彼女が麦わらの一味に加わるまでの話   作:スカイロブスター

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文字数が膨らんじゃうなぁ……

トリアーエズBRT2さん、烏瑠さん、NoSTRa!さん、誤字報告ありがとうございます。


92:白骨海域

 少し語ろう。

 

 グランドライン前半にある魔の三角海域フロリアン・トライアングルと同様、グランドライン前半にある遭難多発海域、通称『白骨海域』。

 

 海軍の調査と研究によれば、同海域はカームベルトと深層海流で繋がっており、その海流は同海域にある巨大な岩礁『ビッグ・タジンポット』に激突するそうな。

 

 で、何が起きるかというと、カームベルト内で死んだ海王類や大海獣、あるいはカームベルト内で垂れ流された海生生物のフンなどが、ビッグ・タジンポットに流れ着き、漂着する。

 

 結果、ビッグ・タジンポットの周辺は海王類や大海獣の骨が石塔のように積み重なり、海藻が死肉や糞を養分に(おびただ)しく繁茂する海域となった。

 

 つまり、海生生物にとって、白骨海域は骨の礁や海藻の密林という隠れ家と、食べ物が豊富な暮らし易い海域だ。おかげで被捕食者も捕食者も――人間をスナック感覚で食っちまうような奴まで、ぎょうさん住んでいる。

 

 また、深層海流が衝突する関係か、白骨海域の天候は非常に不安定で、『骨洗い』と呼ばれる突発性局所暴風雨が生じる。

 

 トドメに、この海域が危険海域たる最大の要因。

 それはビッグ・タジンポットが“島ではない”こと。

 

 ログポースはビッグ・タジンポットに無反応なため、無警戒に進んでいると、この白骨海域に迷い込んでしまう。

 そうして迷い込んだら最後、舵を海藻の密林に絡めとられ、そこかしこに潜む巨大な骨と衝突し、突発性局所暴風雨に襲われて、憐れ海の藻屑となるわけだ。

 

 実際、白骨海域には難破座礁した帆船がそこかしこに沈んでいたり、残骸が波に洗われていたりする。

 

 そして……この海域で遭難したもののしぶとく生き延びた連中は、新たな遭難者達を取り込みながら世代を重ね……今や白骨海域に根差した部族となっていた。

 どんな部族か。ご覧いただこう。

 

     〇

 

 麦わらの一味がリトルガーデンを目指している頃。

 有象無象のとある海賊船が、ここ白骨海域に迷い込んでいた。

 

 彼らは巨岩ビッグ・タジンポットを中心に広がる白骨の森に気を取られ、海面下に繁茂する海藻の密林に舵を絡めとられた。舵が利かず右往左往している間に、波間に潜む骨の礁に接触。喫水下を損傷して座礁してしまう。

 海賊達がなんとか浸水を食い止め、舵に絡まった海藻を除去し始めた矢先。

 

「ヒィ――――――ハ――――――ッ!!」

 突如、海域に乱立する白骨や残骸の陰から雄叫びが響き、海獣の皮で作られた太鼓が打ち鳴らされ、海獣の腸で作られたガットギターが掻き鳴らされた。

 

 本能的な危機感を強く煽る野蛮な雄叫びとトライバル・ロックが、徐々に近づいてくる。

 海賊達は不安に駆られて戦う準備を始め――

 

 そして、彼らは現れた。

 

 太鼓を幾つも積み、舳先でガットギターを演奏している騒々しい平底船を中心に、ケダモノの骨と皮と流木で作られた小型の快速ボートの群れ。いずれも穂先に円筒物をつけた長竿を何本も立てている。

 

 続いて、海面に乱立する白骨の間をロープで飛び移る者達が、群れを成して迫ってくる。

 どいつもこいつも、ぼろっちいズボンを穿き、上半身が裸で剃り上げた頭からヘソまで真っ白に塗りたくっていた。得物は使い込まれた刀剣や錆の浮いた銃や得体のしれないクロスボウに原始的な骨製鈍器、それとやはり穂先に円筒物をつけた長竿。

 

