彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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相馬小次郎さん、佐藤東沙さん、NoSTRa!さん、烏瑠さん、腹黒薩摩さん、誤字報告ありがとうございます。

お待たせしました。今回はちょっと文字多め。


62:泥棒猫ちゃんといっしょに

「これが、トビウオ?」

 ナミはテントの出入り口から表を覗き、小型の鯨ほどある巨大な、加えて半機械化された得体の知れないトビウオを見て目を瞬かせる。16年生きてきてこんなもの見たことがない。

 

「グランドラインにはもっとイカレたものが掃いて捨てるほどあるよ」

 ベアトリーゼがどこか楽しそうにくすくすと喉を鳴らす。

 

 ナミはベアトリーゼ達と簡単に名前を交換した後、状況を簡潔に説明された。

 どうやら乗っていた海賊船を沈められた後、自分は船体の残骸に引っ掛かって漂流していたらしい。そこをベアトリーゼが発見。トビウオライダーを着水させて海上テントを広げ、ナミを救助し、診察と手当てをしようとしていたとのこと。

 

 まあ、診察はナミの覚醒で中断されたが。

 

 対して、ナミはベアトリーゼに民間貨物船の航海士見習いと名乗った。オイコット近海に急増した海賊に襲われて船を沈められた……と。口から出まかせだが、航海士としての知識はあるし、この辺りの事情はベアトリーゼより詳しいから誤魔化せられる。裏取りも出来ない……はず。

 

 ベアトリーゼはアンニュイ顔でナミの説明を聞いた後、改めてドクトル・リベットにナミの診察と簡単な手当てを行わせた。

「みっみ右肋骨が二本、ひひ左の肋骨が一本。折れる寸前だ。そそそれと、おっ溺れた時に雑菌が入ったのだろう。はっは肺炎を起こしかけている」

 

 鼻に当て布を張ったドクトル・リベットが恨みがましい目でナミを見据えながら、診察結果を語り、手当の準備を進めていく。

「ま、ままず圧迫固定からだ。ふ、服を脱ぎたまえ」

 

「……脱がなくても服をめくれば良いでしょ」

 ナミは『お前に裸を見せたくない』と迂遠に告げる。本音は脱衣して左肩の刺青を晒したくなかったからだが。

 

「す好きにしたまえ……っ!」苛立ちを隠さないドクトル・リベット。

 濡れた上着を大きくめくり、ブラに収まったサイズ86の胸が顔を出すも、ドクトルは微塵も関心を示さず(それはそれでナミの自尊心を損ねたが)、ヒビが入った左右の肋骨を支えるように当て布を巻き、圧迫固定した。

 

 身体の痛みが大きく和らぎ、ナミはほっと息を吐いて上着の裾を下げる。

「ろっろ肋骨に負荷がかかる動きは、ひ控えたまえ。そそそれと、この抗生剤をのっ呑んでおくように」

 ドクトルが救急箱から薬剤瓶を取り出し、ナミへ錠剤を二粒渡した。

 ナミは錠剤を呑み下し「どれくらいで治るの?」

 

「き、き君が回復力の高い体質でないなら、いいっ一週間は安静にしておけ」

「一週間? 無理よ。そんなに休んでいられないわ。早く村に帰らないと……」

 ドクトルの回答に、ナミが困り顔を浮かべる。

 あまり帰りが遅れれば、アーロンが逃亡を疑うかもしれない。ココヤシ村やノジコ達に何をされるか分かったものじゃなかった。

 

「そ、そそんなことは知らんよ」ドクトルは冷淡に突き放す。

「何よ、それ」ナミはムッとして「あんた、医者のくせに患者に対して無責任ね」

 患者の抗議に対し、ドクトルは諸々の道具を片付けながら淡白に嘯く。

「わわ、私は医者ではない。せっ生命学者だ」

 

「? ? ?」ナミは困惑して「訳わかんない。“血浴”といい、あんたといい、東の海で何を――」

「ナミちゃん。あまり詮索しないで。口封じしないといけなくなる」

 テントの外、トビウオの前席で海図を見つめていたベアトリーゼが、飄々と警告を飛ばす。

 

