彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

276 / 279
お待たせしました。

烏瑠さん、N2さん、みえるさん、佐藤東沙さん、ミタさんさん、あや瀨さん、liolさん、誤字報告ありがとうございます。


276:海賊大祭――決戦デルタ島。

「ᛗᛁᛖ ᚾᛖᚷ ᛟᚾ ᚷᛁᛖᚲ ᚷᛁᛖᚲ ᚾᚨᚺ ᛈᚺᚨᛋ ᛏᛖᛉᛉᛖ ᛚᚨᚺ」

 歌姫の禍々しい歌が響く中、神話の光景が繰り広げられていた。

 

 “鬼の跡目”ダグラス・バレットはガシャガシャの実の力を全開し、舟の残骸やら何やらを取り込んで鬼神の如き漆黒の超巨人と化した。

 歌姫ウタは滅びの歌トットムジカを唱え、歌の魔王を召喚。巨大な怪異が現れた。黒兵の軍団を出現させぬ代わりに、その姿は既に四腕と翼を持つ第三楽章形態だった。

 小さな島に巨大な怪物が並び立つ。

 

「なんだ、おい。面白れェもんがいるじゃねェか」

 鬼神のような超巨人になったバレットが嗤い、超巨大拳を道化染みた姿の魔王へ叩きつける。その拳風と衝撃波は島へ激甚な被害をもたらし、沖の海面を激しく揺さぶった。巻き上げられた大量の戦塵と飛沫が空に分厚い暗雲を設ける。

 

 災害級の一撃を叩き込まれたにもかかわらず、魔王は身じろぎ一つしなかった。爛々とぎらつく双眸を細めると、漆黒の超巨人に鮮烈な破壊光線を放つ。

 

「!?」

 バレットが覇王色の覇気と武装色の覇気の重ね掛けで迎え撃つも、破壊光線は超巨人の体躯を軽々と削ぎ抉り、水面に着弾するや大爆発を生み出した。

 

「――やるじゃねェか……っ!」

 背後で立ち昇るキノコ雲を一瞥して相手の脅威度を正しく把握。バレットは笑みを消して真剣に魔王を睨み据え、

「バケモノ染みた奴らと戦ったことはあるが……本物のバケモノと戦うのは初めてだ」

 ケダモノのように犬歯を剥いた。

「殴り殺してやるぜ、バケモノッ!!」

 

 漆黒の鬼神が圧倒的質量と濃密にして強大な覇気の拳を叩きつけ、魔王にたたらを踏ませる。

 歌の魔王がその超常的な余すことなく行使する。鍵盤模様の四腕。破壊光線に黒い稲妻。一つ一つが鬼神を刻む。

 

 鬼神と魔王の戦いにより、デルタ島は見る見るうちに焦土と化していく。島を彩っていた緑は焼き尽くされ、島民が築き上げてきた街は砕かれ、当然ながら島内にいる人々――ウタワールドに自我を囚われた海賊大祭の観客達も島へ乗り込んだ海兵達も、戦いの余波に呑まれ、薙ぎ払われ、薙ぎ倒されていく。

 

 鬼神と魔王がガチンコで強大無比な暴力を叩きつけ合い、デルタ島に地獄絵図が描かれる中――

「あーあーあーあーあー……」

 メイン会場の瓦礫の山の天辺にしゃがみ座りし、ベアトリーゼはうんざり顔で嘆息を吐く。

 

 右を見上げれば、島から生える超々巨大な“鬼”の上半身。

 ダグラス・バレットとかいうオヤジがガシャガシャの実の力で、島内中のガラクタやゴミやあれやれこれやを取り込み、変身した姿らしい。沖の軍艦がメダカに見えるほどデカい。その巨体全体に武装色を巡らし、時折、覇王色の覇気までまとっている。

 まさに漆黒の鬼神。

 

 左を見上げれば、ハロウィン・ホラーなデザインの超々巨大な魔物。

 数年前にエレジアで対峙した時よりもデカく、さらに異形なものに化している。四本の腕と二本の足、さらに巨大な翼を広げている。トンガリ帽子の天辺が楼のようになり、奇怪な力場(エネルギーフィールド)で護られた歌姫が破滅の歌を唱え続けている。

 まさしく歌の魔王。

 

 鬼神と魔王による神話的死闘の下へ目線を下げれば、ウタに操られ続けているゾンビ状態の観衆達が戦いの衝撃波に薙ぎ払われ、薙ぎ倒され。金魚鉢頭の特異な海兵達は負傷した仲間や拘束した一般市民を担いで戦場から撤退する者達と、あくまでウタを捕えようと試みる者達。あの腐れピエロはどさくさに紛れて消えている。

