お隣のルリドラゴン   作:ボルメテウスさん

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Re:ルリドラゴンの嫉妬

その日、ルリは久し振りにユカと遊んでいた。

 

ドラゴンのハーフという事を知らされた後、初めて迎えた休日。ルリにとって大切な友人たちと過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。

 

「それにしても今日は天気がいいよね!」

 

ユカはストライプのブラウスに膝丈のスカートという清楚なコーディネートで楽しげに言う。最近買ったばかりだという白いスニーカーが眩しい。

 

「うん……そうだね」

 

一方のルリはと言えば、トレンドのチェック柄ワンピースに身を包んでいた。しかし胸元だけがぺったんこのせいでどうにもアンバランスに見える。

 

「やっぱりこういう日は思いっきり買い物したいな~」

 

二人で賑やかな商店街を歩いていると―ふと見覚えのある背中が視界に入った。

 

「あれ?」

 

ユカが小さく呟く。ルリも釣られて前方を見る。

 

間違いなくあれは―

 

「小林……」

 

幼馴染の少年が買い物袋を片手に歩いていた。普段なら気兼ねなく声を掛けられるはずなのに、ルリの足は不思議と止まった。

 

なぜならその隣に見たことのない人物がいたからだ。

 

長身で抜群のプロポーション。暗い髪色のセミショートが涼しげな印象を与える美しい女性だった。タイトなジャケットにスキニーパンツというシンプルな装いだが、程よいヌケ感があるせいかモデル級のオーラを醸し出している。

 

「わぁすごい。あの人超キレイだね」

 

ユカが率直な感想を述べる。ルリは無言で唇を噛んだ。

 

二人の距離感が妙に近いのだ。肩が触れ合いそうなくらいに並んで歩いている。

 

(もしかして……恋人……?)

 

胸がチクリと痛んだ。

 

「追いかけよう」

 

気づけばそんな台詞が零れていた。

 

「えっ?なんで?」

 

ユカがキョトンとした顔を向ける。けれどルリ自身にも分からない。ただこの胸の奥にあるモヤモヤを晴らしたくて堪らなかった。

 

「なんとなく!」

 

それ以上の説明もなく、ルリは小林と女性の後を追った。ユカも戸惑いながらも付いてくる。

 

距離を置きつつ観察していると―二人が向かったのは意外にもドラッグストアだった。

 

「何買うのかな……」

 

ルリが独り言のように呟くとユカが肘で突いてきた。

 

「もしかしてデート用品とか?」

 

冗談めかした口調だがルリの耳には刃物のように刺さる。

 

「バカっ!そんなわけないじゃん!」

 

思わず大声で否定するが店内へ消えた二人の姿はもう見えなくなっていた。

 

(そうだよね……あの小林があんな美人と付き合うはず……)

 

そう思うもののやはり角がピリピリと疼く。これは単なる生理現象ではない気がした。

 

十分ほど待って店から出てきた二人の手には小さな紙袋が一つ。どうやら大量購入ではないらしい。

 

「あれ?思ったより少ないね」

 

ユカが首を傾げる。確かに二人して重い荷物を運んでいる印象はない。

 

そのまま歩き出した小林たちの後を追って住宅街に入ると―更に驚くべき光景を目撃した。

 

二人は公園のベンチに座り始めたのだ。それも普通に腰かけるのではなく女性の方が小林に凭れ掛かるような形で。

 

「……ねえ」

 

ユカが小声で囁いてくる。

 

「これってデートって言うんじゃないの?」

 

その言葉を聞いてルリは完全に固まった。頭の中で様々な妄想が渦巻く。

 

(もしかして本当に付き合ってるの?いつから?どんなきっかけで?)

 

疑問符ばかりが湧き上がる中―女性の手がふわりと持ち上がり小林の髪を梳いた。

 

(え?)

 

ルリの喉が乾く。あまりの親密な仕草に思考停止寸前だ。

 

「ルリ?」

 

ユカが心配そうに呼ぶ声も遠くなる。

 

(なんで?どうして?私の幼馴染なのに……!)

