彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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64:ソードマン・ダンシング

 バロックワークスから派遣された面々は夜明け前の闇に紛れ、動き始めた。

 

 プランはこうだ。

 当日、ミスター・7がオイコット軍の腕利きと決闘し、敵方の注意を惹きつける。

 その間、ミリオンズの面々が奪い取った軍服を着こんでオイコット軍兵士に成りすまし、敵勢力圏へ侵入。港湾の軍拠点に潜入して義勇兵の給金や運営資金を盗み出す。

 同時に、ミス・ファーザーズデーが港湾に停泊中の船を強奪。ミリオンズと合流して友軍の勢力圏へ撤収する。

 ミリオンズの指揮は最年長かつ、幾度かの戦闘で指揮官振りを披露した偽名イガラッポイことイガラムが執ることになった。

 大胆不敵というか無謀というか。

 ともあれ、オタカラ強奪作戦は実行に移された。

 

 アラワサゴ島紛争6日目。未明。

 ミス・ファーザーズデーはその巨体から、想像もつかぬ無音移動で敵の哨戒線へ接近。見張りの兵士を素早く静かに撲殺し、予定通り哨戒線に穴を開ける。

 

「それじゃあ~皆~頑張ってね~」

 目立つミス・ファーザーズデーは独自に動くため、一旦ミリオンズと別れる。

 

 こてこてのアニメ声を背中に受けつつ、ビビを含めた10名のバロックワークス下級社員(ミリオンズ)がオイコット軍の勢力圏へ侵入していった。日が昇ってから、ビビ達は汚れた包帯などを巻いて負傷兵を装い、三人ほど重傷者の振りをさせて担架に乗せた。

 

 かくして、後送される負傷兵に化けたミリオンズは堂々と道を進んでいく。

 道すがら出会う義勇兵達はビビ達に注意を払わず、それどころか『大丈夫か?』『早く良くなるといいな』などと労う言葉すら掛けてきた。

 いくつかある検問所でもビビ達は特に警戒されない。身分証などの確認もせず、前線の様子を聞いてくるくらいだ。

 

「勝ち戦で大分弛んでいるな」

 イガラムが苦い顔で呟く。アラバスタ王国で護衛隊の指揮官を務めていた彼としては、こうした現場の弛緩が気に入らない。

 

「兵の脱走を警戒してないのかしら?」

「ここは孤島だぞ。逃げようがねェ。それに脱走は即銃殺刑だ。勝ち戦でそんなバカなことする奴はまずいねェよ。負傷するまで働いたなら、サボりくらいは認めるってなもんだろうよ」

 ビビの疑問に、担架に乗せられているミリオンズが答えた。

「言い換えりゃあ……この戦争はもう勝敗が決まってんのさ。金はともかく脱出のアシを確保しねェとマジでヤベェぞ」

 

「ヤベェって……どういうことだよ?」と若い少年のミリオンズが不安顔で問う。

 イガラムが難渋顔で語る。

「このいぐざ……ごほんっ! マーマーマー……ッ! 戦の苛烈さを鑑みれば、オイコット軍は我々を最後の一人まで狩り殺そうとするはずだ。よしんば、降伏を容れられたとしても待っているのは、処刑か捕虜としての強制労働だな」

 ミリオンズの面々が顔を不安げに引きつらせる。

 

「こんなところで死ぬ気はないわ」

 ビビが言った。綺麗な顔を険しくしながらも、固い決意を込めて。

「なんとしても生きてグランドラインに帰る」

 

      〇

 

 この世界は理不尽と不条理に満ちているが、まだ美徳を遺していた。

 グランドラインから来た解放軍の傭兵剣士“トゥコ”――バロックワークス下級幹部ミスター・7が、“海賊狩り”ロロノア・ゾロに宛てた果たし状はつつがなく当人に届けられ、ゾロは『おもしれえ』と獲物を見つけた虎みたいに笑った。

 

 オイコット王国軍は既に勝勢を得ている中、武勲者を悪戯に喪う可能性に渋い顔をしたが、最終的に容認した。

 大海賊時代は男性原理の時代だ。荒事を生活(たっき)にしている者達は、死より臆病者と見做されることを恐れる。こればかりは海賊も傭兵も軍人も変わらない。

 

 

 

 アラワサゴ島紛争6日目の昼前。やや雨の臭いを含んだ風が吹く曇天。

 島の中央部。

 

