彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、高秋さん、誤字報告ありがとうございます。


271:海賊大祭ー歌姫ステージに立つ!

 海賊大祭、開幕。

 島の中央付近に設けられたメイン会場は、海のクズ共が放つ生々しい活気と猛々しい熱気、剥き出しの熱量に満ち満ちている。

 いや、熱気に満ちているのは会場だけではない。島全体が野卑で粗野な生気に漲っていた。

 

 メインステージのバックボードを兼ねた巨大なスクリーン、会場や島の各所に設置された映像電伝虫と街頭スクリーンに映し出される司会進行役の“仕切り屋”ドナルド・モデラートと若き歌姫アン。

 

海賊大祭(グレートフェス)、始めるぞぉっ!!」

 モデラートはマイクに向かって叫ぶや、

 

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!

 

 大津波のような歓声が島中から迸った。

 

「まずはお前らの熱気をぶち上げるぜっ! ライブ、スタートだっ!!」

 燃え上がる火にガソリンを投げ込むように、観客のボルテージを更に上げるべく、大きなメインステージ上で演者達の演奏が始まった。

 

 若き歌姫アンが歌うアゲアゲなアイドルポップスを皮切りに、ラッパーのゴキゲンなヒップホップ、ベテラン歌手のムーディなシャンソン、バチバチにキマったハードロッカーのブチギレたハードコアなロックンロール。

 

 メインステージの一段下や各種タワーの下に設けられたサブステージ上で、ダンサー達やサーカス団員達が観客達を盛り上げるように歌や演奏に合わせ、激しく踊る。

 会場のゴロツキ共はあっという間に熱気と音楽に呑まれ、踊り手達と共に踊り、叫ぶ。

 

「チッ! こんなアチィステージなら、レースじゃなくてライブに出るべきだったぜ」

 メインステージに臨む中央水路の船着き場。“海鳴り”スクラッチメン・アプーは自身の船の船首から停泊場の大型スクリーンを見つめながら、思わず臍を噛む。

 

「くだらねェ祭りだったらぶち壊してやろうと思ってたが……悪くねェな」

 ユースタス・“キャプテン”・キッドはパンクロックな愛船ヴィクトリアパンク号の船首で荒々しく笑う。

 楽しんでいるくせに控えめな表現だな、と仮面の偉丈夫“殺戮武人”キラーが仮面の中で密やかに苦笑した。

 

 レースに備えた海賊達が士気を高めている間、会場内に身を置く賞金稼ぎ達は首狩りの機会を探っている。狙い時は勿論、レースで消耗したところだ。億単位、千万単位の賞金首がごろごろいるのだ。慌てる必要はない。

 槍遣いガルドアや脱獄囚狩りジャン・アンゴなど名だたる首狩り人達が選り取り見取りの状況に仄暗く嗤う。

 

 嗤っている者達は他にもいる。祭りで生じる莫大な金とオタカラを狙う与太者達だ。中でもレースに臨む自身の船上に控える“道化”のバギーは、脇に立つギャルディーノから細かく状況報告を受けていた。

 

 耳にイヤホンを装着したギャルディーノは、手元のクリップボードにペンを走らせながら言った。

「レッドチームは警備の目を盗んで中央管理棟に侵入成功、これより通信や警報などのシステムを掌握に掛かるガネ。ブルーチームはレース賭博の集金所を発見したそうだガネ」

 恐ろしいほど有能なバギー旗下の脱獄囚組は、水面下で確実にオタカラ分捕り作戦を進めている。バギー自身がレースに参加しているのはあくまで耳目を集めるためだ。

 

「クロコダイルの奴は?」

「ミスター・ワン……ダズと共に会場内へ潜入中だガネ。それと、情報収集中のイエローチームはやはり海軍の動向が確認できないと言ってるガネ」

「海軍の野郎。悪企みしやがって……っ!」

「アタシらもその一つだろ」

 毒づくバギーを横目にアルビダが鼻息をつく。

「“血浴”のこと、良いのかい? フェスタを殺す気だよ?」

 

