彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、NoSTRa!さん 誤字報告ありがとうございます。

ナミ編を巻きに入ったのでちょっと文字多め。


73:歓喜無き勝利。あるいはーー

 ナミが自宅に戻った時刻に前後して――

 

 デコに太陽の刺青を入れたタコの魚人ハチが、アーロンパークの水門前で首を傾げていた。

「ニュ~? っっっかしーな。モームの奴、餌の時間だってのに……おーい、モームッ!! 飯だぞーっ!!」

 

「どーしたんスか、ハチさん。大声出して」

 丁度、海から上がってきた魚人の若い()が尋ねれば。

「オゥ。飯の時間だってのに、モームの奴が来ねェんだ」

 

「モームならえれー勢いで出かけていきましたよ」と沖を指差す若い衆。

「ニュ!? そりゃ縄張りに侵入者が現れたのかもしれねェな!」

 ハチは想像力を大回転させて自己完結し、

「俺ァちょっと様子を見てくるぜっ! アーロンさん達に伝えとけっ!」

「ちょっと待―――行っちゃった……」

 若い衆の制止を無視して海に飛び込み、猛烈な速度で沖へ向かって泳いでいった。

 

「侵入者なんている訳ねェ……ん?」

 海嘯に混じって何か聞こえてくる。これは……口笛?

 若い衆はきょろきょろと周囲を窺い、海岸線の先に人影を見つけた。

「アレは……?」

 

 歳は二十代前半頃。物憂げな美貌の女で、癖の強い夜色の長髪をポニーテールにまとめている。小麦肌の長身にタイトな潜水服をまとい、上半身部分をはだけさせて袖を腰で結び、ハイネック・Xバックのビキニブラを露出していた。

 

 あからさまに怪しい女は『酔いどれ水夫』の口笛を吹きながら、アーロンパークの水門へ向かって歩いてくる。

 若い衆は不審な女へ声を張る。

「おい、オメー何もんだっ!? ここはアーロンさんの居城だぞっ! 人間如きがふらふら近づくンじゃあねェッ!!」

 

 女は若い衆の誰何と警告を無視し、暢気に口笛を奏でながらアーロンパーク水門前までやってきて、苛立つ若い衆へアンニュイ顔を向けた。

「おにーさん。ここが魚人海賊団アーロン一味の根城?」

 

「だーら、そー言ってんだろっ! 耳が遠いのか? オツムが鈍いのか? 何なんだよ、オメーはよォっ!!」

「私? 私はね」

 女は牙を剥くように犬歯を覗かせて嗤い、右腕を漆黒に染めながら大きく振りかぶり、

「強盗だよ」

 

「――あ?」

 右手に生じさせたバレーボール大の超高熱プラズマ球を、きょとんとした若い衆に向かって投げつけた。

 

 超高熱プラズマ球は若い衆に悲鳴を上げる暇も与えず命を蒸発させ、そのまま水門を直撃。門扉の鋼板を飴のように融解させ、海水に触れると同時に大規模な水蒸気爆発を起こした。

 

 

 どっかああああああああああああああんんんんっ!!!

 

 

 落雷のような轟音と共に熱圧衝撃波が門扉の残骸と水門基部を吹き飛ばし、アーロンパークを襲い、全ての窓ガラスや扉を破砕し、壁や屋根を大きく損壊させた。

 真っ白な蒸気が入道雲のように立ち昇り、煮えた蒸気が濃霧のように立ち込める中。

 

 ベアトリーゼは右肩を回し、蜂の巣を突いたような騒ぎになっているアーロンパークの敷地内へ、散歩でもするように入っていく。

「お邪魔しまーす」

 

 なお……水門破壊時の衝撃波は水中伝播し、沖を目指して泳いでいたハチを襲い、一瞬で失神させていた。

 

     〇

 

 熱圧衝撃波に襲われたアーロンパークの正面広場/敷地内水路は荒れ果てている。

 たちこめた乳白色の蒸気が包む敷地内は、破砕した窓ガラスや崩落した屋根材や建材の瓦礫が散乱し、水路の海水が湯気を燻らせている。

 

