彼女が麦わらの一味に加わるまでの話 作:スカイロブスター
オイコット王国はアラワサゴ島紛争の戦勝祝賀気分が残っており、港や町の雰囲気は明るい。
そんなオイコットへ昼頃に入港後、ベアトリーゼはナミに女子供達を引率させ、飯を食わせに行かせた。
ナミは『悪さするんじゃないわよ』と捨て台詞を残しつつも数珠繋ぎに子供達の手を握り、女達を率いて飲食店に入っていく。
ナミ達を見送った後、ベアトリーゼはとある宿の部屋を訪ねた。
部屋の宿泊者はカール髪に丸眼鏡を掛けた大柄な男性で、文化学者イガラッポイ教諭。そして、水色髪を二つお下げにしている可憐な女学生ウェンズ・ディ。
諸賢には説明の要も無かろうが……こてこての偽名を名乗るアラバスタ王女と護衛隊長である。
「再び御尊顔を拝謁できて恐悦至極です、ビビ様」
入室したベアトリーゼは女学生に化けたアラバスタ王国の姫君と、学者先生に扮する護衛隊長へ恭しく一礼。ビビの面差しを注意深く窺い、気遣うように慈しみの眼差しを向けた。
「少し瘦せられましたか? お加減がよろしくないなら出直しますが……」
眉目秀麗なビビの細面は少しやつれ気味だった。睡眠も十分ではないのだろう。微かではあるが、目の下に薄く隈が滲んでいた。
「あの島で色々あったから……でも、大丈夫。どこも怪我をしてないし、なんともないわ」
ビビは明るく微笑むも、その気丈な振る舞いが却って痛ましい。ビビの背後に控えるイガラムも密やかに面持ちを渋くしている。
まあ、無理もない。
秘密犯罪会社バロックワークスに潜入して鉄火場を経験していたとはいえ、アラワサゴ島紛争は酸鼻を極めるものだった。14歳の健全な少女の心に与えた影響は大きい。特に銃剣で少年兵を刺殺した体験は、ビビに悪夢をもたらしていた。
「あの島でビビ様達にお会いした時は、驚きのあまり胆を潰し掛けました。いったい如何なる事情で、あのような危険な場に居られたのです?」
ベアトリーゼは努めて明るい口調で尋ねた。むろん、ビビ達がバロックワークスに潜入していることを知っているし、その関係であんなところに居ただろうと推測していたが。
ビビはベアトリーゼに椅子へ座るよう促す。次いで肩越しに背後のイガラムを窺い、イガラムの首肯を得たうえで説明を始めた。
「実は今、私達はアラバスタに仇為す組織に潜入しているの」
ここ数年、アラバスタに不自然な旱魃が続いたこと。
その旱魃が秘密犯罪組織バロックワークスによる、環境テロの可能性が高いこと。
その事実の正否とバロックワークスについて捜査するべく潜入したこと、バロックワークスの任務でアラワサゴ島紛争に身を投じたこと……。
説明を聞き終え、ベアトリーゼは物憂げ顔を大きく曇らせた。
「不敬を承知で言わせていただきます。あまりに無茶です。尊い御身をなんとお考えなのですか。イガラム殿もイガラム殿です。なぜ御止めせず一緒になって潜入などしておられるのです」
流れ弾を浴びたイガラムはバツの悪そうに目を逸らし、「父や大臣達みたいなことを言わないで」とビビが拗ねるように唇を尖らせる。可愛い。
「ビビ様がされていることは、私のような卑賎の凶悪犯が思わず苦言を呈するようなことなのです。御理解くださいませ」
うっかり殺しそうになったし。と心の中でぼやき、ベアトリーゼは仰々しく嘆息をこぼしてから、慈しむように表情を和らげた。
「しかしながら……国難にあって民と国のために身を投じられる姫君を戴き、アラバスタは幸福ですね」
最上級の誉め言葉を聞かされ、ビビは面映ゆそうに照れ笑いをこぼし、
「そう畏まらないで。私達は友達でしょう? “これ”をプレゼントしてくれたし、貴女も置手紙にそう書いていたと思うけれど? ね、悪い魔女さん」
首から下げているペンダント――かつてベアトリーゼが作った超高純度鉄製のペンダント・トップを掲げる。
ビビの背後に控えるイガラムが『こほん!』とわざとらしく咳をして姫殿下の気安すぎる態度を注意する。も、ビビは聞こえない振りをした。
