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Re:幼馴染みに角が生えた
通学路はいつもと同じ朝だった。住宅街の静かな道に、微かにパンの焼ける匂いが漂っている。風が木々の葉を揺らす音が心地よい。そんな中を僕はルリと並んで歩いていた。
「おはよう、ルリ」
「……おはよう、小林くん」
ルリの声はいつもより少し硬い。視界の隅に、彼女の頭から飛び出す銀色の角がちらちらと映る。左右に一本ずつ、鋭く湾曲したそれは間違いなく龍の角だ。朝の陽光を浴びて冷たく光っている。
だが僕はそれには触れず、カバンの中の弁当箱の位置を直した。今日は卵焼きがうまくできたんだよな。
「今日の数学、範囲どこまでだっけ?」
「えっ……と、第四章の後半……って、待って小林」
ルリが突然立ち止まる。アスファルトに落ちた影が彼女の足元で揺れた。
「その……気にならないの?」
「何が?」
「私の……これ」
彼女が自分の頭を指さす。銀色の角がぴくりと動いた気がした。僕は一度角をちらりと見て、それからルリの目を見た。
「うん、角生えたんだな」
「うん! 角生えたんだよ!? 生物学的にありえない変化なんだけど!? よく落ち着いてられるね!」
ルリが勢いよく抗議する。その拍子に角が風を切って小気味いい音がした。彼女は明らかに僕の反応の薄さに戸惑っている。まあ、普通ならパニックだよな。でも。
「だってルリだし」
「どういう意味!?」
「いや……」
言葉を選びながら空を見上げる。雲一つない青空だ。こんな日はカレーがうまそうだな。角って食材になるんだろうか。いやいや。
「最近の君の変化見てたらさ……角くらい出ても不思議じゃないっていうか……」
ルリが歩き出した。足取りが少し速くなる。カバンが揺れて肩にぶつかる。
「確かに最近……髪の毛伸びるの早くなったし……爪もすぐ伸びるし……でもこれは……」
彼女の声には明らかに不安が滲んでいる。銀色の角が朝日に照らされて鈍く光る。冷気を帯びているのか、その周囲だけほんの少し空気が揺れているように見えた。
数秒の沈黙が流れる。風が止んで鳥の鳴き声だけが響く。ルリが口を開いた。
「……怖くない? 私のこと」
その問いかけに、僕は足を止めた。ルリも釣られて立ち止まる。通学路の真ん中。二人だけの空間。遠くでバスのクラクションが聞こえる。
「怖い?」
僕は首をかしげた。怖い? ルリが?
「むしろどう怖がればいいのか分からないな」
正直に言った。確かに角は異様だ。でもそれはルリという女の子の一部になった。それ以上でも以下でもない。むしろ……
「ルリの方が怖がってるんじゃないか? 自分のこと」
ルリの目が丸くなった。角が一瞬大きく動いた気がした。冷気がより強く感じられる。
「私は……ただ……急にこんなのが生えてきて……周りがどんな反応するか怖くて……」
「周りが気にしたらどうする?」
「そりゃ……どうしようもなくて……」
「じゃあ気にされない方がいいじゃないか」
僕はルリの前に立ちふさがった。彼女が驚いて後ずさりする。角が僕の顔のすぐ近くに迫る。冷たい空気が鼻先に触れた。
「僕は気にしない。それで十分じゃないか?」
「……小林」
ルリの声が詰まる。角が小刻みに震えている。冷気が彼女の感情を映しているようだ。
「でもさ……」
ルリが俯いた。
「小林はなんでそんなに冷静なの? 私がドラゴンのハーフで、角が生えて……普通じゃないのに」
バス停の標識が見えてきた。まだ人の姿はない。僕は弁当箱をカバンの中で揺らしながら言った。
「うぅん、そう言われてもなぁ」
僕は思わず空を見上げた。雲一つない青空だ。こんな天気ならカレーも美味いだろうけど、ルリの角のことも説明しやすい。
「だって僕さ」
声を整える。
「知り合いにドラゴンが結構いるんだよね」
「え?」
ルリの動きが止まった。角がぴたりと静止する。僕の目の前で冷気が固まった。
「ドラゴンの知り合いが……いるの?」
「うん。例えばうちの姉さんの所で、メイドをやっているドラゴンがいるし」
「・・・メイド!?」
「小学校にも通っているし」
「小学校!? ドラゴンが!?」
ルリの声が裏返った。角が激しく震えている。
「ちょっ……待って……」
ルリが一歩後ずさった。銀色の角が朝日にきらりと光る。
「ドラゴンがメイドをやって……小学校に通って……?」
「ああ。しかも結構普通に溶け込んでる」
僕はさらりと言い放った。これが日常なわけだが、普通に考えれば異常だよな。でも今更何を驚くことが……
「小林……」
ルリが僕の顔をまじまじと見つめた。その瞳に浮かんでいるのは困惑ではなく……
純粋な恐怖と興味だ。
「じゃあ……私みたいな角生えた子がいても……」
「全然普通だよ」
僕は自信を持って言い切った。
「色々とあったからねぇ」
「・・・私が知らなかっただけで、小林って、結構とんでもない奴なんだね」
ルリが呆れたような感心したような複雑な表情を浮かべる。
その横でバスが到着した。
「それで」
「何?」
「ユカには、どう話すつもり」
「・・・考えてなかった」
イルルは2人目のヒロイン?
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あり
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なし