彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
ちょっと長くなってしまった。文字数の管理が上手くいかない。
その軍法会議は再建工事中の海軍本部施設の空き部屋で、しかも略式で開かれた。
室内には、海軍犯罪捜査局の少佐と書記の中尉1名、下士官2名。それに被告。これだけだ。原告の検察役も被告の弁護士も傍聴人もいない。
軍法会議は一般的な裁判とは違う。
特に略式の場合、被告の有罪無罪は会議が開かれる以前に決まっていて、量刑を宣告するだけだった。
ちなみに下士官2名は被告の左右に立つ。これは判決に不服を抱いた被告が暴れた際、即座に拘束するためだ。
「コビー曹長。貴官の罪状は抗命である。これは銃殺刑も適用される重大な軍規違反行為だ。しかしながら、入隊からわずか二か月余りで曹長まで昇進した貴官の功績、およびガープ本部中将の嘆願を酌量し、軍規と判例に従って判決を言い渡す」
真っ青な顔で立ち竦む被告――桃色髪の少年下士官へ、少佐は無慈悲なまでに淡々と告げた。
「本日付けて貴官の階級は剥奪。無期限の第999支隊へ転属とし、同部隊へ移送されるまでの期間を留置場に収容とする」
軍服の『正義』に×印が書き込まれることから、『×』部隊とも呼ばれる。
「以上だ。被告は退室したまえ」
5分と掛からずに終わる。被告のコビーには意見陳述の機会さえ与えられない。
“証人代理”の下士官が絶望に打ちのめされたコビーを連行していく。
会議室のドアが解錠されるや――
「コビーッ!!」
ロン毛のあんちゃんが血相を変えてコビーへ駆け寄り、『近づくな』と下士官達に妨げられながら叫ぶ。
「判決はどうなったっ!?」
「へ、ヘルメッポさん……ぼ、ぼく」コビーは半ベソ顔で「階級剥奪で、第999支隊に転属だって……」
「
ヘルメッポ軍曹はぶわっと顔いっぱいに冷汗を吹き出し、犯罪捜査局の将校達へ喧嘩を売るように喚き散らす。
「なんでコビーが×部隊送りなんだよっ!! コビーは犠牲を止めようとしただけじゃねえかっ!!」
「世迷いごとを抜かすなっ!!」少佐は双眸を大きく吊り上げて一喝し「コビー曹長は敗走する海賊に対する追撃命令に抗命し、あまつさえ本部大将の戦闘を妨害したのだっ!! この卑怯な振る舞いを処断せずして、軍に秩序無しっ!」
少佐の剣幕にヘルメッポはリンボーダンスへ挑戦するのかというくらい仰け反った。
命を懸けて及んだ行為を卑怯とまで断じられ、コビーはただただ項垂れることしかできない。
打ちひしがれた親友の姿に、ヘルメッポは不条理に対して憤慨した。お前がそんな顔をするんじゃねえ! お前は何も間違っちゃあいねえんだ! 軍の理屈や戦争の道理なんか知るかっ! 勝敗が決したのに殺し合い続ける方がイカレてんだろうがっ!
だが、どうする。どうすれば良い。ヘルメッポは必死に頭を捻る。
軍の規律と法理はコビーを罪人と断じている。ガープは頼れない。というよりガープが動いて猶、この有様だ。“英雄”ガープでもどうにもならないなら、もうこの状況からコビーを救う手はない。
親友をこのクソ状況から救えないなら――
ヘルメッポは心に活を入れて姿勢を持ち直し、叫んだ。
「俺も……俺も行くっ!!」
犯罪捜査局の将校達もコビーを連行しようとする下士官も、コビー本人も呆気にとられた。そんな彼らの頬を引っ叩くような勢いで、ヘルメッポは再び喚き散らす。
「俺も999へ志願するっ!! 俺もコビーと一緒に999へ転属させてくれっ!!」
「ヘルメッポさんっ!? 何言ってるんですかっ!?」
驚愕するコビーを無視し、ヘルメッポは必死に訴える。
「あの時、俺はコビーと同じことをしようとした! ビビッて動けなかっただけだ! 未遂なだけで立派な重罪だろっ!? 俺も999へ送ってくれ!」
2人の少佐は呆れと感心が混ざりあった面持ちを作り、諭すように語りかける。
「ヘルメッポ軍曹。貴官の戦友を想う気持ちと勇気は評価する。しかし、冷静に考えろ」
「そうですよ、ヘルメッポさんっ! やめてくださいっ!」コビーも慌てて翻意を促す。
