彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
佐藤東沙さん、N2さん、みえるさん、烏瑠さん、誤字報告ありがとうございます。
紅色の優美な帆船がデルタ島へ近づいていく。
「心に帆を掲げて♪ 願いのまま進め♪」
強い陽光と汗ばむ暑気。レッドディーバ号の後甲板に立てられたパラソルの下。紅白の髪を混ぜ合わせるように結い、日よけのツバ広帽を被った歌姫がミニピアノで持ち歌を奏でている。
ミニピアノの愛らしい音色。歌姫の艶やかな歌声。感傷的なバラードが和やかな潮風と柔らかな潮騒と同調する。
「いつだってあなたへ♪ 届くように歌うわ♪」
船員達は微笑を浮かべつつ、索具や船具の手入れをしている。
気づけば、渡り鳥達がマストに留まっていた。翼を休めながら歌姫の歌を楽しんでいる。
気づけば、魚や鯨が歌姫を乗せた船と並走していた。歌へ合いの手を入れるように水面が泡立てられる。
「はぁ~~~~……お嬢、素敵すぎ♡」
「お嬢、最高……♡」
護衛のヤンキー女と埒外女がうっとりとウタの歌を楽しんでいる。
「信じるその旅の果てで♪ また会いたい♪」
ウタはミニピアノでアルペジオと繊細な和音を巧みに奏でながら、ゆったりと歌い終えた。
護衛コンビと船員達が拍手し、渡り鳥達が鳴き、魚や鯨が水面を跳ねる。
いつの間にか増えた観客達へ花のような笑顔を返し、ウタは次に何を歌おうか思案した。自身で作詞作曲した持ち歌……ではなく、エレジア島で出会った友人の鼻唄を奏でることにする。
先ほどの感傷的なバラードと打って変わり、ミニピアノで軽妙なポップを奏で始める。きちんとした原曲を知らないから、歌詞や曲はほとんど自身で補った二次創作チックな代物。
けれど観客達は明るく楽しいポップを喜んで受け入れる。
楽しいリズムに合わせ、渡り鳥達が揃って身体を揺らす。
「飛び交うカモメは、BOAC♪」
楽しいメロディに合わせ、魚や鯨が水面を躍る。
「お魚にも、あのパフューム♪」
サビに入り、護衛コンビや船員達が作業を忘れて手拍子を加えだす。
「ハリキッて行こう♪ 風切って行こう♪ リズムに合わせて、駆け巡ろう♪」
ウタが皆を楽しませている間、後船楼の食堂で護衛頭や航海士などレッドディーバ号の幹部が集まって話し合いを進めていた。
もうじき到着するデルタ島は“蛇穴”だ。
ブエナ・フェスタは間違いなくろくでもないことを企んでいる。それに、島には有象無象の海賊共が群がっている。奴らにしてみれば、ウタは価値が高すぎる。
四皇“赤髪”シャンクスの娘で、強力なウタウタの実の能力者で、大金を稼げる新進気鋭の歌姫で、美しい少女だ。
狙ってくれというような“高価値対象”。
護衛頭は私情を捨てて言った。
「有事に備え、船はいつでも出航できる状態を保て。我々が全滅してでも、お嬢を脱出させろ」
「分かってまさぁ」
「命に代えても」
幹部達は真剣な面持ちで首肯を返す、と伝声管から報告が届く。
『デルタ島から案内舟が接近してきます』
歌姫を乗せた船はいよいよ蛇穴に入る。
で。
麗しきレッドディーバ号が空と海のお友達と別れてデルタ島へ入港し、
「うっわぁー……すっごい賑わってる!」
ウタが前甲板から港の様子を窺い、思わず感嘆をこぼした。
港もその周辺も町も人でいっぱいだった。海賊に闇社会の人間にゴロツキ、ロクデナシ、賞金稼ぎに政府や軍のスパイ。少数の堅気と元々の住民。
シャンクスと旅をしていた頃も、エレジア島を出てからも、いろんな島や街を見てきたけれど、こんなにガラの悪い大群衆はちょっと覚えがない。
港と島の様子を無邪気に眺めているウタと違い、護衛達を始め、船員達は既に警備体制を整えており、我らが姫を何としても守り抜く決意を固めていた。
レッドディーバ号が錨を落とした直後。
立ち入り禁止区域を守る傭兵達に警護され、“使者”がレッドディーバ号へ向かって近づいてきていた。
