彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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お待たせした分、ちょっぴり字数多めです。

佐藤東沙さん、トリアーエズBRT2さん、誤字報告ありがとうございます。

今話は『FILM RED』の内容に触れます。御注意ください。
※時系列を間違えていたので、修正しました(2/11)


43:世界経済新聞は世界を揺らす(限定的に)

 人間は本質的に孤独であることに耐えられない。

 エレジアという巨大な独居房に閉じ込められていたウタの心は、孤独の毒に晒され続けていた。しかも、ウタには愛する父と家族に棄てられたという深い傷があった。

 

 ウタの精神がもう少しか細ければ、もしくは自分を捨てていった赤髪海賊団の“共犯”と見做していなければ、エレジアで唯一の他者であるゴードンへ強く依存をしていたかもしれない。定期的に訪れる交易船の船員に情を求めたかもしれない。それこそ自身の春を(ひさ)いででも。

 

 しかし、ウタの心は弱者のものではなかった。ウタ自身が如何に恨んでいても、レッド・フォース号の“父達”によって育まれた心は、孤独の毒に負けぬ健やかな強さを持っていた。

 であるから、ウタは懊悩に直面した時、うじうじと内にこもったりしない。大海原に生きる者はどれだけ悩み苦しんでいようとも、風と潮に向き合って航路を選び、進まねばならないのだから。

 

 一晩の苦悩に煩悶した翌朝。ウタは洗面所で鏡に映る自分の顔を見て、決断する。

 

 ゴードンが卓に朝食を並べているところで、

「これから毎日、私の歌を聞きなさいっ!」

 ウタは紅白ウサミミ髪を屹立させ、“宿敵”をビシッと指差しながら宣戦布告。

 

 指差されたベアトリーゼはポットを傾け、カップに熱い珈琲を注ぎつつ問う。

「珈琲、飲む?」

 

「砂糖とミルクをたっぷり入れて」

 素直に答えた後、ウタは双眸を三角形にしながら吠えた。

「これから毎日、私の歌を聞いてっ!! 約束してよっ!」

 

「や、私は忙しいんだけど……」とあからさまに面倒臭がるベアトリーゼ。

「感動させてみろって言ったのはアンタでしょっ! どうしても聞かないなら、アンタの仕事先に押しかけて無理やり聞かせるわっ!」

 ガミガミとまくし立てるウタは、さながらお姉ちゃんに我儘を訴える妹みたいな有様だったが……

「しょうがないなぁ。一日一曲だけよ。私も忙しいんだから」

 根負けしたと言いたげに眉を下げ、ベアトリーゼは湯気をくゆらせる珈琲を口に運ぶ。

 

「充分よっ! 絶対に感動させて泣かせてやるわっ!」

 不敵に口端を歪め、ウタは珈琲を飲む。

「あちっ!?」

 

 2人のやり取りを見守っていたゴードンは首を傾げる。

「いったい何の話だ?」

「少女の挑戦、かな」

 ベアトリーゼは冗談めかして微笑し、皿の白隠元豆を摘まんだ。

 

      〇

 

 ピアノの伴奏と共に、歌姫の絶唱が響き渡る。

 華奢な体から信じ難いほどの声量。年若い少女とは思えぬほど美妙巧緻な歌唱。ウタは一個の至高の楽器と化したように歌曲を“奏で”ていた。

 その歌声は人の心を震わせる天使か、人の魂を狂わせる悪魔か。いずれにせよ、常人の域を容易く凌駕した“声”だ。

 

 が、ベアトリーゼの心は揺さぶられない。ベアトリーゼの魂は惑わされない。

 前世の体験記憶――本当に歌で世界中を熱狂させた歌手達や名曲を知っているだけに、ベアトリーゼはウタの美麗な歌声に感情を動かされない。

 たしかに美しい。たしかに上手い。確かに見事で美事な歌唱だ。だけど――

 

“それだけ”だ。

 