アラバスタ主従のやり取りに微苦笑しつつも、ベアトリーゼは困り顔を返す。
「友誼を賜ったことと、ビビ様への礼節は別物です」
「では王女として命じます。もっと気楽な言葉を遣いなさい。まして、私はここで学生に扮しているのですから」
「……分かりました。殿下の御意のままに」
ベアトリーゼは控えめに深呼吸し、ビビへ柔和な笑みを贈る。
「ともかく、ビビちゃんとイガラム殿が無事でよかった」
「貴女のおかげよ、ベアトリーゼさん。心から感謝してる。本当にありがとう」
嬉しそうに謝意を告げ、ビビは居住まいを正した。
「それで、早速なのだけれど……グランドラインに戻る手筈について聞いても?」
アラワサゴ島紛争で戦争を実体験したビビは、憂慮と焦燥感に駆られていた。
一刻も早くグランドラインに帰り、バロックワークスの実態を暴いて祖国の危機を救わねばならない。あの小さな島で起きた惨劇をアラバスタで起こさないためにも、一分一秒でも早く為すべきを成さねばならない。
戦場の悪夢を見ていることも、ビビの焦燥をより強めている。
使命感と義務感に焦り逸る14歳の少女へ、ベアトリーゼは帰還案を挙げた。
「一つは私がこの国まで乗ってきた船。ショボい船だけど、グランドラインまで問題なく航海できると思う。ただ、船員がいない。ビビちゃんとイガラム殿の2人ではリヴァースマウンテン越えが厳しいかも。まあ、その時はローグタウン辺りで人員を調達すれば良いわ」
何か言いたげなイガラムを制するように、ベアトリーゼは言葉を続ける。
「もう一つはローグタウンまで行き、そこで私の伝手を使って帰還する。安全性を考慮すると、そちらの方が良いかもしれない」
「伝手、というのは?」と眉間に皺を刻んだイガラムが横から口を挟む。
「とある海運会社です。“マーケット”にも出入りしていますので、実力に不足はありません。下手な海賊などは軽く蹴散らせます」
ビビはベアトリーゼの案を聞き、口元に手を当てて少し考え込む。
「でも、私達は持ち合わせがないわ。今も、アラワサゴ島を脱出する時、ベアトリーゼさんに貰った宝石を売ったお金でやりくりしてるの」
そう、負傷兵に化けてアラワサゴ島紛争から脱したビビとイガラムは素寒貧だ。ベアトリーゼが与えた宝石の売却金でオイコット王国に潜伏滞在している。人を雇う余裕などない。ましてや武装商船をチャーターする資金など逆立ちしても出ない。
が、
「大丈夫。ビビちゃん達が帰国するために必要な資金は私が出すから」
ベアトリーゼはさらりと言い放ち、胸の谷間から小さな布袋を取り出し、卓上に中身を開けた。袋からじゃらりとこぼれるダイヤモンドの粒。
邪気の欠片も無い申し出に、ビビとイガラムは強い困惑を覚える。『どうしてそこまで』と疑問を禁じ得ない。
2人の戸惑い顔に対し、ベアトリーゼは滅多に見せない慈しみ深い微笑みを浮かべ、
「ビビちゃんは衰弱していた私に、わざわざトカゲ汁を作ってくれた。その恩に報いてるだけよ」
「そんなこと」
眉を大きく下げて美貌を曇らせる王女へ、明確な尊崇と尊敬を込めて言葉を編む。
「貴女の『そんなこと』が、私にとっては命を懸けるに値する恩義なのです。殿下は何も気兼ねする必要はございません。ただどうしても、とおっしゃるならば、友として気持ちを告げて下されば良いのです」
ビビは目頭に熱いものを覚えつつ大きく頷き、花のような笑みと共に告げた。
「ありがとう、ベアトリーゼさん」
「どういたしまして、ビビちゃん」
ベアトリーゼはにっこりと笑い、フッと息を吐いて背筋を伸ばす。
「さて、今度は私からビビちゃんにお願いさせて欲しいの」
『私に叶えられることなら』とビビは即答した。イガラムも何も言わない。
小さく首肯し、ベアトリーゼは『お願い』を口にする。
「今、先の紛争の難民を保護しているの。女子供のね。彼らをビビちゃんのグランドライン行きに同行させ、アラバスタ王国で保護して欲しい」
「! それは……二つ返事では了承できないわ」
ビビは口惜しそうにぎゅっと手を握り締めて続けた。
