彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、NoSTRa!さん、烏瑠さん、金木犀さん、誤字報告ありがとうございます。


68:ベアトリーゼ先生のレッスン

 ビラル通り5・12『ルイズ・レストラン』

 店内は長方形で然程広くなかった。調度品は質素というか地味というか、清掃は行き届いているけれど、飾り気はまったく無い。縁が擦り減った椅子と丸テーブル。幾度も洗濯されて縁がほつれ気味のテーブルクロス。レストランというより西洋定食屋と名乗って欲しい塩梅だ。

 昼飯時だというのに、客は奥の卓に一人。厨房出入り口の椅子で新聞を読んでいた女給が、気だるげに『いらっしゃいませ~』。

 

 トイレに拳銃が隠してありそうな店だな。

 ベアトリーゼがそんなことを思っていると、太った女給にテーブルへ案内され、ドクトル・リベットと共に腰を下ろす。

 渡されたメニュー表を開けば、『荷物をトイレへ』とメモ書きが挟んであった。

 

 外連味があり過ぎ。

 小さく溜息をこぼし、ベアトリーゼはドクトルへ告げる。

「ドクトル。トイレに行ってきたらどうだ?」

 

 唐突な物言いにドクトルが訝しげに眉毛の無い眉をひそめるも、ベアトリーゼが意味深に目配せして促し、“意図”に気付く。

「……わわ分かった。そうしよう」

 棒読みで応じ、ドクトルは固い動きで立ち上がる。店の奥に向かい、トイレへ入った。

 

 ベアトリーゼは見聞色の覇気で奥のトイレの様子を探る。

 なんとまあ。便座脇の隠し戸が開き、男達によってドクトル・リベットが無音で拉致……もとい確保され、隠し通路を通じて店外へ搬送されているではないか。

 外連味を利かせすぎだろ。トイレに隠し戸ってなんだよ。忍者屋敷かよ。

 

 ともあれ、ドクトル・リベットは引取人の手に渡った。

 荷物の配送は終わり。受領のサインも別れの挨拶もなかったが、まあ、さよならの握手やハグを交わすような仲でもない。まったく名残惜しくも無いし、後ろ髪も全然引かれない。

 

 永遠にさようなら(アウフ・ニンマー・ヴィーダーゼン)、ドクトル。

 趣の欠片もない任務完了に鼻息をつき、ベアトリーゼはメニュー表から顔を上げ、女給に問う。

「ここのお勧めは?」

 

「子牛料理だ」

 奥の卓に居た客が言った。

 

 鉄色の肌をした壮年紳士。白髪交じりの胡麻塩頭。黒い肌を包む着衣は仕立ての良い三つ揃えで、襟元は青いスカーフタイ。

 新聞から顔を上げず、黒人の紳士は続ける。

「ワインの煮込みが特に美味い」

 

 ベアトリーゼは片眉を上げつつ、女給に注文する。

「……じゃ、それのランチセット。大盛りで」

 

「は~い。ごゆっくり~」

 気だるげに応じ、女給が厨房へ注文を伝えに行く。卓に一人残ったベアトリーゼはフッと短く息をこぼし、黒人紳士に目を向けた。

「で。何か報酬は?」

 

「事情の説明は求めないのか?」

 黒人紳士が新聞から顔を上げずに反問する。も、ベアトリーゼは長い脚を組み直して、目を細める。

 

「いらねェよ。余計なことを知ってケツを狙われたくない」

 ドクトルが以前のように軟禁されるのか、何かの仕事に従事させられるのか、あるいはバラされて海に沈められるのか。いずれにせよ、ベアトリーゼは知ったところで何かしてやる気など更々ない。

 

 ベアトリーゼの価値判断は常に『自分』だ。自分にとって大切や必要かどうか。大切や必要なものには迷わず命を懸けるが、後者は魚の餌になろうと蟲の飯になろうと知ったことではなかった。