 倒壊した正面玄関ポーチの脇。魚人海賊団アーロン一味の頭目“ノコギリ”アーロンは吹き飛ばされたカウチから身を起こし、半壊した居城を見上げて額に血管を浮かべた。

「俺の城が……なんだこれは……どうなってやがんだこれはぁっ!!」

 

 アーロンの怒気に当てられて若い衆が慌てふためく中、アーロン一味の幹部イトマキエイの魚人クロオビが吠える。

「落ち着け、者共ッ!! この程度のことで取り乱すなっ!」

「被害の確認を急げ! チュ♥」

 同じく幹部であるキスの魚人チュウが、苛立たしげに指示を飛ばす。

 

 ……と、乳白色の闇の中から『酔いどれ水夫』の口笛が聞こえてきた。

 こんな時に口笛を暢気に吹くアホッタレは一味に居るまい。なれば、口笛の主こそこの惨状を起こした下手人だろう。

 

「魚人空手、百枚瓦正拳ッ!!」

 クロオビが口笛の聞こえてくる辺りへ向け、衝撃波を放つ。周囲の水分を制する魚人空手の技は立ち込める蒸気を吹き払い、荒れ果てたアーロンパークの姿を陽光に晒し――

 人間の若い女を露わにした。

 

「テメェが犯人かぁっ!」「下等種族がやりやがったなぁっ!!」

 若い衆が襲撃犯である女へ敵意と殺意を剝き出しにする。

「テメェ……っ! 下等な人間如きが、俺の城をぶち壊しやがってェっ!!」

 アーロンは女を睨み据えながら、ぎりぎりと牙を噛みしめる。

「何もんだ、テメェッ!!」

 

「私? 私は強盗だよ、ごーとー」

 癖の強い夜色髪のポニーテールの毛先を弄りながら、女はアンニュイ顔で宣う。

「強盗だぁ?」埒外な回答に、アーロンはビキビキと額に浮かぶ血管を増やしていく。

 

「あんたら、相当貯め込んでるらしいじゃない。魚が金を持っていても持ち腐れだろうし、親切な私が分捕ってあげようと思ってね」

 強盗を称した小麦肌の女は煽るように宣い、薄笑いと共に右手人差し指をくいくいと振った。

「掛かっておいで、お魚ちゃん達。強盗ついでに遊んであげる」

 

「……このクソ女を今すぐ八つ裂きにしろぉおおおっ!!」

「おおおおおおっ!」「ぶっ殺したらぁっ!!」「膾にしてやっぞゴルァアッ!!」

 ブチギレたアーロンの怒号をスターターに、魚人海賊達が一斉に強盗女へ襲い掛かり――

 惨劇の幕が開かれた。

 

      〇

 

 ココヤシ村の住人達が通りに出て、アーロンパークが建つ方角へ不安顔を向けていた。

 潮風に乗って微かに届く怒号と雄叫び、そして、悲鳴と断末魔。

 魚人海賊団アーロン一味の根城で何かが起きている。何か、恐ろしいことが。

 

 ノジコの家からゲンさんとノジコが通りに出てくると、住民達は一斉にゲンさんの許へ駆け寄っていく。

「ゲンさん! アーロンパークで何かが起きてるぞっ!」

「ああ……“知ってる”」ゲンさんは青い顔で頷く。

「知ってる、だと? どういうことだ!?」長老格の一人である村医者が眉根を寄せた。

 

「私よ。アーロンパークの騒ぎは私が起こしたの」

 遅れて姿を見せたナミへ住民達の目線が集中する。村の男衆がおずおずと問う。

「ナミちゃん……何をしたんだ?」

 

「アーロン達の許へ殺し屋を送り込んだのよ」

 

 ナミがさらっと答えれば、

「ええええええええええええええええええええええええええっ!?」

 住民達は海老のように目を剥いて驚愕し、悲鳴染みた吃驚声を上げた。ゲンさんとノジコが思わず顔を覆う。

「なんと無茶なことをっ! 相手はアーロンじゃぞっ! ただでさえ強大な力を持つ魚人においても、別格の猛者っ! 敵うものなど――」

 