「ベアトリーゼさんも知っているように、グランドラインの船旅は決して安全じゃないし、それに……恥を明かすようだけれど、アラバスタも国情が不安定になりつつある。もしかしたら……アラワサゴ島のように戦火が生じるかもしれない。女性や子供達を保護するに適していないわ」
俯くビビ。瞑目するイガラム。2人とも苦渋に満ちた顔だった。
「それでも」
ベアトリーゼは一切の迷いなく、2人へ断言する。
「私が知る中で、戦火で傷つき身寄りのない女子供を安心して預けられる国は、貴女の国にしかありえない」
ビビは大きく、ゆっくりと深呼吸し、背後のイガラムを肩越しに窺う。決心に満ちた眼差しを受けた護衛隊長が恭しく首肯を返すと、ビビは告げた。
「分かりました。その戦災難民をアラバスタで保護します。アラバスタ王女、ネフェルタリ・ビビの名誉に懸けて……必ず」
「ありがたき幸せ」とベアトリーゼは大きく頭を垂れた。
ふぅと大きく息を吐き、ビビは背もたれに華奢な体を預ける。
「女性や子供達を伴うなら、ベアトリーゼさんの伝手を頼る方が良いわね。少しでも安全な方が良いもの。ベアトリーゼさん、お願いするわ」
「分かりました。すぐに連絡を取ります」
ベアトリーゼはポケットから子電伝虫を取り出し、伝手の番号を入力した。
で。
『ミス・B。いくら何でも東の海へ来いってのはプリティに無茶ですよ。しかも、ウチの警備主任を乗船って……腕利きであるジューコの乗船の有無で、請負額がプリティに変わるんです。つまり稼ぎ頭だ。それをほいほい出すのは』
グランドライン内で海運貿易業を営む『プリティ海運』の社長テルミノの困り声が、安宿の部屋に流れていた。御託を並べているが、話を謝絶する気が見え見えだった。
ベアトリーゼは子電伝虫の先にいるテルミノへ、絶対零度の声音で告げた。
「それは“私を敵に回したい”ってことかな、ミスター・テルミノ?」
『……Oh』
室内の空気が冷え込むほどの圧力は通話先にもしっかり伝わったらしく、テルミノのひきつった呻き声が返ってきた。
殺意すら感じさせる冷厳な調子でベアトリーゼは“交渉”を続け、
「世界政府加盟国の王族と独自のコネクションが持てる。ミスターの交渉力次第じゃ、最恵待遇契約も結べるかもしれない。これがミスターの会社にとってどれほど旨みになるか、分かるでしょ?」
最後通牒した。
「取引成立だよな、ミスター?」
『プリティなお取引ありがとうございます……
なぜかビビとイガラムにも、通話先でテルミノの髪が抜け落ちる様が幻視できた。
「快諾してくれましたね。良かった良かった」
威容を解き、ベアトリーゼはニッコリ。
「えっ? ええ、そうね……うん。快諾して貰えて良かったわ」
ビビは目を白黒させつつ、深く考えないことにした。イガラムが心中で、顔も知らぬプリティ海運社長に憐憫の情を向ける。まあ、ともあれ……プリティ海運社長の頭髪より、優先すべきことがある。
「ベアトリーゼさん、私達と一緒にアラバスタへ来て欲しいの」
おずおずとビビは言った。
「貴女の善意に甘えてばかりで恥ずかしいけれど、貴女の力があれば」
「ビビちゃん」
ベアトリーゼはビビの言葉を遮り、
「申し訳ないけれど、私にも事情がある。今はアラバスタに行けない」
シュンとうなだれるビビに続ける。
「でも、そう遠くない先、アラバスタへ赴くわ。必ずね。約束に……そのペンダントを少し貸してくれる?」
「? ええ」とビビは高純度鉄製のペンダントを外してベアトリーゼへ渡す。
鈍い銀色のペンダントを手の上に置き、ベアトリーゼはプルプルの実の力を発動。
超高純度の鉄は錆びないと言われているけれど、絶対ではない。加熱して酸化膜を施すことも可能。そして、加熱量と熱伝導を緻密に制御すれば――8の字状メビウスの輪がビビの髪に似た淡青色に
「わぁ……っ」
まるで魔法のような出来事に、ビビが年相応の感嘆をこぼした。
ベアトリーゼは熱を冷ましてから、ペンダントをビビに返す。
「アラバスタへ行く約束の証よ、ビビちゃん」
「……うん。私、待ってるわ。ベアトリーゼさん」