 ナミは口を噤みつつ、眉を大きく下げる。ちゃん付け呼び自体はともかく、その響きが半人前の子ども扱いという点がよろしくない。アーロン一味の海図制作士として、海賊専門の泥棒として、既に5年以上も海の渡世を生きているのだ。ちゃんと一人前扱いして欲しい。

 

 ナミの思春期らしい自尊心と反発を余所に、ベアトリーゼは思案していた。

 割と困り気味に。

 

 こんなところに主人公御一行のヒロイン様が居るとはねえ……ほんと、海に浮いてるところを見つけた時は驚きすぎて宇宙猫になりかけたわ。

 

 しっかし……どーしようっかなぁー……

 下手に深く関わったら私がアーロン一味潰すことになりかねないよね? 最弱の海でイキってるサカナ共なんざ5分もあれば皆殺しに出来るけど、それは……ちょっとなぁ……

 

 ココヤシ村の一件は、誰にも頼らず恃まず独りで戦い続けてきたナミが、ルフィ達を仲間と認めて助けを求め、麦わら一味に加わる超重要エピソード。加えて言えば、ルフィが戦いの間、最も大事な宝である麦わら帽子をナミに預けるという最高にエモいシーンがある。ニワカとはいえ、ファンとしてこのエピソードをワヤにしたくない。

 

 原作の流れを別にしても、麦わら一味において、ナミは胆の人物。天候観測と海図作りに天賦の才を持つ航海士で、渡世の生き方を心得た賢い交渉人で、麦わら一味の金庫番。ナミは麦わら一味において、未来の海賊王にとって超重要人物なのだ。

 

 時期的にもよろしくない。原作開始までもう二年を切っている。ここで大きな変化をもたらした場合、リカバリーが利くか怪しい。海賊王の行く末を見届けたい身としては、原作の大きな――よろしくない方向への改変は望ましくない。

 

 ベアトリーゼはちらりと横目にテント内のナミを窺う。

 もうちょい早く出会えていれば、ロビンのように深く関わっても良かったんだけどなあ。うーん……やっぱり原作開始までアーロンの許で耐え忍んでいただきますか。

 

「私達の補給がてら最寄りの島へ連れて行ってあげるから、その後は入院するなり、故郷の村に帰るなり、好きにすれば良いさ。ただ……問題が一つある」

「問題って?」とナミは不安げに合いの手を入れる。

「その最寄りの島が戦争を始めちゃってるんだなぁ……」と遠い目のベアトリーゼ。

 

「ほ、ほ他に近場の島はないのかね?」

「あることはあるけど、作戦海域内なんだよ」

 ドクトルに応じながら海図から顔をあげ、ベアトリーゼはナミに尋ねた。

「この辺りの情勢や状況について何か知ってる?」

 

「戦争が始まってからのことは全然。ただ……この戦争はいろいろヤバいわ」

 砲弾の雨に晒された時のことを思い出し、ナミは小さく身を震わせた。

 

「深入りは危険か」

 ベアトリーゼは海図を見つめ、

「とりあえず、アラワサゴ島から少し離れたところにあるオウィ島に行ってみよう。道中に海軍かオイコット軍に出くわしたら、上手いこと逃げるか。いや、事情を話して“遭難者”のナミちゃんだけでも保護して貰った方が良いかな?」

 ちらりとナミを見る。

 

「お、お気遣いなく。高額賞金首の仲間だと思われたら大変だし、逃げる方向で良いです」

 ナミは首を横に振った。海軍やオイコット軍に接触されたら素性がバレかねない。間違いなくこの海域で一番危険な女に敵認定されたら……想像もしたくなかった。

 

「そりゃそうだ。じゃ、オウィ島に直行しますか。あ」

 思い出したように呟き、ベアトリーゼはトビウオライダーを見回した。

「……こいつ、2人乗りだったわ。3ケツはできなくも無いけど、どうしよっかな。ドクトルをロープで引きずっていくか」

 

「きっきき君は私をな何だと思ってるんだね!?」

 あまりにもあんまりな提案に憤慨するドクトル・リベット。

「面倒臭い荷物」と真顔で即答するベアトリーゼ。

 

「……あんた達、本当になんなの?」

 もっともな疑問を呈すナミへ、ベアトリーゼは口元に人差し指を添え、にやり。

「ないしょ」

 