 見るからにヤバい連中が、野蛮な雄叫びとトライバルロックを轟かせながら、一直線に迫ってくる様に、

 

「な、なんだこいつらぁ!?」

「知るかっ! 何でも良いっ! 向こうはやる気だっ! 撃て撃てっ! 撃ち殺せっ!」

 船長は慄く部下を叱咤し、海戦の号令を下した。

 

 砲弾の暴風がボートを吹き飛ばし、乗っていた白塗り蛮族を肉塊に変えていく。

 小銃弾の嵐が迫りくる蛮族達を次々と捉え、海へ撃ち落としていく。

 

 しかし、白塗り蛮族達は止まらない。むしろ戦闘騒音で一層興奮し、死傷する仲間の血を浴びて激しく猛り狂う。

 

「こいつら、イカレてんのかっ!? 死を恐れねェっ!?」

「かまいやしねェっ! 望み通りぶっ殺してやれっ!!」

 海賊達はグランドラインを航海してきただけあって、異様な敵に対して驚愕しつつも挫けない。必死に戦い続ける。

 

 ボートの群れはそんな海賊達の防御砲火に怯むことなく水面を激走し、海賊船に肉薄。白塗り蛮族達が船体に立てていた円筒物付き長竿を抜き、海賊船へ一斉に投げつけた。

 

 放たれた長竿の群れは放物線を描き、次々と海賊船の船体や甲板に降り注ぎ、爆音と共に鮮烈な紅蓮の華を咲かせる。

 

 海賊達が衝撃波に吹き飛ばされ、爆炎に巻かれ、激痛の悲鳴を上げた。

 予期せぬ爆発物攻撃に防御砲火が弱まったところへ、白塗り蛮族達が船上へ乗り込んでいく。

 白兵戦においても、白塗り蛮族達は異常な狂猛さを発揮した。自身が傷つこうが、仲間が死のうがお構いなし。トライバル・ロックに煽られ、奇怪な雄叫びを挙げながらトチ狂ったように得物を振り回し、海賊達を斃していく。

 

「がぁあああっ!! 舐めんじゃあねェ、野蛮人共がぁっ!」

 船長が得物のウォークラブに武装色の覇気をまとわせ、白塗り蛮族達を手当たり次第に撲殺し、船外に叩き落としていく。

「おぉっらぁああああっ!!」

 ひときわ大柄な蛮族野郎の右横っ面をぶち抜く、

 

 蛮族野郎の右眼窩が陥没骨折し、目からも鼻からも耳からも口からも大出血。損傷は脳にも及んでいるだろう。致命傷だ。

 それでも、蛮族野郎は斃れない。ふらつきながらもポケットから銀色の粉を取り出し、血塗れの口元に塗りたくった。

 瞬間、他の蛮族達が動きを止め、蛮族野郎の動きを注視する。何かを期待するような、熱狂的な眼差しを注ぐ。

 

「ウィットネス・ミーッ!!」

 蛮族野郎が血反吐を巻きながら雄叫びを挙げ、

『ウィットネースッ!!』

 周囲の蛮族共が大歓声を上げた。

 

「な、なんなんだ。テメェらはいったいなんなんだよぉっ!?」

 異様な事態に船長が怯んだ、その瞬間。

「ウィットネ―――――――スッ!!!!」

 蛮族野郎が船長に組み付き、嬉々として腰の爆発物を点火させた。

 

 船長の断末魔と爆発音が海域につんざき、肉片がまき散らされる中、

『ウィットネースッ!!』

 白塗り蛮族共が諸手を挙げて歓喜と熱狂の絶叫を轟かせる。

 

 海賊達は船長の凄惨な死に様と蛮族達の異常性に心折れ、抵抗を止めて膝を折った。戦いの勝利と略奪の成功に白塗り蛮族達が再び雄叫びを響かせ、狂騒的なトライバル・ロックがひときわ激しく掻き鳴らされた。

 

 

 

「なんだありゃ……たまげたなぁ」

 見聞色の覇気で一部始終を覗き見ていたベアトリーゼは、唖然として呟く。

「難所とは聞いてたけど、あんなのが住んでるとは聞いてないぞ」

 

