彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、Nullpointさん、烏瑠さん、誤字報告ありがとうございます。

会話パートが多いと文字数が膨らんじゃう。


54:この世はイカレポンチばかり。

「“抗う者達”は実在する。陰謀論の与太話じゃねェ。奴らは“失われた100年”の間に生まれ、数百年に渡って存在し続けている秘密結社だ」

 

 曙光の注ぐ聖地マリージョア。

 荘厳な石畳の通路をコツコツと叩くように歩く白マスクの男が言った。

 

「そいつらの目的は政府を倒すことなのか?」

 隣を歩く長身の手長族の男が相の手を返す。

 

 2人とも衣服を白で統一し、戯画的な仮面で顔を隠していた。

 世界政府諜報機関サイファー・ポール。その中でも天竜人直属の特別部署CP0――通称イージス・ゼロのエージェント達だ。

 

 白マスクの男コードネーム・ゲルニカが右手を上げ、指を立てながら話を続ける。

「世界政府に抗う連中は概ね三種類だ。

 

 一つは自分達だけの独立領を築き、領内で好き勝手に生きるタイプ。古くは北の海の海上軍閥ウールヴヘジン、現在なら新世界にのさばる四皇達などがこれに当たる。

 

 もう一つは世界政府に取って代わろうとする手合いだ。大海賊のロックスやシキが該当する。奴らは世界政府を倒して自らが支配者になろうとした。

 

 最後の一つは世界の在り方を変えようと考える者達。今で言えば、革命軍だな」

 

 ゲルニカは右手をポケットに突っ込んで、

「“抗う者達”は革命軍と同じく、世界政府を倒して世界の在り方を変えようと考えている。だが、そのベクトルは革命軍とは全く異なる」

「……何を企んでるんだ?」

 長身の手長族男コードネーム・ヨセフの問いへ端的に答えた。

 

「全世界規模の混沌だ」

 

「それはまた大仰な」とヨセフが仮面の中で苦笑を漏らす。

 も、ゲルニカはヨセフの反応を無視し、無情動に言葉を編んでいく。

「“抗う者達”は世界政府を完全に解体し、世界を弱肉強食のルールに叩き落とそうと考えている。奴らの言い分だと、諸勢力が食らい合う淘汰の末、生き残った者達の間で秩序と均衡が自然発生する。その状態こそがこの世界の本来の姿、らしい」

 

 ゲルニカの説明に、ヨセフは少し首を傾げた。

「……世界政府がないだけで、今の世界と大差ないのでは?」

 

「大違いだ」

 ヨセフの指摘に首を横に振り、ゲルニカは再び説明を始める。

「世界政府が無くなれば、今のような世界規模で活動する海軍は存続できない。

 つまり、加盟国は海軍に守られなくなる。これまで耐え忍んできた非加盟国の奴らがこぞって反撃に出るだろう。天上金制度が無くなれば、弱小国に甘んじていた連中も力を取り戻し、下剋上を企て始めるだろうな。

 力のある者。賢い者。持つ者。そういう連中以外は滅ぼされるか、隷属させられる。しかし、強い連中も力が弱まれば倒される。まさに混沌の世だ」

 

「なるほど」ヨセフは頷き「だが、知名度が低すぎないか? 物好きの陰謀論以外で耳にしたことがないぞ」

 言外に『諜報機関(サイファー・ポール)の俺でも』と含めるヨセフに、

 

「例によって政府が情報操作で奴らの存在を否定しているからな。

 何より、奴らはまず表舞台に姿を見せない。俺もサイファー・ポールに属してそれなりに経つが、“抗う者達”と実際に遭遇したことはない。

 ただ、奴らの関与が確認できた事件はいくつかある。たとえば、先に挙げたウールヴヘジンも、連中が随分と支援していたそうだ」

 ゲルニカは『直近では南の海のテロ組織ロス・ペプメゴを援助している疑惑がある』と続けた。

 

 連絡通路を渡り切り、下界へ行幸――例によってシャボンディ諸島の奴隷市へ向かう天竜人のロズワード一家が見えた。

 ゲルニカもゆっくりと息を吐き、

「俺達が居る限り、この世界が変わることなどないさ」

 その声色はどこか自分自身へ言い聞かせているような響きがあった。

 

     ○

 

 ラドー島の高級ホテル、スイートルームの寝室。

 タンクトップにボクサーショーツという色気の欠片もない格好で寝ていたベアトリーゼが目を覚ませば。

 隣のベッドで寝ていたはずの金髪碧眼の貴婦人が自分の真横でスヤスヤと安眠している。しかも、スケスケのベビードール姿で。

 挙句にベアトリーゼの左手に指を絡める恋人つなぎまでしていた。

 

