彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、NoSTRa!さん、烏瑠さん、誤字報告ありがとうございます。


65:どかーんと景気よく

 ロロノア・ゾロがバロックワークス下級幹部ミスター・7と決闘を繰り広げ、バロックワークス下級社員のビビ達がオイコット軍拠点へ潜入を試みている頃。

 

 アラワサゴ島を目指し、海面をバカでかいトビウオが波を裂いて泳いでいく。水平線の先にうっすらと島影が見えてきた。

 

「ほ、本当にやるの?」

 ナミが肩越しにベアトリーゼを窺う。ゴーグルの奥で蜜柑色の瞳が不安に揺れている。

 

 後席に座るベアトリーゼがアンニュイ顔でのほほんと答えた。

「大丈夫大丈夫。ちゃんと計算したから。計器盤脇に貼り付けた計算書通りにやれば、問題ない」

「! 計算って……あんたの計算なのっ!? 当てになるの、それっ!?」

 ナミにしてみれば、当然の疑問である。が、

 

「ちゃんと翼面荷重や沈下速度、滑空比とか諸々算出して飛行距離を計算したよ」

 ベアトリーゼに聞き慣れぬ言葉を並べられ、ナミは目をパチクリさせた。

「よくめ、え?」

 

「島上空の風向や風速、対気速度が分からないから」ベアトリーゼはしれっと「半分はギャンブルだけど」

「ちょっとっ!?」

 聞き捨てならぬ言葉に、ナミが眉目を吊り上げる。が、ベアトリーゼは物憂げ顔のまま軽~く言い放つ。

「大丈夫。ナミちゃんならやれるよ」

 

「何の根拠があって――」

「貴女が優れた航海士で、気象読み(フォーキャスター)だからだ、ナミ」

 ベアトリーゼは物憂げな顔のまま、ナミの目を見つめて続ける。

「空を飛ぶために必要なのは風を掴むこと。風を掴むために必要なことは気象条件を確実に分析すること。ナミなら出来るだろ?」

 

 ナミは酸欠の金魚みたく口をパクパクとさせた後、勝気な眉目を吊り上げて、

「おだてても出来ないもんは出来ないわよっ!」

 自信たっぷりに口端を緩める。

「私以外ならねっ!」

 

 期待通りの回答に満足し、ベアトリーゼは小さく頷いた。

「さあ、空へ行こう」

 

 ナミは大きく頷き、スーパートビウオライダーにしがみ付くように姿勢を寝かせる。右ハンドルのスロットルを限界まで全開に。スロットルが直結されたトビウオの脳ミソに信号を与えた。トビウオの双眸がガンギマリになり、全身の筋肉が躍動して速度が激増していく。小型の鯨並みの体躯から生じる凄まじい振動にナミの華奢な体が強く揺さぶられる。トビウオが波浪を乗り越える度、波と飛沫を被る度、体勢が大きく崩れ、衝撃に振り落とされそうになる。

 

 操縦に苦労するナミへ、ベアトリーゼが風切り音を避けるように身を寄せて告げた。

「膝を締めて、腰と腕を上手く使え。男に跨った時にみたく」

 

「気が散ること言わないでっ! そんなのやったこと無いわよっ!」

 ナミの怒声にベアトリーゼはからからと笑い、大きくなる島影を見つめながら言った。

「離水まで10秒だ。9、8、7」

 

 ベアトリーゼが始めたカウントを聞きながら、ナミは集中する。視界の風景が後方へ吹っ飛んでいく中で、離水点を真っ直ぐ睨む。

 

 この“助走”が全てだ。離水したらもうやり直しは利かない。離水速度、上昇の角度や方位、何一つ間違えてもアラワサゴ島の上空で失速してしまうし、計器盤脇に貼られた計算表の通りにしても、上手くいくかどうか。

 

 もっとも、ナミに確率の数字など関係ない。

 緊張と不安を勇気と集中力でねじ伏せ、やり遂げるだけだ。

 

「2、1、離水っ!」

 ベアトリーゼの号令に従い、ナミがハンドルを引いて巨大なトビウオの体躯を海中から空へ躍らせる。長大な胸鰭を展張して風を掴んだ瞬間、巨体が強風を浴びた凧のように急上昇していく。

 

