同道したレイリーへ不安げに問う。

「ちゃんと伝わるかな? あいつらに……」

 

 ルフィはレイリーに説得され、一味の即時再集結を断念し、新世界へ挑むべく2年間の準備期間を設けることにした。その意図を離散した仲間達へ伝えるべく『らしくない行動』を取り、報道を利用することにしたのだ。

 

 美女達に体や髭を引っ張られながら、レイリーは頷く。

「記事を見れば伝わるはずだ。まあ、なんとかなるだろう」

 

 レイリーの言葉は正しかった。

 麦わらの一味の面々は新聞に掲載されたルフィの写真から、その意図を正しく読み取り、『二年間の準備期間』を活かすべく早くも鍛錬や修行に取り掛かっていた。

 野暮なことを言えば、緑頭の剣士だけなかなか読み解けなかったが……

 

「ニュース・クーだ」

 船員のリンドウが空を見上げ、ベリーコインを投げた。ニュース・クーは器用にコインを集金鞄に収め、代わりに新聞を一部海賊船へ投下した。

 受け取った新聞を開き、リンドウは微苦笑してルフィの許へ向かう。

「ルフィ。あんた宛だよ」

 

「俺宛て?」

 目を瞬かせながら新聞を受け取り、紙面へ目を落とせば。

 何者かがシャボンディ諸島の大遊園地シャボンディパークへ侵入し、大観覧車へ勝手に垂れ幕をぶら下げたという記事と写真が掲載されていた。

 

 写真に撮られた垂れ幕には、麦わら髑髏にキスマークが重ねられ、『See You in the New World♡』

 

 ルフィは思わず苦笑いした。

「ひっでーな。リーゼの奴、俺達を待つ気無しだ」

「良いのか?」

 ジンベエが問えば。ルフィは苦笑いを大きくする。

「ああ。リーゼのことだから、初めて会った時みたくしれっと現れるさ。すげー騒ぎと一緒によ」

 

 破格のトラブルメーカーであるルフィが上機嫌で語る様に、ジンベエはなんとなーく不安なものを覚えたが、口にはしなかった。

 なお、ハンコックはルフィがベアトリーゼのことを楽しげに語る様を目撃し、あの蛮族女許せぬ、と敵意を新たにしていたりする。

 

 ルフィはぎゅっと拳を握り込み、晴れ渡る空を見上げた。

「皆、2年後だぞ!」

 

      ○

 

 ベアトリーゼのメッセージを受け取った麦わらの一味。

 

 ルフィはベアトリーゼの“真意”に気付かなかった。

 ゾロは『あの女らしいな』と鼻息をついただけ。

 チョッパーは『抜け駆けなんて酷いぞ、ベアトリーゼ!』とぷりぷり怒る。

 ベアトリーゼの過去話を直接聞いていないウソップとフランキーは『気ままな女だなぁ』、まだ関わりの浅かったブルックは『自由な人ですねえ』と思った。

 

 サンジは気づく。仲間達にも複雑な出自を隠していた彼は、ベアトリーゼの意図が分かった。

「小さな物語とやらに挑む気か……水臭いぜ、ベアトリーゼさん」

 ダンディに呟く彼の周りはオカマだらけだった。

 

 蛮姫の親友たるロビンは正確にその意図を見抜いた。

「ビーゼ……1人で片を付ける気なのね」

 ロビンは今、東の海にある橋の上の国テキーラウルフに居て、強制労働キャンプを解放した革命軍に保護されており、すぐには後を追えない。それにルフィの『約束』もある。

 親友を案じ、ロビンは水平線の先へ憂いに満ちた碧眼を向ける。

「無茶して魚の餌にならなければ良いけど……」

 

 そして、人工空島ウェザリアに居るナミは――

「あいつは本当にもう……っ! あれだけ言ったのに何も分かってないっ!!」

 新聞を手に激しく憤慨していた。

「エニエスロビーの時に口を酸っぱくするほど説いたのに! 頭が良いくせに本当にバカなんだからっ!」

 

