彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、拾骨さん、太陽のガリ茶さん、誤字報告ありがとうございます。


38:拳骨魔神の拳はとっても痛い

 狂奔。

 ベアトリーゼの身体は激情によって血肉が沸騰していた。反面、頭の芯は自身でもゾッとするほどに冷たく静かで澄み切っている。

 老雄と剣戟を一合交える度、拳打足蹴を一手交わす度、ベアトリーゼの雑念が削ぎ落とされて、意識が戦いに没頭していく。

 

 なぜか分からない。どうしてか分からない。

 ガープに向けて攻撃を繰り出す度、敵意が削られ、殺意が剥がれ、悪意が摩耗し、嫌悪と八つ当たり的な憤りが擦り減っていく。

 代わりに闘志の密度が高まり、戦意の濃度が強まり、戦闘への集中力が研磨される。

 まるで、ガープに負の感情を祓われているように。

 

 平凡な前世では決して味わったことがなく、野蛮極まる今生でも体験したことの無い感覚に、ベアトリーゼは戸惑い、苛立つ。

 だが、苛立ちが肉体の躍動を妨げることは無い。それどころか、身体の駆動は一層純化されている。これまで経験したことがないほど、肢体が思うままに機動する。体を自由自在に思いっきり動かすことの楽しさと快さ。戦闘という形で自己を表現する喜び。

 

 それらはどこか、幼子が父親相手に戯れているような温もりすら感じられ。

 その感覚にベアトリーゼは激情に駆り立てられ、挙動の鋭さがぐんぐんと増していく。

 

 鉄色の拳骨が豪雨となって襲い掛かるも、極限の集中力に達したベアトリーゼは全ての拳打を最小の動作で避け、剛拳の高圧衝撃波を弾丸撃(ゲショシュラーク)で貫き砕く。

 

 かつてフリゲートを轟沈せしめた大理不尽パンチの後の先を取り、ガープが左拳を打ち込む。

 ベアトリーゼが組み上げた展開通りに。

 

 ガープが繰り出した漆黒の拳を滑らかにいなしながら伏打(フェアシュラーク)を打ち込み、一瞬で老将の大きな体の左脇へ回り込む。がら空きの左脇腹――精確に左腎臓の位置を狙い、伏打の衝撃波へ周波衝拳(ヘルツェアハオエン)を重ねるように撃つ。

 上級奥義(オーバーゲハイムニス)周波衝針(ヘルツェアナーデル)

 

 決まれば人体を木っ端微塵に破壊させられる必殺拳も、鋼板を殴りつけたような轟音が響き渡り、ガープの口から数滴の吐血を招いただけ。英雄の肉体は頑健無比な大樹の如く微動にしない。

 武装色の覇気をまとった高貫徹力の拳打も、人体を吹き飛ばして余りある高周波の衝撃も、英雄の肉体を穿てず、砕けず、壊せなかった。

 

 ベアトリーゼは動揺を抑えられない。

 体裁きも運足も技も一挙手一投足が完璧なのに。攻防の読みも戦略も全てハマったのに。

「なんで……っ!?」

 

 呻くように吐き捨てるベアトリーゼへ、ガープは静かに諭すような声音で語る。

「お前さんは強い。その()(たい)に敵う者は早々おるまいよ」

 自身よりずっと小柄なベアトリーゼを見下ろす双眸に深い哀愁を抱いて。

「惜しむらくは……(しん)が足りん。(こころ)に芯が通らぬ強さは剃刀のようなもの。如何に切れ味鋭かろうとも脆い。心魂を伴わん脆い攻撃なんぞ、ワシには通じんっ!」

 

「戯言をっ!」

 ベアトリーゼはガープの放つ右拳を足場にバク宙。着地で溜め込んだ全身のばねを解放し、旋風のように突撃した。

 

 熾烈な激情とは裏腹に、深い踏み込みはかつてないほどに素早く滑らかで一片の無駄もなく。右肘を突き出すように繰り出されたダマスカスブレードの刺突もまた、完璧な挙動で繰り出される。

 

 されど、ベアトリーゼが放った最高の一刺しは、ガープを貫けない。

 青いプラズマ光をまとう頂肘装剣の切っ先は、老雄の肉体を覆う紅い稲妻の覇気に妨げられ、分厚い胸板に届く寸前でぴたりと静止していた。

 

