彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、俊矢20000925さん、烏瑠さん、みえるさん、誤字報告ありがとうございます。


272:海賊大祭――大混乱突入

 魂の王の『新世界』と歌姫の『新時代』が歌いあげられ、伝説が完成した直後。

 

 デルタ島の中央にある円形湖から激烈なノックアップストリームが噴出し、巻き上げれられた海水が噴霧となり、島の頭上に大きな大きな虹を描く。

 

 誰も彼もが何もかも忘れて神秘的な光景と名曲の余韻に浸る中、全ての映像電伝虫のスクリーンにノックアップストリームの先端に浮かぶ小島が映された。

 

 我に返った司会進行役のドナルド・モデラートがマイクに向かって叫ぶ。

「よ、予定が大幅に狂ってしまったが――大いに盛り上がったからオッケーだッ!! さぁ、海賊大祭(グレートフェス)の大目玉っ! オタカラ争奪レースの始まりだっ!! ルールはサルでも分かるほど簡単だぜっ! “どんな手を使ってでも”あの小島にあるオタカラを手に入れろっ! それだけだっ!! そして肝心要のオタカラはぁ」

 

 映像がシャボンに包まれた小島の頂点にズームされ、貫禄のある宝箱が映し出された。

「海賊王ゴールド・ロジャーが遺した最果ての島行きエターナルポースだぁあああああああああっ!!」

 

 海賊王が遺した大海賊時代。四皇“白ひげ”が再点火した大秘宝への情熱。これらの下地があるところへ、この刺激は強烈な反応を生んだ。

 デルタ島に押し寄せた海賊達は地響きを起こしそうな大歓声を上げ、電伝虫を通じて映像を見た視聴者達が吃驚を上げ、海軍や世界政府の関係者は息を呑む。世界各地に散った元海賊王のクルー達は苦笑に似た微笑をこぼす中、バギーが酷く不快そうに顔を歪める。

 

「レース開始のカウントダウン、はっじめるよーっ!!」

 司会進行助手の若き歌姫アンがビジョビジョの実を使って自身の大きな幻影を作り出す。幻影の巨大歌姫が手にしたフラッグを高く掲げ、

 

「3」

 レースに参加する船上で海賊達が舌なめずりし、

 

「2」

 海賊に扮装してレースに参加した賞金稼ぎ達が獲物を狙い定め、

 

「1」

 幻影のフラッグが振り下ろされる。

「0っ! レーススタートォッ!!!」

 

 

「何やら楽しそうな祭りをやってんじゃねえか」

 

 

 小島を浮かべるノックアップストリームの中からマッコウクジラのような黒い船が現れ、その黒船から筋骨隆々の巨漢が飛び出し、大きな右拳に超高出力の覇気をまとって――思いっきり振り下ろす。

 拳と小島が激突したエネルギーが落雷染みた閃光を放ち、小島が破裂するように爆ぜ砕けた。

 

 デルタ島の頭上で音速を超える熱圧衝撃波が生じ、島の地表へ襲い掛かる。

 海賊大祭のために急遽設けられた安普請は軽々と吹き飛ばされ、薙ぎ倒される。島の中央部付近の森林は枝葉が一瞬で焼尽し、黒焦げた幹が墓標のように残った。島の中央部に近かった集落は建物が倒壊し、瓦礫の山や無惨な廃墟と化す。爆心地に近かった船は砕けながら転覆した。

 

 当然ながら、中央の円形湖に近かった海賊大祭メイン会場や水路沿いの観客が受けた被害は甚大だった。衝撃波に薙ぎ払われ、倒壊した建築物に呑まれ、衝撃波で生じた水路の高波に押し流され、爆ぜ砕けた島の飛礫――岩石の雨を浴びて肉を裂かれ、骨を砕かれ。

 

 つい先ほどまで歓声と熱狂に湧いていた場所は、一瞬で惨劇の場と化した。

 粉塵が靄のように漂う中、数瞬の忘我から立ち直った観客達が怒号と絶叫、苦悶と悲鳴、阿鼻叫喚に沸騰する。

 