だが、ヘルメッポは退かない。焦燥の汗塗れになりながら少佐達を睨み据え、口角から泡を飛ばす。
「俺も999へ送ってくれっ!」
断固たる決意。ヘルメッポはまだ二十歳になったばかりの青二才だ。感情ばかり先走って、経歴に汚点が残る意味を微塵も理解していない。ただし、若者ゆえに友情へ対して純粋かつ真摯だった。
困り果てた少佐へ、書記係の中尉がひそひそと耳打ちする。少佐は難渋顔でひとしきり唸った後、決断した。
「……良いだろう。だが、後悔するぞ。ヘルメッポ軍曹」
「友達を見捨てるよりマシだッ!!」
ヘルメッポは食って掛かるように言い返せば、少佐は眩しげに、同時になぜか
「ヘルメッポ軍曹。貴官の志願は受理した。正式な転属手続きはこちらで処理しておく。コビー曹長の連行に同道しろ」
「感謝します、中尉殿っ!!」
中尉が命じ、ヘルメッポは了承の敬礼を返す。漢の敬礼だった。
「ヘルメッポさん……なんで……」
コビーは親友まで地獄送りになってしまったことへ痛悔の涙をこぼす。そんなコビーを励ますように、ヘルメッポは不細工な笑顔で年上の余裕を演じる。
「そんな顔すんな、コビー! 大丈夫だ! 俺とお前の2人ならどんな部隊でもやっていけるさ!」
そして、歳若い二人は下士官達に連行されていく。
表の再建工事の喧騒が響く廊下。コビーはヘルメッポの友情に涙を滲ませながら歩み。ヘルメッポは自身の決断を誇るように胸を張って歩き。2人を連行する下士官達は昆虫のように無機質で無駄口一つこぼさない。
一行は陰鬱な雰囲気のまま廊下を進み、海軍本部施設の裏手へ回る。軍規違反者を収容する留置施設は頂上戦争で損壊していたため、代理に倉庫が利用されている、らしい。
下士官が倉庫の前に立つ衛兵に手続し、コビーとヘルメッポは衛兵に身柄を引き渡された。固く施錠された扉が重々しく開かれる。中は真っ暗で表からは何も窺えない。
コビーとヘルメッポは地獄が口を開けているような錯覚を抱き、揃って生唾を呑む。
「入れ」
衛兵に背を押され、2人は倉庫内へ足を踏み入れた。直後、扉が閉ざされる。ビクッと小動物のように身を震わせるコビメッポ。
2人は内心でビビりながら倉庫内を進み――
「「えっ?!」」
コビーとヘルメッポは目を丸くした。
なぜなら、軍規違反者が囚人の如く収容されているはずの倉庫内では、大勢の兵士達が出撃の支度を進めていた。
兵士達はジャンパースーツ風の着衣に様々な装具を付け、背中の接続具で金魚鉢みたいなヘルメットを背負っている。脇に下げた銃は制式小銃よりも高性能なカートリッジ弾薬式の連発銃だ。
しかし、誰一人として軍服に『正義』の二文字を背負っていない。
「ど、どういうこと?」「わ、わからねえ」
コビーとヘルメッポは困惑する。同時に直感していた。自分達は今、物凄くヤバいこと――ガープがうっかりドラゴンとルフィの関係を暴露した時のようなヤバさに直面している、と。
不安に身を竦ませている2人へ、40絡みの男性が歩み寄ってきて、倦み疲れた顔で言った。
「新入りか。奥の給付窓口で認識票と軍籍手帳を返納し、服を受け取って着替えろ。お前らはもう『正義』を背負えねェ」
「あ、あの……貴方達は、この部隊はいったい……」
コビーが恐る恐る問うと、40男は怪訝そうに眉根を寄せ、次いで何かを察した。ペシミズムに染まり切った薄笑いを浮かべ、告げる。
「ようこそ、海軍科学班評価戦隊へ。お前らは今から海軍の尻拭き紙だ」
かくして、後に“英雄”ガープが『海軍の未来』と認めるほどの英傑となる16歳の少年は、海軍の消耗品部隊へ配属され、栄光も名誉もない不正規戦に身を投じることとなった。
彼が再び日の当たる場所へ復帰できるかどうかは、誰にも分からない。
○
グランドライン後半“新世界”のとある島。
その島は非加盟国故に貧しく、また無法の標的にされた。国は滅び、町も村も、人も、その多くが消えて久しい。
そんな島に、小さな村がある。