 ベアトリーゼは冷淡な感情でウタの熱唱を評価する。

 良くも悪くも上手い“だけ”だな。この手の娯楽に慣れていない人間なら涙して卒倒するかもしれないけど、“この程度”は私にとってフツーだよ、お嬢ちゃん。

 

 巨大な繁栄を享受していた先進国人の前世を持つベアトリーゼは、ウタのような素晴らしい歌唱すら単なる娯楽として消費した経験を持っているだけに、評価がとても辛い。

 

 曲が終わり、ウタは汗ばんだ額を拭ってから、しれーっとしているベアトリーゼの様子に、可憐な顔立ちを曇らせた。ウサミミ髪もへにょりと垂れ下がる。

「……感動してない」

 

「ん。残念ながらね」

 ベアトリーゼは椅子から腰を上げ、軽く体を伸ばす。口元からこぼれる声が艶めかしい。

「ウタちゃんの歌は上手いよ。でもね、それだけ。他には言うことがない」

 

「……上手いことがいけないっていうの?」

 ウタは挑むようにベアトリーゼを睨む。

「まさか。ただまあ、技術的に上手いことと、人を感動させることはまた別問題だからなぁ」

「どういう意味よ」

 

「そこはプロにお聞き」

 ベアトリーゼはピアノの伴奏をしていたゴードンを顎で示し、

「それじゃ、私は仕事に行くから」

 ひらひらと右手を振り、私用のオフィスと化している図書室へ向かった。

 

 すらりとした長身の背中を悔しげに見送り、ウタは歯噛みしながら師をギロリ。

「上手い以上に必要なことって何っ?!」

 

 教え子の強烈な気勢に気圧され、師匠は思わず仰け反った。が、それでも導くべく教えを説く。こほん、と咳をして気を取り直してから、ゴードンは語り始める。

「ウタ。歌手とは何者かね?」

 

「?」

 ウタはゴードンの問いかけに訝りつつも、眉目を吊り上げたまま思案し、答えた。

「――表現する者」

 

「その通り」師は教え子の回答に大きく頷き「歌手とは歌を用いて表現する者だ。では、表現とは何か。自分の想いや考え、感情を伝えることだ。音楽家ならば演奏や歌唱で自身の想いや考え、感情、願いを表現し、伝える。彼女は君がまだ表現者として未熟だと言っているのだろう」

 

「じゃあ、どうすれば良いのよっ! 7年、7年だよっ! 私がゴードンに音楽と歌を習って7年っ! それでも未熟だっていうのっ!?」

 その発言がどれほど傲慢さに満ちたものか、年若いウタは気づかなかった。

 

 ゴードンは小さく苦笑してから、焦燥に駆られている教え子へ真っ直ぐに向き直った。

「ああ。ウタ。君はまだ未熟だ。“完成”には程遠い」

 

「――な」絶句するウタ。

「だが、それは私も同様だよ。私はまだ音楽家として完成していない。否、表現者が完成することなど、あってはならない」

 真剣な面持ちで言葉を紡ぐゴードンに、紅白頭の教え子は自然と居住まいを正す。

「表現者は立ち止まることなく、常により良き表現を探求し、研究し、模索せねばならない。自身を研鑽し、鍛錬し、より高みを目指して成長を求めなくなった時、表現者は単なる技巧者になってしまう。歌手ならば、芸術家(アーティスト)として歌手から歌が上手な喉自慢に成り果てる」

 

「……ゴードンも、まだ成長しようとしているの?」

「当然だとも」

 ウタの問いかけにゴードンは力強く頷いた。

「私は君という世界最高の才能を教え導くという大業を背負っている。日々上達し、成長する君に後れを取らぬよう研鑽と研究を怠ったことはないよ」

 

「……どうすれば、私はアイツを感動させられるのかな」

 縋るような眼差しを向けてきたウタに、ゴードンは困ったように禿頭を掻く。

「どうすれば聴衆を感動させられるか、どうすれば聴く者の心を揺さぶれるか、それはあらゆる音楽家が直面してきた命題であり、大いなる難題だ。私とて明確な答えを持っていない。いや、そもそも正答があるのかどうかも分からんよ」

