彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、かにしゅりんぷさん、金木犀さん、烏瑠さん、NoSTRa!さん、誤字報告ありがとうございます。


72:復仇の音色に猫が嗤う

 大海原を優雅に泳ぐロイヤル・クリッパー型客船の特等船室。

 優艶な姥桜のような淑女フラウ・ビマは報告書に目を通し終え、失望に似た吐息をこぼす。

「血浴のベアトリーゼ、か。思った以上に厄介ね」

 

 フラウ・ビマはベアトリーゼと直接関わったことはないが、間接的な関わりはある。

 たとえば、“マーケット”。ヌーク兄弟海賊団が発掘を試みた『フランマリオンの眠り姫』。

 たとえば、ウォーターセブン。換金所とアイスバーグが所有する、ウールヴヘジンの船艇設計図奪取プラン。

 

 前者は取引責任者(マネージャー)として、後者は計画立案者(ジャグマーカー)として糸を引いていた。

 どちらのケースにおいてもフラウ・ビマは、ベアトリーゼが現地に居ることを知らなかった。事後調査において『こんな奴が居たようだ』と、認識しただけだ。

 

 ただし、今回のドクトル・リベット案件は異なる。

 明確にプロジェクトの障害と見做し、さらにその脅威度も強く確認した。

「宿無しの野良猫と見做すには、爪牙が鋭すぎる。気ままに振る舞う人食い虎と考えた方が良いわね」

 

 つまり、どうあっても飼い慣らすことは無理。それに、サイファー・ポールの女悪魔(トイフェリン)との関わりも気になる。部下とは思えないが、大なり小なり協力関係にあることは間違いあるまい。

 

 フラウ・ビマは卓上に広げられた東の海の地図と複数紙の新聞を見下ろす。

 ドクトル・リベットの護送が終わったというのに、血浴はグランドライン内へ戻る様子を見せていない。東の海を観光でもするつもりなのか。それとも、女悪魔の絡みで動いているのか。あるいは……別の目的か。

 

 気になる点はオイコットで生じた女の覆面強盗だ。複数の地元ギャングが襲われ、死傷者発生。犯人の女は“2人組”。被害額は現金で推定600万ベリー。

 ――奪い取った額が少なすぎる。これは準備資金を調達しただけね。本命は別にある。

 

 強盗として、血浴のベアトリーゼのスタンスは分かり易い。通行人の財布や雑貨店のレジに見向きもせず、銀行の金庫や現金輸送車を狙うタイプ。

 

 地図と複数紙の新聞の情報を俯瞰的に見つめ続け、フラウ・ビマは自身の思い至った解答を確認するように、部屋の棚から『東の海』とラベルが貼られたファイルブックを取り出し、ページをめくっていく。

「コノミ諸島。魚人海賊団アーロン一味。ノコギリのアーロン、懸賞金2000万。これが本命ね」

 

 フラウ・ビマは細い顎先を撫でながら思案する。

 これまで血浴のベアトリーゼに妨害されて損失を出したのだから……彼女を利用して利益を得ても罰は当たるまい。それに、魚人は商材にも“素材”にもなる。たとえ“最弱”……そう揶揄される事もある、東の海で粋がっているような小物でも。

 

 漆黒の双眸を冷たく怜悧に細める一方、ふっくらした唇を悪戯っぽく緩め、フラウ・ビマは電伝虫の通話器を手に取った。

 

      〇

 

 東の海――某島。

 小さな港町の船着き場近く。簡素な飲食店の軒先にあるテーブル席に、うら若き乙女達が座っている。

 

 片や、小麦肌を晒すように潜水服の上半身部分を脱ぎ、袖部分を腰で縛った夜色髪の美女。人呼んで“血浴”のベアトリーゼ。

 

 片や、タイトなTシャツに短パンで健康美を晒す蜜柑色のショートヘア美少女。後に“泥棒猫”の名で知られるナミ。

 

 乙女達の卓にはテーブルクロス代わりに古新聞が敷かれ、スパイス蒸しにされた蟹がどっさり。付け合わせはさっぱりした酸味のピクルスとザワークラウト。御供は大ジョッキのビール。