 ベアトリーゼは密やかにビビる。

「マジかよ。ベッドに潜り込まれたの気付かなかったぞ」

 

※ ※ ※

 話は昨夜に遡る。

『ラドー島』高級ホテルのレストラン。ドレスコードが設定されているだけに、どのテーブルにも上品なスーツ姿の紳士と高価なドレス姿の淑女しかいない。

 豪勢なディナーを食前酒と赤白のワイン共々にさらっと平らげ終え、蒼いドレス姿のベアトリーゼは食後のデザートを口に運ぶ。ほんのり甘いベリーソースのレアチーズケーキは御馳走に疲れた舌に優しい。

 

「――は? フランマリオンの逃亡奴隷をこの街に匿ってる? 政府直轄領の街に?」

「声が大きいわよ」

 紅いドレス姿のステューシーが眉をひそめる。

「声にスクランブルをかけてるから周囲には聞こえてない」

 プルプルの実を使いこなしている蛮姫は珈琲にミルクを加えつつ、話を押し進める。

「それより、なんだってこの街に隠したのさ」

 

「いろいろ都合が良かったのよ。ここラドー島は政府の直轄領で実質的に政府関係者御用達のリゾートだから、CP0の私が訪れてもそう違和感がない。適当な政府関係者と顔を合わせておけば、歓楽街の実業家という偽装身分(カバー)からも逸脱しない。件の人物の様子を確認し易かったの」

 ステューシーは紅茶を口にして説明を続けた。

「それに、政府直轄領だから海賊やその他も早々やってこない。司直は自分達の足元にお尋ね者が居るなんて想像もしてない。現に、貴女に気付いている人は誰もいないでしょ?」

 

「灯台下暗し、か」

 呆れ顔でレアチーズケーキを平らげ、ベアトリーゼはチーク材製の椅子に体を預けた。

「それで、バレたってなんで分かるの?」

 

「頼もしい“友人”が居るのよ」

“マーケット”で政府の密やかなビジネスを管理している工作管理官を脳裏に浮かべつつ、ステューシーはカップの取っ手を撫でる。なんとも官能的な指使いで。

「もちろん、その友人も“抗う者達”の素性や動向を把握しているわけじゃないわ。彼らは常に深い闇の中に身を潜めているから。稀に動きの一端を掴めるだけよ」

 

「前置きは良い。それで?」眉根を寄せたベアトリーゼが先を促した。

 年齢不詳の貴婦人は澄まし顔で説明を再開する。

「彼はここラドー島行きの運送物に偽装痕跡が見つかったと教えてくれた。私も確認したけれど極めて巧妙な偽装だった。こんなことが出来る組織は”抗う者達”しかいない。

 そして、この島に彼らの注意を惹くものがあるとすれば」

 

「あんたが匿ってる逃亡奴隷、か」

 ベアトリーゼは蒼いドレスに包まれた胸元を抱えるように腕を組み、唸る。

 

 抗う者達ね。

“ウィーゼル”の手記を読んだ限り、ベアトリーゼが彼らに抱いた感想は――

 

 なんか半端にホッブズの『リヴァイアサン』を齧ったような浅はかさを感じる。そりゃ私も蛮族育ちのおかげで暴力的自由主義の無政府主義に気触れてるよ? だからって無分別な世界規模の戦争状態なんて御免被るし、その果てに生じる均衡状態を最善の世界とか思わんわ。

 結論:こいつらにはお近づきになりたくない。

 

 ベアトリーゼは珈琲を口にして気分を切り替え、

「配送物の具体的な中身は?」

「人攫い屋よ。政府直轄領での仕事を請け負うくらい腕の立つ、ね」

 ステューシーの説明に物憂げ顔を歪めつつ尋ねる。

「確認が二点。件の人物を保護したとして高跳びのアシは?」

 

「スーパートビウオライダーを用意してあるわ」と即答するステューシー。「トビウオライダーをサイボーグ化したものよ。貴女は潜水服を着て世経特派員と一緒にシャチに乗っていたんでしょ? 同じ要領で扱えば良いわ」

 

 まずトビウオライダーとは小型種の鯨ほどもあるトビウオで、人間が騎乗して飛空艇のように滑空することが出来るトンデモ生物。これをサイボーグ化し、航行速度と飛翔能力、“燃費”を向上させたものがスーパートビウオライダーだ。もちろん、サイボーグ化技術の出どころは超天才科学者である。

 

 ベアトリーゼはアンニュイ顔で小さく鼻息をつき、慨嘆をこぼす。

「動物をサイボーグ化する技術があるなら、船舶を完全機械化させりゃ良いのに。技術進化のベクトルが不条理すぎる」

 