 

「……」がっくりと肩を落とし、ウサミミ髪をヘニョらせるウタへ、

 しかし、とゴードンは優しく微笑む。

「思うに、ウタは既に答えの一つを持っていると思う」

 

「私が、答えを持ってる?」

 キョトンとするウタに、ゴードンは大きく頷いた。

「ああ、その通りだよ、ウタ。そして、その答えは私が教えるのではなく、ウタ自身が見つけなくてはならない」

 師の言葉に、ウタはただただ戸惑った。

「そんなこと言われても……私、わかんないよ……」

 

 ゴードンは慈しむように面持ちを和らげ、

「分からない時は原点(オリジン)に立ち返ってみると良い」

 語り掛けるように説いた。

「なぜ歌が好きなのか。なぜ歌手を志したのか。そこに答えがあるはずだよ」

 

      〇

 

「なるほど……言語学的表記だけど、数学的アプローチが正解なのか」

 もはや私用オフィスと化した王宮図書室にて、ベアトリーゼは持ち帰ってきた古エレジア楽譜研究者の資料や研究ノートを読み込み、解読法に当たりをつけていた。

 

「これなら、仮に古エレジア楽譜の読譜法を知らずとも解読が能うわけね。しかし……こんなの私が前世記憶(インチキ)持ちじゃ無かったら、解読以前の問題だぞ」

 

 そもそも、これを解読できるほどの高等数学を修めた人間なんて、この世界にそう多いとは思えない。

 となると、疑問が生じる。

 故郷の人間はどいつもこいつも高等学問どころか教育そのものと無縁な野蛮人だらけだった。ウォーロードの配下には学者や技術者が少なからずいたが、彼らとてこの暗号を解けるほどの数学的教養や知見を修めているか怪しい。

 

 椅子の背もたれに体を預け、ベアトリーゼは黒い手帳の革表紙を撫でる。

「この手帳は“誰”に向けて遺されたものだ?」

 個人的な記録ならここまでややこしい内容にするまい。私の過去、ルーツに関するものだとしても、絶対に“あの蛮地”の人間に向けられたものじゃないはず。

 

「まぁ、いいか。読み解けば分かるだろ」

 ベアトリーゼは黒い手帳に記された古エレジア式楽譜記号による記述を解読すべく、延々と計算し、独自に換字表を作り始めた。解読した内容をノートに書き記していく。

「やれやれ。ガレーラで事務員やってた頃を思い出すな」

 

 

 かくしてここにルーチンが発生。

 一日一回ウタの歌を聞き、生活諸事を片付け、黒い手帳の解読を進める。

 もちろん、根っこが武闘派の野蛮人らしく体力と練度維持のトレーニングも欠かせない。エレジアの廃墟内をパルクールで走り回り、我流の機甲術(パンツァークンスト)の鍛錬。たまの息抜きがてらスケッチブックに絵筆を走らせる。

 

「意外と上手なのね」とはウタの評価。

 ロビンに『前衛的ね』と評され、ブルーノから『ヘタウマ』と言われた絵も、『意外と上手』と見做される程度に成長していた。継続は力であろう。

 

 

 他方、ウタは色々と思い悩む日々を送り始めた。

 一日一回、居候(ベアトリーゼ)に歌を聞かせ。その後にレッスンと勉強。肺活量や体力を落とさぬようエレジア島内の散歩や運動をしながら、思考し、思索し、思惟し、深思し、潜思し、沈思する。

 これまでの7年間、ウタは歌唱技術の研鑽を積み重ねてきた。英才教育を施されたエリートらしく歌い手としては才能も手伝って、歳若くも一流の域にある。

 

 さりとて、表現者としてはまだまだ未熟な点が多い。

 歳若い点を差し引いても、ウタは人生経験があまりに不足している。人格形成と精神成長に重要な思春期を閉鎖的かつ孤独な環境で過ごしてきたため、対人交流から得られる経験や知見、教訓、何より自身の表現を他人から評価される体験が絶対的に足りていない。

