彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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佐藤東沙さん、烏瑠さん、NoSTRa!さん、誤字報告ありがとうございます。


89:誰しも事情を抱えてる

 グラスに注がれたホットラムが、甘い香りの湯気を燻らせている。

 

 ジャヤ島からリヴァースマウンテン方面へ二日ほど進んだ海域に浮かぶ冬島ゴッカン。

 ドラム王国は豪雪の冬島だったが、このゴッカン島は真冬の道北やアラスカを思わせる氷の冬島だ。降り注ぐ雪はたちまち白い氷塊に化け、港町は建物も港に避難中の船舶も氷塗れ。軒先には氷柱と呼ぶにはあまりにも長大な氷が張りついている。

 

 海域には所狭しと流氷が浮かび、波に揺られる度、薄ら恐ろしい衝突音や不気味な摩擦音を奏でていた。

 そして、街は白く煙っていた。

 

 ほぼ全ての建物に備えられた煙突から暖房の煙が立ち上り、インフラの氷結防止に張り巡らされた高熱蒸気管が濃密な湯気を周囲に広げている。

 

 ゴッカンは非加盟国ながらクズ共による人攫いや奴隷狩り、世界政府や加盟国による収奪、などの外からの襲撃が少ない島だ。

 なんせ生半な船では島の海域を漂う流氷に衝突して沈むのがオチだ。ちなみに、冬の北極海並みに水温が低いゴッカン島海域で落水したら、一分持たずに心停止する。

 

 それに……この氷の島の嵐は、ヤバい。桁外れにヤバい。

 

「バレーボール大の雹とか、もう絨毯爆撃じゃねーか」

 酒場のカウンター席。タイトな潜水服の上にジャンパージャケットを羽織ったベアトリーゼが、苦い顔でホットラムを舐めている。

 

 ベアトリーゼがチレンをサイファー・ポールのブラックサイトへ送るべく、アラバスタに近いロッキー島へ向けて化け物トビウオをぶっ飛ばしていたところ、ゴッカン島の海域に差し掛かったところで嵐に遭遇した。

 その嵐はバレーボール大のデカい雹が降り注ぐ地獄絵図であり、ベアトリーゼは慌てて海中に退避し、この港町に避難していた。

 

 なお、化け物トビウオの後席でベアトリーゼにしがみ付いていたチレンは、港町に到着した際、白目を剥いて失神していた。気の毒すぎる。

 

「この嵐の時期に来訪者は珍しいが……あんなケッタイな代物で来航してきた人は初めてだよ」

 呑み屋のオヤジが、ホットラムを提供しながら苦笑い。

 

「新手の拷問かと思ったわ……」

 モコモコした防寒着姿のチレンが、ホットラムのグラスを両手で包み持ちながら、ガタガタと震えている。この島の寒さのせいではない。ベアトリーゼのキャノンボールによる疲弊と恐怖の後遺症だ。

 

「嵐は何日くらいで明けるの?」

「それはなんとも。三日くらいで明けた時もあれば、一月も続いた時もある。ま、神様の気分次第だな」

 ベアトリーゼの問いかけに、オヤジは小さく肩を竦めた。

 

「嵐が明けるまで待ちましょう? お願いだから、本当にお願いだから」

 チレンの哀願は切羽詰まった憐れなものだった。

 

 大人の女性が外聞なく半ベソで懇願する様に、ベアトリーゼも流石に少しばかり心が痛んだのか、首肯した。

「この町に宿は?」

「二軒隣のところなら。ウチの紹介と言えば、すぐに部屋を用意してくれるよ」と呑み屋のオヤジ。

「というわけだ。二、三日泊まって様子見しよう」

 

 ベアトリーゼの言葉に、チレンは仰々しいほど大きな安堵の息をこぼし、ホットラムを口に運ぶ。

 血浴のベアトリーゼがこれほど無茶苦茶な女だと分かっていたら、間違っても保護を了承しなかった。まさしく、後悔先に立たず。

 震える手で懐から銀製のシガーケースを取り出し、細身のシガリロを抜き取って口にくわえる。瀟洒なオイルライターで点火。

 

『チレンへ。愛を込めて』

 ライターの横っ面に刻印された愛の言葉。

 

 ベアトリーゼはふと思い出し、懐から写真を取り出す。ステューシーから預かったターゲット確認用の写真だ。

 少しばかり若い頃のチレンが旦那らしい男性と幼い子供と共に笑顔を浮かべている、写真。

「これ。渡しておくよ」

 