満面の笑みを返すビビに、ベアトリーゼは少なからず後ろめたさを覚えた。
ペンダントを加工した“目的”は別にあったから。
〇
当然の帰結として、ナミが保護した女子供を委ねる相手と直接会うことを要求し、ベアトリーゼはナミの要求を認めざるを得なかった。またしても原作チャートがボロボロと崩れていくわけだが、『麦わら一味が結成されりゃあ良いや。こまけェことはもう知らね』とヤケッパチだった。そういうとこだぞ。
かくして、港にてナミが引率する難民御一行と、委ね先たる学者先生と女学生が顔合わせする。
「……あんたの知り合いにしては随分と真っ当そうね」
ナミは人見知りの猫みたいな目つきで、学者先生と女学生の2人をじろじろと不躾に見つめる。
「どういう関係なの?」
「私が海軍の護送船から脱走した後、くたばりそうになったところを助けて貰ってね。諸々の情報集めをしてる最中、御二方がフィールドワークの旅の道中に、先のアラワサゴ島紛争で足止めされてると聞いたんだよ」
しれっと虚実を交ぜた説明をし、ベアトリーゼは2人をナミに紹介する。
「こちらイガラッポイ先生と先生の教え子のウェンズ・ディさん。御二方、こちらはこの子らを保護しているナミさん。東の海で航海士見習いをやってた子です」
「……よろしく」
ツンツンした態度で会釈するナミ。
「こちらこそ、初めまして」「初めまして、ナミさん」
丸眼鏡に地味ながら三つ揃えを着た学者先生イガラッポイが丁寧に挨拶し、女学生のウェンズ・ディが上品な微笑みを返した。
「この二人に任せて大丈夫なの? 戦争の関係でこの辺りの海は安全だけど、他はその限りじゃないわ」
ナミがイガラッポイとウェンズ・ディへ値踏みするような眼差しを向けつつ、ベアトリーゼに尋ねる。もっともな質問だろう。なんせ今は大海賊時代。海は無法地帯だ。
「イガラッポイ先生はグランドライン生まれで、若い頃は剣とギターを持って大冒険していた人なんだよ。東の海の雑魚海賊なんて相手にならないさ」
真顔でしれっとテキトーなホラを吹くベアトリーゼ。
唐突に変な設定を背負わされてギョッとするイガラムと、そんなイガラムの様子にくすくすと微笑むビビ。
「む、むがじ……マ~♪ マ~♪ 失礼。赤面ものの過去を暴露され、動じてしまいました。ですが、ベアトリーゼ嬢がおっしゃられた通り、腕に覚えがあることも事実ですぞ、ナミ嬢」
「ナミさん。先生はこう見えてとても腕が立ちます。これまでも先生のおかげで安全に旅が出来ましたから、大丈夫ですよ」
「それに、ローグタウンで武装商船に乗り換えるから問題ないよ」
イガラッポイ教諭と女学生ウェンズ・ディの説明に加え、ベアトリーゼも援護に回り、ナミは仏頂面のまま了承の言葉をこぼす。
「それなら良いけど……」
「私はローグタウンまでの航海の件でイガラッポイ先生と打ち合わせがあるから、ナミちゃんはディちゃんと一緒に子供達の乗船を手伝ってあげて。それに、子供達とお別れもしたいでしょ?」
「……そうね。わかった。あんた、ディだっけ? 手伝って」
「ええ。分かりました」
ナミはベアトリーゼの勧めに応じ、ウェンズ・ディと共に女子供達を乗船させに向かいながら、
「ディは育ちがよさそうなのに、よくあんなお尋ね者と関わりを持ったわね。いっちゃなんだけど、悪名が凄いでしょ、あいつ」
肩越しにイガラッポイと話し合っているベアトリーゼを窺う。
「私があの人の悪名を知ったのは、遭難していたところを救助した後でしたし……それに、私にはとても礼儀正しくて、いろいろ面白い話をたくさん聞かせてくれたり、“魔法”で御守りを作ってくれたり……」
ウェンズ・ディはペンダントの青い8の字状メビウスの輪をナミへ見せ、花のように微笑む。
「ベアトリーゼさんは私のお友達です。ナミさんもでしょう?」
「えっ? 友達……?」
ナミは橙色の瞳を瞬かせ、思わず考え込む。
出会ってからまだ数日の付き合いでしかない。友情の篤さに時間は関係ないというけれど、それでもあの女野蛮人と友人かと問われたなら……?
