彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、誤字報告ありがとうございます。

※ 今話は劇場版FILM REDの内容に触れます。御注意ください

※時系列を間違えていたので、修正しました(2/11)


41:野蛮人は天使の歌声に興味がない

 野蛮人がエレジアへ入島して一週間。

 

 

 王宮のレッスン場に美麗極まる歌声が響く。

 採光窓から注ぐ光を浴びながら歌うウタの姿は、まるで天使のよう。

 

 音楽は芸術であり、学術である。

 楽曲は音の一つ一つを緻密に計算して組み上げられる。ゆえに演奏家や歌手は楽譜からなぜここでこの音程なのか、なぜここで音を伸ばす必要があるのか、といったことを深く理解することが求められる。曲に込められた意図や工夫、思想や想いまで深く把握したうえで、自身の技量と心を込めて表現する。

 その意味において、ウタは歳若くも既に立派な表現者だった。

 

 ただし、どれほど美妙巧緻の技術を持つ表現者であっても、その歌声が全ての人の心を捉えて揺さぶり、魂を歓喜させることは出来ない。

 

 世界的演奏家の音色を前にして欠伸をこぼした者などいくらでもいる。時代を変えたと謳われたビートルズやエルビスを『クソ』と一言で切って捨てた者など大勢いる。一度のコンサートで数百万ドルを稼ぐラッパーを『音楽家気取りのチンピラ』と罵倒する者なんて珍しくもない。

 

 天使の歌声が世界に響き渡っても、世界は変わらない。変えられない。

 腹を空かせた者達に必要なのは歌ではなく食べ物で、血みどろの戦いを繰り広げる者達に必要なのは歌ではなく武器弾薬と医薬品で、難民キャンプやスラムの希望無き子供達に必要なのは美辞麗句の歌詞ではなく真っ当な教育とどん底から這い上がる機会だから。

 

 歌で世界は変わらない。歌で新時代など訪れない。

 その冷厳な事実を、ウタはまだ知らない。

 

 が、ウタも残酷な事実の片鱗を否応無しに気付かされる。

 太々しく厚かましいドラ猫みたいな居候が、一度として自分の歌を聞きに来ないのだ。

 

 ――お前の歌声はこの世界の全ての人達を幸せにすることが出来る。

 心の深奥に深く刻み込まれた大切な、だけど、思い出したくない記憶がウタの脳裏によぎり、一つの疑問を抱かせる。

「……なら、なんでアイツは私の歌を聞こうとしないの?」

 

 

 

 

 王宮の図書室はベアトリーゼのオフィスになりつつあった。

 図書室と書庫を探索し、古エレジア式記譜法の書籍を何冊も搔き集めて、ノートや黒板にメモを書き込んでいる。

 レッスン場の方から、天使の歌声と伴奏のピアノの音色が微かに届いていたが、まったく関心を向けていない。

 

「本当に楽譜を書くためなのか? ほとんど暗号ツールと変わらないぞ、これ……」

 ぼやきながらベアトリーゼは黒い手帳に記されていた古エレジア式楽譜の記号と格闘していた。

 

 さて、ここで少し解説させていただく。

 現代地球において楽譜は五線譜が標準化されているが、五線譜の標準化以前の記譜法は文化圏ごとに大きく異なった。欧州圏の楽譜にしても線数が定まっておらず、東洋では漢文染みた文字譜が一般的で、近代以降は図形譜と呼ばれるものも登場している。

 

 また、楽譜に暗号――あるいは作曲者の遊びが込められた歴史も古い。

 多くは音程にアルファベットを当てはめ、音列に簡単なメッセージを忍ばせる手法が取られ、バッハ、ハイドン、ブラームス、シューマン、ラヴェル、ドビュッシー、ショスタコーヴィチなど錚々たる作曲者達が自身の作品にささやかな暗号を含ませている。

 

 前近代には暗号化を前提にした作曲法も研究されたが、こちらは少々難があった。暗号を前提にした作曲は楽曲として不自然な点が目立ち、逆に不審を誘ってしまったのだ。

 電子技術が発展してくると、デジタル化した楽曲のコードに暗号を含ませる手法が生まれ、楽曲を特定周波数に変換するとメッセージが解読されるものも登場している。

 

 古エレジア式記譜法は文字譜に属するものであり、古代語みたいな怪しげな記号に副記号として数字と別の文字が付属する。

 ややこしい。実にややこしい。

 ベアトリーゼは黒い手帳に記された古エレジア式記譜法の楽譜用記号を読解したうえで、全文を解読しなくてはならない。

 ややこしい。実にややこしい。

 

