彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、末蔵 薄荷さん、烏瑠さん、戦人さん、誤字報告ありがとうございます。


255:魚人島を発つ日。

 陽樹イブの温かな光が薄い海淵の外縁。仄暗い海底を一隻の海賊船が進んでいく。

 その海賊船を岩場の陰から窺う小さな影達。

 

「陸のお姉ちゃん。海賊船が三つ子岩の上を通ってったよ!」

 魚人の少年が電伝虫を収めた通信機の通話具へ興奮気味に吹き込むと、戸惑いの声が返ってきた。

『三つ子岩……? 待って待って。ちゃんと海図表記で言って』

 

 あ。と魚人少年が慌てて刺繍で作られた布製海図を広げた。海図には魚人島周辺の地形に方眼紙みたくマス目が施されていて、大まかなゾーンとマス目番号が振られている。

 隣にいる人魚の少女がお小言をこぼす。

「サッバのバカ! 海図の名前で報告しろって教わったでしょ! ちゃんとやってよ!」

 

「ちょ、ちょっとうっかりしてただけだ! アジ子は黙ってろよ! えーと、あれ?」

「サッバ兄ちゃん、海図が逆さまだよ」

 年少の魚人少年に指摘され、サバの魚人少年サッバは顔を真っ赤にして海図をひっくり返す。

「き、気づいてたよっ! うるさいなあっ! えっと、俺達の場所は……」

 

 ちんたらちんたらとやっているサバの魚人少年に、アジの人魚少女アジ子は我慢できず。

「もう焦れったいっ! 貸してっ!」

 少女は少年の手元から海図をひったくり、素早く確認。通話口へ報告した。

「陸のお姉ちゃん、海賊船はNゾーン、ボックス7から13へ進んでる!」

 

『Nゾーン、ボックス7から13ね。よくやった』

 褒められて喜ぶアジ子。唇を尖らせて拗ねるサッバ。年少の少年は真面目に海賊船の行方を窺っている。

『先に帰ってろ。後で報酬をやる』

 アンニュイな調子の通信が切れる。十代に届いたばかりの子供達はきちんと仕事をやり遂げたことに誇らしい気持ちを抱き、これから得られる報酬に笑顔を浮かべた。

 

 

 その時、ベアトリーゼはヤマハブルーの未来島エッグヘッド製潜水装備をまとい、ヤマハブルーに白ラインのフルサイボーグ・トビウオライダーに跨って海中にいた。

 

『酔いどれ水夫』を口ずさみながらトビウオの後頭部に貼った海図を確認する。子供達へ渡した粗末な布製海図と違い、リュウグウ王国軍から提供された精確なものだ。

 

「Nゾーン、ボックス7から13か。てことはボックス22の辺りで接敵できるな」

 海図を指でなぞって“獲物”の動きを予測し、ベアトリーゼはトビウオライダーを発進させる。

 

 薄暮時みたいな仄暗く青みがかった闇の中。広域展開していた見聞色の覇気に“獲物”が掛かる。

 シャボンに包まれた木皮木骨製の中型帆船。海獣による曳航は無し。メインマストにでかでかと描かれた海賊紋に覚えはなし。甲板上で恐ろしい潜航にくたびれた海賊達が陽樹の曙光を目にし、大喜びしている様が窺えた。覚えのある顔はおらず、ベアトリーゼの見聞色の覇気を察知した者もいない。

 

 つまりはぶっ殺しても“大きな物語”に影響のないモブ海賊。

 つまりは暇潰しと資金調達が叶う一石二鳥な雑魚。

 

 深海の闇が薄れる海淵の外縁。ベアトリーゼは帆船めがけてフルスロットル。暴虐的加速と荷重。唸る人造心臓。猛る筋肉。相対気流よりはるかに抵抗が強い相対海流を容易く切り裂く。風切り音ならぬ水切り音がヘルメット内に響く。

 魚雷さながらに疾走し、瞬く間に海賊船へ到達。その頭上を通過する間際、ハンドル付け根にゴテゴテと並ぶスイッチとダイアルを操作。自動操縦モードに切り替えて自身は海賊船へ飛び込む。

 

 前転六回から身体を伸ばしてトリプルアクセルし、船首飾りへ膝に良くないヒーロー式三点着地。

「やあ、名も知らぬ海の害虫共。海底へようこそ」

 予期せぬ闖入者に驚愕する海賊達。ベアトリーゼはヘルメットの昆虫染みた複眼を向け、

「死ね」

 海賊船に理不尽な暴虐が荒れ狂う。

 