 ナミとベアトリーゼは波打つ碧海を背に黒鉛色の空へ向かって駆けあがる。トビウオの後頭部に埋め込まれた計器盤の針が暴れ回る。

 強烈な荷重に内臓と全身の血が引っ張られる不快感に、ナミが綺麗な顔を歪める一方で、

 

「ひゃっほーっ! 昇れ昇れっ! はははははっ!」

 ナミの背後でベアトリーゼが楽しげに高笑いしていた。

 

 人の大一番を思いっきり楽しんでんじゃないわよっ! 心の中で毒づきつつも、ナミは計器盤と計算書の数字を合わせるよう、姿勢制御に全神経を注ぐ。

 

 同時に、ナミは知覚の全てを用いて気象を読む。

 視界に映る雲の動き。耳朶を叩く風の音。肌を刺す向かい風の温度。高度で変わっていく湿気の匂い。冷えていく空気の味。

 

 全ての速度エネルギーが急上昇によって位置エネルギーへ転換された瞬間、ナミは巨大トビウオを捻り込ませ、水平滑空飛行に移る。

 急上昇をやり遂げ、ナミはひとまずの安堵を抱く。控えめな深呼吸後に眼下の景色を見て、肌が粟立った。

 

 高度1000メートルにも届かない“低空”だったが……

 自然豊かな小島は紺碧の海に浮かぶ庭園のようで。紺碧の海に絶え間なく生じて消えていく波模様は遊色宝石のようで。

 

「綺麗……」

 ナミが感嘆をこぼした、刹那。

 

「よくやった、ナミ」

 背後からベアトリーゼがナミの頭を優しく撫でた。

 

 そのささやかな行為にナミの体が微かに震え、“懐かしさ”に心が揺れた矢先。

「西岸には近づかないよーに。じゃ、行ってくるわ」

 ベアトリーゼがひょいっと立ち上がり、両手を広げてぱっと飛び降りた。

 

 まるで買い物に出かけるような気軽さで飛び降りるベアトリーゼに、ナミは狂人を見るような目を向け、頭を振る。

「イカレてる」

 と、ピシッと水滴がゴーグルに当たって弾けた。

 

     〇

 

 落下速度は終端速度で時速100キロ超。高度1000メートルから地表まで30秒と掛からない。

 ベアトリーゼは雨に交じってフリーフォールしながら、視界内でぐんぐん大きくなっていくアラワサゴ島へ見聞色の覇気を放つ。

「なんだ、両軍合わせて一万もいねーじゃん。戦争ごっこかよ」

 

 経験と訓練で強化された見聞色の覇気はアラワサゴ島全域を捜索圏にまるっと収め、ベアトリーゼは戦略系ゲームの画面を見るように両陣営全部隊の配置を捕捉した。主目標が巣くう西岸の辺りを窺う。

「んー……予想以上にしみったれた拠点構築だな」

 

 “目標”を捕捉し、ベアトリーゼは地面に落着するまでの残り時間をカウントしつつ、覇気と能力を使う。両手を武装色の覇気で包み、プルプルの実の力を発動。電磁界を構築して熱プラズマをサイクロトロン共鳴加熱。バランスボール大に膨れ上がった熱プラズマ球の熱量を数百度、数千度、数万度、数十万度、と指数関数的速度で増大させていく。武装色の覇気で身を守っていても、輻射熱で球形型ヘルメットや潜水服がじりじりと熱せられる。

 

 ベアトリーゼは迫るアラワサゴ島西岸を見つめ、超高熱プラズマ球を西岸にある解放軍司令部陣地へ向けて投げて落とす。

 酷薄な微笑と共に。

「どかーん」

 

      〇

 

 小さな小さな太陽が落ちてきた。

 鉄溶鉱炉の100倍の炎量を持つ熱プラズマ球は解放軍司令部を外し、西岸のビーチに落着。その莫大な熱量を解き放つ。

 

 どかーん!!

 

 数十万度の炎熱はビーチを一瞬で溶解させてマグマの大穴を作り上げた。落着地付近にいた解放軍の兵士達が輻射熱で“蒸発”し、焼尽され、炭化していった。地中の水分が気化爆発し、高熱圧衝撃波が西岸一帯を薙ぎ払う。海岸植物の多くが一瞬で枝葉の全てを失い、焼け残った幹もへし折れて大地に倒れる。

 そして、超高温マグマの大穴に海水が大量に流れこみ、莫大な熱量と膨大な海水の界面接触が大規模な相転移反応を招く。

 

 どっっか―――――んっ!!