 そして、ベアトリーゼにとってドクトルは大切にも大事にも必要にも分類(ファイリング)されない。それどころか、ドクトルから知りたいこと――自身のルーツ、記述者ウィーゼルの由緒など全て得た。もはや用無しとすら思っている。

 

 冷淡なベアトリーゼに、黒人紳士が新聞から顔を上げ、黒い瞳を向けてくる。社会の裏側で生きてきた人間特有の、深い闇を秘めた黒曜石のような目。

「なるほど、マダムが気に入るわけだ」

 黒人紳士はポケットから黒い小袋を取り出し、ベアトリーゼへ放る。

 

 ベアトリーゼは小さな袋を受け取り、中身を覗く。1カラット前後のダイヤモンドが十数粒。

「換金が面倒臭いけど、まあ、持ち運びは楽だな」

 ポケットへ収めようとしたが、考え直して胸の谷間に押し込む。

「他に話は?」

 

「ない。話は終わりだ」

 代金を卓に置き、黒人紳士は立ち上がる。カンカン帽を被り、出入り口のガラス戸へ向かった。

「お前に用があれば、マダムから直接連絡が入るだろう」

 

 店を出ていく黒人紳士の背を見送り、ベアトリーゼは鼻息をつく。と、太った女給が盆に料理を載せてやってきた。

 子牛のワイン煮込み。ほかほかのパン。付け合わせのミニサラダとグラスワイン。

 

 こりゃ美味しそうだ。

 ベアトリーゼがグラスワインで舌と喉をウォームアップ。健啖を発揮してバクバクとランチセットを平らげていく。子牛肉がほろほろで柔らか。濃厚なソースをパンに絡ませてパクッ! ミニサラダの新鮮な野菜で舌休め。

 瞬く間にランチセットを平らげ、食後のエスプレッソが届いた時――

 

 ガラス戸が開き、年若い男女が入店してきた。

 青いハットにフロックコートの火傷顔青年。

 キャスケット帽のボブヘア美少女。

 

「いらっしゃいませ~」と気だるげな女給。

 火傷顔青年とキャスケット帽少女は緊張した目つきで店内を見回し、ベアトリーゼに警戒心を向けつつ、“目当て”が居ないことに困惑を覚えている。

 

 そんな2人を窺いつつ、ベアトリーゼはエスプレッソを味わう。

 んー? あの火傷小僧と小娘。なーんか見覚えがあるなぁ……。

 

 隙間風がビュービュー差し込む原作知識を振り返れば、当たりあり。

 小僧の方はたしかルフィの義兄弟だ。でもって、革命軍の幹部だったか。こりゃアレか。革命軍もドクトルの情報を掴んで、確保に動いたってとこかな。

 となれば、当然私のことも把握してるか。

 

 ふむ。

 

 カップを卓に置き、ベアトリーゼは物憂げ顔に薄い笑みを湛え、2人へ声を掛けた。

「お二人さん。良ければお話しない?」

 

     〇

 

 革命軍の幹部コアラは純粋ヒト種でありながら魚人空手を修め、その実力は師範代に達する空手家である。

 武に生きる者として、コアラには分かる。いや、理解させられる。

 卓を挟んで向かいに座る女が、自分より桁違いに強いと。

 

「自己紹介しとこっか。私はベアトリーゼ。二つ名は『血浴』。懸賞金3億……いくらだったかな。ともかくお尋ね者だよ」

 怪物女はあっけらかんと語り、唇の両端を柔らかく緩めた。

「で、革命軍のお二人さん。お名前は?」

 

 素性がバレてる!? コアラは顔を引きつらせた。隣のサボも眉間に深い皺を刻んでいる。

「どうして分かった?」

 サボが挑むように問う。も、ベアトリーゼは子犬をあやすように微笑み続け、上品な仕草でカップを口へ運ぶ。

 