 

 ベアトリーゼは面倒臭そうに立ち上がり、ボサボサになった髪をばりばりと掻き回す。

「どーすんだよ、これ」

 

 特に歌の魔王だ。こいつはギミック系クソボスで、倒すためにはウタが意識を失うか、現実と架空空間の同時同ヵ所攻撃を実現しなければならない。

 前回は赤髪海賊団(特に超一流の見聞色使いヤソップ)と協力し、現実世界と仮想世界の同時攻撃を成功させたが、今回は無理だろう。仮想世界内にいる誰かさんと共闘する術がない。

 

 となると……取れる手は一つ。

 マヌケ面の魔王を暴れさせてウタの体力を消耗させ、早期消滅を促すしかない。もちろんただ暴れさせるだけでは世界が滅びかねないので、あのクソ面倒臭いギミックボスを牽制し続けなければならない。

 まあ、しばらくはあのデカブツ――鬼神化したダグラス・バレットが遊んでくれるだろうが、場合によってはアレの相手もすることになる。

 

「漁夫の利を狙いたいところだけど……上手くは転がらねェだろうなぁ」

 沖に留まる海軍連中もまだ諦めてはいまい。原作では何かとやられ役描写が目立つが、伊達にこの世界の最大暴力機関ではない。状況の推移次第では逆撃を試みる気だ。しつこい。

 つまり最悪のケースは魔王、鬼神、海軍、全部まとめて相手にせにゃならぬ。

 

「もういっそ島ごと吹き飛ばすか」

 蛮姫は面倒臭そうに吐き捨てる。

 

 3キロ×4キロの小さな島だ。後先考えずにプルプルの実の力と覇気、ヒューロンの身体能力を全力でぶん回せば、やれるんじゃないかな。なお、その際に生じる人命の犠牲は考えないものとする。

 あー……だめだ。有象無象はどうでも良いし、ステューシー達や原作ネームド連中は死にゃあしないだろうけど、ウタの仲間が死ぬかも。それはよろしくない。

「ここには軽いノリで立ち寄っただけなのになー……なーんでこうなったかなー」

 

 ベアトリーゼが溜息をこぼした刹那。

 戦闘で飛散した鬼神の欠片がベアトリーゼの顔面を直撃する。瞬間的に高密度な武装色の覇気を展開し、傷一つなかった。が、ベアトリーゼの堪忍袋をはち切れさせるには充分だった。

 

 首をこきりと鳴らした直後、ベアトリーゼはプラズマジェット跳躍。地対空ミサイルみたいな勢いで飛翔し、ガチンコで殴り合う鬼神と魔王の間へ突入して――

 魔王の横っ面目がけて漆黒の右拳をズドン!! 横っ面を殴り抜かれ、魔王が轟音と共に大きく仰け反った。

 

 打撃を放った余勢を駆って捻り込み、漆黒の左回し蹴りを鬼神の鼻っ面にドカン!! 鬼神が破片を飛び散らしながら大きく怯む。

 

 超人的暴力による轟音と衝撃波が島いっぱいに広がる中、ベアトリーゼは落下しながら中指を立てる。

「図体だけの雑魚共がはしゃいでんじゃねえぞコラァッ!」

 

 !?

 瞬間、鬼神と魔王の目が揃って蛮姫に注がれた。

 

      ○

 

 中央水路の右側に鬼神と化したバレットが屹立し、左側に歌姫が召喚した魔王が顕在し、その超常的暴力を叩きつける両者の狭間で、峻烈な炎雷の閃光を曳きながら蛮姫が飛び回り鬼神と魔王をぶん殴り、蹴り飛ばし、斬りつけている。

 

 三匹の怪物が神話的死闘を繰り広げる様はデルタ島のどこからでも見ることができ、バギー海賊団の幹部モージとカバジがバギーの背中を引っ掴んで「ヤベェですって」「今すぐ逃げましょうっ!」と叫び、同盟者のアルビダも小姑のようにバギーの耳元へ「どうすんだいっ!」と決断をせっついている。

 バギー当人は『すっごく嫌な予感がします! 今すぐ逃げたいっ!』という小物的本能と『今更、退けっかぁっ!!』という海賊的矜持がいまだせめぎ合い、答えを出せない。

 

 