「何を思ってこんなクソ面倒臭い手を考えたんだよ……」

 ぼやかずにいられなかった。

 

 鉛筆を指の間で踊らせながら、ベアトリーゼは書籍を読みこみ、楽譜を読解し、暗号解読を試み、解析文章が意味を持たなければやり直し。意味を持っても正解か分からないので、保留しつつ、全文の解析作業を進める。

「だいたい、なんで記譜法に違いがいくつもあるんだよ……」

 

 事態をさらに七面倒臭いものにしている要素が、古エレジア式記譜法の変遷だ。

 どうやら前期、中期、後期で微妙に記譜法と読譜が異なるようで、これがまた読解と解読をややこしいものにしていた。

 

「ああああああ、面倒臭い。こんな面倒臭いの、プルプルの実の能力を把握しようとした時以来だ……っ!」

 プルプルの実の力を精確に把握し、理解するためにどれほど調査と実験を重ねた事か。

 

 ベアトリーゼは大仰に溜息を吐き、

「あー、ダメだ。集中力が切れた」

 レッスン場から微かに届く楽曲に意識を向け、ゴードンから明かされた“秘密”を思い返す。

 

 

 ※ ※ ※

 7年前。“赤髪”のシャンクスが娘のウタを喜ばせようと、音楽の街エレジアを来訪した。

 時のエレジア国王ゴードンと国民は海賊の来訪に当初こそ不安を見せたが、シャンクスが堅気に手を出さないピースメイン海賊であることと、何よりウタの素晴らしい歌唱力に魅了され、歓迎したという。

 

 当時、ウタは既にウタウタの実の能力者だったらしい。

 このウタウタの実の能力は、能力者の歌唱を聞いた聴衆を肉体的に昏睡させ、自我意識を能力者の支配する仮想世界へ強制移送する、というとんでもない代物だった。

 これに加え、トットムジカと呼ばれる楽曲を歌うと仮想世界と現実世界に、楽曲と同名の“歌の魔王”なる強大な怪異を顕現させるという、恐るべきリスクを抱えていた。

 

 悲劇は島を去る赤髪海賊団の送別のパーティで起きた。

 ウタは何も知らぬままトットムジカを歌い、顕現した“歌の魔王”がエレジアを襲った。シャンクス率いる赤髪海賊団は総力を挙げて“歌の魔王”からエレジアを救おうとしたが、力及ばず……

 

 島嶼都市国家エレジアは完全に壊滅し、国民は当時エレジア王だったゴードンを除いて死滅。

 不幸中の幸いかウタは何も覚えていなかった。トットムジカを歌ったことも。“歌の魔王”がエレジアを滅ぼしたことも。

 

 異変に気付いた海軍が迫る中、シャンクスは即座に決断した。

 七歳の娘をあまりに惨い真実と罪の意識から守るため、エレジア滅亡の罪と汚名を背負うことを。

 国一つ滅ぼし民を虐殺した海賊と共に居ては、娘の夢――世界一の歌姫になることは叶わない。だから、愛娘を手放して世界最高峰の音楽家であるゴードンへ預けることを。

 シャンクスは迷うことなく決断した。

 

 ゴードンもまた、即座にシャンクスの提案を呑んだ。

 自身の過失で幼いウタをトットムジカに触れさせてしまったと認識していた彼は、この夜の惨劇を己の罪だと認識していた。そして、一人の音楽家としてウタの途方もない才能に魅入られていた。

 自身の過失で国と民を滅ぼしたという自罰自戒意識。音楽家として偉大な才能を育てあげたいという欲。

 

 二つの強い感情に駆られ、ゴードンはシャンクスに誓った。

 ウタを世界最高の歌い手にすると。

 世界中の人々を幸せにし、新時代を切り拓く歌姫に育て上げると。

 

 かくして、シャンクスはこの島を去った。泣き叫ぶウタをゴードンの許に残して。

 ※ ※ ※

 

 

 胃もたれしそうな重たい話を思い返し、ベアトリーゼの感想は二つ。

 真っ先に浮かんだことは――『ウタウタの実ヤバい』だった。

 

 ウタウタの実の能力を宿した生歌をわずかでも聞けば、肉体は強制的に昏睡状態へ陥り、自我意識は能力者が支配する仮想世界に囚われる。挙句、その仮想世界に於いて受聴者は能力者の恣にされてしまうという。