 かつて開拓村だった廃墟と砲撃孔の残骸。両軍が睨み合う中間地点(ノーマンズランド)に、大勢の両軍将兵と広報班が見守る中、2人の剣士が対峙する。

 

 オイコット王国軍義勇兵。少年と青年の狭間にある17歳。ロロノア・ゾロ。

 緑の短髪を覆うように黒布を海賊巻きし、鍛えられた長身に腹巻をしていた。三本の刀を腰に佩き、獰猛な薄笑いを浮かべている。

 

 解放軍傭兵。年齢定かならぬ成人男性。通称“トゥコ”。

 額の『7』を始めに浅黒い肌の体中に瘢痕(スカリフィケーション)が刻まれている。極彩色の柄シャツに革のパンツ、先端がそっくり返ったブーツ。首や手首には金のアクセサリーがじゃらじゃら。絵に描いたようなチンピラ具合だ。およそ剣士には見えない。

 

 しかし、ゾロはミスター・7を前にし、直感的に理解した。

 ――こいつは強ェ……っ! 今まで戦ってきた海賊共なんぞよりずっと……っ!

 

「俺がロロノア・ゾロだ。“招待状”を貰ったんで、この通りやってきたぜ」

 ゾロは血が沸き立つ感覚を抱きながら名乗り、果たし状を放り捨てた。デコを掻いている男へ問う。

「始める前にいくつか聞きてェことがあるが、良いか?」

 

「構わねえよ」とトゥコを自称するミスター・7は首肯する。

「グランドラインから来たのか?」

「そうだ」即答する瘢痕男。

 

 ゾロは期待を込め、問いを重ねた。

「“鷹の目の男”と呼ばれる剣士を知っているか?」

 

「そりゃ“鷹の目”ミホークのことか?」

「! 知ってるのか?」

 あっさりと肯定され、ゾロは目を見開き、心拍が跳ねた。

 

 ミスター・7はデコの『7』を掻きながら、どこか自嘲的に嗤う。

「グランドラインであいつを知らねェ奴はいねェよ。王下七武海“鷹の目”ジュラキュール・ミホーク。誰もが認める世界最強の剣士だ」

 

「そうか……グランドラインに行きゃあ会えるんだな」

 あてどなく続けてきた旅に明確な目標が見え、ゾロは自然と唇の両端が吊り上がる。

「ふん」ミスター・7はデコを掻く手を止め「弟子入り志望……ってわけじゃあなさそうだな。挑む気か」

 

「ああ。世界の頂を目指してるからな」

 恥じることなく堂々と答える眼前の若造に、ミスター・7は微かな苛立ちを覚えた。世間知らずのボンクラが。世界の頂を目指すだぁ?

 疼痛にも似た不快感を堪え、ミスター・7はゾロに言った。

「……なら、お前に良い提案があるぜ」

 

「あ?」ゾロが怪訝そうに目を細める。

「俺が属する組織に入れ」ミスター・7は薄く笑い「鷹の目は神出鬼没でいつどこに現れるか分からねえ。が、ウチの組織の情報網なら調べられる」

 

「組織?」

 増々訝るゾロへ、ミスター・7は勧誘を続ける。

「ああ。秘密犯罪会社バロックワークス。俺達のような人間に相応しい組織だ。お前の実力ならば、金も女も出世も手に入れられるぞ。どうだ?」

 

 はぁ、とゾロは仰々しいほど大きな溜息を吐き、

「……あまり気が削がれることを言ってくれるなよ」

 失望と挑発を込めてミスター・7を睨む。

「テメェも剣士なら言葉で勧誘するより、剣で従わせるくらいの気概を見せやがれ」

 

「……舐めたクチ叩きやがって……最弱の海でちっと名が売れたくらいでイキってンじゃねェぞ」

 ミスター・7はペッと唾を吐き捨て、腰から装飾過多のサーベルを抜く。

「膾にしてやるぜ、ボンクラ」

 

 刀よりも反りが大きなサーベルを右手一本で握り、左手を腰に添える。左足を大きく引き、身体を大きく斜に構えた。麻薬カルテルのチンピラみたいなナリであるが、正統派のサーベル術だ。

 姿勢に無駄な力が入っていない。相当に練り込まれていることがよく分かった。

 

 故郷シモツキ村で学んできた剣術とはまったく異なる体系の剣を前に、ゾロは獰猛に犬歯を剥いて嗤う。両手に刀を握り、愛刀和道一文字を口にくわえた。

「いくぜ、“7”野郎」

 