「何が起きやがったぁっ!!」

 横倒しになった管制塔のブエナ・フェスタや映像電伝虫を通じて祭りを観賞していたモルガンズのような視聴者だけではない。島内の誰も彼もが突然生じた大爆発と地獄絵図に混乱し、憤怒し、恐怖し、同じ疑問を抱いていた。

 未だ念波通信がつながっているのか、スピーカーの一つから『何が起きたんですかぁっ?! 大丈夫ですかぁっ?!』とブルックの心配する声が届く。

 

 ベアトリーゼが倒壊したVIP用観覧席の壁を蹴破って地表に姿を見せる。

 歓楽街の女王に合わせたセミフォーマルな衣装が台無しだった。ジャケットを脱ぎ捨て、タイトスカートの裾を腰まで引き裂く。

 

 続いて姿を見せたステューシーは猛烈な不機嫌顔だった。予期せぬ奇襲を受けたためではない。昨夜、持ち船を焼かれたせいで着替えが少ないというのに、ワンセットを台無しにされたせいだった。

 年齢不詳な美貌を歪め、ステューシーは唇を尖らせた。

「貴女以外でこんな滅茶苦茶な真似する人がいるなんてね」

 

「八つ当たり、良くないよ」

 嫌そうに顔をしかめつつ、ベアトリーゼは最優先で完全に破壊され尽くしたステージを窺う。ウタは……失神しているようだが、怪我はなさそう。護衛達とバンドメンに守られている。友人の無事を確認して鼻息をつき、周囲を見回す。

 

 爆発の影響を受けた半径1キロ半ほどの効力圏内の物質的損害は大。数万人の観客達も大なり小なり負傷し、殺虫剤を掛けられた蜂の巣みたいな大騒ぎだ。パニックに陥った大群衆に付き物の二次災害――倒れて動けぬ負傷者や転倒者が群衆に踏み殺されたり、将棋倒しが生じて圧死者が出たり、水路に落ちて溺れたりしている。

 

 ベアトリーゼは割れてないビール瓶を見つけ、王冠を噛んで剥がす。瓶ビールを呷り、そのぬるさに渋面を作りつつ、瓦礫に腰かけるステューシーへ向けた。

 

 ステューシーは小さく首を横に振って謝辞しつつ、ポケットから取り出した小電伝虫をつんつんと指先で突き、鼻息をついた。

「小電伝虫が失神しちゃってるわ。そっちは?」

 

「こっちも駄目だ。うんともすんとも言わん」

 ベアトリーゼも腰の装具ベルトのパウチから小電伝虫を取り出すが、電伝虫は殻に引っ込んだまま決して頭を出さない。

「見聞色もイマイチだな。覇気使い達がめったやたらに覇気を飛ばしてて滅茶苦茶――」

 

 瞬間、ベアトリーゼもステューシーも、練達の海賊達や賞金稼ぎ達も、一斉に顔を爆心地である円形湖方面に向けた。

 

 一部の無事な映像電伝虫がボロボロのスクリーンに映像を描き出す。

 崩落した円形湖周囲の山稜と小島の土砂で半端に埋め立てられ、蒸発した海水の蒸気が漂うそこに、大きな人影が映っていた。

 

 一陣の風が駆け抜けて蒸気の白幕が裂かれ、人影が露わになった。

 浅黒い肌に金色の長髪。身長4メートルに達する筋骨隆々の体躯。軍服風の黒衣装。眉のない厳めしい凶相に鋭い青眼。何より映像越しでも怖気を誘うほど強烈な暴力の気配。

 

「誰だ、あいつ」

 飲みかけの瓶ビールを投げ捨て、眉根を寄せて訝るベアトリーゼ。その横で、ステューシーが美貌を引きつらせて呻く。

「あれは……まさか」

 