「大丈夫よ」ナミは村医者の言葉を遮り「送り込んだ殺し屋は凄く強いから」

 余裕の微笑を湛えるナミに薄ら恐ろしいものを覚え、住民達が絶句して唖然慄然する中、悄然としたノジコが尋ねる。

「……ナミ、いったいどんな化け物を呼び込んだの?」

 

 ナミは橙色の瞳を細め、口端を綻ばせる。

「血浴のベアトリーゼ。グランドラインから来た、懸賞金3億5千万の女よ」

 

「ええええええええええええええええええええええええええっ!?」

 住民達は再び絶叫した。

 

 うるさっ、と耳を押えて住民達の絶叫をやり過ごし、ナミはアーロンパークへ向かって歩き始める。

 

「ナミっ!? まさか、あそこへ行く気かっ!?」ゲンさんが血相を変えて声を掛ける。

「私が起こしたことだもの。きっちり見届ける義務があるわ。それに」

 橙色の瞳を復讐心でぎらつかせながら、ナミは言った。

「アーロン達の最期を見たいの」

 

 今まで見たこともないナミの冷酷非情な目つきに、ゲンさんも、ノジコも、村の住民達も心を引き裂かれるような痛みを覚える。

 

 皆、知っていたのだ。

 6年前、まだ10歳の少女だったナミがココヤシ村を、住民の皆を救うためにアーロンへ取引を持ち掛け、以来たった独りで戦い続けてきたことを。

 だから、住民達はナミの決意を酌み、孤独な戦いを妨げぬようアーロンの恐怖支配に耐え忍ぶ戦いを続けてきた。

 

 だが、その選択は正しかったのか……とゲンさんは苦悩せずにいられない。

 ベルメールやノジコに抱かれ、無邪気に笑っていた少女が、こんな冷たい目をするようになってしまったことに、ゲンさんや住民達は悔いずにいられない。

 

 ゆえに、

「私も行こう」

 ゲンさんはナミと共に歩き始めた。ノジコも、村医者も、男衆も、女衆も続いてナミと共に歩き始める。

 

 ナミを先頭に、ココヤシ村の人々はアーロンパークへ向かって行進する。

 終わりを見届けるために。

 

       〇

 

 武装色の覇気をまとった拳打足蹴で魚人を殴り砕き、魚人を叩き壊し、魚人を蹴り潰す。拾い上げた刀剣で魚人を切り裂き、蹴り飛ばした刀剣で魚人を刺し貫く。立ち向かってくる魚人を殺し、逃げ出した魚人を屠る。

 正面玄関前の広場は、今や俎板のような有様だった。魚人達の血で染まり、骨肉が散らばり、臓腑や手足が転がり、酷く損壊した骸が並ぶ。

 

 アーロン一味の若い衆を殺戮し終え、ベアトリーゼは美貌を曇らせていた。

 退()()だったからだ。

 魚人の力は常人の10倍? 盛り過ぎだろ。ブレード抜きのハンデを付けても欠伸が出るっつの。

 

「テメェ……いったいなんだ? なんなんだ、テメェはッ!!」

 アーロンが顔から血の気を引かせながら、ベアトリーゼを睨み据えていた。

 

 その双眸にもはや種族至上主義の蔑みは無い。こんな圧倒的強者が突然に襲ってきたという理不尽に憤り、一方的に自分の王国が崩壊させられる不条理に困惑し、そして、かつての恐怖と屈辱を思い出していた。

 

 かつて――

 敬愛していたフィッシャー・タイガーが人間達の卑劣な罠によって死んだ時、尊敬するフィッシャー・タイガーが死に際に告白した“秘密”と悲愴な心情を知った時、アーロンは人間に対する憎悪と怨恨に染まり、復讐と報復を企てた。

 が、ボルサリーノと名乗った海軍本部中将に手も足も出せず敗北した。将官が悪魔の実の能力者だったという点を差し引いても、下等種族である人間に一矢報いることすら出来なかった。

 

 そんな屈辱と恐怖の過去を振り払うように、アーロンはベアトリーゼに猛り狂って吠える。

「なんでテメェみてェな奴が、東の海に居やがるんだっ!!」

 