 ベアトリーゼとナミは素手で蒸し蟹の腕や足をひっこ抜き、甲羅を引っぺがしては、身肉を口に運ぶ。濃厚な蟹の旨みとスパイスの絡みあった味わいは、2人の娘っ子を笑顔にしていた。

 

 ビールをぐびぐびと呷りながら、蟹の残骸と身肉のカスを卓上に散らかしつつ、時折、ピクルスとザワークラウトで舌をリフレッシュ。

 

「蟹は塩茹でが一番かと思ってたけど、これも悪くないわね」

 額に汗を滲ませつつ、ナミが三杯目の蟹を解体していく。

 

「甲殻類はどんな食べ方をしても美味い。蟹、海老、ザリガニ、サソリ」

 ベアトリーゼは五杯目の蟹の身肉へかぶりつきつつ、卓に敷かれた古新聞の記事に目を通していた。

 

 スペード海賊団が白ひげ海賊団傘下に収まり、超新星の海賊と謳われたポートガス・D・エースが白ひげ海賊団二番隊隊長になったという。

 それから、パンクハザード島にて化学兵器暴発事故が発生。島は有毒物質に汚染され、政府によって完全封鎖されたという。

 いずれも興味深くはあるが、現状の我が身には関係ないことばかり。

 

「ちょっと待った。サソリは甲殻類じゃないわ。蟲よ、蟲」

「そうだっけ? 見た目が似てるから甲殻類だと思ってた」

 ナミのツッコミに小首を傾げつつ、ベアトリーゼは大ジョッキのビールをぐびぐびと呷った。

 

 そうして、蒸し蟹が殻と食いカスの山となり、ピクルスとザワークラウトの皿が空く。

「はー……美味しかった……」

 椅子の背もたれに体を預け、ナミは満腹の倦怠感を楽しみながらナプキンで手と口元を拭う。

「今日はここに泊まっていくの?」

 

「んー、この島からココヤシ村までもうちょいだし……今、この島を出てかっ飛ばせば、明日の昼頃には到着するかな。一泊しちゃうと、明日の朝出発で夕暮れか夜の到着になるね」

 未練たらしく齧っていた蟹の爪を卓に放り、ベアトリーゼは蟹の汁とスパイスに塗れた指先を官能的に舐める。

 

 ナミちゃんの依頼をこなしつつ、革命軍の要望に応えてやらにゃならない。

 ひっじょーに面倒くせーけど……まあ、面倒くせーだけで別段難しくもない。

 問題は……これで原作チャート大崩壊が確定するってことよね。一年半後、ナミちゃんは麦わら一味に入ってるかしら。不安だなー。

「ナミちゃんが決めて良いよ」

 

 委ねられた選択肢に、ナミは考え込む。

 事は到着時間の問題ではない。故郷の解放、人生の奪還、亡き母の仇討が懸かっている。

 

 ……と、店員がやってきて、2人の手元に蜜柑を置いた。

「食後のサービスです。どうぞ」

 

「あら、ありがと」ベアトリーゼはさっそく蜜柑を手に取り、皮を剥いて「ん。味が濃くて美味しい」

「……この蜜柑はどこの?」

「コノミ諸島産の物です。あの辺りはここ数年物騒なんですけど、やっぱり蜜柑はコノミ諸島の物が一番美味しいんですよ」

 店員はナミへ訳知り顔で語り、卓を離れていった。

 

 コノミ諸島――魚人海賊団アーロン一味に支配された島々。故郷ココヤシ村のある島々。

 ナミは蜜柑を手にしてしばし見つめた後、ベアトリーゼを真っ直ぐ見据えた。

「……これから出発しよう」

 

 待ってろ、アーロン。

 

 あんたの王国も、あんたの野心(ゆめ)も、全てぶっ潰してやる。

 

 橙色の瞳に昏い光を宿すナミに、ベアトリーゼはアンニュイ顔で頷いた。

「りょーかい。じゃ食休み後に出発ってことで」

 

      〇

 

 スーパートビウオライダーが胸鰭を海面に擦りつけるように飛翔していく。

 ベアトリーゼとナミは小休止を取るごとに操縦を交代し、コノミ諸島――ココヤシ村を目指し、進み続けていた。

 オヤツ時から夕暮れ時を過ぎ、日が沈んで頭上に星々が広がる中、2人はサイボーグ化トビウオを休眠させて海上テントを浮かべ、味気ないエナジーバーとぬるい水で夕餉を済ませる。