 同じ頃、バギーもまた船上で顔から血の気を引かせていた。

「なんで、あの人がこんなところに―――」

 

「知り合いですか、バギー船長?」

 モージとカバジが暢気に尋ね、アルビダが怪訝顔を作った矢先、バギーが息を飲んでから、

「あの人は俺と同じロジャー海賊団のクルーだった」

 告げる。

「ダグラス・バレット。鬼の跡目と呼ばれた男だ」

 

 

 そして――

 デルタ島の中央。岩塊や土砂で半ば埋まり、海水の蒸気と粉塵が靄のように漂う円形湖の中心。

 凶相の大男は大きな手で古い宝箱を手に持ち、暴力的に嗤う。

「ロジャーの遺した宝、か。クハハハ……面白れェ」

 猛獣のように犬歯を剥き、大音声で島中に宣戦布告した。

 

「この宝が欲しいかっ!? 欲しけりゃあ俺から奪ってみせろっ!!」

 

      ○

 

「上等だ、クソ野郎ッ!!」

 青筋を浮かべたユースタス・“キャプテン”・キッドが叫び、

 

「娑婆に出られたからって、はしゃぎ過ぎだぜ、おっさんっ!!」

 眉目を吊り上げた“海鳴り”スクラッチメン・アプーが怒鳴り、

 

「お望み通り、奪い取ってやる! 宝も、お前の命もなっ!」

 カポネ・“ギャング”・ベッジが大勢の部下達を展開しながら吠えた。

 

 百獣海賊団の旗を掲げる海賊達もまったく怯むことなく、戦意を露わにする。

「ダグラス・バレットがナンボのもんじゃいっ! カイドウさんに比べりゃあ鼻糞じゃダボがッ!!」

 

 ビッグマム海賊団のシンボルを担ぐ海賊達もまた恐れることなく、闘志を剝き出しにした。

「こちとら四皇ビッグマムを仰いでんだ、テメェ如きロートルにビビるかアホンダラァッ!!」

 

 抜け目のない賞金稼ぎ達がこの騒動に乗じて賞金首を獲ろうと動き出す中、

「ダァグラスゥ・バレェットォ――――――――――――――ッ!!」

 血を吐くような戦叫を上げる賞金稼ぎが居た。マスクメロンみたく顔面一杯に血管を浮かび上がらせ、真っ赤に染め上げた双眸でバレットを睨み据えるその男は、賞金稼ぎ集団シードル・ギルドの頭目シードル。

 故郷をバレットに滅ぼされており、その怨恨は骨髄に達している。

 

「テメェら装備をありったけ持って()ォッ!! ヨレてる奴ぁ覚醒剤(ハッカ)で火ィ入れろっ!! シードル・ギルド、総力戦だぁっ!!」

 一言でも反対しようものならその場で叩き殺さんばかりのシードルの剣幕に、シードル・ギルドの賞金稼ぎ達は恐れ慄き、一秒でも早く命令を完了すべく動き出す。

 

「ダグラス……バレット……ッ!!」

 会場警備を担っていた傭兵部隊(スクール)は元ガルツバーグ軍将校が起こした組織であり、デルタ島に派遣された指揮官もガルツバーグ出身。指揮官自身は事件当時まだ子供だったが、バレットが祖国を滅ぼした際の恐怖は心の奥底まで刻み込まれていた。

 

「そ、総員、戦闘用意ッ!! ガルツバーグの怨敵ダグラス・バレットを抹殺せよッ!!」

 震える声で歳若い兵士達へ命じて突撃させると共に、自身は踵を返して逃げ出す。いや、本人は逃亡したつもりはない。組織へ帰還して報告するためだと自分に言い聞かせる。

 