運営の“使者”を一瞥し、ウタは船員達を見回して告げる。
「皆、気を引き締めて。ここからは“真剣勝負”だよ!」
おうっ! レッドディーバ号の全員が意気軒昂に吠えた。
○
「歌姫ウタ……四皇“赤髪”の娘か」
“道化”の船、その船室。デルタ島内の各所に配置した“目と耳”から、歌姫が来島したことと運営と接触したという報告を聞き終え、クロコダイルは葉巻を吹かす。
「エレジア島の騒ぎが報道されるまで赤髪に娘が居たなんて知らなかったぜ……お前は知ってたのか?」
爬虫類染みた目でじろりと見据えられ、バギーはしかめ面を浮かべてビールを呷り、
「俺も世経の記事でシャンクスに娘が居たことを知ったクチだ。野郎とはロジャー海賊団が解散して以来、マリンフォードのドンパチで再会するまで完全に音信不通だったからな……」
これ以上は話したくないというように切り返す。
「オメェだって面を合わせたくねェ昔馴染みの一人や二人いるだろ。そういうこった」
「……」
一度会ったら絶対に忘れられない顔の“アレ”が脳裏に浮かび、クロコダイルは沈黙でバギーの言葉に同意。話の筋を変える。
「血浴。お前はたしかエレジア島の騒ぎで“赤髪”の娘と縁があるんだったな?」
「随分前のニュースをよく覚えてるね」水を向けられたベアトリーゼは肴のナッツを摘まんで「聞きたいのはウタウタの実? それとも歌の魔王?」
「両方だ」クロコダイルは真顔で「“脅威度”を知りたい」
ベアトリーゼはボリボリとナッツを咀嚼し、ビールで胃袋へ流し込む。
「単純な脅威度だけで言えば、最上位だよ。ウタウタの実の能力を発動させた最初の一音を知覚した瞬間、昏睡して自我意識をウタウタの実が形成する仮想世界へ強制転送される。その世界内ではウタウタの実の能力者が絶対だ。聴衆は抵抗できない」
「なんだそのでたらめな能力は……」バギーは嫌そうに顔をしかめ「防ぐ方法はあンのか?」
「ウタの歌声を完全に防ぐしかないっぽい。覇気で防げるかは未検証」
「歌の魔王ってのは?」
苦い顔のクロコダイルへ説明を続ける。
「ウタウタの実に付随して発生する無差別大量破壊兵器みたいなもん。ウタちゃんが意識を落とすまでひたすら破壊し続ける。止めるためには現実世界と仮想世界で同時に同箇所を攻撃しないとダメ。赤髪海賊団がエレジア滅亡を防げなかったのも、これが理由だよ」
「マジかよ」バギーが顔から血の気を引かせ「なんなんだ、その理不尽な能力は」
「……間違いねェな。ブエナ・フェスタは赤髪の娘を利用する気だ」
クロコダイルは眉間に深い皺を刻む。
「だろうね。本命の狙いは分からないけど……ウタちゃんの異能がカギなんだろう」
ベアトリーゼはビールを呷り、小首を傾げた。
「ただ利用するとして、どうやってウタを従わせるつもりなのか……今も言ったけど、ウタウタの能力は強力だ。一音でも聞かされたら意識を奪われるから、力ずくで従わせることはかなり難しい。何かしらの弱みをついて脅迫するにしても、素直に従うような娘じゃない。それにウタを利用して戦争を起こそうなんてすれば、怒り狂った“赤髪”が即座に乗り込んでくるぞ」
「赤髪の娘を操る手札も用意してある、そう見るべきだな」
クロコダイルは葉巻を吹かしながら渋面を浮かべた。
「想像以上に手が込んでやがる。“何か”をやるために、ラフテル行きのログポースという餌で金と人を集め、これほどの規模の祭りを催し、挙句の四皇の一人娘を利用する気だ。ブエナ・フェスタの奴、死んでも目的を完遂する気だぞ」
「いや、それはない」ベアトリーゼは首を横に振り「戦争仕掛け人なんやってた奴だ。自分が引き起こした“祭り”を見届けて悦に入りたいはずだ。絶対にフェールセーフを掛けてる。クソ野郎らしくね」
ビールを飲み干し、ベアトリーゼは腰を上げた。
「またぞろウロチョロする気か?」バギーが小言のように問えば。
「ちょっくらウタちゃんのとこに行ってくる」
