彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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少し長くなりました。

佐藤東沙さん、烏瑠さん、誤字報告ありがとうございます。


53:実験動物達のティータイム

 リゾートビーチと碧海を一望できるスイートルームの宿泊料は、この世界の平均的中産階級の月収に等しい。

 余裕のある広い間取り。高級感がありながら落ち着きある内装と洗練された調度品。キングサイズのベッドは当然清潔でふわっふわ。用意されたドリンクや軽食は無料だ(スイートはこんなところで金を取らない)。担当のコンシェルジュは1を要求すれば10を叶える勢いだ。まさに至れり尽くせり。

 

 大きな窓から夏島の夕日が注ぐスイートルームのリビング。最高級ウォルナットの豪奢な丸テーブルで美女達が向き合っている。

 片やヘンリーネックのタイトなカットソーに七分丈デニム、とこざっぱりした装いの蛮姫。

 片や自己主張の強い胸元をさらに強調するクロスホルターネックのミニワンピース、と艶やかな装いの歓楽街の女王。

 

 ベアトリーゼは丸卓の向かい側に座るステューシーへ怪訝顔を向けていた。

 不躾な目線に晒されているステューシーはコンシェルジュに用意させたアップルパイを楽しんでいる。

 

 暢気でミステリアスな美女に渋面をこさえつつ、ベアトリーゼは美術品染みた白磁器のティーセットへ手を伸ばす。自身のカップにポットを傾けて黒々とした紅茶を注ぐ。湯気をくゆらせる紅茶にレモンジャムを落とし、ティースプーンでゆっくり攪拌。

 

 仏頂面で甘酸っぱくした紅茶を飲むベアトリーゼへ、ステューシーは和やかに微笑みかける。

「ディナーは二階のレストランで摂りましょう。ここはお肉も魚介も凄く美味しいの」

 

「……その馴れ馴れしさはなんなのさ。私はお尋ね者でそっちは狩る側だろ」

「そんな些細な関係性はどうでも良いわ。私は貴女と親しくしたいの。他意や含意は……まあ、無いとは言わないけれど」

 掴みどころのない女だな。

 ベアトリーゼはアンニュイ顔をしかめた。ウォーターセブンで関わった犬ッコロ達はもっと“素直”だったのに。

「説明しろ。おススメの美食を楽しめるくらいには懸念を解消したい」

 

 ふむ、とステューシーは唇に人差し指を添え、思案顔を作った。なんとも演技がかった所作だが、麗貌と相まって絵になる。美人はお得。

 ステューシーは黒々とした紅茶を音もなく一口啜り、碧眼にベアトリーゼだけを映す。

「黒い手帳は読み解いた?」

 

 ベアトリーゼはデニムの尻ポケットから黒い手帳を取り出して卓に置き、

「記述者は“ウィーゼル”。天竜人フランマリオン家はニノンという側妃の復讐から始まった。その怨念は超人思想に至り、馬鹿馬鹿しい実験を延々と重ね続けている。現在の実験場は西の海の“箱庭”と呼ばれる島で、私の故郷」

 

 無情動に言葉を紡ぎ、どうでも良さそうな声音で言った。

「そして、私は旧フランマリオン一族を滅ぼした諸侯の一つ、ヴィンデ家の血から作られたモルモットの現地交雑体といったところね」

 

 

 黒い手帳に記されていたベアトリーゼの過去――ルーツ。

 それはフランマリオンの復仇と実験の産物だった。

 

 19王家の側妃ニノンが興した天竜人フランマリオン家は、世界貴族の権力を用いて旧フランマリオン一族を滅ぼした諸侯をことごとく討伐した。さらに、一族の復讐心と超人思想が絡み合った末、これら旧諸侯の生き残りを実験動物として扱うことにしたらしい。

 

 曰く――神たる天竜人の父祖を討ったこの不遜なる者達、神殺したる彼らの血は凡俗の下民共とは違う結果をもたらすやもしれぬ。

 

 諸侯の男達は胤を絞られ、諸侯の女達は孕まされ。薬漬けにされ。体中を切り刻まれ。解剖され。標本にされ。実験動物として試験場に放たれ。

 およそ人倫にもとる非人道的実験の数々が行われる中、いくつか諸侯の血筋を用いた人工授精卵の代理母実験が実施された。

 

