彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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少し長くなっちゃった。

佐藤東沙さん、nullpointさん、RPG大好きさん、ふふふさん、誤字報告ありがとうございます。


249:だって、それがビッグマムだもの。

 グランドライン“新世界”万国(トットランド)。ホールケーキアイランド・スィートタウン。

 月に照らされるホールケーキ城の一室にて。

 シャーロット家の長男ペロスペロー、長女コンポート、次男カタクリ、8女ブリュレ、そして、双子である18女ガレットと19女ポワールが会議卓を囲んで、話し合っていた。

 ちなみに長男長女と次男は双子達と年齢が親子ほども離れていたりする。

 

 リュウグウ王国と最初の交渉を終えたこの夜、ガレットとポワールはブリュレのミラミラの実の能力で鏡世界を通じ、魚人島からホールケーキ城へ中間報告に戻っていた。

 

 双子から魚人島で行われた交渉の内容を聞き、

「縄張りに加わることはやぶさかではないが、婚姻にはかなり及び腰、と」

「婚姻を通じて国体そのものを乗っ取られるんじゃないかと危惧しているんだねえ……」

 カタクリとコンポートが難しい顔で唸る。国体について懸念しているとなると、交渉は暗礁に乗り上げかねない。

 

「魚人島なんて辺鄙な場所を直に支配統治する気はねェんだが……悪い方向にウチの評判が効いちまってるな、ペロリン♪」

 ペロスペローは苦い顔で鼻を鳴らす。

「細かい条件の方はどうなんだ?」

 

 実質的な宰相役を担っている長男の問いかけに、ガレットが答えた。

上納金(ミカジメ)、それと難破船からの回収品や沈めた海賊船からの略奪品の取り分については折り合いがつきそう。ただ、海賊潰しには慎重な姿勢を見せてる」

 

「ウチが後ろ盾になることを信用してないのか?」

 シャーロット家子女で最強の兄の疑問に、ポワールが答える。

「そういうことより、向こうの方針みたいね。種族融和政策と観光産業の関係で、海賊といえど問答無用に一方的な先制攻撃はできないって」

 

「そりゃまた……随分と甘い考えだねえ」

 長男に並んで家中のまとめ役を担うコンポートが呆れ顔を作ったところへ、ポワールがさらっと続けた。

「それから、今、“海侠”ジンベエの魚人海賊団が魚人島にいないわ」

 

「何だと?」

 片眉を上げた長兄へ、18女が困ったように説明する。

「ジンベエは先の頂上戦争で、王下七武海でありながら海軍と政府を裏切って白ひげに与したでしょう? その件で魚人島に迷惑が掛からないよう島を離れる、とか言っていたそうよ」

 

「勘弁してくれ。ジンベエを利用できなけりゃ魚人島を押さえる価値が大きく減るぞ。戦略計画にも障りが出る……ペロリン♪」

 ペロスペローが仰々しく溜息をこぼし、コンポートはぼやく代わりに御茶を飲み、カタクリは逞しい腕を組んで瞑目した。双子は兄姉の渋い反応に眉を大きく下げるしかない。

 なお、ブリュレは難しい話に一切参加しようとせず、お茶と菓子を相手にしている。

 

 と、会議室のドアが開き、巨人並みの体躯を持つ女傑が姿を見せた。

「ガレットにポワール。帰ってたのかい」

 会議室の面々の母にして世界最強の女海賊“ビッグマム”シャーロット・リンリン、その人だ。

 

「中間報告に戻ってきたの」

 ガレットが交渉の不調をどうやって説明しようか頭を悩ませた時、双子の妹が素早く手札を切った。傍らに置いていた大きな包みを卓上にドスンと置いた。

「ママ、お土産を持って帰って来たわ」

 

「お土産? なんだい?」

 ビッグマムは即座に好奇心を示す。釣れた、とポワールは内心でグッと拳を握りつつ、包みを解いて母へお土産を披露した。

「魚人島のお菓子。あそこ、観光業が盛んだから、お土産用のお菓子が色々あったの」

 