      〇

 

 時計の針を少し戻す。

 前日の夜。夕食が終わり、保護した女子供達がどこか哀しげな寝息を立てる中、晩酌をしていたベアトリーゼへ、ナミが不安顔で尋ねる。

「戦争を終わらせるって、まさか戦場にいる兵隊達を皆殺しにするとか、そういうこと?」

 

「皆殺しになんかしないよ」

 ベアトリーゼは眉根を寄せつつ、プランを説明する。

「聞けば、もうほとんど趨勢が決してるみたいだし、さっさとオイコット軍に勝たせてやれば良い。後は……そうね。オイコットに海上封鎖なんてやってる余裕を失くしてやれば、好都合かな」

 

「それってオイコット軍や海軍を沈めるってこと?」

 ナミが憂慮顔で質問を重ねる。流石に気分を害し、ベアトリーゼはアンニュイ顔を歪めた。

「なんでいちいち物騒な想像するの? 私、そんな凶暴に見える?」

 

 蜜柑色の瞳が『おめー、この島を襲った海賊を皆殺しにしたばっかだろ』と語っていた。

 

「見えますか、そうですか」

 トホホ、とベアトリーゼは肩を落としつつ、

「オイコット軍の指揮系統をちょっと乱すだけだよ」

 物憂げな美貌に妖しい微笑を湛え、ぺきぺきと指を鳴らす。

「エレジア以来、全力全開で覇気をぶっ放してなかったからなぁ。今回はぶっ倒れるくらい派手にやりますかね」

 

「覇気?」

 ナミが聞き慣れない単語に訝るも、ベアトリーゼは「ま、見てのお楽しみ」と薄く笑うだけだ。

 

 ナミはベアトリーゼを見つめながら思う。

 だんだん分かってきたわ。こいつ、手綱を握っておかないと不味いタイプね。

 

 

 

 そして、現在。

 

 

 

 鈍色の空の下。

 サイボーグ化されたトビウオライダーがアラワサゴ島を目指し、最大速度で海面をかっ飛んでいく。

 その様はさながら敵空母に向かって海面スレスレを駆ける海軍雷撃機だ。まぁ、前傾姿勢でハンドルを握り、身体の重心移動でトビウオを操縦する様は飛行機乗りよりバイク乗りみたいだが。

 

「たしかに、この運転姿勢は中々キツいわねっ!」

 操縦を任されているのは、防水服とゴーグルを装着したナミだ。これまで体験したことがない高速域と強烈な風圧に怖さを覚えているけれど、それ以上にこのタフな乗り物? を操ることに興奮していた。どうやらスピードを好む質で、こういうものを乗りこなす才が備わっているようだ。

 

「もうちょい下げろっ! 尾ヒレの先が波頭に触れるギリギリを攻めてっ!」

 ベアトリーゼが後席から風切り音に負けないようナミの耳元で声を張った。

 

「海面の空気が濃いところってことねっ! やってみるっ!」

 ナミはベアトリーゼの指示を精確に理解し、要求通りに尾ヒレの先が波頭に触れるギリギリ――大気の密度が濃い海面間際まで高度を下げ、トビウオライダーをかっ飛ばす。

 

 風を掴むのが上手い。うーむ。この状況、紅の豚を思い出すなぁ。ベアトリーゼは暢気な感想を抱きながら鈍色の空を窺う。

 ふむ……ひょっとしたら現地は雨が降ってるかな。

 ちっとばかり面倒なことになるけど……まあ、いいか。

 

      〇

 

 サーベルとは、馬上で手綱を握りながら片腕で振るうために開発された騎兵用武器だ。刀剣としては軽量であり、反りが大きく重心が切っ先に寄った作りが多い。

 

 そして、サーベル術は大きく分けて二つ。

 レイピアの流れを汲む西洋系サーベル術(現代フェンシング的なものだ)

 もう一つは東欧系サーベル術(有名どころはハンガリー騎兵やウクライナ・コサックの剣技だ)。

 両者は運足や近接打撃の有無等でいろいろ異なるが……ある一点で共通している。

 それは、速さだ。

 

 

 

 ――速ェ……ッ!