 

胸の内で誰に向けてかも分からない叫びが響き渡った。気づけば拳を握りしめている。

 

次の瞬間だった。

 

女性が何事か小声で囁き小林が苦笑いしながら首を傾げる。そのやり取りがあまりにも自然で―まるで長年のパートナーのような空気感があった。

 

(ズルい……)

 

そう思った時だった。

 

突然ユカがポンと背中を押した。

 

「ちょっと!ルリってば!」

 

その衝撃で我に返る。

 

「えっ?」

 

「どうしたの?なんか顔怖いよ?」

 

「そっそんなこと……」

 

言いかけて自分の口元が歪んでいることに気づいた。

 

(あー……ダメだこれは……)

 

鏡を見なくても分かる。今の自分は嫉妬の塊みたいな表情をしているはずだ。

 

「っていうかさ」

 

ユカがふと小声で囁いた。

 

「ルリってやっぱり小林君のこと好きなの?」

 

「はぁ!?なっ何言ってんの!」

 

咄嗟に否定したものの胸が破裂しそうに脈打ち始める。

 

「だってさぁ……なんか見てる時の目が違うもん」

 

「違うって何!?普通だってば!」

 

必死に抗弁するもユカはニヤニヤと笑うだけで取り合わない。

 

その間にも小林と女性の会話が続いている。

 

その時だった。

 

女性がベンチから急に立ち上がった。背筋をピンと伸ばしたその立ち姿だけで風格がある。

 

「ん??」

 

小林も首を傾げるが次の瞬間―

 

女性の視線が明らかにこちらに向いた。

 

(バレた?)

 

ルリは反射的に隠れようとユカの腕を掴む。しかし遅かった。

 

「やっぱりいましたか」

 

凜とした声と共に女性が一直線に走り寄ってきた。長い脚が風を切る様はスポーツ選手のようだ。

 

「ひっ」

 

ユカが短い悲鳴を上げる。ルリも足がすくんで動けない。

 

あっという間に目の前に立った女性の鋭い眼光がルリを射抜いた。

 

「先程からコソコソと、やはりドラゴンがいたのですね!」

 

唐突な宣言にルリたちはキョトンと固まる。

 

「……はい?」

 

ルリがやっと声を絞り出した刹那―

 

「なぜ人間界で角を出しっぱなしにしている!!」

 

耳を劈くような叱責に全身が痺れた。

 

(え?え?何??)

 

「ちょっ待って下さいエルマさん」

 

慌てて駆け付けた小林が間に割って入る。

 

「どうしてここに?」

 

「それはこっちの台詞ですよ!さっきから不審者がこちらを伺っていて……」

 

エルマと呼ばれた女性がルリを指差した瞬間、その目が大きく見開かれた。

 

「ん?」

 

「え?」

 

双方の動きが止まる。

 

沈黙が数秒続いた後―

 

「こっ小林!?」

 

「小林さん?」

 

エルマの驚きの声が公園中に響き渡った。

 

「あ……はい」

 

小林が引き攣った笑顔を浮かべる中、ルリとユカは状況を把握できずに顔を見合わせる。

 

「貴女でしたか……」

 

エルマが脱力したように溜息をついた。

 

「ごめんなさい!勘違いしていました!まさか小林さんの……お知り合いとは」

 

深々と頭を下げた彼女の仕草があまりにも丁寧で逆にシュールだった。

 

「あの……どちら様……ですか?」

 

ユカが恐る恐る尋ねる。

 

「あぁ申し遅れました」

 

エルマが居住まいを正して自己紹介を始めた。

 

「私は、トールとは異なる調和勢のドラゴンのエルマだ」

 

その言葉を聞き終わった瞬間―ルリの全身から力が抜け落ちた。

 

(え……?)

 

理解が追い付かない。目の前の美女がドラゴン?トールさんの知り合い?

 

頭上で微かに震える二本の角だけがこれが現実だと物語っている。

 

「まさか本当にドラゴンなんて」

 

ユカも呆然としていた。

 

「えぇ。ですから無闇に人前に現れるべきではないと……」

 

エルマの説教臭い口調に小林が咳払いをする。

 

「まぁまぁ今日はプライベートだから」

 

「しかし小林さんも軽率ではありませんか?街中で私と待ち合わせするなんて!」

 

エルマの剣幕にルリはようやく状況を飲み込めた。

 

(つまり最初から勘違いしてたんだ)

 

勝手に嫉妬して尾行して挙句ドラゴンと知らずに睨みつけていたなんて―

 

恥ずかしすぎて穴があったら入りたい気分だった。

 