 脱する方法は能力者が現実世界で意識喪失ないし睡眠状態に至って能力を解除する外ないらしい。そのくせ、能力発動中に能力者が死亡した場合、自我意識は仮想世界内に“永遠に”囚われ続けるらしい。

 挙句、無差別攻撃型の戦略級召喚獣付き。

 

 エグすぎて笑えない。

 私の催眠高周波攻撃の超上位互換に加え、四皇でも倒し切れない召喚獣付き。

 プルプルの実の力で音の伝播を狂わせれば防げるか? 歌の魔王と一体化しない限り能力者自身は強化されないみたいだし、歌い出す前に仕留めることが一番確実な方法だな。

 

 続く感想は――『赤髪の娘なんて原作に出てきてたっけ?』という困惑。

 ザルより風通しの良い原作知識に加え、劇場版アニメを全然知らないため、ベアトリーゼは『赤髪の娘』という存在に覚えがなく、『ルフィの回想シーンには出てこなかったよなー?』と困惑していた。

 ただしベアトリーゼ自身、既に原作知識が当てにならないことを体験済みであるし、まあ実際に存在しているのだから現実を受け入れるしかないわな、と飲み込んでいる。

 

 問題はウタがリスキーな存在であることだ。

 強力な異能と危険極まる召喚獣。それに、大海賊のパパ。

 万が一にもウタを害したなら……その瞬間から大海賊“赤髪”シャンクスと彼の海賊団から命を狙われるだろう。シャンクスの敵ということになったら、シャンクスを慕う主人公から自動的に敵認定されるかもしれない。

 

 ヤバすぎて笑えない。

 ベアトリーゼが思わず溜息をこぼしていると、図書室の出入り口にゴードンが姿を見せた。

「そろそろ昼食の時間だが……一緒にどうかね?」

 

「ありがとう。御言葉に甘えるよ」

 ベアトリーゼは黒い手帳を懐へ収め、ノートや書籍をそのままにして図書室を出ていく。

 

 図書室を後にして食堂を目指す道中、ゴードンが何気ない調子で尋ねる。

「解読の進捗はどうだい?」

「一歩進んで二歩下がる、そんな具合だよ」

 げんなり顔のベアトリーゼに、ゴードンは申し訳なさそうに苦笑した。

「だろうね。古エレジア式記譜法が廃れた理由がまさにそれだった。作曲者の意図を詳細に楽譜へ書き込める反面、難解になり過ぎてしまうんだ」

 

「音楽のためじゃなく暗号技術として生まれたような気がしてる」

「流石にそれはない、はずだがね」

 くつくつとゴードンは楽しそうに、そして、どこか懐かしそうに喉を鳴らした。

 

 笑いの調子が思い出し笑いみたいなことに気付き、ベアトリーゼは怪訝そうに片眉を上げる。

「何か思い当たる節が?」

 

「いや。そうじゃない。かつての友が君と同じような慨嘆をこぼしていてね」

 ゴードンはサングラスの奥で柔らかく目を細めた。

「彼は古エレジア式楽譜を研究していてね。先人達はなぜこんなややこしい記譜法を作ったのか、とよくぼやいていたよ」

 

「ふむ……」ベアトリーゼは歩きながら腕を組んで考え込む。

「? どうかしたかね?」

 ゴードンに水を向けられ、ベアトリーゼは思い付きを口にしてみた。

「や。その御友人は古エレジア式楽譜の容易な読解法を構築していないかと思ってね。研究者なら何かしらのコツなりなんなりを持つものだろう?」

 

「どうだろう……私には覚えがないが」ゴードンはうーむとひと唸りし「彼の自宅に行けば、何かしら読解法のコツが記されたものがあるかもしれない。彼の家が今も無事に残っていれば、だが」

「ふぅむ」ベアトリーゼは小さく首肯し「机に嚙り付いているのも飽いた頃だし、午後はその御友人宅を訪問してみようか」

 

「そうか。なら、ウタに案内させよう。あの子はこの島の端から端まで知っている」

 ゴードンの提案に、ベアトリーゼは眉をひそめた。

「あのお嬢ちゃんとあまり親しくしていないのは、私なりに“約束”を果たしているつもりなんだけど?」

 

「来島して一週間。君は一度もウタの歌を聞きに来ていない。君なりの気遣いだけが理由でもないだろう?」

 ゴードンはベアトリーゼの横顔を窺いながら、質す。

「教えて欲しい。君はウタの歌をどう思っているんだ? しっかり聞いていなくとも、多少は耳に届いているだろう? 感想を聞かせてくれないか?」

 