 

 巨大な炎柱。巨大な噴煙。真っ白な凝結雲。暴虐的な衝撃波。

 爆発の衝撃は島全体を強く揺さぶり、島上空の雨雲を吹き飛ばし、巻き上げられた膨大な粉塵が新たな雲を作り出す。高熱圧衝撃波と爆発音と爆風が島全体や近海を覆っていく。

 

 爆心地付近の解放軍司令部は高熱圧衝撃波によって跡形なく消し飛ばされた。解放軍の将兵達は炎熱で焼け死ぬか、衝撃波で圧潰死した。運悪く即死出来なかった者達は焼け煮えた大気と大地の余熱で生きたまま蒸し焼きにされていく。

 

 島の中央部、開拓村の残骸や瓦礫が激烈な衝撃波で吹き飛び、決闘を見物していた兵士達を薙ぎ払う。

 決闘に勝利し、余韻を味わっていたゾロもその一人だ。

「ぅぉおおおおおおっ!? なんだこりゃあああっ!?」

 マヨネーズ中毒のサムライみたいな悲鳴を上げ、ゾロは周囲の兵士達と同様、爆風にふっ飛ばされた。

 

 強烈な爆風は島の南部にも襲い掛かり、全ての建物を損傷させた。船着き場に停泊していた船も例外なく痛めつけた。いくつかの船舶が転覆する。

 

 オイコット軍拠点は熾烈な爆風によって半ば崩落し、瓦礫が兵士達を押し潰していく。

 拠点へ潜入していたバロックワークス下級社員達も含めて。

 崩れ落ちる瓦礫の雪崩。屋内を満たす大量の粉塵。ビビは廊下を吹き抜けてきた爆風と爆音に華奢な体を蹴り飛ばされる。悲鳴は崩落音と轟音に呑まれてビビ自身にも届かない。

 

 強く激しい衝撃波と爆風と波浪が、西岸沖に展開中だったオイコット軍の武装船を薙ぎ倒して転覆させた。

 

 東岸の沖にいた海軍の軍船で、海軍将兵達が島から立ち昇る噴煙を唖然と見つめていた。艦長が誰へともなく呟く。

「……まるで神罰の火だ」

 

 そして、島を飛び越えた直後、爆風で海に叩き落とされたナミは、目を回して海面に浮かぶサイボーグ化トビウオによじ登り、茫然としていた。

「これが、人間に出来ることなの……」

 

     〇

 

 粉塵混じりの黒い雨が降る。

 島北部の高地『フラムト』の一角。

 ベアトリーゼは球形型ヘルメットを背に下げ、気だるげなアンニュイ顔で噴煙が漂う島を眺めていた。

「やー……久々の全開発動はくたびれましたわ。さーて、成果はどんなもんかいな、と」

 

 見聞色の覇気を放ち、攻撃損害評価を図る。

 高熱プラズマをぶち込んだ辺りは綺麗さっぱり消し飛んだようだ。深さ30メートル強、幅100メートル弱の円形爆発孔の地表面は一部ガラス化しており、海面から大量の湯気を放っている。解放軍司令部は完全に壊滅。指揮機能も完全消失。爆撃の効果は絶大ナリ。

 

 島南部のオイコット軍司令部も被害大。爆心地から距離があったわりには効果が大きい。建築物の構造的な問題かもしれない。結果的には好都合だ。これだけ被害を受ければ、再編と立て直しが終わるまで海上封鎖は出来まい。

 

「ん?」

 と、見聞色の覇気による捜索探査に微かな“反応”が引っ掛かった。

 

 んん? これは……プラズマの痕跡? なぜオイコット軍の拠点にプラズマの痕跡がある? 爆発で飛散した瓦礫か飛礫? いや、出来立てじゃない。どういうこったい? ? ?

 

 怪訝顔を作り、ベアトリーゼは見聞色の覇気を集中させて解像度を上げ――“視た”。

 オイコット軍拠点の崩落部。粉塵が濃霧のように漂う中。どこかで見覚えのあるカール髪の中年兵士が無我夢中で、プラズマの痕跡がある辺りの瓦礫を掘り返していた。

 

「……待て。待て待て待て。この人は……いや、あの人がここに居るはずがない。よく似たそっくりさんに決まってる」

 ベアトリーゼが顔色を悪くしながら自分へ言い聞かせるところで、カール髪のおっさんが叫ぶ様を知覚した。

 ――ビビ様っ! 御無事ですかっ!? ビビ様ぁっ!