        〇

 

 アラワサゴ島紛争、開戦から4日。

 海上の戦いは海軍とオイコット軍水上部隊が海賊の集団を圧倒し、島内の戦いもオイコット軍側が優位に立ちつつあるようだ。

 

 妥当と言えば妥当だろう。

 海賊が群れを成したところで所詮は烏合の衆。艦隊運動も作戦の協働もままならぬ連中が艦隊戦で海軍に勝てる道理などなく、オイコット軍水上部隊の群狼戦術に対抗できるはずもない。

 

 結局のところ、よほどの不利や劣勢を覆せる軍事的要素、あるいは余程の強者の存在が無ければ、海軍が海賊如きに負けることはない。艦艇でも装備でも人員の質や練度でも優位なのだから。

 

 そして、アラワサゴ島紛争は硫黄島やアッツ島のような孤島を舞台にした戦いであるため、海上補給線を断たれた側が不利に陥ることは当然の帰結。まあ、敵である『解放軍』とやらはその辺を甘く考えていたようだが。

 

「こりゃダメだな。ボンクラ共は勝てそうにねえ」

 解放軍の後方陣地の一角。

 秘密犯罪会社バロックワークスの下級幹部ミスター・7はデコの瘢痕を掻きながら、忌々しげに吐き捨てた。元よりチンピラ然とした容貌と身なりだけに、不機嫌面を作ると酷く怖い。

 

「それどころか~負けが見えてきたわね~海を押さえられたら、私達の脱出も難しくなるわ~」

 業務用冷凍庫染みた体躯のミス・ファーザーズデーが、こてこてのアニメ声で相棒の見解を肯定する。その顔はミスター・7に負けず劣らずの渋面になっていた。

 

「では、任務中止をして脱出、かね?」

 イガラムの問いかけに他のミリオンズ達が微かに期待を抱く。

 

 この4日間でミリオンズ達は完全に憔悴していた。腕っぷしに自信があり、犯罪組織の一員として切った張ったやタマの取り合いに慣れていると言っても、戦場の“それ”は桁違いの段違いだった。しかも互いに捕虜を嬲り殺し合うような、陰惨かつ凄惨な戦いが繰り広げられている。一言で言えば、彼らはこの殺戮の島にうんざりしていた。

が。

 

「ボンクラ共が。東の海くんだりまで足を運んで手ぶらで帰れるか」

 ミスター・7はイガラムを始めとするミリオンズの期待を蹴り飛ばし、瘢痕だらけの浅黒い腕を組んで続ける。

「当初の予定通りにオイコット軍の金を狙う。ただし、港湾攻略戦のどさくさに紛れる計画から、オイコット軍の義勇兵に化けて潜入する方針に変更だ」

 

「潜入?」とビビが『そんなことが可能なのか』と言いたげに訝る。

 風呂どころかシャワーを浴びることもできないため、ビビは随分と汚れていた。美しい髪も脂と汚れで青みが濃くなっている。それでも美貌が衰えていないのは、七難を隠す若さのおかげか。素地が素晴らしいからか。

 

「義勇兵共は制服を着てるわけじゃねえ。こっちと同じく腕に腕章を巻いてるだけだ。化けることは難しくねェ。合言葉やなんかは適当にとっ捕まえた捕虜から聞き出しゃあ良い」

「そういうことなら~私はちょっと不向きね~私って人に覚えられ易いから~」

 こてこてのアニメ声で微苦笑をこぼすミス・ファーザーズデー。なるほど、その業務冷凍庫並みの図体は覚えられ易かろう。

 

「ミス・ファーザーズデーは2人連れて陽動に当たれ。残りのボンクラ共は俺と一緒に潜入を――」

 ミスター・7が計画について語っているところへ、

 

『ミスター・トゥコ。居るか? 話がある』

 解放軍の参謀らしき男がナンバー・7の偽名を呼んだ。

 

 小さく舌打ちし、ミスター・7はミリオンズを見回した後、ミス・ファーザーズデーへ告げる。

「仕方ねえ。ミス・ファーザーズデー。ボンクラ共へ説明の続きをしておいてくれ」

 