ベアトリーゼはバギーにアンニュイな微笑を返した。
「あんたも親友の一人娘と顔合わせする?」
「誰が行くかバカヤローっ!」
バギーのどこか捻くれた怒声を浴び、ベアトリーゼはからからと快活に笑い飛ばしながら、船室を出ていった。
○
美しき紅の帆船レッドディーバ号。その船室。
会合が終わって“使者”が船を去るや、ウタは背もたれに体を預けて、ぐでーん。
「疲れたぁ……何度やっても、ああいう人の相手って疲れるぅ……」
お疲れ様ですお嬢~立派でしたよぉお嬢ぉ~と護衛コンビが肩揉みとドリンク提供。
会合に同席していたバンドリーダーが苦笑いをこぼした。
「興行の世界の闇って奴さ、お嬢。こればっかりは慣れるしかない」
伝統的に興行は反社会勢力と関わりが深い。というか、反社会勢力自身が興行を商いにしているケースも多い。歌姫美空ひばりを世に売り出した田岡氏が関西最大の暴力団山口組のドンだったことは有名だ。
大海賊時代真っ只中のワンピース世界もこの構造は変わらない。むしろそこら中に海賊共が蔓延る世界ゆえに、人と金が大きく集まる催し事は筋者の助けが無ければ、開催が難しい。
同じく会合の場に着いていた主計長が書類とノートを整理しながら口を開く。
「契約条件と報酬の額はまともだったな。まあ、契約書を交わしてないから何とも言えねェけど」
「実際に払う気があるか怪しいところだ」護衛頭は卓上に残されたレジュメを手にし「このイベントは大雑把に見ても開催に億単位の金が掛かっている。客の天井が5万前後なら客一人当たりの単価が相応の額じゃないと大赤字だ。博奕だけでも相当額の売り上げが出るだろうが……黒字になるかどうか」
「? ? ? どういうこと?」
ウタは音楽と歌のことなら誰にも負けないけれど、“難しい話”は苦手。
護衛頭はウタへ険しい顔を向け、真剣に告げた。
「このイベントは真っ黒ってことです」
他の面々も厳しい顔つきを作る中、ウタはグラスを卓において言った。
「向こうがどういうつもりでも、私のやることは変わらないよ。全力で最高の歌を皆に聞いてもらうだけ」
皆が力強く頷いた。我らは歌姫の願いを叶えるのみ。
「座りっぱなしで疲れちゃった。ちょっと外の空気を吸ってくるね」
ウタは腰を上げ、甲板へ向かう。ヤンキー&埒外が当然のように同行する。
船楼を出て最上甲板に出ると、太陽が大きく傾き、水平線に近づいていた。じきに夕闇がやってくるだろう。
すらりとした肢体を伸ばし、ウタは唇の隙間から愛らしい呻き声をこぼした。声に精神的な疲労が滲んでいた。
コンサートやライブを開催することそのものも大変だけれど、その周辺で蠢く面倒事や厄介事はもっと大変で、ウタはこの手の煩わしさに決して慣れないし、馴染めないし、嫌厭感が強い。
もっとシンプルに皆へ私の歌を届けられたらいいのに。
……気分転換に何か歌おうかな、とウタが考えた、矢先。
ひゅっとしなやかな影が船首飾りに降り立った。
瞬間、護衛コンビがウタを庇いながら得物の柄を握る。甲板で作業していた船員達も腰に差していたナイフや拳銃を掴み、手近な工具などを持つ。護衛頭もいつの間にか甲板へ出ており、ウタの前に立っていた。愛刀の良業物“火蝶楓月”の鯉口を切っている。
「え? え? え? ? ? ?」
大混乱中のウタを余所に、護衛達は船首飾りに立つ侵入者を睨み据える。
マニキュアを塗った爪先を晒す網サンダル。ミニ丈ワンピースの裾から伸びる小麦肌の長い生足。引き締まった腰に巻かれた装具ベルトとブレード。麻の薄生地が陽光を浴び、セクシーなレースアップランジェリーもしなやかな身体の線も全部透けて見える。が、頭から首元までメッシュの大判ストールでフードのように包み、顔はまったく窺えない。
こいつ、ヤベェ。ヤンキー女は直感的に察する。逆立ちしても勝てねェ。
こいつ、ヤバイ。埒外女は本能的に解する。この女は怪物だ。