「それ、報告出来る生還者が居なかったってことじゃない……」

 双眼鏡を下げ、端正な顔を真っ青にしたチレンが、化物トビウオライダーの前席に座るベアトリーゼへ提案する。

「迂回しましょ? ね? あそこは避けていきましょ?」

 

 ベアトリーゼは暗紫色の双眸を細め、小首を傾げた。

「あの爆炎の広がり方。火薬じゃないな。何だと思う?」

 

「多分、燃焼性の液体かガスの類だと思う」とチレンは白骨海域へ蒼い顔を向け「あそこで火薬の調達は難しそうだもの。動物性の油脂か腐敗物のメタンで焼夷弾を作ったんじゃないかしら」

 

「出来栄えはともかく量産品って感じだった。ボートや連中の着衣も規格化された趣がある。焼夷剤や衣類、小型船を製造、量産する技術と組織を備えてるんだ」

 ベアトリーゼはどこか研究者然とした目つきで白骨海域を見つめながら、物憂げに言葉を重ねていく。

「見た目ほど原始的じゃない。戦闘にも何らかの思想、いや信仰染みた教義が見受けられた。戦いで死ぬことを歓喜として受け入れるような、奴らの背景にはそういう社会教義がある」

 

「狂気に満ちた閉鎖社会ということね。ゾッとするわ」チレンが実に真っ当な感想をこぼす。

「文化人類学的には垂涎の調査対象だな。私は調べたいとは思わないけど」

 アンニュイな微苦笑をこぼし、ベアトリーゼは多眼式ヘルメットを被り直す。

「日が沈むまで待とう」

 

「迂回しないの?」

 チレンが咎めるように尋ねれば。

 

「連中は略奪に成功した。今夜は宴会を開くはず。その隙を突く」

 ベアトリーゼはこつこつとヘルメットの多眼を突いた。

「それに、暗視装備もある。夜はこっちが有利だよ」

 

 チレンは仰々しいほど大きく慨嘆を吐く。

「蛇穴に飛び込む気分だわ……」

 

     〇

 気流に乗って空を征く群島メルヴィユ。

 本島に築かれた“金獅子”シキの大御殿、その研究棟の一角。

 青色のモサモサパーマ頭にピエロ化粧を施したドクター・インディゴが、隔離室の分厚い防護ガラスの前で、主君たるシキへ身振り手振り――パントマイムを繰り広げている。

 

 帯同していた部下達はインディゴの意図が何一つ分からずポカンとしており、ピンクの毛並みとスーツを着こんだゴリラことシキの側近スカーレット隊長は、インディゴにアホを見るような目を向けている。

 

 で、肝心のシキは重厚な雰囲気を醸しつつ大きく口端を吊り上げ、

「なるほど……ぎっくり腰が治ってよかったねっ!!」

「全然伝わってねェし、俺ぁぎっくり腰じゃねェよっ!」

 インディゴが叫ぶ。

 

『結局しゃべったーっ!?』と部下達がお約束の反応を返し、スカーレット隊長が主と同僚にアホを見る目を向けていたが、シキとインディゴはどこか満足げ。

 

「で? ザパンは?」

「目の前にいますよ。シキの親分」

 インディゴは得意げに防護ガラスの向こう、隔離室の処置台に横たわる“それ”を指差した。

 部下達は“それ”をザパンと言われて呆気に取られ、理解が追いつくと、ぎょぎょっと目を剥いた。

 

「随分と見違えたじゃあねェか」

 シキは口髭を弄りながら、“それ”をじっくりと観察する。

 

 ザパンの容貌は中肉中背の平凡(メディコア)な男だった。

 だが、処置台に横たわる“それ”は、上背だけでも3メートルを超えるほど大柄で、筋肉がモリモリに積み重ねられていた。膂力の塊。そんな印象を抱かせる。

 全身が鈍色の光沢を放っており、よく見れば、細かな硬鱗が体表面を覆い尽くしている。まるで全ての皮膚を鎧にしたように。

 