 しかして、最も怒り狂い、激情を抱いていた者は海賊でも賞金稼ぎでも、ダグラス・バレットに縁ある者達でもなく。

「ふ、ふ、ふふ、ふざけんじゃあねええええええっ!!!」

 横倒しになった管制塔の中、ブエナ・フェスタは電伝虫が映し出すダグラス・バレットの宣言を聞き、ブチギレていた。

 人生最後の挑戦を戦闘狂の乱入で滅茶苦茶にされたのだ、そりゃキレる。

 

 フェスタは近くのものを手当たり次第に蹴りつけ、踏み潰し、殴りつけ、投げ散らかし、喚き散らす。

「俺の人生の全てを懸けた祭りをっ! ロジャーが起こしたこの時代をひっくり返すための祭りをっ!! テメェみてぇな与太者に潰されてたまるかぁっ!!!」

 

 完全に据わった目でスクリーンを睨み、フェスタは電伝虫の通話器を引っ掴んで叫ぶ。

「モロネヴッ!! あの小娘を――ウタウタの実の能力者を確保しろっ!! 今すぐっ!! 今すぐだぁああああああっ!!」

 

「好機だ。この混乱に乗じてターゲットを仕留めるぞ」

 そんな怒り狂うフェスタの首を狙い、元CP9の面々が暗殺を目論む。

 

 ともかく、誰も彼もがそれぞれの“戦い”を始めた。

 その一方で、これから起こるであろう大規模な鉄火場から逃げ出す者達も多い。海賊大祭で稼ごうとデルタ島にやってきた商人や娼婦、海賊大祭運営の関係者やこの島の住人など非戦闘員は当然として、物見遊山で海賊大祭へ訪れていたゴロツキ共も尻に帆をかけて逃げていく。

 

 ウタも例外ではない。衝撃波を浴びて朦朧としているウタをバンドリーダーが背負い、護衛達と他のバンドメンが全周警護しながら会場外へ脱出を図っていた。

 

「みんな、むちゃしちゃ、だめだよ……」

 意識がはっきりしないままウタが呟けば、護衛達とバンドマン達は表情を一層険しくし、さらに荒々しく人ごみを掻き分け押し退け蹴り飛ばし殴り倒し、とにかく突き進む。

 

「どけェゴルァッ!! ぶっ殺すぞッ!!」

「邪魔だ……っ!」

 ヤンキー女と埒外女が先頭に立ち、一行の脱出を妨げる群衆をブルドーザーのように蹴散らしていく。

 

 バンドリーダーの背に担がれながら、護衛頭に守られながら、ウタは見た。

 

 一部の海賊達が猛々しい戦叫を上げ、津波の如く凶相の大男へ突撃していく様を。

 一部の賞金稼ぎ達が混乱に乗じ、賞金首の海賊やゴロツキへ襲い掛かる様を。

 怒り狂った男が率いる一団に完全武装を進めさせ、歳若い傭兵達が銃剣を煌めかせながら駆けていく様を。

 

 ウタは感じる。

 数万人の恐れと怯え、怒りと憤り。猛者達の闘志と戦意、殺意と敵意。欲望と野心。大混乱のせいで荒れ狂う人々の強い感情が、ウタの中に宿り潜む魔王を刺激していることを感じ取る。

 

 ――ダメッ! 起きちゃダメッ!

 深淵の中で蠢く魔王を留めようとウタが意識を内面へ注ごうとしたその時。

 

 歌姫の紫水晶の瞳が捉えた。

 爆撃を受けたように荒れ果てた会場の一角。映像電伝虫が映す横倒しのスクリーンの中で、凶相の大男が暴力的に嗤う様を。

『まずは選別だ……っ! 雑魚に用はねェッ!!』

 瞬間、あまりにも禍々しい覇気が発せられた。

 

 恐怖と怯懦の阿鼻叫喚に満ちていたメイン会場は暴虐的な覇王色の覇気に襲われ、群衆の大半が殺虫剤を浴びた羽虫のようにバタバタと倒れ伏していく。

 ウタは失神する寸前で踏みとどまったが、バンド仲間――ドラムと鍵盤、ベースも覇気の暴圧に呑まれ、群衆達と同じく倒れた。

 