「お菓子! それは嬉しいねえ、マンママンマッ!」

 甘いものに目がない大怪獣は微塵も遠慮すること無く、広げられた菓子に手を伸ばし、

「美味し~~~~~~~~~~~~~いっ!!!!!」

 厳めしい凶相を綻ばせ、瞬く間にお土産の菓子を平らげた。名残惜しそうに指先を舐めてから空の包みを見つめ、次いで、双子をぎろり。

「ガレット、ポワールッ! もっとないのかい!?」

 

 食い足りなかった不満から狂暴な気配を漂わせる母に、双子は冷汗を掻く。

「ご、ごめんなさいママ。手元にあるのはそれだけなの」

 

 ビッグマムは砲声みたいな舌打ちを鳴らし、娘達へ命じる。

「買い占めて……いや、オレのためにもっと大量に作らせな! そうだね、10トンッ! ウチの縄張りに加わるなら、毎月10トンの菓子を納めさせるんだ!」

 

「えぇっ!?」

 ポワールは想像の斜め上を高く飛び越えた母の要求に吃驚を上げ、ガレットは目を白黒させながら言った。

「ど、どうかしら……毎月10トンのお菓子を作れるかどうか、分からないわ」

 

 無論、そんな意見が傍若無人で超自己中心的な母に通るはずもなく。

「向こうの事情なんざ知らねぇ! 何とかしろっ! 分かったなっ!?」

 殺気すらこもった双眸で睨み据え、ビッグマムはビビり散らかした双子がブンブンと首を縦に振る様を見届け、満足げに頷いて会議室を出ていった。

「魚人島の美味しいお菓子が毎月10トンッ! 楽しみだねえ……マンママンマッ!」

 怪獣みたいな高笑いを廊下に響かせながら、大怪獣な母が去っていく。

 

 会議室に気まずい沈黙が漂う中、カタクリが双子へ問う。

「……魚人島は毎月10トンの菓子を作れそうか?」

 

「無理よ! あのお菓子は職人の手作り品なのよ!? あの品質のお菓子を毎月10トンも量産する設備も材料もないわっ!?」

「そもそも、肝心の魚人島がウチの縄張りに加わる件もまとまってないよっ!?」

 ポワールとガレットが相次いで悲鳴染みた声を上げ、途方に暮れる。長兄と次兄もウームと思わず唸り込んだ。

 

 気不味い沈黙。居心地の悪い静寂。困り果てた雰囲気。

 そんな中、母似の容貌をした長女が腹を括ったように、

「……作らせるしかないねえ」

「え?」

 目を瞬かせる双子へ、告げる。

「現地にお菓子工場を建てて、材料もウチで手配して、菓子を10トン作らせるんだよぉ」

 

「こ、コンポート姉さん、本気……?」

 絶句するポワールの隣でガレットが呻くように質す。も、コンポートの目は完全に据わっていた。この姉はガチだ。

 

 ペロスペローも小さく首を縦に振る。

「それでいこう。上納金も現物の取り分も大幅に譲歩して良い。いっそ無しだって構わねえ。とにかく菓子だけは必ず作らせるんだ。なんなら、この件を上手く利用して、ウチが向こうへ便宜を図ったように思わせろ、ペロリン♪」

 

「ええっ!?」

 悲鳴染みた声を上げる妹達へ、ペロスペローはダンディな面持ちを作りながら、命じる。

「ガレット、ポワール……細かいところは全部任せる。上手くやれ、ペロリン♪」

 

「格好よく言ってるけど、丸投げじゃないっ!!」

「無茶振りはやめてよぉ!!!! カタクリ兄さんっ!?」

 泣きが入った妹に助け舟を求められ、頼れる次兄は大きく頷き、告げる。

「……2人とも、頑張れ」

「「カタクリ兄さんまでっ!?」」

 もうだめだぁおしまいだあ、とガレットとポワールが目を覆って会議卓に突っ伏す。

 

 戦略方針から魚人島を傘下に収める話が完全に狂ってしまっていたが、シャーロット家の面々は誰も気にしていない。母の暴君振りに振り回されることに慣れきっている。

 

 なんとも言えない雰囲気が漂う中、ブリュレは『大きな仕事を任されると大変だね~』と完全に傍観者ポジションに立っていた。

 のだけれども。

 