 なんで。どうして。海賊達は理由も分からぬまま、一方的に圧倒的な暴力を叩きつけられた。次々と身体を殴り砕かれ、蹴り千切られ、肘剣で切り裂かれ、カランビットで刺し貫かれ、命を刈り取られていく。

 

 ベアトリーゼは返り血を浴びることなく、舞うように海賊達を蹂躙。海賊船を船首から船尾まで鮮血と肉塊で彩る。

 海賊達は海底の楽園魚人島を目にすることなく、全滅した。末期の言葉を遺すどころか無念の涙を流す暇もないままに。

 

 昆虫面の多機能ヘルメットを操作し、自動操縦中のフルサイボーグ・トビウオライダーを呼び戻して、バイザーを開く。嗅ぎ慣れた殺戮現場の悪臭。ベアトリーゼは艶めかしい唇を細めて官能的に吐息をこぼした。

「シャボンが生きてるし、曳航できるよな?」

 

 ・

 

 ・・

 

 ・・・

 

 ベアトリーゼは拿捕した海賊船をトビウオライダーでえっちらおっちらと曳航し、魚人島傍に設けられた急拵えの作業所へ運び込む。

 制圧された海賊船へ王国の調査官と将兵達が乗り込んでいく。

 

「ヒデェな」

 軍歴ウン十年、悲劇惨劇を見慣れた古参下士官の第一声。調査官と若い将兵は甲板を彩り飾る血と骸、甲板を満たす血と臓物と汚物の臭いを堪えられず嘔吐した。

 

 そして、労働者――所外作業を認められた囚人達(主に陸の海賊達)が海賊船へ乗り込み、王国軍将兵達と同じ反応をした後、死体掃除と甲板清掃を始めた。原形を留めない死体から装備、装飾品、着衣など分別して回収。亡骸や肉塊は一緒くたに大樽へ放り込む。甲板を染める血と肉片と汚物を洗い流す。

 足枷を付け、ポケットのない作業服を着こんだ囚人達が、虚無な目つきで作業を進めていく。

 

 貨物。艤装。船員の私物。船そのもの。調査官がリストに書き込み、大まかな評価査定額を計算する。

「全てこちらの買取で良いんだな?」

 

「それで良い。払いは3割を現金で。残りを商用金貨でちょうだい」

 ベアトリーゼは調査官へ応じ、横目に作業中の囚人達を捉え、言った。

「おい。死体から金歯を抜くことを忘れるなよ」

 

 悪鬼を見るような目を向けてくる囚人達。顔を蒼くする監視の将兵達。

 書類にサインを書き込み、ベアトリーゼはドン引きしている調査員へ馴れ馴れしく笑いかけた。

「金目のものはきっちり回収しないとね」

 

    ○

 

「こんなにくれるの!?」

“海の森”へ向かい、ベアトリーゼは監視通報役に雇った魚人と人魚のガキンチョ達と合流。報酬を渡した。

 旧魚人街(スラム)で鼠のように暮らす浮浪児(ストリートチルドレン)にとっては、駄賃と呼ぶには大きく、給金と評すには安い額。

 

「見せびらかすなよ。カツアゲされちまうぞ」

 ベアトリーゼが喜色満面の子供達へ釘を刺すと、子供達は心得ているように紙幣を着衣の中に隠していく。

 

 嬉しそうに帰っていく孤児達の小さな背中を見送っていると、

「……幼い子供を使うのは感心しないな」

 アラディンが苦言を呈す。隣のジンベエも苦い顔をしていた。

 

「こういうのはチビガキの方が向いてる」

 しかし、ベアトリーゼは意に介することなく言い放つ。

 

 故郷で学んだ経験則。どん底に生きる子供達は小銭やわずかな物資を得るために自ら危険へ飛び込み、必死に働く。自分もその一人だった。

 

 不愉快な記憶を蹴り飛ばすように息を吐き、ベアトリーゼは気分を変えるように言った。

「まぁ、この暇潰しもそろそろ仕舞いだ。ようやく発つみたいだからね」

 

 ガレットとポワールの仕事にひとまずの目途がつき、魚人島から“新世界”へ向かうことになった。ジンベエ達も双子に同行し、ビッグマムの許へ“挨拶”に行くことになっている。

 

 ちなみにこの数日間、ベアトリーゼは双子の逗留する高級ホテルに転がり込み、ビッグマム海賊団の金で高価なルームサービスを謳歌していた。その厚かましさはポワールが『こいつ、頭から齧ってやろうかしら』と毒づいたほどだ。