 その余裕綽々の態度に神経を逆撫でされ、サボは眉目をきりきりと吊り上げる。コアラが慌てて『落ち着いて、サボ君!』と袖を引っ張るも、無視してベアトリーゼを問い詰めた。

「答えろ」

 

「殺気を振りまいてまあ。革命軍じゃ女性との接し方を教えてないのかい?」

 ベアトリーゼはアンニュイ顔を和らげ、サボとコアラを順に窺う。

「世界政府を向こうに回す“物好きな連中”は有名なんだよ。君らが思っている以上にね」

 

 革命軍を軽んじる言い草に、サボは当然として、コアラも不快感に顔を歪めた。その様にベアトリーゼが「あらあら、お可愛いこと」と笑みを大きくする。

「さて、お二人さん。お名前は?」

 

 激しくイラッとするサボを押さえるように、コアラは口を開く。

「私は革命軍のコアラ。こっちはサボ君」

 

「2人とも素敵な名前ね。よろしく、コアラちゃん。サボくん」

 ベアトリーゼは子供を相手にするように応じ、暗紫色の双眸を細めた。

「ここに来た理由は、私が配送した“荷物”のため?」

 

「―――そう、です」

 コアラが敬語で首肯した。サボが咎めるように睨んでくるも『これは交渉なのっ!』と目力を込めて相棒を睨み返す。

「ということは……“荷物”の素性も分かってるわけだ」

「はい」コアラはベアトリーゼに首肯を返し「ドクトル・リベットは聖地について詳細な情報を持っていると聞いています。私達の戦いのために、彼の持つ情報が必要なんです」

 

「正直な子は好きよ。コアラちゃんの誠実さに免じて、私も正直に話そうか」

 ベアトリーゼは満足げに頷き、話を始める。

「私はドクトル・リベットをここまで警護してきた。彼の身柄を必要とする者へ預けるためにね。そして、一足違いで既にドクトルを引き渡した。ここにはもういない」

 

「――時間稼ぎかっ! ならまだ近くにっ!」

 サボが店の外へ飛び出そうと腰を浮かせかけるも、コアラはサボの袖を強く引っ張って押さえ、微笑むベアトリーゼを睨み据えた。

「聞きたいことがあります」

「答えられることなら」

 

「貴女は世界政府や海軍を強く敵視していると伺っています。なのにどうして、天竜人に与して非道な研究をしていたドクトル・リベットを護衛していたんですか?」

「ただの仕事だよ」ベアトリーゼはしれっと告げて「私の政府や海軍に対する好悪は関係ない。仕事だからドクトルを護送した。それだけだ」

 

「あいつが他の奴隷達に何をしていたのか、知っているのか?」

「ドクトルが天竜人の下で、非道な人体実験をしていたことかな? ああ。知っていたよ、サボくん。でも、言った通りさ。ドクトルが種族差別主義者のクソヤローとか腐れマッドサイエンティストとか、関係ない。受けた仕事に私情は挟まない」

 サボがぎらぎらとした目で睨み据えきて、コアラも不快感で可愛い顔を強く歪めるも、ベアトリーゼは気にせずコーヒーを飲む。

「仕事が完了した今、私はドクトルのことなんてどうでも良い。ドクトルがこれから何をしようと、これからどうなろうと、知ったことじゃない」

 

「では、ドクトル・リベットの行方を教えてください」

 コアラが真摯に問う。も、ベアトリーゼは物憂げに眉を下げた。

「悪いけれど、知らないな。配送後のことまで関知しないよ。それにまあ、“依頼人”に不義理な真似もしたくない」

「特大級のクソヤローに義理立てするのか」

 サボが青筋を浮かべ、コアラも苛立ちを堪えるように唇を噛む。

 

 歳若い二人の様子を“確認し”、ベアトリーゼのアンニュイ顔から笑みを消す。

 

 ベアトリーゼの変化を目にし、コアラは直感的に感じとる。眼前の化物女はのらりくらりとしたやり取りの中で“何か”を確認したのだと。

 でも、何を? 今のやり取りで何を確認したの?