「フェスタがくたばろうがどうしようが知ったことじゃねェ。むしろくたばってくれた方が清々するぜ」

 バギーは悪党顔で言い放ち、アルビダへ険しい顔を向けた。

「それより、金とオタカラを分捕ること、でもって上手くズラかることに集中しろ。賭けても良いが、この祭りがどう転ぼうが、金とオタカラを手に入れた後、クソッタレ共が寄ってたかって襲ってくるからな」

 

 目の前に宝船があれば、襲う。それが悪党というものだ。アルビダとて一端の悪党。その理はしっかり理解している。

「分かってる。気を抜いたりしないよ」

 

 いよいよ歌姫ウタの出番が訪れる。

 

      ○

 

 護衛頭達に舞台袖から送り出され、ウタはバンド仲間達と共にステージへ躍り出た。

 本日のウタは普段の白いミニワンピースではなく、黒のジャケットとミニスカ、ガーターベルト付きタイツに可愛いアンクルブーツ、それに髪の色に合わせた紅白の翼飾り。

 

 歌う鳥をイメージした衣装に身を包み、紅白髪の美少女は数万人がひしめく観客とその熱気に一瞬、気圧された。ぶるりと華奢な細身が震える。

 それは不安や恐れではない。父“達”譲りの勇気に満ちた心は大観衆と熱量を前に一層強く奮い立ち、不敵な昂ぶりが込み上がった武者震い。歌姫が意気軒高な証。

 今からこの数万人を相手に歌える喜び。今からこの数万人に歌を聞かせられる楽しみ。このライブを自分のものにしてやろうという意気込み。

 

 紅白髪の歌姫がヘッドセットマイクのスイッチを入れ、叫ぶ。

「みんなーッ!! ウタだよーッ!!」

 バックボードの巨大スクリーンや島内各所のスクリーンにウタの可憐な笑顔が映され、デルタ島が沸騰した。

 

 ウタは観客達へ向かって手を振りながら、ステージを端から端までスキップで巡る。手を振る度に観衆が沸き、大嵐のような歓声が上がる。ファンらしき連中がウタのバンドロゴ入りタオルやペンライトを高々を掲げ、猛烈な声援を寄越してくる。

 

 広々としたメインステージの中央に立ち、肩越しにバンドメンバーを一瞥。信頼する仲間達の笑み、バンドリーダーの不敵な首肯を受け、ウタは右手を高々と上げ、吠えた。

「始めるよっ! 私の歌を聞けーっ!!」

 

 次いで、バンドが完璧な一音を発した瞬間、大観衆は一瞬で音曲に引きずり込まれる。

 強烈なロックナンバーの前奏が流れ、曲調に合わせて全身でリズムを取りながら、ウタは発声した。

「散々な思い出は悲しみを思い出を穿つほど♪」

 

 パンチの利いた旋律と攻撃的な歌詞。挨拶代わりの挑発的な一曲目で、ウタは大勢の聴衆をひと呑みした。感情を爆発させたようなその歌声は、ウタを“赤髪”の七光りなどと侮った見方をしていた者達を一発でノックアウトする。

 すらりとした肢体から発せられる歌が、万の聴衆を熱狂させていく。

 

「親の七光りと能力頼りかと思ってたが……こいつぁ想像以上だっ!」

 中央管制塔の屋上から会場を見下ろし、ブエナ・フェスタは喜色満面の狂笑を上げた。

「こうでなくっちゃなぁっ!!」

 

 メインステージ裏でダンサー達を統括指揮している人食い道化(カニバル・クラウン)メンヒル・モロネヴもまた、大きな口の両端を限界まで吊り上げていた。

 ――素晴らしいっ! 彼女こそ我が神アブスルドの巫女に相応しいっ!!