 

 瞬間、ベアトリーゼがピシリと凍りつく。

「……嘘でしょ。嘘でしょ? 嘘でしょおっ!? ちょっと待てっ! なんでビビ様がここにいるんだよっ!? ええええええっ!? なんで!? ビビ様なんでぇ!?」

 

 どうして? なぜ? いったい何が? どういう理由で? ナミに続いてビビ様まで……どうなってんだっ!? なんだってこんなちっぽけな島に原作重要人物が二人も居やがるんだよっ!? あああ、くそっ! ビビ様とイガラムに何かあったら、アラバスタ編がめっちゃくちゃになっちゃうっ!? ナミ編に続いてアラバスタ編まで原作破壊とか冗談じゃねえぞっ!

 

 ベアトリーゼは血相を変えてプルプルの実の力を用い、島南部へ向かって跳躍した。

 

       〇

 

 爆発の熱風と轟音で生じた粉塵が(もや)のように漂う中、ゾロは身を起こす。

「くそ……なんなんだ、いったい……」

 

 黒い雨と血と汗と泥に塗れてでろんでろん。緑髪も顔も体も真っ黒だ。爆発の熱風と轟音にやられたのか、耳鳴りと頭痛が酷い。ごほんと強く咳き込めば、どす黒い痰が出てきた。

 

 周囲の兵士達も似たような有様だ。どこか茫然とした様子で靄の先――西岸から立ち昇る蒸気と煤煙を見つめている。

『7』男の骸が泥に半ば埋まっていた。

 

「やれやれ、一張羅が台無しだ」

 ゾロが溜息交じりにぼやいた、その時。

 直感的に怖気を覚え、靄のように漂う粉塵の先を睨む。

 ――何か、来る。

 反射的に和道一文字の柄へ手を伸ばす。鯉口を切るほどの確証はない。

 

 やがて解放軍側の薄闇から空気が爆ぜるような音が聞こえてきた。

 周囲の兵士達も異変に気付き、武器を拾い上げて不安げに粉塵の薄闇に対峙する。

 

 空気の爆ぜるような音が近づいてくる。

 それも恐ろしく速い。まるで旋風のようだ。

 

 ゾロは足を開いて腰を下ろし、抜刀居合斬りの構えを取った。まだ愛刀の鯉口を切らない。

 

 粉塵の靄の先、しなやかな影が映った。

 金魚鉢頭にほっそりとした体躯。どうやら女のようだ。モモンガのように地表スレスレを飛翔し、時折地面を蹴りつけ、速度と高度を稼いでいる。また、地面を蹴りつける度、どういうわけか小爆発していた。音の正体だろう。

 

 ――強ェ……っ! それもとてつもなく……っ!

 モモンガ女を目に捉えた瞬間、ゾロは凍りつく。『7』男の時に抱いたような期待感や戦いの昂揚など生じない。ただただ自身の死を覚えさせられ、肌が粟立ち、全身から冷汗が噴き出す。

 

 ゾロが慄然としている間に、モモンガ女が進路上につっ立っていた解放軍の兵士やオイコット軍義勇兵達を文字通り蹴散らしていく。

 

「邪魔だ三下共ッ! 道を開けないとぶち殺すぞっ!」

 蹴散らされた義勇兵達が吹っ飛ぶ光景とモモンガ女の怒声に、ゾロは我に返った。

 

 直感が告げている。逃げろ。アレはお前が勝てる相手じゃない。

 本能が叫んでいる。バカはよせ、さっさと逃げろ。

 

 だが、ゾロは世界最強を目指す志で直感も本能もねじ伏せ、鯉口を切った。疾風の如く迫ってくるモモンガ女へ吠えた。

「来やがれっ!!」

 

 蛮勇と克己の雄叫びを上げ、ゾロはモモンガ女へ抜刀居合斬りを放つ。

 稲妻の如き獰猛な剣閃。

 

 ごん!