「もう一つの確認したいことは?」

 くすくすと上品に喉を鳴らす貴婦人に促され、蛮姫は口を開く。

「私と件の奴隷学者を会わせて何をさせたいの?」

 

「特にないわ」

 ステューシーはあっけらかんと告げ、目を伏せる。紅茶の水面を見つめながら静かに言葉を編む。

「私は“ウィーゼル”のことをずっと引きずってきた。たった一度会っただけの、それも10分と満たない僅かな関わりだったのに」

 ベアトリーゼにも覚えはある。荒事に身を置く者が持つ“自分だけの物語”は、大抵が心の(PTSD)だ。

 

「貴女に彼が遺そうとしたものを伝えることで、私の中にある感情に区切りをつけたい。そう言ったら、迷惑かしら?」

 おずおずと上目遣いに問うステューシーに、ベアトリーゼは物憂げな眼差しを返す。

「肯定はしない。でも、拒絶もしない」

 

「……ありがとう」

 礼を告げるステューシーの微笑みは、ひどく感傷的で妙に官能的だった。

 

 ベアトリーゼは金髪碧眼の貴婦人を見つめて思う。こんなウェットなスパイがいるとは。なんとまぁ可愛いことで。

 冷淡な思考を弄んでいると、

 

「件の人物には明日、引き合わせるわ。それと、シャワーは私が先で良いかしら?」

 軽い口調で告げられたステューシーのセリフに、ベアトリーゼは眉根を寄せた。

「……ひょっとして私の部屋に泊まる気?」

 

 ステューシーはどこかウキウキした様子でにっこり。

「噛んだりしないから大丈夫よ」

 ※ ※ ※

 

 で。一夜明けて目を覚ましてみれば。

 スケスケのベビードールを着たステューシーがベアトリーゼの傍らでスヤスヤ安眠中だったわけだ。

 

 まあ、ベアトリーゼにとって添い寝自体はなんてことない。

 ロビンと共に旅をしていた頃はそれなりに同衾した。もちろんアレやコレといった意味ではない。野営や安宿で寒すぎて眠れない時に互いを湯たんぽ代わりにしたり、悲劇的な過去を持つロビンが悪夢にうなされた時に添い寝してやったり、だ。

 

 先のエレジアでも、妙に懐きだしたウタが『パジャマパーティしよっ!』と言い出し、コヨミと一緒にベアトリーゼのベッドへ潜り込んできた。

 ウタに引っ付かれ、寝相の悪いコヨミに幾度も蹴られ、実に寝苦しかった……

 

 とはいえ。

「昨日今日出会ったばっかで添い寝とか、距離感おかしくない?」ベアトリーゼがぼやけば。

「おかげさまで安眠できたわ」

 起床したステューシーはセクシーなベビードール姿のままサイドボードの水差しを手にし、妖しく微笑みながら二つのグラスへ冷水を注ぐ。

「そうだ。昨日は伝え忘れたのだけれど」

 

 怪訝顔のベアトリーゼにグラスを差し出し、ステューシーはベッドの縁に腰かける。

「仮に“抗う者達”の手配した猟犬達と事を構えるなら、貴女が“血浴”であることをバレないようにしてちょうだい。貴女の代名詞である派手な殺しと腕に装着する刃物は無しね」

 

「……マジで?」

 グラスを口にしようとしていたベアトリーゼが動きを止め、目を瞬かせる。も、ステューシーの返答は無情だった。

「貴女は自分で思っている以上に海軍や政府に危険視されているわ。貴女が政府直轄領から人を連れ出したと判明したら、相当に厄介なことになる。件の奴隷学者を無事に脱出させるためにも、貴女の素性が発覚することは避けて」

 

 手練れ相手に縛りプレイかよ。

 ベアトリーゼはげんなり顔で溜息を吐いた。

 

      ○

 

 政府直轄領ラドー島の大パサージュ。

 昼の強烈な陽光を和らげるガラス天蓋の下、石造りのアールヌーボー調建築物が並ぶ。

 ステューシーとベアトリーゼは個別に通りを進んでいく。前者は『バカンス中の若奥様』のように振る舞い、後者は『休日の女性船乗り』を思わせる様子で。

 

 そして、2人は少しの時間差を設け、人形修理店のドアを潜った。

 然程広くない店内は古いビスクドールが展示陳列され、壁いっぱいに人形の部品――頭や胴や四肢、髪や目や指や球体関節が並んでいる。人間の本能的な不安を刺激する薄気味悪さ。

 