 

 ウタは続けて二曲目へ移った。挑戦的な一曲目から大きくベクトルを変え、インパクトの強いダンスミュージックが奏でられ、歌われる。

「半端ならKO♪ ふわふわしたいならどうぞ♪」

 

 会場でも船上でも、ノリの良い観客達が早速踊り出す。一部の狂信的ファンの連中がオタ芸を始める。

 会場に臨むVIP用ボックス席で、ベアトリーゼはステューシーと共に冷えたシャンパンを口にしながら、バギー一味と元CP9の暗躍をサポートするため、見聞色の覇気を展開、電子戦染みた捜索追跡と対抗妨害を繰り広げていた。

 

 といっても、会場周辺で繰り広げられる不可視の戦場は、滅茶苦茶だった。

 悪企みをしている海賊や賞金稼ぎ、ゴロツキ共にスパイ達の中にいる手練れの覇気使い達が見聞色の覇気を飛ばし合い、探り合いと妨げ合いの大混戦が起きていた。それは電伝虫を用いた念波通信の情報戦でも同じこと。いうなれば、不特定多数のハッキング大乱闘だ。

 

 目に見えぬ大規模な混戦乱闘を余所に、歓楽街の女王がウタのステージを眺めながら呟く。

「歌唱力は満点。歌の詞や曲の構成も良い。ただし、曲そのものがいささか“子供向け”っぽいわね」

 ステューシーは歓楽街の統治する文化人だけに、音楽にも一家言あるらしい。

 

「若い奴らには分かり易くて良いんじゃないの?」

 25歳のベアトリーゼはウタの曲を聞き流しながら見聞色の覇気を操り、不可視の大乱戦に意識を注ぐ。有象無象が好き勝手に発している見聞色が邪魔で、自身の捜索追跡と妨害が上手く働かない。あああ、もう鬱陶しい!

 

 ベアトリーゼがアンニュイな美貌を酷くしかめていると、三曲目を歌い終えたウタがMCを始めた。ステージ上を歩きながらバンド仲間達を順番に紹介し、紙コップの塩ハチミツレモンを呷って、四曲目へ入ろうとしたその時。

 

 会場や島内各地に据えられた電伝虫のスピーカーから、ソリッドなエレキギターサウンドが響き渡った。

 

「え?」ウタは目を瞬かせ、背後を振り返る。が、エレキギターを抱いたバンドマンは首をブンブンと横に振る。実際、彼はまだ演奏を始めていなかった。

 

 ステージの困惑は瞬く間に会場全体へ広がり、島内全域に伝わるまで、そう間が空かなかった。

 デルタ島そのものが戸惑う間も、スピーカーからシックな調子でエレキギターのメロディが流れていく。

 徐々に疾走感を上げていく旋律。おそらくAパートが終わった瞬間、演奏にベースとドラムが加わり、曲はまるでノックアップストリームのような勢いで昇り始める。

 あまりにもメタリックなパワープレイ。繊細に刻み込まれる単音。華麗なストローク。スパルタンなトーンに差し込まれる甘く艶やかなハーモニクス。全てが魔術がかった音の奔流にウタは驚愕し、観衆は圧倒された。

 

 いったい何が起きているのか、と惑うウタと観衆。中央管制塔やステージ裏のスタッフ達は既にパニックへ陥っている。

 

 並の歌手なら、混乱のあまり立ち竦んでしまったかもしれない。だが、ウタは違った。音楽の島エレジアが島を挙げて才能と素質を認めた音楽の申し子。

 激しいヘヴィメタルの演奏の奥に宿る積み重ねられた演奏能力と豊かな音楽的背景を読み取る。

 

 このギターの人……只者じゃないっ!