「頭が良いのにバカとは?」「トンチか?」「矛盾の命題では?」

 背後でウェザリアの気象学者達が小首を傾げている中、ナミは拳を固く握りしめて誓う。

「再会したら覚悟しなさい、ベアトリーゼッ! 仲間ってことを骨の髄まで叩き込んでやるんだから!!」

 

 とまあ、麦わらの一味はベアトリーゼのメッセージをこんな具合に受け止めていた。

 

 さて。この頃、超新星ルーキー達――後に最悪の世代と呼ばれる億越え海賊達はその多くが既にグランドライン後半“新世界”に渡っていた。

 

 ユースタス・キッドとキラーのキッド海賊団はとある島で、遭遇した海賊団を容赦なく血祭に上げた。

 バジル・ホーキンスは元白ひげの縄張りの島へ上陸し、茶ひげ海賊団と交戦。

 X・ドレークは四皇カイドウの縄張りの島へ乗り込み、百獣海賊団の下っ端へ襲い掛かった。

 

 スクラッチメン・アプーやカポネ・ベッジ、ウルージは新世界の超常的気象や自然環境に翻弄されていた。

 ジュエリー・ボニーは黒ひげティーチに敗れ自身の海賊団が壊滅。身柄を海軍へ引き渡された。

 

 そんな中、トラファルガー・ローはまだ新世界に渡らず、シャボンディ諸島近海に留まっていた。

 爽快な青空の下、穏やかな波に揺られる黄色い潜水艦の甲板。ローは昼寝中のベポを背もたれにしながら、仲間達に語る。

 

「時期を待つ。潰し合いたい奴らは勝手に潰しあってくれりゃいい。つまらねぇ戦いには参加しねえ」

 ローは精悍な顔に不敵かつ挑戦的な微笑を湛え、自信たっぷりに宣言した。

「取るべき椅子は必ず奪う……ごちゃごちゃ言わず俺に従え」

 

『キャプテーンッ!!』

 カリスマ性を滴らせる船長に感激し、大喝采するハートの海賊団の皆さん。あまりにも簡単に納得してしまった仲間達に、ローが思わず微苦笑をこぼす。

 

 ハートの海賊団が賑々しく盛り上がっているところへ、世界観がバグりそうな青いフルサイボーグ・トビウオライダーが海中から浮上した。

 皆が舷側に集まって好奇心と警戒心を露わにする中、体の曲線を隠そうともしない青い潜水服の搭乗者が、昆虫面のバイザーを上げて素顔を晒す。

 

「やあ。イケメンなお医者様と愉快な皆さんじゃないか」

 小麦肌の端正なアンニュイ顔は、今やすっかり馴染みとなった血浴のベアトリーゼその人。

 

「逆ナンお姉さんだ!」やんややんやと再び盛り上がる面々。手を振る奴も少なくない。ペンギンとシャチがニコニコ顔で「キャプテン、逆ナンお姉さんだよ!!」

「―――」

 ローは凄まじい仏頂面を浮かべていた。つい先ほどまでのカリスマ溢れる微笑はどこへやら。あまりの変貌振りにペンギンが思わず吃驚を上げる。

「すっごい嫌そう!!」

 

 

 で。

 

 

 ハートの海賊団の面々は、黄色い潜水艦ポーラータング号の隣に並ぶフルサイボーグ・トビウオライダーを物珍しそうに見物する。メカ好きSF好きな奴は海に飛び込み、海中からも観察する始末。

 シロクマのミンク族ベポがお盆に氷の浮かぶレモネードを載せてやってきた。船長と客の手元に置く。

 

 甲板に胡坐を掻き、ローはコップを口に運んでレモネードを味わってから、向かいに女座りするベアトリーゼを質す。

「シャボンディの騒ぎの後に捕まったと報道されたかと思えば、メイドの格好でレッドポートを襲ったテロ屋と大立ち回り。麦わら屋が一面を飾った翌日にゃあ派手な新世界行き宣言。ところが本人はけったいな格好で得体のしれないトビウオライダーに乗って、こんなところに居やがる。血浴屋。お前は意味不明だ」