「ブリュレ」ペロスペローが不意に水を向け「工場建設とお菓子作りの材料調達は、お前も手伝ってやれ。鏡世界(ミロワールド)を通じてウチや“マーケット”から、必要な物資や人員を送り込むんだ……ペロリン♪」

 

「え?」予期せぬ指示に目を丸くするデカパイお姉さん(41歳・独身)。

「魚人島を縄張りに加える件、プラリネの婚姻、お菓子工場……お前達三人の責任できっちり話をまとめるんだ、ペロリン♪」

 瞬く間に大仕事へ参加させられ、責任まで被る羽目になり、ブリュレは思わず叫ぶ。

「えええええええええええええええええええええっ!?」

 

      ○

 

 その時、ベアトリーゼはホテルの部屋で晩酌の酒を舐めつつ、明日のチェックアウト後の予定を立てていた。

 

 朝一でチェックアウトしたら、ポーネグリフが眠る海の森か、旧魚人街に鎮座する超巨大古代船ノアを見物した後、新世界へ向かって1万メートルを浮上していく。

 航路はムスター社がある島までのエターナルポースに従って進む。道々の島で補給し、邪魔する奴はぶっ潰す。単純明快。

 

「とりあえずは三日分の食料と水を調達しておくか。残金は……」

 ベアトリーゼがベリー紙幣と換金用の高価値貴金属を計算している時だ。

「ん?」

 

 ホテルドレッサーの鏡面が水面のように波紋を広げた、瞬間。

 ぬらりと三人の女達が鏡の中から現れ、部屋に降り立った。

 

「少しは驚きなさいよ。可愛げがないわね」「シケた部屋ね。もうちょっといいところに泊まりなさいよ」

 好き勝手に宣う2人は、昨日に顔を合わせた双子。なんだかとっても疲れた御様子。

 

「ウィッウィッウィッ! 驚きすぎて声も上げられないみたいだねえ……っ!」

 そして、もう一人は絵本の魔女染みた容貌の大女。

 

 ベアトリーゼは目を瞬かせながら言った。

「デカパイお姉さんじゃん。おひさ~」

「ブリュレだよっ! そのふざけた呼び方はやめなっ!!」

 魔女面を真っ赤にして憤慨するシャーロット・ブリュレさん。

 

「“マーケット”で何度か見かけたよね? 手ェ振ったのに無視とか酷くない?」

「な、なんのことだか分からないねっ!? 変なこと言うんじゃないよぉっ!?」

 蛮姫に“マーケット”へ遊びに行っていることを暴露され、ブリュレは大声と勢いでしらばっくれた。

 

 まあ、ガレットもポワールもそんな些事は気にしてなかったが。

「“血浴”」

 ガレットは姉とじゃれ合うベアトリーゼへ向け、用向きを告げる。

「アンタ、ワタシ達の仕事を手伝いなさい」

 

「昨日は邪魔をするなと言い、今日は手伝えと言う。そのココロは――」ベアトリーゼは見透かしたように口端を歪め「ビッグマムが急に無茶を言い出して交渉の方向性が狂ったな?」

 

 図星を突かれた双子が揃って口をへの字に曲げた。ブリュレはすっとぼけるようにそっぽを向く。感情表現が素直でお可愛いことだ。

 

 ベアトリーゼは満月色の瞳を細め「交渉絡みの難題に、姉妹で知恵を絞っても良い案が出ず、やむを得ず私に、てところか」

 

 これまた正鵠を射られ、双子はますます渋面を濃くする。ブリュレは目を丸くしてベアトリーゼをまじまじと見つめる。

「なんで分かるのよ……」

 

「コイツ、悪知恵が働くのよ」「コイツ、小賢しいのよ」

 ガレットとポワールが揃ってどこか悔しげに言い、ポワールが続ける。

「その小癪な知恵を貸しなさい」

 

「えぇ~……面倒臭いなぁ」ベアトリーゼはグラスを干してから、しれっと「いいよ」

 あっさりと了承した。

 もっとも、これは条件交渉の始まりを意味する宣言でもあった。

「重要な交渉に協力するんだ。相応の報酬は貰うよ」

 