「おいおいおい……勘弁してよ」

 アーロンにとっての理不尽の権化は、両手から返り血を払い落としながらアーロンと生き残っている幹部二人――クロオビとチュウを順に見回し、気だるげに息を吐く。

「お前ら、“あの”フィッシャー・タイガーの船に乗ってたんだろう? 世界政府に喧嘩を売った悪名高きタイヨウの海賊団だった奴らが、この程度のことで泣き言抜かすなよ。ただでさえ退屈なのに、興が醒めちまう」

 

 ベアトリーゼの悪罵に、アーロンの双眸が吊り上がる。大きな拳をみしみしと握りしめ、牙を軋ませた。

「人間が……下等で卑劣で下劣なテメェら人間が……! タイの大アニキを裏切り、騙し、殺したお前ら人間が……()()()大英雄を語るんじゃねえっ!!!!」

 

 クロオビとチュウも目の色を変えていた。

 2人にしても、亡きフィッシャー・タイガーは今も敬慕する大英雄。その名を持ち出されて貶められたなら、たとえ命を落とそうとも雪がねばならない。

 

「アーロンさん」クロオビが魚人空手の構えを取り「俺とチュウが奴の隙を作る」

「あのバケモノ女を仕留めてくれ」チュウも腹を括り「あんたさえ生きてりゃあ、海賊団は復活できるからな……チュ♥」

 

「……ああ。分かった」

 アーロンも2人の覚悟を受け取った。もはや犠牲無しに眼前の女を殺せないことは理解している。

「あのクソ女を殺す。そのために死ね」

 

 ベアトリーゼは悠然と構えを取りつつ、さて、と思案する。

 ナミちゃんの麦わら一味入りの件と原作の魚人島編とか、いろいろ絡みがあるし、革命軍との“契約”通り、ぶちのめして済ませるか。有象無象は殺しちまったけど、元タイヨウの海賊団だった三人を生かしてあるし、問題ないっしょ。

「作戦会議は終わった?」

 

「ほざけっ!! 魚人空手奥義っ! 千枚瓦正拳ッ!!」

「くらえ、水大砲っ!!」

 クロオビの放った強烈な衝撃波と、チュウの放った高速の大水球がベアトリーゼを襲う。

 

 砕け吹き飛ぶ敷地と瓦礫。飛散する骸と土砂。

 常人ならば挽肉同然に破壊されただろう。しかし、ベアトリーゼは常人ではない。豪快な両者の攻撃を容易く掻い潜って肉薄し、

「まず一匹」

 反応が追いつかないチュウの無防備な右脇に、漆黒の拳を叩き込む。

 

 武装色の覇気をまとった一撃はチュウの右肋骨を破砕し、右肺を破裂させ、肝臓に一部損傷を与えた。スイッチを切るように意識を刈り取る。

 

「二匹め」

 返す刀でクロオビを仕留めようと図るが、仮にも武術を修めるクロオビはベアトリーゼの予測より少しだけ対応が早い。

「イトマキ組手ッ!!」

 迫る漆黒の拳に備え、硬いヒレの生えた両腕を交差させて十字受けの構えを取りつつ、長い後ろ髪を鞭のように走らせてベアトリーゼへ巻き付ける。

 

 直後。ベアトリーゼの一撃がクロオビを襲う。

 十字受けの構えを取る両腕へ真正面から叩き込まれた漆黒の拳が、クロオビの両腕をボール紙の如くひしゃげ潰し、その衝撃をクロオビの胸部から体幹の真芯まで貫徹させる。両腕の開放複雑骨折、両腕の筋肉圧潰、胸骨骨折、両肺と心臓に高負荷が掛かり、脊椎に達した衝撃に全神経系が麻痺。クロオビは吐血と共に意識を手放した。

 

 が、クロオビの後ろ髪を巻き付けられていたベアトリーゼは、倒れ込むクロオビ――身長250センチ越えの錘――に姿勢を崩される。

 

 チュウとクロオビが命を削って作った間隙を突き、アーロンが必殺の大技を放つ。

(シャーク)・ON・DARTS!!」

 