 

 さらに言っておくと、毒づいたポワールへ『なら、宿の礼にマッサージをしてあげよう』とプルプルの実の力を用いた振動マッサージをし、ポワールに危うく“イケナイ悦び”を覚えさせそうになった。『ワタシの妹に何してくれてんのっ!?』と顔を真っ赤にしたガレットにバターで溺死されかけたけども。

 

 バター塗れになったベアトリーゼは思ったものだ。

 善意を伝えるって難しい。

 何やら遠い目をし始めた蛮姫に、ジンベエとアラディンは揃って首を傾げた。

 

 

 で。

 

 

「ワタシ達が働いている間、随分と楽しそうだったわね」

 赤毛の髪を掻き上げ、ガレットがイヤミを吐く。

 

「私はビッグマムのビジネスと関係ないんだから、そのイヤミは筋違いだよ」

 ベアトリーゼは高級宿の高級ソファに身を沈めながらしれっと嘯く。と、ポワールがいつの間にかベアトリーゼの隣に座り、思春期の初恋少女みたくチラチラと横顔を窺っている。

 

 妹が再び『ベアトリーゼ式マッサージ』を頼もうとしていることを見抜き、姉は額に青筋を走らせた。ワタシの大事な妹に変な癖を覚えさせやがってっ!

「……ポワール。こっちに座りなさい」

 有無を許さぬ語気の強さに、ポワールは渋々姉の隣に移る。

 

 ガレットはジェットエンジンの排気みたいな鼻息をつき、ベアトリーゼをぎろり。

「確認するけれど、“新世界”海上へ出た段階で別れる。それで良いのね?」

 

「それでいいよ。万国まで付き合ったら嫁入りさせられそうだし」

「アンタが義理の姉妹になるなんてお断りよ。ママが言い出しても断固として反対するわ」

 ベアトリーゼの軽口に真顔で反対を唱え、ガレットは自身の座るソファの背もたれに身体を委ねた。

「これは知己として助言しておくけれど、“新世界”の海で今までのように海賊狩りをしていたら、危ない連中と揉めることになったりするわよ。四皇ほどじゃなくても島持ち、縄張り持ちの大海賊や強者が珍しくないから」

「木っ端だと思ったら大物の傘下組織だった、つーことがあるわけね」ベアトリーゼは気だるげに頷く。

 

 横からポワールが接ぎ穂を加えた。

「賞金稼ぎ達も“新世界”で海賊を獲物にしているような連中は曲者ばかりよ。目を付けられると鬱陶しいことになるわ」

「なるほど」ベアトリーゼはソファの肘置きを使って頬杖をつき「要するに、何がどう転ぶか分からないから、軽々にドンパチチャンバラするなと」

 

「そういうことね。まぁ」ガレットはジトッとベアトリーゼをねめつけて「この助言も無駄だと思うけれど」

 ベアトリーゼの取り扱いを大分習得したガレットさん(29歳・独身)。

 

「いやいや。有益な助言だったよ」

 アンニュイ顔に柔らかな微笑みを湛え、ベアトリーゼは言った。

「つまり、やる時は目撃者や証拠を残さず綺麗さっぱり消せってことでしょ?」

 

 ガレットは目を覆った。ポワールは首を傾げる。

「アンタ、本当に“麦わら”とかいう海賊一味なの? 本当はカイドウの百獣海賊団(ところ)だったりしない?」

 

      ○

 

 翌日。魚人島の港は物々しい。

 人騒がせなビッグマム海賊団の使者達がようやく出航するのだ。リュウグウ王国は彼らの出航にトラブルが生じないよう、港の警備に一個大隊を置いていた。

 

 造船学や工学に喧嘩を売っているようなデコレーションケーキみたいな船は、ビッグマム海賊団のタルトシップ。

 タルトシップの船尾にはフルマッチョかつスパルタンな体形の機械化怪魚が、曳航ロープでつながれている。

 その隣にはお魚みたいな外見に太陽紋を掲げる黒帆の帆船。海侠ジンベエが率いるタイヨウの海賊団の船だ。

 

 停泊場で、ハイテクなヘルメットをうなじ後ろに下げた潜水服姿のベアトリーゼが、双子とテカテカマッチョおじさんシュラスコ、ジンベエとアラディンによる航海の打ち合わせに参加していると、何やら騒がしい。

 