 

 そして、ウタはただ自身の感性に従い、ステージ上でスピーカーから流れる激烈なヘヴィロックの音色と音律に身を委ね、踊り始める。ウタのパフォーマンスに釣られるようにサブステージの踊り手達も、大観衆もまた踊り出す。

 

 会場が熱気を取り戻す中、中央管制塔にいるフェスタは慌てふためくスタッフへ怒声を浴びせる。

「どうなってやがんだっ!?」

 

「どこかから強力な念波が無作為に垂れ流されてまして、それがグレートフェス用の念波網に流入してしまっているようですっ! 今、乱入した念波を排除しようと総力を挙げてますっ!」

 スタッフの言い訳染みた報告を聞き、フェスタは予期せぬ事態に自身の計画が乱されて苛立ちながらも、この強烈な闖入に祭りの更なる盛り上がりを見た。

 となれば。祭り屋として下すべき判断は一つ。

「構わねェ、つなげっ! ちっと予定が狂うが、構やしねぇ……っ!」

 

 フェスタは叫ぶ。

「対バンだっ!!」

 

      ○

 

「社長、なんか他所のライブ会場と対バンみたいになっちゃったんスけど……」

 グランドライン前半“楽園”某島のライブハウス。巨大電伝虫の管理スタッフが青い顔で報告した。ステージ背後に据えられたバックモニターにはどこぞの人で埋め尽くされた大会場と、巨大ステージに歌手らしき美少女が映っている。

 

「構やしねェよッ! どこのライブ会場だろうが相手が誰だろうが、なーんも問題ねェッ!」

 箱を揺るがすほどの大歓声を浴びながら演奏するソウルキングWithブラックヘヴンへ、ギンギンムラムラの熱視線を注ぎつつ、金髪中年女性の社長は怪鳥のような哄笑を上げた。

「アタシのソウルキングとブラックヘヴンは今日もとびっきりファッキン・キレッキレだっ!」

 

 社長は吠える。まるで戦叫を轟かせる魔女のように。

「やれ、ファッキン・ガイズッ!! 向こうのファッキン・リスナー共を全部搔っ攫っちまえっ!」

 

 ステージ上でソウルキングことブルックは舞台袖でがなり散らす社長を一瞥し、横目でベースとドラムが頷く様を確認。

 ブルックはシャークの名の通り鮫を模したボディのギターを抱え、最後のCパートに入るや図太いパワーコードを奏でる。遥か昔の故郷で培った音楽の知識。最高の仲間達と船上で奏で続けた経験。数十年に渡る孤独の中で積み重ね続けた演奏のノウハウと哲学。

 

 そして新しい仲間達に対する想いを込めて最後の一音を奏で終え、ブルックは巨大電伝虫に向かって右人差し指を突きつけ、

「私はソウルキングッ! デスメタルユニット・ブラックヘヴンのボーカルにしてメインギターッ!」

 映像電伝虫の向こうにいる歌姫へ宣戦布告した。

「全力で演奏()りな……じゃないと……そっちのライブを食っちまうぜっ!!」

 

 映像に映る紅白髪の歌姫は宣戦布告を受けて一瞬、紫水晶色の瞳をパチクリさせた後、父譲りの不敵な笑顔を浮かべた。次いで、返答代わりに煌びやかで伸びやかなアッパーチューンのナンバーを披露する。

『私は最強ぉ―――――――――――ッ♪』

 攻撃的で挑戦的なアンサーソングに会場どころか島全体が揺れるほど沸き立ち、ブルックのライブハウスも激しく沸騰する。

 

 このお嬢さん、生半ではありませんね……っ!

 卓越した歌唱。卓抜した技巧。この少女は天才だ。しかも、その才能を直向きに研鑽錬磨している。おそらくこれほどの実力を備えながらもまだ“未完成”。ライブ中の今現在も成長中。

 可憐な歌姫の実力に戦慄を覚え、ブルックもまた大いに笑う。

 なんという幸福でしょう……っ! これほどの才能と共演の機会に恵まれるとは……っ!! これは全力でお応えせねば男が廃るというものっ!!