 

 音楽であれ、演劇であれ、絵画であれ、彫刻であれ、詩や小説であれ、表現者は他者の評価から逃れられない。良くも悪くも表現者は他人の評価によって研磨されていくから。

 自身の表現力と他者の評価。その摩擦で生じる多くの苦悩に相克せねばならない。

 

 ウタは思い悩んでいたものの、日々のレッスンと勉強を疎かにしていなかった。それどころか、不遜なる居候の心を揺さぶってやろうとこれまで以上に熱がこもっている。

 

 

 教え子の様子に、師たるゴードンは思う。

 この苦悩を克服した時、ウタは表現者として大きく化けるだろうと。

 同時に、ゴードンもまた苦悩していた。

 ウタをどうやって世界に送り出すか。ウタの素晴らしい才能を、奇跡のような歌声を、どうやって世に発表するか。ウタの持つ特異な能力を世にどう認知させるか。そして――

 ウタウタの実に秘められた呪いともいうべきトットムジカをどうすべきか。

 

 エレジアという小さな箱庭で三者三様の数日が過ぎたところへ、ニュース・クーが世界経済新聞という名の小石を投げ込む。

 その小石は『不定期連載特集企画:エレジア滅亡の真実』という途方もなく危険なものだった。

 

      ○

 

 さて、少しばかりネタバレになってしまうが――

『原作・劇場版FILM RED』において、当初、ウタはルフィが海賊であることを知らなかった。

 少なくとも作中時間軸において、主人公ルフィが数々の大事件を起こし、世界的大海賊になっていたにもかかわらず、だ。

 であるならば、ウタは当時の世界情勢に対して無知だったと考えてよいだろう。

 

 しかし、異物(ベアトリーゼ)と交流するこの世界線において、ウタは無知のままでいられなかった。

 なぜなら、ベアトリーゼがニュース・クーから新聞を購読していたから。このため、ウタは新聞を通じて世界の悲喜こもごもを知ることになったし、新聞を題材にベアトリーゼやゴードンと質疑応答をし始めたから。

 

 たとえば。

「なんでこんなに争いばかり起きてるの?」

 ウタは新聞を読み終えた後に大人達へ問うた。

「哲学的な疑問だな」ベアトリーゼはくすりと笑って「元国王の御意見は?」

 水を向けられたゴードンは困り顔を浮かべつつ回答。

「争いが起こる理由は千差万別だが……施政者の観点から言えば――」

 

 あるいは。

「世界最大の海上エンターテイメントシティ、グラン・テゾーロ就航だって。凄いっ! 船の中にカジノ、ホテル、プールに遊園地、水族館、あとコンサートホールまであるっ!」

 大々的に報じられるグラン・テゾーロ就航に歓声を上げるウタ。

「全長10キロ? よくそんな船が作れたものだ」と暢気に感心するゴードン。

「ウタちゃんが歌姫として売れたら、そこでコンサートする日がくるかもね」

 グラン・テゾーロが登場する原作映画を知らないベアトリーゼが無責任なことを言ったり。

 

 もしくは。

「赤髪海賊団が新世界で縄張りを拡大……」

 ウタは自分を棄てた父の記事を見て苛立ち、新聞をくしゃくしゃに。

「ちょっ?! まだ読んでないっ!」

 悲鳴を上げるベアトリーゼ。

 

 そして、この日の新聞は――

『不定期連載特集:エレジア滅亡の真実』

 爆弾が載っていた。

 

 朝食の場は沈黙に凍りつく。

「「――――」」

 言葉を失うウタとゴードン。

 

 ある意味で爆弾を呼び寄せた張本人であるベアトリーゼは、激しく動揺して言葉もない2人を余所に、珈琲を口にしながら新聞を読んだ。

「ふーむ。堅気に手を出さない“赤髪”がなぜエレジアを滅ぼしたのか、という謎を解き明かすことが記事の趣旨みたいだね。御丁寧に当時の君らの写真まで載ってるよ。これは事件直後に海軍が撮影したものかな? まあ、それはともかく」