 写真を前にし、チレンの持つ煙草が震えた。

「これを、どこで……?」

 

「政府の関係者。あんたを保護して移送するよう、依頼してきた奴から預かった」

「そう」

 チレンは愛情と哀切を込めた眼差しで写真を見つめた後、至高の宝物を扱うように懐へ収めた。物思いに耽りながらシガリロを半分ほど灰にした後、ぽつりと言葉をこぼす。

「……何も聞かないのね」

 

「聞いて欲しければ話せばいい」

 チレンの探るような眼差しへ、ベアトリーゼは物憂げ顔で素っ気なく応じる。しかし、声色の響きはどこか優しい。

 

 ベアトリーゼは前世日本人時代の人格を棄て去ることで、蛮地の残酷さとこの世界の理不尽に対して適応していた。

 ただ、まだ確かに日本人だった頃の良識と善性の残滓が存在していた。『どんな人間であろうとも、土足で踏み込んではいけない心の領域がある』という事実への謙譲と尊重が。チレンへ見せた気遣いは、そうした日本人的善性の滴だ。

 

 チレンは科学者特有の観察眼をベアトリーゼへ注ぎ、琥珀色の液面へ目線を落とす。

「……貴女も喪ったことがあるのね。御家族? 恋人?」

 

 ベアトリーゼは答えない。

 前世で己自身が命を落とし、何の因果かこの世界で新たな生を受け。

 今生は前世の価値観や自己同一性を叩き壊し、磨り潰すような地獄の底で始まった。

 

 不意に、日頃は固く閉ざしている記憶のページがめくられ、心に鋭い痛みが走る。

 

 ・

 

 ・・

 

 ・・・

 

 今生の故郷。あの乾いた地獄で、親の姿形も知らぬベアトリーゼが物心つくまで生きていられた理由。

 

 それは保護者が居たからに他ならない。

 

 人の皮を被った鬼畜共や人を食らうケダモノ共から幼いベアトリーゼを護り、泥水一滴すら貴重な地獄の底で飲食物を与え、養い育てた者。

 

 そのいくつか年上の少女は名前すらなく、ただ『621』と呼ばれていた。腕に鍵のマークと数字『621』の焼き印が押されていたために。

 氏素性ははっきりしないが、おそらく逃亡奴隷だったのだろう。

 

『621』がなぜ幼いベアトリーゼを護り、養い、育てたのか。

 理由は分からない。

 ベアトリーゼが事情を知る前に『621』が命を落としてしまったから。

 

 そして、保護者を喪った幼いベアトリーゼは、餓え、渇き、『621』の――地獄の底で唯一の家族といえるような少女の、腐り始めていた骸を齧った。

 

 渇きを癒すために。飢えを満たすために。生き延びるため。生き抜くため。

 たった一人の家族同然の人間の骸を食い千切り、腐臭を放つ血肉を嚥下しながら、ベアトリーゼはこの世界がどれほど残酷で冷酷で、如何に無情で非情で、どこまでも理不尽で不条理な世界であることを魂で理解し――

 無慈悲という言葉の本当の意味を、知った。

 

 ・・・

 

 ・・

 

 ・

 

 強い痛みを伴う自分だけの物語を閉じ、ベアトリーゼはすっかり冷めてしまったホットラムを一息で飲み干した。カウンターに金を置いて腰を上げ、足元に置いていた荷物を担ぐ。

「私は先に宿へ向かって部屋を取っておく。あんたはもう少し体を温めてから来ると良い」

 

「不躾に聞き過ぎたかしら? 気分を害したなら謝るわ」

 同族憐憫の眼差しを向けてきたチレンに、ベアトリーゼはアンニュイ顔で応じる。

「いや。酒が入ったらなんか急に眠くなってきた。疲れてる時の酒は回りが早い」

 

「やっぱり、貴女自身もキツかったんじゃないっ!」

 チレンは思わずツッコミを入れた。苦情申し立てともいう。

 

       〇

 

 グランドライン前半“楽園”。“マーケット”。

 とある商社の皮を被った、世界政府の諜報機関のオフィスにて……。

 

「……君は些か、”血浴”に肩入れしすぎだ」

 サイファー・ポールの“マーケット”担当工作管理官“ジョージ”は、煙草を燻らせながら言った。

 

「犯罪者を大勢飼っている貴方が言うこと?」

 サイファー・ポールの最上位部署CP0のエージェントであるステューシーはさらりと応じ、上品に紅茶を嗜む。

 