 

 呆れ顔を向けてくる海賊兼外科医へ小さく肩を竦め、ベアトリーゼは『いただきます』と断ってからコップを口に運ぶ。冷たいレモネードがすっきり爽やか。

「新世界へ向かう前の最終チェック中だったのよ。慣らしは終わったけど、諸々のセッティング出しがまだ済んでないからさ」

 

「慣らし? セッティング出し? ……あれは機械なのか?」ローは仲間達が群がる怪魚へ怪訝顔を向けた。

「イイでしょ? 金獅子討伐とレッドポート事変の御褒美さ」

 ベアトリーゼはふふんと得意げに鼻を鳴らし、次いで冷ややかに語る。

「未来島エッグヘッド製のフルサイボーグだよ。脳神経系の一部を除いて、骨も臓器も筋肉も鱗もヒレも血液も、全て人工物に置き換えられてる」

 

「悪魔の実の能力無しで、か」オペオペの実の改造自在人間として思うところがある。

「ホグバックって医者は外科手術で人間と動物を結合させてたし、海軍のパシフィスタもレッドポートを襲った奴らも、悪魔の実の力抜きで作られた改造人間兵器だしね」

 ベアトリーゼの解説に聞き捨てならぬ情報が含まれていた。ローは即座に拾い上げる。

「レッドポートのテロ屋共について知ってるのか?」

 

「詳しくは知らない」ベアトリーゼはレモネードを味わい「相当にヤバい秘密結社ってことだけ。海軍が本気で対策に出るみたいだから、迂闊に関わると面倒なことになるよ」

「あの女スパイからの情報か」

 ローが出所を指摘すると、ベアトリーゼは首を横に振り、あっけらかんと答えた。

「いや。海軍本部へ立ち寄った時にお偉いさん達と話した」

 

「? ? ?」

 トラファルガー・ローは混乱したものの、持ち前の聡明な頭脳を働かせた。女ヶ島で海侠屋と話した内容を思い返す。

「それは……王下七武海入りを打診されたってことか?」

 

「私が七武海?」ベアトリーゼは満月色の瞳をパチクリさせ「無いね。無い無い。ステューシーとつるむことはあっても、海軍や政府の“命令”に従うなんてゾッとする」

 

 不満げに鼻を鳴らし、蛮姫は事情を掻い摘んで話し始めた。

「あのテロ事件後、レッドポートに潜伏してたんだけど身動きが取れなくてさぁ。仕方ないから海兵に化けて軍船へ乗り込んでね。マリンフォード経由でシャボンディへ向かうことにしたのよ。それで立ち寄ったマリンフォードで観光してたら、お偉いさん達と出くわしちゃって……まあ、それで色々と話し合うことになって、秘密結社対策のプランを出したというか」

 

 蛮姫の説明を聞き、死の外科医はこめかみを押さえて唸る。

 海兵に化けてレッドポートを脱しようという案は、相当に無茶だが理解はできる。だが、お尋ね者が海軍本部を観光? それにどう転べばお偉いさんと対テロ会議することになる。

 意味が分からない。

 

 宇宙人と会話しているような錯覚を抱くローの傍らから、ベポが口を挟む。

「お姉さん、1人で新世界に向かう気らしいけど、麦わらの一味と合流しないで良いの?」

 

「今の彼らには時間が要る。力不足を痛感させられたからね」

 納得し難いベポの様子に微苦笑し、ベアトリーゼはアンニュイな美貌に相応しい物憂げな眼差しをハートの海賊団へ注ぐ。もっとも、見ているものは別のようだが。

「これは彼らの“大きな物語”に必要な幕間だ。彼らが再び物語を綴り始めるまでの間、私は私の物語を進めさせてもらう」

 

「血浴屋の物語か」ローは思案顔を作り「それは麦わら屋達の物語とは別なのか?」

「私としては別であるべきだと思うけれど、組み込まれているかもしれない」ベアトリーゼは満月色の瞳を細め「もちろん、ドクトルの物語だって例外じゃないよ」

 