それでも、護衛コンビに退くという選択肢はない。この化物から歌姫を守り抜かねばならない。たとえ自分達が命を落とすことになっても。
静かに猛る護衛頭が問い質す。
「何者だ」
「争う気はない。武器を預ける」
侵入者は腰に巻いた装具ベルトを外し、船員の一人へ放った。
物憂げな女の声を聴き、ウタは紫水晶色の瞳を瞬かせる。
「まさか――」
侵入者は続けて頭に被っていたストールを下げる。癖が強い夜色のミディアムヘア。アンニュイな細面。目尻が下がり気味の双眸。ただし、瞳は覚えのある暗紫色ではなく、満月のような金色。
「やぁ、ウタちゃん。久し振り」
アンニュイな微笑を向けるその女は“血浴”のベアトリーゼ。
ウタの大切な、とても大切な友達。
エレジア島で別れてから凡そ3年。あまりにも唐突な再会。ウタの目が真ん丸に見開かれた。心の動揺に華奢な身体がぶるりと震え、
「ビーゼッ!!」
感情が歓喜で爆発する。
ウタは護衛達が止める間もなくロケットのように飛び出し、船首飾りに立つベアトリーゼへ飛びつき、
「「あ」」
海水に濡れていた船首飾りは滑り易く。ウタが飛びついたことでベアトリーゼの足元がツルッと。
「「ああああああああ?!」」
蛮姫は歌姫に抱き付かれたまま、海に落ちた。
「「がぼぼぼぼぼぼっ!?」」
完全カナヅチの能力者二人は為すすべなく溺れ。
「「うわあああっ!? お嬢ーっ!?」」
護衛コンビが慌てて海へ飛び込んだ。
○
小麦肌女と紅白娘はレッドディーバの甲板に引き上げられ、塩を掛けられたナメクジみたいなヘロヘロ具合を披露する。
子兎みたくプルプル震えるウタは護衛頭に上等なバスタオルで包まれ、ベアトリーゼに使い倒されたタオルが投げ渡される。扱いに雲泥の差があるけれど、まぁ多少はね?
「いやぁ。参った参った。ナイスでグッドな凄腕美人の私でも海には敵わない」
危うく溺死しかけたけれど、ベアトリーゼはあっけらかんと笑いながら頭をわしわしと拭き、平然とワンピースを脱いだ。
セクシーランジェリーを身につけた艶めかしい肢体。瑞々しい小麦肌。引き締まった筋肉。適量の脂肪。それに幼少から続く荒事暮らしで刻まれた細かな痕。
周囲の視線を意に介さず、ベアトリーゼは半裸姿のまま濡れたワンピースをぎゅうぎゅうと絞る。
「ここで会えるなんて思いもしなかった」
ウタは護衛頭に結われていた髪をほどかれ、丁寧に拭われながら、ベアトリーゼをまっすぐ見た。
「また会えて嬉しいよ、ビーゼ」
キュートな笑みを寄こすウタ。大変な可憐さに護衛コンビがキュンキュンしつつ、その笑みを向けられるベアトリーゼに嫉妬する。
「こっちこそ。ウタちゃんと再会できて嬉しい」
ベアトリーゼはよほど親しい者にしか見せない類の微笑を返した。ウタや周囲が蛮姫の笑顔に思わず見惚れているところへ、質問を投げかける。
「ウタちゃん達もこの島の祭りを楽しみに来たの?」
「ううん」ウタは首を横に振り「このお祭りの主催者から御指名で出演要請されたの。とっても“挑戦的”にね」
「……それ、大丈夫?」
アンニュイな細面に険しくしたベアトリーゼへ、
「心配しないで、ビーゼ。私は渋々来たんじゃないから」
世界最高の歌姫を目指す少女は唇の両端を上げた。勝気に。不敵に。意気軒昂に。
「このお祭りをまるっと乗っ取って、私のライブにしてやるんだっ!!」
華奢な身体から放たれる強大な熱量に当てられ、仲間達も猛烈に士気と闘志を燃やしている。
ベアトリーゼは無邪気に闘志を燃やす歌姫の様子に満月色の瞳を瞬かせつつ、思考を働かせていた。
やっぱり私やワニ公の読んだ通りか。……クソ野郎め。私の友達をくだらねェことに巻き込みやがって。
密やかに深呼吸し、ベアトリーゼは気を静めて何事もなかったようにウタへニッコリ。
「頼もしくなっちゃって。もう立派な“新世界”の女だね」
「ふふん。私だって成長してるんだよ!」
今も成長中の胸を張って得意げに応えるウタ。なお、褒められて嬉しいのか、結い直されたウサミミおさげがピコピコ揺れている。