 バレットに放置された円形湖では、超新星や生き残った者達がどこか他人事の顔で激戦を眺めていた。

「無茶苦茶だな、ありゃあ」

 砲火を生き延びたアプーがズタボロになった一張羅を弄りながら、舌打ちをこぼす。

「この混沌とした状況なら、島を脱出することも叶うだろう」

 傷だらけのバジル・ホーキンスがいつものようにタロットカードを弄りながら言う。

 

「あれに首を突っ込むとか流石に言わないだろうな?」

 ズタボロのキラーが隣の相棒に問えば。

「クソッタレがっ!!」

 ボロ雑巾みたいなナリのキッドが心底悔しげに毒づく。

 

 ある意味で敗北を認めた超新星達と違い、シードル・ギルドの頭目シードルは全く諦めていなかった。血達磨のシードルは大量出血しながら安静にさせようとする部下達を押し退け、用意させていた『切り札』の許へ向かう。

 

「ボス! 動いちゃダメですってぇ!」「マジで死んじゃいますよぉっ!」

 生き延びた部下達がなんとか止めようとするも、シードルは戦闘覚醒剤で燃え滾った憤怒と怨恨に思考力を焼き切られ、まったく聞き入れない。

「ぅううぅるぅせええっ!! ぅおれェにざわンなぁっ!!」

 左腕を掴んだ紅一点のガラナを手加減なく本気で殴り倒す。

 

 鼻を折られ、しゅっとした顎周りを血塗れにしながらも、ガラナは頭目の身を案じて叫ぶ。

「ダメだ、覚醒剤(ハッカ)をツケ過ぎて完全にブッ飛んでる……っ! 誰か拮抗薬をっ!」

 

「ゆ、ゆゆうゆうるさぁねェぞぉバレットぉおおっ!!」

 シードルは全身の傷からびちゃびしゃと血を流しながら、予備の武器弾薬を置いた場所へ向かっていく。顔貌は狂気と負傷で歪み、バチバチにキマりすぎて毛細血管が破裂し白目は真っ赤に充血、瞳孔が開きっぱなし。よい子が見たらひきつけを起こしそうほどコワい。

 

「こっこっこっこきょー、こきょぉのぉ……っ!! ぜっっってぇにブチこっこっこっこぉーっ!!」

 感情が先走り過ぎてもはや舌も回らず、鶏みたいに喚きながらシードルはデカい脚で弾薬箱の蓋を蹴り開き、中に収めていた『切り札』を目にして血塗れの歯を剥き出しにして嗤う。

「ひぃひひひひぃいいひひひっ!! ぶっこぉーしてやるぞバレットぉおおおっ!」

 

 哄笑するシードルの手に握られた『切り札』。

 その名を『ダイナ岩』という。

 

 

 鬼神と魔王の神話的激闘が繰り広げられる中、討伐任務部隊の司令を務めるプロディ中将は自戦力で作戦遂行は不可能と判断し、戦力の保持を決断。上陸した海軍陸戦隊を島から撤退を始めさせる。撤退命令を受けた兵士達は保護した一般市民と確保した凶悪犯と負傷兵を担ぎ、大急ぎで上陸舟艇へ乗り込んでいく。

 

 だが、島の中心へ突入した評価戦隊は鬼神と魔王と蛮姫の三つ巴に巻き込まれ、身動きが取れなくなっていた。なにせ戦闘の余波は凄まじい。衝撃波が吹き荒れ、破壊光線や稲妻が乱れ飛び、プラズマ炎熱が注ぐ。

 

 ある者達は戦いで生じた陥没孔や物陰に身を隠し、保護した市民や負傷した仲間の手当てなどをしながら、恐怖と怯懦に肝を冷やしている。

 ある者達は唖然茫然として我が身の安全も忘れ、鬼神と魔王と蛮姫の三つ巴を眺めている。

 ある者達は気が狂ったように手持ちの火器で鬼神や魔王へ無意味な発砲を繰り返し、あるいは夢遊病者のように蠢く観衆を無差別に撃っていた。

 

「やめろぉーっ!」

 観衆を撃つ発狂者達をヘルメットを失くしたコビーとヘルメッポが取り押さえている。

「放せっ!! 放してくれっ! お願いだっ! 死にたくないっ!」

「落ち着けバカ野郎っ!」

 ヘルメッポが取り乱す仲間を殴りつけて大人しくさせる傍ら、コビーは暴れる仲間を押さえ込みながら、悔しげに歯噛みする。

 