 極めつけは顔だ。

 ザパンの顔は一枚板のようにのっぺりしており、顔というより安易な仮面みたいだった。

 

「どうなってやがる? S・I・Qをぶち込んだとは聞いてるが……」

「ええ。ええ。耐薬性と適性の高いザパン君には、通常のものに比べ、10倍に濃縮した特別なS・I・Qを投与可能なだけぶち込んでみました」

 主の疑問に答え、インディゴは凶暴な喜悦で顔を満たした。双眸を爛々と輝かせる。

 

「彼の“進化”は実に興味深い。あの体躯は外敵に対する物質的強度の優性確保から獲得したもの。あの皮膚は重傷を負ったことによる危機感と恐怖が堅い守りを欲求したと思われる。ここまでは珍しくもない進化形態ですが……あの顔っ!!」

 ピーロピロピロと喉を鳴らし、インディゴは言葉を編み続ける。子供が玩具を自慢するように。

 

「ザパン君の体を覆う鱗がガノイン鱗に対し、顔を覆っているものは一枚のコズミン鱗。非常に稠密なラメラ骨層を形成しており……しかも、しかもっ! この仮面状コズミン鱗の下には、分厚い脂肪層と筋肉層が高密度で積み上げられ、そこにザパン君本来の顔面構造は一切存在しないっ!!」

「つまり?」シキはインディゴの説明を面倒臭そうに聞き流し、要約を求める。

 

「ザパン君は自分の顔を取り戻せなかったのです、シキの親分。S・I・Qによる進化的治癒を用いてもっ! 代わりに、あの仮面が作り出された。分かりますかっ!? 顔を奪われたというトラウマが、顔を護りたい、顔を二度と奪われたくないという心理が、あの無貌を生んだのですっ!! ピーロピロピロッ!」

 饒舌に言葉を重ね続けるインディゴは、さながらピエロ顔の悪魔のようで。

 

「進化は本能的な必要性、環境適応、外敵への対抗手段などによって生じるっ! それが定説だったっ! しかし、ザパン君の無貌は、心理的要因が進化にも影響することを明確に示唆しているっ!! 実に興味深いっ!!」

 インディゴは防護ガラスに貼りつき、処置台上のザパンに熱烈な視線を注ぐ。

「まったくS・I・Qは素晴らしいっ!! どれほど研究しても、どれだけ実験しても、新たな発見があるっ!!」

 

 シキは顎髭を弄りながらザパンを見つめ、興奮の収まらぬインディゴへ淡白に問う。

「それで、こいつは使えンのか?」

 

「もちろんですともっ!」

 インディゴは表情筋の限界に挑むような笑みを浮かべた。子供が見たら、トラウマになっただろう。

「今のザパン君はエキサイティングなほどストロングですよ、シキの親分っ!!」

 

「ほぅ。そいつぁ面白れェじゃねェの」

 老いた大海賊は唇の両端を吊り上げ、

「出るぞっ! 島船を支度させろっ! ザパンの積み込みを急げっ!」

 獅子の二つ名に相応しい凶暴な目を隔離室内の怪物へ向け、悪党笑いを高々と響かせる。

「ベイビーちゃん達、驚くぞぉ……っ!!」

 

     〇

 

 月光が注ぐ夜の白骨海域。

 タジン鍋みたいな巨岩の麓に築かれている集落の広場では、巨大な焚火が煌々と夜空を焦がしていた。焚火の燃焼を促すようにトライバルロックが轟き、酒が入った男女の狂騒が響き渡る。

 

 男達も女達も老いも若きも幼きも、魚介を食らい、海獣の肉を食らい、海藻を食らい、自家造酒を呷り、狂乱的な音色に合わせて舞い踊っていた。勢いに任せて情交を始める男女も少なくない。

 

「どうしようもねえなあ、本当に……」

 ビッグ・タジンポットの中腹に築かれた洞窟城砦――彼らの言葉で言うところの“(チタデレ)”。その主である老人が私室のバルコニーから盛大に催されている狂宴を眺めて嘆く。