 ノコギリザメを思わせる鋭く硬く尖った鼻を鏃とした超高速飛び込み体当たり。高い運動エネルギーを持った身長260センチ強の筋骨隆々の体躯――質量はそれ自体が殺傷力を持つ。加えて、ノコギリザメの魚人が持つ超硬の鼻鏃は、人間の肉体など破壊できる。まさしく”必殺”技だ。

 

「くたばりやがれ、クソ女っ!!」

“ノコギリ”アーロンの咆哮と共に迫る、必殺の一撃。

 

 ベアトリーゼは凶暴な冷笑を湛え、クロオビの後ろ髪を一瞬で引き千切るやいなや、迫るアーロンへ向かって真っすぐに跳躍。バレリーナの如く体躯をしなやかに捻り込み、漆黒に染まった右膝を放つ。

 

 アーロンの鼻鏃がベアトリーゼの右太腿をかすめ潜水服と肌を裂く(きわ)、ベアトリーゼの右膝がアーロンの口元に着弾し――

 

 ずどぉんっ!!

 

 落雷染みた轟音がつんざき、アーロンの巨躯が地面に叩きつけられた直後、ゴムボールみたく跳ね上がり、城の中腹――『ARLONG PARK』と書かれた辺りに激突、磔のように壁へ身が埋まった。

 

 一般の格闘技でも膝のカウンターは即失神KOを招く。ましてや、アーロンは大速度を乗せていた分、カウンターの威力は凄まじいものがあった。上下歯列と顎部の完全破砕骨折。超硬の鼻も大きく折れ曲がり、頬骨と眼底も割れ砕け、頸骨損傷を被り、脳神経系を打ちのめす衝撃に意識を完全に失っていた。

 

「やっべ。綺麗に入り過ぎた。生きてっかな」

 ベアトリーゼは身を起こし、城の外壁に埋まるアーロンを見上げた。

 

 そこへ、

「アーロンがっ!!」「他の魚人共も全滅してるぞっ!!」「信じられん、本当にアーロン一味が倒されて……」

 戦闘の余波で倒壊していた側門に、人だかりが出来ていた。誰も彼もが目を真ん丸にし、眼前の光景を受け止めきれずにいた。

 

 そんな中、蜜柑色のショートヘアの美少女が敷地内を進み、城の外壁に埋まって白目を剥いているアーロンを見上げ――

「ざまぁないわね、アーロン」

 ぽとり、ぽとり、と大粒の涙をこぼし始めた。

 

 ナミは橙色の双眸からボロボロと泣きながら、アーロンに向かって力の限り罵倒を浴びせる。

「お前の王国も、お前の野望も、お前の夢も、全部、全部、ぶっ潰してやったわっ! ざまあみなさいよっ!! 下等種族とバカにしていた人間に全部潰されて、全部台無しにされてっ! 6年、あの日から6年、この日を待ってたわっ! いい気味よっ! ざまあみろっ!!」

 

「もういいっ! よせ、ナミ! もういいんだっ!」

 ゲンさんがナミに駆け寄り、抱き寄せて罵倒を打ち切らせた。ノジコも駆け寄り、泣きながらナミに抱き着いた。

 ナミの悲愴な絶叫と号泣に釣られ、村民達も大粒の涙を流して嗚咽をこぼす。

 苦難と屈辱の終焉、自由の奪還。恐怖支配からの解放。しかし、原作にてルフィ達がアーロン一味を倒した時のような歓声は生じない。

 

 そんなココヤシ村御一同を余所に、

「武装色の硬化が甘かったか。こりゃ縫うかなんかしなきゃ――」

 ベアトリーゼが右太腿の傷を確認していた時。

 反射的に暗紫色の双眸を水路に向け、同時に見聞色の覇気を放つ。

 

 二つ。いや、三つ。速いっ!

「全員下がれっ!」

 ベアトリーゼが声を張り上げた直後、水路の水面が爆ぜ、三つの黒い影がナミ達へ迫る。

 

「え」

 突然の事態にナミ達は反応できない。ベアトリーゼがプルプルの実を発動、足元を起爆させてロケットのように駆けるも、影の一つがベアトリーゼの急進を阻む。

 

 アーロン一味相手の時みたいな手抜きはしない。ベアトリーゼは影に向かって武装色の覇気に加え、高周波を宿した必殺の右拳を放つ。

 しかし、影は長い腕を走らせてベアトリーゼの右肩付け根を打ち、拳を間合いの外へ押し出した。

 

 今のは――っ!?