 ゾロは思わず舌を巻く。

 デコに『7』を刻んだ男の振るう刃は軽く速く鋭い。

 

 刀のように腰を入れて全身の筋肉を躍動させない剣だ。腕だけ、下手をすれば、手首の返しで鋭い斬撃を放つ。刀でそんな振り方をすれば青竹一本斬れぬだろうが、『7』男の剣は充分に命を奪えるものだった。

 ――訳が分からねェ。なんでそんな軽い振りに“重さ”を込められる!?

 

 矢継ぎ早に繰り出される迅速な剣閃をさばきながら、ゾロが反撃を試みれば、『7』男は軽やかな足さばきでゾロの間合いから離脱する。

 ――それに、この動き……っ! 一投足が速ェッ!

 

 離脱だけではない。踏み込みもだ。体を沈めるほど深く踏み込んできて、ゾロの間合い外から刺突や斬撃を打ち込んでくる。生半な攻撃はしなやかに返されてしまい、大技――これまでどんな敵もぶっ飛ばしてきた『鬼斬』や『虎刈』などを放とうにも、技の出掛かりを押さえられてしまう。

 ――“(せん)”を握られっぱなしかよっ! クソッ!

 

 海に出てから相手にしてきた群盗海賊共は、どいつもこいつも逆上した猿のように得物を振り回すか、基本のなってない我流剣法だった。ゾロの剣の根っこである地元シモツキ村の剣術は刀に特化したものだった。本格的かつ熟練のサーベル術剣士と戦ったことがなく、未知の剣戟に翻弄されてしまっている。

 

 が、ゾロは口端が吊り上がっていた。

 強敵に心が躍っていた。待ち望んでいた強者との戦いに血が滾っていた。

 命を懸けて剣の腕を競えることに歓喜していた。

 

「……何を笑ってやがる、ボンクラが」

『7』男が不快そうに顔を歪めた。

 

「あんたをバカにしてるわけじゃねえよ」ゾロは笑みを大きくして「この戦いが楽しいだけさ」

「抜かしやがる」

 全身の力を溜め込むように低く構え、『7』男はゾロを睨み据えた。その姿と眼光は獲物に襲い掛かる猛獣のようだ。

「こっちぁ諸々仕事を抱えてんだ。ガキといつまでもじゃれ合ってられねェんだよ」

 

 ――来る。

 ゾロは三刀を構えて呼吸を整えた。

 

「微塵切りにしてやるぜ、ボンクラがっ!」

『7』男が豹のようにゾロへ飛び掛かり、

「サーブレ・サルサッ! ピカンテッ!!」

 疾風怒濤の剣舞を繰り出す。

 ラテン音楽が聞こえてきそうな激しいステップワークと共に、装飾過多の曲刀が一瞬たりとも止むことなくゾロを襲う。

 

「ぉおおっ!」

 十重二十重に繰り出される斬撃に、ゾロは一歩も引かない。三刀を振るい、片っ端から迅速の剣閃を払い、いなし、受けとめ、受け流し、防ぐ。

 鎬が削られ、飛散する大量の火花が煌めく様は、さながら夜空に咲く花火のようだ。先のそっくり返ったブーツが地面を叩く音色と、剣戟の音色が絶え間なく響き渡る。

 

「ザケやがって、生意気に踊るンじゃねえっ! サーブレ・サルサ、ムイ・ピカンテッ!」

『7』男は怒声と共に剣戟のリズムとテンポをさらに上げた。斬撃の嵐がゾロを覆い包む。

 

 剣の激突で生じる火花が吹雪く。

 

 斬撃の暴圧にゾロは少しずつ、だが、着実に押されていく。捌ききれない刃に肌を削がれ、肉を裂かれ、火花に交じって血が舞う。

 

 ――これだけの激しい動きだ、そう長く続けられやしねェ。技の終わり、狙うはそこだ。

 如何なる痛みもゾロの集中を毛ほども乱せない。汗や血が目に入ろうと瞬き一つしない。呼吸する暇もなく肺が軋み始めようとも、全身の筋肉が酸素を欲しようとも、ゾロは致命の一撃を必ず防ぎながら反撃の機を狙う。

 

 そして。

 不意に、斬撃の嵐の速度が急激に落ちた。

 

 ――ここだっ!