 逞しい上背と貫禄ある腹回り。荒々しく伸びた白髪。無数に走る傷痕と厳めしい皺。さながら老いたプロレスラーのようだ。

 

 老人の名はヒューマンガス・ジョー。

 誰が言ったか、白骨海域の偉大なる(ウォーロード)にして白塗り蛮族達のカリスマである。

 

「こんなはずじゃあなかったのになぁ……」

 ジョーは蚊の鳴き声のような小声でぼやく。

 

 若き日のジョーを乗せた貨客船が白骨海域で難破し、ジョーは生き延びた遭難者達と共に避難キャンプを作り、海域からの脱出と帰還を志していた。

 

 だが、過酷な気象と自然環境、閉鎖的な生活環境、限られた物資、人間関係の不和……こうした条件が重なった結果、遭難者の間で殺し合いが発生してしまい、如何なる星の巡り合わせか、ジョーが済し崩し的に『蝿の王』へ収まってしまったのだ。

 

 そして……今やジョーは蛮族集団の暴君にしてカルト宗教の教祖で、閉鎖的コミュニティのせせこましい経営者だ。

 

 イカレた野蛮人達(自分がテキトーに作ったインチキ宗教を妄信している憐れな者達)を従え、危険な海獣や海王類を狩り、時折迷い込む海賊船や商船を襲い、ハーレム(このイカレたコミュニティで生まれた女達と遭難してきた女達)を持ち、大勢の奴隷達(遭難者達だ)を働かせている。

 

 故郷に帰りたかっただけなのになー……ジョーは内心でぼやく。

 

 嘘である。

 せせこましい猿山であれ、ボス猿暮らしは楽しい。初老を迎えて勃起の塩梅が頼りなくなっていても、ハーレムの妾を更新していることがその証拠。

 

 つまるところ、ヒューマンガス・ジョーという人間は、性根が腐っていた奴が機会を得て地金を晒しただけだ。

 

 ジョーは倦み疲れた顔で眼下の光景を眺める。

 白骨海域は海産物が豊富な海だが、無制限にコミュニティを養えるほどではない。

 大海賊時代の到来で迷い込む“獲物”は増えていたが、コミュニティを豊かにするほどではない。

 乱交した結果、妊娠した者が急増しても、安全な出産も育児も確約されていないし、コミュニティは急激な人口増に対応できない。

 

 ジョーは私室に戻り、従卒に命じる。

「スプレンディドを呼べ」

 指導者として施政者として経営者として頭を悩ませることに面倒臭くなり、ジョーはお気に入りの若い妾の股に顔を埋め、溶けることにした。

 

 指導者は孫娘みたいな若い妾相手に腰振りエクササイズ中で、コミュニティはサバト染みた乱痴気騒ぎ。こんな状況で見張りが真面目に仕事するわけがない。

 どこの見張りも持ち場で酒盛りしていて、女を連れ込んで生ケツを晒している者も少なくなかった。

 

 ジョーの十数人いる倅達の末息子(ローティーンエイジャー)からして、お気に入りの娘を連れてビッグタジンポットの外れにしけこんでいた。月明りの下、娘と御飯事みたいな乳繰り合いをしている。

 

 

 乳繰り合いで陰部を怒張させた末息子が、娘に“おねだり”。

「口でしてくれ」

 娘は蠱惑な笑みを返し、末息子の股間に顔を埋める。

 

 股間から生じる肉悦に気を溶かしながら、末息子は月光を浴びる海を眺めた。

 

 猥雑に立ち並ぶ海王類や大海獣の骨の林。絡み合うように積み重なった骨で出来た礁。絶え間なく波に洗われる骨は磁器のように白く、月の光を浴びて輝いている。水面下に生い茂る海藻の密林内で、夜光虫達が艶めかしく蠢いていた。

 

 静かな海嘯と潮騒。広場から届く野蛮な喧騒と激しいトライバル・ロック。宴の騒ぎに混じった男女の獣染みた喘ぎと嬌声。

 そんなBGMを聞きながら、末息子はどこか超然とした美を持つ夜の白骨海域を眺めていると、水面から伸びる海王類の巨大な肋骨の陰で、何かが動いているような気がした。

 