 

「ドクトルの件は仕事だ」

 疑問の答えを探すコアラを余所に、ベアトリーゼは自身のFカップの谷間に指を突っ込み、黒い小袋を取り出して卓に中身を開ける。

 じゃらじゃらと転がる十数粒のダイヤモンド。

「私の協力が欲しいなら、これと“同等”の対価を出せ」

 

 冷厳に告げられた条件に、コアラは思わず目を剥いた。十数粒のダイヤモンドと同額の報酬など簡単に用意できない。なんたって革命軍は資金繰りが厳しい。自給自足とカンパと悪党からの没収でなんとかやり繰りしているのだから。今回の派遣に関しても懐に余裕が全然なかった。

 

 一方。強く苛立っていたサボも、ベアトリーゼの変化に釣られ、ようやく冷静さを取り戻していた。思考が素早く巡り始める。

 同等の対価? 同額の対価ではなく? ただの言い方か? それとも、何かを示唆しているのか?

 

 ベアトリーゼは戸惑うコアラと考え込んだサボを一瞥し、ダイヤモンドを袋に戻す。小袋を胸の谷間に収め、ポケットから料理の代金を出して卓に置いた。

「対価を出せないなら話は終わり。私は別件の用事があるんでね。失礼するよ」

 悠然と立ち上がるベアトリーゼ。

 

「あ……」

 コアラは留められる提案を考えるも、適当な案が出てこない。

 案を出せなかったのはサボも同じこと。だが、優等生なコアラには出せない案を、“やんちゃ”なサボには出すことが出来た。

 

「対価は出せない。だが」

 サボは言った。険しい目つきでベアトリーゼを見据えて。

「あんたをぶちのめして、クソヤローの居場所を聞き出すって手もあるな」

「サボくんっ!?」コアラが相棒のとんでもないセリフに目を剥く。

 

 サボは女性に手を上げるような真似を好まないし、出来るなら避けたいと思う性質だが、相手は賞金億越えの怪物。サボの定義する女性の範疇に含まれない。何より、この女は自分達の知らない情報を持っている、という確信があった。

 

 

「ふふっ」

 

 ベアトリーゼは鈴のように笑い始め、

「ふふふ……とーっても楽しい気分になってきちゃったなぁ……」

 暗紫色の瞳を猛獣のようにぎらつかせ始め、ベアトリーゼはサボを真っ直ぐに見下ろす。

「クソガキ、私をどうするって?」

 ――ああ、もうやるしかない。コアラもサボに続いて腹を括った。

 

 緊迫した静寂が店内に広がり、空気が冷たく張り詰める。店外の喧騒がやけに遠く聞こえてくる。剣呑な雰囲気を悟った女給が店の奥へ逃げ込んだ。

 壁時計の秒針が一周し、長針がかちゃりと隣へ進む。

 

 直後。

 

 サボが早撃ちのように卓を蹴り上げた。

 卓とテーブルクロスと空のカップが宙を舞う中。

 

 サボは椅子から立ち上がりながら右腕に武装色の覇気を巡らせ、卓の陰となったベアトリーゼに向かって――

「竜爪拳、竜の鉤爪っ!」

 

 コアラは蹴り上げられた卓上のあれやこれやが宙を踊る中、椅子を蹴倒しながら飛び上がり、テーブルクロスの陰にあるベアトリーゼに向かって――

「魚人空手、激流蹴りッ!!」

 

 

 

「小賢しい」女妖が疎ましげに呟き、漆黒に染まった拳を振るう。

 ど が ん っ !!