 この実験にヴィンデ男爵家の人間も用いられた。

 天竜人たるフランマリオン家の卵子と神殺しの一つヴィンデ家の精子を人工授精させ、普通人種だけでなく手長族や足長族、巨人族など様々な人種の代理母で試験体を“製造”した。

 

 ヴィンデ家の身体特徴、夜色の髪、暗紫色の瞳、小麦色の肌を持つ試験体達――ヴィンデ・シリーズは“箱庭”に放流、適応変化を観察された。

 大半の試験体が“箱庭”の過酷な環境や無慈悲な社会に為すすべなく命を落としていく中、わずかに生き残った者達が血を繋いだが、こちらも長くはもたなかったようだ。

 

 より露骨に言うならば、野に放たれたモルモットが野ネズミと交配し、雑種を作り出した。

 つまり、ベアトリーゼはヴィンデ・シリーズの現地交雑種。

 

 皮肉なことを言えば、フランマリオンは『天竜人(フランマリオン)の血が確認し得る世代は全滅』と見做し、ヴィンデ・シリーズの観察実験を終了させていたことだろう。

 事実、“青雉”クザンと“大参謀”つるに捕縛されるまで、実験動物の末裔(ベアトリーゼ)の存在はフランマリオンに認識すらされていなかった。

 

 そして、手帳にベアトリーゼの父母についての記載はなかった。“ウィーゼル”もいち個人の出生まで調査していなかったようだ。

 結局のところ、血の原点は色々と分かったが、出生そのものについては不明のままだ。

 

 手帳を読み進めている時、ベアトリーゼは殺害直前のウォーロードが吐いた悪罵を思い出した。

 ――何者でもない雌畜生に名を与え、人にしてやった恩を仇で返すとは……所詮、荒野の禽獣かっ!

 遠からず的を射たものだったわけだ。笑うしかない。

 

 密やかに自虐的な微苦笑をこぼした後、ベアトリーゼは言葉を続ける。

「それと、抗う者達についてだけど……これはまあ、今は然程重要ではない」

 

「ええ」

 ステューシーは大きく頷き、居住まいを正してベアトリーゼを一直線に見据えた。

「手帳を読み込んだうえで……いえ、自身の原点(ルーツ)を知ったうえで貴女の見解を聞きたいわ」

 

 限界まで引き絞ったような緊張感を漂わせるステューシーに訝りつつ、ベアトリーゼはレモンの香りを漂わせる紅茶を口にしてから答えた。

「私という存在は雑種の犬猫と大差ないのかもしれない。品種改良された家畜と違いがないのかもしれない。でも、私がフランマリオンの実験動物(オモチャ)の一匹に過ぎないとしても、私が私の生き方を変える理由にはならない」

 

 前世記憶を持つが故か。蛮地で生まれ育ったゆえの精神的タフネスか。この世界の異物という自覚か。普通なら自己同一性が揺らぎかねない事実を知っても、ベアトリーゼの自我意識は泰然として動じなかった。

 ベアトリーゼは卓上に置いた黒い手帳をこつこつと突き、静かに言葉を編んでいく。

 

「私は私の自由意思で生きる。血の鎖につながれて宿命の奴隷にはならない。

 マリージョアに乗り込んで天竜人を能う限り殺し回る気もないし、愚昧で杜撰な支配を続ける世界政府を打倒する気もない。故郷をフランマリオンの軛から解放するなんてこともしない。

 まあ、今後も政府や海軍に“嫌がらせ”は続けるけれど、それはあくまで、私の彼らに対する嫌悪と悪意からであって、宿命に従う訳じゃない」

 

 突き放すように語るベアトリーゼへ、ステューシーは険しい目つきを向けて尋ねる。

「では、貴女は自らの存在理由(レゾンデートル)を証明する気はないと?」

 

「存在理由の証明? 人生を懸けて叶える大願のようなものを言っているなら、私にそんなものを期待するな。

 私はよりマシな生活が欲しくてウォーロードの飼い犬になり、よりまともな生活がしたくて主と同僚を皆殺しにして海に出た人間だ。手っ取り早く糧と金と刺激が得られるから悪党を標的に暴力を振るう女だぞ」