 夜行性の海獣か魚だろうか。海面付近で飯でも探しているのか。あるいは、自分達と同じように子作りでもしてるのか。

 股間の芯で高まりを覚え、末息子が“発射”を意識した、刹那。

 

 全身の感覚が消失した。噴火寸前まで高まっていた熱と興奮と快感が一瞬で消え去り、幻想的な海は見えず、潮騒も喧噪も音曲も聞こえないし、何も臭わず、何も感じない。

 

 何が起きたのか何も分からぬまま、ジョーの末息子は意識を完全に失った。

 ジョーの末息子の股間に顔を埋めたまま、娘もまた意識を失っている。

 

 2人とも延髄を精確に貫かれ、自覚する暇もなく命を落としていた。

 

 ベアトリーゼは一瞬で2人の命を刈り取ったカランビットを鞘に戻し、多眼式ヘルメットの夜間暗視で周囲を窺う。覇気は気取られるかもしれないから、見聞色の覇気を使わない。

 

 歳若い少年少女を無慈悲に殺害しても、ベアトリーゼは全く動じない。呼吸も心拍も完全にフラット。顕微鏡を覗くような目つきで周囲の安全を確認後、歳若い二人の死体へ冷ややかに言った。

「せっかく良いとこに”見張り”を置いても、こう弛んでちゃあな」

 

 夜宴の騒ぎに乗じ、ベアトリーゼは白骨海域へ侵入。慎重に、静穏に、チレンを乗せた化物トビウオを進めていた。

 

 海域内の危険は骨の林や礁、海藻の密林だけでなく、捕食性の大型魚類や海獣の脅威に加え、白塗り蛮族共の監視網もあった。骨の林に築かれた監視塔。骨の礁に紛れた哨戒拠点。海藻の密林内に張られた鳴子や防潜網。

 幸い、見張り共は酔っ払っているか、“ハメて”いる最中で、掻い潜ることは難しくなかった。

 

 そうして、ベアトリーゼがビッグタジンポット傍を抜けようとした時、ここの“見張り”に足を止めざるを得なくなった。

 この“見張り”は監視網の絶妙な位置におり、発覚せずに突破は難しい。

 というわけで、排除した。

 

 ベアトリーゼは少年少女の死体を静かに海中へ捨て、海上で待機するチレンと化け物トビウオの許へ戻っていく。

 殺した少年が、この白骨海域の王の子だと知らずに。

 




Tips
白骨海域。
 オリ設定。元ネタは『砂ぼうず』に登場する『白骨都市』。
 資源採掘が終わった都市遺跡は『白骨都市』と呼ばれており、大半の白骨都市は居住に適さないため無人状態にあるが、一部は盗賊や無法者の拠点になっている。

白骨海域の蛮族。
 オリ設定。
 元ネタは『マッドマックス・怒りのデスロード』に出てくるヴィラン達。

  ヒューマンガス・ジョー
  オリキャラ。
  元ネタの由来はマッドマックス2の敵首領ヒューマンガスと、怒りのデスロードの敵首領イモータン・ジョー。

  白塗り蛮族
  オリキャラ。
  元ネタはイモータン・ジョーの信徒兼戦闘員『ウォーボーイズ』
  「ウィットネス」は彼らの死に際の合言葉。

やり過ぎた気がしないでもない。

ドクター・インディゴ。
 劇場版キャラ
 原作よりマッド具合が深刻になってしまった気がする。

 S・I・Q
 インディゴがI・Qなる植物から精製した恣意的進化促進薬。

スカーレット隊長
 劇場版キャラ。
 女好きのゴリラ。

ザパン
 オリキャラ。
 元ネタは銃夢の賞金稼ぎザパン。拙作でも悲惨な予感。


ベアトリーゼ。
 オリ主。
 白骨海域の野蛮人達が故郷の群盗山賊よりぶっ飛んでいることに呆れ気味。
 ただし、ヤバさは故郷の方が上。
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