 

 

 

 店の正面出入り口が周囲の壁ごと吹き飛び、サボとコアラが瓦礫と共に通りへ転がった。

 がたん、と『ルイズ・レストラン』の看板が落っこちた。粉塵が立ち込める店内から、女妖が悠然と通りに歩み出てくる。

 

 痛みを堪えながら立ち上がろうとするサボとコアラを睥睨し、ベアトリーゼは思案する。

 さて、どーっすかな。原作的にぶっ殺すわけにもいかないしー……ま、追いかけてこられても鬱陶しいし、半殺しくらいで済ませてやるか。

 

 そだ。いーこと思いついた。

 

 半殺しにするついでに、ちょっくら稽古つけてやろう。私ってば親切ぅ。

「楽しい気分にしてくれた礼だ。ちょっくら揉んであげる」

 右腕をひと振りして粉塵を払い飛ばし、ベアトリーゼはサボとコアラへ向けて右腕を伸ばし、くいくいっと右手を振った。

「ほれ。さっさと掛かっておいで」

 

「舐めるなよ、血浴……っ!」

 サボは歯で切った口内の血を吐き捨て、竜爪拳の構えを取る。

「……負けられないっ!」

 コアラもまた、左袖口で血を流す鼻と唇を拭い、魚人空手の構えを取った。

 

     〇

 

 街から轟音と悲鳴が響いてきて、ショボい船の甲板で女性達と共に荷物の整理をしていたナミは、直感的に察した。

 ……これ、絶対あいつでしょ。やっぱりトラブったんだっ!

 

 ナミは不安顔を浮かべ、縋るような目を向けてくる女性達を一瞥し、決断。

「出港準備よ。いつでも船を出せるように支度して。急いで!」

 

 不安に怯えるくらいなら体を動かしておく方が良い、と女性達に命じ、ナミは橙色の瞳を街へ向け、額に冷汗を浮かべた。

「さっさと戻ってきなさいよ……」

 

     〇

 

「きゃあっ!」「ぐああっ!」

 コアラとサボがぶっ飛ばされ、半壊した『ルイズ・レストラン』の向かいにある建物の壁に叩きつけられる。

 

「ぐ……強い……っ!」

 サボは全身の痛みに火傷顔を歪めながら呻く。

 

 認めざるを得なかった。

 血浴のベアトリーゼは強い。()()自分よりずっと格上だと。

 なんたって、サボとコアラの攻撃が()()()()()()()()。それどころか――

 

「ぅぅ……なんで……なんで……」

 痛み“以外”の理由でコアラが呻く。

 コアラは魚人空手の使い手だ。周囲の水分を用い、強力な衝撃波を放てる。はずが、衝撃波はおろか、大気中の水分を扱うことさえ出来なくなっていた。

 

 むろん、それはプルプルの実の能力者ベアトリーゼが周辺大気の水分を制しているためだ。コアラが魚人空手の技を放つべく周囲の水分を用いようとしても、大気中の水分、加えて水の分子や原子を乱されてしまう。

 ゆえに――今のコアラは魚人空手の師範代ではなく、ただの空手家に成り果ててしまっている。否、状況はもっと酷い。

 

「なんで、魚人空手が使えないの? なんで……っ!?」

 心血を注いで習得した魚人空手の技が発動しない事実に動揺し、コアラのどんぐり眼に涙が滲み始める。

 

 状況の不明がコアラの動揺と混乱を一層強くしていた。しかも、ベアトリーゼは能力の行使に仰々しい身振り手振りをしないし、一々種明かしもしない。コアラには状況を解くカギがなかった。

 

「しっかりしろ、コアラ!」

 サボが叱咤を飛ばした矢先――

 

「武器を封じられたくらいでパニクり過ぎ。もっと手札の使い方を学べ」

 気配もなく間合いを詰めてきたベアトリーゼが、狼狽えているコアラの鳩尾を蹴り抜く。

「きゃあっ!!」

 蹴り飛ばされたコアラが飛び石のように通りを跳ね転がった。

 