「ありえない。こんなの、ありえない……っ!」

 眼前の認識を受け止めきれず狼狽えるベアトリーゼへ、ガープは叱るように吠えた。

「言うたはずじゃっ! 心を伴わぬ力なんぞ、魂のこもらん技なんぞ、ワシにぁ効かんっ!!」

 

「――っ!」

 叱声を浴びたベアトリーゼは、アンニュイな美貌を憤怒に歪めて鬼札を切る。プルプルの実の能力を行使して漆黒の左掌に超高熱プラズマを生じさせ、

「プラズマ溶解炉(キュポラ)ッ!!」

 全身のばねを用いた掌底打と共に必殺のプラズマ塊を放つ。

“英雄”ガープは真っ向から受けて立つ。赤黒い稲妻を伴う覇気で固められた剛拳を極熱の炎雷に叩きつけ、

 

 どかーん!!

 

 炎雷と剛拳の激突で生じた灼熱の衝撃波が雨を蒸発させ、泥土を速乾させ、植木を干からび枯らす。高圧熱波を浴びたガープの部下達が苦悶を上げながら上官の無事を祈る。

 

 真っ白な蒸気が濃霧のように漂う中――

 ガープはベアトリーゼの眼前に毅然と立ち続けていた。右拳から肘あたりまで酷い熱傷を負い、肩口まで着衣が焼尽し、髭もちょっぴり焦げていたが、その立ち姿には微塵の揺らぎもない。

 ”英雄”は倒れず。

 

「そんな、バカな……っ! こんなのあり得ないっ!」

 マグマすら蒸発させる数千度の超高熱プラズマが拳骨に掻き消されるという、理解の超えた現実に、ベアトリーゼは恐慌を起こして悲鳴を上げた。

 

「小娘よ、ワシが手本を見せてやる。これが――」

 ガープはパニックを起こしたベアトリーゼを真っ直ぐ見据えながら、酷い火傷を負った右腕をゆっくりと振りかぶり、覇気を込めず純粋な拳骨を全力で放つ。

「心魂を宿した拳じゃああっ!」

 

「っ!!」

 ベアトリーゼは避けられない。先ほどまでの鋭敏さが嘘のように失われ、体が思い通りに動かず、咄嗟に両腕を構えて防ぐだけで精一杯。

 そして、英雄の大きな拳骨がベアトリーゼへ着弾する。

 

 

 

 ず ど ん っ !

 

 

 

「ぅぐぁあっ!?」

 ベアトリーゼは小石の如くぶっ飛ばされ、豪邸の外壁を突き破って内壁と調度品を破壊しながら屋敷の奥へ撥ね跳んでいく。

 

 客間を数室ほどぶち抜き、高価な調度品類をいくつもぶち壊した末、

「ヤモォオッ!?」「ぎょええええっ!?」

 奇しくも、ズタボロになったベアトリーゼが転がった先は侵入/脱出用の大姿見がある部屋で、壁をぶっ壊しながら吹っ飛んできたベアトリーゼに、鏡世界(ミロワールド)へ脱出しようとしていたジューコと、ジューコの回収に現れたブリュレは女性として許されないほどの驚愕顔で悲鳴を上げた。

 

「お、お前生きてたヤモッ!?」「あわわわわっ!?」

 驚き慌てるヤモリ女と傷顔魔女。

 

 だが、2人の声はベアトリーゼに一切届かない。

 ガープの拳骨の衝撃はベアトリーゼを完全に貫徹していた。体躯の芯を打ち抜き、骨の髄まで細胞の一片までも激しく揺さぶり、全神経を強く痺れさせ、何より、

 

 途轍もなく“痛かった”。

 

 今生。物心ついて以来、数えることが馬鹿馬鹿しいほど苦痛を味わってきた。反吐をぶちまけてのたうち回るほどの激痛を何度も体験した。死にかけるほどの傷を負ったことだって一度や二度ではない。

 だが、今ガープに叩きこまれた拳は、これまで経験してきたどんな痛みよりも“痛かった”。

 この痛みは決して受容してはならぬと頭の奥で理性が叫ぶ。

 この痛みを受け入れろと心の奥で本能が喚く。

 