 なんだなんだとベアトリーゼ達が顔を向けてみれば、困惑顔の兵士が泣き顔の幼い魚人少年を連れてきた。

「あの、ベアトリーゼ殿。この子が貴方と知り合いと言ってるんですが……」

 

「確かに知ってはいる」

 ガキンチョの泣き顔は見送りに来て泣いた感じではない。ベアトリーゼは幼い少年の目線に合わせて身を屈めて問う。

「どしたの?」

 

「陸のお姉ちゃん。助けて……助けてください」

 少年は涙声で訴える。

 

 よくある話だった。

 昨日。サッバ少年達はベアトリーゼの海賊狩りを手伝って小銭を稼ぎ、旧魚人街へ帰った後、食べ物を買いに向かったところでクズ共に襲われた。

 

 スラムという場所は貧しい者達が寄り集まって助け合いながら生きている、と想像するかもしれないが、実体は弱肉強食の世界に近い。地場のクズ達が弱い者を搾取し、弱い者はさらに弱い者を食い物にする世界であり、妬みと嫉みの目で相互監視する陰鬱な環境だ。

 

 サッバ少年達がベアトリーゼに雇われる様を目撃した他の浮浪児達が、嫉妬からクズ共に密告し、クズ共は嬉々としてサッバ少年達の上前を奪いに現れたわけだ。

 

 サッバ少年は勇敢だった。アジ子と少年を逃がそうとクズ共へ立ち向かった。

 そして、クズ共はこの生意気なガキを意識不明の重体になるまで痛めつけた。逆らえばどうなるか、と嗤いながら。

 

 アジ子少女はクズ共に捕らえられた。ポン引きに売るというようなことを言っていたらしい。

 最後に、怯えて泣くことしかできなかった少年を小突き、『メソメソ鬱陶しいんだよ、雌犬。失せろ!』と蹴りだしたという。

 

 よくある話だった。

 ジンベエやアラディン達、兵士達は義憤とやるせない思いを抱く。何より魚人の幼い少年が陸の女に助けを求めた事実――同じ魚人や人魚ではなく――が彼らの顔を大きく曇らせた。

 

 ベアトリーゼはパウチからハンカチを取り出し、幼い少年の涙を拭う。腰を上げて双子へ言った。

「先に出発してて。すぐに追いつく」

 

「冗談でしょ」ガレットが冷ややかに言った。「小遣いを与えたから情が湧いた? 子供達は気の毒に思うけど、アンタが行ってそのクズ共をぶち殺したところで、何も変わりゃしないわよ」

 

「……わしらが対応しよう。陸のもんが旧魚人街で騒ぎを起こしたとなれば、厄介なことになる。お前さんの話じゃないが、過激派に追い風を与えるようなもんじゃ」

 横からジンベエが申し出た。額に青筋を浮かべている。アラディンも他の仲間達も。

「それに、ポン引きの件は聞き捨てならん」

 

 侠客とは弱きを助け、強きを挫き、渡世なりの秩序を保つ者。彼らの道徳と倫理と誇りは児童売春などという不愉快極まる行いを許さない。決して。

 

 ガレットの言葉は正しく、ジンベエの提案は最善の選択だろう。

 しかし――

 

 ベアトリーゼはパウチからインナーキャップを取り出して被り、

「まあ、2人の言い分が正しいよ。私自身も駄賃をやったガキ共のことなんて知ったことじゃない。奪われる方がマヌケだと思うしね。でも」

 うなじ後ろのホルダーから昆虫面のヘルメットを外し、装着。

 

「不愉快なんだよ。猛烈に」

 複眼がブンッと起動光を放った。

 

      ○

 

 魚人は陸の一般人の10倍の力を持つ、頑丈な種族だ。

 3階の窓から岩の道路へ投げ捨てられても死なないし、さしたる怪我もしない。

 もっとも、窓から投げ棄てられる前に痛めつけられていれば、話は別だ。

 

 最初に投げ捨てられた者は老婆だ。囲った少女達に化粧などを施していた老婆は腰骨を破砕されており、悲鳴すら上げられない。

 次に太った魚人男が通りへ降ってきた。この界隈で売春を商う女衒は両腕を捩じるようにへし折られ、股間を蹴り潰されており、口から泡を吹いている。

 

 異様な事態に住人の魚人や人魚達が何事かと姿を見せる中。売春宿として使われていたアパートから、不気味な昆虫面のヘルメットを被った陸の女が毛布で包まれた人魚の少女を抱き抱えて現れ、アパート前に横付けされていた怪魚のシートに少女を乗せた。