 ゾロが反撃を繰り出す、も。

 

「激しいだけがサルサじゃねェ。リズムの緩急が大事なんだよ、ボンクラがっ!!」

『7』男は凶相を大きく歪めて笑う。

 斬撃の速度を意図的に落としてゾロを誘い出し、後の先を握る。狙い通りにゾロの頭蓋を叩き割らんと装飾過多のサーベルを振り下ろす。

 

 ひときわ大きな轟音が響き渡り、鮮烈な火花が爆ぜた。

 口にくわえた和道一文字でサーベルを受け止め、ゾロは飢えた虎のように笑う。

 

「リズムが止まったぜ、ダンスマン」

『7』男が舌打ちと共に離脱を図ろうとするが、ゾロが凶暴にして強暴な剣を矢継ぎ早に叩き込んでいく。

 

 再び火花が激しく咲き乱れ、剣戟の音曲が広がる。『7』男が奏でていたものよりも苛烈で熾烈で獰猛に。

 

 逆転する攻守。強暴な剣風に押されていく『7』男が歯噛みし、

「ぐううっ! ナメんじゃねェぞボンクラァッ!!」

 連撃の継ぎ目を狙い、後の先を取るべく不安定な姿勢から刺突を放つ。

 

 ゾロは馬手の刀で刺突を払いながら深く踏み込み、口にくわえた和道一文字を浴びせる。『7』男が護拳(ナックルガード)で防いだ。

「鬼」

 そこへ両手の斬撃を重ね撃つ。

「斬りィッ!」

 

 ごがんっ!!

「ぐおぉあああああああああっ!!」

 

 轟音と絶叫が重なり、『7』男が吹っ飛ぶ。護拳と柄が砕けたサーベルと手首から先を失った右腕が宙を舞い、金属片と肉片と鮮血がまき散らされていく。

 変則的なゼロ距離からの三刀流・鬼斬を成功させ、ゾロは残心を取りながら大きく息を吐いた。

「故郷を出て以来、一番手強い奴だっ――」

 

「やり……やがったな、クソボンクラがぁ……っ!!」

 右腕を肩口から吹き飛ばされた『7』男がふらつきながらも、立ち上がる。体中を血と泥に塗れさせ、土気色の凶相を大きく歪めて。

 

「!?」ゾロは思わずギョッとし、慌てて構えを取り直す。死に損ないの『7』男はそれほどの気迫をまとっていた。

 

『7』男は震える左手でデコの瘢痕をガリガリと掻きながら、

「腕一本飛ばしたくらいで、か、勝ったつもりになってんじゃ……ねえぞ、ボンクラァ……っ!! こ、この程度の傷ぁググ、グランドラインじゃ珍しかぁ―――」

 ぐるりと白目を剥き、腰を抜かしたように崩れ落ち、どしゃっと顔を突っ伏して二度と動かなかった。

 

 ゾロは目を瞬かせた後、改めて大きく息を吐いて緊張を抜く。

 果し合いを見守っていたオイコット軍の兵士達が大歓声を上げ、解放軍の兵士達から苦悶と慚愧に満ちた呻き声が漏れる。

 

 周りを余所に、ゾロは三本の刀を順番に鞘へ納めていく。戦闘の昂奮に煮えていた心頭に万感が込み上がる。

 強敵に勝った手応えと満足感。死闘を制した充足感。快い疲労感。命を失わずに済んだという安堵感。奇妙な寂寥感。不思議な喪失感。

 

 頭に巻いていた黒布を引っこ抜くように脱ぐ。黒布は汗でぐっしょりと濡れていた。戦闘中は意識の端に掛からなかったが、身体のあちこちが痛み始めた。どうやら思いの外、刃を浴びていたらしい。

 やれやれ。俺もまだまだ修行が足りねえな。

 

 ぽたり。

 

 小さく鼻息をついたところへ、雨滴がゾロの顔に当たった。

「降ってきたか」

 ゾロは何気なく空を見上げた。いつの間にか黒鉛色の雨雲が空を覆っている。

 

「――ん? 鳥か?」

 ぽつぽつと雨粒をこぼし始めた空に、何かが飛んでいた。

 




Tips
ロロノア・ゾロ
原作キャラ。
刺されても、斬られても戦い続けられる異能生存体。

ミスター・7
原作設定に沿ったオリキャラ。
バロックワークスのサーベル使い。
ワンピース的なお笑い要素が入れらなかった。反省。
 技名は適当なスペイン語。

ナミ
原作キャラ。
中の人は映画『紅の豚』のヒロインを演じた。

ベアトリーゼ
オリ主。
自覚の足りない野蛮人。
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