 店主の朴訥とした女性が無言でステューシーとベアトリーゼを店の奥へ案内する。

 休憩室らしい一室へ案内され、2人が提供された紅茶を半分ほど消費した頃、エプロンを掛けた初老男性が入室してきた。

 初老男性は禿頭で痩身中背。髪は側頭部にひょろりと残っているだけ。もっとも体毛そのものが薄いのだろう。眉毛もほとんどなく、髭も剃った様子がない。

 それと、両手と両足に細身のリングを装着している。

「お久しぶりね、ドクトル・リベット」

 ステューシーの笑みにドクトル・リベットは神経質そうな眼差しを返し、ベアトリーゼを睨む。

「そ、その女はだ、だ誰だ? ミミミ、ミス?」吃音症なのか、ドクトルはドモりながら問う。

 

「あら。分からない? 夜色の髪。暗紫色の瞳。小麦肌」とステューシーが指を立てながらからかうように語れば。

「!!」

 ドクトル・リベットはクワッと目を見開き、鼻息を荒くしてベアトリーゼに詰め寄――れない。ベアトリーゼが昂奮したジイ様を容赦なく床へ投げ転がす。

 

「こら」と蛮姫に小さく叱声を掛けるステューシー。

「今のはこのジイ様が悪い」しれっと応じるベアトリーゼ。

 

 ドクトル・リベットは床に転がったままベアトリーゼを凝視し、わなわなと体を震わせていた。

「信じられんまさかヴィンデ・シリーズがまだ生き残っていたとは観察を打ち切られた段階でほとんどの血統が断絶していたのにくそっこんなことなら観察継続しておけば!!」

 物凄く早口の独り言。ドモりが消えている。

「いったい何ロットめの血筋だ?開始個体のナンバーは?交雑して何世代目だ?身体検査だ!採血して血統因子も調べなければならんそれに体細胞サンプルの採取もふぉおおおお滾ってきた!!」

 

「……なあ」蛮姫は金髪碧眼の貴婦人を横目に捉え「こいつ、本当に奴隷だったの? どうも私の想像と違う気がするんだけど?」

「ドクトル・リベットは奴隷と言っても、実質的にはフランマリオンの御雇学者よ。ドクトルがフィッシャー・タイガーの襲撃時に逃亡したのも他の奴隷達に殺されかけたから」

「恨まれる側かよ」ベアトリーゼは溜息をこぼし「保護は保護でも保護拘置か」

「その通りよ。この建物から逃亡したら手足のリングが、ぼん!」くすくすと上品に喉を鳴らすステューシー。意地悪な笑顔が妙にエロい。

 

「さぁ早く身体検査をさせてくれっ!隅々まで毛先から爪先までいや体や頭蓋の中まで!」

「ふざけんな」

 這いずり寄ってきたドクトル・リベットを踏みつけ、ベアトリーゼは鼻息をつく。

「この変態科学者から何を聞けと?」

 

「ドクトル」ステューシーはベアトリーゼの足の下でもがく初老学者へ「とりあえずは“ウィーゼル”のことを話してあげて」

「し、しし試験体ぴ、PP117号のここ、ことかね?」

 ドクトル・リベットは冷や水を浴びせられたように大人しくなり、吃音が復活する。ベアトリーゼが足を除けると、ゆっくりと立ち上がってテーブルに着いた。

 

「ぴ、PP117号はじ、実に有益なし、試験体だった。か、かか彼はは、覇気が使えたからな。は覇気使いの試験体はひ、非常に稀有なのだ」

「私は覇気使いで能力者だけど?」ベアトリーゼが何気なしに言えば。

「!何だと!?能力者だと!?ああああなんということを悪魔の実を摂取してしまったのか!せっかく貴重な試験体になりえたのにそれでは台無しだ!!あんなものに“汚染”されては超人類(ウーバーメンシュ)足りえないっ!!」

 ドクトルは早口でまくし立てながら禿頭を引っ掻き回す。剥き出しの頭皮に爪痕がいくつも残った。

「貴重な試験体になりえる存在の自覚が足りん!悪魔の実などという非科学的物体を取り込み人間本来が持ちえる可能性を汚している!嘆かわしいにも程がある!!」

 

「知らねーよ、お前の都合なんか」

 ベアトリーゼは早くもドクトルの扱いが雑になり始めていた。

 そんなベアトリーゼの思考を察したのか、ステューシーが一人憤慨しているドクトルに冷たい目つきを向ける。

「ドクトル。この子はちょっと気が荒いの。あまり脇道に逸れたことばかり言っていると、そろそろ手が出るわよ」

 