 

 ベアトリーゼはこの世界の無慈悲さと冷酷さに順応した。

 環境と世界に適応すべく、可能性を放棄して俗悪に染まった。

 

「私にこの世界を変えるような物語を紡げると思う方が間違いだ。そういう大業はこの世界の“登場人物”達がやるべきことで、“異物(イレギュラー)”たる私がやることじゃないし、出来ることでもない」

 

 ベアトリーゼは既に認めている。

 この世界の異物であることを。異質な存在である自身を。

 自らが大きな物語の主人公になりえないことを。

 

 端正な顔にどこか失望を滲ませたステューシーを余所に、ベアトリーゼは窓の外に広がる夕陽の残照と夜闇が溶け合う空を横目にしつつ、静かに言葉を続けた。

「私にこの世界を変える物語は紡げない。私に出来ることは科せられた”小さな物語”を完遂するだけ。

 そのうえで、私はこの世界の”大きな物語”を見届ける」

 

「? 何を言いたいのか、よく分からないのだけれど……?」

 ベアトリーゼは困惑するステューシーへ物憂げな顔を向け、告げた。

 

 

 

「私は次の海賊王の見届け人になる」

 

 

 呆気に取られた金髪碧眼の貴婦人を余所に、蛮姫はくすくすと鈴のように喉を鳴らした。

 我欲を満たす以外に大願も大望も無いのだ。『ワンピース』のいち読者(ファン)として、完結まで読むことが出来なかった大傑作を特等席で見物させてもらう。

 自分の命と人生の使い方は、それで十分だ。

「私はこの世界で最も素晴らしい物語を見届ける。それが私の自由意思の証明であり、私の存在理由。そのために生き、そのために死ぬ」

 

 ステューシーはベアトリーゼの言葉を噛みしめるように瞑目した後、

「貴女“も”強い人なのね」

 どこか哀切と羨望がこもった吐露をこぼした。

 

 ベアトリーゼはステューシーを真っ直ぐ見つめ、質す。

「今度はそっちの番だ」

 

 黒い手帳へ視線を映し、ステューシーは哀惜を滲ませて答えた。まるで懺悔するように。

「私が“ウィーゼル”を殺したのよ」

 

      ○

 

 銀髪翠眼の男“ウィーゼル”。

“箱庭”出身である彼の前半生は分かっていない。元々まともな行政サービスが存在しない土地だ。戸籍も住民登録もへったくれもない。

 ともかく、“箱庭”を飛び出した彼は、海賊王ロジャーが勇名と悪名を轟かせていた海へ身を投じ、海賊として活動を始めたらしい。

 

 ある時、“ウィーゼル”がとある船舶を襲撃し、数人の遺棄奴隷を保護したことで、彼の運命は大きな分岐点を迎えた。

 奇しくも、保護した遺棄奴隷達が天竜人フランマリオン一族の者に棄てられた(オモチャ)達だったのだ。

 

 遺棄奴隷達の口から語られた自身の宿命の一端を知り、“ウィーゼル”は自身の血に秘められた真実を追い始める。

 この世界の暗部とも言うべき真実を。

 

 世界を旅して情報を集め続け、最終的に“ウィーゼル”は無謀な賭けに出た。

 フランマリオンへ自身を実験動物として差し出したのだ。

 

 申し出に対し、フランマリオンは嬉々として“ウィーゼル”を受け入れたという。

『その銀髪翠眼と独特の虹彩形状はパパガイ・シリーズだえ。ヴィンデ・シリーズ以外は生殖能力を与えなかったはず……グフフフ。イレギュラーは新たな知見を得る好機だえ。多少交雑しているけれど、それもまた興味深いえ。グフフフ』

 

“ウィーゼル”は背中に天竜人の奴隷の烙印を押され、ハラワタを引っ掻き回され、頭を弄られた。

 そして、健康と寿命と尊厳を削ぎ落とされながらも幾多の真実を獲得し、あまつさえマリージョアから脱出することにすら成功した。

 

“抗う者達”に接触する可能性を危惧し、フランマリオンと世界政府は即座に“ウィーゼル”の追跡と抹殺を決定。

 狩人はフランマリオンの指名でステューシーが選ばれた。

 