 執務席と応接テーブルの間を鋭い眼差しが交差した。

 

「私は首輪をつけ、猟犬として飼い馴らしてある。だが、君は野良犬のまま放し飼いだ。昨今、いくら成果主義に偏重しているとはいえ、手法の正否は問われる」

「貴方がそれを言うの? 政府と組織に面従腹背のへそ曲がりで有名な貴方が?」

 追及とも取れる“ジョージ”の指摘に、ステューシーはのらりくらりと切り返す。

 

「……友人が無茶をしていれば、苦言を呈したくもなる」

 “ジョージ”が舌鋒をいくらか和らげてみるも、

「小言の間違いじゃない? 老いたわね、ジョージ」

 ステューシーの返答は辛い。

 

 イラッとした“ジョージ”が、毒舌で切り返す。

「君の“オリジン”は私以上に老いてるがね。それこそ、往年の美貌が見る影もないほど」

 

 瞬間、“ジョージ”の手にあった煙草の先が消し飛ぶ。ステューシー得意の六式上位奥義、飛ぶ指銃だ。

「“アレ”の話はやめて」

 貴婦人の蒼い瞳に強い不快感と冷たい怒気が浮かぶ。

 

「悪かった」

 煙草の残骸を灰皿に棄て、“ジョージ”は降参の両手を挙げつつ、言葉を続けた。

「……話を戻すが、今回の案件は金獅子絡み。単騎で海軍本部を強襲するような危険人物を相手取る以上、慎重に進めるべきだ」

 

 応接ソファにたおやかな体を預け、ステューシーはカップを口に運ぶ。浮世離れした麗貌と気品ある一つ一つの所作が相成り、まるで銀幕の一場面のようだ。

「海軍や政府はそう考えているでしょうね」

 

 旧友の返答に、“ジョージ”は眉をひそめた。

「君の考えは違うと?」

 

 カップを応接卓に置き、ステューシーは眉目秀麗な細面に優美な微笑を浮かべる。慣れた“ジョージ”すら怖気を覚えるほど恐ろしい微笑みを。

「シキは“昔”から手に入らないものほど欲しがる。あの子はさぞや魅力的に見えることでしょうね。間違いなく掌中に収めようとするわ。そして、間違いなくあの子の逆鱗に触れる」

 

「……金獅子を殺す気なのか」

 旧友の指摘に、世界最高峰の女諜報員は艶やかな唇の端を、悪意を込めて和らげた。

「私、彼が嫌いなの。“昔”からね」

 この記憶と感情が自分のものか、オリジンから複製されたものに過ぎないのか、分からない。ただ、この殺意はたしかに自分のものだ。

 

 冷徹な策謀を語った歓楽街の女王へ、“ジョージ”は気圧され気味に質す。

「……情報提供者はどうする? 巻き添えになる可能性は低くない」

 

「シキの眼鏡に適う人材よ。政府の手に入るならば良し。策の最中に命を落とすとしても、危険な知識と技術を持つ脅威が一つこの世から消える。どちらに転んでも損はないわ」

「申し分ないな」

 ”ジョージ”は眉間に皺を刻み、澄まし顔でさらりと語るステューシーを睨む。

「君の策に利用され、”血浴”が気分を害するだろうこと以外は」

 

 ステューシーは丈の短いスカートの裾から伸びる生足を組み替え、

「その点も抜かりはないわ。あの子の機嫌を取ってくれる人間がいるもの」

 老いとは無縁の、若々しい顔貌に微かな嫉妬を滲ませた。

 

「?」

 さしもの“ジョージ”もステューシーの胸中を察せられず訝る。

 

 と、電伝虫が『ぷるぷるぷる』と鳴きだし、接続された部品から紙を吐き出した。

 

“ジョージ”は紙を手に取り、なんとも表し難い渋面をこさえる。

「新しい面倒事?」

 

「かもな」

 旧友に応じ、名うての工作管理官は疎ましげに語った。

「東の海に現れた新米海賊が、海賊王の処刑台を壊して逃亡したそうだ」

 

「あらあら」ステューシーは面白い冗談を聞いたように喉を鳴らし「今度の新人は随分と破天荒ね」

「ローグタウンには、たしか能力者の本部大佐が配属されていたはずだが……捕縛されずに逃げ切るとはな。東の海で3000万の懸賞金が科されるだけあって、油断ならんらしい」