「アンタには貸しがある。トリコロールメロンの件でガープに殺されそうになったところを、助けてやったわ」

「あれは現場の私を支援するのがお姉さん達の仕事だったじゃん。そもそも――」

 

 姉とベアトリーゼの益体もないやり取りに焦れたのか、ポワールが口を挟む。

「新世界行きを協力してやるわ。海底1万メートルを苦労して昇らないで済むわよ」

 

「む」ベアトリーゼは眉根を寄せた。

 ――その提案は……ありがたい。丸呑みは嫌だ。深海の百鬼夜行に追い回されるのも嫌だ。でも、下手に関わってヒューロンの件とか知られるのも面倒臭いな。どうすっかな。

 

「んー……昔の誼だ。その条件で飲んであげる」

 ベアトリーゼは上から目線で承諾し、グラスに御代わりを注ぎながら、問う。

「で? 具体的にはどういう協力が欲しいのさ」

 

 ガレットとポワールとブリュレは三人で顔を見合わせ、ガレットが代表してかくかくしかじかと手短に説明し――

 

 話を聞き終えたベアトリーゼはグラスを呷ってから、呆れ気味にぼやく。

「やれやれ……食欲に支配されていることがビッグマムの限界だな」

 刹那、姉妹3人が今にも飛び掛かってきそうな目つきで睨んでくる。

「ママを愚弄することは許さない」

 

 たいした孝心だこと。ビッグマムは子育ての腕は良いらしい。毒親の癖に。

「今のは撤回する。今後は発言に気を付けるよ」

 ベアトリーゼは手振りで3人を宥めつつ、本題を進める。

「請け負ったからには知恵を貸しましょ。まずは諸々の詳細を教えてもらおうか」

 

 かくて夜を徹しての交渉戦略の練り直しが始まった。

 

      ○

 

 マクロ一味はタイヨウの海賊団にも身を置いていたことがあるという、魚人の渡世人だ。

 頭目マクロに金魚剣術の使い手ギャロ、魚人空手家タンスイの三人しかいない、弱小一味ともいうが。

 タイガー亡き後、ジンベエの王下七武海入りに伴う対立で、アーロンがジンベエと袂を分かった際、マクロ一味も魚人海賊団を去った。

 

 と、ここまでならば、筋や道義に煩そうな頑固者を想像するが、マクロという男の実像はちと違う。

 簡単に言えば、チンピラゴロツキの類だ。それも恐れられるより嫌悪される類の。

 

 奴隷解放の英雄フィッシャー・タイガーを慕い、彼と共に世界政府や海軍と戦ったこともあるというのに、陸の人攫い屋と伝手を持ち、同胞たる人魚のケイミーを売りさばこうとしていた辺り、その性根の腐り具合が窺えよう。

 

 そんなマクロ一味の実力だが、弱い。もうびっくりするほど弱い。

 なので、

「昔馴染みにあんまりじゃねえか」

 マクロ一味はジンベエの魚人海賊団にあっさりととっ捕まった。シャボンディ諸島からさほど離れていない大海原。早朝の空を照らす曙光の下、太陽紋を掲げる海賊船の甲板で、マクロ一味の“4人”が正座させられていた。

 横っ面を大きく腫らして鼻血を垂らすマクロが憐れっぽく訴えるも、周囲は微塵も同情を寄せない。

 

「マクロよ。お前のシノギについて前々から言いたいことがあった」

 ジンベエは鼻息をつき、眉目を吊り上げて大喝を放つ。

「この大タワケ共がっ!! 同胞を奴隷として売り飛ばすじゃとっ!? おどれらはそれでもタイヨウの海賊団だった男かっ!? 泉下のタイの兄貴にどう申し開きする気じゃっ!!」

 

 大気はおろか海面まで震わせるほどの怒号。

 マクロ一味は震え上がり、大きく俯き項垂れる。己の所業を恥じて、ではない。下手に言い訳するとジンベエの怒りに油を注ぐことを知っているからだ。実に狡っ辛い。

 