「コアラッ! よくもっ!」

 サボは壁に叩きつけられたコアラを一瞥し、跳躍してベアトリーゼへ吶喊。

「竜爪拳、竜の鉤爪っ!!」

 武装色の覇気をまとった強烈無比な一撃が、ベアトリーゼのしなやかな長身の『核』を狙って繰り出される。

 

「その技は体幹の真芯や重心点ばっか狙い過ぎ。攻撃の軌道が単純」

 も、ベアトリーゼはサボの手首を軽く打って強烈な攻撃をあっさりといなし、後の先を取ってサボの横っ面に掌底打を叩き込む。

 

「がはっ!」

 サボの口から悲鳴と鮮血が飛ぶ。

 武装色の覇気による硬化防御をまとってもなお、衝撃が体の芯まで届き、全身に激痛と痺れが走る。

 なんなんだ、この女の打撃はっ!? 覇気も使ってないのに、どうしてこんな――

 

「だいたい、そんな単調な攻撃が私に通じると思ってることが気に入らねェ」

 吐血しながら膝をついたサボを、ベアトリーゼは容赦なく殴り飛ばす。

 吹き飛ばされたサボはコアラと並んで倒れ込み、2人揃って苦痛と敗北感から身を起こせない。

 

「そこらの雑魚相手なら大技一発どかんと蹴散らしゃあ良い。けどな、手前より格上相手にそんなやり方が通じる訳ないだろ。機と兆しを読め。牽制と崩しをサボるな。主攻を通す戦略を組め。立派な覚悟や決意がありゃあ勝てるってもんじゃねーんだよ」

 ベアトリーゼは戦闘でマニュキュアが剥げてしまった爪を気にしながら、倒れ伏すサボとコアラに飄々と語り、

「ま、こんなところかな。私のレッスンを活かして精進……ん?」

 2人がピクリとも反応しないことに片眉を上げた。アンニュイな美貌を怪訝そうに歪めつつ、歩み寄り、屈みこんで様子を窺う。

 

「……やっべ、やり過ぎた」

 そりゃ鳩尾蹴り抜いたり、顎を打ち抜いたりすれば、意識も飛ぶ。

 

「あちゃー……どーすっかな」

 周囲を見回せば往来が絶えており、見聞色の覇気を巡らせれば軍港区から海兵達がおっとり刀で駆けつけている。失神中の2人を放置したら間違いなく捕縛されるだろう。

 海軍に革命軍幹部を捕える栄をプレゼントしてやる義理は無いし、こんな()()で革命軍に恨まれてもつまらない。

「しゃーない」

 ベアトリーゼは2人の襟首を掴み、ロコガールな装いらしいお気楽な足取りで港へ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 ナミ〈両腕を組んで〉:……そのズタボロの2人は何?

 ベアトリーゼ:ちょっと色々あって拾ってきちゃった。

 ナミ:そんなの拾ってくるんじゃないのっ! 居たところに返してきなさいっ!

 

 ベアトリーゼ:やー、ちょっとそーいう訳にも。連れていくしかない感じなんで。

        それと、さっさと出港しないと海軍が団体さんでやってくるかなーって。

 

 ナミ〈苛立たしげに〉:あんたには首輪と手綱を付けておくべきだったわっ!

 




Tips

ルイズ・レストラン。
 オリ設定。
 元ネタは映画ゴッドファーザーでマイケル・コルレオーネが暗殺を実行した店。

黒人紳士
 オリキャラ。ステューシー独自の手駒。

サボ
 原作キャラ。革命軍参謀総長。作中時系列ではまだ記憶喪失中。
 再現が難しい。とても難しい……

コアラ
 原作キャラ。革命軍幹部。
 再現が難しい。原作では無茶をするサボのブレーキ役だったけれども……

ナミ
 やっぱり手綱を握ってないと駄目じゃない!(憤怒)

ベアトリーゼ。
 またしても浅慮から原作展開を破壊した模様。
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