 

「いきますよ、皆さんっ!!」

 ブルックは仲間達に声を掛け、紅白髪の歌姫の曲が終わるや否やカウンターソングを返す。

「骨(ボーン) to be wildッ!!」

 

     ○

 

「いったい、何がどうなってんだ……? ? ? ?」

 ステージバックボードの巨大スクリーンに映し出されたアフロ骸骨とデスメタルバンドを見て、ベアトリーゼは呆気にとられる。

 

 原作通りにソウルキングやってんのかと思ったら、なんだブラックヘヴンって。そんなの知らんぞ。それにこの曲はどーしたっ!? ソウルキングの劇伴曲ってもっとしょーもないコメディバンドみたいな奴だったろっ!? ガチのハードロックじゃねーかっ!!

 

 隣でステューシーがシャンパンを口に運び、唖然としているベアトリーゼをちらりと見た。その眼差しは犯人を見つけた探偵みたいだった。

「“やっぱり”妙な展開になってきたわね」

「やっぱりとはなんだ、やっぱりとは。私は“これ”に全く関係ねーぞ」

 ベアトリーゼが鼻白むも、白い貴婦人は優雅な微笑を返した。

「でも、あの骸骨君。貴女の御仲間でしょう? 貴女絡みと言えるんじゃないかしら?」

「それは拡大解釈や曲解というものではないかなぁって……」

 尻つぼみに声が小さくなるベアトリーゼに、ステューシーはくすくすと上品に喉を鳴らす。

 

     ○

 

 ライブは予定時間を超え、レース開始時刻に踏み込んでいた。しかし、文句の声はどこからも上がらない。

 レースに臨む血気盛んな海賊達さえ、ライブの対バンに見入り、歌姫とソウルキングの歌に聞き入っている。誰も彼もがこの共演に引き込まれていた。

 

『そろそろ最後の曲だ……とびっきりのナンバーをやらせてもらうぜっ!』

 巨大スクリーンないでド派手な装いのアフロ骸骨が鮫のようなギターを掲げ、告げる。

『聞いてくれ……“新世界(ニューワールド)”』

 本来はR&BスタイルのJPOPだったそれは、デスメタル狂いの社長の手によりロックンロールに編曲されていた。

 

『ある英雄の話♪ 王になる男の話♪』

 その始まりのフレーズに誰もが思い浮かべる。前人未到の偉業を成し遂げた大海賊を。刑場に露へ消えた伝説の男を。

 ラジオ代わりの電伝虫から流れる曲に、海賊王の右腕と呼ばれた元海賊は亡き友を偲びながらグラスを呷った。

 

『その手に余りそうな大きすぎる夢♪ アイツが言えば叶う気がした♪』

 街頭スピーカーから流れる曲を聞き、海賊島ハチノスを統べる老海賊は数十年前に死に別れた男を思い返す。途方もない野望を口にし、叶えられなかった男を。

 

 間奏にソウルキングの情緒たっぷりな超絶技巧ギターソロが走る。骨太なパワーコード。荒海を切り裂くような力強いタッピング。それでいてバイオリンのような甘く艶やかなハーモニクス。

 

『Today is the day ショーが始まるぜ♪ 選ばれし者達が目指すあの海で♪ Today is the day 夢へ発つ船出♪ 憧れた世界へケリを付けに行こう♪』

 世界のあちこちで海賊達が、海賊になりたいと思う者達が、グランドラインを目指す者達が、電伝虫やスピーカーを見上げる。そこから流れる歌に心を馳せる。

 

『For the New world♪ For the New world♪ For the New world♪ 世界は変わる♪』

 ウタもまた引き込まれる。なぜなら、この歌の詞に込められた思いが――

 

 最後の一音が終わった時、全ての観客が魂の震えを声にして吐き出す。雄叫び。絶叫。咆哮。まさに大歓声。

 誰もがソウルキングがこのライブを、今日この日の伝説にしたと思った。数多の興行を手掛けてきたフェスタも、歓楽街を支配統治して娯楽に深い造詣を持つ女王ステューシーも、世界規模で報道を牛耳るモルガンズも、ソウルキングとブラックヘヴンが演奏(プレイ)したこのライブは伝説になった、と認識した。