 金魚鉢頭のモモンガ女は、ゾロの居合斬りを片手で容易く叩き払う。

 

「なぁっ!?」

 ゾロは驚愕で目を剥く。全力で放った居合斬りをあっさりと防がれた。しかも、精確に鎬を殴って。

 俺の剣を、こんな簡単に……っ!?

 

「邪魔だボケッ!」

 崩れた体勢を立て直すより速く、モモンガ女の右足刀がゾロへ迫る。

 

 ――っ! この直撃を貰ったら死ぬっ!

 ゾロは咄嗟に腰の刀を鞘ごと抜き、足刀を防ごうとする。が、たおやかな美脚から放たれた足刀は砲撃同然だった。鞘が砕け、刀がへし折れ、筋肉が裂け、骨が折れ、サッカーボールのように蹴り飛ばされ、廃墟に叩きつけられる。

 

「がぁあああああああああ―――っ!?」

 崩落する廃墟の瓦礫に半ば埋もれ、ゾロは気を失った。

 

 

 

 真っ黒に汚れた剣士のガキを蹴り飛ばした後、ベアトリーゼは一直線に島南部の港へ向かってかっ飛んでいく。

「さっきの小汚いガキはどこかで見たような……まぁいいか。今はビビ様の許へ急がねば!」

 ベアトリーゼは蹴り飛ばした剣士のガキがゾロだと気づいていない。ゾロもゾロで髪も顔も着衣も真っ黒に汚れており、居合で挑んだため、三刀流の姿を見せていなかったが……ともかく。

 

 今は一刻も速くビビ様の許へ!

 

     〇

 

 ビビは痛みによって目覚めた。

 崩落した天井から天使の梯子が幾筋も差し込まれている。宙を舞う粉塵がきらりきらりと煌めいていた。

 

 ゴホゴホと咳き込みながら、ビビは自身の状態を診る。身体は半ば崩落の瓦礫と土砂に埋もれていたが、五体無事のようだ。誰かが覆い被さって守ってくれたらしい。

 

 ビビに色目を使っていたミリオンズの少年だった。頭が大きく歪み、口と鼻からどろどろと血を垂らしている。瞳孔が開き切った目が虚空を見つめて微動にしない。

 

 命懸けで守ってくれた少年の名前を覚えていないことに気付き、ビビは自己嫌悪を抱くが、悲劇感に酔っているわけにもいかなかった。

 なんせ天井がミシミシと悲鳴をこぼしている。次の崩落が起きれば、少年と同じく瓦礫の餌食だ。瓦礫を除けて立ち上がろうとするも、瓦礫の隙間が挟すぎて左足が抜けない。

 

 ビビ様っ! と天井からイガラムの声と瓦礫を掘ろうとする音色が降ってきた。

「イガラムッ! 私は大丈夫よっ!」

 呼びかけてみたが、届いてないらしい。泡食ったイガラムの声が返ってくるだけ。ビビはミシミシと呻く天井に不安を覚えつつ、左足を解放すべく瓦礫を押したり引いたり。しかし、ビビの細腕ではビクともしない。

 どうしたら――

 

 ずどん!

 

「きゃあっ!?」

 轟音と共に突如崩落する天井。可憐な悲鳴を上げて反射的に頭を庇うビビ。しかし、危惧した瓦礫の雨が降り注いでくることはない。全ての瓦礫がビビを押し潰す前に周囲へ散らされている。

 

 何が起きたのか全く分からず、ビビは唖然茫然。

 粉塵が晴れていくと、金魚鉢頭の長身女がビビを見下ろしていた。ビビはギョッとして身を強張らせる。

「だ、誰っ!?」

 

 女は金魚鉢みたいな球形型ヘルメットを外し、素顔を晒した。

 癖の強い夜色の髪。眉目秀麗な物憂げ顔。暗紫色の瞳。思い出のままだった。

「あ、貴女は――」

 

「お久しぶりです。ビビ様」

 悪い魔女ベアトリーゼは物憂げな顔に柔らかな微苦笑を湛えた。

 




Tips
ナミ
悪魔の実の能力者が如何に怖いものか目の当たりにする。

ゾロ
原作開始前状態で四皇幹部級とやり合えば、そらこうなるよ。

ビビ
悪い魔女と再会する。

ベアトリーゼ
危うくゾロを殺しかけたことに気付き、白目を剥くまであと数時間。

超高熱プラズマ爆発。
ベイルート港湾爆発事故を参考にしました。
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