「俺も?」

 怪訝そうに眉をひそめるローへ、ベアトリーゼは薄く微笑む。

「シャボンディでデートした時言ったでしょ? 大きな因果の渦動は相互作用し合うと。ドクトルとルフィは既に影響し合ってるのさ」

 

 デートと言う単語に顔を大きくしかめつつも、ローは遺憾ながら蛮姫の見解に同意せざるを得ない。頂上戦争へ乗り込んで麦わら屋を助ける際、『悪縁も縁』と口走ってしまったし。

 

 渋面を作ったローへ微笑みを送り、ベアトリーゼはコップのレモネードを飲み干し、

「御馳走様。さてと、そろそろお暇しようかな」

 良家の令嬢みたく折り目正しく居住まいを正した。

 

「ハートの海賊団船長トラファルガー・ロー。ならび同海賊団の皆さん」

 呆気にとられるローと海賊団の面々へ向け、蛮姫は美しい所作で頭を垂れる。

「我らが一味の船長を助けていただき、ありがとうございました。心より感謝申し上げます」

 

 人生で斯くも丁重に敬意と謝意を表されたことがないハートの海賊団の面々は、面白いほど動揺し、狼狽え、照れくさそうに気恥ずかしそうに身悶えする。

 そんな仲間達に釣られたのか、ローもどこか面映ゆそうに応じた。

「……気にするな。麦わら屋の件は俺が勝手にしたことだ」

 

「お礼にデートしたげようか?」

 にんまりと笑うベアトリーゼへ、ローはスンと真顔に戻った。

「さっさと帰れ」

 

 

 そして、血浴のベアトリーゼは青いフルサイボーグ・トビウオライダーに跨り、ローへ官能的な投げキッスを贈り、ハートの海賊団の面々へ手を振って去っていった。

『またねー!』と手を振って蛮姫を見送るハートの海賊団の皆さん。

 

 深々と嘆息をこぼすローの隣で、ベポが水平線へ消えていくトビウオライダーを眺めながら残念そうに言った。

「お姉さんが麦わらの一味をしばらく離れるなら、ウチに客分で入って貰えばよかったかも。どう思う、キャプテン」

 ベポが隣のローを窺うと。

「すっごく嫌そうっ!!」

 

      ○

 

 44番グローブの岸辺。

 旅荷物を積んだサイボーグ怪魚に、近未来チックな潜水服を着こんだ小麦肌の美女が跨る。癖の強い夜色のショートヘアをインナーキャップで包み、昆虫面の複眼式ヘルメットを装着。システムを立ち上げてエアとヘルメット内気密を確認。

 フルサイボーグ・トビウオライダーを起動する。

 

 ベアトリーゼはサウザンド・サニー号を一瞥。船の傍らに佇み、小鳥達に留まられている巨漢へ手を振る。

「サニーを頼んだよ、くま」

 くまは無反応だ。代わりに小鳥達が合唱を返す。

 

 ベアトリーゼは柔らかく微笑み、ヘルメットのバイザーを下げた。アクセルを開け、青いトビウオライダーを発進させる。

「そんじゃ……行きますか。新世界にっ!!」




Tips

新型のフルサイボーグ・トビウオライダー
 オリ設定。
 裏設定としてはベガパンク本人ではなく、リリスが設計、製作した感じ。

ルフィ。
 原作主人公。
 仲間のベアトリーゼが新世界へ先駆けしたことに『あいつらしい』と笑う。解釈違いの人もいるかもしれない。

麦わらの一味。
 原作主役たち。
 仲間のベアトリーゼの抜け駆けにそれぞれ思うところが有ったり無かったり。

ハートの海賊団の皆さん。
 原作キャラ。
 ベアトリーゼはローに敬意を払い、イケメンと公言するから、面々も好意的。

トラファルガー・ロー
 原作キャラ。
 ベアトリーゼの扱い方を理解しつつある『名誉麦わらの一味』。

ベアトリーゼ
 オリ主。
 いよいよ新世界へ渡る。

原作第一部はここまでや。
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