 

「お昼に美味しい物を食べた分、がっくり来るわね」

「確かに」

 ナミのぼやきに微苦笑を返し、ベアトリーゼは優しく告げる。

「明日は夜明けとともに出発する。早く寝た方が良い」

 

「……今夜は眠れそうにないわ」とナミはゆっくりと息を吐く。

 目を瞑って横になったら、きっと頭の中をいろんな事が巡るだろう。アーロン一味に故郷を襲われ、母を殺されてから約6年。悲しいこと。辛いこと。苦しいこと。悔しいこと。許せないこと。後悔すること。思い出したくもないこと……本当にたくさんあったから。

 

 ポールに吊るしたランタンを見上げ、ベアトリーゼは思案顔を作ってから、ナミに尋ねた。

「ココヤシ村ってどんなとこ?」

 

「……良い村よ」

 ナミはぽつぽつと語り始める。

 

 ココヤシ村があるコノミ諸島は、世界政府加盟国の某国辺境に分類される“自治島嶼”だ(海域の航行権などの関係から国として領有するが、行政としては徴税その他をしない代わりに諸々の面倒も見ない)。

 諸島内にはココヤシ村を始め、ゴサの町など集落がいくつかある。温暖な気候となだらかな地勢や良好な漁場などから、農業や漁業といった一次産業が盛んで、果樹栽培を手掛ける者が少なくない。裕福ではないけれど、牧歌的で安穏とした営みが紡がれていた。

 

 ナミは語る。

 村での暮らしのこと。姉のノジコのこと。口うるさいけれど温かく見守ってくれていた、駐在のゲンさんや村の皆。

 血の繋がらぬ自分へ、惜しみなく愛情を注いでくれた母ベルメールのこと。

 

「でも、6年前……あいつらがやってきて全部壊した。あいつらが全部」

 今では魚人海賊団アーロン一味がコノミ諸島を牛耳り、ミカジメ料を払えない者へ容赦ない制裁を下している。加えて、一味はココヤシ村にアーロンパークと称する拠点を築き、近海に大型海獣モームを住まわせて制海権を維持しているという。

 

 島のことやココヤシ村のことを語るナミの表情や口振りは柔らかかったが、アーロンのことに触れるやいなや、怒りや憎しみを露わにした。

 

 ひとしきり話を聞いたベアトリーゼは、ピーナッツを齧りながらポツリと言った。

「存外、ぬるい悪党だな」

 

「ぬるいですってっ!? 皆、アーロン達に生殺与奪を握られて、支配されてるっ! 男も女も子供も老人も、あいつの気分次第で殺されても、文句も言えないっ! それのどこがぬるいっていうのよっ!!」

 ナミが瞬間的に殺気立つも、ベアトリーゼは気にせず言葉を続ける。

「まぁ聞いてよ、説明するから」

 

 この時代のこの世界の一般的在り方に倣うように、コノミ諸島も内需と地産地消、自給自足が主体となって経済が回っている。裕福さに欠くけれど、食っていく分には困らない。

 が、こういう地域内で経済活動がほとんど完結した社会は、収奪が行われると、あっという間に干上がってしまうため、中長期に渡って継続するためには、事業として行う必要がある。

 

 当然ながら事業として搾取と収奪を行う場合、諸々の細かなことをきちんと計画検討し、リソースを振り分け、マメに管理監督しなければならない。それこそ、西欧人が先住民を奴隷化して大農園や鉱山を経営していたように(結局は奴隷化した先住民を使い潰してしまい、アフリカから黒人を輸入する羽目になったわけだが)。

 

 しかし、原作に見る限り、アーロン一味がそうした振舞いをしていた様子はなく、地元縄張りからミカジメ料を徴収するヤクザ以上でも以下でもなかった。

 実のところ、アーロンは東の海を統べる帝国を築くという大望を持っていながら、王どころか領主にすらなれていない。

 ただの賊徒。それがアーロンの正体だ。

 