 

 ベアトリーゼはウタとゴードンを一瞥し、続けた。

「事件関係者や赤髪に取材したわけでもないようだ。いや、これから取材して記事を掲載していくつもりか」

 

「それって」顔を蒼くしていたウタが声を絞り出すように「いずれ記者が私達に事件のことを聞きに来るってこと?」

「多分ね」ベアトリーゼは他人事意識全開で「根掘り葉掘り聞いてくるだろうね。スクープが懸かっている時のブン屋は道徳も倫理も無いから」

「なんてことだ」ゴードンが頭痛を堪えるように禿頭を押さえて呻く。

 

 

「……私、知りたい」

 

 

 胸を押さえて苦悶するように端正な顔を歪めながら、ウタはゴードンを真っ直ぐに見つめる。

「あの夜に何があったのか、私も知りたい。知りたいよ、ゴードン」

 

 7年前のあの夜からずっと、胸中に在り続けた疑問。

 どうして、シャンクス達は自分を捨てていったのか。

 どうして、シャンクス達はあの夜突然、この国を襲い、滅ぼしたのか。

 一切の記憶がない7年前のあの夜、何があったのか。

 父が自分を捨てていったあの夜、何が起きたのか。

 

 ウタは薄紫色の瞳に涙を浮かべ、師であり、もはや育ての親にも等しいゴードンへ涙声で告げた。

「教えてよ、ゴードン。お願いだから」

 

「ウタ……それは」

 ゴードンは言葉を続けられない。7年前のあの夜の真実は、ウタにとってあまりに残酷だから。だが、ここで真実を告げなければ、ウタの信用や信頼を決定的に損なってしまうだろう。

 どうする。ゴードンは脂汗を滲ませながら、苦悶する。どうすれば良い。

 双眸から涙を溢れさせている教え子に、ゴードンは肯定も拒絶も出来ず――

 

「教えてあげなよ」

 不意にベアトリーゼが口を開いた。

 いつものアンニュイ顔で、暗紫色の瞳に少しばかりの倦みを湛え、ベアトリーゼは音楽家の師弟へ冷淡にも聞こえる声音で告げる。

「真実を語る時が来た。そういうことだろ」

 

「部外者が勝手なことを」

 ゴードンが苛立ちを込めて睨んでくるが、ベアトリーゼは歯牙にもかけない。心優しい善人の怒りなど、ケダモノ染みた野蛮人達の敵意や殺意に比べたら微風みたいなものだ。

「部外者だから言ってるんだよ」

 

 ベアトリーゼは大粒の涙をぽろぽろこぼしているウタを横目にし、ゴードンへ告げた。

「今、あんたがこの子にすべきなのは、残酷な真実を隠す優しさじゃない。過酷な真実を告げたうえで寄り添い、立ち直らせる労りだよ。でないと、あんたらの師弟関係は二度と元に戻らない」

 

「……」ゴードンは大きくうなだれる。

 ウタは綺麗な顔を涙に濡らしながら、ベアトリーゼに顔を向けた。

「……ひょっとして、何か知ってるの?」

 

「知ってるんじゃない。気づいたんだ」

 ベアトリーゼは幾分柔らかな声色でウタへ語る。

「私は痕跡の分析方法を学んでいたし、考古学者の親友から古物の調査法も教わっていたから、この街の破壊痕跡がおかしいことに気づいた。少なくとも、世間一般に語られている赤髪海賊団による襲撃では説明がつかないことに。

 だから、ゴードンさんに言った。“余計なトラブル”を起こさずに済むように隠してることがあるなら、先に言っておけと。彼は教えてくれたよ。ウタちゃんを“守るために”必要な真実を」

 

「……ゴードンッ!」

 ウタは腰を浮かせて師へ向かって吠えた。魂から血を流しているような声で。

「話してっ! 今すぐにっ!!」

 