 もちろん、ジンベエ達もマクロ一味の性根は把握している。これで性根を入れ替えるなんて微塵も思っていない。

 

 ジンベエは太い腕を組み、ぎろりと正座中のマクロ達を睨み下ろし、聞いたことがないマクロ一味の“四人目”へ目を向けた。

「この若いのは誰じゃ」

 

 魚人の若者は額にゴーグルを掛け、引き締まった筋肉質な体躯の持ち主だ。冴えない中年のマクロ達と比べて一回りは若かろう。

 

「先頃、この辺りで会ってな。行く当てがねェってんで、とりあえずウチで面倒見てやることにしたのよ。ほれ、名乗れ」

「キタジマ……ッス」

 マクロに促された魚人の若者が名乗り、その名前にジンベエの仲間達が反応する。

「ん? キタジマ? 昔、人魚より速く泳げるって噂になってた奴じゃねえか」

「オメェ、随分前に魚人島を出たって聞いたぞ。今まで何してた」

 

「いや、その、色々ありまして……」

 答え難そうに口ごもるキタジマを余所に、ジンベエはマクロへ言った。

「こいつのことはともかく、今日はお前らに聞きたいことがあって来た」

 

「聞きてェこと?」

 マクロの小狡賢い眼差しがキラリと光る。本物の悪党という人種は決してタダでは転ばないものだ。その意味において、マクロは非力であっても、油断ならぬ男だった。

 

 ジンベエは内心で気を引き締めつつ、本題を明かす。

「レッドポートで起きたテロはお前らも聞いとるだろう。アレに関わった魚人達について何か知っとるか?」

 

「ああ。奴らか」マクロは垂れてくる鼻血を拭い「陸でも大騒ぎさ。魚人がいよいよ報復に出たんじゃねェかとビビりまくってる。いい気味だ」

 悪意たっぷりにせせら笑うマクロ。ギャロとタンスイもくつくつと喉を鳴らす。

「あいつらのことは何も知らねェ。知ってたら祝い酒を贈ってやりてェところだぜ」

 

 マクロが挑むようにジンベエを睨み上げる。

「奴らを見つけてどうする気だ。陸の奴らのために、俺達をサカナと見下す奴らのために、俺達を虐げ続けてる奴らのために、あいつらを討つのか? それがお前らの義侠か?」

 

「お前の言いたいことは分かる。お前の気持ちも分かる。だが、その道の先は血で血を洗う地獄じゃ。理解は出来ても、受け入れることは出来ん」

 弟分アーロンが辿った道が良い例だ。魚人の怒りと恨みを口実に、縁もゆかりもない東の海の人々を襲い、暴力で支配して虐げ、より強大な暴力で叩き潰された。

 

「タイの兄貴は憎しみを捨てろと遺した。オトヒメ様は恨んではならぬと遺した。わしは魚人と人魚の未来のために命を賭した御二方の遺志を、信じる」

 ジンベエの言葉にマクロはどこかバツが悪そうに目を逸らした。

 

 しばしの沈黙。ジンベエにマクロの胸中は分からない。

 

 マクロは目を背けたまま、口を開く。

「……確認させろ。お前がわざわざ俺みてェな小悪党のところに足を運ぶほど、情報がねェんだな?」

 

「そうじゃ。奴隷にされていた者達ではないかと考え、お前の許に来た」

 ジンベエの回答に、マクロは小さく頭を振った。

「ありゃ奴隷じゃねえな。魚人や人魚に高値が付くのは、人身売買の市場に出回る数がすくねェからだ。あれだけの数が市場に出回ってりゃあ大騒ぎになる」

 

「少しずつ買い集めたってことじゃないのか?」

「そんな客がいたら、それはそれで大きな噂になってる。お前らが思ってる以上にこの業界は狭ェんだよ」

 アラディンの指摘にもマクロは再び首を横に振る、と。

 

「あの……いいッスか?」

 キタジマが小さく手を挙げ、皆の視線を集めてから切り出す。

「俺が前に世話ンなってたとこはまぁ、海賊なんスけど政府の特殊部隊に潰されたッス。あ、王下七武海の“暴君”と麦わらの一味の“血浴”も居ました」

 