 ベアトリーゼは食べ終えたピーナッツの包みを、プラズマ熱で瞬間的に焼き消す。

「私の故郷のウォーロード達だったら、征服した村の住民は私財と土地を没収して奴隷化、老若男女で分けてそれぞれ強制労働。二度と家族に会えず死ぬまで働かせる。ナミちゃんみたいな若い女の子は慰安所送りにして、子供らの一部は児童歩兵として使い潰すよ」

 

「……あんたの故郷は地獄か何か?」

「地獄より酷ェとこだよ。あらゆるものが最悪か最低だ」

 ナミが嫌悪感をたっぷり込めて皮肉を言うも、ベアトリーゼ自身が心底忌々しげに吐き捨てた。

 さしものナミも気後れを覚えて「……なんかごめん」

 

「こっちこそ気分を悪くさせてごめんね」

 ベアトリーゼは物憂げ顔で微苦笑を返し、保母が幼稚園児に提案するような柔らかい口調で言った。

「そだ。お話してあげるよ」

 

「お話? どんな?」

 ナミが幼子のように興味を示せば、ベアトリーゼは得たりと口端を緩めた。

「バッタの話なんだけど……」

 

      〇

 

 心地良い陽光が注ぐ朝。ココヤシ村の外れ。

 ノジコは簡単な朝食を済ませた後、仕事の支度を始める。

 

 ノジコは花盛りの18歳。艶っぽい唇が印象的な細面、健康的に日焼けした肌とグラマラスな胸元が目立つしなやかな肢体は、胸元から肩にかけてシンプルなタトゥーを入れてある。

 バンダナをカチューシャのようにして青色髪をまとめ、タンクトップの上から農作業用エプロンを巻き、軍手を装着。剪定鋏などをエプロンのポケットに収め、母屋裏に広がる蜜柑畑に赴く。

 

 さほど広くない蜜柑畑を見て回る。収穫時期はまだ先だが、除虫と摘果、草取りは欠かせない。

 愛する母が亡くなり、大切な妹が魚人海賊団に囲われて6年。ノジコは独りで家と蜜柑畑を守ってきた。

 

 はっきり言ってしまえば、母が手がけていた頃に比べ、ノジコが作る蜜柑の方が美味しかったりする。それは周囲の大人達が独りになってしまったノジコを助けるべく、ミカン栽培のノウハウを伝授したり、作業を手伝ったりしていたから。もちろん、ノジコ自身も蜜柑畑と家――妹の帰る場所を守ろうと必死に努力してきたことも大きい。

 

 農作業を一通り済ませ終えた頃には、太陽が随分と高い位置に昇っていた。

 軍手の甲で額の汗を拭い、ノジコは休憩がてら母屋に戻る。カラカラに乾燥させた蜜柑の陳皮を薬缶に入れて煮出し、マグカップへ注ぎ、蜂蜜を少し加えて攪拌。

 

 蜜柑の香りが快い陳皮茶を口に運ぼうとした矢先、呼び鈴が鳴り、聞き慣れた濁声が届く。

「ノジコ。居るか、ノジコ」

 

 一服を妨げられて眉を大きく下げつつ、ノジコはカップを置いて玄関へ。

 ドアを開ければ、駐在の壮年男性が迷子を捜す父親のような顔で立っていた。

 

「今日も来たの、ゲンさん」

 制帽に風車の玩具を差し、厳めしい顔に向こう傷を幾つも走らせる駐在のゲンさんは、呆れ顔のノジコへ尋ねた。

「……ナミは帰ってきたか?」

 

「まだよ。御茶を入れたところなの。ゲンさんも呑む?」

「いつもならとっくに帰ってきとるだろう? どうなっとるんだ?」

「分かるわけないじゃない。連絡手段なんて無いんだから」とノジコは素っ気ない。

 

 2人はここ数日、まったく同じやり取りを交わしている。

 というか、ナミが“出稼ぎ”に赴く度、ゲンさんは『ナミは無事に帰ってきたか?』とノジコの許にやってくる。まぁ、ナミのことがなくても『調子はどうだ?』と頻繁に様子を見に来るが。

 

 ノジコとナミにとって、ゲンさんは父親同然の敬愛すべき男だ。が、年頃の娘らしく父親的存在に対して、篤い気遣いにちょっとうざったいものを覚えなくもない。

 