「任せて~しっかりお話ししておくわ~」

 ミス・ファーザーズデーは気の抜けるアニメ声で相棒に応じ、ビビ達へ向き直った。

「それじゃ~皆~しっかり聞いてねえ~」

 

 業務用冷凍庫染みたビッグサイズな美女が悪企みの内容を説明している間、呼び出されたミスター・7は解放軍の参謀から“依頼”を持ち込まれていた。

 

「“海賊狩り”、“三刀流”ロロノア・ゾロか。こいつを俺に狩れ、と?」

 ミスター・7は渡された資料を左手に持ち、右手でデコの瘢痕を掻きながら依頼を反芻した。

 

「歳若いが、かなりの手練れだ。既に幾つも部隊を壊走させられている。中央部の戦いが劣勢に追い込まれた要因の一つだ。しかも、性質が悪いことに、こいつはどうやら戦場の自由選択権を持った一匹狼(ワンマンアーミー)らしい。部隊に所属せず気ままに戦場を徘徊し、遭遇した我らの部隊を叩いて回っている。罠や待ち伏せが難しい。今や末端の同志達は奴の姿を見ただけで逃げ出す始末だ」

 参謀は疲労の濃い顔を憎々しげに歪め、ミスター・7へ険しい目を向けた。

「グランドラインから来た最精鋭の君に奴を倒して貰いたい。出来れば、一対一の決闘で」

 

「倒すことは構わねえが……なんでそんな面倒くせえ真似を?」

 怪訝そうに眉をひそめるミスター・7へ、参謀は眉間に深い皺を刻む。

「君も察しているだろう。戦況は芳しくない。兵達を鼓舞するには分かり易い戦果が一番だ」

 

「なるほど。話は分かった」

 ミスター・7は少し考え込み、悪人笑いを湛えた。

「仮にこいつをこちら側へ引き込むことが出来たら、それでも良いか?」

 

「引き込む? そんなことが可能だと?」

 目を瞬かせて反問する参謀へ、ミスター・7は口端を大きく歪める。

「義勇兵なんて呼ばれちゃあいるが、所詮は金目的の戦争犬だ。より美味い餌がありゃあ尻尾を振るかもしれねェだろう? 失敗したら予定通り殺せばいいだけだ」

 

 参謀は眉間に刻んだ皺をさらに深くし、少し考え込んだ後、頷いた。兎にも角にもこの戦争に勝たねばならない。であるなら。

「多くの同志がこいつに斬られている。簡単には受け入れられない……が、この戦いに勝利するためなら、怒りと恨みは胸の奥にしまおう」

 同意は成された。

 

 ミスター・7は歪んだ笑みを大きくする。

 秘密犯罪会社バロックワークスは腕の立つ荒事師を勧誘していた。引き込んだ者が優秀で成果を上げれば、勧誘者にも褒賞が出る。

 

 そうした組織の事情を抜きにしても、現在の戦況で強力な駒であるロロノア・ゾロを引き抜くことは、オイコット軍側に少なくない動揺をもたらすだろう。何より、ロロノア・ゾロを利用できたなら、本命であるオイコット軍の金をより奪い易くなる。

 ロロノア・ゾロが愚かにもこの勧誘を蹴ったなら、解放軍の求めるままに斬ってしまえば良い。

 

 ま、ちょっとした余興みてェなもんだな。

 悪意的に嗤うミスター・7はまだ自分の運命を知らない。

 

      〇

 

 澄んだ朝空の下、波浪穏やかな海面を巨大トビウオが飛ばずに泳いでいる。

 なんてことはない。ナミの潜水装備が無いので飛翔――着水――水泳加速――飛翔のプロトコルを採ると、怪我人のナミに負担がキッツイのだ。仕方ないので、海面を泳がせている。まあ、それでも下手な船よりずっと速いが。

 

 ちなみに、乗車ならぬ乗“魚”位置は前席ベアトリーゼ、後席にナミ。ドクトルは後席の後ろに設けられていた荷物の積載スペースに“詰まれて”いる。

 ドクトルはこの扱いに抗議申し立てをしたけれど、例によってベアトリーゼは押し通した。

 