その村は農地が広がり、道や水利がきちんと整備され、学校や診療所に風車小屋まで建っていた。何より大型船舶が泊まれるほど立派な船着き場を備えている。
村民は農業や沿岸漁業に勤しみ、時折訪れる貿易船相手にささやかな商売を行い、素朴で平穏な日々を過ごしている。
修羅の庭の如き“新世界”では稀有なほど穏やかなこの村の名は、スフィンクス。
四皇“白ひげ”エドワード・ニューゲートの故郷である。
そのスフィンクス村の郊外。小さくとも優しい情景の村と雄大な大海原を一望する岬に、海賊旗を掲げる大きな墓が立っていた。
大海賊“白ひげ”の墓だ。隣には“末息子”の墓が並び、周囲には頂上戦争で命を落とした息子達や娘達の刀剣が立てられ、花畑と見紛うほどの弔花が供えられている。
この日、偉大な海賊の墓の前で、美しくも切ない弔歌が響き渡っていた。
紅白二色髪の美しい乙女が墓前に立ち、哀悼の念と冥福の祈りを込めた歌を響かせる。彼女の船員兼バックバンドがそれぞれの楽器を奏で、鎮魂歌に彩りを添える。
斃れし海の戦士達へ歌を捧げ終え、紅白二色髪の美少女は礼儀正しく墓へ一礼した。少女の背後に並ぶ女性護衛達や船員達も胸に手を当て、亡き海賊達へ敬意を表す。
「会ってみたかったな」
“歌姫”ウタは残念そうに呟き、紫水晶色の目を白ひげの墓に寄り添う一回り小さな墓――ポートガス・D・エースの墓へ向けた。
ウタはルフィの義兄だったという彼と面識はない。父“赤髪”シャンクスは会ったことがあるそうで、曰く『弟想いの礼儀正しい好青年』だったという。
なお「海賊王の息子だって気づかなかったの?」という娘の疑問に、シャンクスは答えをはぐらかした。気づいていて知らぬ振りをしたのか、本当に気づいていなかったのか。
どう思う? と頼れる護衛頭に尋ねたところ。
――
護衛頭の見解に、ウタは納得した。
意識を内から戻し、ウタは大海原の先にある水平線へ目を向け、この海の遠く遠く離れたところにいるだろう幼馴染を想う。
「ルフィ、大丈夫かな」
あの日、ウタも新世界の某所で頂上戦争の生中継を見ていたし、その後の報道も全て追いかけた。
助けようとしたお兄さんが眼前で亡くなるなんて酷すぎるよ。ウタは幼馴染の心境を察し、心が痛む。
「海賊をしていれば、こういう別れも避けられません。乗り越えていくしかないんです」
護衛頭が毅然と告げ、そして表情を和らげた。
「世経に記事が載っていたでしょう? 海軍本部に乗り込んでの献花と黙祷。そして、16点鐘。悲しみを乗り越えねば、とても出来ませんよ」
「……うん。きっとそう! ルフィは強い子だもん!」
ウタは憂いをパッと晴らしていつもの元気な笑顔を湛え、次いで、ぷくりとほっぺを膨らませた。
「シャンクスも酷いよね! “楽園”に行くなら私も連れていってくれたら良かったのに!」
「気持ちはわかりますけど、そりゃあ無理ってもんスよ。お嬢」
「大頭は大事なお嬢をドンパチへ連れていかない……」
ヤンキーな女護衛と埒外な女護衛が揃って不満顔のウタを宥める。
も、ウタの不満はちっとも収まらない。ウサミミ状に結ったお下げがピンッと屹立する。
「私は戦争なんて参加しないよ! 単純に“楽園”へ行きたかったの! そしたら今頃はルフィへお見舞いできただろうし、ビーゼとコヨミにも逢えたかもしれないし、エレジアにお墓参り出来たのにっ!」
大切な幼馴染や大事な友人達と再会したかったし、もはや自身の故郷に等しいエレジアへ久し振りに赴き、献花と鎮魂歌を捧げたかった。
父に対する遺憾の意をぷりぷりと表する娘を余所に、埒外とヤンキーがあーだこーだと話し続ける。
「世経の記事を見る限り、血浴は新世界へ渡るみたいだけど……」
「あのメッセージってどういう意味よ? あいつは麦わらの一味に入ったンだろ? なのに新世界で会おうって何?」
2人のやり取りを聞き、ウタはぽつりと呟く。
「ビーゼだけ新世界に来るのかなあ……? 本当に来るなら、会いたいな」
「なら、新世界へ来る“血浴”の耳にも届くよう、コンサートでも開きますか?」
ウタは護衛頭の提案に紫色の瞳を輝かせ、ピコンッ! と紅白お下げを立たせた。