 しかしそれは正しくもあり、過ちでもあり――

 

「ソウルキング。本当に凄い曲をありがとう。私も最後に一曲歌います。聞いてください」

 歌姫がマイクに吹き込む。

 

「――新時代はこの未来だ♪ 世界中全部変えてしまえば♪ 変えてしまえば♪」

 若き歌姫の情熱がそのまま音色になったかのような熱いボイスとサウンドで、それは始まった。

 

「見えるよ新時代が♪ 世界の向こうへ♪ さぁ行くよNew world♪」

 鮮烈な疾走感を覚えさせるテクノポップ調のメロディに歌姫の艶やかでパワフルな歌唱が勢いを加速し、聴衆の心を震わせ、躍らせ、跳ねさせる。

 

「綱渡りみたいな運命♪ 認めない戻れない忘れたい♪」

 シャボンディ諸島の一角。サウザンド・サニー号を護るように佇むバーソロミュー・くまは巨躯にとまった鳥達と共に、静かに海を見つめている。

 監獄船から逃亡に成功したジュエリー・ボニーは、運良く流れ着いた島で、一人ぼっちで海を見つめている。

 未来を築くエッグヘッドの巨大な研究所。老いた天才科学者は一息入れるべく部屋を出て、バルコニーから視界いっぱいに広がる海を眺めていた。

 

「信じたいわ♪ この未来を♪ 世界全部変えてしまえば♪ 変えてしまえば♪」

 黒ひげと呼ばれる新興大海賊が下品な仲間達の喧噪を余所に、野心と野望に満ちた眼差しを海へ向けていた。

 革命軍総司令官は総司令部の一角に佇み、水平線を見つめている。その先にそびえ立つ赤き土の大地の頂に巣くう“敵”を睨むように。

 

「新時代だ♪」

 歌姫が全身全霊を込めて最後のワンフレーズを歌い終えた時、会場とデルタ島の観客はもちろん、電伝虫を通じてライブの歌曲を聞いていた全ての聴衆観衆が爆発的大歓声を上げた。

 

 それはソウルキングの『新世界』とウタの『新時代』が対になって生まれた感動の大噴火であり、このデルタ島ライブが伝説として完成した証拠だった。

 

 

 

 

 

 

 そして、デルタ島そのものが喝采を上げるように、島中央の円形湖からノックアップストリームが立ち昇り、シャボンで包まれた小さな島が露わになり――

 

「何やら楽しそうな祭りをやってんじゃねぇか」

 

 破壊的閃光が走り、小さな島が砕かれ、暴虐的な衝撃波がデルタ島を呑み込んだ。




Tips

ウタ
 劇場版キャラ。オリ主と関わったことでオリチャートを生きている。
 作中で歌った曲は基本的にFILM RED準拠だが、一曲だけ同ボーカルの曲が交じった。

ブルック
 原作主要キャラ。オリ主のせいでオリチャーを進行中。デスメタル狂いの社長の下、ブラックヘヴンというオリ設定グループと共に活動している。

 作中で歌っている曲はワンピのキャラソン。ただし、本話登場時の歌詞なき曲はアニメ課長王子のOP/劇伴曲『CAUTIONARY WARNING』。なぜかというと、同曲はアニメ内でロックバンド『ブラックヘヴン』の曲という設定だから。

突発的な対バン
 デスメタル狂いの社長が巨大映像電伝虫の念波通信を無差別に垂れ流した結果(要するに海賊放送みたいなもん)、デルタ島の電伝虫群の念波網に混線した。

最後の乱入者について。
 ブエナ・フェスタ「なんだありゃあっ?! 俺は何も知らねぇぞ!?」

ベアトリーゼ
 これ、私のせいじゃねえから!

使用楽曲コード:27428141,27458687,70345490,70345503,74336592,75527367

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