 ベアトリーゼはトビウオの後頭部に並ぶ、計器盤の距離計と括りつけた東の海用コンパスと防水加工した海図を確認していた。それに加え時折、見聞色の覇気を発して周辺を捜索哨戒。トビウオを目的のオウィ島へ向けて進ませていく。

 防水ポンチョを被ったナミは後席に座り、ベアトリーゼの引き締まった腰に両腕を回して引っ付いている。冷ややかな向かい風と体に当たる波飛沫の痛痒に難儀しつつも、魚の背に乗って風と波を切って高速航海する体験に奇妙な感動を覚えていた。

 

「……良いわね、これ。凄く爽快」

 和らいだとはいえ肋骨の痛みがあるため満面の笑みとはいかないが、ナミは随分と久方振りに無邪気な微笑をこぼす。

 原作・空島編で(ダイアル)を用いた原チャリみたいな一人乗り小型船舶ウェイバーを気に入り、長く愛用していた。スピードが出る乗り物が好きなのかもしれない。

 

「ああ。海面をかっ飛ばすのも、空を宙返りしたりするのも楽しい。ただし、長く乗ってると首や腰がかなり辛い。鍛え方が足りないとヘルニアになるかも」

「本当? そんなにキツいの?」

 俄かに信じられないと言いたげなナミに、

「ナミちゃんが怪我をしてなくて、この海域が平和だったら、運転させて真偽を確かめさせてあげても良かったんだけどね」

 ベアトリーゼは気安く応じ、トビウオを走らせていく。

 

 そして――

 

 太陽が南へ昇った頃に小休止を取り、ぬるい水と味気ない保存食を摂る。

「このトビウオライダーの欠点は」

 原料定かならぬエネルギーバーを齧り、ナミがぼやく。

「船と違って休息がきちんと採れないことね」

 

「ほ、ほ本来は沿岸でつっ使うものだ。が、外洋航海はそもそもそっそ想定されていない」

 ぬるい水が収まった革製の水袋を傾け、ドクトルは渇きを慰める。

 

「カームベルトを越える時に比べりゃ、落ち着いて飲み食いできるだけマシだ」

 ベアトリーゼはエネルギーバーをぼりぼり齧り、海図を確認する。

「おやつ時までには着きそうだ。オウィ島の村で宿を取れるか分からないけど、少なくとも陸でぐっすり眠れるな」

 

「だ、だっだと良いがね」ドクトルは水袋をしまい込みながら、難渋面を浮かべる。

「含みがあるわね」耳敏く聞きとめ、ナミが背後のドクトルを窺う。

 ドクトル・リベットはどこか説くようにナミに言った。

「ここっこれから向かう先もせ、“戦場”の一つだ。も、目的の島が安全とは、かっ限らない」

 

 ナミにはドクトルの言葉が不吉な予言に聞こえ――

 その正否は航海を再開して数時間後に判明した。

 

 

 

 

 

 海抜高度――水面上に立った成人の目で水平線までの視認距離は約4キロ強程度であり、人間の目による精確な識別可能距離はおおよそ400メートルが限度と考えられている。

 また、ベアトリーゼは見聞色の覇気やプルプルの実の力による振動波を活用した探知で、常人をはるかに上回る捜索探査が可能だ。

 

 もっとも……この場合、能力の有無はさして問題ではない。

 

 太陽が南から西へ進むおやつ時。

 異能を持たぬナミやドクトルでも、水平線の先にある小さな、とても小さな島の異変に気付くことが出来た。

 島から煙が空高くまで昇っていたからだ。

 

      〇

 

 海軍とオイコット武装船群は“頑張り過ぎた”。

 特にオイコット武装船群の海賊船団に対する攻撃はあまりに苛烈で、あまりに冷酷無比だった。結果、散々に打ち負かされた海賊達の八つ当たりがオウィ島を襲ったのだ。

 

 ベアトリーゼ達は潜水服姿のまま島の裏手へ密やかに上陸し――

 エレジア島並みに小さなオウィ島にある人口200人前後の小さな町が、海賊達によって蹂躙されている様を見た。

 

 港や浜に船を停泊させた、100人前後の海賊団が哄笑を上げながら暴れ回っている。

 