 リーチ差によって必殺の拳を空振りにさせられ、ベアトリーゼは邀撃の機を逃し、

「ベアトリーゼっ!?」「な、なんだ貴様らは!?」「ちょっと、なんなのよっ!?」

 ナミ達が二つの黒い影に確保され、首に刃物を当てられていた。

 

 大きく舌打ちし、ベアトリーゼは黒い影達を窺う。

 奇怪(ガッポイ)な面のマスクに全身黒づくめの長身。肘や背中から覗くヒレ。ラドー島でやり合った“抗う者達”の人造人間(モッズ)と全く同じだ。

 

 ここでイレギュラーかよ。ベアトリーゼは双眸を大きく吊り上げた。

「目的は?」

 

 モッズの一体が城の壁に埋まるアーロンを指差し、次いで倒れ伏しているチュウとクロオビを指す。

「奴らをくれてやれば、この村の連中に手出しはしない?」

 ベアトリーゼの詰問にモッズの一体がグッと親指を立てた。その回答はフランク過ぎない?

 

 動揺している村民達と人質に取られたナミ達を一瞥し、ベアトリーゼは大きく息を吐いて戦意を抜く。パッと両手を挙げた。

「分かった。連れてけよ」

 

「ベアトリーゼ、どういうことっ!? こいつら何なのっ!?」

 困惑を浮かべるナミへ、ベアトリーゼはしれっと答えた。

「んー、前に話した私とドクトル絡みの面倒かな。巻き込んじゃった。ごめーん」

 

「ごめーん。じゃないわよっ!」

 激しく苛立ち、ナミは自分達に刃を向けているモッズ達にも怒鳴った。

「あんた達、アーロン達をどうする気なのっ!? 別に殺したって構やしないけど、この村と皆に害を及ぼす気なら、ぶっ飛ばすわよっ! ベアトリーゼがっ!!」

「ナミ、刺激するようなことは」

「ゲンさんは黙っててっ!」

 流石は後にビッグ・マム海賊団に捕縛された際、『シャワーを浴びさせて!』と吠えた女。気が半端なく強い。

 

 モッズ達は呆れたように顔を見合わせつつ、一体のモッズがテキパキとアーロン達を回収し、背中のバッグから運搬用らしい大きな袋へ三人を押し込む。

 

 ベアトリーゼ達を牽制しつつ作業を済ませ、モッズ達は運搬袋を担いで水路に飛び込んでいく。最後の一体がナミとベアトリーゼに手を振り、水路へ飛び込む。

 

 憤懣やるかたないナミは、足元の瓦礫片を拾って投げつけた。

「ふざけんな―――――――っ!!」

 

 モッズ達が去っていった水路を一瞥して鼻息をつき、ベアトリーゼは密やかに歯ぎしりする。

「漁夫の利ってか? 舐めた真似しやがって……」

 




Tips

アーロン
 原作キャラ。
 後の魚人島編で語られた過去話などから『賞金額2000万はおかしくね?』という意見があり、ネズミ大佐の隠蔽工作等によって賞金額が抑えられていた、と考察があるとかないとか。
 オリ主の登場で割を食わされた人。

クロオビ&チュウ。
 原作キャラ。
 前述の魚人島編の過去話にも登場している。実はベテランの戦士。懸賞金安すぎでは?

ハチ
 原作キャラ。
 この人も実は歴戦の剣士。
 幸運にもオリ主と直接対決せずに済んだ人。もっとも、今後の彼がどうなるかは不明。

ナミ
 宿願の復讐を遂げた。その心情は余人に計り知れない。

ノジコ、ゲンさん、ココヤシ村の皆さん。
 ナミの様子に曇らさせられた。

モッズ
 オリキャラ
 ”抗う者達”が開発した人造人間の魚人型。

ベアトリーゼ
 狩りの仕上げを邪魔されてオコ。
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