 

 そして、陸の女は街区の端から端まで届く大音声で告げる。

「負け犬共! 今後、子供を売り買いする奴はこうなる!」

 

 陸の女は老婆の頭蓋を容赦なく踏み砕き、通りに脳漿をぶちまけた。次いで、女衒の頭を思いっきり蹴り飛ばす。千切れ飛んだ頭が長々と転がり、通りに真っ赤な線を引いた。

 

 2人を虫けらのように殺した陸の女は奇怪なトビウオに跨り、怯え竦む住人達を無視して去っていった。

 

 

 そのクズ共は街区にちなんで『18クラブ』と名乗っている。

 いや、名乗っていた。と過去形で表記すべきか。

 

 下は12歳、上は20代半ばまでの『18クラブ』の男女はけったいな恰好をした陸の女に一瞬で半殺しにされた後、溜まり場の酒場から引きずり出され、通りに跪かされた。

 

 陸の女は何事かと集まった群衆へ向け、通りの端から端まで届くように吠える。

「よく見ておけ、クズ共! 今後、子供をポン引きへ売る奴はこうなる!」

 

 陸の女はクズ共から奪い取った拳銃で、すすり泣き命乞いする『18クラブ』のクズ共の頭を撃ち抜いて処刑していく。12歳の少年も16歳の少女も例外なく。

 

 クズ共は泣き喚き周りへ助けを求めるも、群衆は女の放つ絶対零度の殺気と冷酷非情さに恐れ慄き、止めに入るどころか声すら上げられない。陸に強い反感や敵意を抱く魚人街の者達が、だ。

 

 女は最後の一人、クズ共のリーダーに向けて引き金を引いた。

 

 カチン。

 

 ビクンッと身を震わせて小便を漏らすリーダー。女は弾切れの銃に舌打ちをこぼし、拳銃をくるりと回して銃身を握り、リーダーの頭へ銃把(グリップ)を思いっきり叩きつける。

 頭蓋骨が割れる音色。眼窩から半ば飛び出す眼球。耳鼻から噴き出す鮮血。崩れ落ちる体躯。

 

 あまりにも凄惨な出来事に慄然と凍りつく群衆へ、女は脳漿を広げながらビクンビクンと痙攣するリーダーを踏みつけながら、もう一度告げる。

「子供を売る奴はこうなる! 足りない頭にしっかり刻み込んでおけ、クズ共!」

 

 そして、リーダーの骸を思いっきり蹴り飛ばした。ピンク色の体液が放物線を描きながらで飛翔し、通り向かいの建物の屋上外壁に激突。圧潰した残骸と血液に外壁の建材が飛散し、粉塵が巻き上がる。

「こそこそ隠れてんじゃねェよ、雑魚が」

 

 昆虫面のヘルメットを被った女はフルサイボーグ・トビウオライダーに乗り、傲然と去っていく。怯え震える群衆達は処刑されたチンピラ共に近づくことさえ出来ない。

 

      ○

 

 かくして、魚人島における“血浴”のベアトリーゼの評判は築かれた。

 竜宮城では『鼻持ちならない嫌な女』とか『爆弾染みた言葉を吐く毒婦』とか散々である一方、さんごヶ丘などの市井では『高額賞金首とは思えぬ気の好い女性』や『金払いの良い上客』等々悪くない。旧魚人街では『残虐な殺人鬼』扱いと『子供を食い物にするクズ共を裁いた義侠』扱い、と評価が難しい。

 

 それと――

 匿名希望の誰かが魚人島の孤児院へ人魚の少女を預ける際、高額の商用金貨を何枚も寄付し、より多くの子供達が保護されることになった事実も、ここに記しておく。




Tips

サッバ・アジ子・名もない魚人の少年。
 オリキャラのモブ。スラムのストリートチルドレンでいずれも孤児。

ガレットとポワール
 原作キャラ。ビッグマム海賊団所属。ビッグマムの実子。
 ポワールはベアトリーゼの振動マッサージを体験し、何か目覚めかけた模様。なお、詳細な描写は省かせていただいた。

ジンベエとアラディン。
 原作キャラ。タイヨウの海賊団。
 魚人島筆頭格の侠客と海賊団の足元で、ホーディ達が好き勝手に勢力を広げていた辺り、ジンベエ達の影響力はかなり落ちていたのだろうなあと。

ベアトリーゼ。
 細かいことは知らん。不愉快だからぶっ潰した。
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