 執務卓に紙を放り、“ジョージ”は小さく頭を振る。

「もっとも、一番の大事は同日のローグタウンで、ドラゴンが確認されたことだ」

 

「あらあら」

 ステューシーは笑う。上品に、優雅に、それと心から楽しそうに。

「まるで……“大きな物語”が動いているみたいね」

 

「? どういう意味だ?」

 怪訝顔を浮かべる“ジョージ”に答えず、ステューシーは紅茶のお代わりを求めた。

 

        〇

 

 赤き土の大陸とカームベルトに隔てられた四海とグランドライン。これらを繋ぐリヴァースマウンテンの麓に、一頭の超巨大な鯨が住んでいる。

 

 この超巨大鯨の名前は、ラブーン。

 ラブーンはリヴァースマウンテンの麓で、50年もの間、友人達を待ち続けている。空に向かって吠え、赤い土の大陸に頭を叩きつけながら。

 友人達はまだ現れない。

 

 

 

 麦わらの一味はローグタウンで大騒ぎを起こして逃亡し、リヴァースマウンテンを越えてグランドライン入りした直後。ラブーンにメリー号ごと呑み込まれ、胃の中に居た。

 

 ラブーンの体内はサイボーグのように人の手が大きく加えられており、巨大な胃袋の中に至っては、体外に通じる大きな扉が据えられ、胃壁は空色に塗られ、ワンマンリゾートが整えられている始末。

 

 ナミは常識のはるか斜め上を行く光景に、唖然としながら呟く。

「鯨の胃の中が、どうしてこんな」

 

「遊び心だ」

 ラブーンの胃袋を、ワンマンリゾートに整えた張本人であるドクター・クロッカス。リヴァースマウンテンの双子岬で灯台守をやっている双子座の71歳は、ラブーンに呑み込まれた小さな海賊船の若者達にしれっと宣う。

 

 と、ラブーンがいつものように赤き土の大陸へ頭をぶつけ始め、その強烈な振動は当然ながら胃の中にも伝わる。

 激しく揺さぶられる状況に、当然ながら麦わら一味の面々は危機感を抱く。

 

「ともかく、外へ出ようぜ。このままじゃ胃液に融かされちまう」

「ああ。早くしねェと。ルフィもヤバい」

 サンジの意見にゾロが同意する。

「メリーが飲まれる時、あいつだけ口の外に弾き飛ばされるのを見た。海に落ちてたら事だ」

 

「あいつ、カナヅチだからな。急ごう!」

 ウソップがメリー号に備えられたバカデカいオールを抱えてくる。

 

 野郎共がオールを漕ぎ始めたところへ、

「待って! あれっ!」

 ナミの綺麗な人差し指が示す先。

 

 巨大な扉の傍らにある連絡用らしき小型扉が蹴破られ、三つの人影がたかだかと宙を舞っていた。

「「「ああああああああああああああああああああああ!?」」」

 三つの人影は悲鳴を上げながら、メリー号の至近に落着。高々と胃液の水柱を昇らせた。

 

「ルフィと……誰だ?」

「なんだか分からねェが、ルフィと一緒に引き上げちまおう」

 ウソップの疑問に答えられる者はおらず、ゾロがいそいそとロープを用意し始める。

 

 

 

 そんでもって……

 

 

 

 メリー号の甲板で、

「すっげーなぁ。ここ、あのデカ鯨の腹ン中なのかぁ」

 皆と合流したルフィは、興味津々の顔で鯨の胃袋内を見回す。

「胃袋ン中とか臭そうなもんだけど……全然、臭わねェんだな」

 

「あの爺さんの仕業だ、多分。換気かなんかしてんじゃねーか?」

 三刀の柄に手を置いたまま、ゾロがルフィに問う。

「それより、こいつらは何だ?」

 

 ゾロの視線の先には、ルフィと一緒に引き上げられた青年と美少女。

 青年はチープな王冠を被り、安っぽいスーツを着こみ、両頬に9の字を並べている。

 美少女は長い水色髪をポニーテールに結い、ギャルっぽいというか尻軽っぽいというか、露出の目立つ格好をしていた。

 

「鯨ン中に通路があってよ。迷ってるうちに出くわした。誰だか知らねェ」

 ルフィは要領を得ない回答を返すのみだ。まあ、実際、言葉通りなのだが。

 

「鯨の胃袋の中で、こんな素敵なレディと出会えるとは……」

 サンジはルフィと共に引き上げられた、水色髪の美少女を熱烈に見つめ、

 