「は?」

 とんでもないことをさらりと言われ、ジンベエを始めとする魚人海賊団の面々は勿論、マクロ達まで目を白黒させた。どうやら知らなかったらしい。

 

「待て待て待て。キタジマ。オメェが所属してた海賊団ってどこだ?」

 キタジマは頭を掻きながら「……金獅子海賊団っス」

 

「金獅子ィッ?!」

 魚人海賊団の甲板に大勢の吃驚が響き渡った。

 

 キタジマ曰く――政府の討伐作戦により“金獅子”シキや主要幹部が生死定かならぬ消息不明になり、シキの能力で飛んでいた浮遊島メルヴィユは海に落着。キタジマはその混乱の中、なんとか海中へ逃げたのだという。

 

「俺、見たんスよ。メルヴィユを襲撃した政府の部隊。あれを率いてた白装束の女と、レッドポートのテロで“血浴”と肩を並べて戦ってた白装束の女は同じ女でした。あの白装束の女、多分サイファー・ポールのイージス・ゼロッス」

 キタジマは唖然とする面々へ、話の結論を告げる。

「CP0と関わりがある“血浴”なら、何か知ってるんじゃあないっスかね」

 

 困惑と当惑と戸惑いに染まる魚人海賊団の一同。瞑目して唸るジンベエに代わり、アラディンが難しい顔で呟く。

「しかし、血浴の居場所は皆目わからんぞ」

 

「おれ、知ってる」

 タンスイが唐突に言った。マクロが怪訝そうに顔を歪めた。

「なんでオメェが“血浴”の居場所を知ってンだよ?」

「一昨日。飯番で魚を獲ってる時、あの女がけったいな格好して、バケモンみてーなトビウオライダーに乗って潜航していくの、見た」

 

「本当なんだろうな?」

 アラディンが疑惑の眼差しを向ければ、タンスイはややムキになって答えた。

「後ろ腰に交差させるように二枚のヤッパを差してた。デュバルんとこで見たから、見間違えねェ。あれは“血浴”だ」

 

「つまり、情報を持ってそうな“血浴”は、トビウオライダーで魚人島に向かったのか……わしらと入れ違いになったな。まだ魚人島に居ればええが……」

 ジンベエは一旦魚人島へ戻る判断を下しつつ、マクロへ厳めしい顔を向けた。

「生き方を改めろ、マクロ」

 

「余計なお世話だ」

 マクロは拗ねた顔で鼻を鳴らした。

 




Tips

”ビッグマム”シャーロット・リンリン
 原作キャラ。巨人染みた体躯を持つ人間。異常食欲の持ち主。ソルソルの実の能力者。
 四皇の一人。
 お菓子が絡まなければ、超暴力と悪人らしい狡猾さを発揮する大女傑。
 お菓子が絡むと、理不尽の権化と化す超迷惑な大怪獣。

 拙作では、魚人島を抑えることで雑魚共の流入を減らし、負担を減らす策に出た。
 が、魚人島のお菓子を気に入って交渉条件をひっくり返してしまう。

CVはレジェンド声優の藤田淑子氏の逝去に伴い、レジェンド声優の小山茉美に変更された。

シャーロット・ブリュレ
 原作キャラ。ミラミラの実の鏡人間。
 拙作では稀少メロン編以来の再登場。酷い目に遭うと輝くという扱いやすいキャラ。

CVは超一流のベテラン声優三田ゆう子。高橋留美子作品や水木しげる作品に出演が目立つ。

マクロ一味
 原作キャラ。
 コミカルな小悪党集団に描かれているが、やっていることは同胞を捕えて人間に売り飛ばすという凶悪な所業。
 奴隷解放の英雄フィッシャー・タイガーが率いたタイヨウの海賊団に所属していた過去がありながら、という背景事情を考慮すると、こいつらの悪質さがよく分かる。

キタジマ
 劇場版のキャラ。映画『ストロング・ワールド』のネームドモブ。
 CVは金メダリストの北島康介。登場シーンは数秒で台詞が二言しかなかった模様。
 
ベアトリーゼ
 厄介事を首を突っ込む。いつも通り。
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