 金や食料はもちろん換金可能なあらゆるものを奪い、建物を遊び半分に壊し、焼いている。住民を海軍とオイコット軍に叩きのめされた怒りの捌け口にし、残虐な手法で嬲り殺しにしており、島の端まで悲鳴と断末魔が響いていた。

 少女や若い女性達が親や夫の前で“壊れる”まで凌辱され、飽きるまで虐待され、惨殺されている。

 そうしてズタズタにされた死体は、燃え盛る建物へ次々と投げ込まれていた。

 心底楽しそうに嗤いながら。酒と暴力に酔い痴れながら。悲惨な末路を辿る住人を嘲り笑いながら。

 

「度し難いな」

 一般的な倫理道徳に欠くドクトル・リベットは酷く気分を害していた。純粋ヒト種至上主義者の彼にとって、こういった蛮行に走る手合いは『優性種の面汚し』であり、『殺処分すべき出来損ない』だった。

 

 ナミは血が滲むほどに拳を握り締め、唇を噛みしめ、涙を流しながら激怒していた。

 若者らしい純粋な正義感から、生来の心優しさから、ナミが内に秘める人間的善性から、激怒していた。

 6年前にココヤシ村を襲われた時のことを克明に思い出し、激怒していた。

 この惨劇を止めることが出来ない自分の無力さに、激怒していた。

 

「……海賊め」

 蜜柑色の髪の少女から漏れた声はまるで呪詛だった。

 

 そして、ベアトリーゼは不快な郷愁感を覚えている。

 オウィ島で起きている惨劇は故郷で幾度も見た光景だった。

 ウォーロードの軍勢に占領された敵方の街。盗賊団に襲われた開拓村や商隊。より凶悪な敵に負けた群盗山賊のアジト。ロクデナシ共によって食い物にされる難民や孤児達。

 被害者にも、加害者にも、傍観者にもなった。

 

 まあ、それはともかくとして……どうするか。

 荷物(ドクトル)を危険に晒すリスクは避けたい。ここで海賊共を皆殺しにした結果、海軍や“抗う者達”に自分が東の海に居ることがバレてもつまらない。

 

 しかし、(アシ)を得る好機だ。スーパートビウオライダーは目立ちすぎる。

 ベアトリーゼは可憐な顔立ちを怒りと涙で染めている美少女を横目にし、決める。

 船を奪うついでに、好感度を上げておくか。

 

「ドクトル。ナミちゃん。5分経ったら町に来て」

「「え」」ナミが涙に濡れた目を瞬かせ、ドクトルが眉間に深い皺を刻む。

 困惑する2人を余所に、ベアトリーゼは後ろ腰に下げていたダマスカスブレードを抜き、両腕に装着していく。

 

「ちょっと、どうする気っ?」

 ナミは涙を拭いながら慌てて呼び止める、も。

 

「奪う」

 さらりと答え、ベアトリーゼは両腰からカランビットを抜いて両手に握る。

「金も食い物も船も、命も。奴らから全て奪い取るんだ」

 

「一人であの数に挑む気?!」ナミは目を丸くして「無茶よっ! いくらあんたが強くても、あんな大人数が相手じゃ……」

 

「ナミちゃん。億越え賞金首ってのがどれほどのものか、見せてあげるよ」

 ベアトリーゼはナミへ微笑んでから、球形型ヘルメットを被った。プルプルの実の力を用い、地面を爆発させるように飛翔する。

 

「きゃああっ!?」

 突然の衝撃波を浴び、ナミは悲鳴を上げ、粉塵に咳き込みながら町へ向かって飛んでいくベアトリーゼを唖然と見つめる。

「飛んでる……なんなのよ、あいつ……?」

 

 ドクトルは禿頭に被った土埃を払いながら、言った。

「今、ここっこの東の海で、い、いい一番、恐ろしい女だ」

 




Tips
回復力が高い体質。
ワンピ世界の人々はだいたいこの体質であろう。

オウィ島
オリ設定。硫黄島(IWO)の逆読み。

トゥコ
オリ設定のナンバー・7の偽名。
元ネタはブレイキング・バッドに出てくる麻薬カルテルのボス。

ナミ
自分で書いてみると、キャラ立てが難しい……っ

ベアトリーゼ
雑魚海賊殲滅RTA
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