 しかし、バンドリーダーと護衛達は足を止めない。ウタは置き去りにされる大切な仲間の姿に、一瞬で意識が覚醒する。

「まって……待ってっ!! 止まってっ!!」

 ウタは恐怖に似た焦燥を込めて叫び、バンドリーダーの肩や背をばしばしと叩く。だが、バンドリーダーも護衛達も足を決して止めず、振り返る素振りすら見せない。

 

「なんで……止まってよっ!! 皆が――」

「お嬢の安全が最優先です」

 護衛頭は険しい顔でぴしゃりと言い放つ。

 

 ウタの顔から血の気が引く。シャンクスとレッドフォース号の皆が大事な家族なら、レッドディーバ号の皆は、ウタがエレジアを出てから初めて得た仲間だ。一緒に旅をしながら共にコンサートやライブをやってきた、かけがえのない仲間なのだ。

「そんなのやだっ! やだよっ!! みんな一緒じゃなきゃやだぁっ!」

 

 ウタの悲愴な涙声を掻き消すように、円形湖の方から強烈な轟音がつんざき、豪快な爆発音や派手な破壊音が聞こえてくる。凶相の大男と海賊や賞金稼ぎ稼ぎ達の戦闘が始まったらしい。

 

「っ!?」

 突如、ウタの目と鼻の先で金属の激突音が弾け、峻烈な閃光と共に火花が飛び散る。

 護衛頭が振るった良業物がバンドリーダーを狙った弾丸を切り払っていた。

 

 ウタ達を取り囲む襲撃者達。その姿はつい先ほどまでサブステージで踊っていたダンサーやサーカス団員達だった。どいつもこいつもガンギマッた目を爛々とぎらつかせ、ウタを凝視している。

 

 尋常ならざる気配を漂わせる道化や踊り子共の中から、肥え太ったピエロが一歩前に出る。硝煙を燻らせる大口径拳銃を弄びながら嘲るように口端を歪め、

「私はフェノメナ大道芸団座長“人食い道化(カニバル・クラウン)”メンヒル・モロネヴッ!!」

 ビッとウタを指差した。

「その少女をこっち寄越すバネッ! そうしたら、お前達を見逃してあげちゃうバ~ネッ!」

 

「わ、私? なんで――」

「お嬢を寄越せだぁっ!? ざけんなボケゴルァッ!!」

「その戯言、許し難い。喉を裂いて舌を引きずり出してやる……っ!!」

 戸惑うウタを護るように一歩前に出るヤンキー女と埒外女。護衛頭は油断なく周囲を窺いつつ、人食い道化へ冷静に問う。

「……なぜお嬢の身柄を求める」

 

「理由は2つ。1つはその娘がフェスタが催す“真の祭り”のために必要だからバネ。そして、もう1つはその娘を我が神アブスルドの巫女にするバネッ!!」

 モロネヴは狂気を露わにしてげらげらと嗤う。

「その娘の歌声は我が神を讃えるためにこそ相応しいっ! 偉大なるアブスルドの巫女として讃美歌を捧げ続けるバネッ! ヒョーホッホッホッ!!」

 

「い、意味わかんないっ!? あの人、何言ってんのっ?!」

 本物の気狂いを目の当たりにして怯えるウタ。

 額に青筋を浮かべ、護衛頭は無言で良業物“火蝶楓月”を片手で担ぐように構え、

「!! 姐御が担いだっ!!」「伏せてっ!!」

 護衛2人がウタごとバンドリーダーを引きずり倒した直後。

「失せろ、クズ共……ッ!」

 武装色の覇気で黒く染まった刀の横薙ぎが走り、

 

「ヒョーホッ……ホァッ!?」

 モロネヴが咄嗟に傍らに控える痩身の少女を担ぎ持ち、

 

 が ご ぉ ん っ !!