「もしやナミの身に何かあったのかもしれん……」

 悪い想像をし始め、口元を押えて唸りだすゲンさん。

 

「ナミなら大丈夫よ。これまでも帰りが遅れたことは何度かあったでしょ」

 あっけらかんと応じるノジコ。それは妹を深く信頼しているからであり、一方でそう思い込まないと心配で仕方ないという心情もある。

「ああ見えても、ゲンさんより賢いし、機転が回るし、すばしっこいし、大丈夫だって」

 

「そうだな。ナミは私よりも……て、おいっ!!」

 ゲンさんがノリツッコミを披露したところへ、

 

「なんで家の前で漫才やってるのよ」

 怪訝顔のナミが、猫のようにふらりと登場する。

 

「ナミッ!! 無事だったかっ!!」「お帰り」

 大袈裟に無事を喜ぶゲンさんと、あっさりとしつつも内心で大きく安堵するノジコ。

 

 ナミはそんな2人を玄関前から押し退けるように母屋へ入り、湯気を燻らせている薬缶を見つけた。

「あら、淹れたてじゃない。用意が良いわね、ノジコ」

 ノジコ達の心中を知ってか知らずか、ナミは薬缶を傾けてお茶を淹れ始めた。

 

「あんたのために用意したんじゃないっつの」

「今回は随分と帰りが遅かったじゃないか。心配したぞ」

 妹に続いて母屋へ入ったノジコが溜息混じりにぼやき、付いてきたゲンさんが父親然とした小言をこぼす。

 

「オイコット王国の方で戦争があったでしょ? アレの影響で帰りの船がなかなか見つからなかったのよ」

 ナミの説明に、ノジコがわずかに表情を曇らせた。赤ん坊だったナミと違い、ノジコにはオイコットで生まれ育った記憶がある故に。

「……ともかく、無事に帰ってきてよかった」とゲンさんが胸を撫で下ろす。

 

 ナミはカップを口に運び――熱くて美味しい、と口端を綻ばせる。

「やっぱり、実家の味って落ち着くわね」

 

 ノジコは微かに眉をひそめた。何かおかしい。“出稼ぎ”から戻った時のナミは、アーロン一味の許に赴くためどこか神経を尖らせ、陰があるのに。なんでこんなに穏やかなの?

 

 ゲンさんも違和感を覚えたらしく眉根を寄せつつ、言葉を選んで声を掛ける。

「ナミ。なにか――」

 

「そろそろね」

 不意にナミが壁時計に目を向け、

「「?」」

 ノジコとゲンさんが訝った、刹那。

 

 

 どっかあああああああああああああああんんんんんん!!

 

 

 アーロンパークの方角から落雷のような大轟音が聞こえてきて、窓ガラスや壁をびりびりと震わせる。

「な、なにっ!?」「なんだっ!?」

 血相を変えて驚くノジコとゲンさん。2人とは裏腹に、ナミは満足げに頷く。

「“時間通り”ね」

 

「ナミ、あんたいったい……」唖然として妹を見つめる姉。

「……何をした? ナミ、何をしたんだっ?」顔を引きつらせる父同然の男。

 

 愛する姉と敬愛する駐在へ、ナミは美貌を和らげる。

「アーロン達の許へ殺し屋を送り込んだの」

 怖気を覚えるほど美しい微笑は、橙色の瞳が復讐の歓びに輝いていた。

 




Tips
フラウ・ビマ
 オリキャラ。元ネタは銃夢:火星戦記のキョーコ・ビマ。
 ”抗う者達”の一員。ケースオフィサーやジャグマーカーなどを兼ねている。
 奸婦や毒婦の類。

ベアトリーゼ
 オリ主。
 自分の故郷はホントーに酷かったなぁって。

コノミ諸島
ココヤシ村。
 原作に登場する土地と集落。土地の説明は原作改変とオリ設定。

ノジコ
 原作キャラ。
 ナミの2歳年上の義理姉、作中では18歳。

ゲンさん。
 原作キャラ。
 ココヤシ村の駐在。事実上の村長的立場。ナミとノジコの父親的存在。

ナミ
 復讐の音色はどこまでも甘く響く。
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