「それだっ!!」
こうして四皇“赤髪”の一人娘にして新進気鋭の“歌姫”ウタは大事な友人と再会すべく、積極的に動き始めた。
白ひげ亡き激動の“新世界”で、ウタが起こす“イベント”がどんな影響を生むか、誰にも想像できない。
ウタ当人すらも。
○
グランドライン前半“楽園”。頂上戦争が終結して約二週間後。麦わらのルフィが昏睡状態から意識を取り戻した頃。
美麗なロイヤルクリッパー型豪華客船が荒れた海域を悠然と進んでいく。
船内は荒波の中を進んでいるとは思えぬほど穏やかで、船内劇場では予定通りに舞台が催されている。
最高級のボックス席。1人の淑女が舞台を眺めながら、盗聴防止の白電伝虫を用いて電伝虫の念波通信を行っていた。
淑女は三十代半ば辺り。結い上げられた濡れ羽色の長髪。優しげな顔立ち。気弱そうな目元。程よい肉付きの肢体は紺色の着物風ドレスで包まれ、サマーストールを羽織っている。
ほどほどに整った容姿に成熟した色艶を備えた手弱女。男達の現実的な欲望――強気で迫れば身体を弄べそう――を刺激する、優艶な姥桜みたいな淑女だ。
もっとも、その瞳は諦念と失望を超克した絶対零度の深淵を湛えていたが。
闇色の瞳を舞台へ向ける淑女、フラウ・ビマは手元の電伝虫へ老いた貴婦人にも若い令嬢にも聞こえる声音で告げた。
「ワポルの興した会社の株は過半数を押さえました。経営陣へ送り込む人員はリストの通りにしてください。枢密院の認可は得ています」
『承りました』
通話相手が恭しく了承しつつ、確認を取る。
『拡張路線ということですが、どこまで?』
「あの新合金で周辺国の鉄鋼業界や資材市場を席巻し、財閥化。国体を掌握したうえで世界政府へ加盟申請しましょう。ワポルは世界政府加盟国の国王だった貴種です。神輿に丁度いい。重要なことは新合金ワポメタルを安定して生産、調達できる環境です。財閥化と加盟国化は必須でしょう」
気の弱い中年女性のような見た目から、ハゲタカも息を呑むような冷徹で怜悧な言葉が紡がれる。
「ワポルが警戒するようなら、多少手を緩めても構いません。あくまで最優先はワポメタルの安定生産と調達です。経営権等が主ではないことを念頭にお願いします」
『その旨を徹底します』電伝虫の向こうで相手が微苦笑をこぼし『……まあ、大丈夫だとは思います。あれは与し易いガチョウですから』
驚異的な新合金ワポメタルの開発者が元ドラム王国国王ワポルであり、その性格や王族としての能力など全て把握してある。その評価は『与し易い金の卵を産むガチョウ』だ。
「扱い易いことに越したことはありませんが、手綱を握る以上は面倒を見なければなりません」
フラウ・ビマは舞台上で演技を続ける役者達へ無情動な眼差しを注ぎつつ、言った。
俗物が金と権力を持てば、必ず欲を満たす。女と贅沢品へ散財し、自己承認欲求と名誉欲に駆られて私財を浪費する。それはそれで構わないが、大枚をはたいて掌中に収めた金の卵を産むガチョウを、淫売やクズ共に奪われてもつまらない。
「……そうですね。とりあえずは毒婦の類を寄せ付けないようにしておきますか」
『ウチの者を傍に?』
「いえ。立場が立場です。CPの調査や監視が入るはず。無関係な者を前に立てておきましょう」
『了解しました。適当な“トロフィー”を用意します』
「お願いします」
ワポルにあてがう女を見繕う話がまとまり、通話が終わる。
舞台上で男女のラブロマンスが――傍目にはしょうもない下世話な物語が続く。フラウ・ビマは退屈そうに舞台を眺めながら細いグラスを口へ運び、最高級のシャンパンを味わう。
グラスをサイドボードに置き、フラウ・ビマは電伝虫に番号を入力して念波通信を図る。数回のコールの後、相手が出た。
『新合金の件ですね? 首尾は?』
「株を過半数以上、押さえました。予定通りに進められます」
フラウ・ビマの簡潔にして明快な回答に、通信相手の老紳士は満足げに喉を鳴らす。
『それは重畳。引き続きよろしく頼みますよ。あの新合金はメカニズモ・プランを大きく飛躍させるでしょうからね』