 鬼神と魔王と蛮姫の人知を超えた戦い。戦いの余波に呑まれ、傷つく人々。流される血。物言わぬ亡骸。為すすべのない自分。

 強くなりたい。魔女の鍋の底に身を置き、コビーは思う。

 もっと強くなりたい。ルフィさんのように、ガープ中将のように。こんな、こんな酷い出来事を止められるくらいに。

 

      ○

 

「ぶんぶんと鬱陶しい蠅女めッ!!」

 巨拳を振り回す鬼神。

「―――――――――ッ!!」

 奇怪な雄叫びと共に四本の巨腕を大蛇のように暴れさせる魔王。

 

「うざったい木偶の坊がっ!」

 ベアトリーゼは身体のあちこちからプラズマジェットを放って人型機動兵器のように飛び回り、鬼神と魔王の攻撃を掻い潜り、繰り出された巨腕の上を突っ走り、鬼神の横っ面を武装色に染めた美脚で蹴り飛ばす。

 

 好機! と言いたげに魔王がバレットに追い打ちの破壊光線を叩き込む。無機物で構成された胴体の一部が爆発して削ぎ落とされ、巨躯を大きく傾げる。

 爆煙に紛れ、ベアトリーゼは魔王の顔面の真正面へ跳躍。魔王の口腔にプラズマ爆撃をお見舞いする。

 爆発。

 しかし、仮想世界と連動していないためダメージにならず、魔王は身じろぎすらしない。

 

「あああああああああああっ!! 本当に面倒くせェな、このマヌケ面はぁっ!」

 ベアトリーゼは苛立たしげに吐き捨て、満月色の双眸を強く吊り上げる。

「普通にぶっ殺せない奴は大っ嫌いだっ!!」

 魔王から破壊光線が幾筋も走り、黒い稲妻が幾条も乱れ飛ぶ。それらの隙間を燕のように飛びぬけ、背後から迫る鬼神の巨大な拳を宙返りで回避。御返しにプラズマ球塊を投げつけた。

 

 再びの爆発。

「きかねェなぁーっ!! カハハハハハハハッ!」

 無機物の巨躯と分厚い武装色で鎧うダグラス・バレットは戦いの歓喜を味わいながら、右の巨腕を高々と振り被り、覇王色の覇気を展開。

 

「ウルティメイト・ファウストォッ!!!」

 赤黒い稲妻をまとう超全力チョッピングライト。

 さながら、空から山が降ってくるような光景。誰も彼もが目を見開き、言葉を失くす。超絶的光景に理解はおろか感情すら追いつかない。

 

「―――ッ!!」

 迎え撃つ魔王は奇怪な雄叫びを上げ、乱杭歯が並ぶ口を限界まで広げて最大出力の破壊光線を放つ。

 激烈な閃光。大気が張り裂かれる轟音。誰も彼もが思わず手や腕をかざして目を庇い、あるいは耳を塞ぐ。

 

 迫る必殺の巨拳。迫る絶死の破壊光線。

「私を量子レベルまで分解する気かよ」

 二つのカタストロフィの狭間にあるベアトリーゼは舌打ち。満月色の瞳を動かし、魔王のトンガリ帽子の天辺で歌い続ける紅白髪の乙女を一瞥。

 

 人造種族ヒューロンの左腕が意思の力――覇気に塗り固められ、漆黒に染まった左拳が時空の壁を打つ。

 空間そのものが鳴動し、波紋を広げるようにたわみ、ひずみ、歪み、曲がり、震え――

 

 

 

 ――――――――――――――っ!!

 

 

 あまりにも凄絶な閃光とエネルギーの放散。

 島の空を覆いつくしていた大量の粉塵も雲も綺麗さっぱり吹き飛び、黒々とした蒼穹が広がり、荒廃しきったデルタ島を陽光が照らす。

 

 雑音の絶えた静寂の中、ベアトリーゼは瓦礫の山にへたり込んでいた。息をするために肩を大きく上下させる度、身体のあちこちから大粒の汗が滴り落ちる。

 

「何を……何を、しやがったぁあああああっ!!」

 静寂を破る怒号がつんざき、ベアトリーゼは疎ましげに顔を上げた。

 

 鬼神は右腕どころか右半身がざっくりと消滅し、左腕を地につけて崩れかかった巨躯を支えている。溢れるほど放れていた覇気が大きく減っていた。かなり消耗したらしい。

 

 対峙する魔王の方はどういう訳か、陶器人形のようにあちこちに亀裂が入り、ひび割れ、末節からボロボロと崩壊が始まっていた。どうやら仮想空間(ウタワールド)内でも戦っている奴がいるらしい。こちらの全面攻撃と重なってダメージが通ったようだ。