ウタは上機嫌のままベアトリーゼへ尋ねる。
「ねえ、ビーゼはルフィの一味に入ったんだよね? ルフィもこの島にいるのっ!?」
紫水晶の瞳を期待にキラキラさせる歌姫へ、蛮姫は申し訳なさそうに夜色の髪を掻く。
「や。ルフィはいない。麦わらの一味は今、活動再開に向けて鋭意準備中なんだ。私は独りで新世界に来てて、まあ、いろいろと面倒を片付けてるところ」
「そうなんだ……」
幼馴染に再会出来ないと知り、ウサミミおさげがしおしおと垂れ下がる。も、すぐに気持ちを切り替え、ニコニコ顔で話を続ける。
「今日は晩御飯、一緒に食べようよ! 私、ビーゼにいっぱい話したいことあるし、いっぱい聞きたいことがあるんだっ!」
「そう? お言葉に甘えて御招待に与らせてもらおうかな」
ベアトリーゼも和やかに応じたところへ、船員が預かっていた装具ベルトから小電伝虫の鳴き声がこぼれてきた。
「ちょっと失礼」
船員から装具ベルトを受け取り、ベアトリーゼはパウチから小電伝虫を取り出して通話する。
「こちらは出先中のナイスでグッドな凄腕美人さんですよ」
「なぁに、その挨拶」と微苦笑をこぼすウタ。もっとも、通話相手に“意図”は伝わったらしい。
『ベアトリーゼ。急ぎで少々話がしたいの。会えるかしら?』
貴婦人然とした大人の美声。知らない人だ、と野暮な興味を覚えるウタ。
「今日は夕食に御招待を受けているから、あまり時間を取れないけど、それで良いなら」
ウタを横目にしながらベアトリーゼが答えれば。
『それで構わないわ。では、待ってるわね』
先方は諾と答え、通話が終わる。
「話を折ってごめんね、ウタちゃん。私もいろいろと立て込んでてさぁ」
大雑把に語りつつ、ベアトリーゼは湿ったワンピースを着直して立ち上がり、濡れたストールを被り直す。装具ベルトを腰に巻いた。
「それじゃ、ちょっと出てくるわ。後でまたお邪魔するね」
「え?」
紫水晶色の瞳をパチクリさせるウタへ告げ、ベアトリーゼはパッとレッドディーバ号から港へ跳躍し、
「あ、ビーゼっ!? ちょっと待って――」
ウタは慌てて転落防止柵まで駆け寄り、港を見回してベアトリーゼの姿を探すも見つからず。
「……もうっ! ビーゼったら! 連絡先くらい置いていきなさいよ!」
遺憾の意を訴え、ウタはぷくーっとフグみたく頬を膨らませて唇を尖らせる。姉貴分的友人の気儘な行動に不満を覚えつつも、『そーいえばああいう奴だった』と鼻息をついて気分を変えた。
振り返り、紅白髪の歌姫は護衛や船員達へにっこりと笑う。
「皆、今夜は宴だよっ!」
お~~っ!! 宴好きな赤髪海賊団の傍流らしく、レッドディーバ号の全員が嬉々として喝采を上げた。
デルタ島地下の洞窟の奥で、老いた悪漢が嗤う。
「いよいよ役者が揃ったな……くくくくく」
Tips
ウタ
劇場版キャラ。ウタウタの実の能力者。
劇場版設定では四皇”赤髪”のシャンクスの一人娘(精確には養女)で、ルフィの幼馴染。
劇場版ではメリーバッドエンドを迎えたが、本作では野蛮人の干渉によって破局が消え去った。
現在は赤髪海賊団旗下のレッドディーバ号を駆り、新世界を巡りながらライブやコンサートをしている。
CVは一流声優の名塚佳織、歌唱パートは有名女性シンガーのado
渚にまつわるエトセトラ
奥田民生プロデュースの人気女性コンビ『Puffy』の代表曲(90年代)。
本作では、ベアトリーゼがエレジア滞在中に口ずさんだフレーズなどを元に、ウタが二次創作したという設定。
バギー
原作キャラ。
劇場版『フィルム・スタンピード』ではブエナ・フェスタに与し、会場警備をしていたが、本作ではフェスタに関わらず、クロコダイルとオリ主と組んでタタキを計画中。
オリ設定として、ウタのことは世界経済新聞で報道されるまで知らなかった。
ベアトリーゼ
ブエナ・フェスタが名指しでウタを招聘したと知り、今回の祭りが悪企みの隠れ蓑と確信した。