 ゴードンから真剣な眼差しを向けられ、

「悪く取らないで欲しいけれど」

 予防線染みた前置きをしてから、ベアトリーゼは言った。

「仕事を投げ出してまで聞きに行くほどでもない。それが私の素直な感想だね」

 

 前世で多種多様な音楽や世界クラスの演奏や歌唱に触れた経験が、ウタの歌に強い感動を抱かせない。歌声は美麗。歌唱力は抜群。だけど、心は震えない。

 決して、今生の蛮族人生で音楽を解せなくなったわけではない。

 

「そうか……」

 自慢の教え子の歌に手厳しい感想を寄こされ、ゴードンの表情が曇る。

 

 ベアトリーゼは小さく肩を竦め、どこか言い訳するように言葉を編む。

「別にあの子の歌がどうこうってわけじゃない。そもそも私にとって音楽は人生や日常を彩る要素の一つだ。熱中して拝聴するものじゃないんだよ」

 

 大いに残念な聴衆に対し、高名なる音楽家はうーむと唸った。

「それは音楽鑑賞より絵画を観賞する方が好き、ということかな?」

「んん?」

 やけに具体的な指摘をすることにベアトリーゼが訝ると、ゴードンは微苦笑と共に説明する。

「君が来島した日、荷物にスケッチブックと絵描き道具を見かけていてね」

 

「……ただの手遊び。下手の横好きだよ」

 合点がいったベアトリーゼはどこか気恥ずかしげにこめかみを掻く。

 

「芸術的な趣味があることは良いことだ。何より」

 ゴードンは教師のように語り、口端を和ませた。

「美しいものを美しいと感じる心があることは、素晴らしいことさ」

 

       〇

 

 エレジアを覆うように鈍色の雲が広がっていく。

 昼食後、日課の散歩に行こうとしたら、師からドラ猫の道案内を頼まれた。当然ながらウタは拒否したが、師に諭されて仕方なく承諾した(美貌が台無しになるほどの渋面だった)。

 

 ウタの心境を表すような曇天の下、ウタは不機嫌顔で無人の街を進んでいく。

 一歩後ろにベアトリーゼが続く。『酔いどれ水夫』を口ずさみながら。

 

 私の歌を聞かないくせに、私に鼻歌聞かせるってどういう神経してんの、この女!

 密やかに憤慨しつつ、ウタは廃墟と瓦礫の街並みを眺めるベアトリーゼを肩越しに窺う。

「……アンタの調べ物って具体的にはどういうものなの?」

 

「そうだな」ベアトリーゼは少しばかり思案してから「私の宿命に関わること、かな」

「宿命?」

 予期せぬ仰々しい回答に訝るウタへ、ベアトリーゼはとある狂科学者の言葉を借りて答えた。

「人は生まれを選べない。時代、場所、環境、家族……人は生まれた瞬間から生きる条件が異なる。これが宿命だ」

 

 家族という単語に未だ癒えぬ心の傷が酷く疼き、ウタはぴくりと小さく肩を震わせた。

 そんなウタを余所に、ベアトリーゼはアンニュイ顔で言葉を紡いでいく。

「私は地獄の底より酷い土地で生まれ、ネズミ同然の育ちをして、飼い犬の生き方を選び、首輪を千切って海へ出た。まあ、結果として賞金首になってしまったけれど、この私の宿命が生きるために自らの意思で選び、決断し、進んできた結果なのか。あるいは、何者かに仕組まれたものだったのか。私は知らなくちゃならない」

 

 黒い手帳に記されていた内容は、ベアトリーゼをして『今更』と笑い飛ばすことが出来なかった。であるからこそ、ベアトリーゼはわざわざエレジアくんだりまで足を運んだ。

 そう。きっと手帳に記された“秘密”を解けば―――ガープのクソジジイに『心に芯が通っていない』なんて二度と言わせない人間になれるはず。

 

 物憂げな細面に浮かぶ不似合いな熱意。一種の狂気に似た強い意思。

 ベアトリーゼはウタへ微笑みかけた。暗紫色の瞳をぎらつかせて。

「この残酷でクソッタレな世界で、私が自分らしく生きていくためにね」

 

 穏やかながらどこか狂気的な気配をまとうベアトリーゼに、ウタは不気味なものを覚えて目を背ける。

「……意味分かんない」

 

 9歳でこの島に置き去られてから7年間。対人交流の機会が歪なほど少なかったためか、ウタはベアトリーゼの語った言葉を上手く噛み砕けない。

 