「あの、クソジジイ……ッ! ぶっ倒してやる……ッ!」

 ベアトリーゼは身を起こそうとするも、指一本動かない。拳打の衝撃が体の真核を貫徹したため、神経が言うことを聞かない。“痛み”によって戦意と闘志に体が応えない。

 

「このバカヤモッ! とっとと逃げるヤモっ!」「アホっ! さっさとズラかるんだよっ!!」

 ジューコがベアトリーゼの左足を引っ掴み、ブリュレがベアトリーゼの右足を、ズダ袋を扱うように手荒く引きずっていく。

「放せっ! 私はあのジジイと戦うんだっ!」

 激昂するベアトリーゼを無視し、2人が鏡世界へ通じる大姿見鏡へ爪先を踏み入れたところへ。

 

「んー? なんじゃあ、お前らは」

 壁の大穴からベアトリーゼを追ってきた拳骨魔神の御登場。

 

「出たヤモォ――――っ!」「ぎゃああああああっ!?」

 ジューコとブリュレがさながら大怪獣に出くわした一般人のような悲鳴を上げ、

 

「その小娘の仲間なら……お前らも悪党じゃな?」

 ガープがぎろりと眉目を吊り上げて拳骨を振り上げ、

 

「ヤモオオオオオオオっ!?」「助けてお兄ちゃああんっ!」

 三十路のヤモリ女と三十八歳の魔女が恥も外聞もなく恐怖した。その刹那。

 

「力餅ッ!」

 大姿見鏡の中から武装色をまとった巨拳が射出され、ガープを襲う。

「ぬぉおっ!?」

 不意を打たれたガープが咄嗟に右拳で迎撃するも、

 

「トーレント・デ・ブールッ!!」

 今度は大姿見鏡から高粘度クリーミング・バターの奔流が噴出し、

「なんじゃあああああああああああああっ!?」

 巨拳の相手をしていたガープが咄嗟に対応しきれず、バターの奔流に飲み込まれて壁の大穴へ押し流され、

 

「ぎゃああああっ!?」「ヤモ――ッ!?」「がぼぼぼーっ!?」

 同じく押し流されかけた姦しい三人を、大蛇のように伸びた餅が絡め捕って鏡の中へ引きずり込み、直後、大姿見鏡は割れ砕けた。

 

 残るは荒れ果てた麻薬商の豪邸のみ。

 

      〇

 

 モチモチの実を食った餅人間カタクリと、バタバタの実の力を持つバター人間ガレットによって、拳骨魔王の脅威から救出された三人は――

 

 バターに塗れたブリュレは『体中ベチョベチョだよ……』とへこたれ、同じくバター塗れのジューコは『全身ヌルヌルヤモ……』とうなだれていた。

 泥と血とバターでデロンデロンのベアトリーゼは仰向けに大の字のままで動かない。が、憑き物が落ちたように茫然としている。

 

「一先ずは片付いたな」

 カタクリはバター塗れの三人を一瞥した後、モスカートへ顔を向けた。

「後のことは任せる。取引の件だが……分かっているな、モスカート」

「ああ。カタクリ兄貴。相手は政府だ。信用しない」と赤青二色髪の割れ顎弟は頷く。

 

「そうだ。海賊と政府。根本的な敵同士だ。ましてこういう汚れ仕事の取引をするような手合いは、決して信じるな。気をつけろ」

 カタクリは弟の肩を軽く叩き、バター塗れのブリュレに声を掛ける。

「行くぞ、ブリュレ。俺を前線の船に戻してくれ」

「ぅぅう……分かったわ、カタクリお兄ちゃん。あんた達、カタクリお兄ちゃんを送ったら戻ってくるから、ここで待ってな」

 カタクリとブリュレが一旦去っていく。

 

 バター塗れのジューコは疲れ切った溜息をこぼし、モスカートに提案する。

「……とりあえず、休息したいヤモ。あの自称役人と会うのは少し時間をおいてから、はどうヤモ?」

「まぁ、良いだろう。手当てや着替えも必要だろうしな」

 モスカートはジューコとベアトリーゼを交互に窺い、同意の首肯を返した。

 

 ガレットはベアトリーゼの傍らに屈み、ベアトリーゼの顔を覗き込む。

「随分とまあ、ボロボロになったわね」

 