 とんがり帽子の天辺では歌姫が膝をつき、肩で息をしながらもなお、絶望の歌を紡ぎ続けている。が、その歌声はか細く力がない。今にも意識を失いそうだった。そのこともまた、魔王が崩壊を始めた理由かもしれない。

 

 目線を下げれば、大勢の観衆と正義を背負わぬ海兵達が地に伏せ、転がっている。動いて暴れられる奴は一人もいなかった。

 

 ベアトリーゼが両手で汗塗れの顔を拭い、疲れた息をこぼした。

「もうじきウタの意識が飛ぶだろーから、マヌケ面はもう片付いたとして……暴力中毒のバカ中年の相手か。面倒くせぇなあ」

 ぐちぐちと文句をこぼしながら立ち上がった、刹那。

 

 

 どっか―――――――――――――――んっ!!

 

 

 半身を失った鬼神の根元で戦術核を思わせるような大爆発が生じる。

「ぇえ……マジでぇ……?」

 ベアトリーゼはドン引き顔で激烈な爆風を浴び、童話のおむすびのようにころころりんと瓦礫の山から転げ落ちていく。

 

      ○

 

 様々なフラグメントが無数に漂うウタワールド。

 

“ソウルキング”ブルックの(タャマスィー)がこもった激奏熱唱と囚われの人々の大合唱が強大なエネルギーとなり、超巨大怪異たる魔王の攻撃を防ぎ、黒兵の大軍勢を食い止め、それどころか、魔王そのものへの攻撃となっていた。

 

 何がどういう理屈でこうなっているのか、誰にも分からない。対バンという条件がこの仮想世界にルールとなって定められたのかもしれない。此処は歌姫一人によって構築された世界。誰も正確なことを把握してない。

 

 いずれにせよ、ただ一つ言えることは、突如として魔王が大きく仰け反り、まるで陶器みたいに身体のあちこちに亀裂が走り、ひび割れ、末節からボロボロと崩壊し始めた。四腕は息絶えた蛇のように、大きな翼は萎れた葉のように、力なく垂れ下がる。津波のように押し寄せていた黒兵の大群が瞬く間に宙へ溶けていく。

 何より、欠片だらけの世界に響き渡っていた破滅と絶望の歌が急速に小さくなっていた。

 

 ファンシーな姿に変えられていた大勢の海賊や海兵、諜報員に賞金稼ぎ、革命軍兵士達が元の姿を取り戻し、ここぞとばかりに魔王へ逆襲を図る。囚われの人々も合唱を止め、魔王討伐と怪異退治の声援を送る。

 

 が、“ソウルキング”は熱奏絶唱を止め、打って変わったように陽気で感傷的な音色を奏で始める。

 ビンクスの酒。船乗りなら誰もが知るシー・シャンティ。

 

 反撃の気運を狂わせるようなメロディに誰も彼もが戸惑う中、ブルックは息絶え絶えの魔王を見つめ、

「寂しかったんですね? 悲しかったんですね? 妬ましかったんですね? 認めて欲しかったんですね? 分かります。よく分かりますよ。私はよく分かります」

 愛する仲間達と死に別れ、独りで50年も彷徨った漢は、優しい微笑みを湛えた。

「貴方も一緒に歌いましょう。歌勝負の最後は皆で歌うものですよ。ヨホホホ」

 




Tips

ダグラス・バレット
 劇場版キャラ。
 諸々の解説によると、人間形態ー中型(カタパルト号と合体)ー大型(島から上半身を生やしたような姿)になる。
 本作では大型化を鬼神と表現。

歌の魔王。
 劇場版キャラ。
 公式によると、第一楽章、第二楽章、第三楽章、と強力化していく模様。
 本作のエレジア編では第二楽章までしか変身しなかったが、今回はいきなり第三楽章形態で登場。

シードル。
 アニメ版キャラ。
 人物描写は完全にオリキャラ化している。アニメ版ファンの人、ごめんよ。

ウタワールド
 劇場版設定。作中の表現は独自描写。
 対バンが成立したことで、魔王との戦いも歌で対抗できるようになった。
 『そういう演出なんやな』と大らかな気持ちで受け入れて頂きたく申しあげ奉り候。

ベアトリーゼ。
 バーンディ編で見せた『是空掌』の打撃版。空間と次元を震わせ、破壊光線と巨拳を消滅させた。ちょっとマクロ的過ぎるかもしれない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。