「友人というより、なし崩しにつるむことになった仕事仲間って感じ? 合ってる?」
「私に聞かれても」
そんなやり取りを交わしつつ、ナミとウェンズ・ディは難民の女子供達を乗船させていく。すっかりナミへ懐いていた子供達が『ナミお姉ちゃんも一緒に行こうよう』『お姉ちゃんと一緒じゃなきゃヤダ』とベソを掻いたりグズったり。
ナミは目頭に熱いものを覚えながら子供達一人一人と別れのハグをし、女達にも一人一人に『元気で』『幸せになって』と声を掛け、握手やハグを交わす。
その様子を見守っていたウェンズ・ディが拳を固く握りしめ、『女性達と子供達は必ず安全な場所へ送り届けます』と固い決意を披露し、ナミをちょっぴり驚かせた。
そして―――
舷側から別れの手を振る女子供達へ手を振り返しながら出港する船を見送り、ナミはベアトリーゼに憂い顔を向けた。
「あの子達、今度こそ幸せになれるかな」
「もちろん」ベアトリーゼは即答し「むしろ今、問題を抱えているのはあの子達より、私達だよ」
「―――は?」ナミが片眉を上げて訝り「どういうことよ」
ベアトリーゼは顎先を撫でながら続けた。
「旅費として有り金を全て渡しちゃったからオケラだ。今日の宿代くらいしかない」
「少しくらい残しておきなさいよ……」
ナミはこめかみを押さえて溜息をこぼし、眉を大きく下げた。
「私だってそんなに持ってないわ。旅費を稼ごうにも先の戦争のおかげでオイコット近海に海賊がいないし……」
海賊専門の泥棒らしく『旅費=海賊から盗む』と考えたナミに対し、悪党全般を獲物と見做す凶悪犯のベアトリーゼは不敵に口端を吊り上げる。
「悪党は海賊に限らないよ。どこの国にも犯罪組織は必ず存在する。二つ三つギャングなりマフィアなりの拠点をタタけば、それなりに稼げるさ」
「まぁ……真っ当に働いている人達を襲うよりはマシだと思うけど……」
泥棒猫は消極的同意を返す。なんせ“血浴のベアトリーゼ”のタタキは基本的に殺戮劇を伴う。泥棒であっても人殺しではないナミとしては、全面的に賛成し難い。
「ナミちゃんが殺しを避けたいなら、まあ、半殺しで済ませても良いよ。ともかく決まったなら善は急げだ。早速計画を練ろう」
どこか楽しげなベアトリーゼに、ナミは呆れとも感心とも取れる眼差しを向けた。
「活き活きとしてまぁ……」
「人間狩りに優る楽しみは無し。特に武器を持つ者を狩る楽しみを知った者は、二度と他の狩りで満足できない、ていうからね」
ベアトリーゼが演技がかった調子で宣えば、ナミは心底嫌そうに美貌を歪める。
「どこの気狂いの戯言よ」
TIPS
ナミ
現在16歳。
保護した女子供達との別れにほろり。
なお、ビビとイガラムがバロックワークスの社員であることも、実はアラバスタ王国の王女と護衛隊長であることも知らない。
事実を知った時、どんな反応をするだろうか……
ビビ
現在14歳。
適当な偽名が思いつかなかったので、ウェンズデーからウェンズ・ディ。作者は浅はか。
船旅の道中、難民の女子供達と仲良くなり、この子達を守るためにも……と一層決意が強まった模様。
イガラム
偽名は原作通りイガラッポイ。
船旅の道中、ベアトリーゼがテキトーなことを言ったせいで、子供達からギターの演奏をねだられ難儀する。
ベアトリーゼ
もう麦わら一味が結成さえれば、他はどうでもいいや、と開き直った模様。