「マスク……外して……」とベアトリーゼが呻く。どうやらマスクに半融解状態のバターが染み込んで息苦しいらしい。

 ガレットはベアトリーゼの布製フェイスマスクを摘まんで首元へずり下げた。

「中々やるようだけど、アタシが助けなかったらとっ捕まってたわ。これは貸しよ。忘れないことね」

 

「……この仕事は共同で当たってるんだから、助けるのは当然なんじゃない?」

「助けてくださってありがとうございます、でしょう、が」

 正論を返してきたベアトリーゼの頬を指先でぐりぐりと突き、ガレットは小さく鼻息をつく。

「アンタは商船の雇われなのよね?」

 

「それが何?」と暗紫色の瞳を動かしてガレットを見上げた。

 ガレットは怪訝顔のベアトリーゼへ居丈高に告げる。

「アタシの部下としてビッグ・マム海賊団(うち)に入れてやっても良いわ。アタシをガレット様と呼ばせてあげる」

 

「そりゃまた」ベアトリーゼは微苦笑をこぼし「せっかくのお誘い悪いけど、誰かを様呼びするような生活は故郷で体験したよ。二度は御免だ」

 

「……せっかく誘ってやったのに。ホントに生意気な奴ね」

 ガレットは再びベアトリーゼの頬を指先でぐりぐりと突く。その顔はどこか残念そうだった。

 

      〇

 

 雨上がり、曇天の夜明け。

 兵士達は一夜で荒れ果てた麻薬商の大豪邸を掃除し、負傷者の手当てと移送に忙しい。

 

「助けに来たのではなく、口封じじゃったか。まんまと謀られたのぉ」

 徹夜明けのガープは替えのスーツに着替え、首にデカい絆創膏を貼っており、右腕には火傷の治療が行われて包帯でぐるぐる状態。

 死体袋に詰め込まれた麻薬商クラックの屍を見下ろし、ガープはしかめ面をこさえる。

「鏡を使って移動する能力者は、たしかビッグ・マムんとこの娘じゃったな。なぜビッグ・マム海賊団が麻薬商なんぞの口封じに動く? それに血浴のベアトリーゼはニコ・ロビンと組んどるはずじゃろ? 2人ともビッグ・マムの手下になったっちゅうことか?」

 

「分かりません」ボガードは端的に上官の疑問へ答え「現状では情報が少なすぎて推論も立てられません」

「家探しでなんぞ情報は見つからんのか?」

「麻薬取引や資産運用の帳簿類は見つかっていますが、例によって暗号塗れですし、解読できる人間はこの様です。精査には時間が掛かるかと」

 ボガードは死体袋を一瞥し、まだ乾いていない中折れ帽を被り直す。

「一つお尋ねしてよろしいですか、ガープ中将」

 

「なんじゃ?」と片眉を上げたガープへ、

「なぜ血浴のベアトリーゼを倒さず見逃したのです?」

 ボガードは疑問をぶつけた。

 

「人聞きの悪いこと言うな。殴り飛ばした先にビッグ・マムの娘が居るなんて想像できるか。ワシはあの後、とっ捕まえた小娘に懇々と説教垂れる予定じゃったんじゃぞ。それをビッグ・マムのガキ共に掻っ攫われるわ、一張羅をバター塗れにされるわ、考えてた説教が無駄になるわ、散々じゃい」

 拗ねたようにそっぽを向くガープに、どうやら本当らしい、と判断したボガードは小さく頭を振った。

「それはそれで、別のことが気になります。どうしてベアトリーゼにそんな“配慮”を? 奴は多くの海兵を手に掛けた凶悪犯です」

 

「……凶悪犯か」

 不機嫌な空模様を見上げ、ガープは仰々しく鼻息をついた。

「ワシには、導くべき大人に出会えなかった憐れな娘に見えたがな」

 

「? それはどういう」

 ボガードが問いを重ねようとしたところへ、通信兵が駆け寄ってきた。

「ガープ中将っ! センゴク元帥が直接報告をお求めですっ!」

 

「徹夜明けにセンゴクの小言か……面倒臭いのぉ」

 ガープは慨嘆をこぼし、電伝虫が用意された部屋へ向かっていった。その足取りはどこか重たい。

 