 ただ――コイツは放浪中のドラ猫じゃないのかも。とウタがベアトリーゼの評価を上向かせたところへ、

「ウタちゃんにはまだ早かったかなー」

 にへらとからかうように口端を曲げるベアトリーゼ。

 

 やっぱりコイツはドラ猫で充分だわ! ウタは肩越しにベアトリーゼを睨んで遺憾の意を表す。

「子ども扱いしないでっ! 私はもう大人だもんっ!」

「オボコ娘がよぉ言うわ」ハンと鼻で笑うベアトリーゼ。

 

「!?」

 人生経験と対人交流経験が絶望的に不足しているウタも、許容してはならぬ中傷を受けた、と本能的に理解する。この発言を甘受してはならぬと本能が訴えていた。

 

 ウタは足を止めて向き直る。ウサミミ髪は既に屹立していた。眉目を限界まで吊り上げて右手人差し指を突きつけ、ドラ猫へ猛抗議する。

「そ、そういうアンタだって一人ぼっちでこの島に来たじゃんっ!」

 

「今だけですー。この島に来る前はそりゃあもう、選り取り見取りのイケメン食いまくりでしたー」

 厚かましい態度でしらばっくれるベアトリーゼに、ウタは一層強く憤る。ウサミミ髪が逆立っていた。

「嘘だっ! 絶対嘘だっ! アンタ、モテなそうだもんっ!」

 

「オーゥ。そんなことないですーモテますーモテまくりですー。そもそもウタちゃんってオトコノコ見たことあるんですかー?」

「あるに決まってるでしょっ! 男の子の幼馴染だっているもんっ!」

「ああ……想像上の……」

 演技がかった同情を返すドラ猫女に、かっちーんっ! とウタは頭の中で火花が飛ぶ。

「アンタぶっ飛ばすわよっ! 東の海のフーシャ村にいるルフィって子よっ!!」

 

「……ルフィ?」

 会話に飛び出した名前に、ベアトリーゼはまじまじとウタを凝視する。

「そうよっ!」ウタは吠えてから、ベアトリーゼの変化に気付き「何、その反応? ひょっとしてルフィを知ってるの?」

 

 ウタが怪訝そうに問うてきたものの、ベアトリーゼはそれどころではない。

 えー!? ルフィの幼馴染設定なんかぃ!? そりゃ赤髪の娘っていうならあり得るけど……あっれー? 回想シーンや過去話には出てこなかったよね? それとも、私が覚えてないだけ? 

 しっかし、幼馴染の美少女で恩人の娘でリスキーな能力設定とか、これもうヒロイン候補筆頭じゃん。ルフィの相手はハンコックかナミだと思ってたけど、この子じゃんっ!? 私みたいな異物が関わって大丈夫なのかしら。

 いやまあ、ロビンと接触してるし、それは今更か。

 

 あっさり切り替え、ベアトリーゼは訝るウタを言いくるめた。

「や。知り合いかと思ったけど……違った。便所に入ってるところを爆破してウンコ塗れにしてやった奴と勘違いしたわ」

「ぅわぁ……」

 ドン引きしたウタを余所に、ベアトリーゼは周囲を見回した。

「ゴードンさんの話だとこの辺りじゃなかった?」

 

「待って」

 ウタは足を止めてポケットからメモを取り出し、

「コンチェルト通りの3丁目12番。え、と……アレだ」

 住所を確認。右斜め前方を指差した。

 

 煉瓦と漆喰仕立ての三階建て。周囲の建物と違って被害は少なそうだ。

「ふむ。これは期待出来るかな?」

 ベアトリーゼは呟き、ウタへ水を向けた。

「ウタちゃんも来る?」

「……まあ、付き合ってあげても良いけど」唇をヘの字にしたウタは同行を了承。

 

 そして、2人は廃墟へ向かって歩みを再開した。




TIPS
音楽と暗号。
 インターネットで軽く調べただけなので間違っているかもしれない。
 誤りがあれば御指摘ください。

ウタウタの実
 原作の悪魔の実。
 本作では音波による催眠系能力という解釈。
 あまりの強力さからファンの議論を招いた。

トットムジカ
 原作に登場する謎の存在。
 ウタウタの実と連動することで実体化する集合無意識的存在、なのかなあ?
 二次創作では、最終的にウタの召喚獣と化す傾向にあるようだ。

とある狂科学者
『銃夢』のファンなら、分かるね?

小ネタ
 トイレを爆破してウンコ塗れ。
 砂ぼうずファンなら、分かるね?

ベアトリーゼ。
 基本的に音楽へ関心が薄く、CDとか全然買わないタイプ。
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