「む。わわ分かった、分かったよミス」

 大きく深呼吸し、ドクトル・リベットは低い鼻を弄りながら話し始める。

「PPい、い117は自身のる、ルーツと出生のひみ、秘密を知りたくて、フフランマリオン聖のし、試験体に志願した。かか彼は我々のは覇気研究におお大いに役立った。

 だだが、どどどういう訳か、わ我々の許から逃亡しししてしまった。り、理解できない。人類の進化にこ貢献する栄をほほ放棄するなど……おそらくげげ下賤の血が混ざり過ぎてしまったのだろう。ざざ残念なことだ」

 

「“ウィーゼル”はルーツと出生の真実を知ったから逃げたんだろ」とベアトリーゼは胡散臭そうに合いの手を打つ。

「そ、そそれは違う。ぴPP117号は確かに多くのことを知った。じじ自身がパパガイ子爵家の血を用いられたしし試験体の現地交雑体であることも、父祖がか過酷な環境下におけるて適応力と進化の可能性を探るべく“箱庭”に放流されたことも、た確かに知った。しかし、すす全てではない」

「? どういう意味だ?」嫌な予感を抱きつつベアトリーゼが先を促す。

 

「わ、我々はぴPP117号の覇気使用能力をけけ検証するため、は覇気を使用できる試験体の製造を試みた。覇気使いだったかか彼の血をベースに」

 がりがりと毛の薄い側頭部を掻きながらドクトルは続けた。

「ざ残念ながら、いいいずれの試験体も覇気をはは発現できなかった。ど、どのような身体的、精神的な強度刺激を加えても。まままだまだ未解明な部分が多すぎたんだ」

 

「強度刺激? 物は言いようだな。要は拷問と虐待だろう」ベアトリーゼは吐き捨ててから「……“これ”を許容したのか」

「いいえ」

 ステューシーは冷たい目つきで真実の一端を明かす。

「フィッシャー・タイガーの聖地襲撃事件時、フランマリオンの研究所(ラボ)を襲ってPP117号シリーズの実験を破壊した本当の犯人は、騒ぎに便乗した私だもの」

 

“ウィーゼル”に強くウェットな思い入れを抱くステューシーには、“ウィーゼル”のクローンや培養児を製造して非人道的実験に用いるなどという行為を、到底許容できなかった。

 フィッシャー・タイガーの犯行を奇貨に、ステューシーはフランマリオンの研究所を襲い、“ウィーゼル”のサンプルを全て破壊/破棄している。

 

「! なんだとっ!?」初耳だったらしいドクトル・リベットは憤慨し「あのラボ襲撃のせいで私は実験動物(他の奴隷)達に襲われ、逃げ出す羽目になったのだぞっ!?」

 

「だから何? それがどうしたの?」

「なな、なんでもないです……」

 CP0の女スパイが碧眼に凄みを湛えて睨みつければ、ドクトルはさっと目を背けて怒りを鎮火させた。

「そ、そそれで訪問の目的は何なのだ? そそそこのヴィンデ・シリーズにPP117号の話を聞かせに来ただけなのか?」

 

「本当は“ウィーゼル”やヴィンデ・シリーズに関わる話を、彼女に聞かせるだけで良かったのだけれどね」

 ステューシーはあっけらかんと告げた。

「ドクトル。貴方のことが“抗う者達”にバレちゃったの。だから貴方をこの島から移送するわ」

 

「なん……だと……」口を大きく開けて唖然とするドクトル・リベット。

 そんなドクトルを無視し、ステューシーは綺麗な顔をベアトリーゼへ向けた。

「まあ、分かったと思うけれど、この人に一般的な倫理や道徳は期待しないで。いろいろ不愉快で不快で殺したくなると思うけれど、我慢してね」

 

 ベアトリーゼは端正な物憂げ顔を物凄く嫌そうに歪めていた。

 




Tips
CP0:ゲルニカ
 原作キャラ。ワノ国編でルフィとカイドウの決闘に横槍を入れた奴。
 CP0でも極めて有能な『特級エージェント』らしいので、物知りさん扱い。

CP0:ヨセフ
 原作キャラ。ワノ国編で鬼ヶ島から脱出した奴。
 ゲルニカから説明を聞く役に。

ステューシー。
 原作キャラ。
 本作ではオリキャラとの接触で、クローンとしての出自に苦悩を抱いていることに改変。
 似たような出自のお友達が出来て、年甲斐なくはしゃぎ気味。

ドクトル・リベット。
 オリキャラ。元ネタは銃夢LOのDrリベット。発狂済みの狂科学者でノヴァの狂信者。
 原作でも本作でも彼の本質は『許されざる者』。

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