     〇

 

 マーケット内にある安宿の一室にて。

 ベアトリーゼは装備一式を外し、靴を脱いだ。血と泥とバターでデロンデロンになったスポーツジャージとフェイスマスクをゴミ箱に放り、次いで靴下と下着もゴミ箱へ。汚れ切った髪を結いまとめているパラコードを外し、やはりゴミ箱へ。

 

 素っ裸になったベアトリーゼは浴室に入り、生ぬるいシャワーを浴びる。

 体のあちこちにある傷にお湯が染み、ベアトリーゼは小さく舌打ち。お湯が夜色の髪と小麦色の肌から血と泥とバターを流し落していく。泥と血とバターの油分が排水口に流れ着き、ぐるりぐるりと渦を巻く。

 

 シャワーを浴びながら小さなバスチェアに腰かけ、ベアトリーゼは体に刺さった小さな木片や小石などを抜き取っていく。鏡とピンセットを使って背中に刺さったものも処理する。

 

 擦り傷や切り傷、打ち身の痣が体中にある。それでも深刻な外傷や骨折などは一つもない。

 その事実に苛立ちを覚え、ベアトリーゼはわしわしと髪を洗い、石鹸とボディタオルでガシガシと体を洗う。体中の傷がチクチクと痛んだが、根性と気合で無視。

 髪と身体の洗浄が終わったら、シャワーを止めて湯船に体を沈め、ベアトリーゼは唇を尖らせた。

「手加減しやがって、あのジジイ」

 

 ベアトリーゼは呻くように毒づく。が、その声音は自身も不本意なほど反感や嫌悪が乏しい。それどころか、この苛立ちが一種の好感の裏返しっぽくて余計に腹立たしかった。

 

 憂鬱な気分に駆られ、脳ミソが勝手に自己分析を始める。

 

 ひょっとして、私は無自覚に父性や母性を求めていたのだろうか。

 思えば、今生はロクな大人に出会っていない。

 

 親の顔も名前も知らぬ孤児として育った。荒野のネズミ暮らしの間に出会った大人は、自分達のコミュニティに属さぬ者に冷酷で冷淡な輩か、孤児達を利用して食い物にしようとするクズカスゲスだった。

 

 マシな生活を求めて仕えたウォーロードやその隷下の大人達は、ベアトリーゼを子供として扱わず、異能を持つ兵器として、命令に従う戦闘犬として接してきた。

 

 ベアトリーゼを人間として庇護する大人も、教え導くような大人も、いなかった。

 

 ロビンには師と親と友がいた。麦わらの一味の面々にも親や親に等しい大人がいた。愛情をもって教え導く大人達がいた。

 自分にはいない。誰もいなかった。底の開いた靴みたいな前世記憶と原作知識を頼りに、この世界の非情さと無慈悲さに順応し、必死に生きてきた。必死に、生きてきたのだ。それを――

 

 心に芯が通ってない? 心を伴ってない力? 魂のこもらない技? 好き放題抜かしやがって、あのジジイ。

 

 ベアトリーゼは大きく深呼吸し、肺いっぱいに空気を取り込んでから湯船に顔を突っ込み、

 ふざけんなあああああああああああああああああああっ!!

 お湯の中で絶叫した。

 

 ごぼぼぼと湯面が盛大に泡立つ。肺が空になるまで絶叫し続け、ベアトリーゼは息荒く顔を上げる。

 細かな傷に満ちた両手で顔を覆い、喘ぐように嘆く。まるで道に迷った幼子のように。

 

「……ロビンに会いたいよぅ」




Tips

ガープの覇気。
 独自解釈。
 ガープが覇王色の覇気を使えるかどうかは、現在(2023/1月)まで不明。
 だけど、海賊王ロジャーと渡り合えた男が使えないってことはないだろうから、こういう描写。

トーレント・デ・ブール。
 オリ技。
 シャーロット・ガレットの技。意味は『バターの奔流』。フランス語の理由はなんとなく語感で。

バタバタの実。
 独自解釈。
 原作での情報が足りな過ぎて、実質的にオリジナル悪魔の実状態で描写するしかない。

ベアトリーゼ。
 あれ、私って結構カワイソーな奴なんじゃね? と今更に気づく。

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