 

 紅茶を口に運び、ステューシーは往時を思い返す。

「予想と異なり、“ウィーゼル”は“抗う者達”に接触しなかった。政府の追跡で”抗う者達”に累が及ぶことを避けたのか、それとも他に何か考えがあったのかは分からない。ともかく、私は彼を安宿の一室に追い詰めた」

 

 あの時のことは今も鮮明に覚えている。

 小汚い安宿の狭い一室。病み衰えた老人のような男は椅子に腰かけたままで抵抗する素振りを見せなかった。だが、ぎらぎらと精気と意思の力に満ちた双眸で睨み返し、恐れることも怯えることもなく堂々と吠えた。

 

 

 ――たとえ俺がフランマリオンの実験動物(ギニーピッグ)だとしても、俺を構成する全てがフランマリオンの狂気と妄念に由来するものであったとしても、その真実を得るために下した全ての選択は俺自身が望んで成し遂げたもの。

 

 こうしてお前に殺されることも、俺が実験動物でもなく自由意思を持った人間だった証明になるだろう。

 

 お前はどうだ? お前は天竜人に隷従する家畜と何が違うっ! 天竜人の走狗であるお前が実験動物に過ぎない俺より人間らしいと言い切れるのかっ!? 

 お前は自身を人間だと証明できるのかっ!!

 

 

 ステューシーは“ウィーゼル”に気圧され、激しく狼狽した。

“ウィーゼル”自身は知らなかったが、“特異な出自”を持つステューシーにとって、“ウィーゼル”の指摘は自己同一性を揺さぶるほどの衝撃だった。

 ゆえに、ステューシーは恐慌状態に陥り、狂ったように“ウィーゼル”の命を奪い、その骸を破壊し尽くした。

 

 我に返り、ステューシーは“ウィーゼル”の私物を検め、“二冊”の手帳を発見。本来なら政府なりフランマリオンなりに提出すべきだったが、隠匿した。

「一冊は貴女に渡した黒い手帳。彼が己を犠牲にして掴み得た事実の記録で、とある人物へ託そうとしていたもの。もう一冊はフランマリオンから逃げ出し、私に殺されるまでの間に書かれた日記のようなもの」

 

 ステューシーは手にしたカップの水面を見つめ、告解するように続ける。

「手記はとりとめのない内容だった。彼の思想や思考、感情、情動、世界観、苦悩や苦悶……彼という人間が記されていたわ」

 澄んだ声色に滲む強い後悔と慚愧。同時に表情と声音から伝わってくるより強い感情。

 それはまるで――慕情のようだった。

 

「分からないな」

 ベアトリーゼは瀟洒な椅子の肘置きを使って頬杖を突き、ステューシーへ冷ややかな眼差しを向けた。

「なぜお前がそこまで“ウィーゼル”を気に掛ける? この手帳もそうだ。なぜフランマリオンに提出するなり、処分するなりしなかった?」

 

「“私も作られた存在だから”よ」

 ステューシーはどこか感傷的な顔つきで応じ、世界政府の最高機密――自身の出自について簡潔に説明した。

 

 20年以上前、MADS時代のドクター・ベガパンクが自称“科学者”にしてロックス海賊団の船員だったミス・バッキンガム・ステューシーの血統因子から製造した世界初のクローン人間。

 

「私には生物学的な父も母もいない。私の出生には男女の愛憎もない。何かの目的や使命を果たすために作られたわけでもない。私は血統因子研究の技術実証のために作られただけ。フランマリオンが私に目を掛けている理由も私が世界最初のクローン人間だからよ。そう、だから……“ウィーゼル”の言葉は私の心を酷く揺さぶったわ」

 

 ステューシーが静かに語った内容は、ベアトリーゼの雑な原作知識に欠片も存在しなかった。ゆえに、ベアトリーゼは純粋な驚愕から呆気にとられ、まじまじと眼前の若々しい貴婦人を見つめる。

「クローンて……待った、20年以上前って言った? ベガパンクが血統因子を発見したのは、たしか20数年前だ。発見と同時期に出産されたとしても、“ウィーゼル”を殺した年頃はまだ幼児だったはず。いろいろ無理があるだろ」

 