「こりゃバズーカか? 随分と物騒な得物を持ってんなぁ」

 ウソップは青年と美少女の得物を窺う。

 

 で、9の字が、小声で隣の水色髪の美少女へ話しかける。

ま、不味いぞミス・ウェンズデー。こいつら海賊だ。ん? どうしたんだ、ミス・ウェンズデー? ミス・ウェンズデー?」

 

 水色髪の美少女は答えない。というか、物っ凄く冷汗を流しながら大きく俯いていた。

 眼前に立つナミの鋭い眼差しから顔を隠すように。

 

 そして、美少女の前に立つナミの顔ときたら。

 悪戯した我が子を捕獲した母親のようであり。バカをやらかした妹を踏んじばった姉のようであり。『おら、気の利いた言い訳をしてみィ』と言いたげなジト目を美少女へ注いでいる。

「こんなところで、なにやってんの?」

 

 水色髪の美少女に問うナミの声色はあまりにも冷たく、あまりにも厳しく、野郎共は(麦わら一味も9の字も)本能的にぎくりとした顔になり、思わず背筋を伸ばした。

 

「ミ、ミス・ウェンズデー? こ、こちらの方とお知り合い?」

 9の字がナミにビビりながら水色髪の美少女に尋ね、

「ナ、ナミ? こいつのこと知ってんのか?」

 ルフィがナミの威圧感に腰を引かせながら聞く。

 

「そ、それはその、大変答え難いというか、なんというか」

 冷汗ダラダラでしどろもどろの水色髪の美少女に、ナミはずいっと顔を寄せ、低い声でもう一度繰り返す。

 

「な に や っ て ん の ?」

 

 水色髪の美少女……ミス・ウェンズデーことウェンズ・ディことネフェルタリ・ビビは即座に土下座した。

「あ、あとで! あとで必ず説明しますからっ! 今は平に、平に御容赦をっ!!」

 

 ゴーイングメリー号の甲板を実に居た堪れない空気と猛烈に気まずい雰囲気が支配する中。

 

「……な、なぁナミ?」

 ウソップがおずおずとナミへ切り出す。

「なんだかよく分からねェが、こちらさんにも深い事情がありそうだし、言葉通り、後にしてやっちゃあどうだ? 今はほら、外に出ねぇと、な? な?」

 

 野郎共は『こいつ、勇者かよ』と目を剥きつつ、ゾロとサンジがすかさず便乗する。

「お、おう。とにかく外へ出ようぜ」

「そ、そうだな。ナミさん。ひとまず外に出よう。ここに居ちゃあ胃液に融かされちまう」

 

 ルフィと9の字も慌てて続く。

「こ、こまけーことは外に出てからにしよーぜ、ナミ」

「へ、弊社の者と何か御縁がおありのようですが、まずはお連れ様方の御提案通りにしていただけますと……」

 

 ナミは男共をじろりと睥睨した。男達がどきりと身を仰け反らせる。小さく鼻息をつき、告げた。

「……良いわ。船を出して」

 

「「「「「「アイアイ・マムッ!!」」」」」」

 野郎共と9の字と水色髪の美少女は弾かれたように動き、躍起になってオールを漕ぎ始めた。

 




Tips
ゴッカン島。
 オリ設定。名前の由来は極寒。そのまんま。

ベアトリーゼの記憶。
 彼女の小さな物語。 

 『621』
  オリキャラ。故人。
  幼い頃のベアトリーゼを護り、養っていた少女。素性は不明。
  名前の由来はアーマードコア6の主人公から。
  他にも番号候補はあったけれど、流行に乗ってしまった……。

”ジョージ”
 オリキャラ。久し振りに登場。
 由来はスパイ小説の大家ル・カレのキャラクター『ジョージ・スマイリー』

ステューシー
 原作キャラ。
 可愛がって目を掛けている相手でも容赦なく利用する。プロだから。
 なお、原作で素性のネタバレが残っているため、本作のキャラ造形はほとんどオリ設定です。

麦わら一味
 ローグタウンのあれこれは端折った。

ラブーン。
 でっかい鯨。

クロッカス。
 灯台守を称する海賊王の専属医だった老人。

ミスタ―・9とミス・ウェンズデー。
 ラブーンを獲りにやってきたバロックワークスの2人組。
 ミス・ウェンズデーはいろいろ秘密があるようだ。いったいどんな秘密なのか……(しらじらしい)

ナミ。
 そりゃこうなるわな。
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