お隣のルリドラゴン   作:ボルメテウスさん

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Re:小林さん家の百合ドラゴン

 街から少し離れた河原。草むらを渡る涼しい風が頬を撫でる。目の前ではルリがティッシュを握りしめ、必死にくしゃみしようとしている。

 

「はぶしっ」

 

 小さな鼻水とティッシュが宙を舞うだけだった。ルリは唇を尖らせて俯く。悔しさと苛立ちが綯い交ぜになった表情だ。

 

「ねぇ、まだ出ない?」

 

 隣で腰を下ろしたルリに海が優しく問いかける。ルリは拗ねたように膝を抱えた。

 

「もぅ嫌だぁ」

 

「何言ってるの、このまま放置するわけにはいかないでしょ?」

 

青はペットボトルを開けつつ苦笑いする。

 

「出ないに越したことはないけど、出せないのも問題なんだって。どうするのよ、また爆発したら」

 

その言葉にルリは膝に顔を埋めた。

 

「このままじゃ学校いけないよ? ちゃんと火の吐き方覚えないとなぁ」

 

「ん~~」

 

呻きながらルリは体育座りで悶々としていた。角が生え、自分が半分ドラゴンだと判明してからわずか二日目。教室での火炎放射事件以来、火をコントロール出来ないもどかしさに悩んでいた。

 

そんな折だった。

 

「あなたが小林さんの弟が言っていたハーフドラゴンですか」

 

鈴を転がすような澄んだ声に振り向くと──川沿いの堤防に佇むメイド姿の少女がいた。金髪ツインテールが風になびき、頭部には宝石のような二本の角、スカートの裾からはしなやかな尻尾が揺れている。西洋人形のごとき完璧な美貌が微笑んでいた。

 

「おっぱいでかぁ!」

 

まず口に出たのは純粋な感嘆だった。

 

「いきなり失礼ですね、あなたは」

 

「あっごめんなさい。あれ? というより小林って」

 

「えぇ、あなたの隣に住んでいる小林弟のお姉様にお仕えしております。トールと申します」

 

ぺこりと可愛くお辞儀するトール。ぶりっ子全開の所作にルリは思わずのけぞった。

 

「それにしても不思議ですねぇ。本当にドラゴンの血筋が。しかも……」

 

トールがじりじりと距離を詰めてくる。

 

「見る限り相当の大物ドラゴンの因子を持っているようですね」

 

目を細めてこちらを品定めするように観察するトール。異世界の空気をまとった美女が突然現れたことにルリは驚愕した。しかし内心で「まぁドラゴンだし?」と妙に納得する自分もいる。これまで普通の女子高生として暮らしてきた人生観が崩壊した今となっては些細なことだった。

 

「あの、トールさん。ドラゴンって火はどうやって出してるんですか?」

 

藁にも縋る思いでルリが尋ねると──

 

「さぁ」

 

「えっ?」

 

トールの素っ気ない返答に呆然とするルリ。

 

「いや私も存じません。だって炎を吐くなんて基本的な本能行為ですから」

 

あっけらかんと言い放つトール。さらに悪戯っぽく笑いながらルリの顎を指先でくすぐってきた。

 

「ふむふむ……外見はほぼ人間ですが体内では既に鱗や骨格の再編が始まっていますね」

 

突然の接触にルリは赤面して固まる。しかしトールの診断は続く。

 

「あの……」

 

困惑するルリをよそにトールは顔面を撫で回し続ける。指が頬を伝い耳朶へ、最後に柔らかな喉元に滑り込む。

 

「んっ……!」

 

くすぐったさと羞恥で声が漏れるルリ。トールの爪が喉仏をそっと圧迫した瞬間──全身が粟立った。

 

(え……この感触……なんか違う……?)

 

まるで肉体の中に未知の神経が芽生えたような奇妙な感覚。トールの指先を通して流れ込む熱を感じる。

 

「……これならあと少しです」

 

唐突に離れたトールが呟いた。

 

「それにしても小林君の知り合いにこんな美人がいるとはねぇ」

 

青が暢気に感心する。

 

「美人と言われましても……感覚としては人間よりもドラゴンですから」

 

トールが照れ臭そうにスカートを整える。

 

「ま私はドラゴンと結婚したしね」

 

青の何気ない発言にトールの耳がぴくりと動いた。

 

「それって……本当なのですか?」

 

「うんもちろん。それが何か?」

 

「でしたらぜひ! 異種間恋愛についてお教えいただければ!」

 

突然トールの目が爛々と輝き出した。獲物を見つけた猟犬のごとく青に接近する。

 

「まさかっ! トールさんって小林のことがっ!?」

 

衝撃的な疑惑にルリが悲鳴じみた声をあげる。しかしトールは不敵に微笑み……

 

「えっ何を勘違いしているんですか?」

 

くるりと背後に回り込まれる。

 

「ひゃっ!?」

 

冷たい尻尾が背筋を這う感触。反射的に飛び退くルリ。

 

「まったく聞いていたら……私、小林さんの弟には興味ありません」

 

そう断言されてもルリの胸中には別の衝撃が広がっていた。それは嫉妬だった。初恋とも呼べない淡い憧れかもしれないが──幼馴染が奪われる恐怖が胸を締めつける。

 

「まさかの百合かああああぁぁ!!」

 

鬱屈した感情を爆発させるようにルリが吠えた。同時に腹の底から灼熱の奔流がせり上がってくる。

 

轟─ッ!

 

口から迸る紅蓮の炎が河原の雑草を舐めた。青い草が橙色に燃え尽きてゆく。

 

「おおぉ」「出せたねぇ」

 

青は涼しい顔でお茶を啜り、トールは拍手喝采だ。しかし当のルリは呆然と立ち尽くしていた。

 

「いやいやなんで小林のお姉さんに!? えっどういう経緯で!?」

 

混乱極まって詰問するルリ。トールは妖艶に頬を染めてため息をつく。

 

「えっ聞きますか?私と小林さんとの出会いを!」

 

トールはウットリと両手を頬に添える。

 

「ふふっ……恥ずかしいですぅ」

 

それと共に語り出したのはトールは、小林姉との出会いから惚れてしまった経緯を語る。

 

それを聞いてしまったルリは、

 

「えぇえぇえ!?」

 

ルリはショックを受けつつも叫びながらもその火炎放射は止まりませんでした。

イルルは2人目のヒロイン?

  • あり
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