メカニズモ・プランは機能的機械化置換式モッズ――要するに非人間型完全サイボーグ兵器の開発生産計画だ。サイバネ化による脳神経系や精神面にもたらすデメリットの解決が難しい関係で久しく進展が無かった。
しかし、先のレッドポート事変でパシフィスタを鹵獲し、技術的調査と分析の結果、解決の糸口を得たこと。また革新的合金材ワポメタルの獲得で状況が大きく動いていた。
老紳士は話の水先を変える。
『革命軍の動向は?』
「思ったほどでは」
無感動な眼差しで舞台を眺めながら、フラウ・ビマは淡々と報告する。
「海軍の手が回らない島をいくつか襲ったようですが、動きが鈍化しました。インペルダウンから大幹部イワンコフが脱獄に成功したこと。“要人”の保護に成功したこと、未確認情報ですが、総参謀長サボが体調不良で倒れたこと。この辺りが理由と考えています」
『要人というのは?』
重ねられる問いへ、フラウ・ビマはよどみなく答えた。
「オハラの悪魔ニコ・ロビンです。東の海のテキーラウルフを強襲した革命軍に保護されました。麦わらの一味はシャボンディ諸島で天竜人を襲撃した後の動向が不明瞭なため、ニコ・ロビンが単身で東の海にいた理由は不明です」
『なるほど』
沈黙。電伝虫の通話口の向こうから、老紳士が思案する気配が届く。
舞台から届く役者達のセリフ。シーンに合わせて奏でられる音楽隊の音色。役者の演技も舞台の演出も音楽隊の劇伴演奏も一流。されどフラウ・ビマの心に小さな波紋一つ起こせない。
『……一度、接触を試みましょう。任せてもよろしいですか?』
「御期待にお応えできるよう努めます」
フラウ・ビマが老紳士の決断に異論を挟むことなく了承した直後、
『それから……これはまだ確定ではありませんが、貴女を“新世界”に送るかもしれません』
老紳士の言葉に思わず息を呑む。
“新世界”。無数の賊徒が跳梁跋扈し、世界政府も海軍も迂闊に動けぬ修羅の庭。
才覚さえあれば、好きなだけ謀略の糸を巡らせられる無法の海。
「お役目を戴ければ、微力を尽くす所存です」
『貴女の熱意と意欲は枢密院にも伝えましょう。では、また』
フラウ・ビマが内心の喜色を完璧に隠しながら丁重に答えれば、老紳士は満足げに通信を終えた。
静けさを取り戻したボックス席に舞台上の喧騒が届く。
胸中を巡る様々な感情をゆっくりと鎮め、漆黒の瞳を持つ淑女はさして美味く感じないシャンパンを干した。グラスを置いて優艶な腰を上げる。
紺色のサマーショールをベールのように被り、着物風ドレスの裾をたなびかせ、劇場のボックス席を後にした。
天竜人が支配する世界へ抗い続けてきた者達は、暗躍を決して止めない。
次の謀は既に動き始めている。
Tips
コビー
原作キャラ。現在16歳。
入営から2か月ちょいで『だるだるの身体』から精悍な海軍下士官へ変身した怪物。
入営から2年で三等兵から大佐に成り上がった怪物。
ヘルメッポ。
原作キャラ。現在20歳。
親父の逃亡事件で克己し、親友コビーと共に急成長していく。
活躍描写は少ないが、こいつも十分に凄い若者である。
第999支隊。
オリ設定。
海軍科学班評価戦隊:軍籍を剥奪され、最前線で使い潰される消耗品部隊。
第999支隊:軍人の名誉を剥奪され、犬以下の扱いを受ける囚人部隊。
というイメージを持っていただければ。
ウタ
劇場版キャラ。現在19歳。
”新世界”のシャンクスの縄張り内を中心に歌手活動中。
護衛達。
オリキャラ。
名前を付けるとキャラが立ちすぎるので、名前無しのまま。
ワポル
原作キャラ。元ドラム王国国王。
扉絵シリーズで、ルフィにぶっ飛ばされた後、南の海で大復活するまでが描かれた。
拙作では彼の与り知らぬところで秘密結社の関与があった、という話に。
CVはレジェンド島田敏。フォクシーと霜月康イエも兼役している。
フラウ・ビマ
オリキャラ。
元ネタは銃夢:火星戦記のキョーコ・ビマ。動乱時代の火星で薄幸の人生を歩んだ哀しい女性。
拙作では、魔女染みた淑女になってしまった。
次回から本編再開(予定)。