 

 衝撃波を生み出すほど激しい轟音が響き渡る。

 信じがたいことに武装色の覇気を注いだ黒刀の大斬撃を、痩せ細った少女の体躯が完全に防いでいた。それも武装色の覇気や異能を使わず、生身で。

 

「ま、マジかよッ?!」驚愕するヤンキー女。

「―――」驚きすぎて声を発せられない埒外女。

「怖い怖い怖いっ! なにあれっ!? どうなってんのっ!?」理解できない光景に本気で恐怖するウタ。

 

 眼前の信じ難い光景と刀身を通じて伝わった手応えに、護衛頭が眉間に深い皺を刻む。そんな護衛頭へ、モロネヴがニチャアと化粧された顔面を大きく歪めた。

「これぞ人体の神秘っ! ヒューマンソードッ!! ヒョーホッホッホッ!!」

 

剣……私は剣……鉄床に突き立つ大業物……

 超被催眠性による絶対的な催眠硬直(カタレプシー)により、痩身の少女は本物の大業物と同様の強度を発揮していたのだ。まさに人体の神秘である!

 

「ヒョホホホ……私をただのイロモノおじさんと思わないことだバネ、“お嬢さん”」

 モロネヴは護衛頭をせせら笑って手下達へ号令を発し、

「さあ、お前達っ! 偉大なる神の巫女を手に入れるバネっ!!」

 サーカス団員とダンサー達がウタ達へ一斉に襲い掛かった。

 

 

「落とし物を見つけたから、届けに来てみれば」

 ――ところへ、長身の女が現れた。両手には失神中の音楽家達――ウタのバンドのドラムとベース、鍵盤が襟首を掴まれ、引きずられていた。

 

「ビーゼ……っ! 皆……っ!」

 歌姫の紫水晶の瞳が潤む。

 

 蛮姫はカルトチックな大道芸団を睥睨し、頭目らしき道化を見据え、告げる。

「私の友達にベソ掻かせて、タダで済むと思うなよ」




Tips

ダグラス・バレット
 劇場版キャラ。ガシャガしゃの実の能力者で、世界最強を目指す戦闘狂。元ロジャー海賊団のクルーだったが、ラフテル行き前に出奔したらしく、ワンピースの正体を知らない。
 原作ではブエナ・フェスタと組み、世界中を戦禍に堕とそうとしていた戦闘狂。

 本作ではブエナ・フェスタと組んでおらず、祭りの情報を聞いて殴り込んできた迷惑な人。

 CVは磯部勉。吹き替え畑で有名な超一流声優であり、豊富なキャリアを持つ超実力派俳優でもある。大河ドラマの出演歴が凄い。

ブエナ・フェスタ
 劇場版キャラ。
 映画スタンピードではダグラス・バレットと組んで世界中を荒らし回ろうとしていたが、本作ではウタを利用して別の狙いがある模様。

 なお、バレットの乱入で計画が台無し状態。脳卒中を起こしそうなくらいブチギレてる。

ウタ
 劇場版キャラ。
 なぜかブエナ・フェスタに狙われている。理由は追々。

護衛頭
 オリキャラ。ただし、キャラ立ちを防ぐため名前や外見の描写は極力省いている。

 横薙ぎの大斬撃……元ネタは残酷時代劇漫画『シグルイ』の虎眼流、流れ。
 虎眼流が太刀を担いだら用心せい!

メンヒル・モロネヴ
 オリキャラ。元ネタは銃夢:LOに登場する殺人ピエロのモロネヴ・メンヒル。
 元ネタ同様に強力な催眠術の使い手。

 技:ヒューマンソード。
 高被催眠性の助手に催眠術を掛け、人体剣として扱う。原作ではゼクスのチタン合金製タイタンブレードによる斬撃を完全に防いで見せた。

ベアトリーゼ
 オリ主。
 ダグラス・バレットとは縁もゆかりもないし、ラフテル行きのエターナルポースなんかどうでもいいし、戦意が湧かない。
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