 ゴードンは卓に肘をつき、俯いて組んだ両手へ額を預けた。サングラスの奥で懺悔するように瞑目した後、憔悴した顔を娘同然の教え子へ向けた。

「……良いか、ウタ。これから話すことの原因は全て、私にある。この国の王であり、封印された“アレ”の管理者たる、私の不明が招いたことだ。その点を誤ってはいけない」

 父同然の師から向けられる真摯な、そして、有無を言わさぬ語気に気圧され、ウタは頷く。

 

「まず、説明せねばならない。ウタウタの実の能力に伴う“呪い”について」

 ゴードンは赤髪シャンクスとの誓いを破り、真実を紡ぎ始めた。

「歌の魔王トットムジカ。あの夜の元凶だ」

 

        ○

 

 エレジアで修羅場が生じている頃、グランドライン“新世界”某島でもニュース・クーから新聞を買った者が居た。

「さてさて、今日の世界情勢は……はぁああああああああっ!?」

 ドレッドヘアーのオヤジが絶叫を上げ、二日酔いで寝転がっていた周囲の者達が辟易顔で目を覚まし、口々に罵詈雑言を浴びせる。

「うるせェぞヤソップッ!!」「宴会明けくらい静かにしろよッ!!」「頭に響くだろうがボケェッ!!」「勘弁してくださいよヤソップさんッ!!」

 

 ギャーギャー喚く周囲を無視し、ヤソップはレッド・フォース号後甲板で迎え酒をちびちびやっていた船長の許へ駆けていく。道中に二、三人ほど踏んでしまって罵声が怒号に変わったが、それどころではない。

 

「お頭ッ!! これを見てくれっ!!」

「血相変えてどうしたんだ、ヤソップ」

 四皇“赤髪”シャンクスは暢気に応じつつ、ヤソップが差し出した新聞を受け取り、眉根を大きく寄せた。

 不定期連載で綴られる特集企画記事『エレジア滅亡の真実』。

 その煽動的なタイトルにシャンクスは思わず瞑目し、大きく息を吐く。

 

「これは、参ったな……」

 世界経済新聞の特集記事面。掲載されている写真の一つに7年前の事件後、海軍が撮影したらしきゴードンと愛娘の姿が映っていた。

 7年振りに目にした娘の姿に、シャンクスの心が大きく揺れた。

「ウタ……」

 

 

 

 

 

 

 世界最大の発行部数を誇る世界経済新聞を手に取り、『エレジア滅亡の真実』に関心を抱いた者は他にも居た。

 たとえば、聖地マリージョアの住人。

 

「エレジアか。“世経”め。またぞろ余計なことに首を突っ込んだか」「当代のウタウタの実の能力者は“まだ確認されていない”。エレジアの“アレ”が公になることはあるまい」

 世界政府の重鎮『五老星』達があれやこれやと会話を交える中、着流しの老人が記事に目を通し、

「事件時、現場に急行した海軍艦艇は略奪品を満載した赤髪の船を目撃。逃走する赤髪の追跡より、エレジアの被害確認と救助を優先させるも、確認できた生存者は国王と“娘”のみ、か」

 鼻息をついた。

「ゴードン王は未婚者だったはずだ。この娘は何者だ?」

 

 

 

 

 

 また、世界経済新聞は“赤髪”シャンクスに恨みを持つ者の目にも触れた。

「―――ぉおお……っ! おおお覚えている、俺は覚えているぞ、このガキをッ!」

 その“怪物”は新聞を引き裂き、千切れた掲載写真を握りしめ、悶え叫ぶ。

「赤髪の娘ェあああああっ!!」

 




Tips

ウタ
 悩み多き思春期の16歳。いよいよ真実と直面する時が来た。

ゴードン
 ウタに真実を話す時が来た。

ベアトリーゼ
 なんだかんだ引っ搔き回してる元凶。

シャンクス
 世界経済新聞の記事により、ウタのためにどう動くべきか苦悩するお父さん。

”怪物”
 オリキャラ。
 今回の敵役。詳細は次回。
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