だが、それ以上に、やはりドラゴンの共通項目なのか、あまりにも大きすぎるおっぱいに羨ましさと同時に嫉妬もしてしまう。

 

「それよりも、小林君はなんでエルマさんと一緒にいるの?」

 

「まぁ、エルマさんにルリの事で、色々と聞きたいと思ってな」

 

「なるほど、この子が相談内容だったのか、ならば任せろ」

 

「・・・そっか、私の為だったのか」

 

その内容を聞いて、ルリは納得しました。

 

だが・・・

 

「ルリの為・・・」

 

「ほほう」

 

小林のルリの扱いに対して、また嫉妬が生まれてしまい、ユカは、ニヤニヤが止まりません。

 

「とりあえず、エルマさんの食事も兼ねて、一緒に食べるか?」

 

「えっ、うぅ……うん」「おじゃましまぁす」

 

ルリは顔を赤くしながら、そんな様子を見ているユカはニヤニヤしながら家へと向かって行く。

 

ルリの部屋にエルマを迎え入れると、テーブルにはもつ鍋が湯気を立てていた。

 

「さあどうぞ」

 

鍋奉行よろしく小皿を配る小林の姿は見慣れたものだったが――。

 

「これ全部食べるの?」

 

ユカが箸を持ったまま固まっている。三人家族では到底消費しきれない量だ。

 

「問題ない」

 

エルマは涼しい顔で言うや否や。

 

「いただきます」

 

軍隊式の敬礼さながらに手を合わせると――

 

「んっ!」

 

一口目で白飯を掻き込み、肉をすくい、汁を吸う。流れるような動作は熟練の飲兵衛そのものだった。

 

「おぉ……!」

 

ルリもユカも口をぽかんと開けている。それはまるで人間の枠を超えた喰いっぷりだった。ドラゴンとは言え限度があるだろうに。

 

「ふぅ……美味!」

 

満足げに箸を置いた時には土鍋の中身が三分の一に減っていた。

 

「す、すごい……」

 

呆然と呟くルリにエルマは微笑む。

 

「ドラゴンは少々燃費が悪いのですよ」

 

謙虚な口調とは裏腹に次々と具材を口に運ぶ手が止まらない。

 

「小林君……あれホントに人間?」

 

ユカがヒソヒソと尋ねる。

 

「まぁ、ドラゴンだけど、エルマ以外の知り合いのドラゴンはあそこまで大きくないけど」

 

「・・・ドラゴンにも色々といるんだね」

 

そう言うルリの視線はエルマの豊満な胸部へ注がれていた。

 

「次は麺を入れますよ」

 

〆の準備をする小林の手つきはまるで主婦そのものだった。もつ鍋の出汁を掬いながらもエルマの食べるタイミングを見計らっている。

 

「この辺で調整しておくか」

 

計算されたタイミングで麺投入。煮えたところをすかさず分配する動きはまさに匠の域だった。

 

「うまい……」

 

エルマが目を潤ませる横でユカが小声で囁く。

 

「小林君って実はモテるのでは?」

 

「は?なんだ急に」

 

「だって女子の胃袋掴んでるじゃない」

 

「それ姉さんから叩き込まれただけだって」

 

苦々しい顔をする小林だが確かに今日の接待は完璧だった。鍋奉行と主婦の才能は姉直伝らしい。

 

「ふぅ……ごちそうさま」

 

エルマが箸を置いた時――彼女のお腹は妊婦並みに膨らんでいた。

 

「えっマジでお腹が風船みたいに……」

 

ルリが青ざめる横でユカは感心したように頷いている。

 

規律を重んじる調和勢のドラゴンにしては珍しい失態だったらしい。

 

「デザートにプリンもあるけど?」

 

小林が冷蔵庫を指差すとエルマの瞳が星のように輝いた。

 

「いただきますっ!」

 

その隙にルリが小声で呟く。

 

「私あんなに太ったら……」

 

「ルリはまだ大丈夫よ。若いんだから」

 

ユカのフォローに頬を染めるルリ。その視線がエルマと小林を行ったり来たりしている。

 

「・・・あれ、なんだか、エルマさん、元に戻っていない」

 

「まぁ、ドラゴンって、わりと沢山食べても、すぐに戻るからな」

 

それを聞いたルリとユカの2人は。

 

「「ドラゴン、羨ましい」」

イルルは2人目のヒロイン?

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