「?」ステューシーは不思議そうに「クローンに出産は関係ないでしょう?」

「?」ベアトリーゼは眉をひそめ「複製胚を子宮で成長させる必要があるだろ」

 

「いえ? クローンは培養装置で製造するのよ」

 さらっとステューシーが告げる。

 

「―――――」

 ベアトリーゼは目を点にした後、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。

「い、いやそれはそれで別の疑問が生じる。20年前に成人として複製されたなら、その若々しさの説明は?」

 

「私に年齢は意味を成さないわ」

 質問に対し、ステューシーは大きく開いたワンピースの背中から蝙蝠染みた翼を生やす。上犬歯も長く伸びている。

 

「悪魔の実ですか、そうですか」

 両手で顔を覆い、ベアトリーゼは心の底から毒づいた。

「この世界は科学技術や科学的現実の扱いがファジーすぎる! 不条理ってレベルじゃねーぞっ!」

 

「え、と……私は貴女が生命工学の高度な知見を持っていることに驚きなんだけど」

 ステューシーは微苦笑をこぼす。

 

「野蛮人でも学びを得る機会くらいあるさ」

 答える気はないと迂遠に告げ、ベアトリーゼは冷めてしまった紅茶を口に運び、とても大きな慨嘆をこぼした。

「科学バカの作り出したクローン人間が、狂人の作った試験体に親近感を覚え、厚意を抱くと。なんと評すべきか言葉に困るな……」

 

「同族嫌悪よりは良いんじゃないかしら」

 くすくすと品良く喉を鳴らし、ステューシーは紅茶を嗜んでから、

「その黒い手帳は彼が真実を知ろうとするきっかけとなった遺棄奴隷に託すはずだった。貴女と同じヴィンデの血で作られた女性にね」

 黒い手帳を見つめた。

「ただ、その女性は私が見つけ出した時、既に亡くなっていたわ。だから、ヴィンデの血を引く貴女に渡したの。少しでも彼の願いに沿ってあげたくて」

 

 そりゃまた随分とウェットな……

 ベアトリーゼはかすかに疲労感を覚えつつ、踏み込む。

「それで、私に何を求めてる。接触してきたのは同気相求が理由でもないだろ?」

 

「貴女と縁を持ちたかった。これは偽り無き事実よ」

 ステューシーは柔らかく微笑み、すっと表情を引き締めた。

「そして、何にも属さない貴方にお願いしたいことがあった。これも嘘のない本音」

 

「同じ実験動物の誼だ。聞くだけは聞いてやる」とベアトリーゼが頷く。

 

 碧眼の貴婦人は蛮姫の暗紫色の瞳を真っ直ぐ捉え、

「本当は私が秘密裏に保護している人物に会ってもらうだけで良かったのだけれど……問題が生じてね。保護し続けることが難しくなったの。貴女にはその人物を保護し、安全が確保されている場所へ連れて行って欲しいのよ」

「高額賞金首の私に頼みたい辺り、相当なワケアリか」

「ええ。御明察の通りよ。対象の人物はフィッシャー・タイガーのマリージョア襲撃事件時に逃亡した奴隷の一人」

 ベアトリーゼの指摘を肯定して真剣な面持ちで告げた。

 

「フランマリオンの研究に関わっていた奴隷の学者よ」

 

「やれやれ。引き受けない訳にはいかなそうだ」

 三つ編みにした夜色の長髪を弄りながら、ベアトリーゼは疎ましげに息を吐く。

「それで、保護が難しくなった理由は? どんな不味い事態から助け出せって?」

 

 ステューシーは控えめな微苦笑を湛えた。

「“抗う者達”に隠棲先がバレちゃったの」

 




Tips
ステューシー
 原作キャラ。ただし原作本編が当キャラの真相明かし真っ最中のため、実像が本作と異なる可能性大。どうにもならん。

大きな物語と小さな物語。
 リオタールの提唱したポストモダン哲学。
 詳細はいんたーねっつで調べてどうぞ。

ウィーゼル
 オリキャラ。本名不明。名前の由来は銃夢:LOのスーパーハッカ―。
 『己が何者であるか』を知るため、自身の命さえチップに差し出した。その選択の正否と価値は当人にしか分からない。


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